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1957-05-14 第26回国会 衆議院 法務委員会 第32号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年五月十四日(火曜日)     午前十時五十七分開議  出席委員    委員長 三田村武夫君    理事 池田 清志君 理事 椎名  隆君    理事 福井 盛太君 理事 猪俣 浩三君       高橋 禎一君    林   博君       古島 義英君    松永  東君       山口 好一君    横川 重次君       坂本 泰良君    中村 高一君       古屋 貞雄君    吉田 賢一君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中村 梅吉君        国 務 大 臣 大久保留次郎君  出席政府委員         警察庁長官   石井 榮一君         警  視  庁         (警察庁刑事部         長)      中川 董治君         警  視  監         (警察庁警備部         長)      山口 喜雄君         検     事         (刑事局長)  井本 臺吉君         法務事務官         (人権擁護局         長)      鈴木 才藏君         文部事務官         (初等中等教育         局長)     内藤誉三郎君  委員外出席者         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 五月十四日  委員神近市子君、河野密君及び武藤運十郎君辞  任につき、その補欠として鈴木義男君、田中幾  三郎君及び中村高一君が議長指名委員に選  任された。 同日  委員鈴木義男君辞任につき、その補欠として神  近市子君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 五月十一日  恩赦審議会設置に関する請願(中村高一君紹  介)(第三〇九〇号)  同(高瀬傳君紹介)(第三一〇八号) の審査を本委員会に付託された。 五月十一日  政治献金抑制に関する陳情書  (第  九二九号)  外国人登録法の一部改正に関する陳情書  (第九三二号)  汚職連帯共同責任に関する陳情書  (第九八三号) を本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  刑法の一部を改正する法律案鈴木茂三郎君外  十二名提出衆法第二七号)  法務行政及び人権擁護に関する件     ―――――――――――――
  2. 三田村武夫

    三田委員長 これより法務委員会を開会いたします。  鈴木茂三郎対外十二名提出刑法の一部を改正する法律案議題とし、提出者より提案理由説明を聴取することといたします。猪俣浩三君。
  3. 猪俣浩三

    猪俣委員 議題となりました刑法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。  この法律案は、刑法の一部を改正して、新たに涜職ノ罪の章に公務員あっせん収賄罪処罰する旨の一条を加えるとともに、あわせてあっせん収賄をした公務員に対して贈賄をした者をも処罰しようとするものであります。御承知のように、現行刑法規定されておりますところの贈収賄罪につきましては、種々の態様があり、処罰をするために必要なさまざまの要件が規定されてありますけれども公務員がその地位を利用して他の公務員職務に属する事項に関しあっせんをなすこと、またはあっせんをなしたことにつき賄賂を収受する等の行為及びかかる賄賂を供与する行為につきましては、従来これを処罰することができる旨の規定を欠いていたのであります。のみならず、いわゆるあっせん贈収賄処罰すべきであるかいなかにつきましては、沿革的に従来から問題が存していたのであります。すなわち、まず昭和十五年に刑法並びに監獄法改正調査委員会の総会の決議として発表いたされました改正刑法仮案におきまして、初めて公務員のいわゆるあっせん収賄罪及びこれに関する贈賄罪規定が設けられたのでありました。次いで、翌昭和十六年当時開会中の第七十六回帝国議会政府から提出されました刑法改正法律案にも、このあっせん贈収賄罪について規定が置かれたのでありますが、この法律案は、貴族院においては政府提出の原案通り可決されたのにもかかわらず、衆議院におきましては、種種論議がなされた結果、このあっせん贈収賄罪に関する部分のみは削除されて通過したのであります。その後、昭和十八年の第八十三回帝国議会におきまして戦時刑事特別法の一部が改正された際に、官公署の職員のあっせん収賄及びこれに関する贈賄処罰する旨の規定が加えられるに至ったのでありますが、同法は戦時特別立法でありましたために終戦とともに廃止されてしまいました。社会党といたしましては、昭和二十九年三月二十三日、当時における公務員汚職問題の頻発にかんがみ、第十九回国会刑法の一部を改正する法律案提出して、刑法におけるあっせん贈収賄罪規定の整備をはかったのでありますが、この法案は、第二十回国会継続審査の手続はとられたものの、昭和二十九年十二月九日同国会の終了とともに審議未了となって廃案となってしまったのであります。従いまして、今日におきましては、公務員あっせん収賄及びこれに関する贈賄処罰すべき何らの規定もないという状態なのであります。しかるに、御承知のように、いまだに公務員汚職はそのあとを断たず、しかもその汚職行為態様は次第に複雑化の様相を示し、特に、公務員がその地位を利用して他の職務を有する公務員あっせんをなし、これが報酬として金品を受領するがごとき実例がすこぶる多いように思われるのでありますが、たまたまかかる行為処罰する規定がないために制裁を免れる者が多く、これによって道義は地に落ち、綱紀は頽廃して、まことに寒心にたえないものがあるのであります。従って、この際、公務員の廉潔を確保し、綱紀の粛正をはかるため、いわゆるあっせん贈収賄処罰する必要のありますことを痛感いたしまして、ここに前記のような趣旨のこの法律案提出いたしました次第であります。  次に、この法律案の内容について申し上げます。この法律は、公務員がその地位を利用し、他の公務員職務に属する事項に関しあっせんをすること、またはあっせんをしたことについて賄賂の収受、、要求または約束をした者に三年以下の懲役を課し、及びかかる賄賂の供与、申し込みまたは約束をした者をも三年以下の懲役または五千円以下の罰金に処せんとするものであります。そして、これらはすべて公務員たる身分を有する者に対する処罰規定でありますので、他の公務員に対する処罰に関する規定と同じく、日本国外における行為処罰することといたしました。  以上提案理由を御説明申し上げました。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決あらんことを切望する次第であります。
  4. 三田村武夫

    三田委員長 以上で提案理由説明は終りました。質疑は後日に譲ることといたします。     ―――――――――――――
  5. 三田村武夫

    三田委員長 次に、法務行政及び人権擁護に関し調査を進めます。  発言の通告がありますので、順次これを許します。猪俣浩三君。
  6. 猪俣浩三

    猪俣委員 質問の第一点は、最近政府労働運動行き過ぎに対して、たとえば電力労組労働運動規制のためのスト規制法のように、刑事罰をもって取り締らんとするやの意向があるというふうに新聞が伝えているのであります。かようなことに対して、政府はさような意図のもとに用意なさるのであるかどうか、その点を明らかにしていただきたいと思います。
  7. 中村梅吉

    中村国務大臣 お尋ねの点は、政府といたしましてはまだ格別の方針を考えておりません。ただ、最近春季闘争等の形で定期的に反復される現状にかんがみまして、一般国民の間にも、これによって第三者である国民が迷惑を受けておるこの事態に対処するため、現在のような行政処分以外に方法のない法律制度を改め、ただいま猪俣委員御指摘のように刑事罰制度を設けるべきではないかというような意向が一部にあるようでございます。政府といたしましては、この点につきまして慎重に研究いたして参りたいと思いますので、現在のところまだそういうような処置についての方針は何らきめておらない次第であります。
  8. 猪俣浩三

    猪俣委員 次に、なお新聞の報ずるところによれば、岸総理大臣はいわゆる収賄あっせん罪立法化を法相に命じたと出ております。わが日本社会党も、刑法の一部改正法律案といたしまして、ただいま提案理由説明をいたしましたような立法化提案をしているのでありますが、政府はいわゆるあっせん収賄罪なるものの立法化を計画され、これが法制化に着手されておるのであるかどうか、その点についての御所見を承わりたいと思います。
  9. 中村梅吉

    中村国務大臣 先ほど社会党提案にかかるあっせん収賄罪についての提案趣旨の御説明を拝聴いたしました。かねてからあっせん収賄及び贈賄に関する刑法上の規定を設けるべきであるという議論は世間にございますし、また、かつてそういう制度があった時代もございますが、この問題は、その規制をする範囲あるいは対象等をどの程度にすべきものであるか等にわたって検討いたしますと、技術的にむずかしい点が非常に多いのであります。法務当局といたしましては、かねてからこの点についているいろ研究を続けてきているのでありますが、いまだその結論を得ていないような次第でございます。しかしながら、現在、刑法改正準備会を設けまして、現行刑法に再検討を加え、そうして刑法改正案を策定しようという努力中でございますので、もちろん、この刑法改正準備会を通して、刑法改正の際にはこのあっせん収賄に関する問題についても具体的に法制審議会等において討議を願い、万人がこの辺にこういう線を引いてこの問題を解決すべきであるという適当な結論を得た機会にその実現をはかるのが妥当ではないか、かような考え方をいたしておるのでございます。いずれにいたしましても、専門の道の人であります猪俣委員におかれましても、このあっせん収賄及び贈賄等事件規制しようとするに当りましては、その規制範囲方法等において非常に技術的なむずかしい問題があることは御承知のことと思いますが、そういうようなあらゆる点につきまして目下検討いたしておる次第であります。
  10. 猪俣浩三

    猪俣委員 私がお尋ねせんとすることは、政府と申しましても、検察庁内あるいは法制審議会等におきまして、あっせん収賄罪処罰の必要についての研究等がずっと以前から行われていることは知っておるのでありますが、私が今質問いたしまする中心点は、岸総理大臣及び岸内閣におきまして、このあっせん贈収賄立法化をほんとうに心から実現せんという決意をもって臨んでおるのであるかどうか、いわゆる人気取りでそういう花火を上げたにすぎないという酷評をする者もあるのであります。そこで、あなたは、当の大臣といたしまして、岸総理大臣からいかなる指示を受けたのであるか。前にたびたび政府からこのいわゆるあっせん収賄罪処罰法案が出たことは、ただいま私が社会党あっせん収賄罪提案理由説明の中にしたごとくでありますが、いずれもこれが通らぬでしまった。戦時中、東条内閣におきまして、議員も含めますあっせん収賄処罰しようとしたが、やはり議員の反対にあって、さすがの東条もこれを押し切ることができずして、議員を除外いたしましたる、いわゆる官吏に対しまするあっせん収賄だけにしてしまって戦時刑事特別法ができた。独裁をもって一世に名の高かった、しかも戦時中における東条にすらこれが困難であったといたしますならば、政府は特別の決意をもって当らなければ、これはわざと汚職問題をカムフラージュするための線香花火であって人気取りであるという批判も、またあながち無理な批評じゃないということになってくる。そこで、私がお尋ねすることは、一体どれだけの意気込をもって政府はこれを断行せんとしておるのであるか。それはいわゆる人気取りで、総理大臣の一時の思いつきなのであるかどうか。そんなことじゃ、これは通りっこありません。歴史的なものなんです。いわくつきのものなんです。東条内閣時代においてすら、あの環境においてすら、国会議員というものは除外せざるを得なかった。それを除外しないと通らなかった。そういういわくつきのものであります。わが党は率先これを提案いたしておりますがゆえに、政府並びに与党においてその意思があるならば、この法案成立するはずであります。私どもの党内は一致して全員が提案者になっております。そうすれば、残るところは自民党にある。そこで、政府は、自民党とどの程度の緊密な連絡をとり、どの程度の了解の上において岸声明を発せられたものであるか、その実相をお聞かせ願いたい。そうでないとこれは人気取り線香花火だといわれることも私はうなずけるのであります。そのことをあなたにお尋ねしておる。
  11. 中村梅吉

    中村国務大臣 総理大臣から指示をしたとか、指示を受けたとかいうような四角ばったことではありませんが、総理大臣も、また私も、この方向について、汚職一掃のために熱意を持っておることは同様でございます。そういう観点から意見の交換はいたしたことはございますが、しかしながら、御承知通り、このあっせん贈収賄というものを、どういう範囲方法によって規制すべきかということにつきましては、なかなかむずかしい問題がございます。たとえば、社会党が現に御提案になっておりますこの案を拝見いたしましても、公務員が他の公務員職務に関する事項について口をきいてあっせんしたたけでも、犯罪にしようという案のようでありますが、一体そこまでいくべきであろうか、あるいは、口をきいたことによって、あるいはあっせんしたことによって不正の行為をなさしめたものというようにしぼるべきであるか、いろいろその範囲規制限度等につきましては、まだまだ専門家の間におきましても相当議論のあるところでございます。そこで、先ほど申し上げましたように、私どもといたしましては、刑法全般にわたる刑法改正準備会を設けまして、できれば今年中ぐらいにはその草案を得たいという努力を目下いたしておりますので、その刑法全般改正の中には当然何らかの形で織り込みたい、かように考えておる次第でございますが、法務当局としてもまだ具体的に統一した見解がしぼられておりませんので、目下の段階では、そういうような重要な懸案になっているということを申し上げる以外には方法のない段階でございます。
  12. 猪俣浩三

