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参考人(酒井義雄君)
上野旅館従業員組合の執行
委員でありまして、並びに全国
旅館従業員組合連絡会議の
議長をやっております酒井義雄でございます。私たちの
立場から、この席で
意見を述べさしていただくということになりましたことについては、全国の
旅館従業員全員にかわりまして厚く御礼を申し上げます。
業法の一部を
改正する
法律案のこの御趣意に対しては大へんにけっこうなことだと思いますが、私たちの
立場から
一つ一つ簡単に
意見を言わしていただきたいと思います。この
旅館業法というものが、まるで業
そのものが世間のいわゆる
善良なる
風俗を非常に逸脱したものであるというふうなお
考えがあるとすれば、本質から違うと思います。健全なる
旅館営業は、
学校の玄関の前にあっても決しておかしいものでない。また、全国の大多数の
旅館はそういうふうな
営業を日々やっておるわけでございます。ある特定の例があったからといって、その特殊な例に基いて、
善良なる
旅館が不必要な
規制を加えられるというようなことがあったとするならば大へんな問題だろうと
考えます。なお、この
改正のいわゆる
目的と言いますか、要するに、一般の大衆に気持よく
旅館の
施設を
利用させるというふうなところに観点があるというふうに
考えられますが、この法案全体をながめまして、外の形と言いますか、
旅館の
施設であるとか、
利用方法であるとかいうふうな点から、非常にいわゆる
旅館そのものに
規制を加えるというふうなお
考えのようですが、この
旅館を
利用しているのは、いわゆる国民全般であるというふうな観点もお忘れなく、
旅館のみを責めるというようなことがあっては、多少ピントがはずれるというふうに思います。なお
旅館には、これは女中にしろ、番頭にしろ、従業員はつきものでございまして、主人一人がいかにさか立ちしようとも、十数室、二十数室の
お客の接待はできないのであります。従って、この快適な旅客の宿泊をさせるということについて、この法案が従業員の
内容、あるいは実際の
実態というふうなことについて全然配慮がなされてないように思うのです。そういう点私たちとしては非常に不満でございます。現在の私たちの労働条件というふうな観点から
考えますならば、法の主
目的とする快適な宿泊をさせるとか、あるいは一般旅客に対して十二分にサービスをするということにはほど遠いのであります。と申しますと、要するに、現在の労働
基準法というものは、私たち従業員の現在の労働条件からいけば労働
基準法は行方不明でございます。こういう点を本質から改めなければ、私たちはいわゆる安定した生活、いわゆる生活の安定というものから発するところの、ほんとうに明るい、真心込めたサービスというものは望めないというふうに
考える次第でございます。たとえて申しますならば、いわゆる勤務する以上、一定の生活保障給というものが当然あってしかるべきだと
考えますが、私たちの給与の
実態は旅客からいただくチップであるとか、あるいはつけ出しの奉仕料だとかいうような実に不安定な収入に依存をしておる現状でございます。まあ理解のある
旅館主は固定給を支払っておるといっても、それは非常に申しわけ
程度の微々たるものであって、まあちょいとぜいたくな
子供が一カ月間に使う小づかい
程度のものしか固定給としてはもらっておらぬのであります。なお、時間的
関係に言いましても、非常に
旅館従業員の勤務は長時間でありまして、肉体的の疲労というものも大へんなものでございます。あるいは休息
設備、大体
旅館の従業員はその店に寝泊りをしておりますけれ
ども、その
設備が非常によろしくないということも全国共通の現象です。
〔
理事山本
經勝君退席、
委員長着席〕
いわゆる旅客を泊める
部屋の方にばかり経営者は、
旅館主は気を取られて、従業員のいわゆる休息安眠というふうな観点は抜けております。さらにまた、
旅館の
営業上必要な消耗品、たとえば石けんであるとか、タオルであるとかいうふうなものがいわゆる女中の負担になっておる。不安定なチップの配分の中からこれらの費用を負担しなければならない、こういうふうな
実態であります。さらにまた、旅客の
