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田辺参考人 日ソ東欧貿易会の専務
理事、
田辺稔であります。本日、当会会員五十六商社の代表といたしまして
日ソ貿易の現況の一端と、私ども業界の要望を申し上げまして、本
委員会における
参考意見としてその責めを果したいと存ずるわけであります。
昨今
日ソ貿易はどうやら
共産圏貿易の中でも中共
貿易と相並びまして国民各層の関心を高めて参ったわけでありますが、その
日ソ貿易に対します関心の変化の一端をまず申し上げてみたいと思うわけでございます。
わが国経済を自立、発展、促進し、民生と福祉を増進するためには、各国との
貿易を伸張することをおいてほかにないということも過言ではございません。なおかつ北海道を初めといたしまして、
日本海沿岸都市の復興と繁栄が
対岸貿易の伸張、なかんづく今や
日ソ貿易の発展と正常化に期待がかけられておりますことも、昨今の
日本海沿岸諸都市の自治体や、地方議会、あるいは地方産業界の一致した要望と行動とにおいても明らかでございます。昨年十月十日石川県七尾市におきまして
対岸貿易漁業促進連絡協議会という組織が発足いたしました。これは北海道の稚内を初めといたしまして、南は長崎に至りますまで
日本海に面しました地方自治体、地方議会の代表、七十六都市を代表するところの者によって組織されこれに地方産業界が協力するという形で、
日本海を一衣帯水とした
対岸諸国すなわち
ソ連、中共あるいは朝鮮、こういう諸国との
貿易及び
漁業の促進をはかりたいという要望が結集された組織が発足したわけでございます。この組織が発足するに至りますまで、その数カ月前の七月には小樽市、秋田市、新潟市、富山市、七尾市、高岡市、敦賀市、舞鶴市の各市長を初めとし、それぞれの地方議会の
議長を発起招請人といたしまして、その母体が作られ、十月にはこの組織が発足し、まさに
対岸貿易に対する
日本海沿岸都市住民の生活の存亡にまでかかわっておる問題であるというふうに、この組織の結成を通じて考えられたわけでございます。過
日ソ連のチフヴィンスキー公使が、当時は臨時大使でありましたが、ハンガルジャン通商代表とともに北陸諸都市を訪問されましたが、この北陸諸都市を訪問された際にも各都市で、
ソ連領事館ないしは通商代表部の出先事務所の
設置であるとか、あるいはナホトカと
日本海沿岸諸都市港湾との定期航路の開設であるとか、そういう具体的な要望を通じて、まさにそれを実現することがそれぞれの港湾の復興にもつながり、またその港湾に
関係のある広範な住民の生活の繁栄にもつながっておるということを具体的に要望しておったというような点でも明らかでございます。この主張を先頭とする
対岸貿易連絡促進協議会は本年は小樽においてこの大会を開き、あるいは
対岸の諸都市とも最も
関係の深いナホトカの市長であるとか、あるいは旧豊原・現在のユジノサハリンスクの市長らを招請し、
日ソ貿易を通じて経済交流の促進と友好親善を深めたいという要望が出されておるという一端にもうかがわれるわけでございます。これと同様に
日本の商工業界におきましても従来にないほど
日ソ貿易に対する関心は高まって参りました。かかる業界の意向に従いまして私どもと友誼的な
関係にございます
日本国際貿易促進協会は昨年の夏以来、もし
日ソ国交を回復された後
政府が一定の
条件を提供してくれるならば、どのくらい
貿易を拡大することができるだろうかという民間のトレード・プランを試算いたしました。この試算の作業に参加しましたのは中央の各種産業、工業団体及び需要家団体四十八の参加を得るとともに、これには
日本鉄鋼連盟を初めとする基本的な産業に
関係する産業団体が含まれておるのでありますが、地方的には関西及び東海地方の業界の意向をもくみ入れて作成されたことは御
承知の
通りでございます。しかもこの産業各団体との共同によって試算いたしましたその作業結果によりまするならば、
日ソ国交を回復し、通商航海条約ないしは
貿易協定が締結され、合理的な
貿易協定か締結されたその第一年度においては、少くとも片道七千五百万米ドルあるいは五年後の将来においては片道一億六千万米ドルの取引の実現も可能であるということを業界の自主的な作業を通じて明らかにしたものでございます。すなわち従来
共産圏貿易と申せば、もっぱら中国
貿易がその代表的なものであったにもかかわらず、
日ソ貿易という分野におきまして、
