○首藤新八君 ただいま
議題となりました
政府提案による
中小企業団体法案と、その関連について、私は、自由民主党を代表いたし、総理
大臣、
大蔵大臣、通商
産業大臣に対し、御所見をお尋ねいたしたいと存ずるのであります。
わが国の経済は昨年来異常の繁栄を来たし、
輸出貿易の飛躍的増進とともに、一部では神武以来の好景気とさえ唱えられておりますが、このことは、本年度の予算において一千億円の減税が行われ、大多数国民の切実な要望にこたえるとともに、一方においては、昨年度の予算総額に比し一千億円増加の積極財政を編成し、国家の発展をさらに強力に
推進し得る政策がとられたことが、好景気の実相を立証するものであります。このことは、わが党年来の経済政策がいかに適切有効であったかということを何よりも雄弁に立証するものであります。しかしながら、この好景気が経済界全般に浸透いたし、大中小を問わず、全業者が均霑しておるならば、何をか言わんやでありますが、静かに景気の実態を把握してみますると、この空前の好景気も、全
企業者数のわずかに一割内外にすぎない大
企業と大商店が独占し、その他の中小商工業者は、依然として過剰生産に原因する業者同士の乱売戦に終始いたし、究極、相次いで倒産するの苦境に呻吟しておるのが、現在の実相であります。(
拍手)最近、神武以来の好景気の声が高原景気に変って表明されておるゆえんはこの点に原因するのでありまして、遺憾ながら適評であることに同調せざるを得ないのであります。むろん、かようなはなはだしい不均衡を招来した原因は、壊滅した国土の復興が基礎
産業の振興を優先しなければならぬという絶対的
条件から、過去十一年間、
産業政策の重点を大
企業に指向した結果であって、従って、それから生じた現在の跛行的景気も一応やむを得ないものとして首肯しなければなりません。しかしながら、
中小企業は
わが国経済の根幹をなすものでありまして、その盛衰は経済的にも
社会的にも前途に深刻かつ重大なる影響をもたらすもりでありまするがゆえに、現状は断じて放任できないのであります。
すなわち、
政府が今回本
法案を提案したゆえんのものは、中小商工業者の現状を把握し、業者の自力によって不況を克服し、進んで業界の安定を策し、もって正常にして健全なる国家経済の発展を目途とせられたものと信じ、その
趣旨並びに
内容に対しましては、全面的かつ積極的に賛意を表するものであります。しかしながら、なお若干の疑点がありますので、この点をまず通商
産業大臣にお聞きしたいと思うのであります。
第一点は、
輸出貿易に関してであります。
わが国の
輸出は、幸いにして、最近毎年異常の発展を続けておりまして、数字だけを見まするとまことに喜ぶべき趨勢でありますが、この中には、中小業者が激甚な競争によって生じた出血
輸出の量がきわめて多量に隠されておることを指摘しなければなりません。せっかく
輸出に努力いたしましても、
経営はかえってますます苦しくなる事例がきわめて多いのであります。しかも、海外の需要者は、限度のない底抜け的安値の乱売と
品質の低下にようやく警戒的となって、
輸出の前途に大きな不安をかもしておりますが、通商
産業大臣は、この大きな問題をこの
法律だけで根本的に
改善できるとお考えになるかどらか、まずこの点をお尋ねいたしたいのであります。
次に第二点は、中小業者のほとんどの者が原料高の製品安に苦しみ、これが
経営上最大の禍根となっておる点であります。むろん、原因は業者の共通した弱点である過度の競争からきた結果でありますが、大
企業からは高い原料を押しつけられ、これから作った製品を不当に安い価格で売らざるを得ないのが現状であります。この問題が中小業者の運命を決定すると思いますが、本
法律によって完全な
改善に確信をお持ちになりますかどらか、通産
大臣の所見をお尋ねいたしたいと存ずるのであります。
第三点は、商業者の問題であります。由来、
わが国の中小商業者は、生産品の流通上、九九・九%という重大なる役割を果し、国民生活上負担しておる責任はきわめて大きいのにもかかわらず、今日まで、これらの商業者を指導育成または保護するような
法律は皆無であったと申し上げても過言でないほど放任されておったのでありまして、それだけに、今回
政府が提案いたした本
法律案では商業者の保護も
目的といたしておりますので、
全国の商業者は、現実の身を切られるような苦境とともに、旱天に雲霓を望むような気持で本
法律の通過を熱望いたしておるのであります。しかるに、小売商は小資本をもって開業できますので、資源の少い
