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1957-02-21 第26回国会 衆議院 社会労働委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年二月二十一日(木曜日)     午前十時四十四分開議 出席委員    委員長 藤本 捨助君    理事 大坪 保雄君 理事 亀山 孝一君    理事 野澤 清人君 理事 八木 一男君       植村 武一君    越智  茂君       草野一郎平君    小林  郁君       田中 正巳君    高瀬  傳君       中山 マサ君    八田 貞義君       古川 丈吉君    山下 春江君       亘  四郎君    赤松  勇君       井堀 繁雄君    石橋 政嗣君       岡  良一君    栗原 俊夫君       五島 虎雄君    多賀谷真稔君       滝井 義高君    堂森 芳夫君       山花 秀雄君  出席国務大臣         労 働 大 臣 松浦周太郎君  出席政府委員         警視監         (警察庁警備部         長)      山口 喜雄君         労働政務次官  伊能 芳雄君         労働事務官         (大臣官房総務         課長)     村上 茂利君         労働事務官         (労政局長)  中西  實君         労働事務官         (労働基準局         長)      百田 正弘君         労働事務官         (職業安定局         長)      江下  孝君  委員外出席者         労働事務官         (大臣官房労働         統計調査部長) 堀  秀夫君         労働事務官         (職業安定局雇         用安定課長)  松本 岩吉君         労働事務官         (職業安定局失         業対策部長)  澁谷 直藏君         専  門  員 川井 章知君     ————————————— 二月二十一日  委員鈴木義男君、山花秀雄君及び吉川兼光君辞  任につき、その補欠として多賀谷真稔君、井堀  繁雄君及び石橋政嗣君議長指名委員に選  任された。 同日  委員賀谷真稔君辞任につき、その補欠として  栗原俊夫君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 二月二十日  失業保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第三一号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  失業保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第三一号)  労使関係労働基準及び失業対策に関する件     —————————————
  2. 藤本捨助

    藤本委員長 これより会議を開きます。  内閣提出失業保険法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。まず趣旨の説明を聴取いたします。松浦労働大臣
  3. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 失業保険法の一部を改正する法律案提案理由を御説明申し上げます。  失業保険法は、被保険者が失業した場合に失業保険金を支給してその生活の安定をはかることを目的とし、昭和二十二年第一回国会において制定され、その後数次の改正によって、制度整備充実が行われ、今日までよくその機能を果してきたことは、すでに御承知の通りであります。また、日雇い労働者失業保険制度は、昭和二十四年第五回国会において、日雇い労働者失業対策の一翼をになうものとして失業保険法の一部改正の際に創設され、自来、日雇い労働者生活の安定のために寄与してきたのであります。  しかるに、最近における日雇い労働者賃金実情から見まして、現行日雇い失業保険給付内容は、必ずしも実情に沿わなくなりましたので、その給付内容改善し、一そう効果のある日雇い労働者生活の安定をはかりたいと存ずる次第であります。  また、この機会に、日雇い労働者失業保険制度適用区域整備をはかり、さらに日雇い労働保険者一般失業保険の被保険者に切りかえる取扱い実情に即して行うよう措置いたすとともに、失業保険金額自動的変更に関する規定を合理化する等、失業保険事業の一そう円滑なる運営をはかるため、失業保険制度整備いたしたいと存ずる次第であります。  以上がこの法律案を提出いたしました理由でありますが、次にその概要を御説明申し上げます。  まず第一に、日雇い労働者失業保険制度について、失業保険金に二百円の日額を新たに設け、従来の百四十円及び九十円の日額のうち九十円の日額を廃止し、保険給付内容改善をはかった点でございます。  これは、失業保険の被保険者である日雇い労働者平均賃金がこの制度創設の当時に比して相当上昇しており、失業対策事業就労者賃金も来年度より引き上げられることとなりますので、この機会失業保険金の引き上げを実施することといたし、新たに二百円の失業保険金日額を定めたのであります。また従来の九十円の失業保険金日額につきましては、この段階に属するものが、ほとんどまれであり、存続する実益がありませんので、これを廃止いたしました。  二百円の失業保険金は、賃金日額二百八十円以上の被保険者について支給することといたしますが、その結果被保険者中約七〇%の者がこれに該当することとなるのであります。  なお、給付内容改善に伴いまして、保険料額につきましても、新たに賃金日額が二百八十円以上の被保険者についての保険料を十円と定め、これを事業主及び被保険者が折半負担することといたした次第であります。  次に日雇い労働者失業保険制度適用区域整備いたすこととした点であります。  この失業保険制度適用区域は、従来市町村単位に定められておったのでありますが、最近の市町村合併の結果市町村区域に著しく拡大されることとなったのであります。適用区域拡大されたことに対しましては、公共職業安定所の分庁舎を増設する等その機能を強化し、これに対処いたしておりますが、山間僻地離島等においては日雇い労働者の数も少く、そのすべてにわたって対処することは不可能であり、日雇い労働者がこの日雇い失業保険制度を利用することができない事情が実際問題として生じておりますので、かかる地域については適用区域から除外することができる道を開くことといたしたものであります。  次に日雇い労働保険者一般失業保険の被保険者に切りかえる取扱い実情に沿うよう改めることとした点であります。  従来日雇い労働保険者が二月の各月において十八日以上または六月において六十日以上同一事業主雇用された場合は、すべて一般の被保険者とすることとなっていたのでありますが、港湾関係事業建設業等におきまして日雇い労働者同一事業主に継続的に雇用される常態に必ずしもない場合は、かかる日雇い労働保険者については、公共職業安定所長の認可を受けることにより、一般失業保険の被保険者に切りかえることなく、引き続いて日雇い労働者失業保険の被保険者とすることができるよう実情に即した取扱いをすることといたしたのであります。  次に一般失業保険制度における失業保険金額自動的変更について合理化をはかったことであります。  現行法では、労働省で作成する毎月勤労統計における工場労働者平均給与額上昇または低下した比率が二〇%をこえるときは、失業保険金額表改正することとし、その改正前に離職して改正時に現に受給中の者に対しては、平均給与額上昇または低下比率に応じて一律に増額しまたは減額した失業保険金を支給することとなっておりますが、一年以上数年を経過して初めて二〇%の上昇または低下があるような場合においては、現行法によるこの増額または減額措置は、著しく不合理な結果を生ずるものでありますので、失業保険金増額または減額措置は、失業保険金額表改正が行われた場合において、その改正基礎となった月前の十二月間における労働者平均給与額上昇または低下比率が二〇%をこえるものであるときに限り行うこととし、かつ、その増額または減額についても、一律の率によることなく、受給者の離職した月にかかる平均給与額に対する当該改正基礎となった平均給与額上昇または低下比率を配慮して措置することといたしたのであります。  以上が今次改正の主眼とするところでありますが、このほか必要な条文の整備を行い、一そう適正な法の運用をはかりたいと存ずる次第であります。何とぞ御審議の上すみやかに可決せられますようお願い申し上げます。
  4. 藤本捨助

    藤本委員長 以上で説明は終りました。なお本案についての質疑その他は後日に譲ることにいたします。     —————————————
  5. 藤本捨助

    藤本委員長 次に労使関係労働基準及び失業対策に関する件について調  を進めます。発言の通告がありますので順次これを許します。井堀繁雄君。
  6. 井堀繁雄

    井堀委員 石橋内閣にとりましては、労働政策はきわめて重要な地位を占めるようにわれわれは受け取っておるわけであります。たとえば石橋内閣成立と同時に、総理大臣国民五つの誓いを立てられておりますが、その五つの誓いのいずれも労働行政に深い関係があるのみならず、労働行政のいかんは、この五つの誓いをほごにするか、あるいはその誓いが真摯なものであるか、その結果にかかっていると私ども思うのであります。ことに岸総理臨時代理も、これを敷衍するようなかなり具体的な内容を盛り込んだ施政方針の演説をなされておる。こういうものと関連をいたしながらお尋ねいたして参りたい。  その第一に掲げておりますのは、誓いの言葉の中にもありますが、雇用増大を強調されております。きわめて切実な問題であると思うのであります。そこで雇用増大をはかるということは、言うことばやさしいのでありますが、事柄はなかなか深刻な問題をはらんでおるとわれわれは思うのでありますが、その実態をこの機会に明らかにして、なお質問を続けようと思うのであります。労働省としては、現在日本雇用実態をどのように把握されておいでになるか。すなわち、私どもの方からこれをながめますと、日本雇用実態というものは、世界でも珍しい跛行的な極悪な雇用条件の中に存在しておる。だからある人はこれを潜在失業といい、あるいは政府統計の中では不完全就業という言葉をもって表現されたり、あるいは短時間労働というような、いろいろな名称をつげておるようであります。雇用というからには、これは労働法を一貫しておりますことで明らかなように、その生酒の保障が裏打ちされない雇用条件などというものはあり得ぬといえるのが資本主義経済のもとにおける常識だと思います。こういう意味からしますと、日本雇用労働者というものは、ここに完全雇用という言葉も随所に使われておりますが、こういう問題は今後われわれが予算を審議していく上に特に必要だと思う。とりあえず石橋内閣労働行政の中で、一体雇用現状をどのように把握されておるかを伺っておきます。なお続いてお尋ねをしようと思いますが、まず現状について一つ一応の見方を御発表願います。
  7. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 雇用現状は大体四千二百万くらいでありまして、三十一年度は七十八万ないし八十万の新雇用をすることができる、こういうふうに考えております。
  8. 井堀繁雄

