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参考人(
近藤誠君) 私、
近藤誠でございます。
私
たち役務特需と申しますか、
経営者の方が、
工場あるいは
機械器具を持たない
車両修理作業に必要な
技術者を含めます一切の定められた定員を
米軍側に提供する、そうして一時間
当り幾らという
契約コストでもって
事業が運営される、そういう
事業体に
昭和二十年
終戦後十年間働らいて参りまして、たびたび
間接契約にしてほしいという要望を各方面にいたして参りましたが、いまだにこれが
実現を見ておりません。しかしながら、
動乱以後相次ぐ
人員整理によりまして、そういう非常に悲痛な
人員整理の体験、あるいは
日常作業環境におきます
労働条件の
低劣性、そういうことを
解決するためには、どうしてもこれは
企業内で
労使が話し合いをしても、
米軍という非常に強い力を持った、
政府対一
業者の現在のような私
契約では、これはとても
解決ができない、常に私
たち労働者が泣き寝入りをして一切のしわを負ってしまう、こういうことが独立以降数年にわたる
日本国家としてこのまま放置されていいものかどうかということについて、非常にわれわれは悩んで参ったわけであります。もちろん、
政府の方が申されますように、これは
行政協定の十二条に示されておりますように、
基地内における
米軍の
業者の
選択権という、こういうものがある以上は、なかなか
間接契約に改められない、こういうような
理由もよくわかるのでありますが、しかしながら第二項に掲げておりますような、ことに
日本の
経済に不利な
影響を与える場合には、これを協議するというような一項もございますので、果して不利な
影響を与えているかどうかという点についても、もっとこれは
検討の余地があるのではなかろうかというふうに考えております。
以下、われわれが体験しました具体的な例を申し上げまして御
参考に供したいと思います。かねて
動乱の最中には
契約条項の中に、すなわち
米軍と
経営者側との間にかわされておりますところの
契約条項、これが一切の
規制をしますし、この
契約の
条項の中に
米軍の権利、
業者の責任、義務、任務、そういうのが一切うたってありまして、これによってこれは運営されておりますが、問題はこの
契約条項が果して対等の立場で結ばれたものであるかどうかという点に、大きな問題が語ると思います。この中に
例年、
価格改訂条項というのがございまして、これは
契約期間は一年でございますが、この
契約の当初きめられた
コストが、その後
契約期間の途中におきまして物価の変動とか、あるいは
ベース・
アップとか、そういう
事情が起った場合には、
単価をきめ直すことができる、
価格を再び上げるとか、あるいは下げるとかということを双方から言い出しで、そういう
交渉をすることができるという
条項がございました。私
たちはこの
条項があるなしにかかわらず、こういう
条項があるということは
あとから知ったのでありますが、
例年やはり
賃金の
値上げを
要求して参りまして、この
条項があるときには大体
賃金の
値上げができ、そうしてその次の
契約年度には
経営者の
方々も
単価を引き上げるということに成功して参っておるようでございます。
ところが、これが三十年から
価格改訂条項というものが削除されまして、
米軍側の意向で削除されましてからは、一たび
単価を結んだならば、その
期間中は絶対
単価を上げない、そのかわりに下げない、こういうことになりましてからは、私
たち三十年度からは
賃金が据え置かれまして、そこで三十一年度におきまして、これではとてもたまらぬということで、私
たち特需関係の
労働者が全部で
要求を出しまして、このときには
米軍が大体
契約コストの三宅以内の
賃上げ、ないし
定期昇給ならばそれを認めようという
改訂をいたしたようであります。この
改訂の三%以内という根拠がどこから来ているかということはよく知りませんが、われわれの推察によれば、これは
同種環境に働いております
直用労働者の方、すなわち
駐留軍労務者の方は年に二回の
定期昇給がございます。これは現在二回で約六百六十円、一回三百三十円という
定期昇給がございますが、この額を
基準にしたのではないかというふうに考えられます。そういうことで三十一年度私
たちが
要求しました結果は、
米軍の方も、その結果によるものかどうかはつまびらかにしませんが、改められまして、三%以内というきわめて狭い