日本の広範な商工業界は自主的に受け入れる用意のあること、及びその積極的な
態度をも示していることであります。また手前どもの
日ソ東欧貿易会と申します民間の業者団体でございますが、これは一昨年の四月発足いたしましたが、発足当初は
日本の一流商社を含めまして、約実勢力二十数社というところが、実際の会員商社数でございました。ところが昨年末、また本年三月二十日現在の状況におきましても、
日本の一流商社を含めまして、中国
貿易のヴェテラン、専門商社を中核といたしまして、
ソ連貿易専門商社すべてを含めまして、五十六商社を数えるに至っております。こういうような業界の
ソ連貿易に対する関心そのものは、
日ソ貿易が従来日陰者の存在であった、
日本の総合的な
貿易の分野におきましても、その数量はほとんど取るに足りない数量ではございましたが、まさに将来の可能性として、将来の展望の中で、
日本の経済自立、経済繁栄というものに大きく貢献するその根拠を持っておるということを、業界自身の直観によって、またその具体的な作業によって明らかにしたものであろうということを思うわけでございます。これに対しまして、またこういう業界の
一つの集約といたしまして、本年の二月二十七日には、
日ソ貿易協定締結促進全
国会議というのを中央で開催したわけでございますが、これには自民党、
社会党初め各政界の各位、
日本の中央の商工業界、
貿易経済団体、地方自治体、地方議会、三十都道府県、三十五都市、百九団体、及び業者代表の百五十六名が参加いたしまして、具体的な
貿易協定の締結促進に対する要望を表明したわけでございます。こういう状況と相待ちまして、
ソ連側の状況といたしましても、対日経済交流、なかんずく具体的な
貿易問題の発展拡大ということにつきましては、積極的な意欲をうかがうことができるわけでございます。本年東京において国際見本市が開かれるわけでございますが、これには準備の
関係から、
ソ連は参加することができませんでしたが、来年の大阪の国際見本市にはぜひ参加したい、その内定をされた意向も聞いておりますし、もし時間的な余裕があったならば、本年の東京の国際見本市にも参加したい。また
日本の業界の要望の
一つといたしまして、来年開かれる北海道の博覧会にも
ソ連館を
設置して、そうして経済交流の促進と友好親善を高めたいという要望もあげられており、こういうことが
ソ連側に提案されておる。また
ソ連側はこうしたものを検討しようという具体的な意思表示もあるということからうかがいましても、単にその一端ではございますが、
ソ連側の対日経済交流に対する意向の一端がうかがえようかと思うわけであります。さらに具体的には、戦後の
日ソ貿易はわずか年間一千万ドルにも達しないような、きわめて少額なものでございましたが、これはひとえに両国の
国交が回復していなかった事情によるものでございます。しかるに
日ソ国交交渉の第二次モスクワ会談におきましては、当時のシェピーロフ全権が、
日本側の全権に行いました提案によりましても、
ソ連といたしましては、今後膨大な対日需要を考慮していることが明らかになりました。かつ昨年春の
ソ連共産党第二十回党大会におきまして決定された東部
ソ連、すなわちシベリア、極東沿海州地方の
開発によりまして、両国間の取引の増大にも大きな期待がかけられておるという状況でございます。こういう状況と相待ちまして、幸い
日本政府御当局の積極的な御努力によりまして、また
ソ連側
政府の積極的な努力によりまして、
日ソの
国交は回復されました。かつ通商の拡大発展に関する議定書も効力を見るに至りましたことは、何と申しましても、
日ソ貿易の拡大と発展を願望しております
日本の実業界、
日本海沿岸諸都市を先頭とする広範な
日本の国民にとりましては、大いなる喜びといわざるを得ないわけでございます。
しかしながら第三番目に、こういう状況ではございますが、当面やはり
問題点があるわけでございまして、この点について一言触れたいと思うわけでございます。日
ソ国交回復による重要な政治的前提
条件が整えられましたとは申せ、これを具体的にビジネス化する諸
措置は依然講ぜられておりません。従って具体的な
貿易の取引方法は旧来の
共産圏貿易に適用されておりました方法、個別パーター方式ということが原則でございますために、
日ソ貿易は
国交回復前とさしたる発展を示していないというのが現状でございます。
日本の経済自立と発展に大きく貢献し、
