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野間参考人 昨晩電話で連絡がありましたのは夕刻でありますが、資料を拝見したのは八時過ぎでありまして、大事な御用でありますから、すべてはしょってごく要点だけ拝見したわけです。われわれ根が学究でありますから、ゆっくり研究さしていただくと何か少しまとまった
意見を書いて差し上げられると思うのでありますが、非常に急でありまして、最近そういう
仕事から少し遠ざかっておりますので、
意見ということよりもむしろ
質問がしたいくらいに思っておるのでありますが、
質問の余地もないようでありますので、ざっと拝見して私が長年この
土地改良、
水関係の問題を勉強しておりますので、そういうことから
一つの見通しといいますか、
問題点といいますか、そんなことを出してみようと思います。
法案としては
土地改良法の一部
改正の
法案と、それから
特定土地改良工事特別会計法案、二つが審議に乗っておると思いますが、それと
農地法との
関連というようなことを
電話でちょっと承わりました。学問的に申しますと、
農地法の
体系系列とそれから
土地改良法の
体系系列とは全く違う。どこかで
関連がありますけれども、その
関連の時期はどの辺からかというようなことが問題になると思うのであります。従って全く違うから
農地という
考え方も違うということは、まず
大前提として考えなければならぬと思うのであります。御
承知のように現在
土地改良法でいう
土地改良というのは、昔は
耕地整理法でいう
耕地整理で、まずその
耕地整理法の沿革を申しますと、
明治二十二年の
地租条例の
改正から
地価据え置きの
年限を許可してもらったというようなこと
——これは
交換分合で
整理をしたときに
地価据え置きの
年限を許可してもらったというのが最初でありまして、それから
明治三十年の
土地区画改良にかかる
地価の件という
法律がありまして、
増歩地が免税になったというようなこともある。それから御
承知の
明治三十二年でしたか
耕地整理法ができて、この
耕地整理法は大体
区画整理、
交換分合というようなことに力点を置いていたのでありますが、それでは成果があがらぬ、
増産の実もあがらぬというので
明治四十二年の
根本改正で、同じ
耕地整理法という名前でありますが、実体が非常に変った
法律になった。そしてそれをまた補うために
大正八年の
開墾助成法、それからまた
大正十年の
公有水面埋立法というものができた。こういういきさつで
土地改良の法の
体系はずっとあるわけであります。ただこの
土地改良という言葉が出てきたのは
昭和二十四年の
法律で、その前には
朝鮮の
土地改良令というのでありまして、私は
昭和の初めに「
耕地整理の本質及びその
公共性」という論文を書きまして、それが多分
朝鮮の
土地改良に
影響したと思うのでありますが、名称がそれで出てきた。それから戦後二十四年に、
土地改良法ですっきりする
体系を整えたものが出てきたのが、
土地改良の
法体系系列だと私は見ております。それから
農地法の方は、これまた御
承知のように戦前は
小作立法が非常にやかましくて、それと
自作農創設と並び
立法されたり、
予算措置がとられたりした。それが戦後例の
農地改革で
自作農創設特別措置法ができた、これは二十一年です。それが
改正になりまして、
昭和二十七年の
農地法というふうになっておるわけであります。従って
発展過程から見まして、全く
法律の
体系が違う。その違った
体系から
土地、
田畑というものを見ると、
農地法では
既成の
田畑——熟田熟畑といかぬまでも、
既成の
田畑を対象とする、それから
土地改良関係では、その
既成の
田畑に
区画整理や
交換分合や
地目変換などもしましょうが、ともかく
耕地の
集団化だとか、それからため池を作ったり、
用排水幹線、支線、分水、その他今度
総合開発の
関係とかということでいくのでありますが、要するに、
農地法で言うのは、
農地改革によって、今
加藤先生がお話しになったような、主として
小作地が
自作地に出世したというのであって、従ってその
土地の
評価は、長い間の
耕作をし、ときに深耕をし、堆肥、厩肥をやり、あるいは土壌の酸性を中和したりするというような
土地改良はもちろん入っておりますが、それが
経営、
耕作に付帯されたものとしてずっとなされておって、もし
土地の
評価に減価償却的なものを考えると、かなり元も取っている。それでも
需給関係から
市場価格というものは相当高くて、
地目変換でもすればえらい高いものが出る。
農地改革では
坪当り数円もしたと思うものが、現在は
地目変換をすれば
地目変換後は一万円にもはね上るというようなのが
農地及びその
地目変換後の
価格変動であります。
土地改良の場合の
土地、特に
開拓それから
干拓というような場合は
造成に非常に
工事費がかかる。反当十万で上ることがあるかもしれぬが、二十万かかることがあるかもしれぬ、もっとかかることがあるかもしれぬ。あるいは
総合開発で、多
目的ダムで
一緒に
仕事をやれば、
負担金は
収益性を
考慮して安くするから、何とか採算は合うかもしれぬが、同時に
田畑の
造成をやりますととてもお金がかかる。かりに二十万円かかり、
金利等を
