○
有馬(輝)
委員 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
所得税法の一部を
改正する
法律案、
法人税法の一部を
改正する
法律案並びに
租税特別措置法案に対しまして、きわめて簡単に骨子だけを述べまして、反対の討論をいたさんとするものであります。
この三
法律案に対する反対
理由を明らかにする際、まず申し述べなければならないことは、
政府は一千億減税を呼号いたしておりまするけれども、
租税体系を論ずるに当って、その前提となる
国民所得の把握に対する
政府の
考え方について、一言せざるを得ないのであります。かつて昭和三十年度の予算補正が行われます際に、百億前後の修正要求に対しまして、自然増収がさほど見込まれないというようなことで、反対されたことは記憶に新しいのでありまするけれども、その後この
大蔵省の
考え方と大きく食い違いができまして、千億の増収があったことは明らかであります。このような見込み違いが本年度再びないという断言はできないのであります。
政府は、昭和三十二年度の
租税の自然増収を二千億と見ておりまするが、これは昨年十一月の
所得の増加を基礎とするものであって、その後も続いております順調な経済規模の拡大、
国民所得の増加を考慮いたしますならば、せんだっても公述人の高木教授が言われておりましたけれども、約二千五百億をこえるのではないかということさえいわれておるのであります。
政府は、その出発点において、すでにこのような大きな誤算を犯しておるのであります。
さらに
所得税法、
法人税法の内容を検討いたしますと、直接税の大幅減税をうたい、さらに負担の公平、合理化をうたっておりまするが、特に低額
所得者の負担の軽減をはかったということを言あげしておるのでありまするけれども、実はその内容を検討いたしますと、これは羊頭狗肉もはなはだしいものといわざるを得ないのであります。
まず第一に、この
所得税法案は、一千万人の納税者のうち、わずか六%の五十万円以上の高額
所得者に重点を置いた減税である。
法人税法もまた
所得五十万から百万円までの
所得の企業者に対する減税であって、断じて低額のものに対する減税ではないのであります。年収三十六万円の
所得のものが年間八千五百円の減税であるのに対して、五百万円のものは八十二万円の減税であります。これを一万円当りの減税率にしてみますと、前者は一万円につき二百三十七円、後者は一万円につき千六百四十円、同じ一万円でも、高額
所得者は七倍の減税の恩典に浴しているような実態であります。従って運賃値上げ、予想されるところの消費者米価の値上げ等、消費物価が一%以上も上昇すると、低額
所得者に対する減税の効果というものは完全に失われてしまうのであります。納税してない低
所得者六千万人は、減税に無縁であるばかりでなく、この恩典がなくして、物価上昇の被害だけをこうむるような状況に追い込まれて参るのであります。
第二に、
人格なき
社団、
財団に対する
税金攻勢でありますが、これは、ただいま小山
委員から修正案がありましたような形で、ようやくいささか救われるようになって参りましたけれども、やはりこの点についても、多くの問題点を残しておるのであります。
第三に、資産
所得の世帯合算
課税の制度を創設しようとしておることであります。名実ともに家族のものの資産であっても、その世帯主のものであるというような形に
税法ではきめてしまいまして、これは
所得税法第三条の二、実質
課税の
原則を無視するもはなはだしいものといわざるを得ないのであります。
第四に、重要物産の免税制度の不徹底な
改正であります。この免税制度によりまして、たとえば昭和三十年度の二回の決算で、資本金一億以上の大
法人二百五十社は、合計百二十二億の
所得が免税されておるのであります。そうしてこの
改正案では、条件を設けて、総額六十億の免税額を、初年度はわずか十五億ばかり削減しようとするものでありますけれども、このような大資本に奉仕し、低
所得層に対してそのしわよせを行う制度については、早急にその措置が行われなければならないのは当然であります。
次に、
租税特別措置法案について申し上げます。
政府は、わが国経済の最近の目ざましい発展に照らして、この特別措置に対する全面的な再検討の要を認めて、しかも臨時税制調査会も、その廃止もしくは根本的な是正を希望しているにもかかわらず、貯蓄の奨励、輸出の振興、設備の近代化に名をかりまして、利子
所得の免税、配当
所得に対する源泉徴収税率の軽減、これらの措置の二年間の延長、特別償却制度の範囲の拡大はもとより、価格変動準備金、交際費
課税制度の微温的な
改正など、大資本優遇措置の温存と恒久化をはかった今回の措置は、断じてわれわれの容認できないところであります。
今少しく具体的に申し上げますならば、まず第一に、この改廃による税の増徴が過小に過ぎるということであります。すなわち三十二年度においてわずか二百億円、これを平年度化いたしましても三百五十億にすぎないのであります。しかもその中で最も多く斧鉞を加えられたのは、農家、商店などにとって七十九億円の増税を
意味する概算
所得控除の廃止であったり、協同組合
関係の
免税措置に対するきびしい制約であって、ただ大衆に対してだけは念入りな措置が講ぜられておる、こう断ぜざるを得ないのであります。
第二に、免税見込み総額の算定の基礎が過小に過ぎることであります。
政府は、三十二年度見込み免税総額を一千五十一億円に見ておりますけれども、少くとも実体は千五百億をこえておるものと見なければなりません。
第三に、
租税制度上例外的な時限立法たるべきものとして、当初は三年間に限る、こういう趣旨のもとに出発したこの特別措置が、さらに二ヵ年延長され、しかも改廃規模が予想外に小範囲にとどまって不徹底なものであり、この偏向減税の措置が恒久的なものといたしまして、将来長く残される端緒を本年度の措置によって作ったと言っても過言ではないのであります。
第四に、
租税負担の公平をはかるための整理合理化が、この措置によって骨抜きにされたことであります。一方に勤労者は、同じ標準家族で年収二十七万円をこえると
課税されるのに、配当
所得者は、百四十九万円の不労
所得があっても無税だというような大きな矛盾を露呈いたしております。
第五に、重要物産に対する免税は、今回の改廃で一応石炭や金属の一部が除かれ、施設
関係でも一定の限度が
規定されたのでありますけれども、一方では、特別償却の拡充、または全額損金算入というような
税法の
改正によりまして、むしろ今までより大企業を優遇する措置が助長されておるのであります。重要物産免税制度の
改正によりまして、十四億円の増徴を予定しながら、これにかわる特別償却の拡充で十五億円の減収を見込んでおるのであります。
以上今回の
改正の実態は、依然として大企業、大
法人を利益し、かつ利子生活者、配当
所得者等の不労
所得者の擁護をもって貫かれておるのであります。たとい
国民が一時的に一千億の減税ということに幻惑されたといたしましても、このような実態が把握されましたときに、その欺瞞性について激しい憤りを爆発させるであろうことは、あまりにも明らかであります。
最後に当りまして、
政府はわが党の主張をいれて、この低額の
所得者に対して減税の恩恵がくまなく行き渡るような措置を講じられんことを強く要望いたしまして、反対討論といたします。(拍手)