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井堀委員 はなはだ僭越ですが、
派遣委員にかわりまして御報告をいたしたいと思います。
過
日本委員会の
派遣委員として調査いたしました山梨県、静岡県及び栃木県における
公職選挙法改正に関する件、おもに最近の
選挙の実情、
選挙管理委員会の実態、常時啓発に関する
活動状況などにつきまして、以下概略御報告を申し上げます。
まず、最近行われました各
選挙の実情、
選挙違反の問題などにつきましては、内容も多岐にわたり、時間の関係もありますので、その詳細は
委員長まで提出してあります書類によって御了解を得たいと思います。ここでは山梨県秋山村及び栃木県の大平村の事件について申し述べることといたします。
秋山村
村長選挙違反事件の概要を申しますと、
任期満了による
村長選挙のため、秋山
村選挙管理委員会は、昭和三十二年四月十四日
選挙期日を告示し、四月二十一日投票を行なったのであります。立
候補者は
安留徳朗君及び
佐藤文次郎君の二人であり、有権者数千七百三十七名、
投票者数は千五百八十四名、
投票率は九一%余であり、その結果
安留徳朗君が九百三十二票をもって当選したのでありますが、事件は
選挙運動の面から発生したのでありまして、複雑な
村内情勢において対立した両候補が争った結果、
選挙運動は激化し、両候補は互いに買収を行い、安
留候補が買収に要した総金額は約百六十八万余円の多額に上り、一方
佐藤候補が買収に要した総額は約一万五千円余であることが判明いたしたのであります。警察の取調べが進展するに伴い、次第に
逮捕者を出し、その間
参考人として呼び出された者は七百名以上にも及び、この結果、
事件関係者は、
村会議員、
選挙管理委員、
消防団幹部などの
公職関係者にまで波及し、村政は一時停滞するに至ったとさえいわれたのであります。両派の
選挙違反による
検挙件数は三百六十九件、
検挙人員は三百九十一名の多きに達し、安
留候補、同
総括主宰者及び
出納責任者三名は六月十八日起訴され、九月の十六日
甲府地方裁判所においていずれも有罪の判決がありましたが、
候補者及び
総括主宰者は即日控訴した。その他の
事件関係者についても、
都留簡易裁判所から罰金の
略式命令通知が出され、またこのうちには
公民権停止を宣告された者もあり、また
正式裁判を請求した者三十二名について現在公判中であります。
以上により、現段階において三百六十一名が
罰金刑が確定し、うち、
公民権停止が確定した者は六十七名となっております。
これらの事犯の特徴としては、まず
個人ごとではなく、
部落ごとに、集団の、しかも現金による
買収事犯でありまして、いわゆる
村ぐるみの買収と称されるものであり、また
公職者が多数連座し、
婦人層が
被疑者に入っているのに反して、
青年層、教員、役場の吏員などはこれに反発を感し、渦中の人となっていないことは注目に価する点であります。
なお、秋山村は、耕地にも恵まれず、全くの
山間僻地で、東西約三里にわたる細長い山峡に人家が点在し、村民は山林の伐採と
薪炭製造により乏しい生計をささえている貧しい村でありまして、この点同情すべき点も多々あると思われるのでありますが、この大胆というか、いささかも法律から逃げようとしないやり方を見ますと、村民は一般的に
選挙違反というものに対する
法律意識が単にきわめて低いというだけでなく、義理、人情、因襲といった古い束縛を振り切るだけの
正義感、勇気というものに欠けているところがあって、本件を惹起したものと考えられるのでありまして、惜しむらくは、適切な時期に
啓発運動が徹底したならば、おそらくかかる
不祥事件は起らなかったのではないかと思われるのであります。また、かえって、このため、
村民諸君が今後わずらわしい
選挙から一切手を引くというような
考え方を抱かれるとすれば、ゆゆしい問題でありまして、かかる
考え方は断固一掃していただき、全国的に