宿泊料が貸し倒れになったような場合、その負担を係の女中にさせるというふうな残酷な慣習が全国的にございます。まあ今申し上げましたようなことがわれわれの現実でありまして、こういうふうないわゆる現在の世間の労働常識と言いますか、常識的労働条件というものからはるかに遠い、また、完全に置き忘れられた存在にある私たちの
立場が全然考慮に入らずにただ単に
部屋を、あるいは
学校との距離的
関係を、あるいはまた、
施設の
利用方法ということのみにとらわれた
業法改正というものは、仏作って魂入れずというふうな結果になるのじゃなかろうか。なお、
基準法において私たちが、いわゆる施行規則第二十七条で一時間の労働時間を余分に
法律で定められてあります。私たちだけがなぜに八時間労働から一時間余分に働かされなきゃならぬのか、あるいは
旅館業法という
営業そのものから、その一時間の余分が必要ならば、他の条文においてそれを裏づけるだけの保障があってしかるべきだと私たちは
考えます。しかるに
基準法にはその観点が何もありません。なお、健康保険に至っては
基準法においてわれわれにそれだけの余分な労働を与えておきながら、課しておきながら健康保険の強制適用外にしているというふうな観点に至っては、これは諸
先生方の真剣な御検討を私たち全従業員こぞってお願いする次第でございます。
旅館業というものがそういう観点から時間的に世間と比べてやむを得ないならば得ないなりに、従業員の保護といわゆる生活の安定、あるいは健康の保持と、あらゆる点において施策をお願いしたい、こういうふうに
考えるわけでございます。そしてそういうふうな普通の条件に恵まれて初めて私たちが宿泊する旅客にいわゆる明るい真応をこめたサービスができる、それによって旅客が初めて快適な宿泊ができるというふうに考うる次第でございます。
それからこの第二番目にあります
施設の
利用方法等の
政令がわかりませんので、この
内容によっては大へん問題も起きるかと思います。たとえばふろの使い方というふうなところにポイントが行って、
学校の窓からふろの中がのぞけたのでは何にもならないのであります。ですから、
政令の定め方というものはいわゆる
旅館業の
実態に沿ってやっていただきたい。
それから(7)の三年間の
経過規定は大へんけっこうでございますが、
旅館業というものはぼろもうけのできる
営業ではございません。確実な商売でしょうけれ
ども、いわゆる外交員の腕
一つで百万の売り上げが三百万も五百万もできるというふうなものではございません。あくまで
部屋の数、畳数というものが
営業の
基準になります。ですからいかに優秀な
設備を誇り、いかに
教育された訓練された従業員を備えてみても、さらにまた、いかに恵まれた
場所に
旅館を
営業してみても、やはり収益というものは、畳数と
部屋数というものに本質的な何がありますので、この
経過規定で、
施設のいわゆる改善しなければならないとするならば、この点もいわゆる裏づけというものに御配慮がなければ、いわゆるささやかなる
旅館の
営業で細々と生活をしておる
旅館主のしわ寄せがどこへくるか、従業員のいわゆる経費と従業員の面に支払う金銭というふうなところにまずそのしわ寄せの一端がくる。現在の
営業の
あり方から見て私らはそう感ぜざるを得ないのであります。ですから、の
施設の改善というふうなことがどの
程度のものであるかはわかりませんが、
経過規定というものを設けられるだけの御配慮があるならば、どうかこの裏づけというものをお忘れのないようにお願いしたい。
それから
教育環境ということが大へん問題になっておりますが、これもいわゆる特定の地域における問題、それ自身の問題でございまししょうが、全体の観点というものも、これはいわゆる角をためて牛を殺すというふうなことのないように、なお、この
教育環境というここにあげられてある観点からは多少離れるかもしれませんが、修学旅行とてもいわゆる
教育以外のものではないはずです。修学旅行も重大なる
教育の
一つです。この修学旅行の宿泊について、現在の実情からかんがみていわゆる小学生、中学生、高校生等の修学旅行の宿泊の
実態を私たちの
立場から見た場合に、これを
規制する何ものもない。現在のままでいいか、決してよくございません。修学旅行がこのままあるいうふうな宿泊の状態に置かれているということは、これはこの際、今からではもうすでにおそいくらいです。これに対する宿泊の