    猪俣委員 これも新聞報道でありますけれども岸総理大臣はいわゆるあっせん贈収賄罪だけを単行法として立案するようにという意向であるというように伝えておるのです。今なたの説明によると、一般刑法改正法律案ということでありますが、これは、法制審議会なんかで議論をやって草案が通るなんていったって、いつのことだかわからない。こんなことは毎回の政府がやっていることであります。毎回どの政府でも刑法の一部改正法律案というものはずっ継続してきている。その一般刑法改正法律案として政府は用意するのだということになりますと、これはいつのことになるのかわけがわからぬことになるのですが、一体大臣は、このいわゆるあっせん贈収賄罪立法化をどうしても刑法の一部改正法律案として出すのであって、それを今法制審議会にまかせておるのだとすると、単行法でこれだけを至急成立せしめて現在のこの汚職涜職の根源を断つという意向ではなくて、在来の政府と同じように、法制審議会にかけて、いわゆる刑法改正法律案として成熟を待って出そうということになるわけですか。そうすると、ことさら岸内閣が三悪追放一つとして汚職追放と同時にこのあっせん収賄罪立法化というようなことを放送されたのでありますが、結局は今までの内閣と何も違わないやり方だということになるのですが、これはどうなんですか。法制審議会にかけて審議するというようなことは歴代内閣がやっていることだが、特に岸さんがああいう声明をなさるについては、場合によってはこれだけ単行法としても急遽成立をはかるのだというふうに新聞は伝えておったかと僕は思うのですが、そこで、それならばこれは本気じゃなかったかと私は思ったのです。今の大臣答弁によると、本気でやる意思であるかどうか、どうも私はわからなくなったのでありますが、一体単行法で出す意志はないのでありますか。
  13. 中村梅吉

    中村国務大臣 現在におきましてもこの問題については法務省当局専門家の間におきまして研究をいたしておりますので、もし刑法改正草案のできます前にこれだけについて世論の納得するような適当な成案を得られますならば、単行法立法化する場合もあり得ると思うのでありますが、しかしながら、先刻来申し上げましたように、この問題は非常にむずかしい幾多の問題を含んでおります。また、政府国会関係だけがやりましても、問題は、世論の納得と、それから法学者の学者の立場、あるいは批判立場にある人たち、こういう人たち意向も十分くみ取られまして、そういう方面も納得するような適当な成案を得なければ妥当ではない、かように考えますので、今後、この問題につきましては、われわれとしては鋭意専門家研究結論を期待いたしまして検討を進めて参りたいと思います。
  14. 猪俣浩三

    猪俣委員 世論なんというものは熟しておると思うのであります。そこで、時期的にも、これは至急成立をさせなければいけないものじゃないかと思うのでありますが、そうすると、今特別に法務省では研究を進めておって、その成案を得るならば場合によっては単行法でも出す決意であるというふうに承わってよろしいか。
  15. 中村梅吉

    中村国務大臣 その通りであります。
  16. 猪俣浩三

    猪俣委員 次に、おとり捜査限界について、これは純法律的な問題として私は行政府の解釈をお聞きしたいと思うのであります。この前の法務委員会における法務大臣答弁では、おとり捜査というものもある程度は認められるような答弁でありました。ところが、このおとり捜査というものは非常に悪用せられるおそれがある。ことに、今回の菅生事件戸高行動は、おとり捜査というものではなくて、その限界を越えていると思うのであります。しからば、おとり捜査をもし合法的だと考えるとすればどの程度までが合法で、どの程度のものが非合法かという区別がはなはだ困難である。私はアメリカのおとり捜査の問題についても多少研究してみたのでありますが、どうもアメリカ裁判所では日本政府のような見解を持っている裁判所はないようであります。いずれも、おとり捜査というものはよろしくないとしている。アメリカ最高裁判所の多数意見に見ましても、犯人を作るためではなくて犯罪捜査処罰するために与えられた権限をこのようにはなはだしく乱用することは最大非難に値する、これはいわゆる麻薬についての場合及び禁酒法が行われた場合に酒の問題についての場合の最高裁判所態度でありまするし、なおまた、アメリカにおける高等裁判所は、いわゆるおとり捜査をして一審でもって有罪になつたものを、ことごとく破棄して無罪にして差し戻しておるのであります。そうして、いわゆる麻薬法違反訴件高等裁判所の破棄の理由などを見ますると、公務員犯罪を犯すように鼓舞、扇動、説得、誘惑しなかったならば犯さなかったであろう罪についてその行為者を罰することは不条理であり公序良俗に反するというふうな判決理由にもなっておる。日本のおとり捜査なんというものはアメリカのまねをした点があるのではないかと思いますが、そういうふうになっておりまするし、フランスあるいはドイツイギリスあたりを見ましても、裁判所判例で、このおとり捜査のわなにかけて犯人をつかまえることを正式に認めたようなものは一つもないようであります。そこで、たまたま菅生事件のようなものが起りましたので、元来こういう問題について私は懸念にたえなかったのでありますが、法務大臣法務大臣たる立場においてなおこのおとり捜査のごときものを合法なりと断定を下して差しつかえないのだろうか。これはアメリカフランス、西ドイツイギリスにおきましてもほとんどおとり捜査というものはいいことじゃないんだという意見になっているようであります。ただ、おとり捜査犯人があがった際に、その犯人犯罪行為についての問題につきましては区別して判決しているようです。元来罪を犯そうとしている者に対して共犯的な意味において公務員加勢をしたというような場合においては無罪にならぬけれども、そんな意思もないのにあおり立てて犯罪をしたというような場合には、どうも有罪にすることはできないというのが各国の判例のようであります。  そこで、私は、一国の法務大臣といたしまして――ことに近来公安調査庁その他においてスパイ的行動がはなはだしく、特高的な警察のあり方が顕著になってきた。その最も具体的なものは今度の菅生事件でありまして、実にこれは調べれば調べるほど奇怪千万なものでありますが、いわゆる日本警察の氷山の一角としてあれが現われたものではなかろうか。こういう際におきまして、私は法務大臣としての確固たる所見を承わりたい。いわゆるおとり捜査というものをどんなふうに理解し、どの範囲まで捜査の技術としてお認めになるのであるか。これが乱用せられましては、基本的人権もヘチマもあったもんじゃありません。そこで、そのおとり捜査の意義及びどこまでこれを合法と見られるか、その限界をお示し願いたいと思います。
  17. 中村梅吉

    中村国務大臣 俗に申しますおとり捜査という言葉の範囲はあまり明確でないようでございますが、私どもの考えをもっていたしますならば、捜査当局関係者が潜行いたしまして、犯意のない者に犯意を起させる、あるいは犯罪を犯す意思のない者に犯罪を犯させる、こういうようなことがあったとすれば、これは全くの行き過ぎであって、合法の域を脱しておるものである、かように考えます。ただ、問題は、犯罪を犯す意思がすでにあった者に関連をいたしまして、その犯罪捜査の目的を果すという範囲であるならば、これもいかなる場合においてもけっこうであるとは申しかねると思いますが、できるだけないことを望むのでありますがやむを得ないものではないか、かように考えるのでございます。要するに、その限界は、犯罪を犯す意思がもともとあった者のその犯意の実行を捜索するという範囲であるかどうか、――あるいは犯意のない者に犯意を起さむる、あるいは犯罪を犯す意思のない者をして犯させるような加工をすれば、これは全くその捜査範囲を逸脱したものであって場合によっては共犯になる場合もございましょうし、許すべきものではない、かようなふうに限界を考えたならばいいんじゃないかと考えております。
  18. 猪俣浩三

    猪俣委員 アメリカフランスその他の判例を見ますと、裁判所におきましては、いわゆるおとり捜査なるものを否認しておるのです。これは職権の乱用だと思う。ただし、今申しましたように、その犯罪者被告人有罪無罪については、被告人犯意があってある行動をするつもりであった以上は、他に加勢者があろうが、人に扇動せられようが、その者の責任はあるのだという、行為者に対する責任の問題においてそういう判決をしているのであって、検察官がさような方法犯人を作り出すことははなはだよろしくない、みなそういうふうな判決になっておるのです。そこで、あなたの答弁は、要するに、本人がある犯罪を犯す意思があった際にはおとり捜査もかまわぬのだ、いわゆる検察官合法性として主張されておるのであるが、英米では検察官合法性は認めておらぬのです。ただ、その人間の行為それ自体は、それがおとり捜査であっても、自分がやる気でやった以上は犯罪があるんだ、こういう態度なんです。  そこで、あなたにお尋ねをするのは、一体、おとり捜査そのものを全面的に合法だとして認めるということは、今日基本的人権を重んずる憲法のもとにおいては違法ではなかろうか、いやしくも法務大臣がさような声明をなさるということは、これは慎しむべきものではなかろうか、そうじゃないと、どうしてもこれが乱用になるのであります。アメリカ及びフランスドイツあたり判例を見ましても、検察官態度合法だなんて判決しているのは一つもない。ただ、現われたその事態が、窃盗であるものを窃盗罪として処罪することは、おとり捜査であがってきたものでも何でもやらなければならぬ、全く犯意のない者が他から犯意を作られたとするならば責任を追及できない、こういう判例なんです。ところが、日本法務省はおとり捜査方法そのものをすでに合法的と解釈なさっているということは、ちっと違うんじゃないかと思うのですが、それでいいのですか。
  19. 中村梅吉

    中村国務大臣 法制上、いわゆるおとり捜査ということになるのでしょうが、そういう方法を認めておりますのは、麻薬について、麻薬を売ろうとして用意した、そういう意思のある者に対して、麻薬検察官が買いに行っても、これは相手方は犯罪になり、その行為は差しつかえないという麻薬に関する立法がございますが、これは本来絶対に違法性があるものであるが法律に特例を設けておるという趣旨では私はないと思うのであります。ただ、しからば、そういう方法が常に利用されていいことかといえば、決していいことではない、やはり事態の客観情勢いかんによりまして、そういう方法も、ある程度潜行して犯罪の根底を捜索しなければ捜査することができない特殊の犯罪等について考えられるのであって、いかなる場合においてもそういうことがけっこうなことかといえば、そうではない、十分に戒むべきものであるというようには考えますが、麻薬に関する法律におきましてそういう手段が認められておるということは、これは一つのやはり法律上の理論を立法化たものであって、類似なことがそれでは他のものについては一切いけないのかというと、そうは言い切れないのじゃないか、やはりそのときの客観情勢によって具体的に判断すべきじゃないだろうか、かように考えます。
  20. 猪俣浩三

    猪俣委員 僕は、基本的人権擁護を第一義といたします憲法のもとにおきましては、麻薬取締法のような特例が法律にない限り、一般的な問題としておとり捜査という捜査の技術を認めるということは不法だと思う。どうしても特殊な犯罪についてさようなものが要る場合においては、法律でそれを明確にしておく必要がある。法律で明確にならざる問題につきまして、一般的な理論といたしましてある程度のおとり捜査合法だという結論を打ち出すということは、危険があると思う。私は、もしそういうある特殊の麻薬その他におきましてどうしてもおとり捜査をしなければ容易ならざる犯罪というものが起って検挙がなかなかむずかしいというものがありましたならば、これは法律において慎重審議の上決定をすべきものだと思う。それを、法律規定がないにかかわらず、捜査の原則として、ある程度のおとり捜査はいいんだということを声明なさるということは、基本的人権擁護について非常な僕は障害になると思う。その意味においてあなたにお尋ねしているのでありますが、あなた、そういうふうにお考えになりませんか。もし必要があるなら法律による、しからざる場合にはおとり捜査を用いないということが、人権擁護のための態度でなければならぬ。そうでないとすれば、憲法の基本的人権の精神と反すると私は思う。その点の御所見を承わりたい。
  21. 中村梅吉

    中村国務大臣 もちろん、理論的に考えて、相手方の基本的人権を侵すような潜行をする捜査、おとり捜査という言葉がどうかわかりませんが潜行していたします捜査が相手方の基本的人権を侵すものであるならば、その意味において違法であると言うことはできると思います。しかし、相手方の基本的人権をすべての場合が侵すかといえば、やはり具体的な事例について、また客観情勢に照らして判断すべき事項であって、すべてが違法である、すべてが合法である、こうは簡単に割り切れない問題ではないか、かように私は考えるのでございます。しかしながら、客観情勢いかんによってやむを得ない場合があるといたしましても、十分最善を尽して慎しむべきものであるということは言い得ると思います。
  22. 猪俣浩三

