○岩間正男君 私は、日本共産党を代表して、ただいま
議題となっております
国有鉄道運賃法の一部を改正する
法律案に反対するものであります。
政府と
国鉄当局は、今回の運賃値上げの
理由として、当面する
輸送の隘路を打開するため、いわゆる修正五カ年
計画を作成し、これを行うための自己資金を捻出するため、やむを得ず一割三分の運賃引上げを行うものであると
説明しております。しかしながら、今国会の審議を通じて明らかなように、この
国鉄五カ年
計画は、第一に、国民大衆の大きな負担と犠牲、
国鉄労働者の労働強化というものに依存するところの全くの官僚プランであるということであります。すなわち、一三%の運賃引き上げによって行われるところの五カ年
計画の最終
年度において、旅客が三九%、貨物は三四%の
輸送量を増加し、サービスも大いに向上するということを宣伝しているのでありますが、実際はどうでありましょうか。たとえば、私は、これを今次五カ年
計画の目標の
一つでありますところの通勤
輸送の緩和にとってみますと、この中で東京周辺、大阪周辺の通勤
輸送の緩和について、政府は宣伝をいたしているのでありますが、これに使われておりますところの資金は、約六千億の膨大な資金のわずかに七%にすぎません。そうして現在二千五百両動いておりますところの、たとえば東京周辺の場合をとってみますと、初
年度の
車両の増強がわずかに百七十八両という
数字でございます。五カ年の経過を見ましても、これによって緩和される量は、わずかに二〇%から三〇%にすぎない。一方、現在山手線あるいは中央線の混雑率を見ますと、三一四%、あるいは二八〇%というような、まことにわれわれが
経験する殺人的な混雑率を示しておるのであります。このような中におきまして、通勤
輸送がわずかに二割から三割の緩和をされるにすぎない。しかも運賃は引き上げられる。国民の乗客の中には、運賃に引き上げも、ある意味ではやむを得ないかもしれないが、もし現在の混雑が緩和されるならば、それでもまかなうところがある、こういうふうに
考える向きもあるかもしれませんけれども、初
年度から、今申しましたような貧弱なプランによりましては、全く焼け石に水にしかすぎないのであります。これでは現在のラッシュアワーはほとんど緩和されないといった
実情であります。このような形で、しかも、最も収益を上げている線区におきましても、乗客の九九%を占める三等旅客に対しまして、しかも、定期券は割引率を下げた結果、一三%どころではなくて、二〇%から四〇%というような高率な運賃を引き上げられる所も出てくるのであります。これが政府並びに
国鉄当局の言う運賃値上げに伴うサービス向上の実態であります。また一方では、貨物運賃は巨大な
利潤を上げている。大口独占貨物である上石炭や鉄鋼などの鉱工業生産物に対しましては、数々の特典を設けて、優先的に
輸送と運賃の割引を行いながら、しかも、低い引き上げ率となっております。他方では、米、まき、木炭、鮮、などのように、運賃が物価に与える影響の比較的大きい農漁民や中小企業の生産物や、国民の生活必需品に対しましては、不当に高い運賃引き上げを行なっているのであります。このように三等旅客、中小生産者、農漁民の犠牲によって
輸送力増強をはかりながら、政府と
国鉄当局が打開するという隘路は、独占物資の
輸送のための隘路であって、通勤
輸送や生活必需品
輸送の隘路でないことが明らかであろうと思うのであります。しかも、資金
計画によりますと、政府は政投融資
計画で、電力、海運、道路、航空等の独占企業に対しましては、明三十二
年度予算におきましても、総額九百五十六億という膨大な、投資を行いながら、
国鉄に対しては、
輸送隘路の打開ということを予算編成の
重点にあげておきながら、わずかに八十億と、前年と全く同額の融資を行なっているにすぎないのであります。
輸送力の増強は、これをあげて運賃によってまかなわなければならないという
態勢になっておるのであります。先ほども池田大蔵大臣が出て、これに対する
説明があったのでありますけれども、戦争中、臨軍費あるいは一般会計から
国鉄に繰り入れられたところの金は、現在の貨幣に換算しますと、当局の
資料によりますというと、約二千六百五十億という莫大なものであります。しかるに、戦後昭和二十三、四年ごろに、政府はわずかに三百億程度の融資をしたにすぎないのでありまして、多年このような形で、
国鉄に対しましては大衆転嫁、大衆負担を建前として
経営されてきたのであります。このように、
輸送力増強を一切国民負担にまかせている
理由は、
