○
八木(
一男)
委員 鳩山
主計官の
お話で労働省と厚生省ということを伺いました。ただいま私
どもの質問申し上げていることは、未解放部落、被圧迫部落の
人たちの解放の問題であります。そういう問題について、特に
関係の深いのが厚生省であり、また労働省も相当の
関係を持っているわけでございますので、厚生省、労働省に私
どもは問題を提起いたしまして
——厚生省、労働省のほかにも、
関係は全部あります。申し上げますと、農林省も、通産省も、
地方自治庁も、文部省も、法務省もそれから特に財政をあずかっておられる大蔵省も、これは
内閣全体に
関係のある問題でございます。そういうときに、この問題を厚生省なり労働省なりが理解を持っていろいろ予算要求をされましても、大蔵省の担当される方がその問題の御理解がまだ不十分でありますときには、せっかく大切な政策が予算という現実面で推進されないおそれがございます。鳩山
主計官は非常に優秀な
主計官であることを私伺っておりまするけれ
ども、生まれたところはおそらく
東京であろうかと思います。
東京の方には非常にわかりにくい問題です。ですから問題の本質を端的に知っておいていただきませんと、厚生省がいわれましても、またいかに聡明でありましても、そういう問題に対する御理解が少い場合には非常に行政上時間を要するということで、その本質的な問題をぜひ
一つ知っておいていただきたいと思うのです。
この部落の問題は、北海道の人は
一つもわかりません。東北の人はほとんどわかりません。
東京の人もほとんどわかりません。ところが関西以西になってくると、実に重大な問題になってくるわけであります。それは三百万人になんなんとする日本の同胞が不当な差別と不当な貧乏にあえぎ続けておるわけであります。それがどうした渕源かといいますと、部落問題については歴史家がいろいろの学説を出しておりまするが、とにかく一致したところは、そういう問題がひどくなったのは徳川時代の本多佐渡守の時代からであります。本多佐渡守の時代にどういうふうにしてそういうふうになったかと申しますと、これは本多佐渡守が百姓をして飢えしむべからず、食わしむべからずという政策をとって、あの武士階級が百姓からの収奪政策を確立した。その場合に、収奪をするのでその代償として百姓には名誉を与えなければならない、そのために士農工商という階級別を作って、百姓に支配者たる武士階級の次の階級を与えた。さらにそれだけでは足りないとして、士農工商の次に穢多、非人という名前を持ってきて、さらに下の階級を作って、そして百姓の自尊心を満足さす、そして実質的には、経済的に一番日本の人口の多数を占める農民からしぼり取ったというような、封建的な反動的な政府としては巧妙でありますけれ
ども、日本
全国の人民にとっては実に過酷な政策を本多佐渡守がとったわけであります。それが渕源になりまして、そういう気の毒な人々が差別を受け、人間的な扱いをされないで何百年も過ごして参ったわけであります。ということは、現実の大きな状態でございます。その後明治になって明治の太政官布告令によって一応の解放がありましたけれ
ども、明治においても、たとえば昔の武士階級には公侯伯子男という階級を設け、士族という名称を与え、依然として権力のあるものはえらいのだというような封建的な思想が明治の年代になっても続いておりました。そのために、その反動を受けて、昔から差別を受けている
人たちが人間並みに扱ってもらえる状態が推進しなかった。推進しなかったと同時に、さらに悪いことが起った。それは徳川時代にはそのような差別をしたかわりに斃獣処理権という、牛や馬の死んだものに対する独占処理権を経済的に与えておりました。ところが明治の解放後は、それをも取り上げました。ですから製革業者その他に近代資本主義が入り込みまして、製革業を大きな資本で奪ってしまいました。全部奪わないにしても非常に圧迫をしたわけですから、部落民の人はただ
一つの生きる道である斃獣独占処理権を圧迫されてひどい貧困になった。徳川時代より明治時代はさらに悪くなった。その後戦後の解放がありましたが、戦後の農地改革の場合にはその恩典を受けておらない。なぜかというと、あの解放のときには小作農であった人に農地が与えられたが、しかし部落民は小作農の資格すら持っておらない。雇い、手伝いと称して、非常にひどい状態にある農業労働者として働いている人が多かった、小作権を持っておらなかったために農地を戦後の解放でも与えられなかった、そういう状態であります。ですから現在の状態は農民として成り立とうとしても、たとえば関西以西では、農地を持っている人もおりますが、平均二、三反しか持っておらない。関東になるとややましになって五、六反持っておる人がある。そこで関東ではそういう空気が少いわけです。二、三反では人間として生きていかれるものではありません。これは鳩山さん十分わかるでしょう。それからもう
