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雨森常夫君 第二班の
派遣委員は一松、
安部、
宮城の各
委員に私の四名でありまして随行は
田向調査委員及び
島野主事、この一行六名で、去る六月二十三日から二十九日まで、一週間、
福岡、
長崎、
佐賀、
大分、の順に四県を回って参りました。
すなわち、
最高裁機構改革問題については、
福岡高裁、
長崎、
佐賀、
大分の
各地裁に
おいて
現地法曹関係者と一堂に懇談を行い、また、
売春防止法運用問題については、
佐賀、
長崎の
関係庁より
説明を聴取いたしました。特に
佐世保市における西海国立公園観光株式会社問題については、
佐世保市役所に
おいて
関係者より
実情を聴取するとともに、
現地の状況を視察いたしました。
それから
日程外ではありましたが、途中
長崎刑務所の視察もいたしました。
以下、
調査要綱記載の順序に従いまして、
調査結果を概略御
説明申し上げます。
まず第一に、最高
機構改革問題でありますが、このうち
抽象的法令審査権、
上告範囲、
裁判官の数、さらに
ワン・
ベンチ論並びに
政府提出法案に対する
冬問題点については、ただいまの第一班の
調査結果とほとんど同様でありますので、ここでは重複を避けるため、
現地の
主流的意見の内合を
説明することを省略いたしましてただ、少数の興味ある
意見を御参考までにお伝えしておきます。
その
一つは、
抽象的法令審査権について、
長崎の
検事正から第一
審刑事事件の
審理過程に
おいて、往々にして
被告側が適用すべき
法令の今憲、
違憲性を強く争い、これに対し
検察官が
反駁立証にいちじるしく労力と時間を費し、いたずらに
法廷論争を長引かすことのある事態にかんがみて、このような
法令の効力問題については、争点のみについて飛躍的に
最高裁の
終局判断を受けられるようにするという
意味に
おいて、ある種の
抽象的法令審査権を認めるようにしたいとの
意見が述べられました。
その二は、
裁判官の数について、
佐賀の
検事正か
裁判検外側の中でただ一人異論を吐き、
最高裁判事を
長官以下四十五名に
増員し、これを五名ずつで構成する九つの小
法廷に分つという
日弁連案を
基本とし、若干の修正を施した独自の構想を披瀝したことであります。しかしながら、結局狭い
意味における
最高裁機構改革問題に関する
現地の
動向は、一班の
報告のように、
裁判、
検察庁側は
政府賛成、
弁護士会側はこれに
反対であって、
政府及び
最高裁側と
日弁連及び
衆議院法務小委員会側との間の
二つの定型的な見解の相違が、そのままに、
下部系統に尾を引いて現われています。私
どもは、問題の
重要性にかんがみて、
現地法曹の
打開的意見にひそかに期待していたのでありますが、この
意味では期待はすれの感がありました。この現象は神々の
意味に解することもできますが、とにかく
現地の
状態は、中央の二大
意見に従って固まっていると結論しても差しつかえないようであります。
次に第一
審強化に関する問題については、
各地とも活発な発言があり、
現地がこれにいかに関心を寄せているかがわかります。まず、
裁判官の任期十年の
制度については、
現状維持論のほか格別の
意見もありませんでしたが、
判事補制度については、
裁判の威信の上から補の
名称を廃止すべしとの
意見が多く、中には
法曽一元化達成の暁に、
制度自体を廃止せよとか、
判事補の基間を五年に短縮せよとの
意見も出ましたが、とにかく、かように
議論のあるこの
制度は、今後なお十分検討すべき必要のあるものと
考えます。
法的一元化については、もちろん
反対はありませんが、現実問題として
給与待遇上の隘路をいかに打開するかが論議の
中心となりました。
方法論として、
弁護士の
在職年数を任官後の
恩給年限に通算する
措置を論ずべきだとか、あるいは
裁判官、
検察官になる前提として、
一定年限弁護士コースを経ることを要件とすべきであるとか、
日弁連の
案並みの
意見も
弁護側から吐かれましたが、これには
裁判、
検察側とも原則的には
賛成しております。ただ、
福岡、
佐賀の地検からですが、
弁護士上りの
検察官の
実績が思わしくないので、
法曹三元化に当っては、特に
検察、
捜査技術の
特殊性について考慮すべきだという
意見が注目されました。
裁判官、
検察官の
待遇については、
現状は
一般行政官より劣っておるとして
改善を望む不満の声が非常に多く、これは
法曹一元化の
推進ともからんで、留意すべき点でございます。私
どもは、
政府が本
委員会の過般の
付帯決成の
趣旨に沿い、すみやかに
待遇改善の
措置を講ずることを希望しておきます。
それから、
裁判官に与えられている
転所の保障の乱用がとかく人事停滞の一因をなしている傾向がありますが、これについて
検察側から
転所の保障に検討を加え、人事異動に新方策を立てようとの傾聴ずべき批判がありました。また、人事の公平を期し有能な
