○中居英太郎君 私は、
日本社会党を
代表いたしまして、ただいま
説明せられました
日本国有鉄道運賃法の一部を改正する
法律案、すなわち運賃値
上げに対しまして、岸総理大臣並びに関係閣僚に、それぞれその
所信をただしたいと思う次第でございます。(
拍手)
日本国有鉄道は、その職員四十五万人を擁し、年間収支三千億円をこえる、
わが国最大の企業体でありまして、しかも、輸送を通じまして
国民生活にきわめて密接な関連を持っておることは、今さら申し
上げるまでもない
ところであります。それゆえにこそ、
国民は国鉄に対しまして大きな関心を抱いております。輸送力の強化をこれに求め、施設の改善、サービスの向上を望みながらも、なおかつ低廉な運賃を国有鉄道に期待いたしておるのでありまするが、
国民がこのようなことを国鉄に期待したといたしましても、国鉄が
国民のものである限り、何の不都合も矛盾もない、むしろ当然のことであろうと私は
考えておるのであります。(
拍手)しかし、反面、国有鉄道は
一つの企業であります。国鉄が公共企業体であるという
立場から経営の面をながめて見ますならば、そこにはまたいろいろな意見なり言い分なりが出てくることもやむを得ないと思うのであります。このように
国民的な
立場と経営者的な
立場という相反する
二つのものを、運賃という媒介体によりまして、どのように調整するかということは、まことに重要なことでありまして、それゆえにこそ、今日、運賃の決定が財政法の規定に基きまして、
国会の議決権限にゆだねられておると思うのであります。
ところが、近来、国鉄は、すでに国権による
ところの独占事業ではない。従って、財政法の拘束を解くべきであるという意見が伝えられております。また、運賃も物価の一種である、こういう意見が企業体であるという意見と重なり合いまして、運賃の決定を政治的に論議することは不当であり、これを
国会の議決権限から引き離して運輸大臣の許可事項にすべきであるということが伝えられておるのであります。しかも、このような意見は、ひとり国鉄や
政府部内にとどまらず、先般なされました経営
調査会の答申もその旨を主務大臣にいたしておるのでありますが、この点につきまして、総理大臣は一体いかなる所見をお持ちであるか、お伺いしたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、私は、国鉄運賃のあり方と今回の運賃値
上げの根拠について、運輸大臣にお尋ねいたしたいと思うのであります。御承知のように、運賃法の第一条には、公正妥当なものでなければならぬこと、原価を償うものであること、そして、産業の発達に資し、賃金、物価の安定に寄与するものでなければならないと書いてあるのであります。これがすなわち運賃決定の四原則であります。産業の発達に貢献し、賃金、物価の安定に寄与するという前提に立ちまして、しかも、国鉄経営を確保するに必要な運賃とは一体どの範囲までの経費をもって算定の基礎にすることが公正妥当なものであるかという点であります。論理的には、経営的な経営費、減価償却費、債務関係費、あるいは平均的な災害引当金、退職金等をもって算定の基礎にすることには、だれ人も異論がないと思うのであります。
ところが、毎年の予算審議に当りまして、大蔵当局は、国鉄も
一つの企業である限り、投下資本に対する一定の利益を見ることは当然である、そして、これをもって施設の増強等に充当せしめなければならないと主張し、この利益率をも原価構成の一要素に加えるべきであると主張しておるのであります。今回の値
上げ案の内容を個々に
検討してみますと、明らかに大蔵当局のこの見解によって貫かれておるということがわかるのであります。国有鉄道の運賃原価に、一体利益率というものを算入するのが当然であろうかどうか、この際、主務大臣たる宮澤運輸大臣の見解を承わっておきたいと思うのであります。
近年、しばしば国鉄の危機ということが伝えられております。それとともに、国鉄が赤字であるか黒字であるかという点が久しい間論議せられて参りました。しかし、この問題は、減価償却費をどの程度見るかということによって異なった結果を生ずることは、これまた皆さん御承知の通りであります。事実、年間三百億円程度しかこれに充当することができなかった過去数年の国鉄経理は、まことに憂慮すべきものがあったと私は思うのであります。二兆円の総資産を有しまして、一兆六千億円の償却資産を保持しながら国鉄経営を続けるためには、四百五十億円程度の償却費を適正なものといたしました経営
調査会の意見も、さらにはまた、この計上不足額百五十億円程度の金額は運賃の増収に待つべきものであると結論をなすこの意見も、その限りにおきましては、私は否定のできない
一つの理由を持っておったと思うのであります。すなわち、これが運賃改訂の
一つの根拠であり理由でもあったのであります。
ところが、
わが国経済の好況は、本年度におきましては約二百億円の運賃の増収を国鉄にもたらしました。さらに明年度におきましては三百億円の増収が期待できると、
政府みずからが予算
説明書に明記いたしておるのであります。この増収額をもって減縮償却の不足額に充当するならば、赤字、黒字の論争はおのずから解消するのでありまして、現在の運賃ベースこそが原価を償う公正妥当なものであるということが明らかになるのであります。この点についての運輸大臣の御意見を承しりたいと思うわけであります。
さらに、私は、今回
提案になっております一三%の値
上げ率についてお尋ねしたいと思うのであります。このうち五%に相当する金額は、先ほど大臣の
説明にもありましたように、特別償却費という名のもとに過去における償却不足を償う
ところの資金に充当せへれるものであります。過去における償却不足は、戦争という至上命令が国鉄を酷使した当然の結果であります。さらに、戦後の物資不足がこれに重なり合ってもたらされたものであるのであります。いわゆる戦災復旧という
立場からも、
政府の
