○永岡光治君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となわました仲裁裁定に関する
昭和三十二
年度特別会計
予算補正(特第2号)及び
昭和三十二
年度政府関係機関
予算補正(機第1号)に対し、反対
討論を行わんとするものであります。(
拍手)
去る三月十五日夜、鈴木・岸会談におきまして、今次仲裁裁定は、
政府においてこれを完全に
実施するよう
措置するということを約束をいたしたのであります。それにもかかわらず、岸
内閣の
提出されましたこの補正
予算案は、裁定の不完全
実施を
内容とするものでありまして、われわれの断じて承認することのできないものであります。同時に、今次調停ないしは仲裁裁定の取扱いに関する
政府の不誠意きわまりない態度に対しまして、抗議のためにとられました関係労組の団体行動に対してとられた解雇を初めといたしまする約九百名に及ぶところの大量処分は、これまた鈴木・岸会談の公約に反する
政府の一方的な不当処分でありまして、岸
内閣の反動性をみずから暴露したものとして、われわれの断じて許すことのできないものであることを、まず冒頭に明確にいたしまして、
討論を進めたいと思うものであります。(
拍手)
そもそも三
公社五現業の職員に対する給与改訂は、国家公務員同様、
昭和二十九年以来ほとんど見るべきものがないのでありまして、
政府が言うごとく、神武以来の好況という昨今のこの状況にもかかわりまぜず、これら労働者
諸君の生活はかえって苦しくなって参ったのであります。従いまして、生活権擁護の立場から、これら労働
組合の
諸君が、月額二千円のベース・アップを
要求いたしまして立ち上ったことは、理の当然と言わなければならぬのであります。しかるに、
政府及び
公社当局は、誠意をもってこれが解決に努力をすることを怠りまして、ベース改訂の
要求が出ますや間もなく、
政府におきましては、
公社当局におきましても、調停
委員会にその解決を移しまして、責任の回避の態度に出て参ったのであります。調停
委員会は、去る三月九日、三
公社五現業の間に若干の相違はありましたが、大体におきまして月額千二百円の給与改訂を行うべきである、こういう調停案が労使双方に提示されたのであります。もとよりこの調停案の
内容には、労使双方月額千二百円をもって円満に解決をいたしなさい、こういうことが明確にうたわれておるのであります。従いまして、
組合側におきましては、調停案を検討の結果、この調停案には、多くの不満なところがあるのでありますけれども、この際、忍びがたきを忍びましてこれを受諾するという、きわめて譲歩した態度に出て参ったのであります。わが党もまた、その態度を支持いたしまして、
政府及び
公社当局に対しまして、すみやかに調停案を受諾し、
予算措置を講ずるように強く申し入れて参ったのであります。しかるに
政府は、この調停案は、文書による
理由書をつけてない、口頭
理由では納得できないというのであります。文書に書かなければ、それが
理由になっていないという言いがかりをつけて参りました。同時に、三
公社五現業に対しまして、大体において千二百円の金額、それは一律であるから、
企業の
内容において相違するから、一律に提示されるということについては、ふに落ちない、こういう二つの
理由で受諾を拒否して参りました。しかして、仲裁
委員会の裁定に待つという態度に相なったわけであります。
こうして、
政府みずからが紛争を拡大させるという不幸な結果に相なったのでありまするが、この間わが党は、紛争の円満なる解決をはかるために、再三再四にわたりまして、
政府及び
公社当局に対しまして善処を要望いたしまして、ついには、三月十六日の国鉄を中心にいたしますところの紛争を回避するために、鈴木・岸会談にまで
発展いたさしたのであります。しかして、仲裁裁定は完全に
実施するように
措置をする、こういうことと、処分は慎重に取り扱うと、こういう二つの公約を取りつけることによりまして、十六日の事態は一応収拾することができたのであります。