一大警鐘となったこの尊い経験を生かし、今後の
選挙には真面目を発揮し、大飛躍を遂げ、
県当局などの適切な
指導援助を得て、村の発展に一そうの努力をいたされることを念願するものであります。
次に、栃木県大平村
村会議員の
選挙効力に関する
争訟事件について概略を申し述べますと、本件は、
村会議員の
任期満了による
一般選挙であり、去る九月十四日執行されたのでありますが、第三
選挙区
次点者尾花武一君及び
落選人小森谷源弥君外三名より、
選挙効力の無効の
異議申し立てが
村選挙管理委員会に提起されたものでありまして、
村選挙管理委員会では、調査の結果に基いて、十月の二十九日異議の
申し立てはいずれも棄却する旨を決定し、
投票管理者の
職務代理者の
違法行為は認められ、当選の効力の範囲には抵触すると思われる点もあるが、これがため
選挙の効力に影響を及ぼすようなことはない旨の
決定書を同日
申立人に交付したのでありますが、
尾花武一君は、この決定を不服とし、十一月十八日
県選挙管理委員会に
訴願書を提出したので、
目下県選挙管理委員会において調査中の事件であります。
訴願において主張されているおもな要点は、一、大平村第三地区第二
投票所において、
投票管理者が、事故もなく、また欠けない場合にかかわらず、
投票管理者の
代理者が約百名に対し
投票用紙を交付したことは、
選挙人または他の
候補者、
運動員などに対して
心理的動揺を与えたものであり、その
代理者が
選挙参謀を勤めていた某候補の当選を有利に導くべく行なったものと考えられ、
西野田部落の
投票総数三百三十二票のうち、約百名に
心理的威圧を加えたとすると、当落に影響がないと断定できる根拠がない。二、
選挙当日
選挙管理委員会に対し口頭にて抗議を申し込んだところ、
投票管理者代理人が
投票所に関係することは、
管理者の事故なき限り違法であり、
選挙管理委員会は
事務従事者として依頼していない旨の確答を得ていること。三、
亀田某が母親の
投票用紙に記載し、
投票管理代理者に有効と認められて投函したこと。四、
投票立会人が某
候補事務所より差し入れられた昼食の弁当を飲食した。五、従来と異なり、
投票所の出入口を同一にし、混雑を惹起したのは、何らかの策謀を企てたと考えられることなどにより、不正な
投票管理が行なわれ、某候補の
選挙の結果に甚大なる影響を与えたものと認められるというのが、その主張とするところであります。
本件は
県選挙管理委員会において目下調査中の事件でありますので、この際批判を
慎しみ、これを避けるべきと考えますが、
投票管理者の
職務代理者の職権、
服務要領などについて明確な規定がないこと、
代理投票については具体的な規定通り実施されない傾向のあること、
管理者、
立会人は
厳正中立な人を
選挙するように、また末端の
投票所の管理について適切な指導がなされることなどについてさらに一そうの検討を加えることが必要であると痛感いたしました。
県選挙管理委員会としては、村の
選挙管理委員会の決定のいかんにかかわらず、厳正公平な判断を下したいとのなみなみならぬ決意のほどを伺って参りましたので、慎重な調査に基き公正な判定を下されることを期待してやまないところであります。
その他、栃木県では、
今市市長選挙の効力及び当選の効力に関する
争訟事件、氏家町
選挙の
選挙効力及び当選の効力に関する
争訟事件について報告を聴取したことを申し添えておきます。
なお、この際一言つけ加えますが、栃木県においても、昭和三十一年七月八日の
参議院議員選挙におきましての創価学会の
運動状況を伺ったのでありますが、
戸別訪問による
選挙違反が顕著で、
選挙のルールを初めから無視した傾向が認められ、これらはすでに全国的な問題となっておりますので、個々の事犯をとらえるよりも、全体的に実態を把握して、抜本的な適宜な措置を講ずべきではないかと考えられるのであります。
次に、
選挙管理委員会の実態について申し述べますと、
県選挙管理委員会におきましては、静岡、栃木県は委員に