    猪俣委員 いずれの説をとるにいたしましても、今回具体的な事例として発生いたしました菅生事件戸高、この人物の行動というものは奇々怪々である。これは公判もすでに進捗しておりますし、それから、主任弁護人である清源氏の「消えた警察官」という著書も出ております。また、本月の中央公論には中野好夫氏が公判傍聴記を書いておられる。毎日の新聞にも事こまかに報道されておる。すでに事犯が相当はっきりして、この男はダイナマイトを持って歩いておる。そして脅迫文を書いておる。これは、あなたの説をとったとしても、おとり捜査の場合ではない、その限界を越えておるのでありますが、この戸高行動に対しまして、検察庁はいかなる態度をとろうとなさっておるのであるか。爆発物取締罰則に見るならば、ダイナマイトを持ったり発見したりする際に、それを届出をしない場合にはそれ自体が犯罪に相なっておる。戸高はダイナマイトを持ったことを自白しております。そうすると、これはどうなりますか。検察庁はこの戸高行為に対していかなる御所見を持っておるか、承わりたい。
  23. 中村梅吉

    中村国務大臣 福岡高裁の証人調べを通しまして、今猪俣委員御指摘のような事柄が次第に判明をしてきておるようでございます。しかしながら、現在まだ証人調べの継続中でございまして、なお三十幾日かに引き続き戸高の証人調べが行われるようでございますから、法務当局並びに検察当局といたしましては、これらの証言の完了前にいろいろの判断を下すということは当を得ないのではないだろうか、従いまして、今日から予断を申し上げることは差し控えたいと思いますが、これらの証言の完了いたしました暁において、十分世間の納得するような、また法律上厳正な判断のもとに検察当局としては厳正な結論を得たい、かように考えております。
  24. 猪俣浩三

    猪俣委員 この菅生事件におきまして、被告に有利な証拠書類並びに証拠物がなくなっておる。これはこの法務委員会におきましても質問があった。これは一体出てきましたか。現在もないのであるか。刑事局長の御答弁によると、一生懸命今探しておるような話ですが、出てきましたかどうですか。
  25. 井本臺吉

    ○井本政府委員 戸高証人が書いたといわれる脅迫文でありますが、前回にも御答弁申し上げました通り、一審では全然脅迫文が問題になっておらなくて、二審になってから裁判所から提出を求められたので、私の方でもこれを鋭意捜査したわけでございます。ところが、その脅迫文は、警察の領置書には目録がありますが、検察庁の方で正式に受理していないので、検察庁の押収書類にはなっていないのでございます。しかも日時が相当たっておりますので、当時この脅迫文を扱いました広石検事などにつきましていろいろ調べておるのでございますが、現在までそのものの存在自体を確かめておりません。実は、前からもこの点の関係を明確にいたそうと考えておりましたので、一週間ほど前に、私どもの公安課長をじきじきに九州に派遣いたしまして、大分その他について脅追文の存在自体が果してどうしても判明しないのかどうか、できるだけ探してくるようにということで、最後的な努力を現在続けておるわけでございますが、昨日までの報告では、まだ発見するには至っていないということでございます。
  26. 猪俣浩三

    猪俣委員 あなたもこの法務委員会で石井警察庁長官と向い合われて話した。石井警察庁長官は確かに検察庁へ引き渡しましたと証言しております。そのときは受け取っておらないような答弁はなさらなかったが、今日は受け取っておらないということになっておる。そうすると、警察庁長官の言明と法務当局の言うことと違っているのです。一体どっちがほんとうなんです。石井警察庁長官は引き渡したということをはっきりこの場で言っておりますよ。
  27. 井本臺吉

    ○井本政府委員 検察庁で全然受け取らないということを申し上げたわけではこざいません。検察庁では確かに警察の方から当時の投げ込んだ小石などとともに一応は受け取っております。受け取っておりますが、当時この脅迫事件を正式な事件として立件をしていなかったので、脅迫文と小石などは一括して検察庁で保管をしてあったわけでございますが、正式な証拠物として検察庁で押収番号を付けて保管をするような手続をとってはいなかったので、現にこの広石検事の作りました調書にも、押何号というように押収番号の入っていない書類を関係者に示して調べをしておられるというような状況で、証拠物の扱いが疎漏であったといいますか、普通の証拠物と同じように厳重に扱っていなかったという過失がありまするので、現在その証拠物がいずこにあるか調べをしておるが、いまだに判明しないということを申し上げたのであります。
  28. 猪俣浩三

    猪俣委員 実に奇怪千万な答弁であると思う。一体何の犯罪で後藤その他の人たちが検察庁に起訴されておるのですか。交番爆破事件じゃありませんか。交番爆破事件の爆破するぞという通告文が犯罪に関係がないとはどういうわけなんです。そしてそれは押収の番号を付けなかった。そうなると、単に紛失したよりも、僕は検察庁に悪意があると見ます。故意にこの証拠を隠滅したのだ。こんなことは常識上考えられないじゃありませんか。交番爆破に対する事件として警察から送ってきた。しかも警察官はちゃんと証拠物として引き渡した。それを、これはあまり事件に関係ないものだといって、どこかへやってしまう。正式な証拠書類にしなかった。これは私は実に奇怪千万なことだと思うんです。しかし、受け取ったに違いないならば、正式の証拠物にしなかったということが、あなたが今認めた通り過失であり、しかも、それをなくしたということは、どういうことだ。過失でもいいです。過失でもいいが、今日その脅迫文なるものがあるとないとでは大へんな違いを生ずる。市木なる者が現われて自白したからいいようなものの、あれは自白しなかったらどうなりますか。全く永遠のなぞとなって残ってしまう。そういう大事なものを、検察庁が、なくしました、私はそれじゃ済むまいと思う。被告に有利な証拠書類を、なくしただけで事が済むというならば、われわれの人権なんというものは全くはかないもので、保ちようがありません。重大なことです。これは被告に有利な、唯一絶対の証拠、二度と再び世の中に現われない証拠をなくしてしまった。それがあれば無罪になる場合もあり得る。しかし、それがないということだけで済まされては、これは大へんな問題だと私は思う。りつ然たるものがあるのです。これは一体どうなります。こういう被告に有利な証拠、これをとにかく引き継いで、正式な領置手続もせず、放任しておいて、今日これがなくなった、こういう場合には何人がいかなる責任を負うのであるか、法務大臣から明らかにしていただきたい。
  29. 中村梅吉

    中村国務大臣 こういう事件に関係のあります証拠書類が、正式な押収の手続は経ていなかったとは申しながら、警察から預かりたものを紛失したのは、どうも検察庁にあるようであります。従って、当時の係官としてはまことに遺憾な出来事で、今猪俣委員御指摘のように、証人が公判廷におきましてこういう脅迫文を自分が書いたことも自供したようでありますから、そういうことによって事態は判明いたしましたものの、事実これが紛失のままで、また証人もそういう証人が現われなかったとしたならば、非常に重大な関係を持つものと考えます。ただ、私、後に就任をいたしまして、実情をわれわれ弁護士の経験のある者から判断をいたしますと、その証拠を警察から検察庁に持って参りました当時は、交番に脅迫文を、石に包んで投げ込んだ事件を、脅迫事件として警察は検察庁に送り込んだ模様に考えられるのであります。ところが、検察庁としては、そのうちに他の爆破事件というものが起って参りましたので、脅迫事件事件として立てないことになったので、その関係書類であったために、きっとそういう押収の手続もしないでしまったということであったのではないかと思うのであります。いずれにいたしましても、当時の係官としては、警察から送られた領置の書類が、押収の手続もせず紛失をしたということについては、今刑事局長が言っており出すように、手落ちであった、私どももそう認めざるを得ない、かように考えます。
  30. 猪俣浩三

    猪俣委員 これは法務大臣、単純に考えましてただ手落ちということでありましょうか。とにかく、脅迫文を投げ込んだときはいざ知らず、爆破されておるのです。そして検察庁が調べたときは爆破がされたあとのことでしょう。交番が爆破されて、何人が爆破したかを血眼で捜査し、しかも犯人なりとして検挙されている者がある。そういう際に、爆破するぞという文書がこれに関係がないなどということは、気違いでもなければ考えられないことです。また、そういうことを考える検事があったとすれば、これは検事じゃありませんよ。しろうと以下の者なんです。いやしくも検事として勤めている人間である以上、精神錯乱者であらざる限り、交番を爆破するという脅迫文をどこかにやってしまって、手落ちだったというようなことで済む道理がないじゃありませんか。私はその検事に故意があると見るのです。証拠隠滅の悪意があると思うのです。法務省としてはそこまでの決意でもって捜査してもらいたい。そんなことで世間に通りますか。常識では通らぬのです。交番は爆破された、脅迫文はあったけれどもどこかに行ってしまった、一体どういうことになりますか。ほんとうに戸高がやったんじゃない、だれかが脅迫したのなら、検察庁にとって脅迫文は唯一絶対の犯人逮捕のきめ手じゃありませんか。そういうものが、関係ないものと思ってどこかにやったり、警察から引き継いだが見えなくなったなどといっても、これでは常識ある者は納得できませんよ。大体それを証拠物件として正式に押収しなかったところに疑義がある。そこに故意があり、証拠隠滅の悪意があると思います。私どもはこの検事を告発しなければならぬ。これは法務省としても徹底的に御調査願いたい。そういう者が何千人の検事のうちにたとい一人あったといたしますれば、私どもはまさに風前のともしびになります。検事に都合のいい証拠はどこまでもこれを確保するが、不利なものはみんなどこかに行ってしもうた、これじゃ裁判もヘチマもあったものじゃありません。私は、この菅生事件につきまして、これが最も重大だと考えています。これについて法務省は徹底的に御調査願いたい。  法務大臣にお聞きしますが、交番が爆破された、犯人は検挙された、他にだれがやったかを捜査しなければならぬ、そういう状態におきまして、爆破するぞといった脅迫文があったことを知りながら、そんなものは関係ないんだということで措置の手続もしないことが常識上考えられますか。あなたは弁護士だからわかると思うが、考えられますか。
  31. 中村梅吉

    中村国務大臣 猪俣委員の御指摘のような事情もありまして現在検察当局といたしましてはなお引き続いてその実態を極力調査していることは、先ほど刑事局長から申し上げた通りでございます。なお、私ども立場といたしましては、もしこれが今お話しのように何人かの故意によって――過失ならば別でありますが、故意によってそれが紛失あるいは没却されたものであるとするならば、これはそういう事実が明瞭になる限りにおいては容赦することなしに十分処分をすべきである、かように考えております。
  32. 猪俣浩三

    猪俣委員 近ごろの検察官の証拠の取扱いについて、私は菅生事件を出したのでありますが、いま一つ戦艦陸奥の引き揚げに関して、検事の証拠のとり方についてはなはなだ奇怪なることがある。私は実際にこの刑事事件を引き受けておられます林逸郎弁護士から親しく陳情を受けたのであります。戦艦陸奥を引き揚げましたのは日本海事株式会社の社長武岡賢であります。この人が業務上横領罪として起訴された。それは軍艦の中にある鉄材の引き揚げてはならぬものを引き揚げて売り飛ばしたというので業務上横領罪となった。ところが、当時引き揚げの許可権を国の代表をして持っておりました山口県知事と武岡氏との契約の中には、鉄類の引き揚げが許可になっている。しかるに、鉄類の引き揚げが許可になっていることはよくないということを中央政府かどこからか注意か何か受けて、情を知らざる武岡賢からその本証を提出せしめて、県庁で鉄類という字を削って変造してしまった。偽造した文書を作った。それが甲一号証となって武岡の有罪判決の証拠となっているのであります。ただ、ここで奇怪なることは、武岡賢と山口県知事との間に引き揚げに関する契約書には鉄類というものが入っておって、それがあとで改悪をされたものであることを検察庁は知っておった。というのは、当衆議院行政監察委員会におきまして戦艦陸奥の引き揚げに関して調査いたしました。そのときに、山口県知事が行政監察委員会に出頭いたしまして、この文書は変造、偽造されたものであることを証言しておる。その証言にして真ならんが、これは、偽造文書、変造文書であるにかかわらず、それによって起訴し、のみならずこれを山口地方裁判所に証拠として提出して有罪判決をかちとっている。私はこれなども実に証拠紛失と同じような奇怪千万な検察庁の態度だと思う。おのれの起訴を有利にせんためにはいかなることもやるという疑惑を持ってくる。あるいは証拠を提出しなかったり、あるいは偽造文書を黙って情を知らざる裁判所提出したり、かようなことを許されるといたしますならば、容易ならざることだと私は思います。私はきのうこの質問要旨を書いて法務大臣に差し上げておきましたが、調査なさったかどうか。もし調査未了であるならば、その理由、また、どういうふうにして調査なさるつもりか、あるいはこういう事実は全然ないのだということになるのでありますか。私は林逸郎弁護士の陳情に基いてこれを質問しているのであります。この点を明らかにして下さい。
  33. 中村梅吉

