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山際参考人 ただいま御指摘のごとく、本年に入りましてから、三月に第一回、しかして五月に入りまして第二回と、引き続き
公定割引歩合の
引き上げをいたしました。この
根本の原因は、その際、私はできるだけ周知に努めたつもりでございますが、要するに、本年に入りまして
国際収支の状況が思わしくない
情勢を続けておるのでございます。
日本の
経済界は、御
承知の
通り、一両年来好調を続けて参っておるのでありますけれども、
日本経済の健全な発展の
根拠には、
国際収支の均衡が保持せら、れその健全さが維持されるということが
基本前提であるべきことは申すまでもないと思うのであります。さような場合において、
国際収支の動向が思わしくないということは、これまことに
金融政策といたしましては、基本的にものを
考えねばならぬ
段階にきておるという判断をいたすわけでございます。そのもとは、御
承知の
通り、輸出も引き続き好調を保ってはおりますけれそも、何分にも輸入がさらにそれを上回って増大しつつある、その結果として、
国際収支が逆調となり、外資が減少しつつあるということに相なっておるわけでございます。
しからば、何ゆえに輸出の増大を上回ってさらに輸入が継続されつつあるかという点でございますが、いろいろこれを研究いたしますと、われわれの判断といたしましては、相続く投資需要の増大というのが基本になりまして、各種の原材料物資の輸入が非常に増大して参っておるということに帰着いたすと思うのであります。もちろんわが国の
経済の基盤を
拡大し、その設備等を合理化し、近代化し、
かくて雇用も増大をして、
経済の繁栄を続けるということはまことに望ましいことでありまして、われわれのこいねがうところの基本はそこにあるのでありますけれども、これが行き過ぎますと、俗にいう元も子もなくなると申しましょうか、基本を破壊する、
かくては、一時、表面的には非常な
経済の発展が持続されておるような形をとりましても、いつかはそれは
根本から破壊されて、国民が非常に苦しむという
事態が
考えられるわけでございます。そこで、われわれといたしましては、できるだけこの
経済活動の活況を継続的に、適度に長く維持するということを政策の基本に置くべきではないか、かように
考えるわけでございます。かような見地からいたしますと、投資需要——投資需要と申しますれば、
設備投資もございますし、またいわゆる在庫投資もございますが、これらが国民の蓄積の範囲を越えて、あまり急激に増大をいたしますことは、今申し上げました
経済の基盤を危うくするという
考え方でございますので、これを
金融政策の面からいたしますと、適度に調節を加うべき
段階にきておる、かように判断をいたしたわけでございます。
しかして、三月二十日に実行いたしました第一回の公定歩合の場合は、御
承知の
通り、
日本の金利水準は、国際的に見ましてすでにもう相当高い水準にあるのでございます。相なるべくは、金利の水準をさらにさらに高くするという
方法によらずして、しこうして
金融の調節が、今申し上げましたように、国民の蓄積にかない、
国際収支の均衡を回復するという線で実行できますならば、それは一番望ましいことであると
考えますが、第一回、すなわち三月の公定歩合の改訂は、主として正常
金融と申しますか、健全
金融と申しますか、
金融機関を直接の対象といたしまして、ただいま申し上げました国民蓄積の範囲において
設備投資需要、在庫投資需要等に応じまして、その貸し出しを調節をするという主として健全
金融の要望をもとにいたしまして、その
趣旨において公定歩合の改訂をいたし、
金融のあり方の正常化をはかったわけであります。その結果いわゆる健全
金融の線を守られまして、蓄積の範囲において貸し出しが実行せられ、
かくて
金融が調節されて参りますならば、勢いそれが企
業界にも反映をいたしまして、適度の水準に
経済の発展の速度並びにその規模が維持されるもの、かように期待をいたしたわけであります。しかるところ、その後の
情勢を見ますと、第一回にとりました措置だけでは、その後の
情勢は十分改善の徴候を見せて参っておりません。すなわち
国際収支を改善いたしたいという
金融面からの効果も、それほど十分には現われておらず、自然その背後にある、先ほど申し上げました投資需要等も十分には調節されていない。
かくては、
金融機関を主たる対象として
考えました、健全
金融を要望する第一回しの措置だけでは不十分と
考えましたので、そこで今回は、
金融機関はもとより、企
業界並びに一般国民の方々に対しましても
事情を訴えまして、投資の過度の行き過ぎを適当のところに調節をして、長く
経済の活況を維持するという見地から、この
引き上げ措置を講じた次第でございます。
むろんその結果といたしましては、
金融は引き締めに転じまして、ただいま御指摘のごとく、設備拡張、あるいは
商社金融、あるいは
輸入金融等について、その引き締めの
影響が漸次現れて参っておりますことは、その
通りと
