○松井説明員 今、御命令によりまして、イギリスの一般協定の交渉の経過につきまして大まかなところを御説明申し上げ、かつ
アメリカの協定の問題点を御説明申し上げたいと思います。
イギリスとの一般協定につきましては、御
承知の通り、昨年か一昨年石川ミッションが行かれまして、コールダーホール型炉の経済性本しくは安全性の問題についてつぶさに御検討にたられ、その際、英国から動力炉並びに燃料を購入もしくは人手するためには一般協定が必要であるといことで、一般協定のひな形を持参いたされました。それにつきまして、
政府といたしましては、
原子力委員会、
関係各
方面の御
意見を徴しまして、交渉のわが方の対案を用意いたしました。
対案の内容は、大まかに分ければ大体二つに大別できると思います。
一つは、燃料並びに原子炉の入手、
情報の入手交換に関する条件、もう
一つは入手した燃料もしくはイクイプメントから生ずる副産物、並びに向うからもらった燃料に対する査察の問題でございます。
第一の問題につきましては、大体今年の九月三十日から、ロンドンにおきまして、中川公使が主になりまして、本省から私と条約局の中島君が出張してお手伝いいたしまして、先方はイギリスの
原子力公社の事務局長ピアソンを
中心といたしまして、
原子力公社、向うの
外務省、それから向うの
総理府にある
原子力の担当
課長ら数名と、約一週間にわたりまして鋭意折衝をとげた結果、第一の問題点につきましては、おおむね満足すべきラインに達しました。
もう少し詳しく申し上げますと、まず第一に、燃料の入手につきましては、イギリスから購入するリアクター、原子炉に対する燃料の長期保証、これは数量の面から見たわけであります。それから品質の面としましては、コールダーホール型炉の燃料要素は、御
承知の通り一日トン当り三千メガワット
程度の出力の保証をし得るような性能のものを、協定上の義務として保証いたさせました。これはかねて国会におきましても、諸先生方がこの点を重視しておられたやに拝察いたしますので、この点につきましては、いささか諸先生方の御希望に沿い得たのではないかとひそかに思っております。
次に、
情報の交換と
技術協力の問題でありますが、まず
情報につきましては、
研究用の
情報あるいは
産業上の
情報を含めまして、公社が協定上の義務としまして、
日本の
政府もしくは
日本の
政府の許可する人間に
情報を提供する、その
情報は単なる
研究の
情報ではなくて、テクニカルなものを含めましたところの
産業上の
情報の入手を含むものでございます。との
情報の入手につきましては、向うの条件がただでくれるものではないのでありまして、向うのタックス・ペイアーで作った
研究の
成果というものは、
日本にただであげるわけにはいかない、ライセンス・リクァイアメントを必要とするものはその取りきめが必要であろうし、あるいは特許を要するものにつきましては、その対価たるロイアリティを払ら、そういうことを考慮することを要しますのみならず、なお特許権の問題に関しましても、なるべく受け入れ国の現行法規を尊重するような条件で、かかる
情報の入手ないし交換が行われることに合議が成立いたした次第でございます。
次に、
技術援助の問題でございますが、向うの原案では、燃料要素の成形加工に関する件、あるいは燃料要素の化学再処理に関する件、とれらに関して
技術援助をしてもよいという案がございましたのを、こちらはさらに進めまして、原子炉自体の設計運転等に関する
技術援助も公社があっせんするような協定に達しました。御
承知の通り、燃料要素につきましては、その成形加工と化学再処理は、
原子力公社がその所属の工場でやっておりますが、リアクターは、
産業部門、すなわち民間ペースで今やっておられるので、協定上は、
日本の原子炉の設計、建設、運転等に関する
技術援助の
情報がほしい場合には、なるべく公社があっせんしてやろうといち協定に達した次第でございます。
以上、協定の主たる
目的たる原子炉の購入、燃料の入手、
技術協力、
情報の交換、これらの一連の問題につきましては、大体おおむねわが方の
目的を達し得る
程度にまでこぎつけたのではないかと
考えております。
協定のもう
一つの大きな問題は、御
承知の通り、イギリスからもらう燃料要素、イギリスからもらう器材もしくはそれらの使用から生ずるととろの副産物のプルトニウムの査察の範囲をどこまで認めるか、あるいは、この査察を暫定的にはイギリスが行うとしましても、将来は国際
原子力機関の査察に振りかえたい、すなわち査察の範囲、実行の方法等に関する問題が協定のもう
一つの大きな部面でございます。との問題につきましては、初めのイギリスのわが方に提示しましたととろの協定がやや不備な点があったので、一般に誤解を招き、事実上交渉の過程において
改善されたのにもかかわらず、当初の誤解が残っていたために、国内の
意見の統一にやや時間を要したというととも申し上げ得ると思います。それはなぜかと申しますと、向うの初めの原案は、先般宇田
