○
公述人(
武田隆夫君)
武田でございます。
昭和三十二年度
予算について
意見を述べよということでございます。いろいろ申し上げたいことがございますが、
公述の時間かあまりございませんし、私のあとにもそれぞれ専門の
分野の方が
公述されることになっておりますので、ここでは二、三の点につきまして私の感じたことを述べるにとどめたいと思います。なお私の前に
公述されました
稲葉公述人の
公述と重複するところがございますが、これは偶然そうなったのでありまして、この点は特に
予算について力点をおくべき点だというふうにお考え下さいまして御了承をお願いしたいと思います。
第一には
予算の規模について申し上げたいと思います。御承知のように
昭和三十二年度の
予算は、
一般会計歳出歳入ともに一兆一千三百七十五億円でありまして、分配
国民所得に対しまして一三・九%に当ります。これに対しまして三十一年度の
一般会計の当初
予算の大きさは分配
国民所得の一三・六%でございます。従いまして三十二年度の
予算は三十一年度のものに比べまして絶対額において約一千二十六億円
増大しているだけではなく、
国民所得に対する相対額におきましても僅かではありますが、〇・三%ほど
増大をしているということになります。私がこういう皆様御承知のことを特に申しますのは、世間あるいは
政府側では、この
予算の規模の膨張は
国民所得の
増大に対応するものであるにすぎない。あるいはむしろそれを下回るくらいであるというふうに言おうとしているかに見える節があるからであります。現に
昭和三十二年度
予算の説明という、これらの二ページのところでは、わざわざ三十一年度の
一般会計の規模を(a)、(b)と
二つに分けまして、(a)におきましては今私が述べましたような計算をしておるのでありますが、(b)におきましては
補正予算第一号を加えましたものを
国民所得に対して比べて、それが一四・一%であるから、それに比べると三十二年度の
予算の
比率は僅かではあるけれども低くなっておるというふうに言おうとしているように見えるのであります。しかしながらもし
国民所得に対する
一般会計の
比率を求めまして、その点から
予算の規模を云々しようというのでありますならば、その
一般会計の金額は両方とも当初
予算でやるか、あるいは両方とも補正を含んだものでするかどちらかであるべきであろうと思います。ところが三十二年度におきましては将来かりに補正ということが行われるといたしましても、それを含んだ金額を今出しようがないのでありますから、この場合には両方とも当初
予算で計算するほかはないというふうに考えるわけであります。ことに補正一号というのは、三十二年度の
予算が大蔵原案からだんだん
政府案になってくるその経緯から考えましてもわかりますように、いずれかといえば三十二年度
予算として組むべきものを、もしくは三十一年度の剰余金とすべきものを補正としたような感があるわけであります。それからまた先ほどの
稲葉公述人の
公述にもありましたように、この支出の多くは三十二年度にいわゆるずれ込んでくるわけであります。そういう意味でも、三十一年度の
予算の規模を出すのには、この補正を含めるべきではないというふうに私は考えるわけであります。要するに三十二年度の
予算の規模は三十一年度に比しまして絶対的にはもちろん、相対的にも
増大しておるということをまず確認しておくことが必要であろうかと思うわけであります。
予算の規模につきましては、もう
一つ注目すべき点かあるように私は思うのであります。ここ数年来の慣行によりますと、
予算の規模を問題にいたします場合には、
一般会計ではなくこれに
財政投融資を加えたものがとり上げられてきておるのであります。たとえば少し話が古くなりますが、三十年度のこういう
予算の説明におきましては、
一般会計予算と
財政投融資資金
計画との純計は前年度よりも約三百五十五億円上回ることとなった、こういうふうに述べられております。そしてそのあとに
一般会計と
財政投融資との合計したものを、
国民所得に比べまして、その
比率を表示してあるのであります。三十一年度の
予算の説明においてもやはり同じように、
一般会計歳出予算額と
財政投融資額とを加えてさらにこれに
民間資金の活用分というのまで加えまして、その規模を
