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井堀繁雄君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となっております
昭和三十二年度
予算補正特第2号及び機第1号の両案について、
反対の
討論を行わんとするものであります。(
拍手)
反対の
理由は、大別いたしまして次の三点に要約することができると思うのであります。
第一の
理由は、今回の
補正予算は、
公労法の
精神を尊重して
仲裁裁定の
実施を満たすことが当然の
措置でなければなりません。ところが、その
内容は、
裁定の
趣旨を
故意に歪曲して、かなり多くのごまかしが存在いたしておる点であります。このことは、
労使の
紛糾を友好的に解決しなければならぬという法の
精神に反するのみではなくてかえって
労使の対立を激化せしめるような
紛争の
原因を後日に残しておる点を指摘しなければならぬのであります。(
拍手)すなわち、
仲裁裁定の本旨は、
裁定の文書にも明らかにされておりまするように、
主文一には、「
昭和三十二年四月以降の
基準内賃金は、
昭和三十二年度
基準内予算単価について千二百円を増額した
金額の
範囲内で、
労使協議の上決定
実施すること」とあるのであります。このことは、その
文言通りで、
政府は、この必要な
経費を、その
総額を
予算補正の中に組み込んで、この
国会に
提案することが当然であるべきでございます。しかるに、
政府の今回の
提案は、
政府みずからの
責任に帰すべき
現業の
責任当局と
監督の
地位にある国務大臣との間に、
公労法、
公社法、
予算総則などで当然に
措置しなければならなかった
予算単価と
実行単、価との矛盾を解決なし得ないで、今日まで故任されてきておったのであります。今回、
仲裁裁定委員会からその欠点を指摘さ承ますると、おのれを顧みて他を言うような、おのれの非をおおい隠さんがために、やれ、
やみ給与であるとか、
アベック闘争などと、その
責任をあたかも
労働者や
公社剛にあるがごとく主張をいたしましたことは、まことに見苦しき次第といわねばならぬのであります。(
拍手)
政府は、今回の
補正予算編成に当りまして、
仲裁裁定、先ほど述べました
主文一項に示された
趣旨を
故意に歪曲した。と申しまするのは、
公労法、
公社法並びに
現業における
職員の
給与に関する
特例法などの適法な
措置に基いて結んだ
労使間の
協定などを一方的に無視いたしておる点であります。すなわち、千二百円という
裁定額の中から、第一項の
確定分でありまする六百円及び
実行単価と
予算単価との
格差金約五百円、その三分の一を差し引こうというのでありますから、これはきわめて暴挙であると申さねばなりません。第一項の
確定分六百円は、本来、
給与総額内の
流用によって
支給されたものではなくて、その原資は
給与総額の外から持ってきたものであるにもかかわらず、
政府の
補正予算においては、これを
給与総額の中から差し引くという不当な
措置をとっておるのであります。ここに重大な問題がひそんでおるのでありますが、さらに
実行単価と
予算単価との
格差の中から三分の一を差し引くという
やり方は、われわれがどう判断いたしましても納得のできない点でありまして去る二十四日の衆議院の
社会労働委員会におきまして今回
仲裁裁定の立役者を勤めました
藤林委員長、
冨樫事務局長の出席を求めまして、この点について
質疑をいたしましたところ、
実行単価と
予算単価との
格差金は
主文第一項に示しておる千二百円の中には含まれておらず、従って、それを差し引くことは
仲裁裁定の
趣旨ではない、その問題は、将来の問題として合理的に善処さるべきものであることを証言いたしておるのであります。
政府のとった三分の一差引という
措置が、この証言にも明らかなように、いかに不当なものであるかは申すまでもないのでありまして、われわれは、この
仲裁裁定委員会の権威に照らしまして
政府の
措置に対して非難せざるを得ないのであります。(
拍手)
以上の事実が示しまするように、
仲裁裁定本来の
趣旨は、
格差金に千二百円をアップすること、すなわち、五百円内外のものの上に千二百円を乗せるということが、控え目に考えましても正しい
措置でなければならぬというのであります。そこで、三分の一を差し引くという
政府のこの
態度は、従来数回にわたって
仲裁裁定を処理してきました
政府の
態度をここでも裏書きするような感じがいたすのであります。従来たびたび
仲裁裁定が
審議されましたが、
政府はその
仲裁裁定にとかくの因縁をつけまして、その当然