    井堀委員 それは私のお尋ねしておることではないのです。現在統計の上で雇用労働者がどのくらいおるかというようなことについては私は大した問題でないと思う。問題はその雇用実態です。もっと詳しく私の方からお尋ねいたしましょう。法律では今一週八時間制を貫いた法律が存在しておりますけれども、短時間労働もあれば長時間労働もあり、極端なものもある。そのようなものを労働省はどのように把握されておりますか。まず労働時間の上で雇用実態一つ説明していただきたい。続いて賃金と、二つについて御説明願います。
  9. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 統計調査部長から御説明させます。
  10. 堀秀夫

    堀説明員 ただいまお話労働時間の問題につきましては、労働力調査によって調べてみますと、現在就業者の中で一週一時間から三十四時間、それから三十五時間から五十九時間、六十時間以上、こう分けてみますると、農林業関係では、一週一時間から三十四時間の就業者が昨年の十一月——これが一番新しい統計でありますが、これによりますると、五百八十万、三十五時間から五十九時間の就業者は七百六十八万、週六十時間以上の就業者は三百四十万となっております。なお非農林業につきましては、週一時間から三十五時間の就業者は三百三十八万、週三十五時間から五十九時間の就業者は一千四百九十八万、週六十時間以上の就業者は七百五十四万、このような数字になっております。  なお次に賃金の面につきまして申し上げたいと思いまするが、賃金の面につきましては、御承知のごとく労働省の毎月勤労統計によりますると、最近名目賃金は大体順調な上昇を続けております。物価は比較的安定しておりまするが、最近において御承知のようにやや上昇傾向もあります。三十一年平均を三十年平均に比べますと、約八%実質賃金上昇しておる、このような数字になっております。
  11. 井堀繁雄

    井堀委員 労働時間の問題についてもう少し詳しく聞きたいと思っております。一体今の統計はどういう根拠に基いてそういう結論を出されたかを一応伺っておきたい。
  12. 堀秀夫

    堀説明員 ただいま御説明いたしました統計は、総理府統計局におきまして、全国世帯より抽出いたしまして、その私用された代表的な世帯につきましてその労働力の状態調査したわけでありまするが、その調査に基く数字でございます。
  13. 井堀繁雄

    井堀委員 総理府統計資料は、今日われわれが雇用実態把握するのにはなはだ不完全なものであることは明らかであります。労働省統計部を設けられたのは、そういう資料に基かぬ独自の労働実態把握するための要請であったと思うのです。そこで労働省自身がいろいろな調査をやっておられる。たとえば、たしかあれは昭和二十九年でしたか、あなたの方で行われました賃金調査の場合なんかにも、労働時間の問題がやはり出ておる。さらに小規模事業場実態調査もやっておられる。ああいう資料をわれわれが検討して、あまりにも事実と相違のあることを発見するわけであります。この実態調査がどれだけ信金力があるかは別として、今日の場合はそういう実態調査による以外に統計にたよるものがない。だからここで雇用実態把握しようとする場合に、総理府統計によるなどははなはだずさんなことであって、労働行政としてはとるべきではないと私は考える。この点について、労働省独自の調査に基いて推測やそれぞれ把握した数字があるはずです。それを労働時間の点についてもう一ぺん御説明願いたい。
  14. 堀秀夫

    堀説明員 労働省関係把握しております労働時間は、これは各事業場実態につきまして、その事業場における労働時間を労働省の立場から把握しておるわけでございます。先ほど申し上げましたのは世帯につきまして、その世帯労働力の面から総理府統計局把握しておるわけでございますが、労働省関係統計につきましては、御承知のように毎月勤労統計を毎月逐次実施しておるわけでございます。これによりますると、総労働時間は、調査産業総数では昭和二十九年には一カ月百九十三・六時間でございましたが、昭和十年には百九十四・八時間ということになります。なお昭和三十一年の集計につきましてはただいま集計中でございますが、十一月ごろをとってみますと百九十九・八時間、このようになっております。年平均の分につきましては、集計でき次第お手元資料として差し上げます。それからそのほかに労働時間につきましては、労働時間制度調査というのを臨時に実施しておりますが、この関係も今持ち合せておりませんので、資料としてお手元に差し上げたいと思います。  なおこれにつきまして、ただいまお話のように、総理府関係統計だけを使うのは非常に権威がない、これもまことに一理あるお話なんでありますが、従来毎月勤労統計は御承知のように、二十人以上につきまして実施しておったわけであります。従いまして、三十人未満統計につきましては、先ほどお話のようにたとえば小規模事業場調査のような、きわめて小さな調査臨時にやっておりますが、統計学的に申しますと、やや誤差その他の点で完全に信憑するわけにも参らない、このように思いますので、今回大臣のお骨折りによりまして、来年度の予算にはこの毎月勤労統計を十人未満に下げる、このように相当画期的な拡充改正を行うことになったわけでございます。これを今年の七月から実施いたします一、小規模事業場を含めました事業場賃金雇用労働時間の実態が相当な信憑性を持っていま少しはっきりしてくるのではないか、かように考えておる次第でございます。
  15. 井堀繁雄

    井堀委員 労働大臣お尋ねをいたしますが、今お聞きのように、日本雇用実態が一番大岳な労働時間についても的確な資料把握に困難を来たしておることは明らかであります。賃金のことをお尋ねしても同様なことになると思います。あなたの省で、昭和二十九年四月の賃金実態調査をやっておられますが、その資料はかなり日高く評価していいと思う。それによっていろいろ賃金内容を見ますと、おそるべき姿が出てきておるわけであります。その一例をたとえば賃金収入階級層に分けてみて、六千円以下のものがどのくらいおるか。全国にわたって調査対象になったものが六百五十万ちょっとでありますが、この六百五十万の調査対象の中で、六千円以下のものが一一・三六%、すなわち七十二万八千人と出しておるわけであります。ところがこの調査は十人以上の事業場で、今私がお尋ねしようとする一番日本で大きな雇用の幅を見せておるところでありますが、その足りないものを同様労働省小規模事業場賃金調査——この資料はちょっと古いのですけれども、二十八年十月に実施されたのがあるわけであります。これを見ますと、五人から二十九人まで、ここでも五人未満が落ちておるわけであります。これは全一国で四百二十八万人以上の調査を行なっておりますが、これで見ますと、六千円以下のものが四二・六二%の多きに達しておる、すなわち百八十二万五千人をはるかに上回るという低額所得実態把握されておるわけであります。なお一番新しいこれによく似た統計として、厚生省社会保険基礎調査を行なっております。これは昨年の十月—十一月にかけて行なったものでありますから一番新しい資料で、しかも一人から四人の零細事業場を扱っておるわけであります。これはその把握範囲はかなり狭い、全国的に見て百四十八万六千人を対象にして調査を行なっておる、その中で六千円以下を見ると驚くべし五三・八三%の多くに達しておる。すなわち七十九万九千九百五十人の六千円以下の低額所得実態把握されておる。さらに国税庁の民間給与実態調査が毎年行われておるが、一番新しい資料を私の手元で今検討を加えて見ておりますと、この三つの、労働省厚生省の行なった小規模事業場賃金実態調査などに照し合しまして、一番新しい資料がございませんけれども、こういう実態調査の上に立っていろいろわれわれが検討を加えてみますると、すでに明らかになっておりますように小さな事業場においては月額で六千円以下の低額所得者というものが半ば以上を占めているということは誤まりのない事実だと思うのです。今日ニコヨンといわれる日雇い労働者賃金の問題は、一般の業種に比較してやや低いものを定めることになっておる。その日雇い労働者賃金があまり低いということで世の中の非難を受けておる最中でありますが、これでも二十一日で見ていきますと、六千円以下というようなことにはならないわけなのであります。こういうところに雇用の推移を見ていきますと、これはまた統計をいじることはどらかと思いまするが、いろいろな資料を展開していきますると、今雇用増大しつつある傾向というものは、この零細事業場分野とそれから就業対象になっておりまする者というものが、おおむね不生産的な分野に、雇用条件の最も劣悪な部分に拡大されていっているということは偽わりのない事実なんです。完全失業がなくなったから雇用の状態がよくなったなどという答弁は、事実を無視した答弁になるのでありますから、この点労働大臣からよく一つそういう事実に基いての御答弁をいただきたいと思います。  私がここでお尋ねしておりまするのは、雇用の量的な拡大はもちろんでありまするが、質的な改善が行われてこなければ、完全雇用といってはいけない。ことに雇用対策としてはあの憲法の条章を引きずり出す必要もないのでありまして、生活の最低が保障されぬような雇用などというものはこれは問題にならぬ。ところが先ほどお答えになりました就業人口の増加の見込み、あるいは雇用労働者増大の見込みは、こういう点について御配慮なさっての答弁ではないと思うのであります。少くとも労働省を預かるあなたといたしましては、雇用労働者雇用条件質的改善を伴うところの雇用拡大でなければならぬ。そらしないと誓いの言葉に反するのです。誓いの言葉の中には、ただ雇用増大するとはいっておらない、雇用拡大することによって日本の生産を増大し、国民福祉増大するとつけ加えておるのです。福祉とは何か、こういう問題に発展してくるのでありますから、いずれこれは総理お尋ねしようと思っておりますが、その前に雇用増大する見通しについてのお話数字がありましたら、それは質的改善を伴うものであるかどうか、また伴うということならばどういう処置をおとりになるか、一つ伺いたい。
  16. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 お問いの問題は非常に重大な問題でありまして、労働省だけの考え方では質的改善は行われないと思うのであります。日本の総合的な経済政策が積極的に行われまして、御指摘になったような零細産業まで経済基礎拡大が行われて、賃金を相当出してもその企業が成り立つというところまでいってからでないとちょっとこれはむずかしい問題であると思うのです。しかし御指摘になったような量的な問題だけではなくて質的な改善も順次していかなければならないと思うのでありますが、今のところ三十二年は経済の伸びを七・六%としまして約八十万から八十九万の雇用を考えておるのであります。そこでこれが供給力の方も、百三十万人くらいそれに対する人口がふえて参りますから、その中の六八%くらいが日本では労働力になっておりますから、やはり供給の方も大体同じような数字でありまして、七・六%伸びて参りますならば、雇用は、ふえる者と使う者とがちょうど同じような数字になりまして、現在の五十五、六万から六十万範囲の、年間を通ずる完全失業者というものはそのままに残っていくと思うのです。そこで質的に改善するのに経済拡大強化ということが一つあるとともに、社会保障充実が問題になると思うのです。今申しました十四才以上の人口が百三十万ふえて、その中で約八十九万が就労可能のものであるという中には老人が相当あります。また幼年者があります。老人幼年の者が労働市場を圧しておりますから、これが養老年金その他で、ある年に達しましたならば労働市場から去って生活ができるような社会情勢を作る、あるいは幼年の者がもう少し修養の方面に行けるような育英制度を考えるというようなことでなければ、このままふえるだけを全部労働市場に追い込むということは一つも質的な改善にならないと思いますから、それも並行しなければならぬと思うのです。でありますから結局量的に質的に雇用増大をするとするならば、経済財政政策産業政策というものが積極的に行われて、それで日本経済がよくなるとともに他面社会保障制度を拡充していくということでないとできないと思うのであります。でありますから石橋内閣が今当面しておりまする姿は、神武以来の好景気ということが新聞紙上に現われておりますけれども、もし神武以来の好景気が一部にあるとするならばそれは景気の偏在であって、中小企業零細産業その他にはそれは及んでおらないのでありますから、この経済を引きならす方向に石橋内閣がやらなければならぬ。それは一年じゃやることができませんから今年はまず減税をやる、あるいは財政の投融資によって中小企業その他を融資の面から救う、あるいは社会保障を幾分かでも強化していくということに、一ぺんにはできませんけれどもその方向に向ってやっておりますことは御承知の通りでありまして、今日の日本の財政経済上現在の限度以上にはちょっとやりかねるということでございまして、これから順次御質問の方向に、量的に質的に年を追っていたすようにいたしたい、かように思っております。
  17. 井堀繁雄