国民所得に対して比べて同じように表が出してあるわけであります。そしてそういうことは
財政学的に見ましても、一応意味のあることであるというふうに考えられるわけであります。ところが今度の三十二年度の
予算の説明というのには、これは故意か偶然か私はよくわかりませんけれども、こういう説明とそういう表というのが省かれておるというふうに思うのであります。そしてそこには単に偶然であるとは言い切れないものがあるというふうに私は思うのでありますが、そのせんさくには立ち入らないことにいたしまして、ただここで
財政投融資資金
計画を加えたものを三十一年度までと同じような仕方で出してみますると、
一般会計と
財政投融資を加えたものが千七百億の前年度に比べて
増加になっておる。そしてそれの
国民所得に対します
比率は前年度の約一七%に対しまして三十二年度は一七・九%というふうになるのであります。こういうふうにいたしまして前年度までやられておりましたように、
財政投融資資金
計画を合せて考えますならば、三十二年度の
予算の規模の
増加の
程度というものは、絶対的にも相対的にもいよいよ大きいということになるわけであります。これが
予算の規模について申し上げた第一の点であります。
そこで第二には、このような規模の
予算が
国民経済ないし国民生活に対して、どういうふうな
影響を及ぼすであろうか、という問題が出てくるかと思うのであります。この点は先ほど
稲葉公述人が詳細に
公述をされたところであります。私のような大学の研究室におります者は、第一統計的なデータを持っておりませんし、それからかりにそういうデータが与えられましたとしても、果してそれが正しいかどうかということを検証するところの便宜も持っておりません。従いまして十分的確なことは申し上げられないのでありますが、ごく大綱的な一、二の点を申し上げてみたいと、こう思います。
三十二年度の
予算はしばしば
インフレ予算であるというふうに言われております。なるほどこの三十二年度の
予算におきましては、食管会計の赤字が特別調査会の結論待ちのまま借入金でまかなうことになっておる。その限りではこれは赤字
予算である。それからそういう意味で
インフレ予算であるというふうに言えないこともありません。しかし議論はこの点をめぐってなされているのではないように思うのであります。問題は、三十二年度の
予算の執行によりまして、
生産消費両財貨に対するところのいわゆる
有効需要が
増大して、価格
騰貴が生ずるかどうか、この点にあるようであります。ところがこの
予算を
インフレ予算であるとする人の議論の中には、今申しました点を肯定して、
予算の執行によって価格
騰貴が生ずるであろうということと、それから価格
騰貴が生ずればそれがすなわち
インフレであるという
二つの点とがまざり合っているように思われるのであります。そしてまたこれに対してこの
予算を
インフレ予算でないとする人の側におきましても、この三十二年度
予算の執行によって
物価騰貴というようなものは生じないということと、それからまたかりに
物価騰貴が生じたとしても、それがすなわち
インフレであるというわけにはいかないではないかという、この
二つのことがやはりまじり合っているように思われるのであります。そしてこの都合四つの論点がうまくかみ合わないために、三十二年度
予算の
国民経済もしくは国民生活に及ぼす
影響という、この重要な問題に対する議論が、どうもうまく盛り上らないままに終る、ということになってきているような気が私にはするわけであります。そこでまず必要なことは
インフレという概念を明確にしてかかることであろうかと思うのであります。私は、
インフレというのはいわば価値の裏付のない通貨が、
財政当局または中央銀行の手で
経済の中に投入されることだ、と言っていいと思っておるのであります。いささか抽象的な言葉で恐縮でございますが、たとえば
財政規模がいくら膨張しても、それが租税その他の経営収入でまかなわれておる限り、それは
インフレ予算ではない、
インフレ財政ではない。それから銀行貸出がいくら膨張しても、それがいわゆる預金の
増加の範囲内でまかなわれていくといたしますならば、それまた
インフレでない、こう言うべきであろうかと思うのであります。そういうふうに
