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五島委員 ただいま
議題となりました
失業保険法の一部を
改正する
法律案につきまして
原案に
反対、
日本社会党から
提出されました
修正案に賛成をいたす立場において、
日本社会党を代表いたしまして
討論をいたします。
すでに言い古された
言葉ではありますが、
政府は神武以来の
景気を謳歌しておるのであります。日本
経済新聞の発表した大手各
産業の
昭和三十二年の三月決算の
業績予想によりましても、
鉄鋼界は三十五社
平均利益が四億二千六百万円、
利益率は七割七分を示して、
配当は一割二分七厘となっております。
八幡製鉄は二十五億も莫大な
利益を上げております。思い起しますと、
昭和二十九年ごろにそのドックには一隻の船影すら見なかった
造船界が、今や四、五年先の
注文量を持つに至っております。その上げる
利益は一社
平均で四億九千万円、
利益率は五割四分も上げております。特に
一般食品工業に目を通しますと、
台湾製糖のごときは四割五分の
高配当を示しているような状況であり、その他各
産業業種別にわたって見ましてもいずれも空前の
伸びを示しております。一方鉱工業の
生産指数はどうかというと、
昭和九年から十一年を一〇〇として
昭和三十年度は一二六・六%に
伸びました。ところが三十一年度には二一・四%も
伸びて一四八%を示したのであります。
これに対しまして、
労働者の
実質賃金指数は
昭和三十年から三十一年度にわずか一一%の
伸びしか示しておりません。いかに
賃金の
伸びが少いかということを物語るものであります。また
雇用量の
伸びは大
企業には見るべきものが少い。そうしてその多くは
中小企業に吸収されているのでありまして、比較的低
賃金の部面に
就労していることを物語るものであります。しかも六十五万人に達する
完全失業者がおり、一千万人以上に及ぶところの
潜在失業者を忘れてはならないと思います。
岸内閣は
石橋内閣同様完全雇用の実現を公約いたしたのでありますが、
宇田企画庁長官の言う年八十九万人の
雇用では、年々新たに加わる
稼働人口を百万としてもこれではとんとんどころではありません。これにもなお不足するというようなことで、依然として
潜在失業者や
完全失業者は
就職の
機会から取り残されるということになるのでありまして、
政府のいわゆる
完全雇用は百年河清を待つにひとしくその公約は全く
国民を欺瞞するものであるといわねばなりません。
今ここに注目を要する点は
政府の
失業対策であります。まずその
賃金は
昭和二十九年からここ三カ年も二百八十二円に据え置いてきたのであり、そしてやっと今回わずかに二十円を引き上げて三百二円としました。しかし引き上げないよりも引き上げる方がいいとしましても、その
就労日数はどうかというと、相も変らず一カ月二十一日にとどめたのであります。おまけに一日の
吸収人員を昨年度の二十四万八千人からわざわざ二十二万五千人と、二万三千人も減少さしてしまいました。今
全国平均三百二円といたしまして、
算術計算で二十一日を掛けると六千三百四十二円となるのであります。これを一日に直すと二百十二円となって、
全国の
家族構成を四、五人としますと、これまた算術的に
計算いたしまして、一人
当り四十七円で
生活しなければならない
勘定になります。
全国市町村で月二十五日の
就労があるのは
東京だけでありますけれ
ども、
東京にいたしましても、
賃金を二十円
プラスされて三百五十円として計即いたしますると、八千七百五十円となって、一日
当り二百九十二円となるのであります。一人六十五円にしかなりません。
五大市で最も
就労日数の悪いと言われるのは京都市であります。これは十六、七日しか
就労日がありません。その
賃金を三百三十五円として五千三百六十円になります。一日一人
当り四十円に満たない
勘定になります。静岡市、宇部市、大牟田市その他
中小都市においてはわずかに二百七十円、二百五十円しか達せないというような現状でありまして、その
生活がいかにみじめであるかということをわれわれは痛感するのであります。いつも例に引っぱり出されるのでありますけれ
ども、
野犬狩でつかまった
