○
説明員(松田心一君) 僭越でございますが、それでは私から一言申し述べさしていただきます。
先ほど来、
厚生省の設置しております研究班が積極的にあまり仕事をしていないのではないかというお言葉をいただきまして恐縮いたしておるのでございますが、この機会に、最初の
いきさつをちょっと簡単に申し述べさしていただきたいと思うのであります。
私がこの
厚生省の設置いたしておりまする研究班の主任研究者としての責任を持たされましたのは、現在の今度発生いたしました病気につきまして、いろいろ地元の方でも対策
委員会を作り、また、大学でも研究班を組織してやっておりますることに関連いたしまして、ぜひ
一つ疫学の面からさらに突っ込んだことを調査してほしい。それにはぜひ公衆衛生院の疫学部が専門の部なんだから、
一つその点ぜひ突っ込んだ調査がしてほしいのだというお話もございましたのと、それからもう
一つは、熊本大学には御承知のように、専門の各教授がたくさんおいでになりまして、尾崎医学部長が中心になって研究班を組織されまして、内科の勝木教授、病理の武内教授、小児科の長野教授、あるいは公衆衛生の喜田村教授、衛生学の入鹿山教授というふうにりっぱな教授陣をもってせっかく研究しておられますので、ぜひこの大学の研究班の皆さんと協力して、
一つ厚生省の研究も進めた方がよかろうではないかというお話になりまして、私が現地へ参りましたときにも熊本大学の先生方にお目にかかりましてそういう意味のことを申し上げ、ぜひ
一つ私
どもはお手伝いに来たような格好で、いろいろなお調査の十分でないというような面もありましょうから、疫学の立場でお手伝いさしていただくのですというようなことで、十分な期間的な余裕もございませんでしたので、一週間現地でもりばら疫学調査に専念いたしたわけでございます。従って専門的なことにつきましては、今申し上げましたように、大学のりっぱな先生方がそろっておられますので、
一つそれを主任の研究者として私がまとめ役をお引き受けする、微力ながらまとめ役をお引き受けして、そしてできるだけ早くこの病気につきましての本体を明らかにするようにいたしたいということで、私が初めて現地に行きまして県側と大学側と相談いたしましてそういう話ができたわけでございます。それが実は十一月の終りでございまして、患者ももう大体下火になったころだったのでございますが、そこで私
どもはその疫学
資料を調査いたしました。相当広範囲にわたる調査でございましたが、たとえばその市民の全体の
基礎調査はもちろんでありますが、病気の発生しておりまする部落の患者の実態、ことに環境衛生施設あるいは
生活様式、あるいは
食品の摂取状況等はもちろんでありますが、そういう患家初め、その他の部落の実態を疫学的にこまかく調査いたしまして、その
資料を持ち帰りましたのでありますが、もちろん相当膨大な
資料でございますので、市役所、市の対策
委員会等の御協力を得まして逐次これを整理したのであります。そのほか表に出ました患者以外に、やはり潜伏している患者もありはしないか。たとえば学校の学童あるいは中学校の生徒、こういうような者の間にも、やはり自分が気がつかないでも病気になっている者もありはしないかということで、約四千人ばかりの学童、生徒を
対象に連日身体検査もいたしました。また、過去にさかのぼって、
昭和二十八年以前にやはり死亡者があったのではないか。気がつかないうちにやはりこの病気で死んだ人があったのではないか。これはこの
事件の発端を押える上に非常に重要なことでありますので、そういうようなこともいろいろ調査いたしまして、それらの
資料を持って帰って検討いたしたわけでございます。その結果は、やはり大学及び研究班の県側、その他地元の保健所、市役所の方々ともそのデータにつきましてよく打ち合せし、検討する必要がありますので、先ほど山口
局長からお話がありましたように、一月二十五日にその報告会をいたしたわけであります。その後なお大学方面では着々研究も進めておりまするし、保健所の方でもいろいろな
資料について検討を続けると同時に、いろいろな材料などにつきまして、たとえば魚ですとか、あるいはネコ等を使っての動物実験ですとか、いろいろ進めております。また、大学でもそういうふうな動物実験をさらに進め、あるいは細菌学的な研究を進めておりますので、そういう成績につきましてはさらに三月十日を期してそのデータを持ち寄って検討しましょう、こういうふうに話ができておりまして、そのためにそれらの成績を取りまとめるべく目下いろいろと努力をいたしておるわけでございます。
