○横山利秋君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程になりました
接収貴金属等の処理に関する
法律案に対し絶対
反対するとともに、
社会党の
提案した修正案に賛成するものであります。(
拍手)
惨たんたる敗戦をあとにして十二年になりますが、全国津々浦々には今なお
戦争の傷痍のいえぬ不具の人々があり、夫を失い、遺児をかかえて苦闘しておる未亡人があり、私どもが朝夕通る九段の神社には、日ごと遺族の人々が一ぱいであります。
国会は、生活の再建のできない引揚者の人々の補償についても完全なことができず、大きな不満を買っておるのが実情であります。しかるに、
政府は、同じ
戦争の関係の被害者ではあるが、これらの人々と異なり、ほとんどが生活に困っていないであろう、わずか百四十八の法人と百九十三人の個人、計三百四十一の少数者に、四十六億に上る膨大な接収貴金属を、所有権の帰属を明らかにするとの
理由をもって返還しようとしているのであります。これは実に不公平きわまりない措置といわなければなりません。(
拍手)
戦争中に、
政府は、ぜいたく品所持の禁止と戦力の増強の名目で、全国の隣組を動員し、市価よりもわずかに高い価格で、強制的に貴金属を買い上げました。今返還しようとしております貴金属は、この供出品が回り回って工場や会社にあって、そこから接収されたか、あるいは、供出をサボって隠匿していた一部の会社や個人が接収されたかでありまして、いずれにいたしましても、強制的とは言いながら、純真に国のためと思って供出した人々には返還も補償もされず、当時の言葉でいえば非
国民であった三百四十一の会社、個人に恩恵を与えるということは、法理以前の問題として、断じて承服できないところであります。(
拍手)
しかも、この貴金属の問題は、
昭和二十七年十月、
衆議院行政監察特別委員会が取り上げて以来、幾多の疑惑に包まれたままでありまして、それらの諸点は今なお
国民の脳裏に明らかであり、これが解決されないままに
処分を決定するようなことがあれば、
政治に対する
国民の不満と不信は大きな危険にさらされることを
考えなければならぬのであります。(
拍手)
社会党がこの法案に
反対する第一の点は、まさにここにあります。
全総額七百三十億円以上に上る貴金属にからまる疑惑は幾多にわたっているのであります。終戦の翌々日、すなわち八月十七日、軍需省が交易営団の幹部を招いたとき、三井信託の地下室において、十万六千五百カラットのダイヤが間違いなく九つの魔法びんに詰めかえられたであろうかという疑惑が第一であります。
次には、中央物資活用協会が、終戦直後、その
保有する金、白金、ダイヤモンドの没収を免れるために埼玉県の共和村の青木理事宅に疎開させたという証言を行い、数日を経ずして、記憶違いといって取り消したという疑惑であります。
さらには、陸軍航空本部及び第一陸軍造兵廠にからまる横流れ事件であります。海軍技術研究所は、また、二千カラットの上質ダイヤが栃木県の指定商の加島という男の自宅のニワトリ小屋の地下に埋蔵され、その後何らの受領証もなく
連合軍に引き渡されたということにからまる疑惑であります。
次は、皇太后陛下のお手元品である女官用の英国製王冠並びに首飾りのうち、五個の大粒ダイヤが宮内省の金庫の中でいつの間にか消えてなくなったという事件である。しかも、これが、
昭和二十七年の七月、
行政監察特別委員会の職員によって、大阪心斎橋の時計店で紋章入りケースの中に発見された瞬間、その直後、再び姿を消したというのであります。
次は、占領軍が接収中に起った事件であります。接収が一部無理やりに行われた結果、これに関する受領証もなく、特に二十年十月十八日、三井信託から、ダイヤ十万二千九百十七カラット、プラチナ二百四十キロ三百八十一グラム、金、銀、貴金属四百五十九キロ九十七グラム等を持ち去った、総司令部のカッツ大尉なるものは、一体何者であるか、今なお判明せず、その数字も、その後、営団側にまって、奇怪にも変更されたということがあります。
マレー大佐事件は、マレー大佐が接収貴金属を勝手に
アメリカに持ち帰ろうとし、米国へ到着寸前発見され、官職を剥奪された事件であります。接収解除され先後は、また、占領軍の鑑定をしていた者が再び再鑑定に当り、あるときには売り手の
立場で鑑定し、あるときには買手の