のら犬の食事及び
保管料は五十円くらいとられております。こういう
計算になりますと、
のら犬以下の
生活であるということを証明するものであります。
昭和二十七年八月に、これは特に
労働省、厚生省から委託して
労働科学研究所が
東京都内三百八世帯を対象に
経済、医学及び心理の三点から
最低生活費の
研究をしたのであります。皆さんも御
承知でありましょうが、この
研究の発表によりますると、
経済的には一人三千円以下では目立って体力が落ちる。また医学的には三千円以下では血液のヘモグロビンの量が目立って減少するということであります。また四千円以下では、親の
知能がどんなにすぐれていても、
子供の
知能は確実に悪くなるということを発表しました。もしそれこの証明が正しいとするならば、
日雇い労働者や低
賃金労働者の
子供たちの健康、
知能に重大なる影響を与えるものと言わねばなりません。これは政治的問題であり、社会的問題であります。しかも一たび彼らが
日雇い労働の世界に入ってきたとするならば、半永久的に
就職の
機会はありません。好むと好まざるとにかかわらず
日雇い労働という名の
職業に陥っていくことは、これは
労働大臣の言ばかりでないのでございます。
なお官公庁に
雇用される
臨時職員や
鉄鋼、
造船その他の
産業における
臨時工や
社外工も脆弱な
雇用関係にあります。一たび
景気の変動が来るや直ちに
失業の運命を背負って立っていると言わなければなりません。
憲法第二十五条は「すべて
国民は、健康で文化的な
最低限度の
生活を営む
権利を有する。」と
規定しております。また二十七条は「すべて
国民は、
勤労の
権利を有し、義務を負ふ。」と
規定しております。これは
最低生活の
保障であり、
完全雇用の
規定でありまして、すべての
国民は動労を喜びとし、かつ
最低限度の
生活保障を希望するものであります。それにもかかわらず
生活するにも足らない低
賃金労働者や
潜在失業者あるいは
完全失業者があることはまさに
政府の
責任であるといわなければなりません。
以上の観点から、わが党は
社会労働常任委員会におきまして、ただいま
失業保険法の一部を
改正する
政府原案に対して
修正案を
提出いたしたのでありますが、その目的は、できる限り
日雇い保険制度の充実をはかり、もって
生活にあえぐみじめな
日雇い労働者諸君の
生活を救済するにあるのであります。その過程においては自民党の
委員諸君ともよく相談いたしまして、話し合いの場を作ってもらい、そうしてお互いに譲歩し合うことによって一部の
共同修正案でこの
委員会を通過させるという努力をしたのであります。しかしながらこの問題についても努力されたのではありますけれ
ども、ついにこれが妥結に至らなかったということは、一部の
委員諸君に対し感謝するとともに、これを否決されたということはまことに残念の至りであります。
まずこの
政府原案の
改正の第一点は、
日雇い失業保険制度における
適用区域の整備という名目をもちまして、
市町村合併によって
市町村の
区域が拡大された結果、山間、
僻地、
離島等を
適用区域から除外しようとするものであります。これは全く
政府の
親心のなさを物語る証左であります。
市町村合併によって同一
行政地区となった以上、あらゆる
施策を講じ、
親心を発揮してこれらの問題を解決することが当然であろうと思います。もちろんこの
人員は五千名に足りない
人員であるということでありますけれ
ども、人が少いからこういう問題を切り離してわれ関せず焉でおるというようなことではいけないと思います。従って
社会党の
修正案の
通りこれを従前に据え置くことが最も妥当であろうと思います。
第二点は、
失業保険金の
日額について二百円の
日額を新たに設けました。そうしてこれを第一級とし、第二級は百四十円としそれぞれ
上昇させたのであります。この点については時宜に適した問題であろうと思いますけれ
ども、ここに問題なのは、この第一級、第二級の
保険金を
給付されるためにはその
賃金が二百八十円以上の者でなければ第一級を得られないし、それ以下であれば二級になってしまいます。二百八十円以上が七〇%該当するというような
説明ではありますけれ
ども、なおその陰には三〇%、すなわち該当被