そこで先ほど谷口先生からお話がございました件でございますが、この病気の本体が
一体何であるかということでございますが、すでに熊木大学では昨年の十一月に中間成績を発表されておりまして、一月の二十五日の会合のときにもいろいろ報告があったのでございますが、そのときは大学の先生がお二人お見えになりまして、微生物学の先生と、病理学の先生がお見えになったのでございますが、いろいろお見えになりましてそうしてお話をいたしました。そうしてそのとき先ほどお話が出ました予研の北岡ヴィールス・リケッチャー部長の方からも研究の成績の発表がございまして、それらの各先生方と大学の研究のデータを検討いたしました結果、日本脳炎ですとか、あるいは小児麻痺、いわゆる急性灰白髄炎でございますが、こういう病気につきましては、どうもこれが原因と疑うのは、少しもうその疑いが薄らいだ。どうもそうではなさそうだというようなことになりまして、ことにこの熊本の内科の勝木教授のところでも、日本脳炎の補体結合反応などをおやりになり、小児科の長野教授のところでもおやりになっております。それから六反田教授のところでもおやりになっておりますが、それらのデータを拝見いたしますと、日本脳炎やあるいは小児麻痺はどうも少し疑いが薄らいだというふうなことになっておりまして、それならば何かはかにヴィールスの疾患があるのではないか。これはさらに専門の六反田教授の方で患者の材料その他をとりまして追求していきたい。さらに検討を続けたいというふうなお話になっておりまして、その研究を進めていただいておるわけであります。それから公衆衛生学の喜田村教授及び衛生学の入鹿山教授の方では、やはり工場廃水というものを一応疑ってその方の研究も続ける必要があるというので、いろいろその工場廃水、あるいは地元の海の土壌、海水その他を分析されておりますが、その分析の結果につきましては、まだ明らかにこういう物質のために魚が汚染されて、その結果こうした病気を招来しておるのだというふうな
結論を導き出すほどのものは正式には出ておらないのであります。目下これらの専門教授のところでは、せっかくその調査を進めておるのでありまして、先般一月の会合のときには、この疾患は非常に重大な疾患であるとともに、まことにむずかしい疾患である。だから熊本大学といたしましては、明年度さらに陣容を整備して現在は七人の教授の班でございますが、来年はさらにそれを倍にして耳鼻科あるいは法医学その他各専門分野の教授を網羅した十数名の教授陣をもって、
徹底的な本病の本体究明を行なっていきたい、それにはやはり相当の研究費が要る。現在でも熊本大学では学用患者としてこれまで収容いたしました患者に要した
経費は、食費、治療費を含めまして百八十七万円と聞きましたが、非常な金がかかっている、ぜひ金を何とか工面していただいてでも研究はさらに続けていって、一日も早くこの本病の本体を究明したい、こういうふうにこの前のお話でもみんなが話し合ったわけであります。近くその後のデータが私
どもの手元に参りますので、さらにそのデータにつきまして、
関係方面と研究を続けていきたいと思いますが、何分にも現地とは相当離れておりまして、連絡にちょっと不便な点があることが残念なわけでございますが、ただ熊本大学には非常にりっぱな専門の先生がおられますので、その先生方の代表として医学部長が入っておるのであります。私
どもの方は疫学の立場で、予検の北岡教授は病源の究明という立場で、協力しておられるということになっておりますので、やはり今後ぜひともこの病気の本体につきまして、私
どもその責めを果したい、こういうふうに
考えておるわけであります。
それから剖見でございますが、解剖
所見でございますが、これは実は先例についてもちろん行われておるわけでございませんで、解剖学の武内教授のところで四例解剖しておられるのでありますが、そのうちの二例は、実は地元の開業医の先生方から脳髄の方を提供を受けられた。
あとの二例は大学で死亡したものを解剖しておられるのでありますが、解剖の
所見は中枢神経、ことに脳脊髄神経の血管壁の外膜の拡張、血管周囲の水腫というふうな症状が見えます。ただし、炎症性の細胞侵潤というものは見られない、そのほか神経細胞、そういうふうなものが多少増殖しておるというふうなことでございまして、武内教授の
所見といたしましては、広義の中毒症、どうも炎症性の疾患とは思われない、広義の中毒症のように思われるとの
意見です。で、直接の死因は、嚥下困難がございますために、異物を吸入して肺炎を起して死しぬので、つまり肺炎の炎症像が見られる、こういうふうなことでございます。大体概要を申し上げた次第です。