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水津参考人 私
水津でございます。実は一昨日でございましたか、突然電話で
臨時工の問題について何か話せというお話がございましたが、どうも突然ではありますし、あまり準備もしておりませんし、大してお役に立たないかもしれませんが、とりあえずということで出てきたわけであります。どうして
臨時工問題というのが問題になるかということ、それから
使用者の
立場から見て、なぜ
臨時工が必要になってくるかということ、それから今問題になっているようなことから何か
対策が必要ではないか、それに対してどういうようなことがあるかというようなことを二、三申してみたいと思います。
このごろ
臨時工問題というものが非常に問題になっております。その
理由は二、三あるように思うのです。その
一つは昨年一カ年の間に
臨時工というものの数が相当急速に
増加しております。それから
臨時工には
雇用の
期限がございますから、本人から見るといつ解職になるかわからないという
身分に不安があるということ、それから
臨時工の
賃金が本工に比べてかなり安いということ、それからもう
一つ、これはあまり世間で言われていない点でありますが、本工の
人たちが
自己防衛のために
臨時工の問題を何とかしなければならないという
立場から、強く本
工組合がこの問題を取り上げてきたこと、まずこの
四つあたりがおもな原因であろうと思います。
そこで三十一年にそれじゃどれくらいの
臨時工ができたかということでありますが、この
数字はあまり申し上げなくても
皆さんすでに御
承知かと思いますが、確かにふえておる、
製造業の
平均で本工が四%くらい三十一年度に増しておるにかかわらず、
臨時工は
日雇工を入れて五〇%ないし六〇%
増加しておる、そこで本工に比べて
臨時工が非常に
増加したように一見見えます。
鉄鋼業におきましても
臨時工だけをとってみますと、二七%
増加しておる、あるいは
造船業のごときは一四〇%も
増加したというような報告があります。そういうようなことから見ると、なるほど本工では
増加しないで、
臨時工だけでうんと増してしまったのではないかというように受け取れる。しかしこの辺が非常に大事な
数字の見方でございまして、三十一年に業界が
増加した総
人員、本工と
臨時工も含めた総
人員の
増加人員の中で、本工の占めた
部分と
臨時工の占めた
部分とを分析してみますと、
製造業を総
平均して、
臨時工は総
増加人員の中で四三%を占めておる。それから
機械工では七五%、
電気機械の方では最も多くを占めておりますが、九三%くらい占めたようであります。
鉄鋼業では四八%を占めておる。大体
鉄鋼業では
増加した総
人員の中の五二%は本工で
増加して、四八%は
臨時工でやっているということになりますから、大ざっぱに言って本工と
臨時工とほとんど半々の
割合で
人員が
増加している、こういうことになるわけであります。でありますから、そのおのおので、さっき申し上げた本工で四%、
臨時工で六〇%というと十倍にも二十倍にもなるような気がしますけれども、実は本工は本工、
臨時工は
臨時工というように、
臨時工が増員の中に占める
割合から言うと大体大した差はない、
臨時工よりも本工の方でややよけい
増加しているということがわかります。しかしいずれにしても、
臨時工というものが相当ふえていることは事実です。それでは
臨時工がふえたことがいいことか悪いことか、問題にするにはいいことか悪いことか、
臨時工ばかりふやしたことはいかにも悪いことのように言う人もおる。しかし私は
日本という国は非常に
労働人口が余っておりますから、
失業者がたくさんあって困っているときでありますから、
臨時工であれ本工であれ、とにかく世の中が、産業が盛んになって
雇用人員がふえたことは、これは最も喜ぶべきことであると思うのであります。この点は、そういう意味からこの問題を認識すべきであろうと思います。
それから次に、
臨時工の
雇用期間が
期限があるので非常に不安である、
身分が不安である、この点はごもっともでありますが、
臨時工の本質がいわゆる
臨時工でありまして、
臨時工とは何ぞや、それは
期限を切って雇っているものである。本工というのは無限に、無
制限に、
定年制があるものは
定年一ぱいまで、
定年制のないところでは一生その人の
条件さえできれば雇うという前提のもとにある。ところが
臨時工は初めから
