○佐藤尚武君 私は単に
一つの問題について
総理大臣に御質問いたしたいと思います。
それはインドネシアに対する賠償問題であります。この賠償問題を
解決しなければ、
日本の南方方面に対する将来の発展に非常に大きな障害を来たすことは、だれもが言っておることであり、
政府もその点に関しましては、しばしばこの
委員会においても
政府の意向を言明しておられるところで、早期
解決を希望するのであって、そのためには万全の努力を払っておるというようなこともしばしば承わっておるところであります。しかるに先般
日本を訪問されましたインドネシアの前副
総理ハツタ氏の来訪の機会に、その賠償の問題が取り上げられて、そうして
政府の当局との間に数日間にわたってその
交渉が行われた模様でありましたが、ついに何らの結果をおさめることができずしてハツタ前副
総理が帰国してしまった。こういうような結果になったのでありまして、このことにつきましては
日本の心ある
人たちは非常に憂慮しておるのであります。
日本としましては、南方に対しましての平和的発展の可能性をもたらすために、どうしてもこの問題は早く
解決しなければならぬということをしきりに望んでおるにかかわらず、ついに
岸内閣においてもそのことがいまだにできずに、そうしてあのいい機会をのがしてしまったというように私たちには見えるのであります。その難点はどこにあったかはわれわれにはよくわかりませんけれ
ども、おそらく閣議がまとまらなかったためであり、そうして閣議がまとまらなかったということは、多分財政当局において非常な難色を示した結果であろうと推察されるのでありまするけれ
ども、それは噂に数億の金をよけいに
日本が負担するとかしないとかいう問題ではなくして、
日本の将来のために南方における広い地域にわたる
世界を
日本に開放するかどうかという問題なんです。わずかに数億の問題によってその
日本の将来発展すべき地域をふさがれてしまうというようなことは、実に私は
政策としてもとうてい賛成のできないところであろうと思うのであります。もしそれで南方に対して
日本がこれから先平和的に発展するというためには、どうしても附方諸国の信頼を得なければなりません。彼らの信頼を裏切るというようなことがあってはならないということは、これはだれしもが
考えるところでありますが、そのためには今の賠償問題の
解決こそが最も大きな問題であり、そうしてそれを
解決することによってこそ、初めて南方諸国の信頼をつないでいくことができるわけであります。単にこれはインドネシア一国の問題ではなくして、もしインドネシアとの間に
話し合いができないとするならば、これは
アジア・アフリカ・グループに対して非常な失望を与えることになるだろうと思うのであります。当事国であるインドネシア
国民の失望というものは、これは非常なものであろうと思うし、従って
日本は口先では親善々々と言っておるけれ
ども、これは何ら頼むに足らないものだというように彼らをして思わせてしまうというようなことがありましたならば、これは
日本の将来にとりましてゆゆしき大事でなければならぬ、こういうふうに
考えるのであります。それで先ほど
総理大臣は、
日米関係におきまして
アメリカと対等の話ができるのは
アジア問題であるというように言われました。私も全然同感であります。しかし対等の話をするというためには、
日本の道義的な責務を果した上でなければ大きな
発言権を持ち得ないということはこれまたわかったことでありまして、それだけのことをしないであって、そうして大きな
発言権を持つこともなく、
日本の地歩を築くことなくして、そしてどうして
アメリカと対等の
立場に立って話すことができるかということになるのであります。すでにインドネシアとの
関係におきましては長年この賠償問題においてひっかかっておる。戦後すでに十二年も経過しており、
平和条約ができてからさえ六年も経過しておる今日、まだお互いの意思が疎通できないのだというようなことはとうてい
考えられないことでありますが、しかるに
総理は近々のうちに南方を訪問されるということですが、単に儀礼的に親善
関係云々ということで行かれるのでありましたならば、決してそれはほんとうの親善
関係の回復にはならないのであります。むしろ先方の信頼感を裏切ってしまうというような結果になりはしないかということを非常に私はおそれるのであります。これは緑風会の一員としての私の心配でありますが、そういう点に関しましての
総理のお
考えを伺っておきたいと思っております。