一つは、電力、鉄鋼、石炭その他の独占資本にとって、他の隘路部門のための莫大な資金を集中すること、そして国民大衆からしぼり取りやすい部分には政府の金を出さないという一連の政策の結果であります。それだから
国鉄には政府の金は出されず、どうしても
国鉄を利用する大衆からその収奪をやむなくせざるを得ないということは、さきに申し述べた
通りであります。
次に、私の指摘したいことは、この五カ年
計画によって、
国鉄職員の労働条件は非常に悪化するということであります。政府、
国鉄当局は、
輸送の増強に伴う経費は
設備の近代化、合理化によって生じた
人員を
配置転換することによって充足できるものとして、五カ年
計画には一名の
要員増加も見込んでおりません。
国鉄は昭和二十六年以来、一名の増員もなく、労働強化の上にたよって今日の
輸送力増強を行なって参りました。さらに今回の五カ年
計画におきましては、旅客三九%、貨物三四%という大幅な
輸送力増強を
計画しながら、一名の増員もこれを予定していないのであります。これではそのしわが一切どこに寄せられるかということは、あまりにも明らかであろうと思うのであります。しかも、この五カ年
計画の中では、一銭のベース・アップも考慮されていないのであります。
十河総裁さえ、日本の
国鉄職員は人間の能力の限界以上に働いて、世界に誇るべき
能率を上げていると言っておるのであります。しかし、これはこの
委員会でも明らかになりましたように、これは誇るべきことであると同時に悲しむべきことだという、
総裁の言明の中にもはっきりしておると思うのであります。
また現状の
輸送状況を見ますというと、たとえば北陸線に現われましたように、現在、昨年十二月改正されましたダイヤさえ、これは正常に運転できない。つまり単線区間におきましては、一日八十回という
列車回数という限度を割って中には百をこえるというようなものすごい
状態さえこれは出ておるのでありまして、こういう事態の中にも
人員の増がないということは、
一体何を意味するか、
国鉄五カ年
計画の
輸送力増強の要素としましては、線路の
状況、
車両の増強、これと並んで三本足の
一つであるところの労働者、労働力の増強ということが、当然これは明らかにされなければならない問題であると思うのでありますが、このたびの
計画によりましては、三本足の中の
一つ、しかも、最も重要な
一つでありますところの労働力の増強がなされていないところにおきまして、この欠点を最も暴露しておるということを私は申し上げなければならないのであります。
また保安対策を見ましても、これはこの
委員会でも明らかになりましたように、幾分の、わずか一%そこそこの経費を捻出いたしますけれども、その結果は依然として労働者の注意力によってまかなわなければならない、むしろ労働強化を来たすような形で示されておるのであります。しかも、乗客に対しましては、運賃引き上げを行えば、あすからでもサービスがよくなるような宣伝をしておるのであります。これでは国民大衆の
国鉄に対する不安は、一そう
国鉄職員の方にのみ向けられることになるでありましょう。こういうようなやり方に対しましては、
国鉄労働者が不満を抱き、要求を出して立ち上らざるを得ないのは当然であります。これに対して政府、独占資本は一斉にマスコミを展開し、運賃引き上げに対する国民の不満を
国鉄労働者を
国鉄労働者に転嫁し、ますます労働条件を悪化し、低賃金で押えつける口実にしようとたくらんでおるのであります。このような
要員を増員しないというやり方は、五カ年
計画の
工事施行の面にもはっきりと示されておるところであります。当局は年間一千億以上に及ぶ
国鉄始まって以来の大
工事を起工しようとしながら、しかも、高度な技術と訓練を要する非常に困難なこの
仕事に対しまして、
要員は一名も増員しない
方針をとり、外注によってこの問題を解決しようとしておるのでありますが、何よりも
輸送の安全を第一としなければならない
国鉄におきまして、みずからその
工事起工の責任を負おうとせず、業者に
工事の一部をゆだねるというやり方は、絶対に許されないと思うものであります。これでは
輸送の安全は度外視されていると言っても過言ではないと思うのであります。
以上申し述べましたように、
国鉄五カ年
計画は非常に不安定な、科学性のない机上のプランであると私は申し上げなければならないと思うのであります。
計画のずさんなことは、たとえば例を引きますけれども、原案の一八%の値上げによりましては、
国鉄の収入は五年間に一兆五千三百五十七億というふうに最初は計算されながら、それが二五%に下ると、反対に収入は一兆五千七百五十二億にはれ上り、さらにこれが一三%になりますというと、これが一兆六千百六億というふうに逆比例をとっておるのであります。これでは一〇%に下げ、五%に下げればもっと