    井堀委員 私はあなたの御答弁の中の社会保障によってこの状態を打開していこうという考え方は、きょう私のお尋ねしておることとはかなり角度を変えての答弁だと思う。このことは私は予算分科会で厚生大臣石橋内閣における厚生行政の方針を伺っておいた。残念ながら期待を裏切られた答弁でございました。しかし今あなたが私の、雇用の質的な改善をはかる御方針をお尋ねしたのに対して、社会保障制度によってこの欠陥を補おうという考え方は、的はずれの御回答をいただいたという感じを強く受けます。言うまでもなく、資本主義のもとにおける雇用関係というものは、公共事業もございますけれども、この場合は大体私企業、営利事業でありますが、営利事業のもとにおいて労働者雇用する場合には、商品の取引が原価を割ってはならぬのと同じ意味において、労働力もまた労働力の再生産に見合わぬような賃金というのはあり得ぬことなんです。それはあなたの所管になっている基準法をお読み下さればわかる。労働基準法にはそのことが明確に書いてある。でありますから、最低の生活の維持のできないような低賃金というのはこれは労働政策としては全く国の恥なんです。それは一面、あなたがお答えになりました、労働行政だけによってこの問題が解決できないということは、それはその通りだと思います。ことに日本の産業それ自体の持ったいろいろな欠陥や弱点がありますから、この問題をどうするかということとあわせ考えたければならぬことは明らかなんです。これはあとでお尋ねするつもりでありますが、今当面しておりまする、あまりにも深刻な現状は、統計でおわかりの通り——もし私が今あげた資料に対して、あなたの方でまた別なものをお持ちになれば伺いたいが、実態調査を基準にして比較的内輪に見ていきましても、昭和二十九年でありますと、実態調査資料がありますから、それで月額六千円以下の雇用労働者低額所得者というものを数の上で見ていきますと、三百二十五万七千四百三十九人という数字が出てきます。これは国会の立法考査局の専門家を依頼して検討を願った結論であります。この結論の上に立って昭和三十二年度を見ていきますと、いろいろの条件を勘案いたしますと決して減ってこない。三十二年度の推計を見ていきますと、三百五十三万三千九百五十二人になるであろうという答えを出してくれました。もし労働省統計をお扱いになっているところでこの数字が甘いとか辛いとかという御意見があったら、一つ適当な資料を出して反駁していただきたい。私はこの資料は割合信憑力のあるものを中心にして組み上げたものと思うのでありまして、こういう六千円未満一体収入で——これは独身者もおりましょう、女子もおりましょう、その数字は別に出てきておりますけれども、これによって生計を維持できる数字であるかどうかは、各方面の、たとえば角度は違いますけれども、税制調査会などの答申案の中にも、大体最低生活費というものを出してきておる。それからあなたの方の省では日雇い労働者賃金基礎になるべき常識もあるわけです。こういう点から考えて、私は六千円以下というものは、これは労働力の再生産どころではないと思う。動物的な生存も危ぶまれるような低額所得なんです。それがしかも勤労を提供して得るところの賃金であるということを、労働大臣一つはっきり認識してもらわなければ困る。社会保障対象になる人じゃないのです。これは労働能力も持っておる。労働ずる意欲も十分ある。使い方によっては、石橋通産大臣が言っているように、過剰人口雇用に組み込むことが日本福祉増大の唯一の道である。その通りなんです。そうならなければならない。あなたがこの状態をこのままにしておいたのでは、総理大臣の誓いとは逆コースをとることになる。この状態を解決するということでなければ、雇用の問題は私は軌道に乗ってこぬと考えます。このことを私はあなたにお尋ねしておる。他の経済政策というものが見合ってこなければ、いつまでも労働行政としては、それを待つという態度であれば、これは何をか言わんやであります。一方には国務大臣として、あなたは一般の他の政策の中でこの問題を解消することに努力されるでありましょうが、しかし当面の労働大臣として、これはもっと法律的に聞きましょうか、あなたの任務は労働省設置法に規定されている。このような労働条件を見送ってはならない立場にあなたはお立ちになっているわけです。こういう低額なる賃金は立ちどころに解消せしめなければならぬ責任の地位にあなたはお立ちになっている。顧みて他を言うような御答弁は、私は適当じゃないと思う。もう少しやはり責任ある立場に立って私の問いに対してお答えをいただきたいと思います。
  18. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 今御指摘下さいました数字は、あまり違っていないと思うのです。私どもの手元にありますものを申し上げましても、昭和三十一年は、一月以降は見通しでありますが、八千円未満が六百十六万です。それから今仰せになりました中で最も困る問題は、年収八万円未満の自営業者、これが三百十三万ばかりあるのです。これは自分で商売しておりながら月に八千円にならない。完全雇用の問題と零細産業の問題は、離すことのできない問題でありまして、中小企業というものが日本の失業の逃げ場のようなふうになっておりまして、日本社会情勢としましては、完全雇用をするという場合、今の質的な賃金を支払うようにしなければならぬという場合に、私は一つこういうことを考えなければいかぬと思うのです。今、もう一つ統計的に申し上げますと、十人未満の人を使っている中小企業が、日本企業企業数から見まして九一%です。労働人口から見て約四五%です。それが十人未満の人なんです。この人たちのやっている仕事が、暴利をむさぼって安い賃金で酷使しているかというと、その人たちはやはり三千円とか四千円の賃金でなければできない仕事をやっているのですね。日本の産業構造の内容が今そうなっているのです。でありますから、これを改善していくという場合には、やはり日本の産業構造というもの、産業の内容というものが改善されていくのでなければ、私はなかなかできないと思うのです。それはもし最低賃金制をしいて、八千円なら八千円を法律的に一律一体にやれば、日本の大部分の企業、大部分というのは中企業以下の企業、いわゆる九一%というものはつぶれてしまう。そうすれば失業が増大してきまして、どうにもならぬ状態をかもしますから、今おっしゃったような問題は、お前の仕事をほんとうに責任をもってやるのならば、最低賃金でもやって、質的に生活の最低保障をすべきじゃないかという御指摘でありますが、それを今やると、日本現状はもっとひどい目にあうものですから、そこで最低賃金制の問題については、いろいろなケースを経まして、この間答申を得ましたから、これからこの答申によりまして善処していきたい、かように思っておりますが、これを一律に六千円とか八千円とか、法制的にきめる考えは持っておりません。やはり地域別、業種別に賃金協定をやって、その業種が立つような内容においてやってもらうより、日本の現在としては道がない。私は日本経済がほんとうによくなっている、いわゆる神武以来の好景気だということが実際ならば、それは税であるとか、あるいは国が責任を持つ財政投融資であるとかいうことによって、中小企業の方に資金が回ってくるような方向を考えるというような、今のわれわれの中小企業を助ける方向をとっております。その企業を助けるのでなければ法的に、御指摘になったような六千円とか八千円とかいうことをきめたならば、失業市場というものはもっとひどくなるから、それでわれわれは憂慮いたしております。最低生活保障をさせたいことはやまやまでありますけれども、そういう内容であります。それからもう一点は、六千円以下三千円とか二千円とかあるいは四千円とかをとっておるのは大体子女のような者が多いのです。一つの例を申し上げますと、静岡のマグロのカン詰の業者は最低賃金を協定いたしました。女工約四千人、それは大体一家を経営しておる人ではなくて、自分の家は中小企業であるか、あるいは農業であるか、あるいは勤労者であるか、そういう家の子女がそのマグロカン詰の工場にいって賃金をとっておる者が多いのでございますが、御指摘になりましたような数が一家を経営しておる人ばかりではないことも御存じだと思います。そういう点から私どもはまず日本経済が総合的によくなるという点をやはり考えないで、労働省だけの制度の上に質的な賃金をとらせるということをきめることは——また資料もありません、三十人以上の統計しかないのでありますが、三十人以下のものが四五%もあるのですから、その資料が手に入らなければこれをやることもできない。いずれ今のお話から推していけば、家内工業の労働法なんということも問題になると思いますが、そういうものも統計を集めてみなければやってみる方法はないのでありますが、おっしゃったような意欲は十分持っておりますけれども、現在直ちに御質問の内容にあるような方向にいかないことを残念に思っております。
  19. 井堀繁雄

