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1957-02-04 第26回国会 参議院 本会議 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年二月四日(月曜日)    午後三時十八分開議     ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第二号   昭和三十二年二月四日    午後三時開議  第一 国務大臣演説に関する件。     ━━━━━━━━━━━━━
  2. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。      ——————————
  3. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) これより本日の会議を開きます。  この際、お諮りいたします。海外旅行ため斎藤昇君から二十六日間、小西英雄君から九日間、秋山長造君から十五日間、それぞれ請暇の申し出がございました。いずれもこれを許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 御異議ないと認めます。よっていずれも許可することに決しました。      ——————————
  5. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 日程第一、国務大臣演説に関する件。  岸内閣総理大臣臨時代理から施政方針に関し、岸外務大臣から外交に関し、池田大蔵大臣から財政に関し、宇田国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。岸内閣総理大臣臨時代理。    〔国務大臣岸信介登壇拍手
  6. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 石橋内閣総理大臣には、さき内閣首班の重責につき、本国会に臨んで、親しく諸君施政方針を述べるはずであ七ましたが、去る一月二十五日から風邪のため就床し、主治医の診断によれば、今後なお約三週間の静養を要するとのことであります。このような次第により、国政全般に、かりそめにも遅滞の生ずることのないようにするため石橋総理の病気引きこもり中、不肖私が、内閣総理大臣臨時代理の職務を行うこととなったのであります。私は、この間全力を尽して私に与えられた重大な職責を全ういたしたい決意であります。  ここに、第二十六回国会に臨み、石橋内閣施政方針を申し述べることといたします。  二大政党による国会運営が、真に国民の期待に沿い、国民の信を一そう高めるためにとるべき方途は、一、二にとどまりませんが、その中でも、特に、自由民主党及び日本社会党の両党が、外交を初め、国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り、おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合せるべきことについては相互協力を惜しまず、世界の進運に伍して行くようにしなければならないと思うのであります。国会国民が寄せる信頼は、民主主義の基であります。これにいささかなりともゆるぎがあってはなりません。そのためには、個人としてはもとより、公党の立場においても、清廉はつらつの気風をふるい起し、常に国家の永遠の運命に思いをいたし、地方的利害国民の一部の思惑に偏することなく、国民全体の福祉をのみ念じて国政方向を定め、論議を尽していくように努めたいのであります。政府といたしましては、国会運営正常化に極力協力するとともに、官公庁が国民ため奉仕機関としての実を十分に発揮し得るよう、その業務の運営について、すみやかに検討を加えて行政能率化をはかるとともに、行政監察を一段と強化したい考えであります。  このようにして、政界と官界がよくその使命とすべき職分を全うし、綱紀の刷新を行うことが、今日における政治について心をいたすべき根本であると私は信じております。  新内閣は、まず改むべきは政治であり、政府であるという見地から、政府部内を成しめるとともに、進んで新しい局面に対処する積極的な政策を推進し、国民がはっきりと希望を持ち得る政治を行いたいと考えているのであります。  まず、眼を国際政局に向けますと、昨年は世界政治の上に重大事件が相次ぎ、特に東欧の新事態とスエズをめぐる中近東の動乱によって、世界緊張緩和趨勢は、一頓挫し、その結果、国際政局は著しく変転し、その前途は多難と思われるのであります。このときに当り、さきソヴィエト連邦との間に国交を回復することによって、東西外交のとびらを開き、全世界の注視と祝福のうちに国際連合加盟したわが国は、きわめて重要な地位を占めるとともに、これに伴う重い責任を負うに至ったのであります。私は、この機会に、国際連合べの加盟が、国民多年の念願であったことを想起し、戦後多難な歳月をよく耐えてきた全国民のたゆまない努力と、友邦諸国のなみなみならぬ支援に対し、深い敬意を払うものであります。われわれ日本国民は、この重要な地位責任にふさわしい力を、物心両面にわたって、養わなければなりません。終戦以来、ともすればありがちな他力依存思想を一掃し、独立自主自力更生思想をふるい起し国力増進をはからねばなりません。今後わが国は、国際連合中心として、世界の平和と繁栄に貢献することを、わが外交基本方針とすべきものと思います。もとより、わが国は、民主主義国家として発展することを国是としており、従ってわが国外交政策基盤は、民主主義諸国との協調を積極的に実現することにありますが、たまたま、日米両国において、時を同じうして新しい政府が成立したことにもかんがみ、米国との間の相互理解協力を一そう推進して行くよう、特に考慮を払いたいと考えておるのであります。また、アジア諸国とは賠償その他の諸懸案解決経済文化などの面における協力増進に努めることによって、これらの国々との善隣友好を深め、互助発展を期したいのであります。  さらに、私は、国際経済の面において、国民各位の不断の努力により、わが国地位向上しつつある現状を喜ぶとともに、政府としても、さらに国際競争上不利な障害を除き、通商その他の面において、わが経済力がますますその実力を伸張できるよう、経済外交強化し、適切な措置をとる決心であります。  次ぎに、わが国経済は、生産貿易などの分野において、近来著しく発展してきましたが、この際、さらに生活水準向上完全雇用を目ざし、あくまでもインフレを防ぎつつ、産業活動国民生活全般にわたって、均衡のとれた発展促進することが必要であります。昭和三十二年度予算の編成に当っては、財政健全性確保しつつ、財政の役割を積極的に果し得るよう、重要施策を重点的に推進いたしたいと考えております。予算案に盛り込んだ重要施策の詳細については、関係閣僚演説に譲り、私は、そのおもなものについて、簡単に述べることにいたします。  まず第一は、産業基盤確立貿易拡大についてであります。わが国産業対外競争力は、欧米諸国に比べ、いまだかなり遜色がありますので、産業設備近代化生産体制整備労働生産性向上などによって産業近代化をさらに徹底的に行うとともに、道路港湾輸送機関など産業関連施設増強する方針であります。ここ数年来、わが国輸出は、きわめて好調に推移しておりますが、これは、海外経済好況に負うところが多いので、今後、激動する世界情勢のもとにおいては、輸出振興について、なお、特段の配慮を要すると考えます。