立場で鑑定し、ダイヤ一カラット平均四万円と鑑定していますが、その若干の後の記録によれば、特級のものは三十五万円、一番安いものでも三十二万円であったことを
考えると、この鑑定人が業会の連合会長をしていたことを思い合わせ、大蔵省のあり方に深い疑惑が集中したのは、けだし当然であります。(
拍手)
これらの諸点はその一例にすぎません。かつ、権威ある
行政監察特別委員会の報告の引用であります。われわれが問題とすることは、この報告に対し、
政府がその後これらの疑惑に何らり措置をしていないことであり、問題の事件で
処分を受けたのは、何と
アメリカ人であるマレー大佐ただ一人であるという不可思議なる事実であります。(
拍手)
国民は、断じて、かかるばかげた結果を
承認しないのであります。行監の努力も権威も、また、やみからやみへ葬り去られているのでありまして、本法案の
審議に当って、
政府が、行監の勧告にかかわらず、その経緯について、みずから明らかにしないことは、怠慢というよりも、一そう深い疑惑を持たざるを得ないのであります。(
拍手)不当にしてかつ不法な方法でこの貴重な貴金属を持ち去った者は、この法案の通過をあざ笑い、胸をなでおろしておることでありましょう。かかる事態を放置して、断じてこのような法案を許してはなりません。(
拍手)
私が根本的問題として
反対する第二の
理由は、法理的
立場であります。
政府原案は、問題のあった交易営団などから接収された貴金属については、返還請求があっても国に帰属するものとして、紛争の
一つにピリオドを打ちました。もし
政府がこの決定をするならば、これらの営団や物資活用協会、金銀運営会、金銀製商連盟などは、
政府機関でなくして民間団体でありますから、もしこれらに返さないとするならば、同じ民間であって、同様の条件で接収された法人や個人三百四十一社にのみ返還するということは矛盾もはなはだしく、理解に苦しむところといわなければならぬのであります。しかも、かりに証拠があっても、現物のあるものは全部返して、現物のないものは按分比例で少し返すというに至っては、小学校の子供でも算術が間違っていはしないかと首をひねるに違いないでありましょう。(
拍手)
そもそも、
昭和二十年九月と二十一年五月、占領軍が貴金属を接収した経緯を
考えてみまするならば、これは賠償に充てるために没収したと見る方が正しいと
考えられるのであります。
一九四七年七月の極東委員会対日
貿易十六原則に、金、銀その他の貴金属及び宝石のストックにして、明らかに
日本人所有のものと立証されたものは、終局的には賠償物件として処理すべきである、それに至るまでの間にかかる
日本人資産については、その価値を
保有すべきであるが、右資産自体は、
日本平時
経済の生産力回復に貢献するように仕組まれた生産計画に対する金融を助ける外国為替の獲得手段として使用するも差しつかえないと言っているように、明らかに接収は没収の観点に立っているのであります。
中には、この点について、ヘーグの陸戦規則によったとみなされるから、この規定によって、敵国内といえども私有財産は没収し得ない、従って、所有権は被接収者に残っていると言う者がおります。しかしながら、接収がヘーグ陸戦規則によったか、無条件降伏のポツダム宣言によったかについては議論が分れるところでありまして、かりにヘーグの陸戦規則によったとしても、ポツダム宣言と矛盾する部分は、無条件という
立場にあるポツダム宣言をとらざるを得ないのではないかと思われるのであります。(
拍手)しかも、占領軍が接収を解除した経緯は、明らかに接収当時の政策を変更したものでありますから、これをもってしても、接収当時の判断をすれば、返還の
理由なしと判断すべきでありましょう。百歩譲って、右の諸点を認めたにしても、営団などには返さない、その他の会社や個人には返すということ、並びに、現物のあるものは返す、現物のないものは按分比例で返す、あるいは、占領軍のした行為であって、被接収者個人の
責任によらないことであるのに、接収のときの米軍の発した証拠書類などがあるものは返す、ないものは返さないぞということは、矛盾撞着の積み重なった措置でありまして、断じてとるべきではありますまい。(
拍手)さらに突き詰めて、
憲法に示された私有財産不可侵の条項があるから返すべきであるとしたにいたしましても、
かくのごとき場合は、