この際、この問題に関連いたしまして明らかにしなければなりませんのは、今次の不当な大量処分についてであります。前に述べましたような事情で、岸総理との間に、処分は慎重に取り扱うという公約がなされておったにもかかわらず、国鉄の二十八名の首切りを初めといたしまして、停職、減俸、戒告等々約九百名に及ぶところの大量処分を行うということは、一体何事でございますか。
政府みずからが調停について誠意を示さず、
政府みずからが紛争を拡大しておいて、みずからの責任ばたなに上げ、しかも、処分をいやがる
公社当局に対しまして、
政府がこれに政治介入をして参りましたことは、歴然たる事実があるものと考えるのであります。すなわち、処分の数のワクをきめまして、これを
公社当局に押しつけて参りましたがために、それぞれの機関におきましては、そのワク内に当てはまるリストを作ることに大わらわであった形跡が濃厚であります。明らかに
政府がこの不当なる処分に対しまして、政治介入をした事実が濃厚と断ぜざるを得ないのであります。このような労働運動弾圧政策でありましては、われわれは断じて許すことができないのであります。処分という恐喝をもって労働運動を押えようとするがごとき労働政策では、正常の労働慣行は決して芽ばえてきもしないのでありますし、また、育ちもしないのであ冷ます。岸
内閣には欠けたものが数々ございまするが、中でも労働政策に至っては、もはや国の内外を通じての周知の事実に相なっておる次第であります。猛省を促すゆえんでございます。
さて、こうして三
公社五現業の間に、それぞれ異なった仲裁裁定の金額が提示されることを
政府は期待いたしまして、かつ、努力をいたしましたにかかわらず、四月九日の仲裁
委員会より提示されました裁定は、さきの調停案同様、すべて月額千二百万円のベース・アップをしろという
内容であったわけであります。そこで、面目丸つぶれの
政府は、たまたま裁定の文書の中に、給与の実行単極と
予算単価は、将来これを解消するようにしなさいという要望の字句が書かれておったのに言いがかりをつけまして、給与の実行単価はやみ給与であるから、この際認めないという建前に立ちまして、
昭和二十九年ないし
昭和三十
年度に労使双方において協約によって決定を見ましたところの給与改訂額の三分の一を、裁定額の千二百円より減額をいたしまして、この補正
予算案の
提出をして参ったのであります。この
予算案は、従いまして仲裁裁定を完全に
実施をしておるものではございません。これが私たちが、この
予算案に反対する第一の
理由であるわけであります。
政府は、給与の過去の分をやみ給与ということで宣伝をいたしておりますが、労使双方の団体交渉が長引いて、給与改訂の協約の調印が真夜中に及んだから、これをやみ給与というのであるならば、これは別でありますが、公労法に指示するところに従いまして、団体交渉の結果によりまして妥結をいたしまして、しかも、労使相互間に協約調印をされました
協定の給与が、何でやみでありましょうか、断じてやみではないのであります。しかも、労働大臣や、運輸大臣が、みずから
予算委員会において認めておりますように、この過去の給与については、労使双方には問題はないと言っておるのであります。
公社当局と大蔵当局に責任がある、こういうことを言っております。その通りだと思うのであります。従いまして、過去の労使間の
協定給与については、今日まで
予算化していなかった責任は、あげて大蔵当局にあると言わねばならないのであります。従いまして、
政府当局の職務怠慢こそ、この際徹底的に追及をされなければならない問題と考えておる次第でございます。(
拍手)ところが
政府は、みずからの責任をたなに上げまして実行給与をやみ給与として取り扱うことは、これは私たちとして断じて承認することができない問題であるわけであります。裁定に言うところの給与の実行単価と、それから
予算単価を解消するという
方法につきましても、団体交渉によって妥結を見た実行給与をそのままにしておいて、
予算単価を引き上げて近づけるというのが、これが筋であるわけであります。ところが
政府の方は、すでにきまって実際払われているその給与額を引き下げて