    中村国務大臣 一応調査をいたしましたが、私からお答え申し上げますよりは、直接その衝に当りました刑事局長からお答えするのが適当だと思いますので、政府委員からお答えいたします。
  34. 井本臺吉

    ○井本政府委員 本年三月一日付で、武岡賢氏から当時の山口県商工部商工課長でありました小田義男及び当時の商工課員であのた川崎潔の両名を公文書偽造の疑いがあるということで山口地方検察庁へ告訴いたしまして、現在この告訴事件山口地検で捜査中でございます。  告訴の要旨は、ただいま申し上げました被告訴人両名が、当時この会社へ下付された山口県知事名義の戦艦陸奥の搭載物件の払い下げ許可証十一通をほしいままに破棄した上に、新たに同県知事名義の払い下げ許可証九通その他これに関連する公文書九通を偽造行使したというのでありまして、その結果、当時鉄類などに対しても払い下げの許可を認められていたものが不許可とされるなど、許可の内容が変更されたために、本来許されるべきものであった告訴人の行為犯罪容疑にされるに至った、というのが大体の告訴の内容でございます。この告訴人自身は、昭和二十七年の四月十五日に山口地方検察庁から起訴されまして、昭和三十一年の七月十九日、広島高等裁判所で、懲役一年六ヵ月、執行猶予三年の一審判決を認める趣旨の控訴の判決があって、ただいま上告審に係属中でございます。そして、ただいまお尋ねの件につきましては、この事件に立ち会っておりました豊島、片岡両検事の名前が出ておりますが、電話で聞きましたのでは、いまだ詳細の事情は判明いたしておりません。昨日のお尋ねで、まだ日も、本日のことで時間も僅少のことでございましたので、調べはただいまの程度しか判明いたしておりませんが、お尋ねの次第もごさいますので、引き続き詳細の事情を取り調べて結論を出したいというように考えております。
  35. 猪俣浩三

    猪俣委員 この事件は行政監察特別委員会の速記に、その起訴に立ち会いました検事の証言が出ておりますから、その証言にして不実のものであらざる限り、偽造の文書であることを検事は認めておったのでありますから、この行政監察特別委員会の速記録もお調べいただいて、そうして、いかなる心境のもとにさような文書を公判廷証拠として提出したか、その点を追及していただきたいと思います。私も昨日初めて質問書を出したのでありますから、まだ十分調べがお済みにならぬことも了解できますから、これは次会までに御調査願いたい。一連のこの検察日と証拠の問題につきまして、これはいずれも私は陳情を受けてかかる事実を知ったのでありますが、人権擁護立場から司法部の運用についてはなはだ疑惑を投ずるような行動がありますので、法務大臣としては徹底的に御調査願いたいと思います。  次に、農林中金等の不正事実についでありますが、これは日本農工株式会社社長の山下という人が全国購買農業協同組合連合会との間に共謀をいたしまして、農林漁業金融公庫から三千五百万円の融資を受けたいために、元来この日本農工株式会社というのは五百万円の会社で、それでは融資が受けられない、そこで、全購連と相談をいたしまして、資本金を二千万円に増資した形をとりまして、その一千五百万品は全購連が引き受けた形にいたしまして、そうして増資の登記をして、一千五百万円という見せ金を全購連が出して、登記が済んだらすぐそれをひっ込めて回収してしまう、そうして二千万円のにせの会社がそこにでき上り、そして、農林漁業金融公庫に対して、さあ二千万円になった、全購連が九割の株を持っているから融資の資格が生じたと称して――なぜなら、農林漁業金融公庫は、いわゆる協同組合が何割以上の株を持っていないものは金融しないように相なっておりますがために、そこで全購連を利用いたしまして、九割以上の株を持つように仮装の増資を断行して、そうして三千五百万円の融資に成功いたしました。このすべての計画は農林中央金庫の幹部が計画を立てて、そうして農林漁業金融公庫にはかってかようなことをいたしたのです。これは非常に不正な行動がこの以外にあるのでありますが、決算委員会あたりでも取り上げるでありましょう。この仮装の登記、見せ金で登記してしまって、実は一銭も増資なんかしていない。ボロ会社にはそういうのがありますが、いやしくも三千五百万円という国家の大金を融資を受けるためのこういう仮装の登記、これは許すことができないと思うのであります。しかも農林中央金庫がその策謀の中心となっておった。そこで、かような行為は、どういう犯罪を構成しますか、あるいはこの事実を捜査当局は御存じであったかないか、御存じないとするならば、今後どういうふうに捜査されるのであるか、この御所見を承わりたい。
  36. 中村梅吉

    中村国務大臣 御指摘のようであるとするならば、まことに穏やかでないことであると思います。この問題につきましては、五月十一日に東京地検に対して告発が出まして、この内容がどういう犯罪を構成するか、またどういう見込みであるか等につきましては、まだ申し上げる段階に至っており玄ぜん。今月の十一日に告発を受理いたしたのでありまして、東京地検といたしましては極力告発の内容につきまして捜査を行う予定になっております。いずれその捜査の進展に伴いまして、適当の機会にまた御答弁申し上げるようにいたしたいと思います。
  37. 猪俣浩三

    猪俣委員 いま一点、同じく農林中央金庫ですが、この農林中央金庫が、その子会社みたいにして世話しております中央農水産株式会社、これに対して五千万円の浮き貸しをしたのであります。これが回収困難となりますと、会計検査院の検査の目をごまかすために、先ほど申しました日本農工株式会社の社長の高橋武美という人をうまくだまして、高橋に月々十万円月給をやるようなことでだまして、そうして、農林中央金庫と日本農工株式会社との間には債権債務が何も存在しないにかかわらず、農林中金から四千六百七十万円を借りたがごとく仮装して、農工の工場財団に抵当権を設定した。これは、会計検査院に五千万円の浮き貸しを突つかれると困るために、この金は農工に貸したんだとして、ほんとうに担保もつけておりますが、こういうふうにごまかした。農林中央金庫法を見ると、十五条には貸し付けるところの範囲がきまっており、これを逸脱した場合には十六条において処罰されることになっている。日本農工なんかには貸し付ける資格はないのです。五千万円近い金を貸し付けるなんということは、農林中央金庫はこの金庫法の十五条によってできないはずです。それをこんな登記をやっている。これは農林中央金庫法の違反だと思います。なお、会計検査院の目をごまかすために、国の金、税金からまかなわれているこういう金庫が、こういう仮装の登記をするというようなことは、会計検査院法から見てどういうことになるか、あるいは補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律から見てどうなるか、あるいは国の財政法から見てどうなるか、ことに刑法から見て、かような仮装の登記、これは登記簿に不実の記載をなさしめたものだと思うのでありますが、さようなものは一体犯罪があると思われるかどうか、これについて御所見を承わりたい。
  38. 中村梅吉

    中村国務大臣 ただいまの点も告発の内容にあるようでございますから、この点につきましては今後厳重な捜査を進めて参りたいと思います。
  39. 猪俣浩三

    猪俣委員 最後に、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律というものができておりますが、これの実施状況を承わりたいのです。これに違反したものがどの件数あって、実際有罪になったものがどうで、裁判の結果がどうなっているか。これは、検察を六十名か七十名増員いたしまして、そうしてこういう法律を作ったのですから、これがどの程度適正に行われておるかどうか、この点について私は資料をほしいのであります。御答弁をいただきたい。
  40. 井本臺吉

    ○井本政府委員 件数の点でございますので、私からお答え申し上げます。  補助金等に係る適正化法が施行になりましてから現在まで、全国検察庁でこの法律違反として受理いたしました人員は、ただいままで六十七名になっております。このうち処理された者は二十九名で、うち十三名が起訴になっております。なお、この補助金に関しましては、適正化法以外に、詐欺、横領、贈収賄などの刑法犯として処理された者もありまして、この種の刑法犯はこの法律の施行後本年四月までに合計二百七名になっております。このうち処理を終った者は百七十五名で起訴された者は七十四名となっております。かような事犯の処理につきましては、今後とも、行政各部の自主的な監査と相待ちまして、検察庁といたしましても、厳正公平、良識のある検察を行なって参りたいというふうに考えております。
  41. 猪俣浩三

    猪俣委員 昭和二十九年度の決算報告、昭和三十年度の決算報告、この会計検査院の「予算は正しく使われたか」というパンフレットが出ておることは御存じの通りであります。この二十九年度はおよそ八十億円近い不正不当な支出がある、三十年度にも六十幾億円という不正不当の支出がある、会計検査院がさように指摘しております。私は、三十一年度も、この法律施行後も同じような不正不当な支出をやっているのじゃないかと思われます。浜のまさごは尽きるともこういうやからは尽きない。それから見ますと、この法律の違反はどうも少し少な過ぎるような気がするのでありますが、検察庁は、こういう国家の予算を乱暴に使うような者に対して、もう少し徹底的な厳正な態度捜査をしていただきたいと思うのでありますが、法務大臣の御決意を承わりたい。
  42. 中村梅吉

    中村国務大臣 私どもの方といたしましては、一昨年の十一月にこの法律ができまして以来、特別刑事係検事という名前で、各検察庁にこの補助金の適正化に関する問題を専門に担当いたしまする検事を特設いたしまして、なお、長官会同あるいは次席検事会同、関係官の会同等の機会におきまして、極力その事犯の適正な処理について督励をいたしておるような次第でございます。なお、御指摘の点につきしましては、一そう今後とも十分の努力をいたしまして、この法律制定の所期の目的を達することができますように最善を期したいと思います。
  43. 三田村武夫

    三田委員長 中村高一君。
  44. 中村高一

    中村(高)委員 警察庁側はどなたとどなた、がおいでになっておりますか。
  45. 三田村武夫

    三田委員長 大久保国務大臣と石井警察庁長官、それから中川刑事部長が出席しておりします。
  46. 中村高一

    中村(高)委員 中川さんはこの新聞を、ごらんになっておりますか。――その新聞に出ております「暴力、銀座をまかり通る」という問題でありますが、個人的な利害関係であるとか、裁判の内容や当否について私は御質問申し上げるのではなくして、帝都のまん中である銀座で、裁判によらずして、他人の経営しておった店舗を追い出して、しかもその家屋の占有を回復しようと思って賃借人並びに弁護士が出かけていったところが、暴力的に二人ともなぐり飛ばされてしまって負傷をして、結局これを告訴するという問題まで起っておるのにもかかわらず、いまだに昭和十五年から賃借しておった人がそこに居住することもできないで暴力的に乗っ取られておるという問題であります。内容はこの新聞にも相当詳しく書かれておるのでありますが、たびたび所轄の築地警察署にも嘆願をして頼んだそうでありますけれども、依然として解決されないで、暴力的に乗っ取って、そして改造したり造作を施したりしておるということが帝都のしかも銀座のまん中で行われておるのであります。警察も、この居住者に対して何らの保護もしないで、暴力的に乗っ取っておる者をそのまま置いておるということでありますけれども、そういうことに対して警察庁でもお調べになっておると思うのでありますから、一つ責任ある調査の結果と経緯について御説明を願いたいと思うのであります。
  47. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 いただきました内外タイムス新聞は、私ちょっと拝見しなかったので、今初めて拝見いたしたのでございますけれども、銀座のお示しの喜多さんのところの告訴事件の賃借権にからむ問題については承知しております。本件は相当前からの事件でございまして、私承知をいたしましたのはごく最近でございますが、警視庁におきましては、この問題につきまして、ただいまもいろいろ調査々続行しております。問題の要点は、中村委員もいろいろお調べになったと思いますけれども、喜多さんは昭和十五年に当時の所有者から賃借契約によって建物の賃借をなさっておられるのであります。その後所有者は転売をされて、所有者は随時二、三人の方に移っておりますが、この賃借の関係に基きまして、民事の権利義務の関係につきまして双方に争いがあることは事実のようでございます。民事の争いに関連いたしまして、家主側といいますか、所有権者側の方で、立ちのき要求、賃貸借債務不履行による契約解除通告等をやっているようであります。民事に関しましては、裁判所に対して仮処分の請求等が双方から提出されておるような事情であります。私ども警察といたしましては、民事事件そのものにつきましては介入すべきではもちろんないのでございますが、その間に、暴力によって人をなぐったり、あるいは安寧に居住しているところに対しまして不法に侵入する、こういう点が発見されました場合におきましては、御案内の通り刑法犯でございますので、そういった犯罪につきましては、警察としてもやるべきだと考えるのでございます。  本件事案につきまして、地元の警察がその犯罪関係についてやるべきをやらなかったかということが問題の要点であろうかと思うのでありますが、まず、調べました結果によりますと、喜多さんから警察署に対しまして六回にわたりまして告訴がございます。告訴されました事件につきましては、地元警察におきましてはそれぞれ捜査を遂げて、警察法の定めるところによりまして検察庁に送致しております。その点につきましては捜査を遂げておるようでございますが、問題は、現行犯のときに知り得る状態があったときに措置しなかったかどうかという点につきましては、現行犯で本件事案につきまして関係者を逮捕して検察庁に送付した事件もございます。それで、地元警察が一切のこういうことの刑法犯を全部見のがしておったとは認めがたいのでありますが、いろいろ民事事件との関係の権利義務の所在について問題等もございます関係上、いろいろの権利義務の実態についての判断について、民事裁判所判決を待っておるような事情等もあるような関係等もありまして、これを地元警察では工夫を重ねておる跡も見受けられるのでございます。いろいろ具体的におっしゃっていらっしゃる点等につきましては、個々の点につきましては、さらに私どもも警視庁とともに問題の地元警察の処置に不当があったかどうかという点は調査を続行いたしたいと思うのでございますが、現在まで私たちが警視庁とともに調査して判明いたしております要点は、以上の通りでございます。
  48. 中村高一

