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加藤シヅエ君 私は、総理
大臣に対して若干御
質問いたしたいと思います。総理
大臣は、
国会が終了いたしますと、まず東南アジア数カ国、それから続いて米国を訪問なさるというようなことを承わっております。それで私は、東南アジアの国々を御訪問なさるにしても、あるいは米国を御訪問なさるにいたしましても、まず
日本としては、一番近いお隣の韓国との問題をどうするかということにつきまして、長い間御当局も非常な御苦心をなさって、会談をなさっておいでになったようでございますが、ただいまのところ、何か一応行き詰っている、これを打開しなければならないというところに到達しているというふうに伺っておりますので、今こそ総理
大臣として、この日韓の問題をどんなふうに打開したらいいかという、そのはっきりした御所信を表明していただくのに一番いい機会だと思うのでございます。それにつきまして、去る三月の二十九日から四月の八日まで、
フィリピンのバギオにおきましてMRAが主催いたしましたアジアMRA
会議というのが開かれまして、これは、総理
大臣も、かつてMRAが
日本に芝居を持って参りましたときに、それをごらんになったり、あるいはちょうど今から一年前に、MRAの創始者のブックマン博士が
国会を訪問されたとき、お会いになっていらっしゃるので、御記憶があると存じますが、MRAの主催の
会議におきまして、二十七九国の人々が集まりまして、ここでは、非常に精神的な面の
国民外交というようなことを求められたのでございます。
日本からも二十人の人が出席いたしまして、
国会からは星島二郎代議士、そうして野党として私がここに出ておりました。また韓国からは、五名の方が出ておられたようであります。アジアのほかの国々からも、それぞれ指導的立場の方が来られましたけれども、私どもとしては、特にこの
会議を通じて、
日本と韓国とが、和解がどのようにしてできるかということにつきまして、たくさんの時間をもっていろいろ努力いたしました。その結果といたしまして、初めて韓国の方々と私ども
日本人とが気持を打ち開いて話合いができるというような空気を作ったことが非常な成功であったと思うのでございます。ここでは、あくまでもお互いにほんとうに信頼のできるような、そういう
関係を作ろうということに努力をいたしました。そうして、かけ引きというようなことは一切放擲して、お互いに人間としてほんとうのことを言い合い、お互いの信頼感を作るということに努力いたしました。その結果が大へんによかったものでございますから、ここに、四月十五日付の
アメリカの国
会議事録に、前外交
委員長のセネター・ワイリー、この人がたくさんの紙面を費しまして、議事録にこのバギオの
国民外交のありさまを詳しく
報告していらっしゃいます。そうしてその中で、ワイリー上院議員が申されますには、今までにないように、ほんとうにお互いに信頼感を打ち立てるようなやり方をするということは、これは非常に新しいやり方で、成功であった。
アメリカとしても、これをほんとうに学ばなくちゃいけない。今まで
アメリカは、お金でもってものを買うというようなことを考えていたけれども、お金では買えないところのものをほんとうに精神的に買うというような、精神的なものを打ち立てるという、こういう外交を
アメリカも今にして学ばなくちゃならないのだということを、この国
会議事録に書いていらっしゃるというようなことで、大へんに
アメリカでもこれを高く評価されているということをお耳に入れておきたいと思います。ここへ韓国の方たちで出席されましたのは、自由党の
国民議院外務
委員長尹城淳さんとおっしゃる方です。この方は、とにかく
国会の外務
委員長ですから、この方のお気持がどういうふうに動くかということは、韓国のやはり外交方針に大へんな大きな影響があると思います。それから、この方と、無所属のような政友会という名前の党に属していらっしゃる鄭濬さんという方もこられました。そうしてこの二人は国
会議員でございましたが、そのほかに、朴賢淑夫人と申しますか、この方は韓国の無住所長官、韓国解放後の初めて婦人として閣僚になられた方で、この方の
発言というものは、やはり李承晩大統領などに大きな影響を与えるところの地位にいらっしゃる方です。それから学校の校長さんとか、
学生の代表というような方がおいでになりましたので、いわば各層の代表の方なんです。で、この方たちと星島代議士と私どもがいろいろの機会にお話し合いをいたしましたときに、私どもが知りましたことは、やはり私ども
日本人として三十数年にわたって韓国を、まあ
日本の立場から言えば、合併をしていたという言葉で申しますけれども、それは合併というような対等な立場のものではなくて、何といっても
日本が韓国を支配していたというようなことからくる長年の感情のいろいろうっせきしたものがあるのであって、そういうものに対して、私たちが
日本人としてほんとうによく知らなかったのじゃないかと思います。これは、立場をかえまして、
日本が敗戦後占領された今の沖縄の問題なんかございまして、ほかの
国民から支配を受けるというようなことがどんなものであるかということを、
日本人も敗戦後少し学んだように思うのでございますが、韓国の方にしてみれば、三十数年にわたって
日本人に支配されたというようなことに基因するところのいろいろな感情のもつれ、これに対して私たち
日本人がどれだけ理解しているかという、そこから問題を解きほぐしていかなければならないと思うのでございます。ことに、
