○高津正道君 私は、ただいま上程されております
国民の祝日に関する
法律の一部を
改正する
法律案に対し、日本
社会党を代表して反対
討論をいたします。(
拍手)
この
法案は、中小企業の組織に関する
法案とか最高裁改革案などに比べる場合、一般からは若干小さい問題のように受け取られているかもしれませんが、わが国当代の良識を代表する学者、思想家を初め、また、世論を大いに動かす有力なる新聞の論説
委員の大都分からは、きわめて重要視され、かつ、もちろん反対されているところの問題であります。(
拍手)
日本
社会党は、他の党と異なり、努めて知性と良識を代表せんとする党として、各議員とも常識上わかってはいても、二月十一日を建国記念の日として制定せんとするこの
法案をあらゆる角度から
検討いたし、そして、百害あって一利なきことを確実に突きとめ、
内閣委員会で十二分にそれらの見解を表明したのであります。
本案に対する第一の反対
理由は、本
法案が出されたということだけでも国
会議員というおとなが子供や青年から笑われると思われますが、もしこれが両院を通過して実施を見るに至れば、それは戦後の新教育の成果に対して重大な悪影響を与えると思われるからであります。(
拍手)戦後の新教育は保守党の諸君から近年特に好んで攻撃目標とされてきておりますが、われわれの見るところを申しますと、すばらしく青少年が体育によって体位を
向上したこと、ひじけない、朗らかな性格となったこと、その朗らかさは、これによって政界の派閥的、寝わざ的抗争などすっかり忘れた民族が、数十年を出ずして生まれるかとも思えるほどのものであります。(
拍手)また、文章を書かせると、実に自由にすらすらと表現する能力が養われております。また、戦争をきらい、平和を愛する思想の持ち主となっているが、それは足音高く訪れようとする新時代の市民にふさわしい性質のものであると考えます。さらに、また、批判精神を身につけ、歴史をも含めて、およそ何ものに対しても、けなげにも科学的に見よう、科学的に考えようという態度を持っています。すべて、これらの長所は、根深い身体細胞の一々にまでしみ込み、いわゆる板につくものにまでなっているとわれ、われは認めるものであります。(
拍手)
そこで、申し上げるのでありまするが、まさに五十余万人の、正確にはそれより以上の多数の
全国の教育者諸君の労苦に対し、私たちは感謝の気持で一ぱいであります。しかるに、政治に携わる
国会のおとなたちが、死んだはずだと思った伝説をかつぎ出して、
国民的祝日として押しつけると、彼ら青少年たちは、第一、当惑するでありましょう。教壇の教師は、児童、生徒の前に建国記念の日二月十一日を説明して、きのうまでの権威をすっかり台なしにしてしまうでありましょう。また、数週間前、本院で満場一致通過したばかりの科学
技術教育
振興の決議は泣くでありましょうし、また、文部省の科学
技術振興政策はその迫力を欠くことはもちろん、さらに、青少年がようやく批判精神、科学精神を身につけ、日本の将来はいよいよこれからだと思わせられる今日、この若い芽をつみ取るものがこの紀元節復活の
法案であって、(「紀元節じゃないよ」と呼び、その他発言する者多し)わが党は、議場の静まるを待つために、建国記念日と言いかえて話を進めるでありましょう。(
拍手)わが党は、新教育をめちゃくちゃにせんとするこの企てに絶対に反対するのであります。(
拍手)
第二の反対
理由、これは説明を簡単にいたしますが、わが国の神話、伝説から、また戦前の状態からようやくにしてのがれ出て、その権威を確立した科学的な歴史教育が、根底からくずれ去りゆく結果をもたらす点であります。(
拍手)それなのに、提案者代表は神主である纐纈彌三君であるが、この提案者たちはそのような蛮勇をふるおうとしておるのであります。
反対
理由の第三は、この
法案がもし通過すれば、わが国は必ずや諸外国から大へんな誤解を受けると思われるからであります。(
拍手)諸外国は、過去の軍国主義日本、超国家主義日本、その思想
内容は天皇中心、八紘一宇、撃ちてしやまん、これらのものに悩まされた体験者でありますからして、たとえば、フィリピン訪問のわが親善視察団の中に、ただ一人の元憲兵が加わっていたというこの事実のために、マニラであのような大騒ぎとなり、国際的な大恥をかいたのであります。(
拍手)この
法案は、外交を知らず諸外国の反響などを軽視する人々の意見が大
自民党を動かしたのであろうと思えるけれども、結果は、わが国が、そして、私たちが迷惑をこうむるのであります。(
拍手)
本年の五月、すなわち今月の三日に、主権在民、平和、民主の現行憲法が十周年を迎えたにもかかわらず、