検察官を
賛成するため、
裁判官の
待遇と同一にすべきであるとの
意見が校察側から出ました。
施設面については、十分
実情を見る時間がありませんでしたが、概して
裁判所側は官舎及び
法廷、
検察庁側は同じく官舎及び取調べ室がなかんずく貧弱に思われます。官舎不足のため若い
判事補が高い間借り代を払い、あるいはか子と一時別居を余儀なくされ、あるいは有罪の
裁判を受けた家主から追い立てを食った実例などを、耳にいたしましたが、官舎の充実は、
法廷とともに
現地の切実な訴えであります。庁舎としては、
佐賀、
長崎の地裁が老朽化し、早急に新改築を要する
状態にあります。
検察官の取調べ案不足のため、
大分地検のごときは
会議室を区切って代用しておりますが、このような
状態は、捜査の秘密保持、人権尊重の見地からもすみやかに
改善されなければなりません。
とにかく、ここではごくわすかな例をあげたにすぎませんが、
施設画の充実完備化については、
政府及び
最高裁の格段の御努力を望むとともに、本
委員会に
おいても予算
審議その他の機会には十分留意すべき点であろうかと思います。
なお、二、三、話題に上った問題としては、法服の件、これについては現在の法服の様式は威信を保つに適切でないから、
改善した方がよいというのが多くの声でありました。
その他、
最高裁の
調査官をしている老練な
判事を第一教化に充て、若い人をもってかえる方がよいとか、あるいは第一審の
刑事事件について綿密的確な
調査をするために、
裁判官の補助者たる
調査官を地裁にも置いてもらいたいとか、簡易
裁判所の
名称は、威信上から区
裁判所とする方がよいとか、簡易
裁判所判事及び副検事の
制度を検討すべきであるとか、
裁判官の
法廷での位置は高過ぎるから少し下げる方がよいとか、あるいは証人保護のため専用の控室を設けるべきであるとか、さらには審理促進のため
刑事訴訟法を
改正すべきであるなど、他にも数多くの
意見、要望が出ましたが、長くなりますので、ここでは
報告上品に譲って省略をいたします。
第二に、
売春防止法の
運用並びに西海国立公開観光株式会社に関する問題について申し上げます。
まず、
売春防止法の
運用問題については、
佐賀県は時間の都合上、
佐賀家裁及び
売春関係事犯の数字的資料の提出を受けたにとどまり、特に申し上げることはありません。
長崎県は本年一月も
委員派遣が行われたばかりでありますが、今回は西海国立公園観光株式会社問題の
調査にからんで、符随的にその後の状況を
調査したわけてあります。おもな
事項としては、四百万円の予算で
婦人相談所が
設置されたこと、
婦人相談員は県内に六名配置され、本年五月まで六十五件の相談を受け付け、半数以上解決を見ています。
転廃業の状況を昨年九月と本年五月と比較してみますと、
業者は約五%三十四人、
従業婦は約三%七十三人が明らかに
転廃業をしております。
佐世保市の場合は、あとの問題に関連して述べますが、
長崎市でも
業者が
転廃業のための資金対策に乗り出しており、一般にわずかながらも
転廃業の方向に動いていますが、これをさらに促進し、かつ保緩更生の実をあげるためには、融資あっせん、母子福祉資金等の賃し付け、要保護女子のための住宅建設、児童養護
施設の拡充等について国が特別の
措置をとることを県
当局では要望しております。
次に、西海国立公園観光株式会社の問題については、まず
佐世保市役所に
おいて市及び市議会、会社及び
業者代表その他
関係者が多数一堂に会しまして懇談を遂げた上、問題の核心である大衆溶湯の建設予定地である
佐世保市内鹿子前集団
施設地区及び弓張岳頂上等を視察しました。この問題の内容については、去る五月九日の
委員会審議によって大体御
承知のことと思いますが、念のためごく概略を
説明いたしますと、
佐世保市勝冨町の貸席
業者六十一名が、転業の一策として西海国立公園の区域内である鹿子前集団
施設地区に
おいて各種の観光的事業を営むため、昨年五月資本金六百十万円をもって株式会社を設立し、事業の手始めに本年五月公衆溶場事業の特許を受けたのでありますが、これに現在の
従業婦多数を従業員として吸収し、かつ将来増資を
政府からの借り入れあるいは補助等によって調達する計画であるというところから、これは巧妙なる偽装転業の疑いがあるとして、特許を与えた
政府の態度が追及されたのであります。
それで、私
どもは冒頭に述べましたように、
佐世保市役所における
関係者との懇談及び事業
施設予定地の視察を通じて、いろいろの角度から実態の究明に当りましたが、その結果によれば、ただいま
説明した事実
関係は、おおむねその
通りである。また偽装転業の疑いについては、将来の運営のいかんによることではありますけれ
ども、現在に
おいてはほぼその疑いは解けたように思いますが、ただ一言つけ加えておきますが、一行中の
宮城委員は、少しくその判断を異にしておられますようですので、適当な機会にその見解の御表明があろうかと存じます。