予算単価に近づけるという、こういう無謀なる態度に出てきたことは、これまた公労法の精神に反すると言わなければならぬのであります。従いまして、現在実行されております実行給与に、裁定額の千二百円をそっくり積み重ねて、そういう
予算を組むのが当然であると考えられるにもかかわらず、過去の改訂分の三分の一を減額するがごときは、全くみみっちい不当なる補正
予算案と断ぜざるを得ないし、私たちの絶対に承認できないものであります。
政府は、本
予算案は裁定を完全に
実施するものと独断いたしたようでありますけれども、
政府の照会に対する藤林仲裁
委員長の回答、あるいはまた、
予算委員会における藤林
委員長の答弁にも明らかなように、
政府みずからがこれを照会いたしまして、
予算委員会でも、これが完全に
実施されたのか、完全に
実施していないと、はっきり答弁いたしておる事実を見ましても、完全に
実施したものとは考えられない
予算案と見なければならぬのであります。なお、
政府が期待しておりましたその仲裁
委員会の答弁も、この前の
予算委員会で岸総理も答弁をいたしておりましたが、相当尊重した、こういう答弁であります。相当は、どこまでも相当でありまして、相当の意味するものは、ある部分でありまして、完全を意味するものではないのであります。従いまして、過去の給与改訂分の減額も、将来かりに
政府が考慮することがあったといたしましても、この際この減額を行うべきでは断じてないのであります。このような
政府の
予算措置は、仲裁裁定を完全に
実施することを怠った独善的、一方的不当
措置と言わなければなりません。
それから反対の第二の
理由は、
政府の
予算案は、きわめてずさんなものであって、信頼のできないものであるということであります。すなわち、
昭和三十二
年度予算案は、去る三月三十一日に成立を見たばかりでございます。にもかかわらず、成立の日より数日を出ずいたしまして、仲裁裁定、これを行う所要額は約百九十億に及ぶのでありますが、その
予算の成立をされました
予算費目の中から組みかえられて、それぞれ
措置をされておるということであります。三十二
年度の
予算案は、そのようなずさんきわまるものであることを証明いたしておることにほかならないのであります。わが日本社会党は、この三十二
年度予算案に反対をいたしましたが、これに
賛成をいたしました
諸君は、どう考えるのでありますか、まさに
政府に一ぱい食わされたと考えなければなりません。あいた口がふさがらないというのは、このことを指すものと思うのであります。しかも、これを国鉄の場合に例をとって見ますならば、裁定の
実施に必要な財源は九十億であります。その中の三十六億は三十二
年度、先般の三月三十一日に成立をいたしましたその給与
予算の総額の中から捻出をすることになっております。国鉄の財源がないということで運賃値上げまで
実施をしながら、しかも三月三十一日に成立したばかりの給与総額内に、三十六億という余裕財源があるという、この三十二
年度の
予算案は、まことにずさんきわまりないものと断じても差しつかえないのであります。(
拍手)このような国会を侮辱するもはなはだしい岸
内閣の
予算案は、絶対に承認することができません。三十二
年度予算案に
賛成した
諸君も、再びこの補正
予算案に
賛成することはよもやないと思うのでありまするけれども、わが日本社会党は、この不正きわまる
予算案に対しまして、三十二
年度の本
予算を含めまして、もっとまじめな、了解できる
予算を、信頼の置ける
予算を再
提出をするよう
要求してやまないものであります。(
拍手)
反対の第三の
理由は、第一の反対の
理由の中にも述べましたけれども、
政府は、過去の労使双方の協約に基く給与改訂分のうち、その三分の一を減額をいたしまして、三分の二をさしむき認めるということになっているのでありますが、その三分の二の相当額の給与
予算を
基準内給与
予算額に計上していないという
政府の自己矛盾をこの際指摘しておきたいと思うのであります。
政府の言う、やみ給与を認めないというのであれば、この際補正
予算において、前述の三分の二の相当額の
基準内
予算の増額を行うのが、私は最も妥当だと考えなければならぬと思うのであります。しかも実行単価と