    中村(高)委員 こういう事犯が起って訴訟になったり何かいたしておりますから、そういう内容についてわれわれも深入りしようという考えはないのでありますけれども、係争関係にあることも事実であります。一応そういう場合には、昭和十五年からそこに住んでおったというのでありますから、裁判の結果、所有者なりあるいはその後所有権を移動しておるようですから、そういう人の名によって明け渡しの訴訟を起して、判決によって強制執行するという結果に最終的にはなるのでありましょうが、その道中においては少くとも従来占有しておった者の居住を保護してやるということが警察の本旨であります。その途中においては、やはり長い間そこに生業をしておった者を一応保護してやって、そして、その結果を待って、判決で敗れるということであれば、これは仕方がないことでありますけれども、まだ明け渡しの訴訟も起きてないのです。仮処分か何かであって、それを取り消せとか、するなという前提条件の最中に、いきなり入ってきて、そうしてぶんなぐったり何かしてほうり出して、そうして警察でその連中を連れていったらしいのですけれども、二、三日ですぐ釈放してしまったから、また舞い戻って、依然としてそこを占拠しておる。こういうようなことを継続されたのでは、居住者の居住の平安というものは、これではとても保護されないのですから、係争の問題は別として、一応原状に回復させてやって、そうして居住を保護してやって、その結果は判決の結果に待つという順序をとらせることが、私は警察の仕事だと思う。これは中川さんもお認めになると存じます。そういう点についての見解と、一応占有者には居住を保護してやるということに対しては、どういうふうにお考えになりますか。
  49. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 その点、中村委員と全く同様に考えておりまして、民事関係の争いはそれぞれ民事裁判所の解決するところでありますので、それはそれでいいのであります。われわれ、刑法犯罪を防止し、これを検挙する立場にある者といたしましては、居住について申せば、平穏公然に居住しているところに対しまして下意に人が入りてくることになれば住居侵入になります。御指摘の住居侵入の事件につきましては、地元警察におきましては、住居侵入いたしました二人を現行犯として逮捕しております。現行犯として逮捕いたしまして、所轄東京地方検察庁に送致しております。検察庁の方でもお調べになられまして、勾留の必要ありと検事さんの方でもなされまして、裁判官の方に勾留請求をなさったようでありますけれども、勾留が却下になった、こういう事情等に基いて、お話のように釈放されたような事情のあることも事実でございますが、これはいろいろ裁判官の御判断でありますので、証拠穏滅その他の点がなかったということであろうと思いますけれども、われわれ、中村委員の御指摘のごとく、民事事件としては民事裁判所判決にゆだねる、平穏公然に住んでおる居住に対しては、それに対して侵す者があれば住居侵入である、平穏公然に所有しているものを侵すと窃盗である、強奪行為があれば強盗である、これは全く中学で習った法律と同様ですが、そういった点については、そういうように現行犯の場合は現行犯として処置する。たまたま不幸にして現行犯を警察として認知し得ない事情もあります。すべての犯罪を現行犯で検挙することは不可能でありまして、事後に犯罪を発見する場合ももちろんありますので、事後に発見した場合は、事後捜査として、あるいは逮捕する必要があれば通常逮捕状の請求をして逮捕するということにならざるを得ないと思うのでありますが、現行犯を認知する場合に、やるときは現行犯として処置いたしたいと思います。現にこの事件もそのように処置いたしておるのであります。ところが、すべて現行犯としてでき得なかったことも事実であります。そういういろいろな事件を本件で調べたのでありますが、現行犯で警察官が認知し得る状態にありました場合には現行犯として処置いたしております。ところが、この中に暴行傷害ということがあるのでございますが、警察はそこをパトロールしておったかもしれませんが、そのうちの中まで入っていなかった。そのうちの中におきまして、ある関係者がある関係者をなぐった、こういう容疑の事案が発生いたしたのであります。これは現行犯で認知できない状態でありましたので、事後にこれを認知いたしまして、暴行傷害の疑いをもちまして、この事件は検察庁に送付いたしたのであります。それで、問題の要点は、すべての犯罪をすべて現行犯で認知するということになれば、しょっちゅう人のうちまで入っていなければならぬということになるので、これは不可能と思いますが、現行犯として認知し得る状態の場合は現行犯として処置すべきものだ、その点は同様に考えております。事後に犯罪の発生が発覚した場合におきましては、内容によると思いますけれども、内容によって、逮捕するにあらずんば事案の真相を発見できない場合は強制処分の手続をとって、逮捕までしなくても事案の真相発見に必要と思量される場合におきましては、それぞれそれに基いての捜査手続を進めていく、こういうことが当然の処置であろうと思うのであります。今回の場合につきまして、その当然の処置を一生懸命やっておったかどうかということが問題の要点になろうと思うのでありますが、われわれ、いろいろ現在までの調査の状況につきましては、現行犯で逮捕した分もございますし、事後に発見いたしまして、任意で事情を聞いて調書を作って検察庁に送致した分もございますので、一応大体やっておると認められる。ただし、そのやり方の詳細な点につきましては、さらに研究を要する点もあろうかと思いますので、今調査を続行しておる次第でございます。
  50. 中村高一

    中村(高)委員 現行犯人を逮捕して送致したことも事実でありまするけれども、その結果どうなるか。これは検察庁並びに裁判の結果を待てばいいのでありますけれども、現状において、行政警察範囲において、またその通りのことが同人あるいはその仲間によって継続されておって、二度目はもうやらない。そうすると、もう警察も、最初のは連れていってほうり込んでくれたけれども、あとの方はもうやってくれないということになれば、幾ら頼んでもこれはもうだめだし、それから、弁護士ももうこわいからいやだと言う。金の問題などであんなところに出かけて行ったって、どんな目に会うかわからぬから、おれは断わると言って、だれも行き手がなくなっておるそうです。そうすると、もうこうなればやはりこっちも暴力団を連れて対抗するよりほかには、銀座で一つ切り合いでもやらなければしょうがないというような考えを持つちゃうのです。警察もだめだ、弁護士ももうこわいから行かないと言う、だれも取りに行ってくれる人がなければ、こっちもしようがないから、暴力団で一戦するというようなことになる。これも銀座ですから、よろしくないと思いますから、一つあなたの方からそれぞれの手配をして、行政警察範囲内で治安の維持をはかっていただきたい、そういう希望を申し上げておきます。
  51. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 権利の回復を自分でやるということになりますと大へんな問題でございますから、そういうことのないように、警察としては厳重にやって参りたいと思います。
  52. 三田村武夫

    三田委員長 坂本泰良君。
  53. 坂本泰良

    ○坂本委員 私は佐賀県教職員組員に対する逮捕並びに勾留、これに関する取調べの問題について二、三ただしたいと思うのであります。  現在九州におきまして検察行政、警察行政、文教行政について三つの大きな問題があるのであります。その一つは、ただいま申し上げました佐賀県教職員組合の幹部逮捕十名並びに福岡県の元の委員長並びに青年部長の逮捕、取調べの問題、これであります。その二は、福岡県の土屋知事以下の公金一千万円の横領問題でありまして、これに対しましては、山本副知事以下は逮捕されて取調べを受けたのでありますが、土屋知事の取調べに対しては佐賀県とは逆な問題があると思うのであります。さらにもう一つ菅生事件でありますが、この菅生事件につきましては、先ほど猪俣委員からも御質問があったと思いますが、これは裁判中でありますけれども、約五カ年間、当時の現職警官が長く行方をくらまして、それが警察の庇護のもとにあったそうして今証人に出て証言をいたしておりまするが、もちろんこれは裁判の結果によると思いますが、いかにも証言において偽証の疑いが十分ありましてその背後には、新聞発表その他を見ましても、福岡の九州地区管区の中で声明を発表したり、記者会見をしたり、そういうような大きい三つの問題があるのであります。私は本日は佐教組問題を中心にしてお聞きしたいと存ずるのでありますが、やはりこの三つの事件は、いずれも憲法上の人権保障の問題、憲法上の教育を守る問題、すなわち日本の民主主義を守る上からは見のがすことのできないものでありますから、ここに中村法務大臣その他の方々に対してそれをただしておいて、そうして、警察行政並びに検察行政について、憲法に基く人権保障の点から、遺憾のないことを期したいと思うのであります。  そこで、第一にお聞きいたしたいのは、佐教組組合幹部十名の逮捕についてであります。佐賀県警察本部は、逮捕状を請求し、さらに被疑者宅ほか佐教組本部、学校職員室など四十数カ所を捜査及び差し押えの令状を請求いたしたのであります。被疑者は小、中学校の教師という教育者であります。そこで、捜査及び差し押えは、教育者の自宅であり、さらに、小さい子供が勉強する施設である小、中学校の校舎内の職員室等であります。教育ということを前提として考えまするときは、この逮捕状の請求並びに四十数カ所にわたるところの捜査及び差し押えの令状を請求するに当りまして、いかなる考慮を教育ということを前提に払われたかどうか、この点についてお聞きしたいと思うのであります。どろぼうや殺人等の破廉恥罪と異なるのでありますから、それと同じような考え方に立ったのではないと思うのであります。従いまして、この逮捕状請求並びに捜査差し押え令状の請求に当って、教育ということを前提としていかなる考慮を払われたか、その点をお聞きしたいと思います。警察本部が請求したのでありますから、大久保国務大臣にまずお聞きしたいと思います。
  54. 大久保留次郎

    ○大久保国務大臣 今回佐賀県の教職員の一部を勾留しましたことはまことに遺憾でありました。この問題につきましては、事は教育者である。教育者自身ばかりでなく、生徒を持った教育者である。生徒に及ぼす影響及び一般の社会に対する影響を考慮しまして、十分慎重に調査しました。しかし、その結果において、やはりこれは違反として検挙すべきものであると決心して、佐賀県の警察本部において英断をした次第であります。学校その他教職員の住宅云々というお話がありましたか、以上のような前提のもとに、なるべく学校教育を妨げないというような考えのもとに、学校教育の自由意志にまかした。あるいは学校で調べてくれという人は学校で調べた。自分の自宅で調べてもらいたいという人は自分の自宅で調べた。あるいは学校においてもなるべく授業を害さないように、子供が知らぬようにという考えのもとに、学校の休憩後において、あるいは夜業の開始前において、なるべく目立たぬように考慮を払ったっもりであります。大体以上のような心境で取扱いをいたしました。
  55. 坂本泰良

    ○坂本委員 今大久保大臣答弁は、令状をもらって後の、令状執行についの考慮の点だけであったのであります。私がお聞きせんとするのは、教育者、いわゆる先生に対して逮捕状を請求し、さらに学校の職員たる先生の自宅、こういうところを四十数カ所も捜査並びに差し押えの令状を請求しておる。この請求をするに当って、教育者であるから、また教育の場所であるから、いかなる考慮を払ったか、この点をお聞きしているのであります。
  56. 石井榮一

