○内村清次君 私は日本社会党を代表いたしまして、ただいま本
委員会に提出されております
仲裁裁定に関する
昭和三十二年度
特別会計予算補正(特第2号)及び
昭和三十二年度
政府関係機関予算補正(機第1号)に対しまして反対の意を表明せんとするものであります。(拍手)
すでに本
委員会において同僚議員の
質問によりまして明らかにされております
通り、一言にして申しますれば、本
補正予算は、先に
仲裁委員会によって行われた
裁定の
趣旨に反するのはもちろん、全く一方的独断的な
措置であり、不完全な実施であり、また
公労法の精神をじゅうりんし、三
公社五
現業に働らく労働者の権利を不当に抑圧し、生活権を脅かすものであると申さなければなりません。すなわち第一に
公労法第八条、
団体交渉権の制限であり、第二に合法的に取得したる既得権の剥奪であり、第三に不完全実施による生活権の抑圧であります。以下順を追うて反対
理由を明らかにいたしたいと存じます。
まず反対の第一の
理由は
団体交渉権の制限であります。今回の
補正予算における
予算総則の変更であります。
政府は単なる
予算上の
措置のように申しておりますが、
予算総則において、
基準内
給与と
基準外給与との間に一線を画し、
給与総額内における流用の自由を禁じ、流用のためには
大蔵大臣の承認を受けなければならないといたしておる点であります。この変更は単なる
予算上の
措置として看過できない重大な点であります。
予算総則の変更という平凡な、一見他意のない字句の置きかえのごとき形でございますが、私は、実に狡猾な、陰険な手段だと思うのであります。私は、全くこの一事をもっていたしましても、
政府の今回の
仲裁裁定に対する態度と労働政策がいかなるものかを明白に露呈したものだと
考えるのでございます。
予算総則の変更は、単なる
予算上の問題ではございません。労働政策の面からきわめて重大な
措置として見なければならないものであります。もし、
政府のいう
予算上のみの問題として見ましても、試みに諸外国の
公共企業体の諸制度を見ましても、どこにも一々
給与総額内の流用操作に
大蔵大臣の承認許可を得るという例はございません。
予算総則の変更は、従来、日鉄法、電々
公社法によって認められていた
給与総額内における流用の自由を規制することになり、従って、
公社総裁の権限に重大な
制約を加えることと相なるわけであります。
政府にとりましては、同じく
政府機関でございまするから、どうかして監督を強化したいということかもしれませんが、しかし、他方、
労働組合の側から見ましたならば、
団体交渉の相手方である
公社の
自主性がない、十分な権限がないということは、交渉しても無
意味なものを相手とすることにならざるを得ないのでございます。すなわち、
政府としては、あたかも
公社の監督を強化するがごときゼスチュアによって、その実、
ほんとうのねらいは、
団体交渉に大きな
ワクをかけ、
制約することをねらっておるものであると思うのであります。これは、
公労法の最も重要な
内容である
団体交渉という基本条件に制限を加え、その精神をじゅうりんする結果を招来するものであります。公労第一条第一項は、「この法律は、
公共企業体及び国の経営する
企業体の職員の労働条件に関する苦情又は紛争の友好的且つ平和的調整を図るように
団体交渉の慣行と手続とを確立することによって、
公共企業体及び国の経営する
企業の正常な運営を最大限に確保し、もって公共の福祉を増進し、擁護することを目的とする」と明らかに規定されております。これによって、職員の労働条件等に関しまする紛争は、当局と労働者の自主的な
団体交渉を要求し、よき労働慣行を確立し、従来当局と組合側によって正常に運営されてきたと言えるのであります。しかるに、今回の補正
予算総則の変更は、
公労法の根本精神である
労使間の自主的な
団体交渉に
大蔵大臣が積極的な干渉を加え、
公社の
自主性を拘束し、これを侵し、さらには、せっかく従来の
労使間で結んできた協定なり協約を否認する危険性を含んでおるものであり、現に本
補正予算案に現われてきておる事実を見ましても明瞭であります。かくのごとく、各
公社法または
現業における職員
給与に関する特例法並びに財政法に違反し、特に労働基本権まで侵害するこの
予算総則の変更には強く反対するものであります。
第二の反対
理由は、本
補正予算は
仲裁裁定の不完全実施であり、かつ、従来合法的に取得した既得権の剥奪であるからであります。すなわち、
仲裁裁定主文第一項には、「
昭和三十二年四月以降の
基準内賃金は、
昭和三十二年度
基準内予算単価について千二百円を増額した金額の範囲内で
労使協議の上決定実施すること」と規定されております。
裁定を尊重し実施するならば、
政府は、当然
裁定に必要な経費
総額を
補正予算に組み、
国会に提出すべき義務と責任が存すると思われるのであります。しかしながら、提出された本
補正予算案では、
仲裁裁定第一項に示された金額、すなわち一千二百円の中から、第一項
確定分六百円及び
予算単価と
実行単価の格差五百二十円の中から三分の一の百八十円が差し引かれておるのであります。第一項