社会党修正案のごとく、万人ともに認める証拠があり、同時に現物があり、かつ、何よりも大切なことは、その返還によって生ずる実益というものが他の
戦争犠牲者との間の公平の
立場から行われるのでなければ、全
国民は承服することはないと断言してはばからないのであります。(
拍手)
最後に、
政府原案の各条項について
反対の
立場を明らかにいたします。
この案が、第一に、実体論として、返還を受ける者の中の多くは、供出をサボり、貴金属を隠匿した者や、終戦後旧軍用財産を横領した者などで接収されたものでありますが、この矛盾を防御する方法が保障されないのは、いかにしても不十分といわなければなりません。
第二に、返還すべき証拠のないものについて、客観的に立証する方法がありません。
第三に、返還者に対して一割の納付金を納めしめるからというのでありますが、わずか一割では、戦時補償特別税が一〇〇%課税された経緯や、十二年たった今日、突如として収益が増加するという点、並びに、これらの人々がほとんど困窮者でないという諸点から
考えるも、まことに
国民の手前だけをつくろう、お粗末な案と言うより言いようがないのであります。従って
社会党修正案のごとく、八割とすることによってこそ、
国民は心から理解し得るであろうと確信をいたします。(
拍手)
第四に、重大なことは、これによって国庫に入る七百億に上る巨額な金について、使途を法律をもって明らかにしない点であります。七百億の貴金属は、八千万
国民が、戦時下、空襲と配給と家族離散の苦しみの中から、強制力と愛国心の矛盾にもだえつつ、血を吐く思いで供出し、しかも、今や返らないものであります。一方では特定の人々には返っていきます。もしそれ、七百億の金が漫然と
予算に配付され、中には汚職の泥沼に使用されるともなれば、これは、法律や理屈にあらずして、
国民の怒りは一そう爆発するでありましょう。(
拍手)この感情はすでに数年前よりちまたに語り伝えられておるのでありまして、
政府がこの
国民感情を洞察することもなく、この法案に織り込まなかったことは、口で
国民とともにと言っても、その正体見えたりといわなければならぬのであります。(
拍手)われわれは、この金は、ことごとく、与野党が一致した
行政監察委員会の決定のごとく、
戦争に傷つき倒れた人々、生活に呻吟する未亡人などに愛の手を差し伸べる社会保障に、また、再び
かくのごときことを繰り返さないための平和な
日本建設のためのいしずえとなるべき学術、科学の振興のためにのみ使用さるべきであると、強く主張してやまないところであります。(
拍手)あらゆるものは、その使われる目的によってこそ、いよいよ光を放つのであります。
日銀の地下に十数年目の目を見なかった莫大なダイヤモンドや白金は、それによってこそ、さん然たる光を放ち、本来の目的を達すると確信をいたすのであります。(
拍手)
以上、
政府案を
批判しつつ、私は
社会党の
考え方を述べました。
国会が本問題を取り上げて以来、すでに五年になります。しかも、事態は今なお
国民の納得を得るに至っておりませんのに、
政府、与党は、本
国会において、何を企図してか、今日どうしても通さなければならないという絶対条件もないのに、全力をあげて本法案の通過をはかろうとしていますことは、その
意図がいかなるところにあるか、怪しまざるを得ません。与党の
諸君が、この点について、今ちまたに沸き上りつつある新しい疑惑について、心静かに
反省されんことを望みたいのであります。(
拍手)しかも、与野党が満場一致
行政監察委員会において行なった五項目の
決議を、ここに
政府、与党がみずから踏みにじり、法案を強行通過させることは、
国会を軽視し、みずからまた天につばするも同様の結果となることを
警告いたしたいのであります。よしや
国民の声に法理上多少の問題がありましょうと、ものには順序がある。この貴金属を返すなら、在外資産を正確に保障せよ、供出した指環を返せ、燃えた家を返せ、死んでいったかわいいわが子を、わが父の命を返せという庶民の声は、理屈を越えて、さらに一そうほうはいとして全国にみなぎり渡るに違いないのであります。(
拍手)しかも、大蔵委員会は、その
審議半ばにして、今なお多くの疑点があるのに、今夜強行採決されたのであります。
私は、ここに、与党の心ある
諸君のその
政治的良心に訴え、すべての誠実な
国民の名において、
政府原案に
反対し、
社会党修正案に賛成し、
討論を終るものであります。(
拍手)