実施さるべきものを忌避いたして参ってきたことは、あまりにも有名な事実であります。こういう
態度でありましては、
公労法の
精神はもちろん、今日、
公企業体における
給与問題を解決する唯一の
手段であり、その
方針を
規定しておりまするものに対して、全くこれを否定するがごとき
行為といわざるを得ないのでありまして私は、ここで
補正予算案に
反対をいたしまする第一の
理由をあげたのであります。
次に、第二に指摘いたさなければなりませんことは、
政府の今回とじました
補正予算を通じてでありますが、それは、
予算総則の
変更という実にインチキに満ちた狡猾な
手段であると、われわれは一言にして言い切れると思います。すなわち、
給与総額内における
基準外、
基準内の両者を
流用するということは、これは従来の
労使の
慣行の中に
一つの
不文律が生まれておるのでありますが、これは、この際、本来から言いますならば、
公労法でありますとか
公社法というような
法案の
改正の中に考慮さるべき事柄を、簡単に
補正予算の
説明書の中にちょっと置き加えるような形において、
予算流用の問題を禁止するような
案件を持ち込み、
大蔵大臣の
承認を必要とする
措置を定めましたことは、ただ単に
予算上の問題だけではございません。このことは
労働政策の上にとって非常に重大なる
措置といわなければならぬのでありまして、現在世界の各国の例を見ましても、
公企業体に対する諸
制度がございますが、この多くの実例の中にも、
給与総額内において
流用することを一々
大蔵大臣の
承認を受けるといったようなことを
規定している国は、どこにもございません。このことはどういうことを意味するかといえば、口に
民主主義を唱え、新しい
労働政策を言いますけれども、その
本質は、かつて
明治憲法のもとにおける
労働者に権力と金力で奴隷的な
労働をしいてきているところの思想を再現しておるのにほかならないのであります。場(
拍手)
今回の
政府の
予算総則変更は、ただ単にそういう問題だけではございません。当面の問題を合理的に解決する上に重大な
障害となってくることを指摘しなければなりません。すなわち、その結果は、
公社に対する
責任者の権限を拘束するということはもちろんでありますけれども、そのことは、
公労法の最も重要な
内容をなしておりまする
団体交渉、別の意味で申しまするならば、
労使のよき
慣行を作り上げていく
基本条件に対しまして重大な
制限を加えるだけではなくて、一その
精神をじゅうりんする
結菓を招来するところに、われわれはいかにこの考え方が無謀であるがを指摘しなければならないのであります。
さらに、この
機会に一言しておきたいと思いますことは、
公労法の第一条に掲げておりますることを、もう一度この
機会に申し述べてみたいと思うのであります。すなわち、「
公共企業体及び国の
経営する
企業の
職員の
労働条件に関する苦情又は
紛争の友好的且つ
平和的調整を図るように
団体交渉の
慣行と手続とを確立することによって、
公共企業体及び国の
経営する
企業の正常な
運営を最大限に確保し、もって
公共の福祉を増進し、擁護することを目的とする。」こう明らかにしておるのであります。これは、今さら
説明をするまでもなく、
公労法のあるべき姿を、端的に、しかも正確に表明しておるところでありまして、こういう点から判断いたしまして、如上の
措置というものは、
公労法の
精神を全く無視するか、もしくは、これを
故意に否定して、かつての
労使関係を意図するというふうにとられましても、返す言葉はないと思うのであります。この
労使間の最も重要な
労使間の自主的な団交という
一つの方式に対しまして重大な
障害を与えましたのみではなくて、このことは今後の
公労法運営の上に私は非常な困難を生ずると思うのであります。
今回問題になりました
公企業体関係における
労使関係の
紛糾というものは、
国民のすべてが憂慮されたところでありまして、その
公金業体の
労使関係の
紛争というものが直ちに
企業それ自身に重大な
影響を及ぼすことは申すまでもありませんが、それが直接に間接に
国民の生活、
国民経済全体に重大な
影響をもたらすものであるだけに、この
企業体における
労使関係というものが平和的にかつ、有好裏に処理されなければならぬことは、今さらちょうちょうするまでもありません。こういうような
関係が処理されてこそ、初めて
公企業体における
労使関係の将来というものに期待が持てるのであります。
このことを否定しただけではなくて、もう
一つわれわれの追加して申し上げなければなりませんことは、
政府みずからが
経営の