予算単価を一致させることに
政府は努力するというのでありまするから、この際、なぜその三分の二の認めたところの
予算を
基準内
予算の中に増額計上しないのでありましょう。これこそ自己矛盾もはなはだしいのであります。(「してあるよ」と呼ぶ者あり)してあるという
諸君がありますが、これは一部であります。一部であり、全部ではないのであります。いかに不勉強であるか、これをもっても明確であるわけでございますが、こういう状況に相なっておるので、私たちは絶対に承認することができないのであります。
反対の第四の
理由は、
予算総則の第十六条の
改正でありますが、この
改正は、公労法の精神に反するものでありまして、実際問題としても労使の紛争解決には役に立たず、むしろ支障になるという点であるわけであります。従来は、
予算総則におきまして、
基準内、
基準外を合わせまして一本の給与総額として、
運用の妙味を発揮して参ったのでありますが、今回これを改悪いたしまして、給与
予算を
基準内と
基準外とに分けまして、流用を必要とする場合には、たとえばこれを国鉄の場合に例をとって申し上げますならば、運輸大臣と大蔵大臣とが協議をいたしまして、その協議を経て運輸大臣が承認をする、国鉄当局から出されましたそれを承認する、そういうことで初めて流用ができるということに
改正をされているのであります。これでは紛争の解決を遷延せしめるばかりでありまして、ほとんど解決は困難になるといっても、私は従来の実績から申し上げまして、言い過ぎではないと思うのであります。国鉄、電電等を
公社にいたしました意図は、やはり
企業体といたしまして効率的な
運営をはかるにあったはずでありまして、
公社当局の自主的かつ適切な
企業の
運営に期待する方が望ましいのでありまして、
企業の
運営の実情に適するごとき労働
条件を決定するに当りまして、
政府は一々干渉がましいことを介入して参るということは、決して策を得たものではございません。
政府の企図は、労使双方の団交に大きな制限を加えるものでありまして、公企労法の精神にも反するので、紛争解決を困難ならしめる、このような
政府改正案に対しましては、これまた絶対に承認することのできないものであるわけであります。
最後に、公労法のこれまでの
運用の経験に徴しまして、われわれはこの際、三
公社五現業の
諸君に対しましてはもとより、
一般公務員に対しましても、罷業権を復活さすべきことを強く主張するものであります。罷業権を奪えば労働
組合は何もできないのだ、騒げば首切りをもって臨めば万事片づくという考え方で、公企労法の上にあぐらをかいだ
政府の態度が、実は真剣に労働問題に取り組むことから逃避いたしまして、結局は紛争の解決を困難にならしめておるのでありまして、これはだれもが認めるのでありまして、これこそが、今度の紛争を通じまして、私たちがいやというほど味わわされました尊い体験であるわけであります。三
公社五現業の
諸君に、民間同様、罷業権がもし与えられておったといたしましたならば、
政府、
公社当局は、果してこのようなのんべんだらりとした怠慢な態度であるはずはないのであります。もっともっと真剣に、この問題の解決に私は取り組んだものと考えるものであります。
組合もまた、予告なしに実力行使に突入せざるを得ないような、そういうところまで追い込まれずに済んだと私は考えるものであります。罷業権を与えた中で、労使双方がよりよき労働慣行を作り上げて行くべきだ、これは今次仲裁裁定をめぐっての尊い教訓であったと思うのであります。今朝来、新聞紙上に報道されるところによりますると、
政府は近く公企労法を改悪いたしまして、いよいよ労働運動に弾圧を加えようという改悪の方向が打ち出されつつあるわけでありますが、これこそ、明らかに憲法で保障されておりまする団体行動権、団体交渉権、団結権の否認を意味するものでありまして、この際、この紛争をめぐって得ました尊い経験に基きまして、これを無意味に終らせることなん、三
公社五現業あるいは公務員等につきましても、罷業権を復活させるよう、次期国会に
提案されんことを強く要望いたしまして、私の反対
討論を終るものであります。(
拍手)