範囲でございますが、そういう
賃上げができるというふうに
契約の上でもなったのでございます。
しかし、今ここで
駐留軍労務者の問題を出しましたが、これは私
たち基地の中でこういう
作業を行なっております者としましては、ほとんど同
環境でございまして、同様に不安定でありまして、ほとんど同様に軍の監督を受ける。違うのは入門のときに差し出すいわゆるゲート・パスというものの様式と、それから
作業場内においてつけておりますバッジ、これの色が違う、字が違う、こういう違いはありましても、ほとんど置かれている
環境、
条件は、これは
日本の敗戦によって起った所産でありまして、どちらも変らない。そういう点からいくと、どうしても必然的に私
たちと
直用労働者の
方々の
労働条件というものを比較するようになります。そういう比較をして参りますときに、一方は
調達庁が間に入って
米軍に対して
労働条件その他一切のことを
交渉する、しかしわれわれの場合には
会社側を相手にしますけれ
ども、その背後に厳然と規定されておりますところの
米軍対
業者という私
契約の
契約によりまして非常に大きな差がある。こういうことで今回の
公務員の
ベース・
アップ――
労働の問題に触れてこれは恐縮ですが、今回の
公務員ベースの場合でも年六百六十円の
定期昇給のほかに
駐留軍の場合には約六・二%、千二百円という
賃上げがこれはきめられております。これは
日本政府の方から出しております
防衛分担金の額がきまった
あとで
米軍の方の考慮がなされたということは、これは
米国の予算の方からこういう
値上げ額が考慮されたということでございまして、
特需の一時間
当りの
コストが高い安いというようなことと、これは密接な
関係があると思います。
こういうことで
改定条項にほぼ似たものは今日復活をいたしましたけれ
ども、これもやはり
直用労務者に対する
労働条件とは非常に大きな差のある程度の
配慮がなされたにすぎない、こういうことになっております。
それからさらに
昭和三十年の春、私
たちが
貸金値上げの
要求をしましたときに、たまたまある
会社におきまして、絶対に上げないということで、その
組合は三十五日ほど
部分ストライキを行いました。そうして
経営者の
方々はロック・アウトを行いまして、非常に血で血を洗うような激しい闘争をしたのでございますが、なぜ一社だけがそういうふうに頑強に上げることができなかったのかどうか、こういう点をよく考えて参りますと、その
会社はその前の年に、
昭和三十年の秋に
競争入札をされまして、
契約の建前が
競争入札になっておりまして、他の
会社は大体
指名入札ということで、前年度に引き続いて
交渉を行い、そうして前年度の
単価を
幾ら上げるかということで
交渉を引き継がれましたが、たまたまその
会社だけは、ほかの
業者も現れましてどちらが安いか高いか、どちらが
適格性を持っているかという
競争入札によって次の
契約を取ったために、幾分
契約が前より落ちた、そういうような
事態があったために、おれのところはとても出せないのだ、去年の秋に
競争入札で値段を割られたのだから、よそのようなわけにいかないのだ、こういったような主張でございます。さらに、その
会社は三十一年の一月に多くの
人員整理を行なっておりまして、来たるべき四月、五月にもさらにまた
人員整理がある、こういうような話が大体わかっておりましたから、
人員整理がありますというと
退職金の
支給額がこれも
直用労働者に比べまして非常に低い、半額の
状態になっております。そこで私
たちも
予告手当というものを
要求しまして、約一カ月分の
賃金に見合う
予告手当を獲得して、そうして
退職金の低い差というものを埋めようということになります。ところが、この
予告手当というものは
経営者の方でもって
米軍に
要求しましても、
単価の中に認められない。ということは軍としては三十一日前に
予告をしたのだから、
日本の
基準法は三十一日前に
予告すれば
予告手当を支払わなくてもいいということになっている。従ってこの払った
予告手当は
経営者が勝手に払ったものであるから、軍の方ではそれを
単価に認めないという態度を変えておりません。そのために
経営者の方はよけいに
人員整理が出るという予想を持っておりますと、一そう財布を締めてしまう。今申しましたように
一つは前年度の
競争入札ということで
単価を割られ、さらに
人員整理の場合に同