このため政府は、海外市場積極的開拓輸出取引秩序確立東南アジアや中南米などに対する海外投資技術協力促進などに努力を払う方針であります。また、このことと並んで、産業技術の革新と向上が、輸出振興上もきわめて重要であることにかんがみ、新技術の研究、その成果の活用、普及などに関し、総合的な施策を実施したいと考えております。  第二は、農林漁業中小企業対策についてであります。  食糧自給度を高めるとともに、食糧需給調整総合的見地から一そう円滑にすることは、わが国農政基本問題でありますので、政府は、これが対策について諸般措置を講じておるのでありますが、その一つとして、食糧管理合理化に努める所存であります。また、農産物生産基盤である土地条件整備計画的に推し進め、青年層中心とする自主的な活動にまる新農山漁村建設事業振興をはかるよう、極力援助いたす考えであります。さらに、寒冷地帯に対しては、有畜経営農業機械化促進など、適切な対策を講じて行くようにいたしておるのであります。また、わが国経済好況の波は、ようやく中小企業にも及びつつありますが、中小企業については、なお、解決を要する多くの問題があります。このため、金融を円滑にし、その組織をさらに強化して、その経済的地位向上をはかるとともに、輸出産業中心とする設備近代化技術向上経営の改善などを助成する方針であります、  第三は、国民生活の安定についてであります。  国民生活を安定させ、福祉国家を築き上げることは、政府の最も意を用いているところであります。その具体的な方策としましては、まず一千億円を上回る減税を断行し、国民税負担を軽くしたことであります。また、住宅が、現在なお相当不足しておるので、明年度におきましては、民間自力によって建設されるものも含め、約五十万戸を建設することを目標といたしております。なお、国民生活の環境を改善整備し、この面においても、明るい国民生活実現を期したいと考えているのであります。  次に、社会保障制度整備拡充については、種々施策を講じて行く所存でありますが、まず、社会保障制度の中核である医療保障制度確立するため、できるだけ早く、すべての国民社会保険に加入できるよう、必要な措置を進めるとともに、国民生活の上に大きな脅威となっている結核に対して、その予防措置強化し、結核を撲滅するよう努めたいのであります。また、老齢者母子世帯福祉向上をはかるため、さしあたり、明年度において、年金制度の創設を準備することとし、社会保障制度拡充に、大きく新生面を打ち出すこととしたのであります。また、近時国民生活水準の著しい向上にもかかわらず、これに足並みを合せることのできない低所得者階層に対しまして、新たに、医療費貸付制度を設けるなどにより、これら階層に属する人々の防貧更生施策強化いたしたのであります。また、このことと並んで、多年の懸案で凝った在外財産問題につきましては、引揚者の現状にかんがみ、在外財産問題審議会答申尊重して、この問題の処理をはかるようにいたしたいのであります。  次に、雇用問題につきましては、経済の活況により、就業者の数は増加し、一方離職者の数は減少するなど、相当好転してきたのでありますが、なお、多数の不完全就業者が存在し、一方において、年々新たに就職を必要とする労働力人口が増すなど、今後において解決を要する問題が多いのであります。しかし、この余った労働力こそは、わが国経済発展の余力を示すものでありますから、政府は、この労働力が十二分に発揮できるよう、雇用の増大、やさしく申せば、仕事をふやすことに、政策中心を置く方針であります。なお、以上の雇用拡大方策をとるほか、当面の情勢に対処するためには、公共事業拡充するとともに、失業対策事業充実し、失業者雇用吸収に万全を期したい所存であります。  最後に、右以外の重要事項について述べたいと存じます。  現在経済発展の隘路である運輸交通につきましては、その総合的な整備拡充方途を講じたい考えであります。これがためには国鉄運賃の改訂を行い、鉄道輸送力増強をはかることといたしましたほか、高速自動車道路建設促進港湾整備航空路網増強通信施設拡充などに着手することとし、一面頻発する水害を根本的に防ぎ、国土保全の万全を期し、電源の開発、北海道、東北地方振興を行うなど、産業基盤整備立場からも、特段考慮を払って行きたいと考えているのであります。  次に、独立国家民族的支柱であり、国民活動精神的源泉である教育の充実をはかり、科学の振興国民道義確立を期し、文教の刷新を講ずべきことを、特に強調したいのであります。  最近の治安情勢につきましては、特に著しい変化は見られませんが、わが国内外情勢にかんがみ、今後国内における反民主主義活動動向は、必ずしも楽観を許さないものがあります。民主主義擁護根本方針にのっとり、治安維持に万全を期したいと存じます。  また、国土防衛につきましては、わが国立場から考えわが国国力と国情に応ずる防衛力整備する方針を堅持することとし、防衛力の当面の整備に当っては、日米共同防衛の建前を基礎としながらも、世界趨勢にかんがみ、量よりも質に重点を置き、自衛隊の装備の充実をはかることとしたのであります。  次に、地方行財政につきましては、地方財政健全化を推進しつつ行政水準確保につとめ、住民福祉向上をはかりたいと存じます。また、新市町村の建設の助成を強化するとともに、府県制度など地方制度全般についても、地方制度調査会答申を待って、根本的な改革を検討いたしたいと考えております。  以上、当面の重要施策について決意を述べたのでありますが、この機会に、私は、国民各位、とりわけわが国の将来をになう青年諸君が、自主独立精神に燃え、世界平和の旗手として、新日本建設せんとする決意を深められるよう切望いたしたいのであります。自立の思想は、模放と雷同によってはっちかわれず、実にみずからの探求においてのみ得られるものであります。このため、今後、私は、いろいろの機関を通じ、青年諸君はもとより、広く各層の国民各位と接触し、国民の声を聞き、同時に、私どもの考えているところも率直に申し上げ、国民とともにある明るい政治を築くようにしたいと念願しておる次第であります。(拍手)     —————————————
  7. 松野鶴平

  8. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 第二十六回国会に臨んで、ここに外交問題に関する政府所信を明らかにしたいと思います。  私はまず第一に、外交に関する私の信念を率直に申し述べます。  私は一国の政治外交とは表裏一体となって動くものでなければならぬと確信しております。世界情勢を無視した国内政治があってはならないと同様に、国内政治的現実を無視した外交もあってはならないのであります。強力な政治力と、国民的理解益によって、ささえられない外交は無力であります。また、経済外交文化外交にしましても、国内経済政策文化政策と調和したものでない限り、無意味なものとなるのであります。このような意味において、私は政治外交の一体化をはかることをもって、私の責任考えておる次第であります。従って、私は、一方において、国民的要望は、外国に対して、これを堂々と主張する所存でありますが、同時に、国民各位に対しても、日本の置かれている国際的立場を率直に、かつ明確に申し述べてその理解を得たいと思っております。かくして、国民国民とをつなぐ国民外交を行うことをもって、私の抱負としているのであります。要するに内に対しても、外に対しても、誠意をもって、率直に所信表明する考えであります。