県出納長が含まれており、三県ともいずれも
県地方課が実際に事務を処理し、
県地方課長が
書記長を兼務しておりまして、市においては独立の
事務局を設置しているものがかなりありますが、職員は兼任が多く、
選挙管理委員長あるいは委員に助役が兼務されているものもあり、町村では独立の
事務局を設けているものは皆無で、
委員長あるいは委員に助役、
収入役その他の役場の職員がかなり多く兼務している状態でありまして、事務の円滑のために
選挙の公正がゆがめられるおそれのある兼職の問題は、
選挙管理制度発足当時の状態から脱却して、法律をもって明示してもよい段階がきたのではないかと考えられるのであります。
なお、
選挙管理委員会の要望として、一、
市町村の
選挙管理委員の定数を増加して四人とし、三名以上の出席をもって会議が開けるようにされたい。二、
各種選挙及び
リコールを厳正公平にかつ誤まりなく管理執行し、訴訟を公正に審査し、義務づけられた
公明選挙啓発運動を強力に推進していくためには、
選挙管理委員会の
事務処理機能を整備充実することが緊急かつ
必須要件であり、
県市町村の
選挙管理委員会には
事務局を設置し、国の
財政措置などにより必要なるところの
専任書記を必置制とされたい。その他、予算の
執行権の問題、再
選挙、
補欠選挙の経費について増額されたい等の要望がありました。
次に、常時啓発の
活動状況について概略申し述べますと、各県とも、綿密な
啓発運動実施計画に基いて、
選挙管理委員会関係者のみならず、広く
協力態勢をとって実施しており、おおむね
話し合いの
助言者、
司会者、
記録係等の
指導者養成の段階から、漸次小集団の
話し合いに進もうとしている状態でありまして、
当局者が懸命に努力されており、着々その成果が上りつつあることは、まことに心強く感じられたのであります。
常時
啓発費などの詳細な数字につきましては、この際これを省くことといたしまして、ここでは実際に見て参りました静岡県賀茂郡稲取町における
婦人社会学級の
話し合いの状況を簡単に御報告申し上げることといたします。
主として
漁業関係の主婦と農業、
商業関係の主婦が十二、三名ずつ二組の
グループを構成し、本年は漁獲が例年になく不振であったため、この歳末を主婦としてどう過ごすかということ、また、これまで
生活改善についていろいろと申し合せをしてきたのであるが、実践となるとなかなかうまくいかないがどうしたらよいかという、
実行可能性のある身近な、しかも切実な問題をテーマにしてそれぞれ活発な
話し合いが続けられておりました。婦人の
集まりだからといって、別に気取ることもなく、また子をおんぶしたまま熱心にメモをとっておられる婦人もあり、各人が秩序正しく相互に発言を続け、
司会者、
助言者とうまく呼吸が合って、
グループ活動は活気に満ち、いろいろの問題が手ぎわよく整理され、発表の段階に進んでいく光景に全く驚きの目をみはったのであります。話を聞く、書く、考える、発言するといった基本的なものがすっかり身についておられる点などは、全く感服いたしたのであります。ここまで到達するまでには、古い歴史、基盤がすでにあり、周囲のあたたかい
指導援助などによって実を結んだことと考えられるのでありますが、
話し合いに進んで協力された婦人の各位に深く敬意を表するとともに、なお一そうの努力により、りっぱなものにこれを育てて、多方面に広げていかれることを期待してやまなかったのであります。
話し合いがここまでくれば、
選挙の買収または供応などの忌まわしい
不正事件は絶対に生ずる余地がなくなり、案外
公明選挙も実現至難ではないという確信を強く持ったのであります。芽を吹き始めた常時啓発の活動は、地味ではありますが、きわめて重要な仕事であって、多少の時日を要しても効果が必ず現われるものであり、これらの運動が全国にわたって浸透普及徹底したときを予想いたしますと、まことに心豊かな楽しみを感ぜられるものがありました。これらについて