さらに補足して申し述べますと、本件の会社事業に参加した貸席
業者は、
佐世保市内の約八割を占め、将来五カ年計画で観光遊覧を主軸とする各種の交通運輸、宿泊、衛生、休養、教化の
施設を経営することをもくろみ、さしあたって公衆浴場に主力を、注ぐこととし、その建設運転資金五千百万円を商工組合中央金庫より借り入れを予定するとともに、
政府にも資金のあっせん力を希望し、なお、将来各種の事業を拡張する場合の一部は、
政府借り入れ及び国、県、市の補助金によってまかなうことを
基本方針としております。
そこで、肝心の公衆浴場の形態はどうかと申しますと、本年八月十五日までに厚生省に工事
施行認可を申請することになっていて、またその日一体的状況を明らかにすべき段階はありませんでしたか、大体その設計図笠によりますと、浴場は男女別の大浴場各一カ所だけで、これに脱衣場、休憩室、売店、ホール、食堂等を配置し、いわば舟橋ヘルス・センター式の六八大衆向きの開放的な様式を計画をしており、トルコぶろあるいは秘密式の風俗的なものではないようであります。
一方、
業者の
従業婦対策の内容をうかがいますと、現在勝富
従業婦連合会にに所属している者、二百九十七名、このうち約七十三を名会社へ、さらにそのうち十六名を公衆浴場に吸収し、約四十名を現在の貸席
施設を将来夫切りかえる観光旅館へ吸収し、残り約百八十七名を他にへ転職あるいは州郷させる更生策を立てておりますが、とにかく公衆浴場に吸収される
従業婦はごく少数のようであります。
以Lの客観的な状況に
業者側の
説明を参酌して、本件問題の結論を出しますと、応
業者には転業の誠意が見受けられること、少くとも集団的偽装転業の疑いは、まず現在のところはないのであるが、今後事業の執行運営上の監督
指導に当っては、
従業婦の更生に特段の配慮を必要とするということであります。
すなわち、第一に会社の事業計画は、国立公園法に定める各種の事業に広くまたがっており、特に風紀上の問題を招きやすい業態のみに偏しているわけではないこと。第二に、現在勝富町の
従業婦で
業者に前借金を負っている者はない由でありますから、
業者が前借金取り立てのために
従業婦との雇用
関係を持続しようとする意図ありとは認めがたいこと。第三に、会社は少数の従業員に
売春行為を行わせるようなことは通常は
考えられない、つまり
業者としては事業上の止常な収益をはかることが利益であること。第四に、公衆浴湯の
施設は、公衆浴湯法、
長崎県条例その他の監督規制を受け、これに
違反すれば特許取り消しの危険かあること。第五に、現在
業者は従来婦の転業のため八本教育を施しており、将来も女子従業員を、一カ所に寝泊りさせるとか、あるいは制服を着用させる等、その生活の
指導監督について種々考慮を仏っている由であること。これらが結論の前段を生み出したゆえんであります。
しかしながら、翻って注意すべきことは、
業者は会社事業の成功によって救われるとしても、
従業婦の方は約八七%か扶養家族を有しており、しかも転業後の固定給が月五千円ないし八千円と聞いていますが、この現実では真に幾ばくの
従業婦の更生が可能であるか、生活難から再び転落への道を逆行する憂いがないとは言い切れないのであります。従って、私
どもは
業者に対しては、その善意を了とするけれ
ども、なおそう会社設立の動機にかんがみ、
従業婦の更生に特段の努力を払うべきことを望みます。それから会社に吸収されない大半の
従業婦はもちろんのこと、現在約三百名をこえる外国人相手の婦女子の行方についても深い関心を寄せなければなりません。これらの者が広く救済されない限り、多数客の蝟集する観光事業の
特殊性から、事業
施設の周辺に新しい地下
売春の根が張られないとは、必ずしも保証できないのであります。これらの見地から
政府並びに地元
関係機関に
おいては、会社の運営、並びに一般
従業婦の保護の更生について十分強力な
指導監督を加えることを要望する次第であります。
本件の問題に関する被告内容については、
宮城委員におかれては、先ほど申しましたように、若干異なっておるようでありますので、申し添えます。
第三に、
長崎刑務所の視察の結果については、格別申し述べることもありません。ただ、ここでは他の刑務所でも珍しい作業として、りっはな墓石を囚人が作っていましたが、これは技術修得ばかりでなく、人生反省にも役立つから、なるべく広く採用した方がよいと感じたことを付言しておきます、
最後に、
佐賀に
おいて調停協会連合公副会長から、
佐賀家裁の庁舎の早急新築について陳情がありました。現在家裁は地裁庁舎に同居しているために、狭くて
事務上不便であることが
理由でありますが、視察の結果、なるほどその
通りでありました。敷地の手当もあるようでありますから、
政府及び
最高裁の特段の御善処を要望しておきます。
以上大要のみを申し述べましたが、詳細の
報告は
現地より提出の資料を付して
調査室に備えつけておきますから、それについてごらんを願います。
これをもって第二班の
報告を終ります。