けだしそれが、国際間の相互理解をもたらすゆえんと信ずるからであります。  私は、以上申し述べた心がまえのもとに、今後わが国外交の衝に当る所存でありますので、この点まず御了解を得たいのであります。  次に、わが国外交基礎条件たる世界の大勢を見まするに、中近東及び東欧における最近の事件によって、世界は再び緊張の度を加えたことは否定できない事実であります。これら事件が及ぼした影響はまことに大なるものがありまして、東西両陣営とも目下その態勢建直しため、おのおの整備工作に力を入れておるのが実情であります。しかしながら、世界情勢の先き行きを展望いたしまするに、今後ともなお幾多の波乱は免れぬでありましょうが、もはや、かつてのような先鋭化した冷戦べの復帰はまずあり得ないと思われます。けだしソ連といえども、一たん自由化した政策動向を国の内外において、全面的に逆転するようなことはとうていできないと思われるからであります。この見地からすれば、世界情勢の底を流れる主流は依然、緊張緩和、すなわち雪解け方向に進みっつあると見るべきでありましょう。しかしながら、雪解けの時期はえてなだれの危険を伴うのであります。この意味において私は、今日は国際情勢前途に対し、あえて悲観する必要はありませんけれども、また、厳重な警戒を、ゆるめてはならぬ時期であると心得ております。  かかる時期に際し、わが国が先般ソ連との国交を回復して、東西の双方に対し窓を開くとともに、満場一致により、待望の国際連合加盟実現し、もっていよいよ活発な国際活動をなし得るに至ったことは、その意義まことに浅からぬものがあります。今後のわが国外交は、まさに、国連尊重と民主自由諸国家との協調を車の両輪として、運用せられるべきであります。すなわち、みずから国連憲章の条章を忠実に順守すべきはもちろん、常時国連権威向上と、国連を通じての世界平和の確保ため、応分の寄与をなす心がまえが必要であります。  さらに、この際明確に申し述べておきたいことはわが国国是民主的平和国家としての存立にある以上、わが国外交基調を、自由民主諸国との、緊密な協調関係に置くことが、わが国家の究極的な利益に合致するということでありまして、この点について、わが国のとるべき態度はきわめて明白であります。  以上のごとく、国連尊重と、自由民主諸国との協力外交基礎とするわが国としては、今後この立場に立って、世界の諸問題に関し、積極的かつ建設的な意見表明を行うことを期するものであります。このことはすなわち、国際平和に寄与せんとする、積極的な平和外交にほかならぬと信ずるのであります。わが国国連加盟に伴い、国際連合という世界共通の広場を通じて、新たな発言機会を与えられたのであります。しかして、原水爆実験禁止実現への第一歩として、すでに、実験事前登録制の構想を沢田代表をして提案せしめ、国連総会において多大の支持を得たことは御承知の通りであります。しかして、かかる建設的意見表明は、国連内外を問わず、今後積極的に行いたいと考えているものであります。  ハンガリー問題につきましては、私の前任者であり、かつ輝かしき外交経歴を持たれた今はなき重光葵君が、国連総会におけるわが国加盟演説において、自由を求めるハンガリー国民の窮状に対し、日本国民の深い同情の意を表明いたしました。私もまた同じく心からの同情を寄せるとともに、ハンガリー問題に関する国連の決議を強く支持するものであります。  スエズ問題につきましては、わが国は一方において海運国として、他の運河利用国と同様の利害関係に立っておりますが、同時にエジプトの民族主義と、経済問題についても、理解同情を持つものであります。国連による多大の努力と、関係国の自制によって、この地域事態が一応平静化した今日、さき国連によって採択された六原則、これに基き、本件の根本的解決がはかられることを望むものであります。なお、東欧中近東事件を通じ、米国が終始一貫して武力行使を排し、国連中心主義を堅持して事態の収拾に当ったことは、国連権威を高からしめたものでありまして、世界平和維持ため、その意義まことに深いものがあると存じます。  アメリカ合衆国との関係については、わが国ソ連との国交回復の結果、日米関係が冷却化するのではないかといろ危惧を抱く向きもありますが、私はこうした危惧の必要はないものと断言します。政府は、米国との協力わが国外交基調とするものであります。けだし、日米両国間には、政治経済防衛等の各面において、利害目標とが木さく一致しているからであります。しかしながら、日米関係現状を検討するとき、これをさらに合理的にして、かつ永続性ある友好関係とするためには、なすべき幾多のものが残されていることを感ずるのであります。  政府は、アイゼンハワー大統領の第二期政権と現内閣とが相前後して発足したこの機会をとらえて、日米関係をより一そう強固なものとするため、最善の努力を払う考えであります。これがためには、日米両国が、相手国立場に立ってものを考えるという雅量と善意とが必要であり、また、共通基盤に立つ友好国として、率直にかつ誠意をもって話し合いを行うことが必要であります。私は、このような心がまえを持って、日米関係調整緊密化をはかりたいと考えておりますので、国民各位におかれましても、日米関係基本思いをいたされ、大らかな気持で、政府努力協力されることを切望するものであります。  次に、わが国外交基調として、政府が重視しておりますことは、アジア隣邦諸国との関係強化であります。わが国アジア諸国とは、あらゆる面にわたり、きわめて密接なきずなによって結ばれていることは、今さら申すまでもないところでありまして、政府はこれら諸国との懸案解決して、各国との友好協力関係を一段と強化することを、ぜひ必要と考えております。わが国国際連合及び国際社会における地位向上も、かかる隣邦諸国との友好関係強化なくしては、これを期し得ないと信ずるのであります。これがためにはまず、賠償問題などの解決が必要であります。幸い、ビルマ及びフィリピンとの間には、すでに賠償協定の締結を見ておりますが、政府はこれら賠償の円滑なる実施と並んで、未解決のインドネシア及びヴェトナム賠償解決ため、今後一そう積極的な努力を払う所存であります。なお、カンボジア王国に続いてラオス王国が今般賠償請求権を放棄されたことに対しては、ここに衷心より感謝の意を表するものであります。また、いわゆる東南アジアに対する経済協力については、わが国はすでにコロンボ・プラン、米国技術訓練計画等に参加協力しており、さらに、賠償等に伴う経済協力を約しておるのでありますが、今後ますますこの計画発展させたい考えであります。  元来経済協力については、民間全業がその主たる推進力となるべきものでありますが、現実的にはいろいろ制約もありますので、政府としてもこれを助長するため所要の国内措置を講じて、できるだけ便宜をはかりたいと考えております。  要するに、多年の念願たる独立をかち得た、これらアジア諸国が当面しておる最大の問題は、いかにしてその政治的な独立経済的な裏づけをするかということであります。政府としては、この事情を十分理解して、これらの国々経済上の交流をはかり、その国造りにできる限り協力し、もってアジア全域福祉増進に貢献したい決意であります。私は、これら諸国との相互理解を深め、かつ友好協力関係増進する政府の熱意を具体的に表明するため相互の都合のつく適当な機会に、これら諸国を歴訪したいと考えております。  アジア地域の中でも、最も近い隣邦である韓国との国交が、いまだに正常化していないことは遺憾であります。