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小平忠君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
政府提案による
昭和三十一
年度一般会計予算補正(第2号)外二案に対し、
反対の意思を表明せんとするものであります。
岸内閣は、
さきの本
院本会議におきまして、
組閣に対する所信の表明を行なったのでありますが、その基本をなすものは、
石橋内閣の
施政方針を踏襲することを強調したものであり、
石橋内閣の掲げてきました
重要施策を自信を持って推進することを公言されたのであります。しかしながら、
岸内閣は、
組閣以来わずか数旬を経た今日、はや、
国家予算編成においてその無定見きわまる
場当り的性格を暴露しておるのであります。すなわち、ここ十日余りの間に、四百億に上る
昭和三十一
年度第一次
予算補正と、ただいま
議題となっておりまする第二次
予算補正を
提出してきておる、そのぶざまな
予算編成を見ても、明確なところであります。(
拍手)
昭和三十一
年度一般会計予算補正(第2号)の
内容には、
さきにわが
社会党が
昭和三十一
年度予算補正(第1号)の
審議に当って
提出いたしました組みかえ
要求動議の
内容とほぼ同一のものもあり、従って、その
歳入歳出に計上されております
補正内容については
賛意を表するものも少くないのであります。しかしながら、
政府関係機関予算補正案におきまして、
国民金融公庫に対する十五億円、あるいは
中小企業金融公庫に対する二十億円の
融資増額をはかっておるのでありますが、これは、少くとも、
国民金融公庫については、さらに十五億円ふやした三十億円の
融資を必要とするのでありましてこの点は、最近とみに逼迫しつつある
庶民金融の
実態を認識せず、かつ、日を追うごとに
公庫に対する
資金需要が盛んになってきている事実をおおい隠さんとするものでありまして、
岸内閣のいう
国民生活の安定もまた、
景気好況の恩恵にひとり浴し得ない
中小企業者に対する設備の
近代化、
技術の
向上あるいは経営の
改善等による
経済的地位の
向上と
確立も、から念仏に終ってしまうという
危険性が多分にあるのでありまして、
国民各層の声をよく聞き、その
実態をつぶさに把握して、清新にしてはつらつたる政治を行わんと公言してきたそのことが、はや破られんとしておるのであります。(
拍手)
本日ここで
採決を前にしておりまする
政府提出による
予算補正三案については、わが
社会党は、先にも述べましたごとく、部分的には
賛意を表するに決してやぶさかでないのであります。しかし、
昭和三十一
年度一般会計予算補正編成における
政府の
根本方針に対しては、われわれとしては全く氷炭相いれざるものを持っておるのであり、その
方針には賛成をすることができ得ないのであります。(
拍手)
その第一の
理由は、
食管特別会計の
赤字補てんについてであります。そのことは、すでに
昭和三十二
年度予算審議の過程においても最後まで問題とされてきたのであり、その間、何らの
解決がなされていないのであります。今回
政府が
提出しております三十一
年度一般会計予算補正(第2号)について見ましても、
一般会計より
食管特別会計に
繰り入れる三十三億五千万円というのは、
昭和三十
年度における
食管特別会計の
赤字処理でありまして、昨年の二月、
昭和三十
年度の
食管赤字は百六十七億円と見込み、そのうち百億円はインベントリーを取りくずし、六十七億円を
一般会計より
繰り入れて処理しているのでありますが、わずか一ヵ月後の
決算において、
見込み違いから、さらに三十三億の
赤字を追加計上せねばならぬというような無定見きわまる
措置に対し、
鳩山内閣から現在の
岸内閣に至る一連の
保守党内閣の
責任を強く追及しなければならないのであります。(
拍手)
さらに、
昭和三十一
年度食管特別会計の
赤字百六十一億円は同年の
補正予算において当然処理すべきにもかかわらず、何ら組まれていないという状態であります。そもそも、その
年度における
赤字は当然その
年度において
解決すべきものでありましてそのことは
