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河井政府委員 昨年の十二月十三日の本
委員会に出頭いたしまして、
東大寺の旧
境内の
現状変更の問題につきまして
お尋ねをいただいたのであります。その当時、私はまだ
文化財保護委員会の
委員長になったばかりでありまして、実際何も
承知いたしておりませんでした。従いまして、できるだけ調査を急ぎまするとともに、私
自身が
奈良に参りましてその
現地を
視察いたしまして、そうしてかように長きにわたっておりまする難問をできるだけ早く解決いたしたいということを申し上げまして御了解を得まして、そうして今日に至ったわけであります。私といたしましては、もっと早くこのことを処理しなければ相済まぬと
考えておりましたが、それから後に病気をやりましたり、あるいはま予算の編成などということで、だいぶんひどい問題に会いまして、つい延びてしまったのであります。はなはだおくれまして申しわけがないのでありますが、私は去る二月十五日に
現地に参りまして
視察をいたしました。それから二月の二十六日に
文化財専門審議会の
史跡の
部会を開催いたしまして、そうして
答申を得たのであります。次に三月の一日に
運輸、
建設、
宮内庁と
文化財保護委員会の四者の会談をいたしまして、この
事柄についての
経過の
報告と、それから今後の処理について
相談をいたしまして、
結論を得たのであります。それから三月の二日に
文化財保護委員会の会を開きまして、そこでは
専門審議会の
史跡部会で
決定いたしました
専門審議会の
答申を認めまして、そうして
条件付でもって
許可しようということに相なったのであります。その
条件というのはどういうことであるかと申しますと、すでに
委員長のお手元にこの間差し上げてはおきましたが、一応ここにその書類がありますから、ここではっきり読みます。三月三十日に出した
決定書でありまして、「
昭和三十年一月二五日付で
申請の
史跡東大寺旧
境内の
現状変更許可申請書事項変更願(
道路の一部
設計変更)を
文化財保護法(
昭和二五年
法律第二一四号)第八〇条に基く
現状変更許可申請とみなし、下記の
条件を付し同条第一項の規定により
許可する。本
許可に伴い
昭和二九年六月二六日
付地文記第三一七号の指令で
許可した
道路設置のうち、
奈良市雑司町二九四の甲及び二九四の乙から始まり同二一九の一、二一九の二、二一二の三、二一五の甲、二一五の乙を経て、同二一二に至る
部分については、その
許可を取り消す。」、これはダブるわけでありますから、その
許可を取り消すということであります。「なお、
昭和二九年六月二六日
付地文記第三七号の
現状変更許可条件並びに本
条件を履行しなかったときは、
昭和二九年六月二六日
付地文記第三一七号で指令した
許可及び本
許可を取り消すことがあるものとする。」、こういうので、これから申します
条件を付して、
日本肥鉄土開発株式会社社長鍵田という者に通知を出したのであります。その
条件といたしましては、「一、
設計変更に係る
自動車道は、その
取付部分(正
倉院東北隅)から少くとも二〇〇メートルの間は、できるだけ速かに完全に
舗装すること。二、前項の
舗装完成までは、完全な散水を行い、
防塵の実を挙げること。三、本
道路沿いに
防塵に役立つ
植樹等を行うこと。四、
設計変更に係る
自動車道取付部に新設した暗渠及びその
上流排水溝の閉幕を防止する措置を講ずること。五、以上諸
条件の実施に関しては、すべて
奈良県
教育委員会の
指示に従うこと。六、その他、
史跡の
保存に関する
事項については
奈良県
教育委員会の
指示に従うこと。」、この
六つの
条件を付しまして、そして
許可をいたしたのであります。
このことにつきましては、いろいろ問題がたくさんありました。まず第一に申し述べたいのは、正
倉院の
御物、
宝物に関する影響、これはきわめて重大であります。
委員諸君が非常に御心配下さっておられます
事柄も、ひっきょうこれが一番重要な
事柄であると了解いたしております。これにつきましては、
文化財保護委員会の直接の
管理事項ではござりませんから、何といいますか、
意見を述べることはできると思いますが、しかしみずからこれを管理するというような
方法をとることはできません。けれ
ども、あの正
倉院及びその
御物につきまして、塵埃なりあるいは有害な
ガスとでも申しましょうか、その有害な
ガスが、いかに正
倉院並びに
御物に影響するかという点につきましては、これは非常に精密な
試験をいたしておるのでございます。精密な
試験をいたしましたのは、
文化財保護委員会のやったことばかりでなしに、正
倉院におきましては、すでに
昭和二十六年ごろからこのことの
研究をして、そうしてそれぞれ対策を立てておられるのであります。そういうときにあそこの正
倉院に接近いたしまして、北側と西側に
道路を開設する、
許可するということになったのはどういうことになるかという問題であります。そこでいろいろ検討いたしましたが、
空気のよごれる問題、あるいはよごれた
空気がどういうふうに品物に影響するかという問題、また
建物自身に対してもそうでありますが、そういった問題についてはまだ十分なる
結論が出ておりません。従いまして、それは今後引き続いて科学的に
研究をいたしておるのであります。しかながら今までわかりました
結論から申しますると、まずあの内部に収蔵されておるところの国宝的の大切なお
宝物というものは、それは結局蔵の中に収蔵する
