○八木幸吉君 先日来当
委員会で
審議されておりまた宮内庁所管の正倉院御物の汚染に関連する正
倉院裏の観光道路の問題につきまして、次の決議をすることの動議を提出いたしたいと存じます。
まずその決議の案文を朗読いたします。
決 議
内閣委員会は、前後二回に亘り正
倉院裏の観光道路の許、認可の経緯につき
調査し来つたが、
日本肥鉄士開発株式会社の行為は違法、背信と認めざるを得ない。しかも、建設、運輸両省及び
文化財保護委員会が許、認可をなすに至るまでの間、相互の間において緊密なる
連絡と周到なる用意を欠き、また、右許、認可の際、建設、運輸両省当局より発した通達及び同会社より提出の念証等も正倉院御物保護の上において、遺憾の点あることを、ここに指摘せざるを得ない。
当
委員会は、これら各
行政庁が、この際、文化財保護の趣旨の認識を新たにし、路線の変更等、正倉院御物保存の上に、万遺憾なきょう、
行政運営の面において、十分に配慮されんことを強く要望する。以上であります。
次に、この決議の案文の趣旨弁明をいたしたいと存じます。
まず沿革でありますが、問題の正
倉院裏の観光道路は、史跡指定地域内を通
つている長さ四キロ、幅五メートルのものでありますが、
日本肥鉄士開発株式会社が昭和二十六年末、無免許で開設いたしたものであります。従って、この道路は道路運送法の免許もなく、史跡指定地域内の現状変更の認可も
文化財保護委員会からは受けておらず、無断勝手に施行したものであります。
次に、
文化財保護委員会の態度について申し上げたいと存じますが、その後昭和二十八年十月に至って、
文化財保護委員会が史跡の現状変更に気つきまして、その認可申請の手続をなすべきことを会社に勧告し、自来幾多の経過を経て二十九年六月二十六日、その既設通路と知足院北方の約三百メートルの新設路線をあわせて許可いたしたのであります。その間、
文化財保護委員会は、この無断で史跡の現状を変更したことに対しては、何ら文化財保護法の規定による処罰をいたしおらないのであります。
次に運輸、建設両省の態度について申し上げますが、運輸、建設両省は、昭和二十六年以来の無断道路開設を不問に付し、かつ史跡現状変更道路であるにもかかわらず、
文化財保護委員会に
連絡をせず、昭和二十八年十一月十二日付で会社に対しまして自動車道営業の許可を与えておるのでありますが、その後、昭和二十九年の春に至りまして、
日本肥鉄士運搬のほかに観光バスを通ずることから、東大寺との間に係争事件が起きまして、東大寺境内を通れぬことにな
つたのと、さきの三百メートルの路線は、法隆寺の管長が、正倉院への影響をおそれて、土地売却の契約を解除したため、その使用困難とな
つたので、正倉院東北のすみに
連絡する四百メートルの新道路を三十年三月竣工いたしました。この工事が大部分でき上つた後に、
文化財保護委員会へ史跡現状変更の申請がなされたのであります。一方、運輸、建設両省は、この四百メートルの新道路認可についても、再び
文化財保護委員会には何らの
連絡もいたきなかったのであります。しこうして、この四百メートルの新道路は、当初の路線に比較いたしまして位置が高かったために、より以上害が多いから、この道路のできないことを、さらに強く念願するとは、宮内庁の三井書陵部長が
衆議院の
委員会において陳述いたしたところであります。
次に、違法行為の黙認のことについて申し上げますが、運輸、建設両省は、昭和三十年一月二十九日工事施行の認可をし、完成検査の合格指令書を出したのは同年の十月二十二日でありますが、しかも、この間約九ヵ月間、会社は、供用開始の許しもなくて、無断で観光常業を営んでおり、これは明らかに道路運送法の違反でありますが、これに対しても何らの罰則はとられなかったのであります。さらに道路運送法違反のことは、大仏殿裏へ通じ、その後使用不能となつた路線についても同様であるのであります。
一方、
文化財保護委員会の違法
処置としては、史跡の現状変更には、特別史跡名勝天然記念物の現状変更等の許可申請書等に関する規則の第二条の五によって、所有地主の承諾を得ることが規定されておるのでありますが、それにもかかわらず、この規定に反して、所有地主の一部承諾なしに許可を与えたのは、会社の利益のために
法律の規定を無視したものであ
つて、まことに遺憾と申すほかはありません。いわんやこの規定を無視して、急いで許可したことが正倉院に悪影響を及ぼすものであることを思えば、その
意味を了解するに苦しむものであります。
次に、会社の不誠意の一例を申し上げたいと存じますが、昭和二十九年六月十日、
日本肥鉄士開発株式会社より奈良県知事にあてた念書記載の正倉院西北側の道路舗装の問題も、わずかに北側に不完全なる仮舗装がされておるにとどまり、西側道路は何ら舗装の準備に着手せず、その他芝を植える等の条件も誠実に実行されておらないのは遺憾にたえません。さらにただいま
委員長から、三月三十日
文化財保護委員会が許可を与えたと言われました四百メートルの新道路に対しましても、舗装、散水等の確実な
実施を制約しているとのことは、
文化財保護委員会の資料に記載されているところでありますが、私が去る四月七日現状について実地
調査したところによりましても、四、五分間の間に自動車三台、オートバイニ台が通過して、そのためにもうもうたる塵埃が巻き上がりまして、まことに心を痛めた次第でございます。
以上は、宮内庁、
文化財保護委員会、運輸、建設両省の提出資料並びに本
委員会及び
衆議院の
委員会における速記を中心として申し上げたのでありますが、
文化財保護委員会並びに運輸、建設両省の
連絡の不備、周到なる用意の欠如、不法なる既成事実の黙認、罰則の不適用並びに
日本肥鉄士開発株式会社の違法背任行為の概要等は、ただいま申し上げた
通りでありますが、しかし私は、かかる手続上の問題もさることながら、特に政府並びに
文化財保護委員会の注意を喚起いたしたいことは、御承知の
通り、昭和二十四年一月二十六日に法隆寺の金堂壁画の火災がわが国朝野を震駭し、これを契機として、翌二十五年に文化財保護法の成立を見たのでありますが、本法の趣旨は、申すまでもなく、遠く祖先から受け継いだ世界に誇るわが民族の文化的遺産を将来長きにわたって子孫に伝え、もって文化
国家としての誇りを保ち、世界文化の進歩に貢献せんがためにほかなりません。法隆寺金堂の壁画の事故は、人にたとえれば瀕死の重傷を負つた外科的の疾患とも申すべきものでありますが、正倉院の御物の問題は、短時日にはその影響は現われませんけれども、これが長年月にわたる悪影響は、その局に当る者が十分に注意をなすべき必要のあることは、内科的の慢性の疾患がとかくなおざりにされて、重大な結果を来たすのと同様であると思うのであります。正
倉院裏の観光道路のごときは、か
つて奈良県教育
委員会でも提案され、また、宮内庁においても詮議されたごとく、さらに
文化財保護委員会が強く勧告されましたごとく、柳生街道の方に路線の変更でもすれば、現在のほこりと排気ガスの被害は避け得られるのであります。私は、千二百年にわたる世界の至宝とも言うべき正倉院御物の汚染のために、
関係当局の深甚なる考慮を要望いたしますとともに、本
委員会がこの決議案を満場一致で可決せられんことをお願いする次第であります。