○
山下義信君 私が昨年くどくどしくいろいろなことをお尋ねしましたので、同じことは避けたいと思います。私も老齢でありまして、あるいは今夕もはかられませんので、私の質疑は、実は遺言のつもりなんです。(笑声)いつかもわかりませんから、これは質疑でなしに、質疑というよりは、私は
自分の所信を
大臣に申し上げて、遺言のつもりで残したいという実は気持でおるのです。この間うちから
健康保険のいろいろなことを調べて、相当疲労こんぱいいたしております。それで、まあそういうつもりで、昨年申し上げたことは言わないつもりです。それで今の
大臣の、わが国の医療保障制度の性格、基本方針いかんということについての御所信は、結論的に申し上げますというと、現状維持論、こういうことです。これは現状維持論であり、同時に、いわゆる公営主義か民営主義か、国営とは私はいいませんが、公営主義か民営主義か、こういうことになれば、できるだけ公営方針の方へいくということは、これは考慮して、
医療機関でいうならば、私企業の民間
医療機関をフルに活用する、これは言ったんです。医療保障制度のごく一部分をつかまえていえばこういう方針である。これは言いかえれば、現状維持論、これをいわゆる社会保障制度
審議会の今回勧告をしておるのは現状維持論、そうしてその冒頭にイギリスの国営主義を誹謗して、
衆議院を誹謗したより以上に英国の国営医療保障制度を、社会保障制度
審議会は非難しておる。あたかもそれに類するが
ごとき主義政策を持っておるものは云々ということで、暗にわれわれを誹謗する、社会党はイギリスの国営医療をやろうとは
考えておりません。私
どもの政策は、国費中心主義という
言葉で表現しておりますが、その社会保障制度
審議会の諸君の議論は、現状維持論、これは理論がない。何ゆえに現状維持をするかといえば、仕方がないから、直しようがないから、まあ現状でいくより手がないというのがあの諸君の勧告である。なぜそういう勧告を出すかというと、一人は組合連合会の会長、一人は共済組合の理事長、ですからその現状維持論にみんななってしまう。これは結局八百長で、お互いにそれぞれの立場で、その点は現状維持に利害が共通するから現状維持論、私はそんなことを言っておりても、日々おのずからだれがそうさせるのか、これはわからぬ。いわゆる大東亜戦争はだれが火をつけたかわからぬと同じように、だれがその方向へ進みつつあるか、何者が進みつつあるか、牽引力はどこにあるかわからぬ。それが意識的に牽引しつつあるのか、無意識的に自然にわが国の政治の諸情勢でそういうように推進しつつあるのかわかりませんけれ
ども、振り返って見ると、だんだんわが国の医療保障制度も、次第に国費中心主義に進みつつある、次第に国営的な方向に進みつつあるということだけは、振り返って見ると、いなむことはできません。その医療保障制度の上に、非常にいわゆる国が経営上の立場を持っている。いろいろな面を、私がこう
自分で、一人でですね、こう
自分でメモをしてみるというと、いわゆる医療保障体系におきましてはですよ、このわれわれが論議している
健康保険は、
政府管掌だ。
政府が経営している。そうして監督強化をし、
政府が経営者であるという立場に立って、いろいろ
保険医制についてもしばしば手をつけようとする。それからその他の日雇い
保険も
政府が経営をしてやるのだ。それから生活保護の医療扶助制庭も、
政府がこれをやるのだ。国民
健康保険も
政府がうしろにおって、自主
機関は市町村であるけれ
ども、公営です。いわゆる国民皆
保険でいこうとする。国民
保険、この医療保障も公営です。その他共済組合、その他多々ある。そうしてそれらの事務費は全部国費から出る。すなわち、この体系は公営主義にあらずして何ぞやです。非常にその公営の面が強いのであります。そうして
医療機関は年々歳々、同僚諸君が
指摘されましたように、公的
医療機関は続々として増設されていくのであります。私企業を尊重するとおっしゃったけれ
ども、民間
医療機関を圧迫すること実に日に増して深刻である。こういう方針をとっておいでになる。そうして病気の治療そのものに関しまするというと、結核対策というものは今日これは国営です。国営の結核対策をしておいでになるのであります。そういうことを