    ○石井(榮)政府委員 先ほど大久保大臣から御答えのありました通り、今回の佐賀県教組をめぐる事件の起りましたことは、私ども警察といたしましてもまことに遺憾に存ずるのでございます。警察といたしまして、取調べを開始するにつきましては、御指摘の通り、事の重要性にかんがみ、児童、生徒に与える心理的影響等も考えまして、地元佐賀県警察本部におきましてはきわめて慎重なる配慮のもとに捜査を進めて参っておるようでございまして、ただいま御指摘の四月二十四日に検挙いたします場合におきましても、捜索をいたしますにつきましても、十分慎重なる配慮をいたしておるようでございまして、捜索個所はただいまお話がありました通り四十一カ所に及んだのでございますが、そのうち学校は十四カ所でございます。これは県教組の支部、分会というような事務所のある学校に限られておるのでございます。学校内にそうした組合の事務所がありますために、その事務所において必要な捜索しなければならぬという関係で、やむを得ずこの十四カ所には捜索を実施いたしたのであります。しかも、これを実施するにつきましては、児童、生徒の登校前にすべてを完了するようにという配慮のもとに、午前五時四十分に着手いたしまして、おおむね八時過ぎには終っておるのであります。ただ一、二例外といたしまして、法に定められております通り捜索を行う場合には官公署の長またはそれにかわる者の立ち会いを要しまするので、立会人の方の御都合で若干開始が時間的におくれたところがございまして、それが八時半ないし九時近くかかった。最後の書類の整理等を完全に終るのに九時を回って、つまり児童、生徒の登校時間後になったというところが一、二例外的にございますが、これも児童、生徒の目の前で行うというようなことは絶対になかったのでございまして、組合事務所のそうした特殊の場所におきまして、最後の仕事の締めくくり的な整理、そういう仕事が若干手間取ったために時間的におくれたというような状況になっておるのでございます。  なお、被疑者自身の身柄の拘束の問題、最初から逮捕令状を請求し、それを用意してやったのじゃないかという点でございますが、われわれは、捜査のあり方といたしましては、できるだけ人権の尊重ということを基本的前提として捜査を進めるべきであることは、常々第一線の警察官諸君に要望いたしておるところでありまして、今回の場合におきましても、よくその基本的な方針にのっとって慎重な配慮のもとにやってくれていると確信をいたしておるのであります。四月二十四日にまず佐賀県警察本部といたしましては関係の方々の任意出頭を求めまして、最初は任意の取調べを開始するということで臨んだのでございます。その後捜査の状況にかんがみまして強制捜査に切りかえなけれ、ばならぬということに相なったのでございますが、おそらくそうなるであろうということも予想されましたので、一応最初から逮捕令状を用意して取調べに当ったという状況に相なるわけでございます。取調べに当りましては、人権の尊重ということをたえず念頭におきまして、慎重にやったというふうに報告に接しております。
  57. 坂本泰良

    ○坂本委員 人権を尊重して令状の執行その他をやったこれには遺憾な点がありますが、この点はあとでまた具体的例をあげてただしますが、私が今お聞きしているのは、教員、いわゆる教育者に対する逮捕状を請求し、さらに捜査・差し押えの令状を請求するに当って、その被疑者は教育者であるから、その点について考慮を払ったかどうか。払ったならばどういう考慮を払ったか、これを伺っておるのであります。ただ教育者だから慎重にやった、それは抽象的に口で言うだけであります。これは答弁にならぬと思うのであります。教育者に対する逮捕令状を請求するに当ってどういう考慮を払ったか、そこを伺っておるのであります。大久保大臣、その点いかがですか。
  58. 石井榮一

    ○石井(榮)政府委員 逮捕令状を請求する場合には、法に所定の要件がきめられております。そうした要件がなければ逮捕令状の請求はできない。教育者といえどもその例外であるわけはない。そういう刑事訴訟法に定められた所定の手続に従いまして令状の請求はいたしたのでございます。実際にこれを実施するに当っては、教育者でありますから、児童、生徒に与える心理的影響等も考えて慎重にやったということであります。
  59. 坂本泰良

    ○坂本委員 どうも答弁にならぬですから、それじゃ私一例をあげます。私は、教育については特別に考慮を払わなければならぬというのは、やはり教育の自治を前提として認めなければならぬと思うのです。と申しますのは、大学においては大学の自治がある。従いまして、大学の構内においての犯罪捜査に当りましては、大学であるなら学長その他の管理者の承諾を経なければ、かりに破廉恥罪といえども、そこの中に入って逮捕をしたりあるいは捜索をすることは許されない。これは例のポポロ事件判例から見ましても、当然これが認められているわけであります。それと同時に、小、中学校においても、教職員の教育については、そこに自治と申しますか、そういうものがなければならぬはずと思うのであります。従って、教職員を拘束するということは、教育ということを前提に置くから、ことに重大になってくるわけであります。従って、このことを考えますならば、大学の自治の場合は、大学の総長の承諾を得なければ、その中に警察権を執行したりあるいは逮捕したりすることができないように、少くとも、小、中学校の教員を逮捕したりあるいは小学校の中の一部を捜索するような場合は、県の教育委員会あるいは市町村の教育委員会に対して、逮捕を請求し捜索しても教育上差しつかえがないだろうかどうか、こういうようなことを、単に警察自身の独断の考えでなく、教育委員その他の意見も聞いて、初めて教育に差しつかえがあるとかないとかいう判断をいたしまして、請求をしなければならぬ、こういうふうに考えるのですが、こういう考慮を払われたかどうか、お聞きしたいのであります。
  60. 山口喜雄

    山口(喜)政府委員 学校関係につきまして、捜索等いわゆる強制捜査をいたします場合に、事前に教育委員会等の御意見をお伺いしなければならないということでございましたが、私どもといたしましては、事前に教育委員会の方の、果して強制捜査が不当であるかどうかというようなことについて御意見をお伺いするというのは、一面において強制捜査の性質上必ずしも御意見と同じようには参らない場合が多くあろうと思うのであります。もちろん、今回の問題につきましては、強制捜査をするかどうかということは、佐賀県の警察本部といたしまして十分慎重に考慮いたしたと私は思っているのであります。なお、県の教育委員会に対しましては、捜査の直後に教育長の方に警察本部長から御連絡はいたしたと思っております。
  61. 坂本泰良

    ○坂本委員 ただあなたの方で普通の破廉恥罪と同じように、今までにない教育者の逮捕令状を請求し、さらに、組合があったにしても、子供が行って勉強をする小学校の建物の中に跡み込んでそこの中の捜査をする。教育をする場所であり、教育者であるから、それについて普通の破廉恥罪とは全然別個に何らかの考慮を払ったかどうか。ただいまの御答弁を聞きますと、刑事訴訟法に基いてやったとしても、教育者も、普通のどろぼうその他の者も、犯罪容疑があって刑事訴訟法の要件が整えば逮捕令状を請求するのだ、こういうものじゃないと思うのです。そういう具体的な考慮を払ってやられたかどうか。少くとも、小、中学校の教育は、学校は市町村の教育委員会がこれを管理しておるし、県教育委員会が総括して、警察権とか他の行政とは独立して、教育の目的のために独立機関としてやっているわけです。従って、ただ犯罪の容疑だけで直ちに普通の破廉恥罪と同じような逮捕令状の請求あるいは捜査令状の請求というようなことは、もう少し考えなければならぬ。そういう考えをもってやったかどうかということをお聞きしているわけですが、今までに聞くところによると、そういう考慮も払っておられないようです。  そこで、法務大臣にお聞きしたいのは、佐賀県警察本部が逮捕状を請求し、さらに捜査及び差し押えの令状を請求するに当りましては、やはり佐賀県の検察庁の検事正あるいは福岡の高検の検事長、最高検の方に意見を求め、その指示を得てやられたかどうか、その点をお聞きしたい。
  62. 中村梅吉

    中村国務大臣 もちろん、佐賀地検といたしましては、そういう関係方面に一応協議をして行なったものであろうと思います。
  63. 坂本泰良

    ○坂本委員 そうすると、やはりこの逮捕令状の請求その他に当っては、先ほど警察当局から御答弁がありましたように、別に教育者を逮捕する、教育の場所を捜査するというような考慮は払わずにやってもいいというのですか。そういう了解のもとに指示を与え協議をした、こういうように了解していいのでしょうか。
  64. 中村梅吉

    中村国務大臣 しかしながら、具体的にその事件をどういう捜査方法によって捜査を進めるかということにつきましては、おそらく現地の地検の責任においてやったことであろうと思います。高検あるいは最高検等がかりに協議を受けましても、法律上の判断でありますとか、大局的なことにつきましては協議が行われたものと思いますけれども、具体的な進め方については、やはり事情のわかっておる現地でなければ判断が困難な事情も多かろうと思いますので、おそらく現地の地検の判断によって行なったものであろうと考えます。
  65. 坂本泰良

    ○坂本委員 先ほど来任意出頭ということを言われるのでありますが、佐教組の場合には、すでに逮捕状を請求して裁判所からもらって、その逮捕状を持って各人の家にジープ二台を連ねて行って、ちょっと警察まできてもらいたい、来なければ令状を執行するのだということで引っぱっていかれているわけです。だから、口に任意出頭と申しますけれども、実際のところは、手錠をはめないだけの違いで、ジープ二台で各人の家に行っております。警察官が三、四人で任意出頭ということで警察本部に連れてきて、取調べを開始しているわけであります。そういうような任意出頭の場合でも、逮捕令状を持っている場合には、ジープ二台を連ねてやらなければならないというような内規かあるいは慣例が警察においてはあるのかどうか、そういう点をお聞きしたい。
  66. 山口喜雄

    山口(喜)政府委員 別にジープを持っていかなければならないというような内規はありません。ただ、その場その場に応じまして、捜査に行きます者、あるいは捜査をします者の判断によって、ただ便宜を考えて、場合によっては、ジープを持っていく場合もあり、そうでない場合もあろうと思います。
  67. 坂本泰良

    ○坂本委員 佐教組幹部本名の逮捕に当っては、警察官は三名あるいは五名のところもあったでしょうが、ジープ二台で朝がけに自宅に行って任意同行を求めているのですが、普通の破廉恥罪と同じようにそういうふうにやる規則があるのかどうか、もしそういうことはないとしたならば、佐賀県の警察本部は独断でそういうことをやったというふうに了承していいかどうか、その点を承わりたい。
  68. 山口喜雄

    山口(喜)政府委員 任意捜査の場合にジープをどういうふうに使用するというようなことは別に内規はございません。ただ任意同行を求める場合の便宜等も考えましてジープに乗って行ったものだと思います。
  69. 坂本泰良

    ○坂本委員 さらに、福岡県の前委員長の久保田氏、本年は学校に帰って中学の校長代理の要職にあるわけです。それから、もう一人の青年部長も、本年は学校に帰って教育の直接の指導に当っているわけです。この二人に対しては佐賀県から各自二台のジープを連ねて数名の警官が朝六時に行きまして同行を求めているわけであります。こういうような場合でも、やはりそういうふうにしなければ逮捕ができなかったのかどうか、教育者という立場を考えると、もっとやりようもあると思うのですが、この点はいかがですか。
  70. 山口喜雄

    山口(喜)政府委員 福岡県の教職員組合の方二人につきまして任意同行を求め、後に逮捕令状を執行したのであります。これは、御承知のように、佐賀から出向いていっていたすのでありますから、時間その他往復の便宜等も考えましてジープを使ったものと思います。別にそれ以上の他意はなかったのであります。  なお、御指摘になりましたように、今回佐賀県で十名、福岡県で二名の教職員の方について逮捕令状を執行いたしておりますが、現実に教壇に立っておられました先生は、福岡県関係の二名の方であります。佐賀県関係の十名の方は、いわゆる専従職員として教壇を離れておられた方か、あるいは今年の四月から専従職員でなくなって教壇に帰ることになっておられた方でありますが、教育委員会行政処分によりまして停職処分に付せられておりまして、現実には教壇に帰っておられなかったのであります。以上つけ加えて御説明申し上げます。
  71. 坂本泰良

    ○坂本委員 佐賀の問題は第二にしまして、福岡の二名の逮捕についてお聞きしたいのですが、これは他県ですよ。佐賀県でなくて、佐賀県の警察の管轄以外の福岡県で逮捕令状を執行するわけです。従って、やはり福岡には福岡の県教育委員会がある。市町村には市町村の教育委員会がある。こういうのを逮捕する場合において、やはり教育を前提として考えるならは、朝がけ六時にジープ二台を連ねて行って、いかに合法的な刑事訴訟法上の令状があるといえども、他県まで乗り込んで、そうして教育者の家を朝六時にやるということは、これは教育を無視しておるのもはなはだしいと思うのであります。私は、こういうような場合には、やはり何とかこれは秘密にできるわけですから、福岡県の教育委員会かあるいはこの二人の被疑者の当該市町村の委員会その他に、やはり一応は、教育上差しつかえないかどうか、こういうような意見を徴してやるべきだ、かように思うのですが、その点大久保大臣からお聞きしたいと思います。
  72. 大久保留次郎