一つ、今度商売あるいは零細工業で生きていこうとすると、資本が少い、コネクションが少い、社会的な差別があって成り立たない。わずかに昔からの歴史的、伝統的産業で生きていく、その歴史的、伝統的産業は皮革とそれからげた産業、ところがげた産業は御承知の通り生活様式が変って参りましてげたをはく人が少くなった、それでげたとか鼻緒の産業は衰微の一途をたどっておる、そのために零細企業者や商売人としても生きていかれない。次にそれでは労働者としてどうかということになると、実際貧困でありますから上級学校には行かれない、大学卒業者がほとんどいない、高等学校に入る人もいない、中学校は、やっと新教育になったために義務教育で中学まで出られるようになったけれ
ども、それすらも十分に行かれない。親たちがほかのかせぎに一生懸命になるために、学童に赤ん坊を預けて外に出なければならない、そのために学童が長欠
児童になる、従って同じ能力のある
子供でも中学の成績が悪くなる。ところがその難境を克服して中学校を優秀な成績で出た
子供たちが、今度就職するときになりますと、優秀な成績を持っていながら大きな会社は事実上の差別をやって表面は部落だからとは言いません、人が余ったとか、あなたの性質はこの会社よりほかの方が適当でしょうからというような適当な文句を使って、丈夫で成績がよくてその仕事に向いている
子供でも、ほかの人をとってしまってその人はとらないというような状態があるわけであります。ですから労働者としても成り立たない。やっと就職したところはすぐつぶれそうな零細企業とか、そういうところです。ですからすぐつぶれて失業群にほうり出される、失業群にほうり出されるより初めから就職できない人が多いと思うのです。そうすると、どういうことになるかというと、最後に行くところは失対事業しかないわけであります。失対事業がほんとうの生業になってくる。ですから関西以西の失対事業に働いている人の大部分は部落出身の人と御理解願いたい。ところでこれは労働省
関係になりますが、ちょっと横道にそれますが、労働省
関係では、失対事業については一軒に
一つしか失対手帳を渡さないという過酷な方法をとろうとしておる、一部ではとっている。京都の部落の人はそのために親を養えない、
子供を養えない、手帳
一つではどうしても食えないということで、仲のいい夫婦が夫婦別れをして、二軒にして失対手帳を二つもらってそして辛うじて
子供、家族を養っている状態すら生まれておる。こういうことを
一つ労働
関係で覚えておいていただきたい。そういう状態にあるのです。それから漁民の場合も同じです。山林の場合も入会権から締め出されている状態があります。そういうようなことで、どこでも生活が成り立たないという状態でございます。しかしその中でいろいろチャンスをつかんで一部金持ちになっている人はあります。それから政治に進出している人もおります。しかしそれはごく一部であって大多数は貧困と差別の前に押しひしがれているわけです。その問題を解決することは、日本の政府としてはこれはほんとうにやらなければならない義務だと思う。ところが今まで解決していない。今の同和対策とか何とかいうようなことは、日本の政府としては、気の毒だから少し金をやったらよかろうというような恩恵的な
考えを持っている。ところがこれは何百年の政治の責任でございます。何も部落に生まれた人が志願して部落に生まれたわけではない。契約によって生まれたわけではない。日本国民としてその土地に生まれて、不幸にして貧乏なところに生まれたために、そうして昔から不当な差別のところに生まれたために、現在の貧困と差別を受けている。そういうことは民主主義の人権を尊重された世の中では、断じて許されてはならない。ですからそれを解決するのは政治の責任です。これは今の
内閣だけとは申しません。歴代
内閣全体の責任です。徳川幕府はもちろんでありまするが、明治以後の全部の責任です。それを解決することが政治の必要なゆえんであって、その問題で先ほど
五島さんと私とここで厚生
大臣に質問をして、
堀木厚生大臣は相当理解の厚い返事をなされておるし、また
内閣総理
大臣も理解の厚い返事をなされて、
内閣もこの問題に積極的に動こうとしている状態に現在達しております。