日本にはあまり伝わっておりませんけれども、たとえば朴婦人というような方は非常に教養の高いりっぱな御婦人でございますが、この方の御主人になる方なんかも、韓国の独立運動のために長年
日本の官憲には抵抗を続けてこられた方です。で、この方が
日本の官憲のためにどういうひどい扱いをお受けになったか。長い十八年以上も監獄の生活を続けられまして、今はもうお宅に帰っておられますけれども、体は全部不具者のようになってしまったというような、そういう方でございますから、そういう方たちは一朝一夕に
日本人と融和な感じを持つことができないというようなことも、ほんとうに理解できると思います。これはお一人、二人のことじゃなくて、たくさんの方がやっぱりこういう感情を持っていらっしゃる。それで、私どもはそういう
向うの方の立場というものを十分尊重して、気持を分って、そうしてお互いにほんとうに対等な立場に立って、この日韓の融和をはかろうというところから解きほぐして参りませんことには、いろいろの法律上の解釈とか何々の権利をどうするとかというようなことにいきなり飛び込みましても、お互いの信頼感というもののないところに外交というものはあり得ないということをつくづく感じたわけでございます。幸い星島代議士も私も、
日本が韓国に対してやってきたところのたくさんのあやまちに対しては、率直に謝罪をいたしております。で、このことで非常に
向うの方のお気持もよくなられまして、私どもがそういうことを率直に申しましてから、韓国の方たちがまるで見違えるようなほがらかな表情をもって私たちに話をして下さるようになったのです。で、今までは韓国の方は私どもに対して決して
日本語を使われないのです。
日本の大学を卒業して
日本語で十分に話をなさっても、私たちに対しては英語で話をされるということにまず問題があったわけです。今度はほんとうに対等な、感情の融和ができるようになりましてからは、もう率直に
日本語で話をして下さるということにもなったのでございます。
それで、あまり時間がないのでたくさんのことを申し上げられないので残念でございますが、私どもは
日本に帰りましたら、与党の方も野党の方も、とにかく日韓の会談の行き詰まりを打開しなければならないということでは、ほんとうに超党派的な、国家的な見地から努力をしようということを誓って参りました。そうしてそのいろいろ問題がございますけれども、今、日韓の会談で一番デッド・ロックになっておりますのは、いわゆる久保田
発言、それから韓国における
日本人の財産の請求権、この二つが一番何かデッド・ロックになっているように伺いました。このことにつきまして、私どもは
日本に帰りましたら、
国会においてあらゆる努力をいたしますということを誓って参ったのでございます。それで、私どもがそういうことを誓ったということを、この外務
委員長の尹さんと申しますか、この方が去る四月の十六日に
向うの
国会で
報告されました。このバギオの
会議で、
日本の与野党の国
会議員が、日韓会談の行き詰まりの打開に対して、誠心誠意努力することを誓ったということを
報告していらっしゃいますのが新聞に出ております。それで、私どももこの約束というものを必ず果さなければならない
責任がございますので、今日総理
大臣に御
質問申し上げるわけなのでございます。
それで、この四月の十六日に尹外務
委員長と野党の鄭さんという方が
国会で
発言されていらっしゃいます。このUP電報を見ますと、
日本の新聞にUP電報が出ておりますが、京城四月二十四日に出ましたUP電報によりますと、李承晩大統領が、UP通信に日韓問題に関する声明書を寄せられまして、国際共産主義の脅威に対抗するために、日韓
両国はできるだけ早い機会に国交を正常化しなければならないということを述べられた。
日本の
政府当局が日韓
交渉への道を引続き妨げたり、新たなる障害を持ち出したりする理由があるとは思われないというような、こんなような
発言を李承晩大統領がなさったということを、UP電報で知りました。そういたしますと、時間的に、おそらくバギオ大会に出られました五人の方が、
国会やあらゆる所で、
日本人も今度は誠意をもって日韓会談の打開に努力をするということを、この方たちの口からおっしゃって下さって、それが大統領の耳にも入ったために、大統領としては初めてこういうような気持に動いたというようなことを新聞紙上でおっしゃったのではないかというように、私は察しているわけでございます。
従いまして、岸総理
大臣におかれましても、この
外務委員会を通じて、この李承晩大統領にも、ほんとうに
日本の誠意のあるということを、韓国の
一般の方々にもわかるような、誠意ある御
発言をきっとして下さると私は信じて、今日御
質問申し上げるわけでございます。
具体的には、私は二つの点を伺いたいのでございます。それは先ほども申し上げましたように、韓国の方といろいろ話をしてみますと、久保田
発言というのが大へんにどうも韓国の方の感じを害しているようでございます。久保田
発言の
内容がどういうものであったかということのこまかいことは、私は別に速記録を読んでおりませんのでわかりませんけれども、とにかく久保田
発言なるものは、
日本人が韓国人に対して非常に優越感を持っているというような印象を与えたものだろうと思いまして、これは単なる久保田さんという個人の
発言と見るよりも、
日本人の多くの者がそういうような優越感をもって韓国に対しているというようなことに考えられますので、この久保田
発言を通じての
日本の韓国に対する優越感というものに対して、これは撤回すべきものではないかと私は考えますので、その点をまず最初に御答弁をお願い申し上げます。