    ○大久保国務大臣 教職員を逮捕する場合には教育委員会意向を開いたらどうかということですが、もしそういうことをする時間がありましたならば、聞くのも一つの便宜かと存じますけれども、火急の場合においては、委員会に相談するひまがなくて直接執行する場合も多いと思います。これはまことにやむを得ないものと存じます。
  73. 坂本泰良

    ○坂本委員 警察大臣がやむを得ないなんて言うことは、聞いて私は意外に考えるわけです。あとでも容疑事実でこれはただそうと思っておりまするが、この容疑事実については、争議行為であるかどうかという大きい法律上の見解の差異があるわけです。しかもその被疑者は住所不定でも何でもない。逃げも隠れもしないわけです。それを、火急なものであると言って、どろぼうして逃げた、こういう者を逮捕すると同じような考えでやるところに、私は教育の破壊があると思うのであります。警察行政の行き過ぎがあると思う。そういう点を何ら考慮せずに、普通の犯罪と同じような点でやられたところに、私は今度の問題について、これは組合の弾圧であるということが言われる根幹があると思うのであります。佐賀県の教組の十名は、もちろんそれは停職でもあったのであります。しかしながら、この停職に対しては、県の人事委員会にその正しいかいなかの審判の要求をしておるわけであります。取り消しの要求をしておるわけであります。これはやはり普通の犯罪と同じにジープを連ねて十名も逮捕するということは、これは組合活動の単に破壊だけでなく、日本の教育の破壊じゃないかと思う。こういう点について大久保警察担当大臣ともあろう者が、何も考慮を払わないで、やむを得なかった、火急の用事だ、それであなたは大臣責任が済むと思われますか。その点お聞きしたい。
  74. 大久保留次郎

    ○大久保国務大臣 教育を尊重し、教職員を尊重することは、一番冒頭において申し述べた通りであります。しかし、犯罪の検挙に当りまして、ただいまのような方法をとるのはまことにやむを得ない措置に出たものと思うのであります。
  75. 坂本泰良

    ○坂本委員 教員がどろぼうしたり、殺人をしたりするならば それでいいと思う。しかし、この問題は、教育に対する見解の差異もあり その容疑事実についても非常に不鮮明な点がある。しかも、教育者であり、教育をする場所でありますよ。これを捜査する令状を請求するに当って何の考慮も払わないというところに、私は大臣の大いなる責任があるのではないかと思う。こういう点について、あなたは当時は何も気づかなかっただろうけれども、今こうしてただされると、どうです、これでもあなたは、行き過ぎでも何でもない、教育を尊重した、そう言えますかどうか、承わりたい。
  76. 大久保留次郎

    ○大久保国務大臣 もう初め私申し上げました通りであります。教育を尊重し、教員を尊重して、ていねいに親切に、できる限りは力を尽した考えでございます。
  77. 坂本泰良

    ○坂本委員 ていねい親切と言われても――こういう大臣がおるからどうもうまくいかないと思うのです。  それじゃ、次にお伺いいたしたいのは、これは検察当局でございますが、本件の勾留状の請求は刑事訴訟法第六十条によるわけであります。これによりますと、申すまでもなく、犯罪の容疑があり、住居が不定であり、罪証隠滅のおそれ、あるいは逃亡のおそれがある場合に、この勾留状を請求ができると思うのであります。ところが、この佐賀県の十名に対しましては、四十八時間を経過した後において佐賀裁判所に十名の勾留状の請求をいたしましたところ、十名の必要なしとして却下されたのであります。私は、この大久保無能警察大臣のもとにおける日本警察の、教育に無理解であり、教育を破壊する、こういう態度に出ておることに対比して、司法権の独立をここに堅持されたことに非常に敬意を表したのであります。この十名の勾留却下に対しては、検察側から準抗告をし、さらにその晩には、あとでも聞きたいと思いますが、夜中の十二時から三時までの深夜の取り調べをしておるのであります。そして、その準抗告の結果は、五名は準抗告を却下になって釈放され、七名は、さらに他の民事の合議部がその準抗告を認めましたので、さらにこれも法律上違法と思われますが、別の単独の判事が被疑者を尋問せず勾留状を出しておるわけであります。そこで、お開きいたしたいのは、本件のこの勾留の請求に当って、この勾留状の犯罪容疑はいかに理解してこれをやられたか、その点、私の調査並びに意見を申し上げる前に、まず検察当局の犯罪の容疑についての見解を承わりたいと思う。
  78. 井本臺吉

    ○井本政府委員 犯罪の容疑は、地方公務員法第三十七条、第六十一条の違反の事実があるということで勾留を請求したのでございます。
  79. 坂本泰良

    ○坂本委員 いや、犯罪容疑の基本は具体的に申すとどういうことですか。それを聞きたい。
  80. 井本臺吉

    ○井本政府委員 本年の二月十四、五、六日の三日間にわたりまして、佐賀県の教職員組合の方々が三、三、四の割合で休暇闘争をしたということが、地方公務員法の三十七条に違反し、六十一条の犯罪に当るということで、それにつきまして勾留状を請求をしたというわけでございます。
  81. 坂本泰良

    ○坂本委員 そういたしますと、この三、三、四割の休暇に対しては、労働基準法三十九条の年次有給休暇の点についてはどういう見解に立っておられますか。
  82. 井本臺吉

    ○井本政府委員 労働基準法の年次有給休暇につきましては、地方教育委員会もしくはその補助者である校長さんの承認が必要であるという建前で考えております。この本件におきましては、校長さんの承認がないのにもかかわらず、それぞれ年次有給休暇の届出をしまして休んでしまったということが結局今の地公法三十七条違反であるというように考えます。
  83. 坂本泰良

    ○坂本委員 地公法の三十七条によりますと、争議行為の禁止として四つをあげておるわけでありますが、そのどれに該当するということでやられましたか。
  84. 井本臺吉

    ○井本政府委員 地公法の三十七条、六十一条には、あおり、そそのかし、共謀し、企て、という四つが書いてございますが、そのうちの、あおり、そそのかしという点に大体当るというつもりでやっておりますが、これは調べの結果を待ちませんと、起訴の際には多少事実が違ってくるというように考えます。
  85. 坂本泰良

    ○坂本委員 三十七条には四つありまして、その他の争議行為とずっと並べてあるわけですね。その争議行為として認めてやられたかどうか、その点をお聞きしたい。
  86. 井本臺吉

    ○井本政府委員 私どもは、この二月十四、十五、十六の三日間の三割、三割、四割の休暇は、職場放棄すなわち同盟罷業の一種であるというように考えております。
  87. 坂本泰良

    ○坂本委員 同盟罷業である、こういうふうにやられたのですな。同盟罷業であると認定された根拠はどこにあるのですか。
  88. 井本臺吉

    ○井本政府委員 教員が、正常な学校業務の運営に支障を生ずるにかかわらず、校長の承認を得ずして、有給休暇をもらうという名義のもとに職場を放棄したという点が、同盟罷業であるというように考えております。
  89. 坂本泰良

    ○坂本委員 そうですか。三十七条には、同盟罷業、これが一つ、怠業その他の争議行為、これが一つ、それから、または地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業行為、それとその他の行為、こうなると思うのでありますが、その同盟罷業という認定でその容疑行為はやられたわけですな。
  90. 井本臺吉

    ○井本政府委員 要するに、三十七条に書いてありますような職場放棄をしたという点を問題にしたのでありまして、私は同盟罷業というように考えておりますが、個々の事案によりましては多少認定が違ってくるかもしれませんけれども、要するに、正当な教職員の職務を放擲してさような争議をしたという点を問題としてとらえたのであります。
  91. 坂本泰良

    ○坂本委員 そうしますと、有給休暇を申し出て、そうしてその承認を得なくて三、三、四割の休暇をやった、これを同盟罷業としてその容疑事実にされたのは間違いないですか。念を押しておきます。
  92. 井本臺吉

    ○井本政府委員 さような点を三十七条並びに六十一条違反というように扱ったのでございます。
  93. 坂本泰良

    ○坂本委員 この同盟罷業というのは、やはり一般の観念による同盟罷業で、団体交渉その他を持って、そうしてそれが決裂した場合におけるところの一斉作業の中止等の行為だろうと思うのです。三、三、四割の休暇をとって職場を離れたというだけで同盟罷業になるのですか。これは特にあなたは専門家ですからここに確かめておきます。
  94. 井本臺吉

    ○井本政府委員 私は、職務を放擲した職務放棄の行為が同盟罷業であるというように考えております。
  95. 坂本泰良

    ○坂本委員 そうしますと、その同盟罷業をそそのかしたり、共謀したり、もしくはあおったり、こういうようなふうにやったということになるわけですか。その点いかがですか。
  96. 井本臺吉

    ○井本政府委員 三十七条に違反するような行為をあおり、そそのかし、共謀し、企て、こういうのが六十一条に犯罪行為として取り上げられておりますので、その点が犯罪行為であるというふうに考えております。
  97. 坂本泰良

    ○坂本委員 これはもう少し検討してもらいたいと思うのですが、そうしますと、同盟罷業を共謀し、そそのかし、またはあおりということがあるのですが、ちょっと了解に苦しむわけですけれども、その点いかがですか。
  98. 井本臺吉

    ○井本政府委員 先ほど申上げましたように、個々の人の行為をとらえますれば、これは職場放棄であります。その職場放棄をするようにあおり、そそのかすということがいかぬということを申し上げたわけでございます。
  99. 坂本泰良

    ○坂本委員 私は、これは同盟罷業でなくて怠業、それからその下のその他の争議行為に入るかと思って了解しておったのですが、同盟罷業を共謀し、そそのかし、あるいはあおるというようなことはちょっと私は考えられないのでありまして、あなた方の研究がまだ足らないだろうと思うのです。研究が足らないのに教員を逮捕するなんてことはもってのほかだと思うのです。これはもう少し検討しなければいかぬと思うのですが、今の点について文部省はどういうふうに理解されておるか、御所見を承わりたい。
  100. 内藤誉三郎

    ○内藤政府委員 ただいま刑事局長が申し上げた通りでございます。大体同じ見解を持っております。
  101. 坂本泰良

    ○坂本委員 そうしますと、お伺いしたいのですが、三、三、四割の年次有給休暇をとって唐津市と佐賀市における要求貫徹総決起大会に参加しようという指令を発したわけなんですね。これは、佐賀県が赤字指定県として小、中学校の義務教育を破壊するような定員削減の行政措置がとられようとしたので、どうしてもこれは教育者としては反対しなければならないというのでやったわけです。昨年は四百名、今度二百数十名やられて、今後、六千名の佐賀県の教員に対して十年間の赤字対策として二千名も教員が減るならば、これは佐賀県教育の破壊行為であるというので、この教育を守るための抗議集会をしたわけです。これが同盟罷業になるというのは、私は非常に了解に苦しむわけなんですが、それでもやはり文部省はそういう見解で、この容疑の前提である六ヵ月あるいは二ヵ月の行政処分を佐賀県でしているのを了解しておられるわけですが、やはりそういう同盟罷業の認識の上に立って、その行政処分を了解しておられるか、その点をちょっと承わりたい。
  102. 内藤誉三郎

    ○内藤政府委員 さようであります。特に、この佐賀県の教組が、ただいまお話しのように定員削減に反対したということは、これは私無理からぬ御要求だと思う。この点につきましては、佐賀県の教育委員会及び知事も大へん心配いたしまして、何とか二百五十九名の削減を緩和するように、地方財政再建計画の緩和方について努力しておった最中でございました。この点について、昨年の暮れよりそういう話がありまして、自治庁としても、文部省もともどもに、二百五十九名の削減は困難である、こういうふうに断定いたしまして、実は二百五十九名の削減については三十一年度はついに財源的にはしなかったのであります。結局三十一年度は整理をしなかったということになります。ただ、新陳代謝の関係で事実上整理はしましたが、定員削減は行わなかったのであります。それから、なお昭和三十二年度に二百五十九名が繰り越しになっている、これにつきましても、教育水準を著しく低下するおそれがあるという点で、文部省も自治庁に交渉をいたしまして、この緩和方につきましてただいま折衝中なのであります。こういうふうに、定員削減に対しまして、中央におきましても地方におきましても交渉の中途でありまして、佐賀県教育委員会といたしましては、PTAとともに、この二月の十四、十五、十六の三日間にわたる三、三、四の闘争に参加しないように、極力回避するようにと最善の努力を払ったわけであります。しかしながら、その精神にもかかわらず、教員組合が三、三、四の休暇闘争に突入されましたことは、私ども教育界にとってはなはだ遺憾に思っておるのであります。しかし、すでにこういう結果になったのでありますので、私どもは三十七条違反としての行政処分もやむを得なかったと、かように考えておるのでございます。
  103. 坂本泰良

