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国務大臣(中村梅吉君) それではまず
裁判所法等の一部を
改正する
法律案について、その趣旨を御
説明します。
御承知の
通り、日本国憲法の施行とともに、わが国の
司法制度は、旧憲法時代とは異なった新しい構想のもとに発足いたしたのであります。特に
最高裁判所は、違憲
審査を行う権限を有する終審
裁判所とされましたばかりでなく、訴訟手続その他に関する規則の制定及び
下級裁判所の
裁判官の指名というような重要な権限をも与えられ、旧大審院とはこれらの点において著しく趣きを異にしているのでありまして、その重大な職責にかんがみ、
最高裁判所は、
識見の高い
法律の
素養のある十五人の
裁判官をもって構成されることになったのであります。
最高裁判所のこのような性格及び構成にかんがみ、その取り扱う上告
事件の範囲をいかにするかという問題は、すでにその発足当時から存在していたのでありますが、まず、刑事訴訟につきましては
昭和二十四年から施行された新刑事訴訟法によりまして、訴訟手続に根本的
改正が加えられ、第一審における公判中心主義の徹底、控訴審の事後審化とともに、上告
理由の範囲は、憲法違反、判例抵触等の重要な事項に限定され、これによりまして、刑事訴訟に関する
最高裁判所の
裁判権の範囲については、一応の調整が行われたのであります。また、民事訴訟につきましても、
昭和二十五年に至り、有効期間の定めのある臨時
立法として、
最高裁判所における民事上告
事件の審判の特例に関する
法律、いわゆる民事上告特例法が成立いたしまして、上告
理由に基く調査の範囲は、原則として憲法違反、判例抵触及び法令の解釈に関する重要な事項に限定されることになったのであります。
しかしながら、このような上告制限の措置にもかかわらず、
最高裁判所における取扱い
事件の件数は年々増加の一途をたどるとともに、その
裁判官の負担は著しく過重となり、
昭和二十六年末には、未済
事件数がついに七千件を突破するに至ったのでありまして、現在の
最高裁判所の
機構をもってしては、ますます増大する
事件の負担にたえることが困難ではないかと
考えられるに至ったのであります。また一方、右に述べましたような上告制限の方向に対しましては、
在野法曹方面を中心として、批判的な
意見が次第に強く唱えられて参りました。すなわち、従来のわが
司法制度においては、長く一般法令違反が上告
理由として認められてきたのでありますが、これを制限して憲法違反、判例抵触等を上告
理由として認めるのみでは、個々の
事件における当事者の救済に不十分であり、このような制度は、わが国の
実情に適しないものであるというのであります。このようなことから、
最高裁判所の
機構及び上告制度の
改善の問題が早急に解決を要する問題として、盛んに論議されるようになりましたことは、御承知の
通りであります。
政府といたしましては、前に申し上げましたいわゆる民事上告特例法が有効期間の定めのある臨時
立法として成立いたしました関係もあって、すでに
昭和二十六年以降、法制審議会におきまして、民事訴訟法及び刑事訴訟法の
改正の問題の一環として、この上告制度
改善等の問題につき研究を進めておりましたが、右に申しましたような情勢を考慮し、
昭和二十八年二月、法制審議会に対しまして、新たに
裁判所の制度を
改善する必要があるかどうか、あるとすれば、その要綱を示されたい旨の諮問を発したのであります。
法制審議会におきましては、この諮問に基きまして、新たに
司法制度部会を設け、
最高裁判所の
機構の問題を中心として調査審議を進めたのでありますが、当初は
裁判所側、
在野法曹側を中心に、
相当な
意見の相違点があったのであります。しかしながら、この問題についての審議を促進する
ため、
昭和二十九年八月、新たに
司法制度部会、民事訴訟法部会及び刑事法部会から選出された小
委員をもって構成する上訴制度に関する合同小
委員会を設け、
最高裁判所の
機構及び刑事
事件の上告
理由範囲の問題を中心として、鋭意審議を進めて参りましたところ、回数を重ねるに従いまして、次第に多数の
委員の賛成を得られるような方向が明らかになり、昨年三月には右合同小
委員会としての案が決定され、その後右三部会においてこの案が審議承認されました。ついで昨年五月八日法制審議会の総会において、出席
委員二十一人のうち二十人の賛成により、答申案の決議が行われ、同会より
最高裁判所の
機構及び上告制度に関する
立法措置について適切な答申がなされたのであります。そこで
政府は、これに基き慎重に立案いたしました結果、ここにこの
法律案を提出する運びに至った次第であります。
次に、この
法律案の要点につきまして簡単に御
説明申し上げたいと思います。
この
法律案は、
裁判所法及び刑事訴訟法の各一部
改正を内容とするものでありまして、その骨子は、上告
事件等の審理の円滑化をはかる
ため、憲法違反、判例変更等の重要な
事件について審判する
最高裁判所の
裁判官を減員するとともに、別に
最高裁判所に
最高裁判所小法廷を置き、刑事訴訟についての上告
理由の範囲を拡張して個々の
事件における当事者の救済を全うしようとするものであります。
改正点のうち、特に重要と思われる数点についてその概略を申し上げますと、まず第一に、
最高裁判所の構成でありますが、現在の
最高裁判所は、
最高裁判所長官及び
最高裁判所判事十四人をもって構成され、憲法
事件その他の重要
事件につきましては、全員の
裁判官の合議体である大法廷で審理、
裁判をするとともに、その他の一般上告
事件につきましては、この十五人が三人以上の員数の