日本海沿岸諸都市の復興と繁栄をもたらすであろうと確信しております
日ソ貿易の発展と正常化は、今や全く
日ソ復交の共同宣言第七項に
規定され、あわせて両国の通商発展と拡大に関する議定書の精神にのっとった
日ソ通商航海条約ないしは通商
協定の締結こそが緊急の課題となってきているわけでございます。過
日本通常
国会外務
委員会におきまして、当時の岸臨時首相代理より
日ソ通商
協定を早期に締結したいという御答弁がございました。また先般水田通産大臣がテヴォシャン大使との会談におきましても、同様の
発言がなされました。これはひとえにわれわれ業界の要望を端的に表現し、かつその実現することは、
日本海沿岸諸都市住民の切実なる願いにも一致する問題であり、まさにこれは広範な
日本国民の要望と一致するものであるということを申し上げたいわけでございます。
時間の
関係もございますので、あと若干二、三の点に触れて結びといたしたいわけでございますが、このようにいたしまして、
日ソ貿易に関する正常化と拡大に関する諸
条件は整えられつつあるわけでございます。今日ここに至りますまではもちろんのこと、今日におきましても、なおかつ
日ソ貿易に対する相当の誤解や疑問が出されておることも事実でございます。
国会及び
政府御当局において、今後
日ソ貿易問題をお取り上げいただき、その正常化と拡大に御努力いただきます
一つの
参考といたしまして、二、三の問題について
参考意見を申し述べてみたいと思います。
その第一の点でございますが、
日ソ貿易をやればとかく損するではないかというような疑問もございます。あるいは
ソ連貿易におけるところの
ソ連側の提案は非常に割高ではないかというような問題もございます。しかしながら、民間
貿易になりましてからの実際の
貿易の経過はそのような事実はなかったということを具体的に示しておるわけでございまして、たとえば
ソ連側から買いましたマンガンにしろ、クロームにしろ、また現在商談中のものを除きましても、ともかく今まで成約し、取引が行われました商品をうかがいましても、当時の国内需要価格、あるいは国際価格に比べても、これが決して業界にとって不利ではなかったという事実を申し上げることができようかと思います。またしばしば
ソ連からは買う商品がないではないか、こういう疑問もよく出されたものでございますが、昨今の樺太炭の引き合い、あるいは新しく沿海州の石炭を出そうじゃないかという
ソ連側の提案にうかがいます状況、あるいはわれわれが、本年度の
国交回復後のクローム鉱の取引はこのくらいだろうと試算いたしまして数字が一万五千トンでございましたが、その実績がすでにもう本年の二月下旬に一万五千トンを上回る成約高で、三方五千トンにもなるという状況であります。またわれわれ業界の一般的な希望商品であった塩化カリ、
日本の肥料になくてはならない塩化カリを新しく出してもよいというような提案であるとか、あるいは木材に対する
ソ連側の
輸出数量の増量というふうな問題を考えましても、また今引き合いせられておりますいろいろな諸商品の中からも、
ソ連から輸入する商品が少いのじゃないかという点は必ずしも当を得ておらぬじゃないか、むしろ今後具体的な
貿易協定を締結する話し合いの中で、
日本の業界の要望、あるいは
日本政府御当局の要望として具体的に要求し、提案する中から、もっともっと探し出せるのではないかというふうな感じも持っておるわけでございます。またしばしば
ソ連側の
貿易態度に対する疑問も出されておりました。これは従来の
貿易経験の中からは、
日ソ貿易をはばむ
一つの材料としてまさに
ソ連側の商談
態度にあったことも事実でございます。モスクワの公団に商談の引き合いをいたしますと、シー・メイルの返事をよこすとか、あるいは先方から商品を出されても、それに具体的なスペシフィケーションがついておらないとか、間々ビジネス・ベースをはずれたやり方であるとかというふうないろいろな問題もございました。あるいは特定の商社だけとしか取引をしないのではないかと思われるような商談のやり方もございました。しかしながら昨今こういうふうな問題は逐次
改善されつつあるということが業界の
意見でもございます。また
ソ連側の公式の代表者も明瞭に従来の
態度を反省いたしまして、こうした点を
改善し、
日ソ貿易の拡大に努力するということを言明しておる点からも、
ソ連側の商談
態度の問題に関しては、今後業界並びにわれわれの努力によってこれは