インフレの概念をきめてかかりますならば、三十二年度の
予算は食管会計の赤字の問題を一応除いて考える限り、
インフレ予算ではないというべきであろうかと思うのでございます。しかしその場合でも、この
予算が
国民経済あるいは国民生活に対していかなる
影響を及ぼすかという問題はむろん残るわけであります。そうして、一度この問題になって参りますと、いろいろな点の考慮が必要になってくるわけであります。たとえば、まず第一には、
財政投融資の額は、昨年度に比べまして六百七十数億円
増加をしておる。これに加えまして、
民間投融資がどのくらい
増加するかそして、それを合せたものが
生産財に対する
需要となって、どのくらいの大きさになるかというような問題。それから、第二には、
一般会計の
歳出増は、前にも申しましたように、千二十六億円でありますが、この中には、恩給でありますとか、あるいは公共事業費というようなものであるとかいうような、
消費に回る
性格を持ったものが多いのでございますが、減税と相待って、
消費財に対する
需要をどのくらい
増加するかというような問題があります。そうして第三に、こういう
生産、
消費両財貨に対する
需要の
増大に対して、
供給の方の
増加の大きさはどのくらいになるかというような、そういう点について、詳細な考慮をすることが必要であろうかと思うのであります。こういう点に答えますことは、私にとっては非常に困難なのでありますが、これにつきまして、あまりに楽観的な
見解を持つことはどうであろうかという感じを持っておるわけであります。たとえば、第一の点でありますが、
民間投融資の
増加というものは、それほど大きくないというふうに考えられておりますが、その基礎になる数字は、三十一年度の第三・四半期の
水準——この辺でこの
民間投融資は少し落ちてきておりますが、その
水準を年率換算で伸ばしまして、そして、それを三十二年度の予想に使っておるわけでありますが、そういう予想が果して正しいかどうか。たとえば、資本主義の下では、いろいろな企業が膨大な投融資
計画を持っておる。そして競争
関係にある同業者の出方を見ておる。そうして、
一つの企業がそういう投融資
計画を実行すれば、ほかの企業は、好むと好まざるとにかかわらず、自分も投融資を実行していかなければならないということになる。そういうような中で、三十一年度の第三・四半期の少し投融資が落ちてきたところを年率換算して三十二年度の予測をしておる。それをそのまま、その基礎の上に立って議論をしていいものであるかどうかというような点に疑問を持っております。それから第二の、
一般会計の
歳出のに中
消費的な経費が多い。それが減税と相待って、どのくらいの
消費に対する
需要の
増加になって出るかということについても、正確な計算というものは、私は出されていないのではないかというふうに感じております。それからまた、第三の点、そういう
需要の
増加に対しまして、
供給の
増大がどのくらいの大きさになるかという点につきましても、これは、三十一年度における
設備投資の
増加が非常に多かった。その相当の部分が
供給力の
増加になって現われるであろうというふうに、まあ考えられているわけでありますが、今日の
設備投資というものは、
投資をしてから
現実にその製品ができてくるときまで、かなり時間が長い。いわゆる成熟期間の長い
投資であるということを十分考えた上で、やはり
供給力は
増加するという推定を立てておるのであろうかどうかというような点についても、私は疑問を持っておるわけであります。
そうして、それらの点を総合いたしました感じでありますが、どうも正確なことを申し上げられなくて恐縮でありますが、感じといたしましては、私は、
昭和三十二年度におきましては、
物価の基調というものは引き締ってくると申しますか、
物価騰貴の
傾向が助長されこそすれ、これが減殺されるということはないのではないかというふうに感ぜられるわけであります。もしこのように内需が
増大をする、そうして価格
上昇の
傾向というものが現われてくるといたしますならば、先ほどの御議論にもありましたように、貿易の上では
輸入増大、
輸出減少というような方向にこれは作用していくと考えなければならないわけであります。御承知のように、
経済企画庁の予想によりまするというと、三十二年度の