計算しますと坪七百円かかる。それから今の
農地改革の
買い上げ値段が一万二千円ということでありますが、坪は四十円くらいです。だからまるで
値段が違うということがわかるのであります。要するに、新しく
造成される
田畑は、
素地価格に
土地改良資本というものが二十万なら二十万かかる。
素地価格はかりに五、六千円から一万足らずであっても、
土地改良資本というものをうんとぶち込まなければならぬ。たまたま
土地改良資本の大部分を国が背負ったり、
地方公共団体が背負ったりしたということで
地元負担が軽くなる。この
法案のどこかを見ておりますと、三十一年度までのとそれから三十二年度からのと別途に考えておるようでありますが、とにかく三十一年度までの
仕事は
地元負担が反当一万円ですか、それから三十二年度からのやつは反当二割で、二十万かかるとして四万、そういうふうな
計算を立てておるようであります。それとそれから
農地の
買収、
売り渡し価格とに非常な
開きがあるわけです。しかし片方の同じ
土地で
田畑になったとしても、もとが違う、性格が違うということがはっきり言えると思います。まだ
あと参考人の御
意見もあるようでありますから、一々こまかく
要綱を一一私は
要綱はちょっと拝見しただけでありますが、その
要綱についてもここで一々申す間がないと思うので、
電話で承わった、つまり
農地法と
土地改良法との
関連という問題と、それから
干拓の場合に今の二割の
負担で四万円というようなものが
土地所有権取得価格だとすると、
農地法の
値段と大
へん開きがあるというのが問題だというようなことを承わりましたので、なるほどそれはそれに違いない、それはものが違うからということはまず
大前提として考えなければならぬ、ただ結果におきましては
農民の
負担能力の問題であります。
農民の
負担能力としましては、政策的には現在いわゆる次三男問題、これはやはり
農村に実在する問題で、
幾ら相続法が
改正になりまして
分割相続といっても、結局実際問題としましては、分割すれば
農村がつぶれるので、
単独相続であるということになるので、それで主として長男が
あと継ぎになるから次三男問題はやはり大きな問題であります。現在の
相続法改正にかかわらず、依然として現実には重大な問題であるということ、その
行き先生計の立て方ということはどうしても考えなければならず、
食糧増産も、それで自給ができるということは不可能であるとしましても、つぶれ地もどんどんふえることだしするから、やはり
田畑の
造成をして、
食糧増産はできないまでも、
生産力の
維持というこの
最低線だけは
農林当局としてできるだけ努力しなければならぬ。そうなりますと、やはり
開墾、
干拓というような
開拓事業は大事であります。御
承知のように、
林野開発、
山林開放といいましても、
農地法で
未墾地を
買収したり
売り渡ししたりするというようなこともうたってありますから、それもしなければならぬが、どちらかというと、つまり
未墾地の
買収、
売り渡しはこれは
農地法でもかまわぬけれども、しかし
未墾地を
開墾して
田畑にするということは、これは
土地改良事業であります。そうしてその
土地改良事業には非常に金がかかります。昔の例でいうと、国が五割
負担、地方庁が三割
負担、
地元負担が二割で、おそらくこれもそんなふうになっておるんじゃないかと思いますが、そんなふうにいくと一応の
基準になります。そうして
土地改良をした
田畑の
価格はどう押えるかというと、
投下資本から言うと、
素地価格プラス土地改良資本でありますが、
農民に売り渡す場合にはそれを入れては大
へんだから、従って
助成金は差し引く、かりに八割の
助成金を差し引くと二割の
地元負担金が全部
購入資金に切りかわり、
負担金二割で
土地が買えることになる、熟していないまでも新しい
土地を買うにはそれが理屈から言えば相当だ、決して高くないということは言えるのでありますが、かりに今の反当四万円という
値段が出ると、これはもう
一つひっくり返して言うと、
農民の
負担力はどうか。
負担力という問題になりますと、これははなはだむずかしい問題でありまして、かりに反当十万円の
工事費で上ったところが
生産力は少くて、二十万円かければその倍だけ
生産力があるというならばまた別でありますが、十万円かけたところが案外反当三石も取れたり、二十万円かけて一石か一石何ぼしか取れぬということはあり得る。だから今の審議過程では無理な注文かもしれませんが、どっかでプールして、そうして
農民の
負担力も考えたり、賦課金といいますか、
負担金を
所有権取得の代償にするというようなことが考えられていい。しかしコストと
生産力が必ずしも一致しないから、それを平均化するためにあちこちの午拓
事業等をプール
計算して、
生産力に応じた平均値を
負担金にして
買収単価としたらいい。これは私学究でありますから至って理屈的に考えて言うのでありますが、そこまでこの
法案に御用意がないようであります。しかしどこかで、いつかは修正なり、そういう機構でも立ててなさるといいと思う。ともかくかりに反当四万円の
負担金が
所有権取得の代償になるとしましても、これは
農民にとってはなかなか痛い。反当り三石近くも取れたとして、粗収入が四万円になるかならぬかじゃないですか。私ちょっと