方法、その
方法がよろしきを得るならば、従来とほとんど大差はないであろうという
結論が出ております。これは
宮内庁において、ずいぶん苦労をして取り扱われておるのでありますが、その点はまだ今後の
研究もありまするけれ
ども、しかしながら大体においてひどい悪影響はこれまでは起っておらない。またその
方法ならばよかろうというような
結論が、
宮内庁との打合せにおいても出ておるわけであります。
それから次は
肥鉄土を
運搬します、その
運搬と兼ねまして開きました
観光道路、あの
肥鉄土採取の場所から上にのぼった所の地はだがひどく荒れて痛痛しくなっておりまするあの
道路状態、これをいかにして回復するかという問題であります。ことに、この間行ってみ談ずると、遺憾ながらそこに、
許可された
道路でありまするけれ
ども、その
道路の曲りかどが五カ所くらいあったと思いますが、その五カ所くらいで
会社が
肥鉄土を取っておる。これは直ちにわかりましたので、
委員会といたしましてはこれを禁止させまして、そしてそれを整地させるということにいたしたのでありまするが、その整地をするということについて相当疑問があると思いますが、結局ひどく食い込んだ所、それは
つまり乗り切りをいたしまして、表面の整理をして緩斜面にして、そうしてそこにしがらみを組んで、一方は土砂の崩壊を防ぎ、そうして一方はそこに適当な
植樹等をいたしまして土地を安定させる。従って景観を害しないようにするということになっておるのであります。そういう点が
一つ。大体そういうことで、ただいま申しましたような
六つの
条件を
実行いたしましたならば、正
倉院に対して最善の安全な
方法がとられるであろうということを
考えたのであります。
それで実はこういうことをやりますにつきまして、はなはだ遺憾に
考えますのは、こんなに長い間にわたってどうして問題が解決しないかというような点であります。これも、こういうことを申すのははなはだ心苦しいのでありますけれ
ども、やはり
道路について申しますれば
建設省、それからあすこに
観光道路といいますか、
観光バスを通すとかいうことにつきましては
運輸省等との
関係がありまして、遺憾な話でありますが、
文化財保護委員会というより、むしろそういう
方面に
申請を先に出しまして、そうして大体そちらでよかろうというようなことが出て、それがだんだん進行しておるのであります。われわれの
立場からいたしましては、それは実に遺憾千万でありますが、やはりこれは各
官庁はおのおのその
職責を持って、その
職責に基いて
行政処分を行いまする場合において起った現象と見なければならぬのであります。もう一方申しますると、
委員会と、
委員会の
出先機関であるところの
奈良の
教育委員会との連繋な
ども、どうも十分にいっておりません。あるいはまた
奈良県知事との
関係などにしましても、これはこの
史跡の
管理団体でありまするが、どうもうまくいっておらぬというようなことな
ども、あとから出まするけれ
ども、そういう事実がある。従いまして、どうしてもうまくいかない。結局時がおくれる。それからだんだん
既成事実のごときものができてくる。どうもそういうような
状態でありまするから、だんだん
文化財の
保護というものの
理想から申しますと離れるかもしれませんけれ
ども、今日におきましては、
現状を
視察いたしました結果といたしましても、どうもこの
条件を履行していくのほかないだろうということに
考えたのであります。しこうしてその
決定をいたしますにつきましては、これらの
条件につきまして、
文化財の
専門審議会もそれを認め、さらに
運輸、
建設、
宮内庁等ともよく
相談をいたしまして、そうしてかような
結論を得たのであります。従いまして私といたしましては、もうそう延ばすことはできないのでありますから、
さきに申しましたように三月三十日をもちまして、ただいまのような
決定をいたして、そうして
会社はもちろん、他の
官庁、たとえば
運輸、
建設省、
宮内庁、あるいは
奈良県知事及び
奈良の
県教育委員会等に通知いたしまして、そうしてこの
条件の履行ができるように、勧告をするように頼むということをいたしたのであります。これで果して
理想通りにこの問題が解決されるかどうか知りませんけれ
ども、
会社の
社長を呼び出しまして、そうして強く要望を述べ、
会社も
営利主義に片寄らないで、真にこの
日本の大切な
文化財の
保護に力を尽すように、このことを強く要求いたしたのであります。そういうわけでありまするが、むしろ問題は、私としては今後にある、すなわち万一
条件を履行しなかったような場合にはどうするかというようなことも
考えておるわけであります。これまでは、こういう
条件にきまったから、これをどうするかということをよく
相談をしまして、彼らも
誠意を持ちまして何回も――
誠意がなかった事実もありまするが、それだけ一そう厳重に
誠意を要求いたしまして、この
実行を期しておるわけなんであります。
大体私の申し上げますことはその程度であります。何日にどうというようなことにつきましては、
書面がありますから、
書面によってでもお答えするほかありませんが、どうか私は
皆さん方から、ほんとうに各
方面の有益な御
意見を伺いたいと思います。そうしてこれから私
どもがこの問題を処理していくばかりでなしに、その他の問題に臨みましても、正しい道を勇気を持って貫いていけるような、
一つ御鞭撻、御
指示を切にお願いしたいのでございます。どうぞ
一つよろしくお願いいたします。