国際収支は、
輸出におきましても、前年に比べて約一三%
伸びて二十八億ドル、それから
輸入におきましては、前年度に比べて約一〇%ふえまして三十二億ドル、これに貿易外の収支を含めまして差し引きいたしますというと、約五千万ドルの赤字になる。ただし、ユーザンスの
増加というようなことや、そのほかのことを考えてみるならば、表面上の収支はとんとんである、こういうふうになっております。しかし、内需の
増大により
輸出の余力が減るということ、それから価格
騰貴の
傾向によって、コストが上りぎみになるというようなこと、それから、先ほどの
公述にもありましたような、最近における海外の
景気の動向というようなことを考えますならば、果して
輸出において約一三%までの
伸びを見込むことができるであろうかどうかという点に疑問を持っておるわけであります。それから、
輸入の方でありますが、これを一〇%にとどまるというふうに見ておる。その底には、三十一年度におけるところの
輸入のふえ方、これは、三十年度に対して三〇数%の
増加でありますが、そのふえ方は異常なものである。そうして、多かれ少かれ在庫を
増大するような
輸入であったという
考え方が含まれておるように思われるわけであります。この点については、非常に極端な議論をする人もございますが、
経済企画庁の数字は、それほど極端に考えておらないものと思いますが、それでもやはりそういう考えがあると思われるのであります。しかし、その
考え方そのものは否定できないにいたしましても、在庫
増大の
程度をどの
程度に見込むかということにつきましては、大いに議論のあるところであろうかと思うのであります。そういうところへ、前に申しましたように、価格の
騰貴の
傾向が生ずるという場合に、
輸入の
伸びが一〇%にとどまるというふうに考て差しつかえないであろうかどうかという点についても、私は疑問を持っておるのであります。もしも
輸出の
伸びが予想に及ばず、
輸入の
増加が予想をこえるということになりますれば、この場合には、
国際収支は赤字になるわけであります。
国際収支が赤字になりますならば、外為会計は揚超になるわけであります。そして、
金融が逼迫するわけであります。そして、そういう段階で
日本銀行に対してこの
金融をつけるということは、これをそのまま
インフレだとは言えないにいたしましても、いろいろな背後にある
情勢を考えますならば、このとき、
インフレに対する第一歩が踏み出される、こう考えていいのではないかと思うのであります。
要するに、三十二年度の
予算は、それ自体直ちに
インフレ予算であるということは言えないにいたしましても、価格
騰貴の基調をさらに促進する要因を持っており、現在の
景気の段階において、それを十分に考慮をした上、慎重に組まれた、節度のある
予算であるというふうには私は言い切れないものがあるというふうに考えられるのであります。データをあげずに、ただ疑問の点だけを申し上げまして恐縮でありますが、
委員の皆さんは、国会にも、それからそれぞれの党にも、優秀な調査機関を持っておられるのでありますから、以上の点につきまして十分調査をされまして、この
予算を御審議になりまして、再び二十八年末ごろに見られたような轍を踏まないようにせられたいと、切に希望をいたしておく次第であります。
なお、以上のことに関連いたしまして、もう一言しておきたいことは、中小企業
金融のことであります。今申しましたような点を考えますと、この
予算の執行につきましては’いわゆる
財政と
金融との総合的な弾力的な運営が必要であろうかと思うのであります。この点につきましては、
予算編成の
基本方針ではうたわれておりますが、しかし、
予算の説明では、これは三十一年度、三十年度にはそれぞれ書いてありますが、どういうわけか、ことしは抜けておるように思うのでありますが、ともかくこの
財政と
金融との総合的弾力的な運営が必要であると思うのであります。そうしてその場合、どうしても
金融は引き締るようになると思うのであります。しかし、その
金融が引き締りますと、そのしわは中小企業に寄せられがちであります。ことに、いわゆる二十九年度以降のデフレの段階で、系列融資態勢が強化されてきておる今日におきましては、一そうそうなる