考えます。そうなりますと、自然、これまたただいまご指摘のごとく、
市中銀行におきましても、いわゆる
選別融資と申しましょうか、隘路産業、新規産業、その他国民
経済の基幹となるべき方面に対する融資はこれを優先的に
考えまして、俗にいう不急不要、先へ繰り延べ得る部分につきましては、なるべくそれをあと回しにし、また規模の過大なるものにつきましては、これを適度に圧縮をするという措置を漸次とって参っておると思うのであります。
ただいまのお話によりますれば、その結果が勢い
中小企業への
金融上の圧迫となりつつあるのではないかというお話でございますが、この点は、私ども
金融の引き締め措置をとります場合に最も戒心をいたしておる点でございます。私は、むろん
中小企業は、産業構造上
日本経済の最も重要なる部分を占めておるものと
考えておりまするし、また大企業等におきましても、ひっきょう健全なる
中小企業の基盤の上に、相ともに大企業も存立しておるということを漸次自覚をいたして参っておると信ずるものでございます。自然
中小企業の、あるいは技術上の指導であるとか、経営上の指導であるとか、それらの点につきましても、大企業等においても自然理解を増しつつある傾向を私は認めておるわけでございますか、何分にも
中小企業と申しましてもきわめてその種類も多く、またその
内容につきましても千差万別でございます。少くとも健全なる経営、そしてまた十分技術向上等に努力を続けつつある
中小企業に対しましては、私は
金融上におきましても、
中小企業なるがゆえに
金融がついてこないという状況は、まずなくて済んでおるのではないか。これを統計上に見ましても、各種
金融機関の貸し出しの数字上、さようなものに対する
金融は引当伸びておりますし、またそれを土台に、大企業等もまたその成績を上げておるわけでございますから、さような健全なる経営、優秀なる技術を持つ
中小企業に対しましては、これはますます相当のの
金融がついて参っておるのじゃなしかというのであります。何分にも今申し上げました
通り、
中小企業はその
内容において千差万別であり、またその種類もはなはだ多いのでございますから、すべてのものがうまく
金融がついておるということにつきましては、それはそこまでは申し上げかねるかと
考えますが、しかし御
承知の
通り、
中小企業につきましては、特にこれを専門とする
政府金融機関も種々あることでございまするし、あるいは普通銀行等、もしくは信用金庫その他中小
金融機関の
金融上の対象となり得るもの、また特殊の
政府中小
金融機関の対象となり得るものにつきましては、相当これは
金融が進みつつあるものと
考えておるわけでございますが、ひとりこの問題は、申し上げるまでもなく、単に
金融上の問題のみにとどまりませんで、各般の施策が相待ってこの
中小企業が振興せられ、その基盤の上に
経済一般が栄えるという状態こそ望ましいのでありまして、各般の総合施策が要望せられる次第と思うのでございます。かかる
金融引き締め措置が漸次
連鎖反応的に
影響を及ぼして、あるいは将来に大きな蹉跌を
経済界が起すのではなかろうかという御懸念でございますが、私は現在の
段階におきましては、むしろさような
事態を避けまする
意味において、今日この措置をとることが必要であったと思うのでございます。所期のごとくこの効果が浸透いたしまするならば、私は大きな災いを見ることなく、むしろ
経済界を健全にその景況を持続し得るもの、かように
考えておるわけでございます。
今後の見通しはどうかというお尋ねでございますが、むろんこれらの
経済上の問題は、単に国内
情勢のみで
決定せらるべきものでもなく、
日本のごとく対外
経済情勢に作用せられやすい脆弱な
経済の上におきましては、その対外
経済関係も種々考慮する必要があろうかと思うのでございますけれども、私は全体として判断をいたしますると、これこそわれわれが今後この判断を十分に突き詰めて、いかに努力をするかということに将来の見通しがかかると思うのでございます。もしわれわれが真にこの現在
日本の
経済が置かれておる立場を十分に認識をいたし、これを十分納得いたしまして、企業家も今の旺盛な投資需要を
経済力に合うところの
段階において、あるいはこれを縮小し、繰り延べをする。また消費者大衆におきましても、現在推進をいたしつつ去りまする国民貯蓄推進の運動にこぞって参加せられまして、少しでも蓄積を多くする。かような蓄積を増加し、また
経済拡大の歩を適度にその限度に調節していくということに成功をおさめまするならば、私は
日本経済の将来は明るいと思うのでありますし、またわれわれは努力によってこれを明るくせねばならぬ、かように
考えておるのでございます。なかなか現在だけの措置、または現在現われておりまする状況だけで、もう前途は安心だとは私は申し切れぬと思います。むろんこれは努力を要することではございまするけれども、長い
日本経済の安定的な発展のために、この際われわれは一たび全局にもう一ぺん目を注ぎ変えまして、そうして協力をいたしまして、この
経済の適度の調節による永続的な繁栄ということを、一致いたしまして努力いたすべきものと
考えておる次第でございます。