わが国では、過剰人口の唯一のはけ口となっておるのが現状であります。この結果は、おきまりの競争激化を来たし、不当な景品付販売、進んで投げ売り、あるいは顧客の無料送迎という、非常識なサービスにまで発展いたし、結局、倒産者が相次いで起り、店舗の
経営者が次から次へと変っていく、きわめて不安定な状態を続けておるのでありますが、通商
産業大臣は、この点も本
法律によって根本的な
改善を期待されておるかどらか、お聞きしたいのであります。
さらに第四点は、消費者との関連においてお尋ねしたいのであります。消費者に直接
関係を持つものは商業者でありますが、本
法律が
施行された後において、業者の一方的価格協定を初め、消費者の不利益になるような行為が簡単に認められることになりますと、これは大きな
社会問題となり、国民生活を脅かす結果になるおそれがありますけれども、通商
産業大臣は、この
法律によって、さような懸念は全くないという確信を持たれるかどらか、この点もお尋ねいたしたいのであります。
さらに、質問の第五点は、
組合交渉の点であります。世間では、これを
団体交渉と称し、労働
組合の
団体交渉と混同して、大
企業はこの
組合交渉によって非常に不利な立場に置かれるのではないかという点で非常な不安を持ち、その結果、本
法律に批判的な態度をとっておりますが、同時にまた、
法律の表現では、交渉の方法あるいは
範囲等について明確を欠いておりますので、この点に対して通商
産業大臣の対処せられる明確なる方針をお尋ねいたしたいと存ずるのであります。
さらに、この際、私は、総理
大臣に対し、
日本の中小商工業者の今後に対しいかなる方針を持って対処せられるかという点について、御所信を伺いたいのであります。
さきに申し述べましたごとく、現在の景気は、原因のいかんにかかわらず、極端なるびっこであります。大
企業は限りなく栄え、これに反して、中小業者はますます衰えるという現状は、断じて正常にして健全な経済とは申しがたいのであります。従って、
政府は、この際、急速に、かつ強力なる総合
施策によって中小業者の育成強化に努力し、もって両者の間にできている極端な不均衡を是正すべきでありまして、本
法律を提案されました
政府の御意向もまたその
一つの現われであると信ずるのでありますが、この
法律のみをもって直ちに中小業者の
経営が安定するとお考えになると、これは非常なあやまちであります。この
法律を基礎として、この上に立って、さらに万端の振興育成策を講じなければ、仏作って魂入れずの悔いを残すのであります。すなわち、私は、過去十一年間連続して
施行した金融、税制その他特別の措置によって今日の繁栄を満喫しておる大
企業が自力態勢に入った母上、
政府の今日までにおける
施策をそのまま大
企業から中小商工業者に転換し、もってこれら弱小業者のすみやかなる振興をはかるべきであると信じますが、この点に対し、総理
大臣の御方針を承わりたいと存ずるのであります。
さらに、第二点といたしましてお尋ねいたしたいのは、中小業者共通の悩みであり、大きな弱点とされておる問題は、技術の貧弱と困難な対策であります。
中小企業の技術は、すでに戦前においてもきわめて幼稚でありまして、いたずらに原料を浪費し、その割に
品質は
向上せず、過当競争による乱売とともに、安かろう悪かろうの不評を世界的に買ったことは、御
承知の
通りであります。しかるに、戦後においては、技術者教育機関の抑制と大
企業の需要増加によって、正規の教育を受けた
中小企業の技術者はいよいよ払底し、これがために製品の
向上はきわめて困難な状態に置かれておるのでありまして、国際競争の激しくなった
輸出貿易の前途に少からぬ不安を持たれておるのであります。ことに、貴重な外貨によって輸入した資材をいたずらに浪費する現状は、国家経済の面からも、もう看過できないのであります。よって、この際、禍根を一掃するため、国が総合的、大規模な技術研究所を創設の上、業種ごとの技術者を短期に養成し、これを
中小企業に配分するとともに、他面、研究所の指導者が定期的に各
企業を巡回の上、現場の指導に当り、もって
品質の
向上と製作の
合理化を
推進することが適切にして有効な対策と信じられまするが、総理
大臣のこれに対する御所見を承わりたいと存ずるのであります。
次に、
大蔵大臣に二、三お尋ねいたしたいと存じますが、その第一点は、中小業者に対する金融の不合理と高金利であります。昨年三月末現在における
政府の投融資の残高を見ますると、大
企業向けの五千五百四十億円に対し、
中小企業は千二百七十億円でありまして、その比率は実に一対四・五であります。一方、一般民間金融機関からの両者に対する融資を見ましても、その比率は、大