期限をつけておりますから、これはその点において不安であることは本質的なものであります。ただこういうことが問題になると思うのです。大体
基準法によって二カ月以上使ってはいけない、二カ月以上使う場合にはさらに
更新をしなければならないということになっているから、二ヵ月で打ち切るところもある。さらに二カ月なら二カ月で
更新するところもある。人によっては、
平均六カ月から一年くらいの
期間を続けて勤めている人が大
部分を占めてる。中にはそれがだんだんと延びて、
更新がずっと累積されて三年あるいは五年というような人が
少数おります。しかしこれは例外でございまして、これをもって
臨時工の一般的の様相であると見るのは誤まりである。五年も六年も続けて使うくらいなら本工に直せばいいじゃないかという説が出るわけでありますが、それはそういうようなごく
少数の異例のものでございまして、それはその人は本採用すべきりっぱな
技術を持っておるでしょう。だからそういうのを
会社で使っているわけでありますが、
会社が本工に採用する場合には非常にめんどうな、非常にやかましい
雇用基準というものを
会社々々で持っているわけです、その
雇用基準に何かの
条件でその人が一点でも合格しない、しかしながら
技術は非常に優秀であるというような人がおったとした場合に、
会社としてはその
一つの
雇用基準に合わない
部分は目をつぶって、そのかわり
臨時工というような名であるならば相当長く使っていこうというようなことが起り得るわけであります。これは
労使双方は非常に好都合である、そういう場合は長くおることがある。これは統計から見てもごく
少数な人であります。そういう点を、十分事実問題に即してこの問題を検討する必要があると思います。
それから
賃金が低いという問題、これは確かにそうである。これは全国的に調べたものを見ましても、それから
鉄鋼の私の方の
事情を見ましても、
臨時工というものは、総
平均でいきますと本工の五〇%とか六〇%ぐらいの
賃金しかもらっていない。これはずいぶん酷使しているというような大きな
問題点の
一つであります。しかしこれもいろいろな
事情がありまして、
臨時工であるから
賃金が低い、それは搾取しているのだとすぐ
議論を跳躍することは、非常に考えものであると思います。
賃金は何ほどか安いかもしれませんが、同じ
一流会社でも、その
会社の中に
賃金の
格差というものがあるわけです。いわんや同じ仕事をしておっても、甲の
会社に勤めている場合と乙の
会社に勤めている場合と、あるいは東京に勤めている場合と地方に勤めている場合と、
賃金の
格差というものは全国的に大きなものがありまして、これは
日本の宿命的なものとしてだれでも認めているわけです。ことに
臨時工の場合には、先ほど申しますように
個人個人をとってみると、必ずしも本工にはなれない何かの
理由があって
臨時工をやっておる人であります。でありますから
ほんとうにその
労働者のいろいろな
労働条件なり
身分上の
条件というものをそろえて、全く同じ
条件の人を本工と
臨時工とを比べてみたならば、果して五〇%になるか八〇%になるのか、それはわかりません。だがこれは一がいに六〇%だから搾取しているというような単純な
議論でこの問題を解決しようとしても、絶対に解決できない。これは
個人々々についてなぜこういうふうになったかということをよく検討して、
対策を講じなければならない性格のものであると思うのであります。
それから第四に申し上げました本工の人が
自己防衛の
立場から
臨時工問題を非常に強く取り上げておる点であります。これはもう確かに
言葉の使い方によると、いかにも本工を悪く言っているようにも見えますが、そうじゃありません。これは
組合の
人自身も公表している
言葉であります。従来は、本工というものは
臨時工を見ること、
自分たちの
首切りの
防波堤であるというように見ておる。だから少々
賃金は低かろうが、
首切りの不安があろうが、見て見ないふりをしておった。これは
労働者の
組合の
言葉で、その
通りである。しかしながらだんだん今日になってみると、本
工自身の
首切りを防ぐ方法は、本
工組合が非常に強くなりまして、容易に今日では
首切りができないことになったことは事実であります。だから今度は
臨時工を
防波堤にする必要はなくなってきた。ところが
賃金の
格差があり、
労働条件等には相当
格差がありますから、これをこのままにしておいて、そして
臨時工がどんどんふえますと本工の方の
賃上げ及び
労働条件引き上げの障害になる、