そこで厚生省なり労働省なり、ほかから予算要求が出てくるわけです。少しもとに戻りますが、この問題を解決するのは、同和教育の問題だけではいけない。人間は同じだから差別をしてはいけませんというようなことでは、解決がつかない。昔はその問題だけだと思われた。ところがそれはなぜ解決しないかというと、今は表面上差別的言辞を漏らす人はなくなりました。というのは、糾弾闘争が起って、水平社運動が非常に糾弾をしたから、そうやったら締め上げられるということがわかっておる。だからそういうことは非常に気をつけて、口では言わなくなったが、事実は差別は残っております。というのは結婚の問題、両方好いて好かれて恋い焦がれた者が結婚しようとすると、猛烈な反対が起る。それで結局心中をするか、
片一方が自殺をするというような問題が方々に起っている。だから実際的な差別は現にあるのです。表向きは言わないだけです。結婚の問題だけではなく、就職の問題でもある、居住の問題でもあるくらいだから、厳然として残っている。その残っている問題を解決するには、人間は平等である、人権は尊重さるべきであるというような観点から進めると同時に、どうしてそれがなくならないかという根源を突かなければならない。その根源を突くには、突き詰めて見ると経済問題です。なぜ差別が出るかというと、たとえば部落の人は、学校さえ出た人が少い。教育程度が低いから、いろいろの点で蔑視を受ける。また同じ中学校を出ても、長欠
児童であったために、そういう点で非常に差別を受ける。今度は就職できない。そうすると、あれは就職しないでぶらぶらしている男だと指をさされる。そうなると、
自分が一生懸命にやっても就職できないから、その人が憤慨して非常に荒々しい言葉を出すことがある。そうなると、それが差別の原因になる。部落の
人たちはこわい。部落の青年はこわい。だからそうっとしておくがいいぞ、そういうことで差別が出てくる。それから貧乏なために、衛生環境が悪いのでトラホームが多い。だから伝染の危険性を感じて遠ざかる。トラホームで目のつぶれた人を見れば、目が二つそろっている人より容貌はよくない。そうなれば目のつぶれたような人ばかり多いから、やはりさようなことで差別をする。全部貧乏にかかってくる。貧乏にかかるから、根本的に直すためには、経済問題を解決しなければならない。それを解決するには、当然完全雇用ができ、
最低賃金制が行われなければ、これは解決できません。農地もふやさなければならないが、農地は余裕が少い。問題は労働問題が完全に解決して、完全雇用がすべての人にでき上り、そうして賃金がすべてによくならなければ解決はできないのであります。少くともそういうことに進めるまでに、あらゆる方法で環境衛生をよくし、それから日雇い労働者の就労日数もよくし、要件を過酷にしないで、賃金も高め、そうして農地の方では新しい開墾地を作ってそういうところにできるだけ優先的に配分をする。漁業の問題でも保護をし、それから零細企業についても、たとえばげたの問題でも、ペルシャではサンダルをはいている。げたをサンダル工業に切りかえることはできますけれ
ども、部落民はそういう国際情勢を知らない。またそれを知ってもやるだけの資金を持たない、工場も持たない部落民にとっては解決できない。そういう面を重点的にやって、零細企業が振興するような方法をとれば、いろいろやる方法はある。ところがこの問題については、残念ながら東日本の人は非常に理解が少い。たまたま厚生省の事務局の中に一人熱心な事務官があっても、その人一人では厚生省の中を説得しがたい。さらに大蔵省に行って鳩山さんに申し上げたときに、鳩山さんは財政の総体的見地に立って、必ずしもすぱっと承知していただける状態になかった。そういうことで問題が停頓しているわけです。ですから今度政府が本腰にこれをやろうという場合に、今までの概念ではなしに、今までの各官庁にわたっていたこの部落解放のための予算、今まで同和
関係といわれた予算、この予算をふやすのが、一割とか二割とか五割という問題で、これは解決するのではなしに、三百万の問題を急速に解決するには、先ほど例として申し上げたが、二百倍とか三百倍とかいうような決心をもって当らなければ、ほんとうに民主国家はでき上らない。そういうような決心で当っていただくことを、
内閣総理
大臣も概括的に認められ、厚生
大臣も認めておられるわけでございますから、そういうことで厚生省や労働省から要求がいくと思う。そこで担当の
主計官の方が十分にそれを把握していただいて、
一般的な財政のワクとか、
一般的な財政の傾向とか、そういうことでなしに
考えていただきたいと思うのです。財政というものもこれは政治です。貧しい人が、気の毒な人が人間らしい生活を送るための財政であるはずです。ですから、今までの政府が気がつかないでその財政が非常に狭められておったならば、その問題に重点を置いたならば、飛躍的に増大するのがほんとうの財政であろうと思います。その点でぜひ鳩山さんの深い理解を願いたいと思います。
ずいぶん長いこと申し上げましたから、これで切りますが、それについての御見解をぜひ伺っておきたいと思う。