大臣の御一行が行かれて、イギリスの公社と交渉ざれたときに、わが方の要求をかなり入れたものを持ってきたのでございますが、それでもなお、査察の問題につきましては、不満足な点が多くございました。すなわち、イギリスから入手した器材もしくは材料の使用の結果できるところの副産物の化学再処理は、未来永劫的にイギリスが化学再処理したいという点が一点でございます。それから、イギリスから入手したイクイプメントもしくは燃料からできるところの副産物に対しては、数代までも、あるいは極端なととを申し上げれば、未来末代までも査察を及ぼすというような問題がはっきり出ております。この点につきましては、初めにイクイプメントは、定義がなかったために、小さなくぎ
一つもらっても――換言すれば、
日本に将来国産の動力炉なり実験炉ができたような場合に、国産の燃料を使うにもかかわらず、くぎ
一つイギリスからもらった、あるいはイギリスからフィッション・チャンバーのようなものやその他計測器を買ってつけたら、それがために査察を受けるのか、あるいは化学再処理を向うがするようになるのかというような疑義が起ったのは当然であります。これにつきましては、私ら現地において中川公使とともに交渉しましたが、まず査察の範囲というものにつきましては、国際
原子力機関の憲章の十二条の字句をできるだけ忠実に使うべきだ、しかも、国際
原子力機関の字句で不明な点を明らかにする場合には、できるだけ主権国たる受け入れ国の立場を尊重すべきものである。かつ、そのイクイプメントの定義につきましても、できるならば、リアクターそれ自体の定義に限定してはどうか、少くともそれが不可能な場合であっても、原子炉の従属部分に限定ずべきではないかということで、まずとのイクイプメントの定義につきましては、先方は、定義におきまして大体わが方の要求をいれまして、そのようにいたしました。しかしながら、ボーダー・ラインの定義でありまして、イクイプメントの何が果して協定上のイクイプメントの定義であるか、疑義があれば外交交渉できめよう、そういうわが方の提案をいれたわけであります。
一方マテリアルの定義につきましても、初めは燃料、核原料物質、ソース・マテリアル、それから燃料要素あるいは特殊核分裂物質の定義であります。その後減速材を入れてきました。これがまた問題を紛糾させた原因でありますが、この点につきまして、しからばイギリスの
政府は絶対この点は譲らないかということを執拗に迫りました。この点は、イギリス
政府としては絶対に譲らない。しかもこの日英協定の中に示された査察の範囲は、国際
原子力機関で定めたところの、あるいは合議されたところの範囲を一歩も出るものではない、そういうふうな態度を示しまして、私らの要求に基きまして、イギリス
政府は、公式の文書をもってかかる見解を
表明して参りました。私の方ではなお疑念がありましたので、
原子力委員会の御希望もありましたし、一部の諸先生の御
意見もございましたので、
アメリカ政府、カナダ
政府の
意見も個々に求めました。ところが査察の及ぶ副産物の範囲につきましては未来末代にわたりまして査察を行うことは、国際
原子力憲章の解釈であると
アメリカ政府もイギリス
政府もかたく信ずるものであるという文書の回答が参りました。一方国際
原子力機関の採択
会議におきまして、御
承知の通り、憲章の第十二条のAの六項におけるいわゆるソース・マテリアルをも査察の対象とすることにつきましては、インドもかなり反対しておりましたが、このインドの説は少数説でございまして、そのときバーバの言った言は、米ソを含む大国のために押し切られた議論でございます。かかるイギリス
政府の見解、
アメリカ政府の見解ないしカナダ
政府の見解は、完全に一致するものでございます。すなわち副産物たるプルトニウムに対する査察は、インデフィニトリーに及ぶものである。機関から少しばかりの燃料をもらったがために、未来末代までも査察を受けるということは、いささか均衡を失するきらいがある。しかしながら、これが国際涼子力機関の肯定的な解釈としまして公式議事録に載っておるのみならず、この
理事国の主要メンバーである
アメリカ、イギリス、カナダ
政府は、これを確認しております。
ソ連政府につきましては、この点につきましては、御
承知の通り、英米と本質的に同じ見解を持っていた次第でございます。以上によりまして、査察の範囲につきまして、当初イギリス案の不備なため少し誤解がありましたが、大体本質的には国際
原子力機関憲章の査察の範囲を逸脱するものでないということを確認いたしました。しかしながら、なおその用語をできるだけ、サブスタンスのみならず、着物な
ども一緒に、国際
原子力機関のような表現にしたらどうかというような御希望がありましたので、この点につきましては、英国
政府に提案しております。まだ正式の回答は来ておりませんが、中間的な報告では、大体イギリス
政府は受け入れるのではないかとひそかに希望している次第でございます。あるいは、今ごろ回答が来ているころかと思っております。