    井堀委員 あなたの御答弁でかなりはっきりしたと思うのですが、これは総理大臣答弁をわれわれは期待する機会がありますからまたそのときにこの点ははっきりすることができると思いますが、非常にけっこうな答弁であったと思うのであります。  そこで今あなたの答弁を私がここで繰り返す必要はないと思いますが、とにかく零細企業のもとにおける低額賃金で、しかも長い労働時間、そして悪い環境の中で労働を強制されておる姿はもう明らかです。にもかかわらず、これに対する救いの手が直ちに労働行政の中では考えられないということが明らかにされました。まことにおそるべきことだと私は思う。しかしこれはまた総理にその責任を迫る機会がありますし、ことに総理福祉国家などとなかなか高い理想を国民に誓っております。私は社会保障制度の前に、労働力を提供して得た賃金が、その生活をささえ切れぬような状態で、それを社会保障の中で救うということになれば国はつぶれると思う。だからその前に、私は労働行政が立てられるべきだという考え方を持ってあなたにお尋ねをしたわけであります。しかし事実はいかんともしがたいのであります。そこであなたの御答弁の中で一つお尋ねしたいような気が起ってきたのは、あなたは最低賃金の問題をお出しになりました。最低賃金の実施がかかる零細企業の状態のものに直ちに一律一本の最低賃金で引き上げることは危険だという御心配のようであります。それが危険だとするならば、そういう状態は見送るということになれば別でありますけれども、しかしあなたはこういう状態をすみやかに解消していきたいという意欲ははっきりおっしゃられた。ただ私ども野におる者なら、あなたを督励し、あなたの行政力を期待すればいいのでありますが、あなたは国務大臣、特に労働大臣としてのポストにおつきになっている方であります。その意欲は直ちに行政力として行動に移ってこなければならぬ責任の地位にあるわけであります。こういう意味で今最低賃金の具体的な話がございましたから、この点について一つ伺っておきたいと思います。最低賃金を実施するということは、負担能力がないからということだけをもって判断することは、私は最低賃金に対する理解が足りないと思う。釈迦に説法に相なるかもしれませんが、私どもは賃金というものは企業の支払い能力もさることながら、日本経済全体、しかもそれは国民経済の中においてどうあるべきかが最低賃金の一番大きな要素ではないかと私は思うのであります。そういうことを言えば税金のごとき問題は応能課税の原則を貫いておるにかかわらず、日本国民は全く負担能力のない者に苛斂誅求というような言葉をもって言い尽せるような、かなり高い税金の苦痛に耐えてきたわけであります。これはもちろん直ちに経済関係してくるわけです。最低賃金は雇い主の負担能力にのみ帰すべきものではなくして物価にも影響してくる、賃金経済にもすぐ影響してきますから、それはある意味において最低賃金の実施は物価高になるかもしれない、あるいはまたそのことは労働者生活改善されて購買力にはね返ってきて再生産を刺激してくるという経済の好転にも影響してくるかもしれぬ問題です。こういう問題はいまさらここで私は論議するまでもないのでありますが、ただ日本の零細企業中小企業の負担能力が問題であるからというなら、あらゆるものが委縮してしまわざるを得ないと私は思う。そこで雇用拡大とかあるいは福祉国家とかいうようなことを——特に神武景気がいかなるものであるかについては問題があるといたしましても、一部には莫大な利潤と経済的な恩典を領有する人々が多数に出てきたことは間違いないのです。しかしそれは今昔ら六千円未満の低い賃金で黙々と日本経済を動かしておる人の犠牲の上にあぐらをかいておる。悪く言えばそれを強度に搾取して不当に利潤を一方に吸収しておるという結果になる。これを調整するところに政治がある。特に労働省の場合は、要するにかかる不均衡を是正するということが私は労働行政の立場ではないかと思う。最低賃金がもし負担能力に問題があるとするならば、今日こそその問題を克服してそれを実施する一番よいチャンスではないか、私はこの時期をはずしては最低賃金が法的な性格を帯びて実施期に入る機会はおそらくなくなると思う。この点は労働大臣の所見としてはどらも納得ができない。もし零細企業が負担能力がないならば、その負担能力についてはそれこそあなたが言うように、他の行政面、他の諸施策で補強されていくべきものであって、これは労働行政を放棄した答弁としかならないと思う。労働大臣の口から最低賃金を時期尚早などと言われることは、もってのほかだと思うわけであります。何かあなたはこれに対してお考えがありますか。
  20. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 時期尚早というよりも、これから最低賃金を直ちにやるということになれば、もっと失業を多く出すということになると思うのです。労働省としては失業者を多く出すということはあまり賛成できませんから、直ちに一律にやるということは失業者を多く出すことになるのです。現実の日本企業状況から見るならばそうなる。それから今御指摘になりました高い賃金を払うことによって購買力が増して国の景気がよくなるというのは、かつてアメリカの自動車会社がやったことでありますが、アメリカのような一国一経済で他国の援助を借りず、他国の購買力に依存しなくていける国は今の議論が正しいかもしれません。日本のようなあげて貿易に依存しなければならぬような国は物価を高くするということになるならば、それは結局貿易コストが高くなりますから貿易ができなくなる。それで私は日本の今日のあり方は中小企業を問わず、大企業を問わず、これはいろいろ皆さんから議論がありますが、オートメーション化なりあるいは近代工業設備、近代産業設備ということにしまして、そして加工貿易の使命を果すことができることでなければ、日本民族の生存はないと思うのです。だからその過渡期においては多少摩擦的な失業者が起きるかもしれない。けれどももしこのことを今、それがこわさに手を縮めておったならば、日本民族の生存権というものは、他国の産業の発展によってなくなってしまうと思うのです。ですからその面においては私どもは——今日の大企業は一応近代設備になりつつあります、なったところもあります。しかし日本の大企業は製品そのものが貿易になっておりません、原料であります。大体原料生産が大企業、基幹産業の仕事なんです。これを精製加工して加工貿易の使命を達成するのはいわゆる中小企業なんです。だからその中小企業の設備の拡充近代化、オートメーション化ということによって、良品廉価の線であらゆる国際市場で戦って勝っていくということと、経済外交とをあわせ行なっていくのでなければ、日本完全雇用の域に達しないと思う。その過渡期において多少の摩擦的な失業者ができるということを心配して手をこまねいてしまったならば、日本の民族の生存はないということになるのでありますから、私どものこの内閣の考え方はあくまでもやはり生産性の向上、そして近代設備化、経済外交というようなものを通して——日本は資源のない国でありますから、いわゆる加工貿易の線によってわれわれは生きていこう、しかしながら国民全体の働く職場のことを考えるならば、それは反面においてまだ資源がないわけではありません。東北、北海道のごとき未開の土地がありますから、国土の総合開発というものの拡充強化をするとともに、やっぱり加工貿易を伸張させていく、この二つの柱の上に考えるべきであるというのがわれわれの基本的な考え方であります。そうしていってそれに伴った労働行政でなければならない。ただ労働行政だけを制度的に、おっしゃったような、賃金は高くすることがいいということだけでやったその労働行政であるならば何にもならない。日本の産業、日本経済が発展するとともに、あわせて労働行政がそこに生まれてくるのでなければならない。こう信じております。
  21. 井堀繁雄