規制というものは絶対になされなければならない。ふとんの重荷でふすまがはずれるような、物置に荷物をほうり込んだような宿泊をさせておいて、どうして学生が無理なスケジュールで一日を追い回されて、翌日の見学のためにいわゆるほんとうの休養をとり、安眠ができますか。みな寝ていられないので夜中の三時、四時に起きて騒いでいるじゃありませんか。そうしてこの先生は何をしているか、PTAの父兄は何をしているか、
自分らはいわゆる校長であるとか、PTAの
会長の婦人であるとか、つき添いであるとかいって学生と同じ値段で泊っておきながら、一室を要求して宿泊する。校長であるから一
部屋、女であるから一
部屋、そしてそのしわ寄せは結局生徒の方にやってくる。そして
子供はぎゅうぎゅう詰めで寝ておる。さらにまた、この衛生的面から言うならば、
子供を寝せる寝具に至っては貸しふとん屋から借りてくる、あるいはその店でその寝具を十分用意している店もございましょう。けれ
ども、その寝具を一斉に日光消毒をしておるという所を私見たことがございません。さらにまた、敷布、まくらカバー、あらゆるこまかい点について、一年に二百万近い学生の修学旅行が何日も泊るその
旅館の宿泊の
実態について、そういうこまかい点まで配慮されなければ、この修学旅行の
教育目的というものは十分に達せられないのじゃなかろうか、現在のままでは断じてならぬと思います。
それから
風紀問題その他の例でございますが、かりに、
売春防止法の問題その他にからんで、
売春のいわゆる
場所提供の観点で警察が
旅館主に必要な
措置をするというふうなときに、係り女中なるがゆえに、同時に検挙されて、五日間も留置されるというふうな事例がすでにございます。従業員に何の責任がありますか。
自分の与えられた主人に対する当然の勤めをしておる従業員が、いわゆるねらった星が入ったからというふうなことで、経営者とも
ども検挙されて五日間も留置場にぶち込まれる、こういうのが現在の
実態なんです。だから
規制を加えるのもけっこう、あるいは
取締りの
方法を定められるのもけっこう。けれ
ども、世の中はなかなか諸
先生方がお
考えになっている
通りには現実は動いていかないのです。そういう点も十分御配慮いただいて、私たちがこういう情ない状態で働いておりながらなおかつ、そういう過酷な目にあうということのないように
一つよろしくお願いしたいと思います。
それからさらに
旅館の、いわゆる
売春防止法が完全施行された後における
旅館のそういうふうな横すべりといいますか、いわゆる
旅館の
実態が現在の吉原のわけのわからないような存在になるのじゃないかというふうな観点も
多分にあるようですが、まあ私らに言わせれば、家には家風がある
通り、
旅館にも、いかに小さな
旅館にでも
旅館の主人には主人の見識がございます。また、その
旅館主の見識に基いて全国の五万数千軒の
旅館は長年にわたって正常なる、純粋なるいわゆる
旅館営業をしてきておるのでございます。今後不純なものが新たにできることは知りません。けれ
ども、現在いわゆるまじめな
営業をしておる
旅館主がそういうふうな単なる世間の心配の
通りに、たとえば上野の
旅館街に吉原が引っ越してしまったというふうな事態は絶対に起らない。不心得な
旅館主が、現在の法の盲点をくぐってやっておるような事例も聞いてはおります。それはそれで例外でありまして、全体は絶対に違う。いわゆる
旅館主には
旅館主の見識がある。見識によって
一つの
営業をしておる。また、女中には女中のプライドがあります。この女中の仕事というものもふまじめな者、努力をしない者にはとうてい勤まらない仕事なんです。また、その旅客を扱うという
旅館女中には
旅館女中のいわゆる見識もございまして、そんなに皆さんが御心配になるほど悪いものじゃないのです。そういう点もかねがねお
考えの中につけ加えていただきまして、将来の心配のあまり、将来の無理な予想のあまり、現在のいわゆる
善良なる
旅館に不必要な
規制を、不必要な必要以上の制限を加えるために警察の干渉を受ける、保健所の役人がのさばる、そして
旅館主も泣く、従業員が泣くというような、こんなふうにならないように十二分な御配慮をお願いしたいと思います。
御質問がありましたら、
あとでいかようでもお答えさしていただきます。一応私の話をこれで終らしていただきます。