特に八百名に上る同胞が、引き続き韓国に抑留されている事態は、人道上の問題として他の諸懸案と切り離して、早急に解決さるべきであると考え、昨年来これが釈放に努力しております。政府としては、この問題が解決すれば、引き続き、他の諸懸案の討議に入る用意があるのであります。その際は公正、かつ現実的に問題の解決をはかりたいと考えております。  わが国中国大陸との間には、古来密接な関係があり、ことに経済的には相互依存関係もありますので、政府としては、自由諸国との協調維持しながら、情勢変化に応じ、禁輸の合理化をはかるとともに、右の協調のワク内において、できるだけ貿易拡大をはかっていく考えであります。貿易以外の問題については、国際政治上、いろいろ複雑な問題がありますので、政府はなお慎重に検討していきたいと思います。一般に、共産圏諸国との関係においては、政府は極端にイデオロギーにとらわれることなく、わが国利益に合致する限り、個々の案件を現実的に処理していく考えであります。もちろん共産圏諸国といっても、わが国に対する関係は、各国によって事情を異にするので、これを一律に論ずることを得ないことは当然であります。  まず、ソヴィエト連邦につきましては、旧臘、日ソ共同宣言の発効を見て、ここに両国間の国交正常化せられるに至りました。しかしながら、両国間にはなお、領土問題を決定する平和条約の締結を初め、引揚、漁業、通商等、今後の解決に待つべき幾多懸案が残っております。  政府としましてはソ連とのこれら懸案解決は、これを段階的に処理していくことを適当と考えております。すなわち、さしあたっては、大使館の設置、充実をはかり、抑留漁夫、及び残留邦人で不明のものの調査と送還につき、ソ連側の協力を求め、さらに漁業問題については、日ソ漁業委員会において妥当な解決をはかるなど、国交正常化に伴って、必要な善後処置に努力を集中する所存であります。また、日ソ間の通商につきましては、慎重に各種条件を検討し、双方にとって満足し縁る方法により、かつ国際義務の範囲内においてその発展を講ずる考えでありますが、平和条約の交渉については、国際情勢動向をもにらみ合せ、わが国にとり適当な時期と方法によって進める考えであります。  ソ連以外の共産圏諸国のうち、東欧諸国については、日ソ国交が再開され、わが国国連加盟実現した今日、同じく国連の一員であるこれら諸国との国交を再開することは、わが国国際関係正常化するゆえんでありますので、政府は先般来せっかくポーランド及びチェコスロバキア両国国交再開につき話し合いを進めており、近く妥結の見込みであります。  近時わが国が英連邦諸国、ラテン・アメリカ諸国中近東、欧州及びアフリカの諸国友好関係にあることは御同慶にたえませんが、政府はこれら諸国のそれぞれと個別にさらに交わりを厚くするため、今後とも最善を尽す考えであります。  次に、政府わが国経済発展国民の繁栄をはかる見地から、経済外交の推進を特に重視するものであります。狭小な国土において、九千万国民の生計を維持発展していく道は、国内的な分野だけでは不十分であり、国際的な基盤において解決されることを必要といたします。この意味において、経済外交わが国にとり、きわめて重要な意義を有するものであります。一般に経済外交とは、貿易を初め、広く賠償経済協力、海外移住などを含むものでありますが、その本質は各国の繁栄に貢献しつつ、日本経済発展を期することにあります。けだし、一国経済発展は他国の繁栄なくしては、とうてい達成し得ないからであります。  貿易については、戦後わが国国際社会復帰がおくれたため、各種の不利な条件があります。政府としてはできるだけすみやかに、このような条件を是正して、わが国貿易上公正かつ平等な立場に立つよう努力して参りたいと思います。さらに、経済外交の推進に当っては、わが国産業経済の実情を知らしめるために、諸外国から経済指導者を招聘して、これらの国々経済提携を進めていきたいと考えております。しかしながら、ここに特に強調いたしたいのは、経済外交促進強化といっても、単に外交折衝のみによってこれを行い得るものではなくして、通商交渉にせよ、経済協力の問題にせよ、これに伴う十分なる国内体制が整っていることが最も肝要であります。従来とかく経済外交をうんぬんする際は、目を外にのみ向けるきらいがあったと思われますが、問題の一半は国内にあることを忘れてはならぬのであります。従って、いやしくも対外経済面に関係ある施策については政府機関はもちろん、広く政界、財界も一致協力する体制を樹立することが必要であります。すなわち、経済外交の遂行に当ってはすでに申し述べた通り、特に外交政治との一体化に基く、総合的施策の要が痛感される次第であります。  なお、わが国の海外移住は、幸い逐年増加の一途をたどっておりますが、政府としては、これが増大をはかるため、さらに特段努力をいたしたいと思います。しかして、かくして移住した同胞が、移住先国によく同化して、その経済発展に寄与することを心から願うのであります。  以上の諸政策を円滑に推進するためには、冒頭に述べた通り、国民理解と支持が必要であると同時に、相手国政府及び国民をして、わが国立場政策を十分理解せしめることがきわめて肝要であります。この見地から、政府は対内啓発とともに、対外文化啓発活動を一そう盛んにしていく考えであります。  日ソ国交正常化及び国連加盟実現によって、わが国は今や戦後の外交上、一転機を迎えたのであります。この時に当り、私はわが国国際責任が、一そう重大になったことに思いをいたし、世界の平和と繁栄に貢献する覚悟を新たにするものであります。  以上、いきさか所信を述べ、ここに国民各位の一段の協力をお願いいたす次第であります。(拍手)     —————————————
  9. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 海田大蔵大臣。    〔国務大臣池田勇人君登壇拍手
  10. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) ここに、昭和三十二年度予算を提出するに当り、わが国財政経済についての所信を申し述べるとともに、予算の大要を御説明いたします。  私はまず日本経済がめざましい発展を遂げ、今日の繁栄をみるに至ったことを国民各位とともに喜びたいのでございます。すなわち鉱工業生産昭和二十八年を基準といたしまして、三七%増大いたしました。これは、西ドイツの三八%に匹敵し、アメリカの七%、イギリスの二二%をしのぐものでございます。また、輸出昭和二十八年当時と比べまして二倍に増大し、国際収支もこの三カ年間黒字を続けて参りました。  このような生産及び輸出の増大とともに活発な投資活動が行われました結果、わが国産業基礎は著しく充実し、同時に、経済の各分野に好況が行きわたることとなったのであります。中小企業経営状況も改善されましたし、雇用情勢も好転して参ったのであります。しかもこの間、物価は安定した推移をたどり、卸売物価はわずかに上昇いたしましたが、国民生活に密接な関係を持つ消費者物価はほとんど横ばいという好ましい状況で推移して参りました。このように、安定した経済基調の上に経済拡大発展実現しつつあることは、戦後の復興期には見られなかった現象であります。日本経済の実力が一段と大きくなったことを示すものといえましょう。これは、国民各位のたゆまざる努力のたまものであることはもとより、過去三カ年にわたる健全化政策世界経済の空前の繁栄とにささえられたものでございます。  ところで、このような著しい経済拡大に対し、昨年半ば頃より、基礎部門である電力、輸送力等に不足が生じ、いわゆる隘路問題が表面化して参りました。