責任において償われるべき性質のものでありまして、断じて運賃値
上げの要素として今後の利用者に転嫁せしめるべきものではないと思うのであります。
さらに、次の三%は、固定資産税に相当する国庫納付金に充当せられる額であります。国鉄が
一つの金業体でもる限り、他の私鉄等と何ら税法上の差別を与える必要はないという税制
調査会の答申を
政府は取り入れておるのでありまするが、もしも、この税制
調査会の答申を取り入れて、七十億、八十億に上る
ところの納付金制度を実施しようとするならば、まず、現在の国君鉄道の性格なり、あり方なりというものに対しまして、根本的な改正を加えることが前提でなければならないと思うのであります。また、国鉄側がこんな理不尽な要求を易々と了承しましたその腹の中には、これを
一つの踏み台として運賃値
上げを合法化しようとする
考え方が強く働いておったのであろうということを、私どもは容易に想像できるのであります。地方財政の確立は、もちろん焦眉の急務であります。だからといって、みずからの
責任を国鉄財政にしわ寄せさせまして、運賃値
上げを前提とする納付金制度を強制することは、どのような詭弁を弄しましても、決して
国民の納得を得る
ところでないと思うのでありまして、(
拍手)本制度のごとき納付金制度はすみやかに廃止してしかるべきものであると私は思うのでありますが、これに対する自治庁長官の御所見を承わりたいと思うのであります。
さらに、残された五%は輸送力の増強の資金に充当するというておられます。国有鉄道は、経済企画庁の
計画に基きまして、いわゆる国鉄五カ年
計画を策定いたしまして、約六千億の予算をもって、旅客におきましては二六%増の四十八億人、貨物におきましては二〇%増の一億九千万トンの年間輸送量を確保しようといたしております。今日の国鉄輸送力が、
わが国経済の
一つの障害になつておる限り、万難を排しましてこれが解決に当られなければならないことは、たれ人も異論のない
ところでありましょう。しかも、輸送力の増強、国鉄五カ年
計画が国家的要請に基くものである限り、これに要する投下資本は
政府の
責任で果さるべき性質のものでありまして、断じて利用者に二重負担せしむべきではないと思うのであります。
国民は、でき上った施設を運賃によって利用すべきものでありまして、これが企業者と利用者との常識的な関係ではないかと私は思うのであります。
以上申し
上げました三つが運賃値
上げ一三%の実態でありまして、どの
一つを取り
上げてみましても、原価を償うものでなければならぬとする運賃算定の基礎に入るべき何らの根拠も存在していないのでありますが、(
拍手)運賃法の原則に照らしまして、運輸大臣の御
答弁をお願いいたしたいと思うのであります。
さらにまた、岸総理大臣に本
法案の再
検討の御
意思があるやなしやを伺いたいのであります。昨日、総理は、予算
委員会におきまして、わが党議員の
質問に対しまして、この運賃値
上げは経営
調査会あるいは運輸審議会の結論であるから撤回の
意思はないと
言明せられておるのであります。しかし、経営
調査会といえども、著しく客観情勢の変化いたしておる今日、国鉄経営の内容を
検討しましたならば、おそらく、あのような結論は出さなかったであろうと私は
考えておるのでありまして、(
拍手)重ねて岸総理のこれに対する所懐を承わりたいと思うのであります。
さらに、宇田長官に、運賃値
上げが物価に及ぼす
影響についてお尋ねしたいと思うのであります。国鉄当局は、運賃値
上げがもたらす物価との関係をきわめて過小評価いたしまして、むしろ、物価の変動は、他の客観情勢、すなわち需要供給の関連によって左右せられると言い切っておるのであります。しかし、この意見は、単なる物価変動の比較論でありまして、決してこのことをもって運賃値
上げが経済に及ぼす
影響を否定する根拠にはならないと思うのであります。原材料から消費に至るまで平均五たび輸送の関門をくぐるという統計は、いかに消費価格に占める運賃の負担が大きいかを如実に示しておると思うのであります。輸送の根幹たる国鉄の運賃値
上げは必然的に私鉄運賃の値
上げを伴うでありましょう。揮発油税、軽油税の増徴は当然自動車輸送費の値
上げを招くでありましょう。さなきだに秩序なき財政
計画と赤字見込みの国際収支とが不気味なインフレの要因を包蔵しておる今日の経済下におきまして、一切の運賃値
上げが演ずる役割はインフレ扇動以外の何ものでもないことを私は憂えるのであります。(
拍手)減税の恩典にも手の届かない、
政府の施策にも取り残された多くの人たちは、ただいたずらな物価値上りの波に押しまくられて、さらに困窮の度を深めていくであろうことが想像できるのであります。運賃値
上げが物価に及ぼす
影響について、長官の
所信を承わりたいと思うのであります。
さらに最後にこの機会に申し
上げたいことは、国鉄をめぐる醜聞の数々であります。血のにじむような努力を続けてきたという当局者の
言明にもかかわらず、一年、三百六十五日、よくも種切れすることなく、恥ずべき話題の数々を
国民の前に提供し続けて参りました。
国民は、いかにその内部
機構が腐れ切っておるかということに、今さらのごとく怒りを押えることができないのであります。
国民のこの感情は理論を越えた大きな反発となって国鉄に向けられておることを、国鉄当局者は強く反省してみなければならぬと思うのであります。私は、このことを多く申し
上げる時間を持っていないことを遺憾に思います。しかし、物資の購入、工事入札制度、財産
管理等々、くもの巣のように張りめぐらされた大小無数の外郭団体との因縁情実関係を整理することは、それ自体莫大な経費の節減を伴うだけではなく、失われた信用を
国民の中から呼び戻すためにも緊要の急務であるということを、私は当局者に申し
上げまして、私の
質問を終了したいと思うわけであります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