保険者を五十二万人とすれば十五万六千人は第二級に甘んじなければならない
労働者が低
賃金で苦しむということを物語るわけであります。またこれを算術的に
計算しましても、百四十円から二百円に引き上げたのは四四%にすぎない。ところがこれを百六十円の
賃金区分から二百八十円に引き上げたのは七五%の
上昇率でありまして、これは全く不
合理といわなければなりません。従ってわれわれは
生活のみじめな
失業者、
日雇い労働者諸君の
生活をこの
保険制度によって一部でも引き上げるためには、
保険給付の
制度をできるだけ増大してやらなければならない。これがすなわち
政府の
責任でもあり、われわれの任務であろうと思います。従いましてこの二百八十円を二百二十円に引き下げることがすなわち妥当な
主張であろうと思うのであります。
第三点は
待期の問題であります。
改正案にはこれに全然触れておりません。ところがこの
保険制度の
効果を拡大するために
待期通算六日を一日減らして五日にいたしますると、さいぜん申しましたように
東京においてさえも二十五日の
就労があっても、その賞金は非常に低いのでありますから、
東京のように二十四、五日の
就労日数のところでも
給付を受けられる。
全国の
日雇い労働者の受ける恩恵はまた大きいものであるといわなければなりません。従いましてこれはわが党の、
主張は全く妥当であると思うのであります。
第四点は、
失業保険金額の
自動的変更、いわゆる
スライド制の
改正であります。
現行法におきましては、毎月
勤労統計における
工場労働者の
平均給与額の
上昇または
低下の
比率が二〇%をこえるときは
失業保険金額表を
改正することとして、その
改正前に離職して
改正時に現に受給しておる者に対しましては、
当該平均給与額の
上昇または
低下の
比率が二〇%をこえるに至った
期間の長短に
関係なくすべての場合にその
比率に応じて
増額または減額した
失業保険金を支給することになっておるのでありますが、
改正案はこの不
合理を是正するためと称しまして、
改正の基礎となった月の前の十二カ月間における
平均給与額の
上昇または
低下の
比率が二〇%をこえる場合にのみ行うことに
改正しようとしたのであります。これはまことに筋が通っていて
合理的なように思われますけれ
ども、実は
現行の
失業保険金の
支給額を圧縮いたしまして消滅をねらったまことに巧妙なやり方であるといっても差しつかえないと思います。従いましてこの
改正点には絶対に
反対をいたしまして、わが
党主張通り現行にとどめ置くことが妥当であろうと思います。
第五点といたしまして、
日雇い失業保険制度は、その
特殊性から
一般失業保険と切り離して考えることが妥当であろうと思います。ことにその
制度の拡充が必要であります。そこで三分の一の
国庫負担を二分の一に拡大いたしまして諸
施策を講ずることが適切であります。ただいまわが党から
修正されましたもろもろの
修正の要点におきましても、この
国庫負担を拡大しつつこれを実施していかなければなりません。特に
失業者に対するところの
施策は国の
責任においてこれを援護する、救済することは
国民的な大きな
責任でもありましょう。そこでわが党の案
通りにこれを二分の一までに拡大強化することが最も適切な措置であろうと思います。なお
一般失業保険の被
保険者は五人以上の事業場の
労働者に
適用されておりますが、五人未満の工場、事業場の
労働者には
適用されていないのであります。
政府は
国民皆
保険を打ち出し、着々その準備に当っているのでありますが、この際
失業保険に関しましてもすみやかに五人未満の工業、事業場の
労働者にも
適用するように努力しなければならないと思うのであります。
以上の観点に立ちまして、それぞれわが党の
修正案に強く賛成をいたし、
政府原案に対してはさらに強く
反対をいたしたいと思います。さいぜん申し上げました
通り、この問題についての
共同修正案について自民党の諸氏の努力は見たのでありますけれ
ども、これが成功しなかったのは返す返すも残念であり、
全国の
日雇い労働者諸君はこの問題についてほんとうに残念だろうと思うのであります。以上の
趣旨を述べまして、私の
討論を終りたいと思います。(拍手)