    井堀委員 あなたはここで最低賃金法を実施されると失業が増大すると、こうおっしゃられる。僕は過渡的には一時そういう現象があるかもしれない、特に負担能力の乏しい零細企業がそのために非常な打撃を受けることはあり得ると思います。そのためにそういう企業の一部が雇用能力を減殺するというようなことはあり得ると思う。しかしそれをおそれることは、これは口実であれば別でありますけれども、まじめに考える場合においては、その問題と、他にその制度を実施することによって受ける利益との相関関係においてこれは判断さるべきだと思うのでありますが、これはしかし議論にわたりますから避けたいと思います。しかしあなたがそういうお考えであるということは明らかにされたわけです。これは今まで聞くことのできない議論でした。私どもはその問題についてはむしろ雇用拡大してくる、最低賃金を実施することが雇用拡大になるというりっぱな資料と考え方を持っておるわけでありますが、これはいずれかの機会に譲ることといたします。  次に、あなたがおっしゃられた、日本経済の発展は貿易に依存しなければならぬということは全く私も同感なんです。そこで特にそれが加工貿易に必然的に力を注がなければならぬという立地条件の悪いことも認めたいと思います。そういうものを認めた上に立ってお尋ねをいたしたいと思うのであります。あなたは今この輸出貿易を振興する手段として加工貿易の際においては優良な品物を低廉にと言われた。これは何人も否認しないと思う。低コストにするためには、低賃金と長時間労働によって世界の競争に打ち勝ってきたことは、日本の貿易史上における一つの輝かしい戦果である。しかしそのことは国際的にまたチープ・レーバーとして、あるいはかっては公けの国際問題になりました貿易上の一大汚点になっております。ソーシャル・ダンピングという言葉を用いたくありませんが、国会の議論の中でそういうことはどうかと思いますけれども、そういう事実をわれわれはもう少しかみしめてみる必要がある。もしこういう旧態依然たる考え方の中に、拡大貿易を日本の今の石橋内閣が考えているとするならば、これはとんでもないことになる。私どもはまさか石橋さんがそういうことは考えていないと思ってお尋ねしているわけです。あなたの言葉じりをとらえてどうこう申し上げるのではありません。そこで私が言っていることは、何も労働行政が他の行政と離間されて孤立して進められるものでないぐらいのことはよく承知しているわけです。その関連においてはっきりここでお尋ねしておきたいと思う。あなたは今生産性向上の問題を取り上げられました。生産性向上の問題については、ILOにおいても数年前から大きな国際的な課題として論じられている。その報告書の中にこういうことが書いてある。労働生産性とは単なる一つ経済的な機械的な生産の指数ではなく、それは経済福祉に関する指数であるべきであると述べている。簡単な言葉です。まさか今の生産性向上の運動が一九三〇年当時に取り上げられた能率増進の運動、産業合理化の運動とは同一ではないと思う。しかしあなたのさっきのお話を聞いていると、日本の生産性向上運動というやつは、どうもそういうものではないかという一般の疑いが現実になってきたような気が私もいたすのです。これは非常に大きな問題になっておりますが、これは日本国家のために損失だと思いますので、はっきりしておきたい。私はこのILOの報告書の末端に二行か三行かで書き表わしている生産性の向上が、単に資本家の利潤追求に終ったり、あるいは労働強化や、低労働条件の上の低コストによって市場で競争するという考え方であったとするならば、これは自滅する以外にないと思う。世界が許さぬと思う。今日の国際的な、特に貿易の基準になるべきものは、私は別にたださなければならぬと思う。いいことをお答え下さったので、これに関連して総理に伺いたいと思っております。総理はこう言っておられる。首相代理が代弁しておられるのでありますが、わが国の産業の対外的競争力は、欧米諸国に比べてかなり遜色があるという言葉で言い表わしておられる。その遜色があるという中には、あとでつけ加えておりますが、三つのことを言っておられます。それを解決するための手段として、産業設備の近代化と生産体制の整備、第三に労働の生産性の向上をあげておられる。私はこれは適切な表明だと思うのです。日本の産業設備の近代化の問題については、オートメーションの問題が今はやはり言葉になっておりますが、私はオートメーションというものを機械的に取り上げたくないと思っております。ここにも言っている。これは理屈を言う前に世界の競争をじっと見たらいいと思う。私はアメリカのようなああいう天然資源に恵まれ、ドルの国だと言われるように世界じゅうの富を一国に集めて、量産と同時に、ああいうオートメーション的な、あるいはもっと言いますならば機械力を動員して世界の市場に打って出るというやり方を日本がしょうというのなら、これはもうウのまねカラスで、笑うべきだと思う。しかし日本と同じような悪い条件の中で世界の競争に鋭く対決して、ある程度の成果を上げておる国々の例を私たち見せつけられておるわけです。西ドイツのごときはもっと過酷なる国際的、政治的な圧力を受けながらも、なおかつ経済競争の中においてそういう圧力をはね返して進出しておるという事実は学ぶべきだと思うのです。これは私が説明するまでもないと思います。あるいはスカンジナヴィア三カ国のようなかつては日本よりよほど悪い条件の中で、困難な生活の中から立ち上っておる事例もある。そういうものも結論はどこにあるかといったら、このILOの生産性向上の中にいわれておるように簡単だと思う。総理大臣もこのことはほめておられますよ。これはあなたの説明と結びつけてお聞きする意味で取り上げるので、何もあげ足をとるのではないから、率直に聞かしていただきたいと思います。総理はこういうことを言っておられます。人口の過剰は、雇用で国力を伸ばすたった一つの道であると言っておられる。これと今のILOの結論とは一致するのです。私は日本の過剰人口はいろいろな社会悪を作りあげておると思う。これを切りかえる道は生産性に置きかえていくということだと思う。完全雇用という言葉もそうだと思います。しかし食えぬような状態の中で生産性の向上を期待する国はどこにもありませんよ。生産性の同上は機械的な能率を意味するのじゃないのだ。人間性を取り上げてきておるわけです。人格尊重の上に生産性の問題を期待しておる。もっと具体的にいえば、人間の創意工夫を通して引き出していくという問題なのです。私は日本の生産性向上の問題は労働行政にあると思う。あなたのお答えとは事実はなはだ食い違っておると思います。こういう低賃金やこんな悪条件の中に、一体どうして生産性が向上できますか。どうして創意工夫が生まれてきましょうか。高い技術がどうして出てきましょうか。少い資源に古い設備で加工貿易をやろうとすることになれば、優秀な技術と労働者の真摯なる創意工夫の中に新しい分野を開拓していくよりしようがないのじゃないか、総理もそういうことを言おうとしておられるのじゃないかと思います。それにマッチしない労働行政であれば、石橋内閣の行政はばらばらだということになると思う。あなたの言質をとって総理に食い下るなら、もう私はこれ以上質問せぬ方がいいかもしれませんが、私は何もあげ足をとっていうのではなくて、あなたはもっとお考えがあるだろうと思うから、この機会にあなたは石橋内閣労働大臣として、もう少しはっきりものを言っておく必要があるのではないかと思いますので、もう一度この点をお尋ねしておきます。
  22. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 ものを言っておくというよりも、あなたの言い方も悪いと思います。私はそんなことを言ったのではないのであります。生産性向上をしなければいけないと言ったのは、生産性向上運動の話のことであれば、生産性向上運動は三つの原則に立っております。いわゆる上った成果を経営及び資本だけでは壟断しない、またその過渡的な生産性向上のために失業を出さない、労使はあくまで協調すべきである、この三点の原則の上に立っております。またILOの生産性向上の問題について、経済的な福祉を向上せしのるためであるという問題については、これは当然なことなのであります。われわれもその境地でなければ日本労働行政というものもできないし、日本の産業も発展しないと思います。いろいろ見方がありますが、また賃金問題などのときに出て参るだろうと思いますから、あらかじめ私の考えを申し上げておきますが、私は偶然に言ったのではなくて、就任したときに三位一体論を唱えたのです。その三位一体はやはり生産性向上や利潤分配の考え方の上に考えなければならぬ問題であると思います。これは三つに分けることがいいか、四つに分けることがいいか、いわゆる経営と資本、勤労が私は三位一体だと思うのですが、あるいは経営と資本は一つに考えるならば、消費者の福祉ということも生産性向上に伴って上っていくということでなければいかぬと思います。それから日本の現在がアメリカの八分の一くらいの賃金であるというが、この低賃金であればこそ現在生産性向上設備を拡充するならば、国際市場に雄飛する機会を与えられる。国際市場に雄飛する機会を与えられるならば、賃金は上るだろうし、国民生活は安定し向上するであろう。私も貿易の一つをやっておりますが、たとえばナックを作るためにアメリカよりも八分の一低賃金であるが、手工業で行うために単位当りのコストの労銀は非常に高くなるが、これをオートメーションや近代設備で行えるならば非常に安くなる。その安くなって得たものをただ単に経営と資本だけで壟断するという考え方でけなしに、安く品物ができていいものができるなら、国民福祉のためにも安く売ってやる。また得た賃金も三位一体的に分配が公正に行われて、それで初めて企業も安定し、生活も安定していくという方向でなければならぬと思う。現在日本賃金は世界のどこの国の賃金よりも安い。この安い生活様式に日本国民がたえられる現状にいるときに、これをよその国並みのオートメーション化あるいは近代設備化しましたならば、日本経済の国際的な雄飛は期して待つものがあると思う。だから今やらなければならぬ。そこでそれが行われて産業が安定してどんどん国際的な市場に雄飛することができるなら、これはもう賃金の上においても利潤分配の上においても、十分考えられる時期がくるのではないか、今が一番大事な時期だ、こういうふうに考えておる。日本の一番大きな富は何であるかといえば人口の多いことだと思う。人口の多いことは労力と技術を売ることだ。それは何かといえば加工貿易である。だから私は石橋内閣労働大臣として、石橋財政、石橋経済策に一致すると考えておるのです。今御指摘になりました問題については、生産性向上は三つの原則の上に立っているということをお答えいたしておきます。
  23. 井堀繁雄