    ○坂本委員 言われることはわかりますが、あなた方はもう文部委員会、地方行政委員会に数回出席されていろいろ質問をされておると思うのですが、やはり、法を守らないから処罰するというなら、もう少し法の根拠ぐらいははっきりしておかぬといかぬと思うのです。この逮捕状の請求の理由を見ましても、「地方公務員である前記教職員に対し、違法の争議行為の遂行をそそのかし、かつあおる」とあるので、同盟罷業とはならないのであります。あなた方文部当局においてはやはり教育の指導監督をする任務があるし、検察庁においては少くとも逮捕するような令状を請求する――それには何も同盟罷業というようなことはないのです。違法な争議行為とある。だから、そういう点はあなた方はもう少しはっきり権威あるものにしてもらわなければ、もしもそういうように法の解釈を間違えて、そうしてそういう処分を指導したり監督をしたりあるいは逮捕をしたりすれば、これはとんでもない間違いだと思うのです。同じ三十七条といっても、三十七条には四つありますよ。大体三、三、四割の休暇闘争というものを同盟罷業と思うのですか。あなた方は同盟罷業というものをどういうふうに了解されておるのです。少くとも何も問題のないときにこの教育委員会なんかに演説をするときには、指導するときには、それでいいでしょう。しかし、これは教員を逮捕しておるではありませんか。令状を請求しておるではありませんか。その根拠となるのは三十七条一項だといっても、三十七条一項の内容にはいろいろありますよ。私は、同盟罷業だとあなた方が言ったら、これは容疑事実にならないと思う。だから、少くとも教育を破壊するような逮捕状を出す、教員が逮捕されるというような場合には、もう少し確たる信念を持っていなければならぬ、法の解釈をはっきりしておかなければならぬと思うのです。あなた方が同盟罷業であると言われるなら、私がもうここで質問する理由はないわけですよ。裁判所が勾留状を却下した問題はどこにあるかというと、三、三、四割の有給休暇の指令を発して休んだことが、この三十七条の「その他の争議行為」に入るかどうかという点が問題になりまして、裁判所は、三、五、四割の休暇をとったというのは、労働基準法の三十九条、年次有給休暇を与えなければならぬ、こういう見解をとったから、犯罪の容疑事実がまずないというので、勾留状の請求を却下しているわけなのです。犯罪の容疑事実がなかったら、証拠隠滅のおそれとかあるいは逃亡のおそれなんか、刑訴の六十一条では条件にならぬわけです。それをあなた方は同盟罷業だなんて言われて逮捕状を請求した、あるいは勾留状の請求をした、こういうことになったら、これはとんでもない間違いなのですが、どうですか、その点は。まだわかりませんか。
  104. 井本臺吉

    ○井本政府委員 自分の職務放棄をすることが罷業でありまして、それをたくさんの者が同盟してやれば、これは同盟罷業であります。三十七条は「同盟罷業、怠業その他の争議行為」と書いておりまして、「その他の争議行為」でまとめてあるのであって、争議行為のうちにはいろいろあるわけでありまするが、私は本件のようなものは同盟罷業であるというように考えております。  なお、確かに佐賀の地方裁判所の裁判官は本名の勾留請求につきまして全部却下をしております。しかしながら、先ほども坂本委員からお尋ねがありました通り、そのうちの七名が結局勾留になっておるのでありまして、私どもの従来の経験から言いますると、およそ百人近くの者が勾留請求されて、そのうちの一人余りが勾留請求却下になるというようなのが実際の勾留請求の結論の実情でございまするが、本件のごときは十人請求して全部十人が却下になっておるので、私といたしましては、この却下をなされた裁判官の考え方が、結局その裁判所の判断と非常に違う点から見て、すこぶる失当な判断だったというように考えております。
  105. 坂本泰良

    ○坂本委員 しかし、三十七条に該当する犯罪である、同盟罷業であると言って、裁判所犯罪容疑に関する判断を批判するなんかは間違っているですよ。裁判所は、勾留開示の裁判で、犯罪容疑は同盟罷業としておりません。その他の争議行為にしておるわけです。その他の争議行為であって、三、三、四は、争議行為という見解に立つのと、争議行為でないという見解に立つのとで、初めてここに問題があるわけなのです。国会ですから、いいかげんな答弁をせずにやってもらわぬことには、ことに文部省なんかは、この問題については相当指導もしておるし、委員会にも数次出ておられるでしょう。これは一つはっきりしてもらわぬと、同盟罷業なんと一言ったら、私なんか、これから質問するものは何もないです。争議行為になるかならぬかというので、――それもその他の争議行為ですよ。同盟罷業も大きく言えば争議行為でしょう。しかし、ここで三、三、四割の休暇闘争というのは、あのストライキの同盟罷業じゃないわけなのです。この三十七条の「その他の争議行為」にひっかけておると私は思っておるけれども、そうでなかったならは、これはとんでもない間違いだと思うわけなのです。それを言っても時間がありませんが、ことに文部省に要望したいのは、ただ教育をするとか、どうしろああしろとかいう指導は、これも重大だから、どうでもいいというわけにいかぬけれども、少くとも憲法上保障されておる人権を、停職処分たってそれを剥奪しておるわけなんです。これはもう少ししっかりした考えを持って国民には処してもらいたい。そうでなければ公僕じゃないと私は思うわけです。  そこで、中村大臣にお伺いしたいのは、ことほどさように犯罪の容疑は薄弱なんです。これに対して、やはり教育を前提とするならば、私はもっと慎重に逮捕状の請求あるいは取調べも――これは山口警備部長から話があったけれども、学校に行って礼くらい尽しておられたが、その取調べにおいては、あの体質県の下の巡査その他は決してあなた方がここでりっぱに口で言っておられるような尊重した取調べもしていないわけです。私が大臣にお聞きしたいのは、土屋知事なんかは、飛行機はうその切符を買って東京に来て、そうしてどこかわからないところで調べておられる。私は、ああいうような破廉恥をした者は、土屋知事であろうが前大臣であろうが何であろうが、堂々とやってもいいと思う。教育者こそ、たとい犯罪の容疑があっても、やはりそこは考えてやらなければならぬと思う。土屋知事のあのないしょで調べたのと比較して、教育者に対して、朝六時にジープ二台で踏み込んで、そうして任意同行というけれど、令状を握って、そうして連れていくでしょう。そういうような調べをして、果してこの佐賀県教組の警察官の逮捕状の請求並びに執行、勾留状の請求並びに執行について、教育を前提として考慮を払われた妥当なものであるかどうか、その点をお聞きしておきたいと思う。
  106. 中村梅吉

    中村国務大臣 私は、現地の警察及び検察当局といたしましては実情を十分検討の上慎重に行なった結論でありまして、妥当な措置であると考えます。
  107. 坂本泰良

    ○坂本委員 最後にお聞きしたいのは、今度の逮捕並びに勾留に当りまして、弁護人の弁護届をとるための面会に対して、それを拒否し、さらに、やむを得ず面会をさせのに、弁護人の接見に立ち会う、こういうような事実があるのですが、この点について調べられ、さらに、そういう事実があったならばどうお考えになるか、その所見をお伺いしたい。
  108. 山口喜雄

    山口(喜)政府委員 お尋ねの件は、四月二十五日鳥栖の警察署において森川といわれます弁護士さんが、被疑者の一人の北崎という方にお会いになられたときの状況であろうと思います。そのときの状況をお話しいたしますと、森川弁護士外二名の方が鳥栖警察署をおたずねになりましたのは四月二十五日の四時半ごろであったのであります。この方は捜査係に見えまして、北崎という人と面会をしたいと申し出があったのであります。捜査係は、弁護士さんを係長室に案内をいたしまして、現在被疑者は取調べ中でありますので、今面会をされることは遠慮していただきたいと申したことは事実ございます。しかし、その際に、弁護士さんから、選任届を書いてもらうだけであるからちょっと会わしてもらいたいというお話がございましたので、捜査係長は係長室において弁護士さんと北崎という被疑者を面会させることにいたしたのであります。このとき佐教組あるいは国鉄の労組関係の組合の方に四十数名が署長に面会を求めてきまして、署長が不在のため捜査係長が面会することになりまして、捜査係長は署長室におもむいてお会いをいたしておるのであります。その後、弁護士さんは北崎氏と面会をされまして、北崎氏に選任届二通を書かせて、その選任届を捜査係の事務室の机の上に置いて退去されております。面会の時間は約五分間であります。その間捜査係長室には警察官はおらなかったのであります。その別室に捜査の内勤の署員がおりました。従って、立会人なくして面会されることを拒否いたしたということはございません。そういうふうに報告を受けております。
  109. 坂本泰良

    ○坂本委員 それはそちらの報告でしょうが、これは、監獄法の施行規則の百二十一条、百二十七条を持ち出して交渉した結果、ようやくそういうことをやったわけなんです。それは表面の報告だけなんです。結局のところそう会わせました。ただ、そこで、法務大臣がおられますが、警察当局も、捜捕をした場合は、まず尋問その他をする前に、弁護人をつけるかどうかということを告げなければならぬ。これは憲法上の規定なんです。そこで、弁護士が面会に行った場合は、やはりその人権保障の建前から、憲法上の建前から、いかなる、取調べをしていても、それを打ち切って、そうしてまず弁護人に面会させて、それから調べるべきが当然だ、私はこういうふうに思うのですが、その点中村大臣と石井長官の所見をお聞きしたい。
  110. 中村梅吉

    中村国務大臣 坂本委員のお話のような方向が望ましいことと考えます。
  111. 石井榮一

    ○石井(榮)政府委員 法律に認められた権利を尊重しなければならぬことは当然でございますから、ただいま御意見のありましたように十分尊重しなければならぬと思います。
  112. 坂本泰良

    ○坂本委員 これは拘置所その他は守られておるのですが、警察では一番守られていない。だから、石井長官は、この点は一つ警察に対して指導徹底して、唯一の教育の方針にしてもらいたいということを要望しておきます。  最後に中村法務大臣にお聞きしたいことは……。
  113. 三田村武夫

    三田委員長 坂本君、今本会議の振鈴が鳴っているのです。冒頭に不信任案があるそうですから、なるべく簡潔にお願いいたします。
  114. 坂本泰良

    ○坂本委員 被疑者の松隈虎夫に対しては、四月二十八日に、十二時二十分から八時半までの取調べをやっておるのであります。被疑者の杉山に対しては、原田検事が二十八日の夜十二時十五分ころから一時間ばかり調べをしておるのであります。被疑者の鶴田に対しては、二十八日の夜の十二時前から調べられて、二十九日の一時まで取調べを受けておるのであります。被疑者の末森は、二十九日の朝の一時に寝ているのを起されまして、三時まで調べ受けておるのであります。北崎被疑者は、二十九旧の勾留決定があった晩、十二時から三時まで取調べを受けておるのであります。この取調べは憲法に違反し、人権じゅうりんだと思うのでありますが、この点はいかがですか。
  115. 中村梅吉

    中村国務大臣 被疑者の取調べに当りましては、努めて人権の尊重に注意をしなければならないことは当然でございます。実は本件につきましてそういうような話を私も聞きましたので、関係方面にそれを確かめて、どういう事情で、そういう夜中に取調べをしなければならない何かやむを得ない事情でもあったのかということをただしましたところが、ちょうど、先ほど刑事局長がお答えいたしましたように、当初勾留請求に対して却下がありましたので、検察官としては、当初の主帳を貫くために準抗告の手続をしてあったときでありますので、その準抗告がもし却下になりますならば釈放しなければならないというような事情から、その結果がどうなるか見通しのつかない段階でありましたので、一応の聞き取りをしておきたいということで調べたのだということを聞きました。なるほど、そういうような前後の事情を聞きますと、事情やむを得なかったようにも考えますが、今後、こういうような深夜の取調べ等については、十分注意をいたしまして、繰り返さないように努めることを、われわれとしては十分注意を払って参りたいと思います。
  116. 坂本泰良

    ○坂本委員 この問題は重大な問題ですから、これは今後注意するというだけではいかぬと思うのです。やはりこの人権じゅうりん的取調べに対しては、相当の責任を負わなければならぬ、こういうふうに考えるわけですが、本日は時間がありませんから、これで打ちきります。
  117. 三田村武夫

    三田委員長 本日はこの程度にとどめ散会いたします。  次会は公報を持ってお知らせいたします。    午後一時四十二分散会