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西野公述人 ただいま
紹介を受けました
西野でございます。
私は主として
産業界を代表してということでございましたが、日ごろ
考えておりますところの問題につきまして、全般的な問題よりも、今回の
所得税並びに
法人税の一部
改正に関する
法律案、特に
租税特別措置法に関しての
意見を少しばかり重点的に述べさせていただきたいと思うのであります。
意見を述べるに先だちまして、今回
臨時税制調査会の
答申に基きまして、千億
減税なるものが今回の
所得税法改正によって盛られておることに対しまして、まず全般的に賛意を表する次第であります。しかしながら
税負担の公平ということが、この
臨時税制調査会を貫いておる精神でありましたことからでありましょうが、そのために
企業の
資本貯蓄の促進のための
措置が、かえって今回の
改正によって後退をしたということは、まことに遺憾と存ずるのであります。たとえば
価格変動準備金、
貸し倒れ準備金の
限度額を下げたというようなことのごときは、まことに私は遺憾と存ずるものでございます。
最近におきまして、わが国の
経済の発展は目ざましいものがありますので、これらの
制度が創設された当時とは、かなり
情勢が変っておるということを、今回の
提案理由の中にも書いておりますけれども、今
高木先生からもお話がありましたように、私はこの
臨時税制調査会が審議されましたころの
日本の
経済情勢と今日の
情勢とは、かなりな変化を来たしておると思っておるのであります。従ってその見方におきまして、最近は御
承知の
通りに、
産業界は
神武景気などと称しまして、非常に
景気をあおられておりますけれども、
企業自体の実態をながめてみますと、
企業がそれ自身において
資本の蓄積が促進され、
資本構成の是正がなされておるかと申しますと、決してそうでないのであります。表面は、確かに現在われわれの属しております仕事は多忙でございます。そして一年、二年の
受注量を持っておりますけれども、そのために御
承知の
通りに、
設備投資が非常に促進されつつありますけれども、これらの
設備投資をいかにするかということが、今日大きな財界の問題になり、これに対する
設備投資資金の不足を感じ、金融は昨年末来非常な緊迫を生じておりますことは、
皆さんも御
承知の
通りでございます。われわれはかくあることを知りまして、この一、二年来
企業の
資本蓄積、
国民の貯蓄奨励と申しましょうか、
資本蓄積の重要性をしばしば論じて参ったのであります。オーバー・ボローイングの指標になっておりますところの固定資産に対する自己
資本の
割合、いわゆる固定比率と申しておりますが、これなどをながめてみましても、二十六年の下期は一一四でございましたのが、三十年下期には一三八%となって、
日本銀行の調査によりますと、戦後最悪の状況を示しておると述べておるのであります。と申しますことは、三八%は、これは設備を自己
資本だけでは足らないで、借金によって調弁しておるということの事実を示しておるのであります。
戦前のわが国は、九二%というりっぱな比率を示しておったのであります。アメリカは一九五五年には、八三%という比率を示しております。しかもなお最近の
情勢は、
設備投資のために、自己
資本の力ではとても及びませんので、借入金に依存しておりまして、この比率はますます悪化しておると思うのであります。
資本構成の是正ということが、戦後しばしばわれわれの口から叫ばれましたけれども、これらのことも、今日におきましては、全くから念仏となって参りまして、二十八年以降ますますこれが悪化いたしておりまして、三十年の下期のごときは、これまた日銀が調査を始めてからの戦後最悪の状況を示しておると申しておるのであります。現在では、皆様も御
承知の
通りに、三十年下期は自己
資本比率は三八%に低下しておるのでありまして、
戦前の六六%を
考えますと、ますますこれは雲泥の差があると申さなければならないのであります。戦後十年を経過いたしまして、
企業の実態は少しもよくなっておらないのでありまして、それは
日本経済の
拡大、
企業の
拡大は全く借入金への依存によって膨張しておると言っても過言でないのであります。
最近新しい
資本主義のあり方というものが、しばしばわれわれの中からも論ぜられておりますが、そのあり方は、
景気の変動の幅を極力少くするということにあると申されておるのであります。ところがわが国の
経済政策、特に
税制政策は、この新しい
資本主義の方向に対して逆行しているのではないかと私は思うのであります。今日のように
企業の
景気がいい、そしてどうしても設備を拡張しなければならないということに対して、それはどうしても国家的要請のためにしなければならないものを、