可能性が多いというふうに考えられるのであります。もちろん、これに対しましては、国民
金融公庫とか、あるいは中小
金融公庫の貸付のワクを
増大するとか、そのほかの措置がとられておるように思うのでありますが、果してその措置だけでこれは十分であろうかどうかということが気になるわけであります。申すまでもなく、中小企業の問題は、
雇用の問題を初めとして、いろいろな点で重要な問題であります。そうして、自民党におかれましても、社会党におかれましても、この問題は、かねてから重視されておるように思うのであります。この点につきましても、
予算の
国民経済、国民生活に及ぼす
影響という点に関連いたしまして、十分な御検討がなされてしかるべきであろうかと思うのであります。
時間がだいぶたちましたので、第三に、経費の
歳出の面につきまして、簡単に一言いたしたいと思います。
一般会計の
歳出は、前にも述べましたように、約一千二十六億円の増であります。この増は、大ざっぱに言いまして、約半々の割合で、いわば当然三十二年度に
増加すべき経費と、それからいわば政策的に
増加された経費とに振り当てられていると言っていいと思います。そこで、今、この政策的に
増加された経費、千二十六億円の約半分、五百億円強の支出がどうして可能になったかということを見てみまするというと、それは、第一には、言うまでもなく、減税をいたしましても、なお税収入の増があったからであります。しかし、その半面におきまして、第二に、ここ二、三年災害がなくて、災害復旧費をふやさなくても済んだばかりでなく、これを減らすことができたということ、それから第三に、防衛
関係費がほぼ前年度並みにとどまったというようなことによるという点を無視することはできないのではないかと思います。もし防衛
関係費が、三十年度から三十一年度にかけてぐらいの
程度にふえていたといたしますならば、それから、もし大きな災害がありまして、三十二年度の
予算におきましては、減少した経費のたしかトップを占めておると思うのでありますが、災害復旧費の減四十二億円というものが消えてしまって、逆にこれがふえるというようなことになっていたといたしますならば、とても五百億円強というような、いわゆる政策的経費の
増加というものは不可能であったろうというふうに考えられるのであります。これは、きわめて妙なことでありまして、経費増額の能、不能という点のかなりの部分が天候と
アメリカの意向とにかかっておるということにもなろうかと思うのであります。(笑声)災害と申しましても、その全部を天災に帰するわけにもいきませんから、これについても、いろいろ議論をすべきであろうと思いますが、さしあたって私は、ここで問題にいたしたいのは、防衛
関係費であります。つまり、防衛
関係費というのは、平和論とか憲法論とかというようなものを抜きにいたしまして、純然たる
財政上の問題に限ってみましても、今申しましたような意味で、非常に重要な意味を持っているということになるわけであります。そういうことを考えながら、三十二年度の防衛
関係費を見てみますると、これは、わずか四億円の
増加にとどまっておるのでありますが、このようなことが果して三十二年度限りだけのものでなくて、三十三年度以降もこういうことができるかどうか。あるいは三十二年度に微増にとどまったことが、わずかしかふえなかったということが、かえって三十三年度以降の
増加の原因になるのではないかというような疑念が沸いて来るのであります。と申しますのは、
予算の継続費、それから国庫債務負担行為のところを見てみまするというと、翌年の三十三年度の年割額、あるいは三十三年度の負担に帰する額が約百六十五億円でございます。国庫債務負担行為の中で、三十三年度と三十四年度の負担に帰するという分は、便宜上半分にして計算をしておりまして、それが百六十五億円になります。これに当りますものは、三十一年度の
予算では、つまり三十一年度の継続費、国庫債務負担行為で三十二年度の年割額あるいは三十二年度の負担に帰するという分は百六億円でありましたから、ここで約六十億円ふえておるということになります。ともかくこれだけのもの、百六十五億円というものが、三十三年度の防衛庁
予算の膨張となって現われざるを得ないということになっておるわけであります。それからまた、御承知のように、防衛庁