    井堀委員 今あなたのお話で大体わかりました。日本の過剰人口、すなわち労働力の豊富なことを売りものにして貿易をやろうという考え方には承服できぬと思うのですけれども、いずれにしても低賃金が必ず低コストだという考え方には同意ができぬ。それからオートメーション化が直ちにコスト引き下げであるとも私は機械的に考えない。この問題はあなたの所管でもあるし、また他の所管でもあるようでありますから、他の場合にはっきりいたしたいと思います。ただ一言いたしておきたいことは、日本のような約半数に近い雇用労働者六千円以下の食えないような賃金状態にあることが、何か国際貿易の足だまりになるというような考え方がかすかにでもあるとするならば、非常に誤まりであることを私は指摘しておきたい。こういう状態の中で一体国際競争に勝てるという線はどこからも出てこない。しかしこういう考え方がもし石橋内閣にあるとするならば、あなたの担当しておられる労働行政は非常に楽になる。何も私は名目賃金を世界並みにせいということを言っておるのではない。生活様式は、米を食うところとパンを食うところと、また肉を食うところと野菜を食うところと違いましょう。そういう点ではやはり日本のすぐれたものもあるでしょう。強いものもあるでしょう。改善しなければならぬものもあるでしょう。しかしそういうものについては、実は先ほど来あなた自身も言われたように、一体日本が国際的に競争に勝っていくために一番大事な日本労働の生産性を考えればいい。その国際的比較をする日本資料がないのです。労働時間についても、労働賃金についても、ましてや実質賃金などについて比較する何ものも持っていない。しかし、ただわかることは、六千円以下では食えぬというこのことはわかるのです。そういうような状態にあることだけはわかっている。このような姿で国際競争にたえようということは非常に危険な姿であるということを私は憂えているわけです。しかし、これに対して直ちに労働行政として手を施しようかないとすれば、これはおのずから別個の問題です。  そこで、具体的なものを一、二お尋ねして私の質問を終ろうと思いますが、そういう問題をどうするかということについて、労働省にはそれぞれの仕事があるわけであります。  第一の問題は先ほど来問題になっておりますように労働統計についてです。一つ迅速に、役立つような統計を作ってもらいたい。それはただ単に辞職しているというだけではなしに、日本雇用実態が一目瞭然になるように、この点を一つ明確にしてもらいたい。さらに、できるならば、この国へは本年度予算を審議しておりますから、労働時間と労働賃金、それから今これはILOでも取り上げておりますが、実質賃金の国際的な比較を——どの程度役立たせるかは別として、少くともある程度のものを作っていかなければならない。そうしないと議論がから回りすると思う。この点を一つ至急に取りまとめて出していただきたい。なおそれに対する説明を後に一度発言の機会を得て伺いたい。私もまだそういうものに対する十分な用意がございません。実質賃金の問題については特にこの国会において必要になってくると思う。これは希望しておきたいと思います。  もう一点は、先ほど言ったようにこの低い労働条件をどう改善するかという問題はあまりに問題が大き過ぎて食いつきにくいといたしますならば、一体この状態の中から可能な労働の土産性を高めていくという方法があるか。私はないと思うけれども。そこで一つ問題になってきているのは、中小企業、零細企業のもとにおける労働の質なんです。あなたもお聞きになったように、これは今の議論を裏打ちすることになると思うのです。今熟練労働が足りない。中小企業の問題はもう税金で苦しめられて悲鳴を上げている。中小企業問題といったら税金問題だ。その上に今度は金融の問題だ。さらに資材の問題だ。こういう問題が解決しないところへ今度は熟練労働の不足です。水が低いところへと流れていくのと同じ意味において、優秀な労働者はどうしても賃金の高いところへ、待遇のいいところへ吸収されて、零細企業にはだんだん熟練労働が失われつつある。設備が悪くて、資金がなくて、その上に熟練労働を失ったら、手品でない限りそこから一体生産が生まれるはずがありません。それが日本の貿易の第一線を承わっている実情をどうお考えになるか。私はこの熟練労働の問題についてはやはりそれ相応の具体的な案がなければ、貿易の問題、生産向上の問題といってみたところで、さっきの大きな問題は別個にして考えてもどうかと思われるのです。あなたの方は技能養成の問題や職業補導のいろいろなお仕事をおやりになっておりますが、私は今の技能養成やあるいは職業補導の段階では、これは別な使命を持って生まれたものでありますが、しかし、その段階では今の養成には応じられないと思うのです。これはあなたの方でおやりになるのかあるいはほかの竹でおやりになるのか、そういう点もあろうと思いますが、何かこれに対するお考えでもありますか。
  24. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 統計をよくとれということに対しましては全く同感であります。政治行政は統計の上に立った正しい技術的なものでなければならないのでありまして、三十人以上の統計しかない労働省内容においては、実際に合った行政ができかねるということも考えられますので、これは統計部長の方からいろいろ申すと思いますが、この実質賃金の国際的比較の問題につきましても、あるいは可能な労働の生産性の問題につきましても、それぞれの局長から答弁させようと思いますが、最後に御指摘になりました技能者つまり企業が要求するような人間の養成ができておらぬということ、これはこの間も閣議で、経済閣僚懇談会のほかに、雇用関係閣僚懇談会の中に文部大臣も加えてやることになりまして、いろいろ相談いたしております。現在の状況からいうと、皆さんもうしょっちゅうお世話をされておりますのでよくおわかりのことと思いますが、大体一割八分くらいしか理工科の生徒がいない。八割以上が文科だ。それで、どの代議士さんも四十人、五十人抱えて困っておられる。この姿は、しかしながら一方から見るならば技術者は足りないということですから、まず学生を実情に合うように考える必要があるという議論が今出ております。しかしながら、どういうふうにやるか、昔の専門学校式にするかどうするかということはまだきまっておりませんけれども、これを早くきめなければいかぬ、そうしなければ日本の産業経済の発展はないということ、これは完全雇用一体ともなり得るのであると思うのです。  それから、お問いの中にありました労働省としての職業補導、あるいは技能者養成あるいは監督者の訓練その他職業の訓練等をいろいろ行なっておりますが、これらは今後ますます強化していくつもりであります。  そこで、今職業訓練法というようなものについては、まだ法律まで作って云々するほどのところまでいっておりませんが、検討いたしたいと思っております。いずれにいたしましても毎月勤労統計調査につきましては今度千六百万円ばかり御協賛を得ますならば、予算の中に組んでありますから、三十人以上を五人以上に、五人以下のものについては年一回調査をするということで、全体の調査統計が完成した上にこれらのものについてさらに検討して、でき得れば職業訓練に対する法制的なことも考えなければならぬと思いますが、今それを作るとかどうとかいうところにはまだ至っておりません。今後の調査研究によって考えたいと思っております。
  25. 山下春江

    ○山下(春)委員 ちょっと井堀委員雇用問題に関連してお尋ねをいたしたいと思います。私は引揚者の雇用状態がどういうふうになっているかをお尋ねいたしたいのであります。ちょうど労働省は今月は就職の推進運動月間だと思います。その状況がどういうふうであるかということと、それから御案内のように、日ソ交渉妥結によりまして、帰還者が昨年の十二月二十六日千二十五名お帰りになりましたが、このお帰りになった方が、岸壁で十一年目に肉親の顔を見るとたんに考えられることは就職のことです。自分たちが十一年間家族に苦労をかけて、これからどうして家族のめんどうを見ていくかということがいの一番に頭にこびりついていると見えて、異口同音に言われることは、われわれは相当の年配であり、これという技術を持たないが、就職ができるであろうかということ、これがいの一番に口をついて出ておりますことに、私ども迎えに行きました者は非常に胸を打たれたのでございまして、その後引揚委員会等にも労働省においでいただいて、とくとお願いをいたし、厚生省にもとくとお願いをいたしておるのでありますが、これはどうしても私どもから申しますと、引揚者に対しては技術の有無にかかわらず、十一年間自分の意思でなく抑留されて、その間に技術を失い、年令を過ごしたというこういう人たちに対しては、極端な言葉で言えば強制的に就職をさせてもらいたいというような、法制化でもしたいくらいな気持でおりますけれども、一般雇用の問題ともにらみ合せて、われわれもそこまで計わないで、労働省の非常に熱心なこの問題に対する御努力に期待をいたしておるのでございますが、その後の経過とそれからこの問題に対する今後の労働省の御決心、お心がまえを承わりたいと思います。
  26. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 山下さんの御指摘の問題は、私どもとして重要な問題でありますから、労働省といたしましても鋭意努力いたしておりますが、内容については関係局長から御答弁申し上げます。
  27. 江下孝

    ○江下政府委員 引揚者の就職問題でございますが、お話の通り非常に気の毒な人たちに対する問題でございますので、職安の関係といたしましては第一線の最重点業務として、従来もこの方々の就職あっせんをやってきたわけでございます。数字的に一応二十一年十一月末までの分がまとまっておりますが、引き揚げられました方が三万四千余名でございますが、そのうち安定所に求職されましたのが一万二千九百名でございます。安定所の力で就職された方が六千九百名でありまして、比率としましては五四%程度でございまして、一般の求職との割合から見ますと、これでも相当高い率になっておるわけでございます。しかしこの方々に対しては、お話の通り十年も空白期間を置いて帰られたということでございますので、この数字では私は満足すべきではないと思っております。実は去年の暮れにソ連の十一次が引き揚げられましたのを機会に、ことしの二月——今やっておりますが、二月一ぱいを引揚者の雇用促進月間といたしまして、全国の安定機関あげまして、一人残らず完全就職ということを目標に現在実は努力をいたしております。大蔵省にも予備気を要求しております。まだきまっておりませんが、とりあえず既定予算で若干のものを支出いたしまして実施いたしております。最近までの数字は、まだ始めましたばかりでございますので、はっきりいたしませんが、近県の話を聞いてみましても、知事が陣頭に立ってやっておるというところも相当あるようでございまして、非常に今までのところは私は好調なように聞いております。この分で参りますれば、完全とは申し上げることはできないかもしれませんが、所期の目的は達成できると思います。  それからこの問題に関連しまして、やはりわれわれの一線の職員の引揚者に対する接し方の問題が一番大きいと思います。いろいろ努力しましても、現在の雇用状況でございますので、なかなか適職を見つけるということは困難でございますが、そういう際にも私はやはり第一線の機関がこれらの人に対する接し方の問題がある。ただお前さんは年をとっているからだめだというようなやり方ではこれはだめなんで、これらの人には特別にそういう計らいのもとに就職あっせんをして、十分納得してもらうことが大切だ、こういう点も実は気をつけてやっております。なかなかまだまだ十分とは申し上げられませんが、今後とも一つその努力を続けて参りたい、かように考えております。
  28. 山下春江

    ○山下(春)委員 江下局長の細心な御注意を払いつつの御努力まことにありがたいと思いますが、私どもの耳に入るところでは、ソ連からお帰りの方に対してはイデオロギー的な不安がないけれども、中共からの引揚者に対しては多少それらの不安もあるかのような風説があることを耳にいたしておりますが、これは大へんな間違いで、多少なるほどそういう風潮は私ども引揚者を舞鶴へ迎えに行っても感ずるのでありますが、それは内地におる者のあたたかい気持ですぐ解けるわけでありまして、そうだからというようなワクをはめられるようなことがあれば、大へん施策を誤まることでございますので、局長非常に心をつかっておられることに対しては、全く感謝をし同感でございますが、なお一層そういうことで大臣には特にお願いを申し上げます。政府の方でも、これをお雇いになる資本家側の方に十分これを御徹底願います。引揚者と同時に、巣鴨から出られる方々に対しても、これは労働省の方で一人も漏れなく就職のあっせんに御努力願います。お雇い下さる方にも政府から一つ懇切に御説明を願って、この問題だけは非常に人道問題的なものを私ども感じますので、一層の御努力を願って成果をお上げいただくように要望いたしまして、質問を終ります。
  29. 堀秀夫