企業は自己
資本によって、
資本の蓄積によって過去においてできなくして、
租税措置によってだけではどうしてもできないので、借金によってこの
拡大をしておるのであります。その結果、金利の
負担は非常なものになりつつあるのでありまして、もしこれが不
景気になりましたならば、いかなることになるだろうか。借金が多くなって、
企業は非常に危険な
状態にあるが、
景気のいいときは、それらの問題は上に浮かばずして、何とかやって参りますけれども、一たん不
景気になったときには、必ずそれを加速度的に悪化せしめることは当然であります。一九二九年の世界大恐慌のとき、この問題がアメリカにおいて最も大きく露呈した事実をわれわれは知るのでありまして、今日の
経済政策といたしまして、この点は最も
考えていただかなければならぬと思うのであります。日銀の経営分析の数字を拾ってみますと、三十年の上下の一年間をとってみますと、わが国の、金融機関を除いた主要
企業五百四十社の営業利益は、三千七百億円でありますが、そのうちに金利が入っておりますか、その金利
負担が千七百八十六億あるのであります。それを差し引いた千九百十四億円というのが、いわゆる純利益であります。公表されている純利益は、
企業が
負担しておりますところの金利
負担とほぼ同額、きわめて近似の数字を示しておるのであります。この千九百十四億のうちから税金を払い、大体金利相当の配当金を支払いますから、支払った金が千五百億、それを引きますと、残ったものは二、三百億でありますから、きわめてわずかの、三百億か四百億近くの金しか社内留保ができていないのであります。これらの事実を見まして、これらの資金で、どうして今日の要請であるところの技術の革新と申される
設備投資ができるでありましょうか。一九五三年の十一月、ナショナル・シティ・バンクがアメリカの戦後八ヵ年間の
資本的
支出の総額を発表しておりますが、その
支出千五百億ドルの
資本の
源泉に対しまして九百六十億ドル、六四%というもの、これが減価償却を含む社内留保によって用を弁じておるのであります。一八%が短期の借入金、一二%が社債等による長期の借入金によっておるのでありまして、株式によるものがわずか六%、こういう比率を示しております。また西独のごときは、しばしばわれわれが口にすることでありますが、絶対に
設備投資に対しましては、減価償却など社内留保によってなされておる事実は、われわれがしばしば聞き、また見るところであります。特に一九五四年の鉱工業八百六十社の設備資金を見ますと、五十億ドイツ・マルクございますが、そのうち自己金融、つまり減価償却など社内留保によって五十億ドイツ・マルクを支弁しておりますから、
設備投資に対しては何らの借金もせずしてやっておる。最近においても、西独はかくのごとき
状態でありますので、わが国の実態は今申しましたようなことでございまして、まことに嘆かわしい
状態であるのでございますが、これらに対して、今回の
特別措置など一覧いたしますと、特別の考慮が払われておらないばかりでなく、むしろ悪化しておるということに対して、私は非常に遺憾の意を表しなければならぬのであります。先ほど
高木先生からも、
自然増収の点が大きくお話がありましたけれども、私も同様に、現在のような好
景気のもとにおいては、予想以上の
自然増収があるかと思うのであります。これらの
自然増収は、無論いろいろな意味において出てくるものでございますけれども、これらのある部分は、これは法人に返すべきである、
企業に返して、
企業がそれ自身の蓄積によって、次に来たるべきところの設備の
拡大の資金に投ずべきであって、これをできるようにしていただきたいというのが、われわれの叫びであります。そのためには、われわれ
経済同友会、あるいは
経済団体連
合会において最近その必要を痛感しておりますことは、技術革新に対する新減価償却
制度の提唱でございます。これにつきましては幾つかの
考え方がございますが、
一つは陳腐化資産に対するところの処置でございます。御
承知の
通りに、わが国におきますところの設備は、戦時あるいは戦後、これに対して特別の処置が行われないために非常におくれております。最近ここ四、五年来におきまして、これではいけない、世界の
経済に立ちおくれる、またいわゆるプロダクティヴィティの
上昇ということに対して立ちおくれるから、設備の革新をやらなければならないという声が大きくなりまして、それぞれの
企業が立ち上ったのであります。それがために、この近年において
設備投資の金が非常に大きく要っているのであります。これらのものに対する資金は、全部借金によってやらなければならない。これは一時的にはやむを得ない。しかしこの借金を必ず適当な時期に返せるような
税法処置がなければ、ますます
企業が困難な地位に陥る。また何年か後の不
