○
高橋説明員 全然ないとは決して申しませんのでありまするし、またただいまおっしゃったほど
秘密にして、いわゆる
隠し財産にしておいたというようなこともないと存じますのでありますが、非常な
黒字と申しましても、
終戦後
運営委員会に移りまして十一回開いております、その間に残りました
金額は、正確なことをちょっと申し上げかねますが、六百何十万かだと記憶いたしております。それでこれは必ずしも巨額とは申すことができないのでありまして、一体にこれだけの
黒字になっておりますならば、相当大きな
金額と言われるかもしれないのでありますが、回を重ねまするその十一回の間に六百万ほど
積み立てができたということは、それほど大きな余剰を残したとは申せないと存じます。それから
終戦後非常に多くの
入場者を得て好況であったというようなふうにも伝えられておりまするが、
終戦直後に開きました
日展は非常な不況であったのであります。そのころはまだ
官展の性格を帯びておりまして、政府が心配をしてくれておったればこそよかったのでございまするが、ああいうようなことが
運営会の
経営に移りまして後生じますならば重大なことでありますので、
黒字のありました際に多少はこれを
積み立てておくということがどうしても必要ではないかと
考えておるのであります。これを
出品者に割戻そうかというような
考えも出たのでありまするが、
出品者は
審査料を払いましたものの中で割合に少数であり、むしろ落選した人が多いのでありますから、それらの人にまで割戻さなければならぬ、こういうようなことをしまするよりも、これを
積み立てておいて、いよいよ
基礎が確実であるということになりましたならば、
美術発展のためにこれを使うというような方がむしろいいのではないか。さしあたりこれまでは
川合玉堂さんの御好意によりまして、
玉堂さんの受けられます
文化功労年金を年々御
寄付下さいまして、約四十万、すぐれた
美術品を購入することができたのでありまするが、
玉堂さんがおなくなりになりますると、これもまず絶えるものと見なければならぬ。そういうような場合にこれをやめてしまうというようなことははなはだ遺憾であるので、何とか
運営会の方で醵出できないものだろうか、こんなようなことも
考えておりまするで、衆知を集めまして、いよいよ
基礎が確実であり、これだけは使っていいということに相なりまするならば、その方向に向って支出いたしたいと思っております。
それから非常な
秘密主義をとっておるという
お話でございまするが、これは実は
秘密といえば
秘密でございまして、あまり公表はいたさなかったのであります。実ははなはだ申しにくいことでありまするが、どうも
美術界には、早く申しますと、これに寄りすがろうとする、寄生しようとする、悪い
言葉で申しますならば、たかろうとする者などがございまして、なかなかその申し出をことごとく拒絶するとか、その中で意義あるものを認めて
寄付をするとかというような選択に迷わされる場合が多いのでありまして、これまでもそういうふうにして
寄付を申し込まれまして、
寄付いたしました場合もございますのでありますが、これがいろいろな
方面から
要求がありますると、
運営会もたちかねる。ことに最も有意義な
方面に使うということが妨げられないかというおそれがありまするので、でき得る限り
一般には知られないようにしておきたい。ことに他の
展覧会などは
赤字になっておりまするものが多い際に、
日展だけがこれだけの
黒字になっておるというようなことでありまするというと、いろいろの
要求が出はしないか、こういうようなことを
考えましたので、あまり
世間にこれが広がらないようにという注意はいたしておったのであります。