政府としてはその記念行事をことさらに行わないという大きいミステークを犯しました。しかるにもかかわらず、今回は隴を得て蜀を望む態度に出て、二月十一日の復活を押し切って実現しようとする。諸外国がこれを知るならば、何と考えるでありましょうか。それ、日本が急速調で逆コースに進み始めた、これは今後は日本警戒すべし、あるいは、熱心に日本は原水爆実験禁止運動を展開しているが、あれには裏があるのじゃないか、岸総理は原子力の使用は憲法にもとらないなどと国外において発言したではないか、諸外国、特に東南アジア、そしてアジア大陸、これらの地域では、こんなふうに受け取るでありましょう。
この際、私は、戦後、最近初めて心から一つの喜びを感じておることを申し上げたい。それは、日本がよいことで世界一という点数を一つかせいでおることであります。何かと申しますと、戦前では綿製品
輸出で世界一、特攻隊精神で世界一というふうなものでありましたが、現在では、それが全世界、全人類の悲願である原水爆禁止運動において日本が世界をリードしておる形が現われておることであります。(
拍手)
自民党から憎まれておるところの総評、そして原水協、そして名誉あるわが日本
社会党、それらの民主団体、民主的政党がこのような原水爆反対運動の大津波を巻き起したのであり、それが
全国を風靡するに至ったのであり、才人である岸総理も、これを無視することは選挙に損だとばかり、松下特使の派遣となったのでございます。(
拍手)しかし、多年の民主団体の涙ぐましい運動が、そうした保守政党の諸君には、はからざりき松下使節のイギリス訪問となり、大きい手柄を立てる結果を偶然にもたらしたのであります。しかるに、
本案のごとき逆コース、反動的
法案を衆議院が出し、多数決で通過させれば、戦後ただ一つの世界一の、この願ってもない平和運動の一大業績は大きく傷つくに違いないと思います。(
拍手)傷つけ、つぶすべきものこそ本
法案であると、私は確信いたすものであります。
反対
理由の第四は、しゃにむに多数決で通して実施したところで、この
国民的祝日に対し、——入れ歯をお許し願いたい。——一方では、右翼や神主や旧思想から脱せざる元軍人が、わが世の春来たりとばかりに台頭し、横行濶歩し、他方では、これを憲法
改正の橋頭堡だ、逆コースの象徴であるとして反対し、また、特に、
学校教育の場においては、これを児童、生徒、学生に対し、いかに説明すべきか、学校でこの行事を行うべきかいなかなど、国論が全く二分されて、国がつぶれないにせよ、相当の紛争となることは火を見るよりも明らかであります。(
拍手)今は二大政党の対立時代といわれます。二大政党は衆議院議席の九九・四を占め、ここからはみ出しているのは、共産党二名、無所属の小林信一君、計わずかに三人のみであります。本日は、その三名は御欠席で、出席全員が二大政党で独占している形であります。(
拍手)この二大政党の地位と責任の重大性にかんがみる場合、その一方がかくばかり反対をしておる際には、大紛争の題目を一つ新たに加えることを思いとどまるべきだと、われわれは考えるものであります。(
拍手)おそらくは、良識ある知性が動いて、流産的処置をおとりになるのではあるまいかと考えております。
反対
理由の第五点、これは事衆議院の名誉に関連いたして参ります。議員各位は議席を得るのに常識を問いませんが、
国民からはその知性と良識をある程度高いものと大まかに認められているのが現状であろうと思います。日本書紀に辛酉の日とあるから、この日をきめる以外にないというように申しますが、しかし、神武天皇の時代に暦自体がなかったという事実は動かすわけには参りますまい。十干十二支もずっと後に大陸文化として入って来たものだったのですから、このような怪しげな根拠によって建国記念日とすることは、衆議院の名誉と威信とに対し影響なしというわけにはいかないでしょう。(
拍手)また、私たちは、現代ほど世論調査のパーセンテージがしばしば用いられることはないということを気づいておるものであり、もちろん、前世紀においては、そのようなことは一切経験をしていないのでありますが、今日は、この統計のパーセンテージを読むコツというか、読む心得をれわれは持つ必要があると考えます。私は、少くともそれには二つ必要であると思う。一つは、たとえば紀元節の問題を日本の町村長を
対象として世論調査をするならば、今提案者が利用されておるパーセンテージよりもはるかに高いパーセンテージが現われるというそのことであります。層化法というけれども、統計の形成は、その裏面やいろいろな実情をわれわれは読みとらねばならないのであります。また、日本は、資本主義の進歩とともに、給料
生活者は日に月に増大しておるのでありますが、それらの諸君を
対象として世論調査を行うならば、この愛すべき労働に疲れた勤労者諸君は、何また一日休日がふえるのかと、ニコリと笑って
賛成と書くでありましょう。統計は横からも見なければなりませんし、裏からも見なければならぬ。おそらく、提案者は、統計のパーセンテージを唯一のよりどころにしておられたが、