    堀説明員 ただいま井堀議員からお話のありました賃金の国際化の問題につきましては、これは国際的に比較をいたします場合には、単に為替換算でやるのは適当でないということが通説になっております。為替換算でやりますと、たとえばアメリカは日本の九・二倍、イギリスは二・二倍、イタリアは一・四倍というようなことになりますが、これを実質的な賃金の食糧購買力で比較いたしますと、いわゆる食糧賃金はアメリカは日本の一・四倍、イギリスは一・七倍、イタリアは八九%、このようなことになるわけでございます。なお賃金の為替換算の較差も、国民全体の国民所得の較差と比べますと、それよりは低いということが資料に出ておりますが、これらの関係資料はあまりこまかくなりまするので、後刻お手元に差し上げることにいたしたいと思います。
  30. 井堀繁雄

    井堀委員 もう時間がないようでありますから、これでおしまいにいたしたいと思いますが、今の実質賃金の比較については、たとえばIMFなどは労働時間の分量を、生産必需物資を羅列して時間で割り出してきている。あれが一番適切なやり方だと思うので、ああいう式で一つ至急に調製して出していただきたい。  それから、もう時間がありませんから、ごく簡単に大臣に結論だけをお答えいただきたいと思います。未払い賃金が依然としてまだ解消の域に達しません。私はこのことについては毎回労働省当局また法務省にも適切な措置を講ずることを希望し、法務大臣も牧野さん時分に安受け合いして一向やりませんが、何か立法措置の必要があると認められながら一向にその措置を講じようとしておりません。実態は依然として未払い賃金が解消どころではなく、一進一退を続けておるようであります。しかもこれが中小企業分野零細事業場にふえてきたということは、これは今までお話のありました現状にさらに拍車をかけることになる。こういうことはいろいろな面において重大な事柄ですから、この問題に対しては、しかるべき結論を至急に出す必要がある。労働省としては必要に迫られておる。この点に対して国務大臣の立場において閣議でしかるべく措置——おとりになっておるかもしれませんが、とるように希望しておきます。これはまたいずれお答えをいただきたいと思います。  次に先ほどの問題の中で、もう一つ分析していきますと、雇用関係を持たない労働者がかなりふえてきた。これは調査対象にのぼす上についても困難があると思いますから、急速にそこまで働けるかどうかは私自身も疑問を持っております。しかし家内労働がかなり大きな分野をなしておることは明らかで、そういう分野に対する何か過渡的な政策というものが一方に必要じゃないか。これを直ちに社会保障に持ち込むことは適当でないと私ども考えるが、これは労働行政分野で婦人少年局などもあるくらいでありますから、この点に対する御方針がおありになるかどうか。ないとするなら近いうちに計画を立ててこの国会に発表できるようにしていただきたい。  それから、これもやはり零細企業の問題で、実質的な賃金改善ですが、住宅政策について、政府低額所得者のためにということを法律の明文にうたいながら、事実六千円未満労働者というものは実に深刻な住宅難にさらされているのが通例なんです。従来の政府の住宅政策では意味をなさぬと思う。産労住宅として労働省も一枚加わっておりますので、こういうものに対して何か適切な措置を考えておるのか。こういう点が社会保障労働政策の間を縫っている問題を解決していく一つの方法だと思います。  まだその他いろいろございましょうけれども、こういう点に対してお考えがあれば一応伺いますが、具体的なものでなければ議論になりませんから、きょうは抽象論だけにいたしておきます。一応お答えをいただいて、なお具体的な資料の提出を希望しております。
  31. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 賃金の不払いにつきましては、御指摘のように非常に困った問題でありまして、その改善に努力をいたしておるのでありますが、最近は経済上昇に伴ってだいぶ減ってきております。昭和二十九年秋の不払い賃金の総額は二十億円で、対象労働者は十八万七千人に及び、憂慮すべき事態になったのでありますが、その後順次減少いたしまして、三十年十月末の統計におきましては、不払い賃金額八億円に対し、対象労働者が七万人になって参っております。しかしながら、かりに七万人にいたしましてもこれは重要な問題であって、労働者生活基礎を脅かすものでありますから、われわれも賃金不払いをするような使用者には、基準監督局などを動員いたしましてそういうことのないように予告し、注意を喚起しておるのでございます。この実態はなお基準局長からも詳細に答弁をいたさせたいと思っております。  家内労働の問題に対しましては、先ほどもいろいろ議論の間に申し上げましたが、最低賃金のことを考えても、あるいは六千円以下の賃金云々という御議論の内容を考えましても、家内労働というものは最も低いのです。私どもが聞いたのでは、千円くらいから二千五、六百円くらいが多いのです。だけれども、賃金が高くなるのも望ましいけれども、月一ぱい仕事のあるようにしてもらいたいというのが現状なんです。だから、そういうものを基礎にしてコストを考え、商品を安くし、過度の競争に行かなければいかぬといったような中小企業内容でありますから、こういう問題はこれからいろいろ調査いたし、最低賃金と見合って、直ちに法制的に取り上げることはできませんでしょうが、将来はやはり法制化も考えなければならぬのではないか、かように考えます。  住宅問題については局の方から答弁いたします。
  32. 百田正弘

    ○百田政府委員 御質問のございました賃金不払いの状況について先に申し上げます。ただいま大臣から申し上げましたように、一番ひどかった昭和二十九年の十月ごろは金額において二十億、労働者において十八万というような賃金不払いが勃発いたしまして、基準局としても非常にその解決に苦慮いたしたのであります。その後景気の上昇と相待ちまして月を迫ってよくなり、昨年の暮れには——特に暮れにはそうした事態が起りやすいので、毎年十二月には賃金不払い一掃月間ということで第一線の監督署が努力いたしておるのでございます。景気の状況と相待ちまして、昨年の暮れには金額において約六億、対象労働者数において五万六千、ちょうど二年前の暮れの半額まで減少いたしたわけでございます。しかしながら、まだ石炭鉱業を筆頭にいたしましてこれだけの額が残っておる。基準局といたしましては、大臣からお話がありましたように、できるだけ事前にそうした事態が起らないように、支払い能力があるにもかかわらずなすべき努力もしないで使用者が払わないものにつきましては勧告をしたりいたしております。どうしても支払わない悪質なものにつきましては、二十四条違反ということで送検等の手続をとっております。しかしながら、今お話がございましたように、現在の基準法におきましてはそこが限界でございまして、これ以上の手段がないのでございます。これについて何らか優先的に確保し得るような方法があればこの問題が処置できるわけで、この点につきましては、以前から御承知の通り法務省とも協議いたしておるが、まだ結論を得るに至っておらない状況であります。  なお、産業労務者住宅につきまして、基準局におきまして、建てる場合住宅金融公庫から融資のあっせんをいたして、こちらから積極的に融資をしてもらう方法を講じまして、現在までに相当戸数が建っております。従って、大会社と申しますか、そういったものが現在融資の対象になる。従いまして、賃金の低い階級の多い中小企業についてはまだそこまでの余力がないというのが現状でございまして、これらにつきましては、中小企業に対する他の方策と相待ちまして今後においてわれわれも重大な関心を持って処置していかなければならぬ問題と存じますので、積極的に努力していきたいと思います。
  33. 井堀繁雄

    井堀委員 今御答弁をいただきましたが、いずれも満足できません。まことに残念に思います。一つには準備の関係もありましょうし、一つには問題があまりに深刻で、他の政策ともからみ合っていることでありましょうから、一がいにここで結論を求めることはいかがかと思います。まだ国会の会期も長いことでありますから、おいおい具体的にお伺いするつもりでありますが、本日のところは今お尋ねいたしましたような点について十分力を入れていただくことを希望いたしておきます。特に家内労働の問題については、これは実態把握に非常に困難な問題ではありましょうけれども、この国会では一つ家内労働実態はこうなっておるということくらいは労働省の力で明らかにしてほしいと思う。同時にこれに対する保護はかなり法律ははっきり命じてはおりますけれども、こういう問題は実際的には労働行政がから回りしておるようでありますが、今度はこの点について私どももう少し具体的な事実を突きつけて労働省のお立場を明らかにしてもらおうと思っております。婦人少年局長きょうおいでになっておらぬようですからそのつもりで婦人少年局長にもよくその旨をのみ込ませておいていただきたい。零細企業中小企業労働者に対する福祉対策の問題は、労働省としては大きな問題だと思います。これに対しては必ずこの国会中に、労働行政の中において何らかの方針が浮び出てくるだろうと思う。これは総理答弁とからみ合って出てくると思う。総理はきっと直ちに名目賃金を引き上げることは困難だから、他の行政措置でそういう保護をする、こら答弁するだろうと思いますが、答弁になってからまごつかないように——そういう答弁がないとするなら、今言っておる誓いの言葉はまるでほごになりましょうから、この辺がこの国会では国民の前にあなた方が誠実をお示しになる具体的な事例だと思いますので、一つ次会にもっとこくのある御答弁をいただけるように希望いたしまして、今日は私の質問はこれで終ります。
  34. 藤本捨助

    藤本委員長 井堀委員のただいまの質疑に対する答弁はあとに譲り、しばらく休憩いたします。     午後零時三十二分休憩      ————◇—————     午後二時七分開議
  35. 藤本捨助