確定の六百円は、
給与総額内より支出されていたものではないことは審議の過程で明らかとなった
通りであります。しかるに、
補正予算によりますると、この六百円を
給与総額から差し引き、さらに
予算単価と
実行単価の格差五百二十円から百八十円を差し引くという
措置をとっておるのであります。格差五百二十円は、
公共企業体調停委員会が
昭和二十九年十一月二十四日にあっせん案を出し、それに基く団交の結果、
昭和三十年十月十五日に
昭和二十九年
賃金改訂に関するあっせん案
処理に関する協定が結ばれました。これが三百十円であります。さらに、
昭和三十年新
賃金要求に対する
調停案、国鉄について申しますと、三十一年二月二十九日
調停案二十六号の
主文四によって出ましたもの、これが三十一年六月に昇給実施に関する協定となり、金額は二百十円であり、合計いたしまして、五百二十円となるわけであります。すなわち、いずれも
公労法に基いた成規の手続により実施されていたものであります。しかるがゆえに、
藤林仲裁委員長も、
国会における答弁で、今回の
裁定の千二百円の中には
予算単価と
実行単価の格差は含んでいないこと、及び格差の縮小は将来の問題として合理的に
措置さるべきものであること、並びに将来とは文字
通り将来であって、今回の
予算措置のことではないという点が明らかにされました。すなわち、当然この五百二十円の中から百八十円を差し引くということは、
裁定の
趣旨に反することはもちろんであり、
政府のいうところの完全実施とは程遠いものといわざるを得ないのであります。また、
裁定の
主文にも明らかな
通り、一千二百円の範囲内で
労使協議すべきものであり、特に問題となっておりまする格差については、
団体交渉によって
解決をはかるべきものであります。しかしながら、わが党の再三の要求、要請にもかかわらず、
政府は、全く一方的、独断的にこれらを差し引くという
措置をとりました。これは、ひとり
裁定の不完全実施にとどまらず、合法的に取得しておりました労働者の権利を剥奪することであり、
仲裁裁定の実施は、
労使の正しい慣行の樹立に逆行し、紛争の芽を後日に残すものであり、わが党として断じて承認し得ざることであり、強く反対する第二の
理由で剛あります。
第三の反対
理由といたしまして、
裁定の不完全実施による生活権の抑圧と労働行政の反動性であります。
公社企業体の
労使紛争のうち、従来七回の
仲裁裁定と、これに
関連して一度の
調停がなされておりますが、遺憾ながら完全な実施はなされておりません。その中でも、
昭和二十四年十二月二日の
仲裁裁定は、今なお最高裁で係争中のものであります。他はほとんど
公労法第十六条を悪用して、保守
政府は
政府の義務行為を果しておりません。
国会承認に当っても、
政府与党の多数の横暴をもって不当な不完全実施をしておるのであります。今回の
仲裁裁定も、同様
補正予算の
内容は今
指摘いたしましたように不誠意きわまるものであり、不完全実施でありながら、岸
総理みずから
仲裁裁定を尊重し、誠意をもって履行いたしましたと空々しく答弁するに至っては、わが党に対する許しがたい不信行為であるばかりでなく、まさに労働者を欺き、国民を欺く行為であり、断じて許容することのできないところであります。(拍手)
仲裁裁定は
公労法の中で申しますならば最後の段階でございます。労働者の民主主義社会における地位と生活権は、それが団結権と
団体交渉権と団体行動権のその三つの基本権によって維持されておることは、ひとしく日本国憲法の宣言に明確であります。それを
公共企業体であるからとして罷業権に
制約を加えたのは、
仲裁裁定並びに
調停あっせんの段階を高く権威を持たせ、
団体交渉において
民間のそれと異なる合理的な運営を期待しておるところに
公労法を貫く
一つの厳然たる方針があるのであります。それにもかかわらず、政治権力を持ち、
予算権を持つ
政府が対等の立場における
労使の
団体交渉に干渉がましい圧力を加える第一歩を踏み出したこの
予算は、権力によって労働者を屈従せしめ、口に民主主義を唱えつつ民主主義の基本的な条件をなし崩しに破壊していこうとする、この恐るべき傾向は労働者を低
賃金に押え、生活権を抑圧せんとする
政府の陰謀であって、この
補正予算の中に現われている
一つの最も大きな流れであります。岸内閣労働行政の露骨なる反動性であることを強く
指摘して反対の第三の
理由といたします。
最後に一言付け加えたいことは、今回の
賃金引き上げ要求に
関連して、三
公社五
現業の
労働組合と当局間に紛争が重大化して来ましたその根本原因は、本
委員会においてわが党同僚議員の追及の結果、明らかにされました
通り、岸
総理大臣及び所管大臣の一貫した反動的な労働行政によって、政治権力を介入し、
労働組合活動を、威嚇と弾圧に終始し、
仲裁裁定の不完全履行、特に一千名に近い未曽有の不当処分の大弾圧をなし、団結権を侵害する憲法違反をあえてする暴挙の結果でありまして、その責任はすべて岸内閣にあることをここに明確にいたし、深き反省を要望いたしまして反対討論を終ります。(拍手)