予算には非常に繰り越しが多い。過去のものが累積してきておる。そこで、三十二年度におきましては、たとい
予算がふえなくてもやっていけるでありましょうが、三十三年度にはそうはいかなくなるであろうというようなことも考えられるわけであります。その上さらに、昨年度
予算編成の際に出された日米共同声明というものがございますし、そのほかにも
アメリカとの間にいろいろないきさつがあるようであります。それをこの三十三年度以降もずっとたな上げしていくことができるかどうかというような点についても疑問が生ずるわけであります。そこで、
予算のどの項目についてもそうでありますが、特に防衛
関係費につきましては、三十三年度以降のことも、今申しましたような意味において、十分にらみ合せられた上で、この
予算を審議されるということを希望しておきたいと思うのであります。
なお、この点に関連してもう一言しておきたいことは、
歳出予算と、それから継続費と、それから国庫債務負担行為、この三者の
関係についてであります。前にも述べましたように、三十二年度の防衛
関係費か微増にとどまったと言っていると思いましたらば、あたかもそれに対応するかのように継続費や国庫債務負担行為の金額がふえているのでありますが、この点は、
歳出予算の欠を継続費や国庫債務負担行為で補ったかのような疑念を抱かしめるものがございます。それからまた、なぜ甲型警備艦建造費というものは、継続費として計上されておるか、それからなぜ艦船建造というのは、国庫債務負担行為として計上されておるか、その区別が必ずしも明瞭ではないのであります。そこで私は、
予算を国民の前に明らかならしめるという意味におきまして、この
歳出予算と継続費と国庫債務負担行為との間に明確な区別を立てて、そして継続費なり国庫債務負担行為なりが設けられた趣旨に真にふさわしいものだけを、これらに計上をすべきではないかと思うのであります。
第四に、そしてこれが最後でありますが、今度は歳入、特に減税あるいは税制改革について一言しておきたいと考えます。減税につきまして一番問題になりますのは、やはりこの減税の恩恵に浴するのが、国民の中の比較的わずかの層であって、国民の七割というものはこの減税の恩恵を受けないという点にあるというふうに言えると思うのであります。なるほど税を納めていないものに対しては減税のしょうがないのではないかというふうな理屈が一応成り立つでありましょう。しかしそういう理屈は、財務官僚とか、あるいは私のような
財政学者が言うことであるならばわかるのでありますが、これは政治家の言としては通らないのではないかというふうに考えます。と申しますのは、前に申しましたように、この
予算の執行の結果として、
物価騰貴、それから家計費の
増大ということが、三十二年度には十分に考えられるわけであります。それからまた国鉄運賃の値上げ、それからそれに追随する私鉄運賃の値上げ、それから、ガソリン税の増徴によるバス賃の値上げというような負担増は、これらの減税の恩恵に浴さない国民も、全部がこれをかぶらなければならないからであります。それからまた、これらの人々も、つまり減税の恩恵に浴さない人々も、全然税を納めていないわけではなく、お酒の税や、それからたばこの税といってもいいでしょうが、たばこの税や、それから砂糖
消費税というようなものの、少くとも半分は負担をしておるのであります。そうして三十二年度におけるところのそれらの自然増収は、二百億円をこえることになっております。しかも今日のこういったお酒とかたばことかいう税の負担は、戦前に比べてみますというと、直接税ほどではむろんありませんが、やはり重くなっておるのであります。たとえば
昭和十年度の酒、たばこ税を合計したものの、
国民所得に対する
比率を出してみますると、これは二・八%ぐらいになっております。これに対しまして、
昭和三十二年度のそれは三・六五%になるという計算になります。そうしてこんなに重い酒やたばこの税を負担しておるところの国は、世界の有力な国々の中には今日ございません。そうだといたしますならば、今回のような機会に、こうした点についてももっとあたたかい考慮をすべきではないかというのが、私の感想であります。
それからもう
一つ、減税について問題になります点は、減税率とそれから減税額との問題ではなかろうかと思います。今回の減税を見まするというと主として