裁判官の合議体である小法廷に分れて審理、
裁判をすることになっておりますが、このような現在の構成では、
一つの合議体として重要
事件を処理する
ためには、むしろ
裁判官の数が多きに失し、また、その他の一般上告
事件の処理の
ためには、これが少きに過ぎるのみならず、
裁判官が大法廷及び小法廷の双方の
事件の審判に追われて、その能率が阻害されているように思われますので、これを改め、まず、
最高裁判所は、憲法違反、判例変更等の重要
事件のみを取り扱うことにいたしますとともに、その取り扱う事項の重要性にかんがみ、さらに
裁判の合議を全からしめ、審理を円滑ならしめることを期する
ため、
最高裁判所長官及び
最高裁判所判事八人でこれを構成するものとし、その全員の
裁判官の合議体で審理、
裁判をすることにいたしました。また一方、一般上告
事件につきましては、現在の
最高裁判所の構成では、
事件の処理が遅延の傾向に陥りやすく、また、
裁判官の負担が著しく加重となっている点を考慮し、かつ、後に述べますように、刑事の上告
理由の範囲を拡張することにより一般上告
事件を処理する
ための負担が増大するものと予想されることに伴いまして、その審理の円滑化をはかる
ため、別に
最高裁判所小法廷首席
判事六人及び
最高裁判所小法廷
判事二十四人で構成する
最高裁判所小法廷を
最高裁判所に付属して置き、この小法廷は、三人以上の員数の
裁判官の合議体で審理、
裁判をすることにいたしました。
第二に、上告
理由の範囲は、民事につきましては現に憲法違反のほか、
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反を上告
理由の範囲といたしておりますので、現行法のまま
改正を加えておりませんが、刑事につきましては、上告審における個々の
事件の当事者の救済を徹底させる等の見地から、現在の刑事訴訟手続の構造及び上告審の負担の点等をも考慮しつつ、その上告
理由の範囲を拡張することにし、憲法違反及び判例抵触のほか、
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があって原
判決を破棄しなければ著しく正義に反することをも上告の
理由とすることにいたしました。
上告の間口を民事
事件との均衡のとれるような措置を講じた次第でございます。
第三に、
事件の審判につきましては、
最高裁判所小法廷は、原則として上告その他につき
最高裁判所と同一の
裁判権を有し、
事件はまず小法廷で審理することといたしますが、憲法問題について判断をする場合及び従来の判例を変更する場合等におきましては、
最高裁判所において
裁判をさせることが適当と
考えられますので、
事件を
最高裁判所に移させることとし、
最高裁判所は、原則として小法廷から移されたこれらの重要
事件について審判することにいたしました。また、小法廷の
裁判に対しましては、憲法違反を
理由とするときに限り、特に
最高裁判所に異議の申し立てをすることができることにいたしました。
第四に、
最高裁判所長官及び
最高裁判所判事は、憲法にいう
最高裁判所の
裁判官としてその任命を
国民審査に付する点につきましては、もとより従来
通りでありますが、
内閣がその指名または任命を行うについては、一層慎重を期するようにする
ため、
裁判官、
検察官、
弁護士及び
学識経験者で組織する
裁判官任命諮問審議会に諮問すべきものといたしました。また、
最高裁判所小法廷の
裁判官の任命
方法、任命資格等は、高等
裁判所長官等と同様といたしましたが、その地位の重要性にかんがみまして、特にそのうち小法廷首席
判事の任免は、天皇が認証するものといたしました。
以上が
裁判所法等の一部を
改正する
法律案の趣旨でございます。
次に
裁判官の
報酬等に関する
法律の一部を
改正する
法律案及び
検察官の
俸給等に関する
法律の一部を
改正する
法律案について、その趣旨を便宜一括して御
説明します。
政府は、人事院勧告の趣旨にかんがみ、一般の
政府職員の
俸給制度の
改正を行い、これに伴って
給与について必要な調整措置を講ずることとし、今
国会に一般職の職員の
給与に関する
法律の一部を
改正する
法律案を提出し、御審議を仰いでおりますことは、御承知の
通りであります。この両
法律案は、一般の
政府職員の例にならいまして、
裁判官及び
検察官の
報酬または
俸給の額等を
改正しようとするものであります。以下簡単に
改正の要点を御
説明申し上げます。
まず第一に、
裁判官及び
検察官の
報酬または
俸給について、一般の
政府職員との権衡を考慮し、適正な
報酬または
俸給の各月額を定めることといたしました。
第二に、
裁判官及び
検察官の中には、長期間にわたって同一の
報酬または
俸給を受けながら、昇進の道がない者が
相当数に上っておりますので、
最高額の
報酬または
俸給を受けるに至ったときから長期間を
経過した
判事または
検事に対して、一般の
政府職員の例に準じ、その額を越える月額の
報酬または
俸給を支給できることといたすとともに、長年勤続のいわゆる認証官以上の
裁判官及び
検察官については、特別職の職員の
給与に関する
法律第一条第一号から第十五号までに掲げる者の例により、新たに特別
手当が支給できることとして、法文に必要な整理を加えることといたしました。
第三に、寒冷地に在勤する高等
裁判所長官及び
検事長には、これまで寒冷地
手当、石炭
手当及び薪炭
手当を支給する
ための法令上の措置が講ぜられておりませんでしたので、この際、これを支給する旨の規定を設けることといたしました。
以上がこの両
法律案の趣旨でございます。何とぞよろしく御審議のほど、
お願い申し上げます。