環境の
直用労働者よりはなはだしい低い
退職金を埋めるための
予告手当というものが、
米軍の方から
単価に認められない、こういう
二つの
理由によって激しい血で血を洗うような争いがその
会社では起りましたが、もしも
競争入札というような
方式をとらずに、
予告手当というものと
労使の慣行を
米軍が理解したならば、こういうものは未然に防げたのではなかろうかと考えまして、これもやはり現在の私
契約からくる大きな矛盾、あるいは不合理であろうというふうに考えております。
それからいま
一つ、われわれの方から申し上げるごとでないかもしれませんが、一時間
当りの
修理コストが高いということをわれわれが
要求を出しました次第でありますが、私
どもが
米軍と直接
交渉するのでないのですから、具体的にはわかりませんが、
一体修理コストの高い、安いという
基準は、一体どこにあるのだろうか、これは今後の
日本の
修理産業の上に大きな問題になろうと思います。たとえば
東南アジアに対しましても、あるいは今後中共に対しましても国際的な
日本の
修理に携わる
労働者の
賃金が一体どのくらいが妥当であるかどうかということは大きな問題と思いますので、申し上げますが、私
たちの
会社側と軍との間に結ばれております一時間
幾らという
契約コストの九〇%は
労務費でございます。そのほかにいわゆる経費、
利益、そういうものによってこれは成り立っておりますが、少くとも一〇〇の
契約コストのうち九〇%の
労務費を含まれる
コストというものは高いか安いかということになって参りますというと、これはその
労務費が高いか安いかということになるのじゃないかと思います。しからば高いか安いかという問題の
労務費は、先ほど申しましたように同
環境の
直用労働者諸君に比べれば
退職金、
貸金、一時金を比べまして非常に低い。さらに
同種のいわゆる
国内自動車産業の
労務賃金に比較しましても、これはさらにもっと大きな差があるということになりますと、この九〇%を占める
労務費が低いということは、
修理コストが低いということになるのじゃないかというふうに考えております。もちろん、これは
工場の
設備であるとか、あるいは
生産能率の問題というものが、これは付帯しますけれ
ども、そういう
設備とか、
生産能率とか、
生産工程とかいうものは、
米軍の
管理下に
規制をされておりますから、これは
経営者といえ
ども労働者といえ
ども、もっと
生産を上げたいと思いましても、もっと
修理コストを低くするために
創意工夫をしたいと思いましても、これは
基地における
米軍管理下の実態ではどうにも動かぬということになりますと、やはり現在の
修理コストの一番正しい
基準のとり方は、九〇%を占めておるこの
労務費が問題になろうというふうに考えております。時間が
規制されておりますから……。
以上、
契約の面からくる矛盾の一端ですが、私
たちは過去十年間非常に苦しみまして、そしてどう
交渉し、どう努力しても、思うようにならぬ。これが現在の
基地内における実態である。これを
政府の
方々にたびたびお話し申し上げましても、今日まで実らない原因について、あるいはひがみかもしれませんが、われわれの見解を申し述べますと、
特需というものは近々なくなるのではないか、あるいは
政府の方も一応
米軍の方といろいろ折衝されたことと思いますが、なかなか思うようにいかない。昨年あたりの情勢では、もうどんどん減ってきまして、急減という情勢であるから、こういう情勢の間で無理をして
間接調達しなくても、行く行くはなくなってしまうのではないか、こういうようなお考えがあったのではないかと考えております。しかしながら、最近の情勢によりますと、性格の違った新
特需というものが導入されるとしますならば、われわれ二万の
技術集団というものは、やはりこの仕事におきましては、
日本において比類のない熟練者であるから、ここで働きながらなおかつわれわれの指向する方向に
転換していきたい、こういう意向を持つのは当然のことでありまして、今後相当量、相当
期間、来るのではないかというその
事態に対しまして、新しい認識のもとに現在の私
契約方式という非常に人道的にも、あるいは合理性の上からも矛盾きわまる実態を一日も早く改革されて、
政府の
対策、保護というものを入れました間接受注
方式に改めていただきたいということが、私
ども二万人の
労働者の念願でございます。
以上、簡単でございますが、
参考意見といたします。