景気のために、大きな
経済恐慌を起す原因となるのじゃないかと思うのであります。
経済企画庁その他の調査によりますと、わが国の工作機械をとりましても、十年未満のものは二九・三%であります。十年以上のものが七〇%を占めておるという
状態であります。これを最近われわれの会社でも、あるいは日立その他の会社においても、調査いたしましたところによりますと、工作機械の
経済的寿命は十一年ということになっております。これの計算
基礎もございますが、旋盤のようなものをとりましても、昭和五年に一のものが、昭和三十年に一三に
経済的能率が上っておるのであります。そうしますと、年に五〇%くらい旋盤の能率が上ってきておる。これを計算いたしまして、
経済的耐用年数を計算いたしますと、大体十一年になります。この十一年は、ちょうどアメリカが現在工作機械などにとっておりますところの耐用年数が十二年でありますから、大体合うのであります。いいますならば、現在わが国の減価償却
制度においては五割低いということが言えるのであります。これはいろいろの統計がございますが、時間がございませんので、これを述べることを差し控えますけれども、少くともこの陳腐化資産に対する特別な処置をこの際とっていただきたい。これに対しましての案といたしましては、今回まだ細則がきまっておらないようでありますけれども。五〇%特別償却
制度というのが
現行ございますが、これを適用しまして、私は五割償却の
制度を陳腐化資産に対してとっていただきたいと思う。これは、先日も電気機械工業会からその旨を国会その他に陳情しておりますが、昭和二十一年一月以前に取得した
企業の陳腐の資産に対しては、この五〇%償却というものをとっていただきたいということであります。むろんこれは税の金額の限度もありますから、一ぺんに大きく陳腐化資産の償却をすることは困難でありましょうから、一定の限度を置くことはやむを得ないと存ずるのであります。
さらに大きく主張いたしたいことは、新規設備に対する処置でございます。技術革新の今日におきまして、設備の更新は、近代化を促進するために最も重大なことでありまして、西独におきましても、アメリカにおきましても、先ほど申し上げましたように、この減価償却
制度の革新においてこそ、アメリカあるいは西独その他西欧諸国の
企業の近代化が著しく促進されておるのであります。従いまして、私は今後の新規設備に対する処置といたしましては、任意償却
制度というものをここに
提案いたしたいのであります。
企業の任意によって、業種、機種の制限を設けずに、一定の限度、これも一年、二年ということになりますと、あまりに短かく相なりますので、少くとも五年くらいを限度といたしまして、
企業が任意に今度この設備を償却いたしたいという届出をするならば、それに対する特別償却
制度を認めていただきたいのであります。むろんこれに対しましては、不要不急のものや、不必要な設備に対しましては例外を設けますことは当然のことでございますけれども、こうすることによって、金融機関におきましても、今日のように設備の近代化を促進するに必要とする資金は、五年なら五年、七年なら七年の間には必ず返るという見通しがつきますから、これに対しましては金融も楽になります。一時
設備投資がふくらみましても、これが必ず戻ります。これが今のように十七年とか二十年とかいうような長期の設備減価償却の
制度でありますならば、その資金はいつになったら返るかわからない。そのうちにまた技術革新が回ってくる。それでは、
企業はいつまでたっても働けど働けど借金に追い回されて、その金利に追い回される。それがやがて
日本の
経済の復興、並びに
日本が今後東南アジアその他におけるところの工業先進国として働いていき、またその指導国となって、これらに対する需要を充たしていかなければならないときにおきまして、コスト高のために西欧諸国やアメリカに必ずその戦いにおいて負けたければならぬという実体がくるのであります。金利の
負担は非常なものでありまして、これが今日のような
状態に放置されるならば、それがますます増大する。しかもそれのみではなくて、その借入金の
状態が恐慌を引き起すところの原因になり、
資本主義の最も悪いところの
景気の変動の幅を促進するというような実態を来たすということは、まことに今日の
経済政策として願うべきことではないと私は思うのでありますので、いろいろなときの処置、特別処置その他に対して問題がございましょうが、減価償却に対して
思い切った処置をおとりになることを希望するのであります。しかもこの減価償却というものは、私から申し上げるまでもなく
減税ではございません。納税の繰り延べであります。一たん償却が全部終りますならば、それが働いてもうかった収益は、その次に全額
所得となって現われてくることは当然のことであります。従って、そのときにおいてまた税金として、何年か先には全額それが収益として現われてき、それが