計算がまごつくかもしれませんが、とにかく粗収入が低い、いわんや収益率が低い。租税の恩典は相当期間あるでありましょうが、とにかくそれに労力をぶち込み、肥料をぶち込む。当分は肥料が要らぬということもありましょうが、とにかく労力をぶち込む。その労力を均衡理論で考えていこうものなら、
経営は赤字が出ると思うのであります。そういった点も、またしかし大蔵当局の財政上のやりくりもありましょうし、御当局としてはなかなか御苦心のところだろうと思います。思いますが、今のプール
計算で少しくずして平均値を出すとかやる。あるいはもう
一つは利子補給の制度でも立てたらよほど
負担力相応という点が出るのじゃないか。というのは、
農地法の
売り渡し価格より高いとして、それが
農民の
負担能力をオーバーするようではたまらない。そうすると、この建設費は国費で相当部分出して、それから地元と地方団体の
負担金を借入金でやるんだとなると、その利息がつくわけですが、その利息がもし高いものであるとなかなか容易でないと思うのです。これは皆さんのお力で何か知恵が実際出て大蔵当局とも話し合いがつくといいなと、私は外部から見てそう思うのであります。できる、できぬは私どもにはわかりませんが。利子補給は何でも占領政策後非常にきらわれておるということでありますが、戦前は利子補給をやって、たとえば
耕地整理なんかでは支払い期間が六十年四十年くらいがあります。三十年くらいは珍しくない。そして金利はたしか三分以下だったと思う。そういう問題がありますから、この際利子補給を相当に考えないといけないのじゃないか。つまり相当な延滞を食うんじゃないか。要するにもう
体系系列が
農地法と
土地改良法では違う。それはいつ結ぶかというと、その点がこの
法案要綱などを拝見しているとわからないのであります。
公有水面を
埋め立てる場合に、
竣工認可か通知というのか、あるいは工事が完了して
所有権をかりに条件付で譲渡して、あとまだまだ
——干拓の場合は
交換分合はあまり要らぬし、金銭清算等いわゆる
耕地整理のようなめんどうくささはないから、
事業の終了は割合早いかもしれませんが、それにしても工事完了をした
事業が、そういう
計算がつくまで、あるいはその
負担金の完済がなされる間は仮の権利というか仮の
所有権が与えられるんだ、それも原始的に与えられると考えるか、あるいはやはり公有が私
所有権に変るから移転的に移るんだというような見方でもいいのでありますが、とにかく工事完了でもし
所有権収得が打ち出されたとして、それですぐ今度は
農地法の適用だ
——それは権利の制限とか調整とか、もし小作に付したならその場合の
小作料の統制とか、そういうことはあるいは
農地法の適用が重なってもいいかもしれませんが、
土地の
評価とか
負担とかいうような面では、長い目で
土地改良法の恩典が乗っかって続いておるような仕組みの方がいいんじゃないか。つまり過渡的には
農地法と
土地改良法が重なる。かりに工事完了で
負担金を
負担する予定者が
所有権をはっきりもらった、もらったら今度は
農地法の適用があるんだ、それでもいいかもしれませんが、あるいはそれとも条件付にして、一部適用があるが一部は
土地改良法が残っておるのだ、完済されるまで残っておるのだという行き方でもいいのじゃないか、そうすると、農林省としてもいろいろな手の打ち方があるのではないか、要するに、人口増加、二、三男問題それから
食糧増産ないし生産の
維持ということは絶対必須の宿命的な課題でありますから、何とか
開墾をし、埋立
干拓をしなければならぬ。埋立
干拓の方が割方成功率はよいと私思うのでありまして、八郎潟にしても児島湾にしても有明海なんかもまだずいぶんできるし、それから東京湾の埋立
干拓をやったらまだまだずいぶんできます。千葉方面の
干拓なんかまだまだかなりできると思う。
干拓地は相当土壌が肥えておりますので、
生産力は高い。それから抜根等のああいう作業がないので、
工事費はかかるかもしれませんが、入植及び生産を上げるという点のスピードは早いというような点があるので、できるだけ国家の要請としては、少し問題の残った
法律でもできた方がいいという結論だけは申し上げられると思います。ただ私も研究不足でありますから、今のぞいた程度では別系列だから別な
考え方でおることが第一だという前提と、それから、それがどこかで結びつくその時期をいつにするか、あるいはその調整をいつにすべきかという問題が残る。それから
土地改良資本マイナス助成費すなわち
負担金だけを
土地改良法による
田畑価格とみなしてもなおかつ
農民の
負担力は相当大きいというので、この点の
考慮がどの程度になされておるか、あるいは調整がどんな方式であるかということについて、私今わかりませんが、私の考えとしては、プール
計算みたいなことやら利子補給みたいなことやら、何か出てくるといいなと思うので、それができておるかどうかは存じません。従って、仮定の議論に立っておるのでありまして、できればどこかでゆっくり
質問でもした上でと思っておったのでありますが、入るなりの御審議でありますので、はなはだ雑でありますけれども、全体としては、国家的要請としては好ましい
立法である、それから
農民の
負担力は十分考えていただきたいということで、結論としてはそういうことであります。