財政法第十二条の趣旨から見ましても明確にされているところであります。
昭和三十一
年度に生じた
食管特別会計の
赤字を
昭和三十二
年度の
補正予算をもって処理しようとするがごときは明らかに
違法行為であると同時に、そのふまじめきわまりない態度はあくまでも追及されなければなりません。(
拍手)このように、百六十一億円に上る三十一
年度食管特別会計の
赤字補てんは何ら
解決していないにもかかわらず、一方三十二
年度における
産業投資特別会計の
原資への
繰り入れ及び三十二
年度における
地方債返済原資への
繰り入れを行なっているのでありますが、いわば、足元の
赤字財政の
解決をはからずして、いたずらに
財政規模の膨張を行わんとする、不健全きわまりない
財政方針なのであります。
次に、
反対の第二の
理由は、かかる
無理押し予算編成の裏には、
消費者米価の
値上げという、今後の
国民生活の上に大きく響いてくる重要問題が隠されているからであります。そのことは、
政府が当然行なっていかねばならぬ
食管特別会計に関する
赤字の
解決を、
さきに
設置されました
臨時食糧管理調査会にゆだね、みずからの
責任を同
調査会に転嫁せしめて、これらによって三十一
年度の
食管特別会計赤字及び三十二
年度に推定される
食管会計赤字分合計三百三億円の
解決の方途を求めさせ、ここで
消費者米価の
値上げやむなしという結論を出させようとしているのであります。すなわち、
政府としては、
消費者米価値上げによって起きる世論の反撃をこれによって回避せんとするものであり、
消費者米価値上げは他動的にやむなく行わざるを得なくなったものであるという
理由を作り、
国民にその印象を与え、
自民党政権の人気を少しでも落さぬようにせんとする苦肉の策以外の何ものでもないのであります。
本年の夏以降の物価の見通しについては全く暗たんたるものがあるといわれているにもかかわらず、
政府は、この時期に
消費者米価を引き上げ、消費者物価全般の値上りのてこ入れを行わんとしているがごとき動きを見せたり、一たび反撃にあえば、その態度を不鮮明にして、その場をのがれんとするがごときは、卑怯きわまりない態度といわなければならないのであります。(
拍手)
消費者米価値上げ問題につきましては、同僚議員が本
会議並びに当該
委員会において明らかにしておりますので、この際私は詳しく述べようとはいたしませんが、周知のように、今や国鉄運賃の
値上げを行わんとしており、また、引き続いて私鉄運賃の
値上げも考えられてきております。さらに、揮発油税増徴の結果から生ずる自動車運賃の
値上げ問題も起きてくるのであります。これらは、最近次第に上昇を見せつつある諸物価の
値上げ傾向とともに、一般
国民大衆にとっては大きな
経済負担となってくることは明らかであります。このようなときに
消費者米価の
値上げを行おうとするならば、今でさえ依然として貧しい生活を続けております
国民大多数の現実の生活の上に一大脅威となってくることは必然であり、われわれとしては、かかる方向をたどる
予算編成なり政策には絶対に賛成することができないのであります。(
拍手)
最後に指摘しておかねばならぬ第三の
反対理由は、かかる場当り的
予算編成に加えて、
政府は、日本
経済の現状並びに今後の見通しについて何らの定見もなく指導力も持たぬ、不見識きしまる
経済政策をとっているということであります。日本
経済はすでに神武景気と称するものの峠は越したという意見が最近出てきつつあるのであります。すなわち、国際収支が黒字であり、物価も横ばい、金融も緩慢という数量景気段階は昨年秋をもって終り、今や、いわゆる物価高に対する警戒と思惑から価格景気に移行せざるを得ない段階に立ち至っているのであります。
去る三月八日の本院
予算委員会におきまして、
池田大蔵大臣は、三十一
年度の国際収支は、実質一億七、八千万ドルの
赤字、形式的には約三千万ドルの
赤字であると
答弁しているのでありますが、これは、当初
政府が予測していた、実質八千万ドルの
赤字、形式的には六千万ドルの黒字から見るとき、実に実質的には一億ドル、形式的には九千万ドルに上る
見込み違いが生じたわけであります。また、三十二
年度の国際収支に対しましては、