賛成討論もまた、いろいろな統計の数字を並べられるに違いない。しかし、われわれは、統計に対しては、高い見地から、良識を失わないように、これを見破る力を国
会議員は備えておく必要があると存じます。(
拍手)私は、三・一五、四・一六と聞くと、これは共産党弾圧を思い起すし、二・二六といえばファッショを思い出すし、二・一一といえば、天孫降臨、神武即位、八紘一宇、超国家主義、それらを連想するのでありますが、私は、一九五七年、それも憲法十周年の該当する、月もあろうにその月に、二月十一日を建国記念日として復活することは、日本国衆議院の良識、さらにその常識を内外から疑われるに違いないと思うのであります。(
拍手)
以上、数知れぬ反対
理由のうちで五つだけあげて
討論を進めて参りましたが、どの一つだって大きい根拠ありと確信するものであります。
この際、今日まで
本案の提案説明に当り、あるいはそれに
賛成してきた議員諸公に対し、諸君が反対されないところの一つの歌を私ははさみたいと思います。それは、明治維新の勤皇の歌人、桜東雄の作であります。「天照大御神すら聞き直し見直し思い直したまいき」——「天照大御神すら聞き直し見直し思い直したまいき」(
拍手)いわんや、
自民党の聡明をもって自認する議員諸公も、やはり思い直し、見直し、聞き直し——本
法案のごとき、世界の非難を浴び、そして、新教育の成果を乱し、歴史教育を根底からくつがえし、二大政党の一方から猛烈に反対されて、これより国論が二分されて、争いは一そう苛烈になり、メーデーにいま一つ新しいスローガンを提供するのが、この
法律案であると私は考えます。(
拍手)
私は、さらに、この際、私の論旨に点睛のためと言おうか、あるいは魂を入れるためと言おうか、論旨徹底のために、重大問題に触れようと思う。(
拍手)それは原水爆反対運動についてであります。さきには、この道のみで、この点のみで、戦後初めて日本が世界一をとり、世界をリードすると言ったのでありますが、もしもこの
法案が通れば、それが台なしになるとまで言っておったのであります。私は、硫酸や硝酸を使う大工場の下流にある魚類が全滅するし、貝類も全滅し、海草類も全滅するので、その地の漁業
組合は大てい百万円、二百万円の損害補償を受けておる事実を知っております。しかし、この原水爆戦争は、魚類にとっての水と同じように、人類にとっての空気の濁ることであって、これ以上大きな問題はないのである。(
拍手)私は、この戦争をせきとめ得る実力は、やはり日本が中心になって——そして方法がある。それをわれわれは持っておる。今から五十年前に、かの科学者であり、生物学者であり、理想主義者であったクロポトキンが相互扶助論を書いておりますが、国
会議員のすべては、これの中の一カ所だけは覚えておく必要があると思う。(
拍手)砂漠の、あるいは草原において、馬は群棲動物でありますから、五十頭、百頭と群をなして生息いたしておりますが、そこに猛獣が来ると、数十万年の体験により、本能により、一頭の馬が変ないななきをすると、直ちに百頭の馬が頭を中にして足を後にして円陣を描き、トラであろうと、ハイエナであろうと、オオカミであろうと、一生懸命けるので、猛獣はみなのがれ去るという動物の現象を詳細に書いているのであります。われわれは、この中からこそ、一つの教訓を学びとらねばならない。物の元素は九十あるが、世界の国の数は、偶然に、おもしろく、九十であります、モナコなどを捨てて。この九十の国の中で、原水爆の製造の実力を持っておるのは、言うまでもなく
アメリカとソ連であり、中なる八十八の国はみな持たないのであります。持っておっても、それはほとんど問題にならないものである。イギリスやフランスは植民地がある。数年のうちに必ず離れて、裸になって、満州、台湾、樺太を失った日本と状態が同じようになることは明らかであるから、この八十八の国の
条件が同質的になり、イギリスの労働党は、わが
社会党をモデルとして相当に左転回をするであろうし、国際連合の総会に九十の国がつどい、
アメリカのステートメントが悪いならば、八十八がノー、ノーと叫べば、ソ連もにこりと笑ってこれに同調する。八十九対一で
アメリカは引っ込む。ソ連の場合もまた同じであります。諸君、八十七はい、わが国を目がけて迎えの船を出しておるので、われわれは出でて乗らずばなるまいと考える。諸君、この道こそが、この道こそが、(
拍手)原水爆反対、この中なる八十八を結束して平和に尽そうというのが、私は日本の持っておる唯一の切り札であると思うのであります。(
拍手)われわれは、原水爆禁止運動を叫べば叫ぶほど憲法
改正運動の理論は薄れていくと思うけれども、これさえとって離さなければ、世界をリードし、全世界の全人類から日本は予言者の国のように感謝される日がくると信ずるのであります。(
拍手)
諸君、どうか先の桜東雄の歌を思い起されまして、天照大御神にとても及びもつかないはずであるから、さらに見直し、聞き直し、思い直したまいきを諸君に期待して……。(
拍手)