うしろから足を引っぱるおもりになる、こういう
言葉を
組合自身が使って、
臨時工の問題はわれわれのために傍観するわけにはいかない。だからやはり
臨時工の人の
労働条件引き上げ、それから
組織を作らせて、あるいは
賃金を引き上げてわれわれを守っていかなければならない、こういうことから総評を初め多くの
組合は、このごろは
臨時工問題を
労働活動目標の
主要題目として取り上げてきておるわけであります。そこで本
工組合みずから
組合員以外の人であるところの
臨時工の
賃上げ問題、
労働条件引き上げ問題を
使用者側の方に力をもって要求してくるというようになってきたわけであります。これが大きな社会問題化するようになり、本
委員会でも取り上げられるようになった
一つの動機ではないかと私はそんたくしているわけでございます。
さて、それじゃなぜ
臨時工が必要かという点であります。これは時間がありませんから簡単に申し上げますが、
臨時工はぜひとも
日本に必要である。その一番基本的なものは、一口に言ってみれば
日本の
経済の底が非常に浅いということであります。
日本の
経済というものは短
期間に全国的に
景気が非常に
波動が大きい、不安定である、
景気の見通しが非常に困難である。いかなる
経営者でも今日
自分の
企業に対して半年後を明確に見通し得る人はないのじゃないかと私は思うのです。みんなまずまず二、三ヵ月のうちで、半年先はぼんやりとながめながらその不安にかられながらやっている。ことに
神武景気などと申しますけれども、これは突然と起ってき、そしてわずか一年足らずで、もうすでに今日
神武景気なしといわれているわけであります。かくのごとく
日本の
景気というものはもう三カ月かあるいは半年ぐらいでどんどん
波動が起きているわけです。従いましてある特殊のものは急に需要が、
生産がふえたかと思うといつ落ちるかわからない。ことに
会社の
製品が特殊な
製品を作っている
会社、あるいは
注文生産が主であるような
会社、こういうものは相手によりけりでありますから、
注文がくると
生産をするが、
注文がこなくなったらぴしゃっとやめなければならない、しかしその
製品をストックしておくわけにはいかないというものもあるわけであります。たとえば鉄で申しましたら
レールのごときもの、あるいは
特殊鋼のごときものは、みんなお客さんから特殊な寸法のものを
注文を受けて初めて作るわけであります。大きな
レールなんかはストックしたってだれも買手がありはしません。そういうものはいつ
生産が落ちるかわかりません。
景気がいいからというので、それを全部本工で採用していくということになったら経費もかさみますし、先ほど申ましたように不
景気になったからといって本工を首切ることは今日ほとんど不可能であることは
皆さん御
承知の
通りでございます。うっかり
首切りでもやろうものならば、大争議が起って、
尼鋼のように
会社がつぶれるという例がざらにあるわけであります。でありますから波に応ずる
企業は本工の数は固定して、一時的な
生産の
増加は
臨時工でまかなうとか、あるいは
請負に出すとかということで、その調節をやっているわけであります。この
日本の浅い
経済というものが根本的に直らない限り、どうしたって絶対に
臨時工制度、あるいは
請負制度というものが必要なのであります。
それからもう
一つは、これも
日本の宿命的なことでありますが、
労働人口の過剰なことであります。町に
失業者があふれている、そういうことから考えると、
臨時工でもいいから使ってもらいたいというのは使ってやらなければならぬわけであります。本工ではとても雇い切れないが
臨時工なら何とか使っていけるという問題があるわけであります。
それから先ほど申しましたもう
一つの大きな問題は、今の本
工組合というものが非常に強化されまして、
首切りは絶対簡単に
承知しない、それから賃下げにはいくら
会社が不
景気になってもなかなか応じない、ある種の
労働組合は
会社がつぶれたってわれわれはそれとは無関係に
賃上げは要求するのだということで堂々とストをやって要求していることは
皆さん御
承知の
通りであります。そういうように
労働組合がこういう
方向に強く発達したということ自体が、
経営者としては、ことに
中小企業は
企業そのものを守るために
臨時工制度というものを相当活用せざるを得なくなった、この特殊な
社会情勢というものを十分認識していただきたいと思います。この問題をはずしていくらやったって、それは事実問題として机上の空論に終っちゃうのです。