また、今日国民生活の面におきましては、衣、食はすでに戦前水準に回復いたしましたが、ひとり住宅は著しく立ちおくれているのでございます。ざらにまた、一般的好況にもかかわらず、日の当らぬ場所に生活する人々もなお少くないのでございます。このような産業活動及び国民生活の面における不均衡を是正しながら、全体として経済力強化拡大し、桂会保障の充実をはかっていくことが、今後における施策の眼目であると存ずるのであります。  翻って世界経済動向を見まするに、両三年来、欧米諸国わが国に先んじて未曾有といわれる繁栄を経験し、経済活動の活況と世界貿易拡大とをもたらしました。しかもこの好況は、朝鮮動乱当時のそれと異なり、平和的な需要に基く繁栄であったのであります。最近におきまする中近東及び東欧の紛争以後も、世界景気の原動力であるアメリカにおきましては、好景気が持続するものと見られており、また、西欧諸国におきましても、経済上の困難を克服しつつ景気の維持に努めておりますることを考えるならば、多少の波動はあるにいたしましても、世界の景況は今後もなお高水準を続けるものと見て差しつかえないと存じます。しかし、わが国に先んじて合理化近代化により生産力を充実してきた欧米各国の実情にかんがみますれば、国際市場における競争は一段と激しくなることは疑いのないところであります。また、欧州共同市場などのようにブロック経済化の動きも見られるのであります。私は、このような世界経済趨勢にかんがみまして、わが国輸出力をますます強化する必要を痛感する次第でございます。  このような内外経済情勢を前提といたしまして、この際、とるべき財政政策基本方向について申し述べたいと存じます。  今日、わが国経済水準は、かつて例を見なかったほど高いのであります。しかしながら、国民生活内容を、今日よりは明日、今年よりは来年と、着実に向上させて参りますためにも、また、年々増加する労働人口に就職の機会を与え、完全雇用目標に近づくためにも、なお一段と経済規模の拡大をはからなければならないのであります。  私は、経済発展を推進するものは、国民の創意工夫と企業の自主的努力基本とする民間経済のはつらつたる活動にあると信じます。(拍手)この意味におきまして、戦後なお著しく過重かつ不公平である租税負担の軽減合理化をはかり、国民の勤労意欲を高め、民間資本の蓄積を進め、国民生活経済活動に明るい希望を持たせることが必要であると存ずるのであります。幸いにいたしまして、わが国経済発展は、昭和三十二年度において二千億円に近い租税の増加収入を確実に見込み得るに至りました。私は、この際、提案せんとする一千億を上回る所得税の減税が、経済発展に大いに寄与することを信じて疑わないのでございます。また、私は経済発展は均衡のとれた姿で進められることが必要であると存じます。さきほど申し述べました日本経済の内部に見られる各種の不均衡は、民間経済活動のみによっては是正しがたいものでございます。ここに、財政は積極的にその機能を発揮し、産業基盤強化ため基礎部門への投資、住宅対策拡充中小企業対策強化、社会保障の充実等に力をいたさなければならぬと存ずるのであります。このように、財政財政としての役割を積極的に遂行することが積極財政の真意でありまして、決して放漫なる支出や安易なる助成策を意味するものではございません。  次に、経済発展は安定した基調で進めらるべきものと存じます。私は経済現状がインフレ的であり、あるいはインフレに陥るおそれがあるとは考えません。しかし、今後も安定した基調のもとに経済拡大を続けるためには、あくまでも財政健全性を貫くべきであると存じます。この意味におきまして、昭和三十二年度予算においては、一般会計の歳出は確実なる通常歳入の範囲にとどめ、厳に収支の均衡を確保し、また、財政投融資も原資の増加に見合って、これを増加いたしております。いずれも昭和三十一年度に比べてその規模を増加しておりまするが、健全性の原則は断じて貫徹しているのでございます。  以上、私は財政政策基本的な考え方について申し述べましたが、これと並んで、今後の金融政策基本について申し述べます。  財政が健全であると同様、金融もまた健全でなければなりません。健全な金融とは、通貨価値の安定を第一義とするとともに、経済発展ために必要な資金を円滑に供給する役割をになうものでございます。これがためには、財政が収支均衡であるがごとく、民間経済においても蓄積をこえて資金の供給が行われてはならないのでございます。今日、民間の資金需要はきわめて旺盛でありまするが、安易に蓄積の範囲をこえることは厳に戒めねばなりません。この際としては、資金の蓄積に努めるとともに、不急の投融資はこれを抑制し、経済発展ために真に緊要な資金を確保することが、金融機関においても、また金業においても、とるべき態度であると存ずるのであります。  もとより、金融の繁閑、財政収支の状況等により、一時的に日本銀行の信用供与が増減いたしましても、特に懸念するには及ばないと存じます。金融政策は、政府日本銀行が緊密に連絡しつつ、常に経済の実情に即して、健全なる基調のもとに弾力的に運用さるべきものであります。ここ両三年来の健全化政策によって経済は安定し、通貨価値に対する国民の信頼が高まって、金融機関の預貯金は順調に増大し、金利水準は低下し、金融の正常化は大いに進みました。今後も健全な財政と相待って、金融もまた正常な基調維持すべきものと存じます。健全な金融政策を実施して参りますためには、国民貯蓄の増加が何よりも肝要でございます。この蓄積があって初めて経済が健全に発展し得るのであります。国民各位が、減税等によって増加した所得を、できるだけ貯蓄に向けられんことを望んでやみません。金融機関においても、その経営の健全合理化をはかって預金者の信頼にこたえる体制を一そう整備するとともに、経済の均衡ある拡大ために必要とされる資金を円滑に供給し得るよう積極的に努力されんことを期待するものでございます。なお、政府は、将来における日本銀行の通貨調整機能を充実強化する方針のもとに、支払準備制度を創設し、公定歩合政策、公開市場政策と相待って弾力的な金融調整を行い得る体制を準備する所存でございます。  次に、為替及び貿易面の施策について申し述べます。  わが国経済発展を安定した基調の上に進めて参りますためには国際収支の均衡を確保することが重要であります。今日、輸入増大の傾向が見られ、また経済拡大とともにその傾向は今後も続くものと予想されるのでありまするが、この輸入増大がやがて輸出の増加となるものである限り、何らこれを憂うるには及ばないのであります。従いまして、このような輸入が単に国内において費消されるにとどまり、輸出の増加を伴わず、持続的に国際収支の均衡を失することとならないよう努めるべきでございます。  これがため、健全な財政金融政策と相待って、輸出増進ために今後一そうの努力をいたすことが必要であると存じます。しかも、今後の世界経済の推移を見まするときは、国際的な輸出競争はなお一そう激しくなるものと予想されます。帝業の合理化、新産業の育成等により、国際競争力を培養強化しつつ、海外市場の開拓、拡充をはかることは、今後の急務と申すべきであります。なお、海外投資及び国際経済協力につきましては、積極的にこれを推進すべきでありますが、このためには特に民間企業の創意と工夫に期待するものでございます。  以上、今後の財政経済運営基本方針につき、政府考え方を明らかにいたしました。  