所得税に関する減税でありますが、なるほど減税率はおおむね下層
所得者ほど高くなっております。しかし減税額は、これもまたある意味では当然なことなのでありますけれども、下層の
所得者は少い、上層になるほど多くなっております。たとえば夫婦と子供三人の給与
所得者では、年
所得三十万円の人の減税率は五三%であります。減税額が三千四百五十円でありますが、年
所得一千万円の人の減税率は二一・二%、これは非常に低いのですけれども、減税額は百二十万三千百六十円、終りの方のしっぽにくっついておる額と、三十万円層の減税額とが同じくらいであります。しかし人か減税によって喜びを感ずるのは、これによってふえる
所得額の大きさ、すなわち減税額によってではなかろうかと思うのであります。特に下層の
所得者ほどそうではなかろうかと思うのであります。もしそうだといたしますならば、下層
所得者の減税率をもう少し上げて、上層のを下げてもいいのではないか。そのためには、税率の刻みを、これは五%ずつに刻んでありますが、必ずしもそうしなくてもよいのではなかろうかと思います。特に一千万円以上の高額
所得者につきましては、
所得の刻みが非常に大幅になっておりますが、これをもっと小さく刻んで、税率の刻みも小さくして、それに対応さしていって、もう少し累進率を上げていってもいいのではないかというふうに私は感じておるわけであります。
それから減税につきまして言うべきことはなおいろいろありますが、最後にもう
一つだけ申し上げておきたいと思います。それはせっかく減税をいたしましても、徴税の強化が行われまするならば、これはせっかくの減税が相殺されてしまうということになりかねないわけでありますが、今度の減税によって減税される
所得税額は千九十二億円、そういうふうに言われております。しかし、かりに三十二年度における階層別の
所得見込額というものを考えてみまして、それに先ほど申し上げました各
所得階層における減税率というものをかけてみまするというと、どうもその額は千九十二億円を上回るのではないかというふうに私には思われるのであります。このことは、臨時税制調査会がほぼ同じような減率税のもとに——むろんこの配当控除とかそれから勤労控除とかいうような点では手直しが行われておりますけれども、ほぼこの同じ構想のもとで、自然増収一千億円のときに減税一千億円というふうに考えておる。それが自然増収が約倍になったときに減税が千九十二億円である、わずかに九十二億円しかふえないのはなぜかというふうに言いかえてもいいわけでありますが、どうもこの計算か私にはよくわからないのであります。今もし三十三年度の
所得階層別にとって、これに減税率をかけたものが千九十二億円を上回るといたしますならば、その額だけはいわゆる徴税の強化によって減少が食いとめられるのだというふうに考えざるを得ないことになるわけであります。つまり
所得階層別に減税率をかけて計算していったものが、かりに千九十二億円よりも百億円多い、実際はそれだけ減税になる、しかし減税見込額は千九十二億円にとどまるということになれば、その百億円だけは何か税率と
所得をかけたもの以外の点から出てくるというふうに考えざるを得ないということになるわけであります。しかもこういうような徴税強化の余地というものは、給与
所得者については少いわけであります。これはもともとあまりごまかしようがないわけでありますから少い。そこで、このしわはもっぱら事業
所得者、言いかえれば中小企業者にかかってくるというふうに考えられるのではないかと思うのであります。この点は、私はかなり重要な問題でありますが、正確な計算かできませんが、そういう感じを持っておるわけであります。もし審議の御段階で明確にされますならば幸いであるというふうに感じておるわけであります。
以上
予算の規模、それからその
予算の
国民経済に及ぼす
影響ということ、それから
歳出の面で
一つ二つの点、歳入の面で減税について申し上げたわけであります。時間の
関係で必ずしも問題の全部を追うことができませんでした。しかもその反面、取り上げました点については議論かややこまかになり過ぎたきらいもありまして、お聞き苦しかったかと思って恐縮に存じますが、これで私の
公述を終りたいと存じます。(拍手)