次に、査察の実施の方法でございます。国際
原子力機関の査察の制度というものは、今後理研会その他で
相当たくさんの学者なり専門家が集まってきまることと思いますが、現在まだ組織ができていない。従って、査察を実行する能力がないために、向うは、国際
原子力機関の査察の制度が実施できる
程度になれば、そのときが来たらば、喜んで切りかえることについては全然異議がない、従って、それまで協定上の査察というものは暫定的なものである、イギリスの
政府の有する査察権というものは暫定的なものである、将来切りかえれば、全然実施の主体と実施の方法も国際
原子力機関が行うということで、この点につきましては、すでに国際
原子力機関を採択されました諸先先におかれましては、もとより御異存のないことと思っております。
外務省としましては、できるだけこの気持をもっと率直に打ち出したかった次第でございますが、御
承知の通り、国際
原子力機関の保障制度を多数国間条約もしくは双務協定に適用する場合には、どの
程度まで適用するのかということで、
関係国、
関係機関との間の協議に待たざるを得ない。一括で白紙委任状のようにしまして全部まかせるという表現はできないということになりましたので、とにかく将来時期が来れば必ず相談しよう、どの
程度まで国際
原子力機関の所掌に切りかえるのか相談しよう、もしもその相談が成り立たなかった場合には、締約国の一方は協定を破棄する権利を有する、こういうふうになっておる次第でございます。
さらに査察の問題につきまして一言付替申し上げたいのは、プルトニウムの処分の問題でございます。本協定では、でき上ったプルトニウムは、
わが国の
平和利用の所要量に関する限り、
日本政府の処分におまかせをします、余ったものがあれば、イギリスの公社が指定する倉庫に貯蔵しておく、必要があれば
日本に返してやる、もしそれでも余ったものがあればイギリスが買ってもいい、あるいは第三国に譲渡してもいいということであります。御
承知の通り、イギリスからもらう原子炉燃料というものは、三十万キロワットにつきまして五百トンの燃料でありますが、これにつきまして年間二百キロのプルトニウムができる計算だそうでございます。そうしますと、十年間におきまして約二トンのプルトニウムができるわけであります。これが
日本の平和所要量の範陣内であれば
日本側は全部これを使えるわけであります。平和所要量の算定方式も、向うの案では、平和
研究用並びに現存もしくは建造中のリアクターの所要量といろ算定基準がありましたが、これを私らの方はもっと範囲を広げまして、将来の
計画といたしまして、
政府において、ファスト・ブリーターのような設計のものを作るような
計画があるとすれば、それを
政府の
計画として立証するならば、将来のプルトニウムの必要量も
日本にあらかじめ押えておくことができるというふうな結果になりました。この結果につきましては、私は自信を持って国会の諸先生の決議の
趣旨にこたえ得たのではないかとひそかに思っております。
話は長くなりますが、次に
アメリカの協定について
お話し申し上げます。
アメリカの協定の案文は、現在まで参りました内容は、
アメリカと西独との間にできました協定とほとんど同じでございます。問題になりましたところの査察の範囲並びに査察の国際
原子力機関への移譲の表現も、イギリスの協定と大同小異でございます。少しイギリスの方が有利な場合もしくはその逆の場合がありますが、本質的には同じでございます。この問題につきましては、
原子力局に依頼しておりますが、協定の主たる
目的は濃縮ウランを受けることであります。これについては、濃縮ウランの所要量を決定していただ幸たいことと、それから濃縮ウランの所要昂の決定につきましては、購入すべき原子炉のタイプ、出力あるいは濃縮ウランの発電
計画の一部を示さないと、向うは話に乗らないのではないかと思います。それから、入手すべき濃縮ウランの入手の方式を購入するか貸与にするかを明らかにいたしませんと、免責条項の問題もしくはでき上ったプルトニウム所有権の問題が影響して参ります。これは事務的に至急解決していただかなければならぬ。
査察の問題につきましては、イギリスの協定の場合に準じまして、なるべく国際
原子力機関憲章の字句を使うように努力したいと思います。ただし、これはあらかじめ私が申し上げておきたいのは、
アメリカとの協定の表現ほ、イギリスの場合の表現と実質的には同じでございますが、表現の方法が違うために、事務的に、形式的にこれを国際
原子力機関憲章の表現に切りかえることは、かなり難航すると思います。しかしながら、できるだけその御
趣旨に沿うように努力いたしたいと思っております。なお、
アメリカとの協定につきましては、以上のような諸点について
原子力委員会から御指示があれば、
外務省としては至急本格的な交渉に入りたいと思っております。でき得ればイギリスと
アメリカの協定を二つ並べて通常国会に出しまして、諸先生の御批判と御審議を仰ぎたいと
考ええておりす申す。
簡単でありますが、以上で終ります。