政府は、実質は五千万ドルの
赤字であり、形式的には
均衡するものであるという予測をいたしているのであります。しかし、これらの基礎となっている輸入三十二億ドル、輸出二十八億ドルのワクで、果して三十二
年度の貿易がおさまるでありましょうか。これは
政府みずからが全く確信を持っていない状態であり、輸入の伸びを予測する基礎となる輸入原材料の在庫量については、大蔵省と
経済企画庁との間に食い違いがあるという状態であります。
また、物価の動向につきましても、週間卸売物価はじり高の傾向を見せており、消費者物価もとみに値上りの傾向にあるのであり、この抑制策がなく、放任の状態であるのであります。これに対し、
池田大蔵大臣は、企業努力の中に吸収をはかり、価格高を起させないようにすると言明しておりますが、価格統制は、
社会党政権下ならばいざ知らず、
自民党政権下ではとうてい望むべくもない相談であります。
かくのごとく、国内物価が値上り傾向にあるとき、国際物価の動きはどうでありましょうか。試みに二月中におけるイギリス及びアメリカの国際商品相場指数を見ますとき、二・二%から一・〇%に下り、わが国物価の値上りと逆に、低下の方向に向っておるのであります。これによっても、わが国の輸出というものが今後きわめて重大な段階に立ち至ってくるということを認識しなければならないのであります。
また、最近における日銀貸出残高は二千七百億円台になっており、
昭和二十九年十二月以来二年二カ月ぶりのことであり、しかも、貸出増加が続けられ、高率適用がますますふえてきている状態であります。興業銀行、長期信用銀行の三十二
年度の資金
合計六百億円に対し、借り入れ申し込みはすでにその約三倍に達する千七百億円に及んでおるのであります。開発銀行のごときは、貸出しワク六百億に対し、電力、海運のみですでに四百三十億円を占めており、他の業種に対する貸出しは多くを期待でき得ない状況にあるのであります。すなわち、大蔵省は産業投資の伸びは三十一
年度に比べて一五%程度の増加と見ているのに対し、
経済企画庁は二〇ないし二五%の増加を見込んでいるのであります。いずれにいたしましても、現実は大蔵省の予測のように甘くなく、
経済企画庁の予測よりはさらに上回ったところの
資金需要があるはずであります。
このように、本院で三十二
年度予算案の
審議を終了して一月もたたぬ今日、はや、
政府の
説明には現われ得なかった新しい
経済の動きが見られるのであります。これらは、いずれも、
政府の楽観的な予測とは
反対に、三十二
年度経済が容易でない方向に移行しつつあることを示しておるのであります。
政府は、みずからの保身のみを考え、その
内容を離れて、
予算案の通過に狂奔しておるのでありますが、われわれは、あくまでも、常に一部の階層のみでなく、
国民大衆の立場に立ってその
予算をきめるべきであるという、真摯なる態度をもって臨んできておるのであります。
予算の執行がその国の
経済に影響し、
国民生活に重大なつながりを持っているにもかかわらず、今後に起る
経済の動向について何ら確固たる予測もなく、確信も持たず、加えて、三十一
年度の
食管特別会計の
赤字補てんを放置しておくがごとき無
計画きわまりない
予算編成については、その後に来たるわが国
経済のおそるべき混乱と
国民大衆に及ぼす影響を予想いたしますとき、どうしても
反対せざるを得ないのであります。(
拍手)
岸内閣は、財政の健全性をうたい、
国民生活の安定を説いてきております。しかし、その題目も、国会における
予算審議を通じて今や色あせてきつつあり、日を追うごとに魅力を失ってきているというのが
実態であります。桃李言わざれどもその下おのずから小道をなすということわざがあるごとく、
岸内閣に、実のある政策、
国民を納得させる実績があれば、そのもとには自然に
国民の支持は集まってくるものであります。現在の
岸内閣の
実態は、それとは全く
反対であり、よく言う者よく行わずのたぐいに入るものと断定せざるを得ないのであります。
以上述べましたような
理由によりまして、
昭和三十一
年度予算補正(第2号)及び外二案に対しまして、私は、
反対の態度を明らかにいたしまして、
討論を終る次第であります。(
拍手)