考えてみますると、たとえば医療制度にいくというと、医薬分業、これはあなた、強制的医薬分業制度です。その強制的医薬分業制度を、骨が抜かれてはおってもです、要するところ、少くとも形態は強制的医薬分業。その強制的医薬分業というものを基盤にして、新医療費体系を作ろうとするので、その方向へ
政府が
法律をもってこれを引っぱっていくのである。そういうことを
考えますと、たとえば無医村対策ですよ。無医村対策でも、民間の
医療機関を無医村に持っていこうという御計画ではないのです。
予算を見ても、何を見ても、いわゆる国立
病院の出張所を作ろう、みなそういうので、無医村にも公的
医療機関を配置しよう、だんだんそういうものを拾い上げてみますというと、わが国の医療保障制度全般が、その医療保障制度の体系から言うても、医療制度から言うても、
医療機関の制度をとって参りましても、私は非常にその公営主義のところがだんだん、だんだんその部面が広まって参りまして、わが国の医療保障制度の少くとも七〇%は、経費においても、制度においても、
法律においても、国が動かしている。国が経営している。国がうしろにおってやらしているという面が逐次拡大されつつあるということを、私は事実において現状分析してみますと、そうなるのだ。そういう方向に進まぬのであるということならば、国民皆
保険の性格、すなわち、わが国の医療保障制度の性格というものは大転換をしてこなくちゃならぬ。回れ右をしなければならぬ。回れ右をするのか、このままの態勢を進めていくのかということの基本方針が定まらなければですよ、
健康保険の
改正を
一つするにいたしましても、
政府の方針で定めていくというものは動かすべからざるものである。
保険数理に基くところのいろいろの金銭的な問題は、これは日々、年々動かしてもよろしいものである。しかるに今回の
健康保険改正案でも、そのときの情勢によって動かしてもよろしいものはあくまでも固守なさる。動かすべからざる
政府の方針のようなものはすぐに全面削除だと言うて動かしなさる。でありまするから、
一つの
改正案をお出しになるのでも、その
改正案に対する
政府の御態度でも、始終どこが動くのか、動かすべからざるものを動かし、動かしてよろしいものを確固不動にこれを固守なさるというように、すべての方針が私は支離滅裂であると思う。おそらく私は岸内閣が近く新政策をお出しになるということです。私は先日伺おうと思うたが、ついに
機会を逸しましたが、その政策の中に何をお出しになるか知りませんが、私のひそかに推測するところでは、おそらく岸総理は、時来たらば医療国営を打ち出すと、私は確信しておる。確信しております。もし
厚生大臣は、そういう医療公営の方針には進まぬのだ、おれは民営主義だという御方針なれば、総理
大臣との方針がどこかで相反するときがくるのじゃないかと思うのです。私は先日総理の面前で、久しぶりで有能なような、有能らしいような
厚生大臣をお迎えしたと、(笑声)保証をつけておきました。私
どもは率直に申し上げますというと、失礼でありまするけれ
ども、国会は閣僚諸公を採点いたします。この公けの席上で、久しぶりで有能らしい
厚生大臣を迎えた、(笑声)ということの保証をつけておきました。そうしたら総理は、いや、これから
厚生大臣とよく協議をいたしまして、ということでございますから、おそらく続いて閣僚の地位においでになると思いますが、(笑声)しかし、総理の御方針と非常に食い違うようなことになりますと、私はこれはせっかく私
どもが御推薦申し上げておるのでありまして、これは私はそういう点におきましては、一定の基本的な方針をおきめになりまして、将来のわが国の政治の方向とにらみ合せられまして、この医療保障制度の性格の基本方針というものは、お進め願わなきゃならぬと
考えるのでありますが、大へん長広舌を弄しましたが、これは遺言でございますからね。(笑声)ですから
一つ厚生大臣の御所信を承わりまして、できるだけ現在の方針をお進め願いまして、民間の
機関を御利用なさいますることはお説の
通りでございますが、国の
責任制というものを憲法の明記に従いまして、私は
十分一つ強力に御推進を願いたいと、これは
希望でございますが、重ねて御所信を承わりたい。