昭和三十二年度予算は、この趣旨にのっとり、通貨価値の安定を主眼として健全財政方針を堅持いたしましたが、同時に、過去三ヵ年間にわたる一兆円予算のワクにとらわれることなく、積極的に経済拡大ため重要施策を推進するよう努力したのでございます。一般会計予算の総ワクは、一兆一千三百七十四億円でありまして、三十一年度当初予算に比べ、一千二十五億円の増加となっており、また、財政投融資は三千二百四十六億円と六百七十三億円の増加でありまするが、経済規模の拡大等を勘案いたしますれば、この程度の規模は適当であると存じておるのであります。  次に、政府が特に重点をおきました重要施策につき、その概要を申し述べます。  まず第一は、税制を改正し、大幅な減税を行うことといたしたのであります。すなわち、所得税について、初年度一千九十億円、平年度一千二百五十億円の減税を実施することを中心として、法人税、住民税、事業税等にわたって租税負担の軽減をなかることといたしたのであります。特に所得税の減税につきましては、低額所得者の負担の軽減に留意しながら、税率の累進度の緩和に重点をおいて大幅な減税を行うことといたしました。これにより夫婦子供三人の給与所得者に例をとりますると、所得税は、平年度において年収三十万円で六割五分、五十万円で五割程度税負担が軽減されることになるのであります。事業所得者についても、ほぼこれと同程度の軽減を行うこととしておりまするほか、特に中小企業者の税負担の軽減合理化に資するため、中小法人の法人税の軽減を行い、地方税においても、個人及び法人を通じて事業税の軽減をはかる等、格別の考慮を払うことといたしております。このような減税を行う反面、今日の経済情勢に即応し、かつ負担の公平をはかるため、現在設けられておりまする租税上の各種減免措置の整理合理化を行うなど所要の改正を行うことといたしております。これによる増収額は、揮発油税の増加分を除き、初年度約二百五十億円余に達する見込みでございます。  第二は、わが国産業発展基礎をつちかうことに重点をおき、特に、最近の経済各部門間の不均衡をできるだけ是正いたすことに努めたのであります。すなわち電力につきましては、最近の急激な需用増加にかんがみ、電力五カ年計画の改訂に即応して、開発銀行、電源開発株式会社の電力資金を相当増額することとしております。また、輸送力に関しましては、道路港湾、国鉄の建設事業を飛躍的に増強することといたしたのであります。道路について申しますれば、一般会計の予算額を約三百五十億円から約五百五十億円に増額して一・六倍の建設工事を予定し、これにより、幹線道路等の改良舗装を一段と推進するほか、道路公団においては、その工事規模を倍以上に増加して、関門トンネルを昭和三十二年度のうちに完成し、一新たに名古屋—神戸間の高速道路に着工することといたしました。港湾についても予算額を五割増加して工事を進め、また、国鉄の建設工事について見ますると、その規模を五百八十四億円から一千六十九億円とほぼ倍額に増加して、電化の促進、線路の増強並びに通勤対策強化、車両の拡充を実施することといたしております。なお、これに関連して、国鉄運賃、揮発油税率の引き上げを行う予定でございます。  次に、貿易振興海外投資技術協力の積極化につきましては、輸出入銀行の資金を増額し、その業務の拡充をはかるほか、経済外交強化、海外宣伝調査費の増加、輸出保険制度の改善を行うことといたしております。  中小企業対策としては、国民、中小両金融公庫の貸付予定額を合計約二百七十五億円増額して一千百億円とし、商工組合中央金庫の貸付利率を現行の一割五厘から一割以内に引き下げ、さらに、中小企業信用保険特別会計より信用保証協会に融資を行うことにより保証業務の拡充をはかり、中小企業金融の一そうの改善に資することといたしました。  また、農林漁業経営の安定をはかるため、新農村建設事業を強力に推進し、農業協調組合の整備農林漁業研究の充実、森林資源の維持、漁港修築工事の促進について毛配意するとともに、農林漁業金融公庫の融資を拡張いたしたのであります。これに加えて、寒冷地農業対策として、新たな施策を講ずることといたしております。  さらに、国土の総合開発につきましては、特定多目的ダム建設工事特別会計及び特定土地改良工事特別会計を新設して、ダム建設事業及び食糧増産対策事業を経済的・効率的に案施して、工事のすみやかな完成を期する道を開くことといたしたのでございます。また、東北、北海道、離島等後進地域の開発と産業地帯の立地条件の整備に努めることといたしております。  第三は、国民生活をより健康で明るいものとするため、特に施策充実強化をはかり、福紙国家の理想に向って大きく前進することといたしたのであります。まず、生活保護法によりまする扶助基準額及び失業対策事業の賃金水準を引き上げたほか、母子加算制度の拡充、母子福福貸付金の増額等母子家庭に対する援助を手厚するため措置をとりました。さらに、世帯更生貸付金を増額し、医療費貸付金制度を創設する等、恵まれない人々のための社会保障の充実に努めたのでございます。さらに、医療施策の面におきましても、遠かうず国民皆保険が達成されるよう国民健康保険の普及を推進し、結核対策としては、予防措置の全額公費負担を実現することにより、その早期撲滅を期することといたしたのであります。  次に、住宅対策につきましては、おおむね昭和三十六年度までに住宅不足を解消することを目途として、政府施策によりまする建設戸数を約二十万戸に増すことといたしました。これに民間建設による戸数を加えますれば、年間約五十万戸の建設を期待し得るものと存じます。また、上下水道その他環境衛生施設の整備につきましても、格別に配慮いたしております。  文教の振興につきましては、小中学校の統合、二部教授の解消等を促進するため文教施設費を増額し、学校給食及び教科書の給付の対象を拡大するとともに、国立西洋美術館、国立競技場の新設等文化、スポーツの振興についても、特に配意いたしました。  なお、引揚者対策につきましては、在外財産問題審議会答申もあり、引揚者の現状に即して、この際その対策を実施し、多年の懸案解決する所存であります。  以上のほか二、三の重要な点について申し添えたいと思います。  最近の技術の高度化に即応して、科学技術振興につきましては、特段措置を講じ、科学技術振興費を百十六億円かう百七十九億円に増額したのであります。特に、原子力の平和利用につきましては、動力資源対策としてきわめて重要でありますので、大幅に予算の増額をはかることといたしました。  次に、自衛体制の整備につきましては、質的増強に重点をおいて自衛力の漸増に努めることといたしております。防衛庁費につきましては、従来の予算消化の実情を勘案し、予算計上額を極力圧縮し、防衛分担金の減額と相待って、防衛関係費としては、昭和三十一年度と同程度の規模にとどめたのであります。なお、治安対策強化につきましても、所要の予算を計上いたしております  公務員の給与につきましては、人事院勧告の趣旨に沿い、給与の改訂合理化を行うこととし、これに伴い、義務教育費国庫負担金の増額等必要な措置を講じております。  なお、食糧管理特別会計の合理化については、特別調査会を政府に設置して、全面的に検討し、米価その他この会計の基本問題を処理することといたしております。  次に、地方財政についてでありまするが、ここ数年来の健全化努力により、ようやくその再建も軌道に乗って参りました。幸い経済の好調の益ため昭和三十二年度においては、地方税収の相当な増加が見込まれますが、今回さうに地方交付税の税率を一%引き上げることにより、地方の行政内容を豊富なうしめ、住民福祉増進をはかることといたしました。