企業の六・五に対し、中小業者は三・五にすぎません。しかるに、生産高の面から見ますると、中小業者の六・五に比し、大
企業は三・五でありまして、融資の面とは全く正反対であります。
中小企業といえば直ちに金融を連想させるほど、これほど中小業者の金融は常に逼迫をしておるのでありますが、この生産高と融資の比率を検討しますと、この逼迫の
理由がきわめて明瞭になってくるのであります。これに加うるに、民間銀行の中小業者に対する金利は、大
企業に比し、おおむね二分ないし三分の高率が適用され、その上に歩積みと両建預金を強要するのでありまして、業者ははなはだしい高金利の個人融資を受けて、これを低金利の銀行預金に振りかえておるのが
実情であります。生産量と融資の量が逆比率であり、その上に高金利であり、両建による
損失までも負担しなければならぬ中小業者が、現状のまま放任して、果して発展の機会に恵まれるでありましょうか。
政府の一貫した政策である中小業者の指導育成の方針と現実はあまりにも大きな矛盾を露呈しておりますが、これに対して
大蔵大臣の御所見を伺いたいのであります。
すなわち、
政府が真に中小業者の育成強化に誠実であるならば、最大のネックである金融の問題について根本的に再検討すべきであると信ずるのであります。先ほど、私は、総理
大臣に対して、大
企業が幸いにして自立態勢が整った今日、
政府の久しい間紡げた大
企業対象の金融その他の特別措置を講ずべきである旨の意見を述べたのでありますが、信用力の薄い中小業者に民間銀行の融資を飛躍的に増加するということは事実上困難であります。よって、この際、開銀の融資対象に中小業者を加えるとともに、国民金融
公庫、
中小企業金融
公庫、商工中金等、特殊金融機関の資金量を思い切って増額し、進んで金利を開銀並みに引き下げる措置を講ずべきであると信ずるのでありますが、これに対する
大蔵大臣の御所見を伺いたいのであります。
さらに、第三点としてお伺いいたしたいのは、中小業者に対する税制の問題であります。
政府は、食糧の増産と農家経済の充実を目途として、
農業にもろもろの保護政策を実行しており、その一環として、租税の面においても特別措置がとられ、四千万人の従業しておる
農業関係の国税納入額は九十億内外にとどまっております。しかし、この措置が農家経済の
向上に大きな効果を発揮しておることは万人の認むるところでありまして、善政の最たるものであります。しかるに、過当競争によって常に
経営は不安定であり、倒産者相次ぐの悲況に苦しんでおりながら、なおかつ、二千五百万人の従業者によって、生産量と
輸出量において六割以上という重要な役割を果しておる
中小企業者の租税に何らの考慮が払われていないのみならず、大金業よりも実質においてはるかに高率課税であることは、不公平のはなはだしいものであります。もっとも、今年度は個人所得並びに法人税において若干の引き下げは行われましたが、不況にあえいでおる業者にとっては、この課税が、金融難と同様に、
経営を極度に圧迫しておるのであります。
けだし、現在の税制は、シャウプを団長とする米国使節団の勧告によって立案されたものであり、強度の国家統制によって多くの中小業者が
経営上比較的恵まれていた当時を対象としたものでありますが、それにもかかわらず、なおかつ基礎控除がはなはだしく低過ぎるとの批判が強かったことは、記憶に新たなところであります。それが、その後の自由経済への移行によって極度の競争が行われ、今日の不況に直面しても、なおかつこの税制が適用されているところに、大きな無理と矛盾を包蔵しておるのであります。現在、中小業者の脱税と更正決定が他の階層よりもはるかに多いといわれておりますが、帰するところ、不公平にしてかつ不当な高率課税に原因すると断じて間違いないのであります。
大蔵大臣は、以上申し述べた事情と実相を真剣に検討の上、税率の大幅引き下げと控除率の引き上げを実行し、もって苦難にあえぐ中小業者の
経営を安定せしむるよう措置すべきであると考えますが、これに対する御所見を伺いたいと存ずるのであります。
以上によって私の
質疑は一応打ち切りたいと存じますが、私の申し上げた
事項は、本
法律に対する国民の疑問としている焦点と、全中小業者の切実な要望を集約したものあり、同時に、これが実現によってこそ、初めて
日本の中小業者は暗夜に光明を認め、経済の正常な繁栄を期待できると信じまするがゆえに、総理並びに大蔵、通産各
大臣の明確な御答弁を希望する次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣水田三喜男君
登壇〕