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説明員(
塩崎潤君) お答申し上げます。この概算
所得控除制度は、御
承知のように
昭和三十年度の
改正の際に設けられました制度でございます。創設の
趣旨が、アメリカに選択概算
所得控除という制度がございます。これにならったと言われております。
現行法におきましては、社会保険料控除、医療費控除、雑損失控除、この三つにかわるものといたしまして、それを支払っても支払わないでも
所得の五%、最高一万五千円まで控除する、こういう制度でございます。
現実に社会保険料あるいは医療費あるいは雑損失を受けたもの、こういう支払いのあったものについて、
所得税法ではただいま申し上げましたように、控除の
理由ありといたしまして控除しておるわけでございます。と申しますのは、担税力がそこで減殺されたからだと、こういうのがその
趣旨でございます。ところが今申しましたように、社会保険料も払わない、医療費も払ったか払わないかわからない、雑損失もほんとうに盗難、災害を受けたか受けないかわからないものについて控除するというのは、どうも
趣旨といたしましてはおかしいじゃないか、こういう私
どもは
感じがいたしておるわけでございます。アメリカの方は非常に控除項目が多くございまして、四十何項目と言っておりますが、たとえば離婚した奥さんの別居手当、あるいは自動車に使いましたガソリンにかかるところのガソリン税、それからまた営業に
関係いたしませんところの借金の利子、これら数十項目につきまして控除する、
所得の一割にとどめる、こういう制度でございます。アメリカみたいに控除原因の非常に多いところでありますならば、一々証明をとったりなにかするのは大へんでございますし、証明をとらなくても、そのいずれかには該当しておる。従いまして一〇%引くということが、これは払ったか払わないかわからなくても
一つジャスティファイできるのではないか、かように考えてできた制度ではないか。これにつきましてもアメリカでも、おかしい、そういうものは基礎控除あるいは扶養控除でカバーすべきじゃないか、基礎控除、扶養控除はそういう事業に
関係のない部分の生活費におきまして担税力の減殺される面につきまして控除する制度でございます。それによってカバーすべきじゃないかという
意見がアメリカにすらあるわけでございます。いわんや日本は先ほどから申し上げておりまするような三つの控除原因、項目しかないのに、これを支払ったものと見、雑損失を受けたものと見て控除することが果して担税能力に合うかどうか、こういう点が
税制の理論からなかなか出てこないというのが第一点でございます。
第二点は、これは制度の創設の
趣旨からも言われておりますように、完全にアメリカの制度を持ってきたというのではなくて、御
承知のように社会保険料控除制度は組織的な勤労者に非常に
恩典を与えておる。しかるに一方、
中小企業に働くところの労働者あるいは
中小企業者あるいは農民につきましては、社会保険に入ろうと思ってもなかなか入れないということが言われております。その身がわりとして一時社会保険が普及するまでの暫定的
措置として、これをかわりに設けるのだということが言われたわけでございます。ただ私
どもは社会保険料控除は社会保険料控除として
所得税の
課税標準から引くことに
理由があると、かように考えております。
御
承知のように社会保険料の中に二つの性質がございまして、
一つは短期給付でございます。短期給付の方は、御
承知のように医療費給付の前払いと見られるべき部分でございます。ところが
所得税におきましては、医療費はやはり
所得の三%を越します分につきましては最高十五万円まで、担税力を減殺するものといたしまして控除することになっております。そのかわり社会保険で相殺された分は、填補された分は、そのかわり
所得税の方では控除いたさない、かようになっておりますので、短期給付の分を
所得から引きますことは医療費の前払いと見ていいではないか、こういうように考えられるわけであります。それからもう
一つ長期給付部分がございます。これは年金、恩給その他でございますけれ
ども、こういうものは
現実に支払われないものに
課税するというのは
趣旨がおかしいではないか。御
承知のように月給から天引きされるわけでございます。そのかわりその後もらいます際に全額
課税するということになれば、
現実には支払われない、
所得を構成しない、そのかわり後日支払われ、もらった際には全額
課税する。そのかわり勤労控除を認めているわけでございますけれ
ども、長期給付に基く年金や恩給は給与のあと払いと見るべきである。従って社会保険料を支払う際に給与を支払ったものと見るべきでない、こういう理論から来ておるわけでございます。
そういたしますと、社会保険料控除は担税力が減殺するということから来ておりますのに、その身がわりに支払われないものまで控除するというのは、社会保険の身がわりとしても
趣旨が不合理ではないかというのが私
どもの第二の
考え方でございます。
第三には、もう
一つ、同じ
所得の控除項目といたしまして、今の三つのほかに、
現行所得税法におきましては、今回
改正いたしました生命保険料控除というのがございます。生命保険料も往々にして言われますが、これも支払ったか、支払われないか、受取その他についても問題がございます。しかも社会保険と違いまして、任意に加入でき、また任意に支払いできるものでございます。これが概算
所得控除のらち外にあるものでございます。これから見てもおかしいではないかということが言われるわけでございます。御
承知のように、先ほど申し上げました社会保険料の長期給付部分は社会保険に加入しないものにとりましては生命保険と同様な性格を帯びておるものではないか。そういたしますと、生命保険料控除まで入れまして全般的に概算
所得控除的なものを設けるならまた話は別でございますけれ
ども、これは貯蓄奨励の見地から来ておりますので、これは簡単には入れるわけにはいかないということになっておりますので、それから見てもおかしいではないか。
現実に今申し上げましたような生命保険控除、社会保険控除と合せてみましても、勤労者と営業者との
負担を見て参りますと、なるほど社会保険控除の金額は勤労者の方が多いわけでございます。しかして一方社会保険がそこまで普及していない
状況もございますけれ
ども、生命保険控除の方は営業者の方がはるかに多い
状況でございます。私
どもは社会保険がございますので生命保険に入らないでもいいという気持を持っていますので、
現実には加入していない人が多いようでございます。この両者を合せますと、
昭和二十九年分の資料でございますが、一人
当りは、営業者は八万八千円の控除を受けておる。ところが給与
所得者の方は七万七千円でございます。これから見まして、私
どもは生命保険控除を入れるなら別でございますけれ
ども、それを入れない以上は、やはり筋を通して、この概算
所得控除をやるべきではないかと、かように考えます。ただこういう
中小企業者の
負担の点は、私
ども考えなければならぬと思いまして、
地方税の方では
事業税の軽減がはかられておる。それからまた中小
法人につきましては、国税におきましても逓
減税率の適用の
範囲を拡張いたしまして五十万円から百万円まで広げる、こういうことにいたしております。
税制上の
理由のあるところは軽減する。それから軽減する
理由がないものは特別
措置の整理の機会でございますので、整理したいというのが私
どもの気持でございます。