公営金業の拡充、新市町村建設助成の強化につき特別の配意をいたしましたのも、同様の趣旨によるものであります。  終りに、昭和三十一年度補正予算につき一言申し上げます。  この補正は、産業投資特別会計べの繰り入れ及び地方交付税の増額を内容としております。産業投資特別会計べの繰り入れば、昭和三十一年度の大幅の自然増収を将来にわたって有効な用途に充てる趣旨で産業投資に向けることとして三百億円計上し、このうち百五十億円は昭和三十二年度財政投融資の原資として使用し、残りの百五十億円は、昭和三十三年度以降において弾力的に運用しようとするものであります。  以上、当面の経済情勢とこれに対処すべき財政金融政策基本的な考え方を明らかにし、予算の大要について御説明いたしました。ここに提案いたしました予算は、あくまで健全性を貫いた予算であります。私は、この予算を中軸とする財政経済施策が、健全な基調のもとに経済の均衡ある発展を積極的に推進し、希望に満ちた明るいわが国の将来を約束するものであることを確信するものでございます。  国民各位政府の意のあるところを了とせられ、一そうの御協力を賜わるよう切望いたす次第でございます。(拍手)     —————————————
  11. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 宇田国務大臣。    [国務大臣宇田耕一君登壇拍手
  12. 宇田耕一

    国務大臣(宇田耕一君) ここに昭和三十二年度を迎えるに当り、最近における内外経済情勢と、これに対処すべき経済政策基本方針を明らかにし、国民各位理解ある御協力を得たいと存じます。  まず、昭和三十一年度の終りに近い現在において、経済が、ここ一カ年間にいかに発展したかを顧みたいと存じます。  わが国経済は、御承知のように、昭和三十年以来、輸出に、生産に、目ざましい拡大を遂げて参りましたが、かような発展をもたらしました原因は、経済正常化し、産業近代化合理化する努力が実を結びつつありましたところへ、世界経済好況の波が押し寄せ、さらに、豊作にも恵まれたためであると考えるのであります。特に、昨年に入りましてからは、二年越しの輸出の増大、需要増加による生産能力の不足、先き行き景気に対する期待、それに加えて、世界技術革新の波に刺激された合理化近代化意欲の高揚等のいろいろの事情によって、前年の投資が比較的低調であったのに比べて、国内投資が大いに促進されたのであります。  かようにして、昭和三十一年度においては輸出は約二十四億八千万ドル、前年度に比べて約一八%強の躍進を示し、国際収支は受取、支払とも三十三億ないし三十四億ドル前後になり、ほぼ均衡するものと見られ、また鉱工業生産は前年度に比べまして二一%増しとなる見込みであります。この間、卸売物価は金属を中心として、若干の上昇を見ましたが、消費者物価は、国民の健全な消費態度と、旺盛な貯蓄意欲を反映いたしまして、ほぼ横ばいに推移をいたしております。このような経済活動の結果、国民所得は約七兆六千億円となり、前年度に比べまして一二%増しという高い拡大になる見通しであります。さらに、雇用情勢もかような好況の影響で漸次改善されて参っております。  日本経済が、かように、自立体制の基盤を整えたとは申しましても、問題がないわけではありません。特にわが国経済はこの二年の間、毎年一割ずつ大きくなってきましたが、この結果、電力、鉄鋼、輸送力等の基礎部門は、経済拡大の速度に追いつけませず、これが経済発展の隘路となろうといたしております。経済規模が拡大するのに伴いまして、これに必要な輸入は確保して参らなければなりませんが、それに見合う輸出が、今までのような顕著な割合で伸びて行くことはなかなか困難と思われます。  翻って、海外の経済情勢をどうかと考えますと、最近における海外経済情勢は、スエズ問題、東欧紛争の発生によって、平和と繁栄の基調に若干の動揺が生じつつあります。従って、このような撹乱要因の及ぼす影響を考慮しつつ、世界経済の今後の動向考えますと、まず、アメリカの経済は、政府支出の増大、消費需要の堅調、高水準の投資活動の継続等の要因によって、さらにその規模を拡大いたしますが、一方、物価及び賃金水準の安定を中心とするインフレ抑制べのまじめな努力によりまして、全体としては、健全かつ発展的な成長を示すものと期待されます。一方、英国の経済は、スエズ運河の閉鎖によって石油の消費規制、金ドル準備の減少などをきたし、これがため生産の停頓、国際収支の悪化が現われておりますが、経済建て直しの対策をとっておりますので、いずれ回復に向うものと思われます。他の西欧諸国においても、労働力その他の隘路に加えて、石油の不足の問題がありますが、全体として見れば、経済基調変化は見られず、経済拡大の速度が鈍化する程度にとどまるものと考えられるのであります。東南アジア諸国につきましても、輸出の伸び悩みと輸入の増大傾向から、外貨保有量が概して減少の方向にありますので、この地域の購買力の増加は急速に期待できないように考えられます。なお、共産圏諸国動向を見ますると、経済的諸困難を改善するとか、菊るいは経済計画を達成するとかのために、必要な物資を輸入に求めるなど、広く国際間の交流を行う徴候が現われてきておるようでありますが、これらによって、いわゆる東西貿易が将来さらに促進されるかどうかは、今後の複雑な国際情勢動向もあり、にわかに即断を許さないところがあります。  このように、世界経済は当面跛行的な動きを示してはおりますが、その中心をなすアメリカの経済は、それ自体繁栄を持続するとともに、今後ともに友好国との共存関係を高めて、その経済発展のささえとなるものと考えられますし、また西ヨーロッパ諸国は、経済発展の軌道に乗せるべく一意努力しておりますので、新たな国際間の緊張が招来されない限り、スエズ運河の再開に伴いまして、世界経済は逐次正常化されまして、世界の高原景気の基調は、なおくずれることはないものと考えております。  しかしながら、ここ一両年における先進国の技術革新は、ようやくその効果を現わしつつありますので、勢い今後世界各国との輸出競争は激化するものと考えねばなりません。さらに、私は世界の平和を心から念願するものでありますが、最近の情勢から見ますると、国際情勢は、局地的にはなお緊張のおそれなしとは断言し得ないと考えられます。かように輸出前途には楽観を許さない要素もいろいろありますから、わが国としても、これらの事態に対処すべく、産業国際競争力の飛躍的向上をはかるために、従来にも増して、わが国経済基礎強化に真剣な努力を払う必要があると考えるものであります。  以上のような内外経済情勢に即応いたしまして、今後の経済施策を実施して行くのでありますが、この場合、特に留意すべき点は、単に短期的観点にとどまらず、長期的な観点から、問題の本質を把握いたしまして、所要の施策を総合的に、重点的に実施して、歩一歩、問題を着実に解決して参ることが必要と考えます。  わが国の長期経済政策の最終目標は、国民生活向上完全雇用の達成におかれるべきであると考えますが、特に今後十年間は、生産年令人口が急激に増加することに対処して、経済のできるだけ急速な発展をはかり、近代的雇用の増大と所得水準の上昇を通じて、新規労働力の吸収と、いわゆる潜在失業者の解消に努める必要があります。しかしながら、かような経済発展を長期にわたって維持して行くには、経済が、長期的に見て、安定と均衡を保持していることが必要であります。