責任に、あるいは
監督の
地位にある
事業体においてこのような
措置が一方的にとられ、その
経営責任者である
公社側でなく、その
監督の
地位にある
政府がこういう
関係の中に介在し、干渉するような
措置をとるというここになりまするならば、申すまでもなく、この
政府、この
内閣、これを支持する与党の
労働政策が那辺にあるかをうかがい知ることができるのであります。すなわち、
民主主義の基本的な
条件というものは、
労働者の人格を保障いたしますることはもちろん、その組織的な団結の前にその
地位が保障されるということは、
民主主義の基本的な
原理を貫くものでありまして、この
原理を踏みにじる
行為がここに如実に現われておる点を指摘しなければならないのであります。(
拍手)
私どもは、こういう
理由からいたしまして今回とりました
仲裁裁定を処理するという
予算補正の
やり方には、かかる重大なあやまちを犯しておるということをあげたいのであります。
第三にあげたいと思いまするのはこの
仲裁裁定の
実施をめぐりまする
予算措置の中で
政府のとりました今回の
措置というものは、私は、
労働行政に対する行宮詰まりと無
方針さを暴露したものであるといわなければならぬのであります。御案内のように、
仲裁裁定は、
公労法の中で申しますならば最後の段階でございまして、何回も
公労法に対する
改正、
修正が行われようとし、また行われたのでありまするが、その際に論議の中心をなしておりまするのは、それが
公企業体でありましょうと、私
企業でありましょうと、
労働者の
民主主義社会における
地位というものは、それが団結権と
団体交渉権と団体行動権の中にその基本権が維持されるということは、ひとり憲法の宣言に待つまでもないのであります。それを、
公企業体であるからということによって罷業権に制約を加えましたのは、一万において
仲裁裁定並びに調停、あっせんの段階を高く買っておるからであります。さらに、
団体交渉におきましては、民間のそれとは異なる合理的な
運営を期待しておるところに
公労法を貫く
一つの
方針があるのであります。このことを
政府が十分理解いたしておりまするならば、今回のごとき
措置を私はとらなかったのであろうと思うのであります。
団体交渉は
労使の対等の立場において行われることは申すまでもありません。そこに、政治権力を持ち、
予算権を持ち、あらゆる権力というものが、この対等な立場における
労使の
団体交渉に対しまして干渉がましい圧力を加えるということになりますと、この基本的な
精神が破壊されることは申すまでもありません。今回の
措置は、腕曲にその干渉を加える第一歩を踏み出したものであると申さなければならぬのであります。
こういう意味におきまして、この
政府の持つ
労働行政というものが、権力によって
労働者を屈従せしめ、
労働者の屈従の中に産業平和を維持しようとする封建的な野心が現われておるということを指摘しなければならぬのであります。(
拍手)こういうことでありましては、口に
民主主義を唱えましても、
民主主義の基本的な
条件をなしくずしに破壊してこようとするこの事実こそは、おそるべき傾向であると注意をいたさなければならぬのであります。この点がこの
補正予算の中に現われておる隠された
一つの最も大きな流れであることを指摘して、われわれの第三の
反対の
理由にあげたいのであります。
最後に一言いたしたいと思いますことは、今回の
仲裁裁定につきましては、二大政党を指向するようになりまして初めてといってもいいくらいに、両党の会談を持ってかかる問題の処置をいたしたということは、よき前例を残したものと一般に歓迎されておるところでありますが、このことは、すでにもう明らかになっておりまするように、鈴木・岸会談は、
仲裁裁定を誠意をもって
実施することについては異論のないところでありますが、今回の結果は、以上申し上げたように、あらゆる欠点と、あらゆるごまかしのありますることは、遺憾ながら認めざるを得ないのでありまして、このことは、ひとり岸総裁の信義にかかわる問題だけではなくして、政党政治は
責任政治でありますが、その一党の総裁、
委員長の間にかわされた約束が十分尊重されないようでありましては、今後の議会政治の
運営はもちろん、
民主主義政治というものが、信頼の基礎を失うというおそるべき傾向のあることを指摘しなければならないのであります。(
拍手)
以上の点から判断いたしまして、今回の
政府の出されました
補正予算案二案は、まことに不合理に満ちた、そうして目的を誤まるもはなはだしきものとして、われわれはこれに
反対をいたさざるを得ないことをまことに残念に思う次第でございます。(
拍手)