国鉄の収益は上るのであり、運賃値上げをしない方がむしろ大きなもうけになる、こんな
国鉄数学がここに出ることになるのでありまして、こういうやり方は、まことに逆算の方式によりましてつじつまを合せるところのプランとこれはいわなければならぬと思うのであります。
第二には、このプランは、非常に動揺性の大きいものである。昨年の八月の
計画によりますというと、電化、
ディーゼル化を進めるというような方向をとられたのでありますが、これに対して、またその後修正を行われ、線路増強、車輛の増強というような方向を幾分とっております。さらにまた一方におきましては、東海道の高速度化——三時間半にするところの高速度化、このためのまた資金
計画その他のいろいろな
計画を
考えますというと、当然ここには今後の
計画に対しまして大きな大修正を加えなければならない事態が
発生するということは、今からでも明らまであると思うのであります。なお一方、高速度道路開通に伴うところの自動車との競争の問題、あるいは航空
輸送との競争の問題、絶えずこのような影響を受け、その影響下においてこのような
計画が動揺せざるを得ないと思うのであります。しかも、このたび示されました
計画は、まことに片々たる冊子にすぎないのでありまして、これに対する具体的な
計画というものは非常に乏しいのであります。鉄鋼、あるいはセメントあるいは木材における資材をどうするかという資材入手の
計画、あるいはまた線路増大に伴うところの膨大な用地の問題、この用地の問題を解決するためにも、これは大へんだと思うのであります。
さらに、私はこの点について、時間の
関係から実は
質問をこまかにすることができなかったのでありますけれども、京浜線と山手線とを分離することに要する用地は、
国鉄に保有されたところの、もともと
国鉄所有の用地であり、しかもこれが、そのような
国鉄が必要とするときには、直ちに返還するという条件をつけておりながら、これを解決するためには三年間も日子を費した、この一事の例をもってみますときに、膨大な面積を必要とするところの用地の問題は、一体今後どうなるのでありましようか。電源開発用地、比較的補償の高い、しかも、山間部におきましてさえ、この用地の問題の解決は困難をきわめております。しかるに、
国鉄用地の場合は、これは重大な問題をはらんでおると私は言わざるを得ないのであります。この点に対する
計画については、何ら具体的に承わることはできないのであります。
また資金の
関係、労働力の
関係、こういうものにつきましては、大略先ほど申し上げましたので、省くのでありますけれども、総合的に
考えますときに、この五カ年
計画の前途には非常に幾多の困難、幾多の不明瞭、幾多の非科学的なものが存在すると私
たちは
考えざるを得ないのであります。さらに、この
輸送に伴うところの電力、鉄鋼、石炭との関連、こういう問題もばらばらに
考えられているのであります。総合的な交通政策が全く確立されていないと言っても過言ではない。三十二
年度予算におきまして、また政府の経済
計画についてみましても、このことは何ら、いまだ立案が明瞭な形で示されていないのでありまして、総合的な五カ年
計画の一環として、明確な
計画の形でもって打ち出されていないのであります。このことが今日の
輸送の隘路と言われるものの大きな原因となり、また今後幾多の要素によって困難をきめるのであろうと思うのであります。
以上のように、修正五カ年
計画は、全く独占資本本位のものであって、国民大衆に奉仕するものではなく、日本の産業経済の正常で均衡した発展に寄与するものではありません。従って、このような
計画は、労働者階級はもちろん、国民の支持と協力を受けることができないばかりか、現実性、科学性を非常に欠いたものと言わなければならないのであります。われわれは、このような修正五カ年
計画を行うために、一方において大衆負担、労働強化によって行われるこの運賃値上げの法案には反対せざるを得ないのであります。真に日本経済の平和的発展と、国民生活に役立つ
輸送力を増強するためには、まず第一に、政府がアメリカにますます軍事的に従属して、独占資本の
利益を増すような、このように国民と無
関係な政策をやめることであります。そうしてこのような大事業を実現するためには、労働者はもちろん、広範な国民大衆の支持や協力のもとに、産業経済の平和的、均衡ある発展の方向で総合的な交通政策を確立することが何よりも必要であると思うのでありまして、われわれはこのような国民のための
国鉄を建設するために、今後努力いたしたいと
考えるものであります。