改善されるということを申し上げることができるのではないかと思うわけでございます。
最後に、
日ソ貿易の将来性並びに発展の展望という問題を述べて終りたいと思うわけでございます。
日ソ貿易の問題が提出されますときに、戦前の実績あるいは戦後の実績のささやかな数字が取り上げられまして、将来ともこれは動かないのではないかという問題がしばしば提出されたわけでございます。しかしながら
ソ連は明らかに建国四十年をけみしまして、この四十年たった今日の
ソ連の実情の中からこそ、
日ソ貿易が発展するかしないかという問題も取り上げられるのではないか。確かに北鉄接収時代には、それにふさわしい商品が購入されたし、
ソ連政権が国際的に認められない不安定な時代にありましては、あるいは利権を
日本側に与える。たとえば北カラフトの採掘権を利権として与えるというような問題もございました。また戦後の
政府間
貿易あるいは民間
貿易の中からの数字からもその一端はうかがうことができます。今日新しく
ソ連がその国内建設の方針を決定し、その方針に基き、
ソ連側の要路の人々が対日経済交流に言及いたしております点をうかがうならば、今日の
ソ連の実情の中からこそ、
日ソ貿易の将来性はくみとれるのではないか。その重点がシベリア
開発あるいは東部
ソ連の
開発にあるとするならば、その経済的な合理主義の面からも、
日ソ貿易の立場というものには大きな地位を占めてくるのではなかろうかと思うわけでございます。それにつきましては、後ほど南
参考人より詳細に
報告されると思いますので、私は省略いたしますが、
ソ連側の国内事情からいっても、新しい経済
開発の中での
日本との経済交流を望むという
ソ連自体の要望があり、また
日本が一衣帯水の
対岸諸国との
貿易を促進することが、
日本の経済自立にも貢献するといったならば、これはまさに合理的ではないかと思うわけでございます。しかも昨今の
ソ連側と
日本商社との間における取引の経緯を見ましても、ヨーロッパ・ロシヤと
日本との取引という観点よりも、アジア・ロシヤと
日本との取引をするという傾向が出ております。たとえば戦前マンガンはわざわざヨーロッパの黒海から積み出されて参りました。クローム鉱は明らかにソビエトのナホトカから積み出され、また塩化カリも、おそらくヨーロッパ産であると想像されるにもかかわらず、
ソ連側はナホトカより積み出しを提案してきておるというような問題を考えましても、今後の
日ソ貿易はまさにアジア・ロシヤと
日本との経済的な結びつきであるという点を申し上げられようかと思うわけでございます。
以上いろいろ申し上げ御
参考に供したわけでございますが、結びといたしまして、重ねて強調しておきたいことがございます。
日ソ貿易の正常化と拡大はまさに
わが国の経済自立発展を促進するものであり、かっこの要望は北海道を初めとする
日本海沿岸諸都市住民の郷土の繁栄と固く結びついているものである、その願望に一致するものであるということを思うわけでございます。私どもはこの要望の実現のためには、しばしば
政府御当局にも要望申し上げ、御相談申し上げてこの早期実現に努力いたしております。幸いにその要望は
政府御当局の着実なるお計らいによって実現の方向に進んでいることも業界として喜んでおる次第でございます。どうかこの要望を一日も早く具体的に実現いたしますように、
日ソ関係当局に対しまして、われわれは
日本政府のみならず
ソ連側に対しましても、われわれの要望を
日本父の立場から、
日本人業者の立場からへ
日本人の業者団体の立場から披瀝し、そうしてこの実現に努力いたしたいと思うわけでございます。私どもの具体的な要望は、通商
貿易協定が一日も早く結ばれるようその話し合いを開始していただきたいということ、そうしてそれが締結されるまでの間は、過渡的にはぜひ便宜的な
措置として業界の要望である、たとえば決済の面において現金決済であるとか、
貿易の方法において片道決済ができるとかいう方法をぜひ講じていただきたい。また
ソ連側の国営
貿易の建前上どうしても通商代表部の確立が必要であり、そこと
日本側業者との話し合いが必要である。通商代表部の確立の問題につきましても、
政府御当局の格別のお計らいをいただきたい、こういう一連の具体的な御要望を最後に申し上げまして、
日ソ貿易の現況とそれに関連するわれわれの要望、
問題点の二、三を申し上げ、本日の本
委員会における
参考意見といたす次第でございます。