課税の対象になってくるのでありますから、決して減価償却というものは、いわゆる重要産業その他に対する恩恵的な
減税ではないのでありまして、どこまでもこれは繰り延べであります。この点については、十分に
皆さんも認識を新たにしていただきたいのでありまして、私の強調いたしますところの、今後原子力、あるいはオートメーションとか、あるいはその他の化学工業の近代化のために必要とするところの設備資金に対しては、今申しました任意償却
制度というものを提唱いたしたいのであります。これは、私の
提案ばかりでございませんで、アメリカにおいては現在航空機工業、原子力工業、あるいは電子工業のような、あるいは軍需産業のような特殊の工業に対しては、すでにこの
制度のものが多いのですけれども、戦時中から戦後にも採用されたのでありまして、その結果先ほど申したように、
設備投資の七〇%、八〇%というものが、そうした減価償却その他の資金によって、あの大きな戦後の
拡大を促進しておるという事実をわれわれは知りましたときにおいて、最もこの
制度を
提案いたしたいのであります。
その次に、ちょっと簡単に申し添えたいのは、今回の中小
企業における再評価の問題でありますが、これは、今回中小
企業の育成のために、再評価を第四次と申しますか、三次の手直しと申しますか、採択されたことについては、まことに私も賛意を表するものでありますが、中小
企業は、御
承知の
通りにその数は非常に多うございまして、これを実施し、ほんとうに中小
企業の育成のためにこのことをおやりになると言われるならば、きわめて簡単な手続によって、この再評価を実施していただきたいと思うのであります。たとえば簡単な届出
制度にし、それについて各地の税務署の受け取りの捺印をしたらもうそれでよろしい。中身が少々違っておっても
あとで修正し、めんどうを見てやるというくらいの、きわめて簡便なる処置によってやっていただきたい。できれば、全部の中小
企業がそれに応じられるような
制度、私は気持といたしましては、強制に近いようなやり方で全体の再評価をやらしていただきたい。それが事務的に混雑ならば、今申します届出
制度のようなことで強制にかえるということにしてほしいと思っておるのであります。従って、そうした場合におきましては、これを促進するためには、きわめてわずかな税金でございますので、これら再評価税に対しては、無税にしても大した問題ではないのでありまして、大
企業とのバランスという問題も出てくるでありましょうが、それに対する
課税は、公平というようなことは除外いたしまして、きわめてわずかな税金で済むと思うのでありますから、これは再評価税を無税として、できるだけ中小
企業が減価償却を実施できるような処置にしていただきたいと思うのであります。
ちょっと申し忘れましたけれども、先ほど申し上げました特別償却
制度に対しましては、現在法律においてあるじゃないかということを言われますが、これの運用がきわめていろいろな機種、非常にむずかしいことでしぼっておりますために、実施が非常に少いということであります。その事実は、先日大蔵
委員会に
税制調査会から配られました
特別措置による
減収見込み額の表を見ましても、平年度における
減収見込み額は二十五億ほかないのであります。一千億以上の数字があげられております中にも、わずかに特別償却に対して
減税の
見込み額というのは二十五億であります。それらは異常危険準備金とか、渇水準備金というような、きわめて特殊な産業に適用されるような平年度
減収見込み額とやや似た
——二十億という数字になっておりますが、そんな数字に似ている数字でありまして、いかにこの特別償却
制度というものが、いろいろなワク内に入ってむずかしい業種にしぼり、機械にしぼっておるためにこれが適用がされておらないかということを、この際私は特に
皆さんに申し上げて、特別減価償却
制度、五割増し特別償却
制度がもっと大幅に、私が申しましたような陳腐化資産並びに今後の新規設備に対する任意償却
制度などの適用にこれをはめていただきたいと思うのであります。
時間が参りましたので、私の
公述はこの辺でやめさせていただきたいと
思いますが、要するに、どうか
企業の実態が
神武景気その他のことによってきわめて表面だけがから回りすることなく、今日の
景気におけるところの
自然増収は、これを一部を法人に返していただきたい。そうして法人は、それを
自分の蓄積資金として設備の更新に使って、次の収益のために平均的にしていきたい。国がこれを全部吸い上げることのみが必ずしも
日本経済の発展のためでない。われわれ経営者にそれを
設備投資のために、技術革新のために用いさせていただきたいということを最後に申し上げまして、私の
公述を終りたいと
思います。