このためには、物価の安定・貯蓄に見合った投資、国際収支の均衡等を維持するために不断の努力を払わなければなりません。また、経済計画策定に当りましては、民間事業活動基礎分野の整備充実等によりまして、経済発展基盤強化することを政府の任務といたしまして、この上に立って、企業と個人が、その創意工夫を生かし、活発なる事業活動を行うことができるように配慮すべきであります。  今まで申し述べましたような見地から、わが国においても、一昨年来、経済自立五ケ年計画を策定しまして、長期経済政策方向を樹立したのであります。しかし、その後、幸いにして、経済が当初予想した以上の著しい発展を見たために、これが改訂を必要とするに至っております。政府におきましては、できるだけすみやかに、その改訂を行うつもりであります。  さて、昭和三十二年度において実施すべき施策につきましては、先ほど来、総理大臣初め、外務、大蔵両大臣から、それぞれ申し述べられましたが、また、施策全体については、昭和三十二年度経済計画の大綱によりまして、便宜、御承知願うことにいたしまして、ここでは、特に重点と考えます諸施策について一言触れたいと存じます。  まず、当面の最大の問題であります電力、鉄鋼、輸送力の隘路部門の打開につきましては、これに必要な設備ないし施設を、積極的かつ早急に拡充することとし、所要資金の確保、その他必要な対策を講ずる考えであります。また、産業合理化及び近代化、並びに道路港湾、工業用水等の産業立地条件の整備促進するとともに、新規産業の育成と科学技術振興をはかりたいと考えます。特に原子力につきましては、研究体制の整備、原料資源の開発、関連産業の育成等に努め、その平和的利用を積極的に推進いたすべきものであると考えております。  さらに、わが国経済拡大は、輸出の伸張を通じて行うことが必要でありますが、しかも輸出の見通しは先き行き楽観を許さぬ情勢もあります。従って輸出の増大、国際収支の改善をはかるため産業基盤確立と並んで、輸出振興貿易外収入の増加のための各般の施策を一段と強力に講ずるとともに、この際、さらに輸出意欲を高揚することが必要であります。特に経済協力関係強化をはかるために、海外投資技術協力を積極的に促進をいたさなくてはなりません。また日中貿易につきましても、輸出入の均衡をはかりつつ、合理的かつ漸進的に促進して参るべきものと考えております。  民生の向上と安定につきましては、最近の経済好況基盤の上に立って大幅な減税を行うとともに、戦後回復がいまだにおくれておる住宅につきましては、政府施策による住宅建設を一段と増強することにいたしております。さらに、国民皆保険を期し、医療保障を拡充強化するとか、あるいは母子家庭に対する生活保護の改善、低所得者層に対する施策拡充をはかるなどの措置によりまして、社会保障施策充実努力して行きたいと存じております。なお、雇用の改善をはかるために、経済規模の拡大中小企業の育成、公共事業拡充等によって、就業の機会の増加に努めて参りたい所存であります。  中小企業につきましては、その健全なる発達をはかるために、中小企業の組織化を一段と強化するとともに、近代化合理化を推進するなど、総合的な振興対策を講ずべきものと考えております。また、農林水産業につきましては、農山漁民の経済的地位向上食糧の総合的自給力の強化を目途として、引き続き生産基盤強化に努めたいと存じております。  以上のような経済拡大ため、各般の施策を講じて参りますので、昭和三十二年度の主要経済指標は、次のごときものになると存じます。  すなわち、貿易及び国際収支につきましては、輸入は、経済拡大に伴いまして三十二億ドルに増大すると見られますが、一方、輸出は二十八億ドルに伸びると思われます。貿易外収支を考慮いたしますと、国際収支は、受取、支払ともに約三十六億ないし三十七億ドルの線に達しまして、ほぼ均衡を維持し得るものという見込みであります。  また、民間投資は、隘路部門打開のための投資増加等によりまして、昭和三十一年度水準をさらに上回る見込みであります。これに加えまして、消費も健全ながら所得増加に伴って増大すると思われます。従って、輸出、投資、消費の堅調を反映して、鉱工業生産は、昭和三十一年度に比べまして一三%程度の上昇になるものと考えます。物価は、部分的には値上り要素もないわけではありません。しかし過去の投資による生産力効果の増大とか、弾力的な金融措置の採用に加え、原材料その他必要な物資については、極力輸入の確保をはかるなど、各般の施策を総合的に講じて参る所存でありますので、物価水準の基調は、全体としては、さしたる変動はないという見込みであります。雇用につきましては、以上のような経済発展によって、引き続き就業機会は増大して参ることが期待されます。  以上申し上げました点からいたしまして、国民所得は約八兆二千億円と、昭和三十一年度に比べまして約七・五%の増加が見込まれると思っております。  最後に、この機会を利用いたしまして、所信の一端を申し述べたいと存じますが、わが国が、今後、国民生活向上完全雇用の達成を目途として、均衡のとれた経済拡大をはかって行くべきであることは、すでに申し上げた通りでありますが、このためには、所要の輸入増加をまかなうだけの輸出確保するように、国際競争力を培養して行くことが肝要であります。世界生産水準、技術水準は最近における技術革新によりまして、飛躍的に高度化しつつありますので、わが国といたしましても、過去二年間の経済発展の上に立って、さらに産業近代化を遂行して、経済の高度化に努め、世界の進歩に伍して行く心がまえが必要であります。従って、企業資本を一段と充実して、その経営基礎を固め、徹底的な近代化合理化を断行して、能率の向上をはかり、労使相協力して、生産性の向上に努めるとともに、他方では、経済各部門の発展を均衡あらしめるため、重複投資、無用な過当競争に陥らない良識が必要であると存じます。  また、かような産業近代化、隘路部門の打開のためには、長期にわたり巨額の資本を必要といたしますので、必要な分野に対する財政投融資の重点的投入をはからなければならないことはもちろんでありますが、その資本の大部分は、これを民間に求めることになることは明らかであります。このためには、物価の安定をはかって、消費の健全化と貯蓄意欲の喚起に努めることが必要であります。かような見地から、昭和三十二年度の減税分が有効に生かされるよう、国民各位の御協力を特にお願いいたしたいと考えるのであります。  私は、以上、昭和三十二年度の経済施策のあらましを申し上げまして、これに関連して所信の一端を披瀝したのでありますが、これを今後実際に実行して参りまして、日本経済がさらに飛躍するために、必要な基礎を整えて参りたいと念願しているのであります。ここに決意を新たにいたしまして、国民皆さんとともに、国民生活向上完全雇用の達成のために、あらゆる努力を惜しまない覚悟であります。(拍手
  13. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 国務大臣演説に対し質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  14. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 御異議ないと認めます。  次会は、明日午前十時より開会いたします。議事日程は、決定次第公報をもって御通知いたします。  本日は、これにて散会いたします。    午後四時五十二分散会 ○本日の会議に付した案件  一、請暇の件  一、日程第一 国務大臣演説に関する件