財政面を初め、あらゆる面にわたってでき得るだけ援助することに努力をいたさねばならないことを強く感じた次第であります。
なお、各
県市町村選挙管理委員会は、いずれも
啓発運動を推進普及されるために多大の犠牲を払って努力を続けておりますが、広大な
指導範囲に比べて、末端まで運動を展開するに当って諸経費があまりにも僅少なため、経費の面において苦慮し、せっかくの計画が机上のプランに終るおそれがあるというのが一般的な現状であります。また、明後三十四年には、中央、地方の各種の
選挙が行われる見込みであるから、この機会に
啓発事業を活発に行うことは一そう効果的であると思われるので、常時
啓発事業委託費の増額を強く要望されましたことを、ここに申し述べておきます。
次に、
公職選挙法に関する
改正意見並びに要望のおもなるものについて概略申し述べます。
一、
都道府県議会議員の
選挙区については、最近の
町村合併により、郡が小規模化し、市によって分断されたものあるいは飛び地を生ずるに至ったので、
現行法による郡市の区域を
選挙区にすることに不合理を生じているので、法第十五条の規定に検討を加え、実情に即するようにすみやかに改正すること。二、
基本選挙人名簿に登録されたものが
名簿調製期日後同一
市町村内の他の投票区に住所を移した場合においても、
補充選挙人名簿に
登録申請ができるようにすること、また
基本選挙人名簿及び
補充選挙人名簿の調製は
住民登録により調製ができるように立法化すること。三、法第十一条に該当する
既決犯罪通知は、直ちに
住所地の
市町村長並びに
選挙管理委員会に対してもなすよう、法的に規定をすること。四、法第四十九条の
不在投票が許される区域として、「郡市の
区域外」とあるのを、「
市町村の
区域外」に改めること。五、法第百四十七条第一項の
違反文書図画の撤去については、警察が直ちに撤去できるようにし、
選挙当日
投票所を設けた場所の入口から一町以内の
ポスターの撤去は
候補者になさしめるようにすること。六、異議の
申し立てまたは訴願の審査をする場合において、
選挙管理委員会の権限を強化し、
選挙人、
関係者の
出頭陳述を求めることができることとするなど、
強制力を付与してもらいたいこと。その他、
立候補辞退は、
選挙期日前二日とすること、
個人演説会の
会場施設としては、
市町村の議事堂はこれを削除すること、
開票立会人の数を五人程度に減少させること、町村における
議会議員及び長の
選挙においても自動車一台の使用を認めることなどの意見が述べられたのであります。
また、警察並びに
検察当局の
取締り面からの
改正意見を以下要約して申しますと、一、
選挙運動の制限をできる限り簡素化し、
形式犯については過料の制裁とすること、二、
運動実費または
労務報酬の支払いを受けることのできる
選挙運動者の数を限定し、これを
届出制にするとともに、それ以外の
運動実費または
労務報酬の授受に対し
刑罰規定を設けること、三、
連座制の強化でありますが、
選挙事務長を
届出制とし、
選挙事務長または
出納責任者が
買収罪などによって処罰されたときは、直ちに当選無効とすること、四、
選挙犯罪による
公民権停止は期間は短かくても必ず行うものとすること、その他、
選挙ポスターの検印を、
偽造押印不正使用防止のため、検印を統一し、その様式も簡単に偽造できないものとすること、また、
選挙犯罪について、
裁判所以外の特別な
審査機関を設けてこれに当らせるといった方法は考えられないものかなどの意見が述べられました。
以上が、山梨、静岡、栃木県における
調査概要でありますが、本調査に当って格段の御協力を願いました
県当局初め
選挙管理委員会、警察、
検察当局並びに
関係市町村に深く感謝の意を表しますとともに、御出席願った方々にはいずれも熱心に腹蔵なく貴重な御意見を述べていただき、また静岡県稲取町の
婦人学級の皆さんにはお忙しい時間をさいてわざわざお
集まりを願いました点などにつきまして、ここに厚く御礼を申し上げまして、報告を終る次第であります。