経営者側としては
企業を守るということが大事な任務でありますから、
企業を守るためには結局どうしても
組合側と戦わなければならぬことになってくるわけであります。この点も
十分実情に即して御理解を願いたいと思います。
時間がありませんから
一言で申しますと、この
臨時工がなくちゃならないというのは、残念ながら
日本の
経済の底が浅いということ、
過剰人口をかかえているということ、それから
労働組合というものが世界中で例のないような違った
方向に発達してきたというようなことから、宿命的なむずかしい問題であると思います。もし
日本の
労使関係に
アメリカで行われておるような一時
解雇の
制度——アメリカは
景気が悪くなって
生産を調整しなければならないということになったら、
経営者はだれにも相談せずにすぐ
生産を
制限いたします。そうしてその
生産制限に応じて不要になった
労働者をだれにも相談しないですぐ
解雇します。それを一時
解雇と称しています。その一時
解雇も人選はきわめて簡単である。それは
先任制度というものがございまして、つまり
勤務年限の短かい人、若い人からずっと先に馘首して、もしも
景気が復活して人が要るようになったら
解雇した人の中から優先的にまた復活するという
制度がありまして、
労働組合もこれは当然としてこれに協力しております。これを一時
解雇の
制度といっておる。こういうような
制度が円滑に
労使間に行われるならば、
日本は何も
経営者が本工に採用することを恐れはしないで、どんどんいい人が見つかったら本工に採用するでしょう。そのかわりに
生産を落さなければならなくなったらさっさとその順位によって、
経営者の一方的な
人事権によって
解雇して、
組合もすぐさよならで、すぐあしたからまたよそに行って職を見つけるということになれば非常にけっこうなことだと思います。しかしこれはなかなか行われないことであって、直ちに
日本で行われるものとは思いません。しかしそういうものが基本になっておるということを認識してもらいたいと思います。
そこであとは
対策であります。私はこういうことを申し上げても、
経営者がどこまでも
臨時工を圧迫していこうとかあるいはこれを固持していこうとかあるいは搾取していこうという考えは毛頭ありません。今日の
日本の
経営者は大いに目ざめなくちゃなりません。だから先ほど申しました一番問題になる点は、やっぱり
雇用が不安定であるということ。だからこういう問題についてなるべく
経営者の方も誠意を持って対する。そうしてその中の
ほんとうにいい人はできるだけ早く本工に繰り入れるというような政策をとるべきであると思います。
鉄鋼などではどんどんそういうことをやっております。従いまして大
企業の方では、今日ではもう全
従業員のうち八%くらいの
臨時工しか使っておりません。
中小企業の方では先ほどのようないろいろな
事情がありまして一五%あるいは二〇%というような
臨時工を使っておりますけれども、できるだけ早くりっぱな人は本工にしていくというような
制度をとるべきである。それから
賃金の
格差についてもなるべく五〇%、六〇%というようなことはしないで、いい人、まじめな人があったらできるだけ本工の
賃金に
個人々々の姿において近づけていくということを努力すべきである。それから一般の本工の人が享受しているところの
福利厚生施設というものは、なるべく差しつかえない限り
臨時工にも適用していく、あるいは
退職手当のような
制度もおいおい設けていくというようなこと等、すなわちその
企業々々に応じた、その人々に応じた最善のしかも合理的な改善に努力しなければならぬということは当然なことでありますし、
経営者も大いに心がけてやっていると思います。しかしながら私はぜひとも
皆さんに御了解願っておきたいのは、一部の
人たちがやっているように
臨時工制度そのものが悪いという点があるからこの
制度を全廃すべきであるというような
意見は、私は絶対に反対でございます。そういうような考え方でこの問題と取り組んでも絶対にこの問題は解決しません。それからもう
一つは
賃金格差をすみやかに撤廃して本工と同じにすべきであるという
意見、これも絶対に
使用者は賛成はできません。これはそれぞれの
理由があって
格差があるのが
ほんとうなのです。それをただ一般論で
格差を撤廃するようなことは絶対に賛成できないのであります。
以上、時間が来ましたからこのくらいで、あと御質問でもございますれば申し上げます。