    藤本委員長 休憩前に引き続き会議を再開いたします。  午前中の質疑を続行いたします。石橋政嗣君
  36. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 私は、駐留軍関係の直用労務者の紛争処理機関がこのたび設けられようとしておるようでありますが、これについて若干の質問をしてみたいと思っております。  すでに御承知の通り、駐留軍の労働者の中には間接雇用労働者、いわゆるLSOの労働者と直接雇用労働者があるわけでありますが、間接雇用労働者の面では、雇用主が日本政府であるという建前であるために、比較的に労働条件その他直用労働者に比べまして恵まれており、また国内法の適用の面につきましても、不完全ながらまだ保障があるわけでありますが、直用労働者の面においては、全然国内法の保護もないといったようなみじめな状態に置かれておったわけであります。これを何とかしなくちゃならないというので日米の政府の間でかねがねお話が進められておって、ここに初めて紛争処理機関ができたという点においては私は一応の前進であろうか、このように考えております。しかし実際にいろいろ検討を加えてみますと一歩前進だと認めたいのでありますけれども、基本的な問題をあまりにあいまいにぼかしているために、かえって下手な運営をやると結果的に見れば大きな後退を意味しはしないか、こういう懸念を持っているわけなのであります。現にこの紛争処理機関が設けられた理由の中にも、はっきりと懸念があるわけです。それは何かといいますと、「在日合衆国軍隊の歳出外資金諸機関に対する日本国の裁判所及び労働委員会の管轄権について日本国と合衆国との間に見解の相違があることにかんがみ」と、結局裁判管轄権の問題が基本的に解決されておらないので、暫定的にこういうものを作るんだ、こういうことがはっきり出ているわけですが、一応、この問題を論議しておれはどうにもならぬから、にっちもさっちもいかぬからということはよくわかる。わかるけれども、それをたな上げにしていろいろなものを作るということは完全に日本政府が後退することを意味すると思う。アメリカ側の主張が百パーセント通ったことになりはしないかという懸念をわれわれは持つわけなんです。日本政府が後退するということは、それだけ日本労働者の保護の面において欠くるところがあるということを意味する。私どもはこのような面で非常に大きな懸念を持っておるわけです。そういう考えの上に立って、より具体的に一つ一つ質問を進めてみたいと思うわけでございますが、まず第一に、こういう機関ができるということはわかります。使命をもわかります。しかしそれでは肝心の、従来不明確になっておった雇用関係というものが一応明確になされておるのかどうか。いつぞやもこの委員会で私質問いたしましたけれども、どうもあいまいであったわけです。それはもう一度申し上げると、軍直労働者法律上の雇用主というものは一体だれなんだということです。紛争処理のための機関というものが設けられるからには、この雇用関係というものが明確になされなければならぬ。雇われている直用労働者法律上の雇用主は一体だれかということが明確になされずして紛争処理ということはちょっと出てこないのじゃないかと私らは考えるわけです。そこで一体軍直接雇用労働者、歳出外資金諸機関に働いている者、そのほかございますが、主として今度取り扱われるのはこの歳出外資金諸機関関係だけに限られておるようでございますから、この面において日本労働者雇用主というのは一体だれか。これをまず明確にしてもらいたいわけです。言葉をかえていえば、歳出外資金諸機関そのものなのか、あるいはその背景をなしておるところの米軍なのか、これを明確になされたのかどうか。そこからまず御質問をしてみたいと思います。
  37. 中西實

    ○中西政府委員 今の問題はかねてから御質問もあったところでございますが、いろいろの機関があるわけでございますが、雇用関係は結局機関に雇われる。そして機関にはそれぞれ責任者といいますか、代表者がおりますので、従って雇用関係はその機関との関係雇用が行われておる。しかしいろいろな紛争議によって使用者側に立つ人というものは、それぞれの機関において代表者がきまっておる。こういう関係になろうかと思います。
  38. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 この行政協定十五条でいうところの歳出外資金による諸機関というのには、海軍販売所とかPXとか食堂、社交クラブ、劇場、そういったものがあるわけです。その機関そのものに代表者がおる。これがいわゆる雇用主だという御説明でございますが、先回私が質問いたしましたときにも、その点局長は明確にしておらない。結局それをバック・アップしておるところの米軍というものが大きく表面に出てくるのだということを言っておられる。結局その諸機関と米軍そのものとの関係というものが非常に不明確なんです。ある場合には諸機関の代表者が雇用主として出てくることもあるかもしれないけれども、実際にはエイゾン・オフィサー、レーバー・オフィサーというものが出てくる。これが非常に混合されて責任転嫁の形になるおそれが多分にあると思う。一体米軍が諸機関に対して、労使の面においてどれだけの権限を持っておるのか。おれたちがこの面についてもお前たちと話し合いに応ずるというだけの法律上の権限というものがあるのかどうか。私が聞いていることはこういうことなんです。労使の面における軍と諸機関との関係、そこのところをもう少し明確に御説明願いたいと思います。
  39. 中西實

    ○中西政府委員 軍にやはりこういった歳出外諸機関の労務についての責任将校がいるわけでありまして、その将校が常に監督の地位にあるのでありまして、そうして労務についての原則というものは、その軍の担当官の方から出る。その出た、また作られている原則によりまして、この諸機関の代表者がいろいろの措置をとる。そうして個々の具体的な措置につきましても、特異なケースあるいは新しいケースという場合には、やはりレーバー関係のオフィサーの指示を受けるというかっこうになっているようでございます。
  40. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 そこで端的にいえば、労務連絡士官というものと諸機関の代表者というものと、二人並べたときに、最終的に労使の問題で責任をとるのは一体どちらか、こういうことです。
  41. 中西實

    ○中西政府委員 機関の代表者というものは、まず形式的には使用者という側に立って行動するわけでありますが、その方針なり監督はレーバー・オフィサーの指示によっているという関係になっているようであります。
  42. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 行政協定によって駐留軍の直接雇用労働者といえども、国内法の適用を受けるわけです。そういう場合に一体責任者を日本政府はどちらにして交渉されるのですか。労務士官に権限があるのか、監督の立場にある労務連絡士官に責任があるとして日本政府はそういう場合に臨むのか、それとも諸機関の代表者にあるとして臨むのか、そこのところをもう少し明確にお示し願いたいと思います。
  43. 中西實

    ○中西政府委員 たとえば労使が話し合いする場合におきましても、一応われわれの方として労使という場合に目しますところは、使用者側としてはその代表者、しかしながらその場合に、やはりリエイゾン・オフィサーが出ておればそれも一緒に入って話し合いをする、こういう建前に向うも考えているようでございますので、従ってこれは実質的には両者一体として考えざるを得ないのではないか、形式的には機関の代表者が一応使用者の立場を代表する。こういうふうに考えております。
  44. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 それでやや明確になって参りました。私は雇用関係が非常におかしなのは、間接雇用労働者だけかと思っていた。間接雇用労働者は、法律上の雇用主は日本政府、実際上の雇用主は米軍、いわゆる二重雇用のような妙な形があるわけです。直接雇用労働者にはそれがないかと思ったら、今の局長のお話で、直接雇用労働者にもそれがある。まあ当てはめていえば、雇用主としての責任は、出先では当然軍労務士官がとられねばならぬだろうが、実際上の使用主に当るような者は、これは歳出外諸機関の代表者そのものである、こういうようなおかしな形が直用関係にもあるように受け取れるわけです。特に今一体だというようなことを言っておられます。確かに最近中央労働委員会から出されました命令、これは一月二十九日に確定しております命令ですが、その中でもややそれに近いような見解が述べられているようです。非常に参考になりますから読んでみますと、「右基地兵員会堂における日本人直用労務者については、同食堂を利用する各兵員が負担金を出し合って雇用していたものであるが個々の兵員が直接使用者として立ち現れることはなく、右基地労務連絡士官が採用、労務管理、解雇等の権限を行使していた。」こういうふうに事実の認定をやっておるようです。私はこれは非常に大切な問題だと思う。明らかに歳出外諸機内の、雇用関係といえども米軍そのものが全責任を負うような形になってきておる。これは表裏一体といっていいような関係にあるということなんです。そう考えていきますと、新しくできようとしている処理機関というものは非常に公平を装っておりながら、実は不公平きわまるものではないかと私は思う。なぜかと言えば、少くとも紛争処理、調停を目的とする機関であるならば、公平ということが使命であり生命でなくちゃならぬと思う。その公平を期するためには委員会の構成というものがやはり最上のものでなくちゃならぬと私は思う。この構成を間違うと公正を欠くきらいが出てくると私は思う。労働委員会あたりであのような三者構成がとられておるのも、公平を期する意味でとられていると私は思うのですが、しかし今度できようとしておる紛争処理機関の委員は、実は六名の委員をもって構成するとなっている。そのうちの三名の委員日本政府が、他の三名の委員は合衆国政府が、労働問題に関する学識経験者ただし日本労働組合または類似の団体の職員または構成委員を含まない、の中から任命する、とある。そうすると少くとも雇用関係における当事者である米軍の方は、みずから委員を任命する権限を持っている、ところが片一方の当事者である労働者あるいはそれを代表する労働組合には、この委員の任命については何らの権限がない。両当事者の片一方は委員を推薦し、任命する権限を持ち、片一方は持たないで日本政府にまかせるというような形になってしまった。これは委員任命の面において非常に公正を欠く、このように私は思うわけです。少くとも当事者の片一方である米軍側に委員を任命する権限があるならば、もう一方の当事者である労働組合側にも委員任命の権限が同様に与えられなければ公平を期し得られないと私は思う。それは、日本政府は中立機関であるからとおっしゃるかもしれない。少くとも労使の関係に対しては中立の立場をとることは私たちは実際は不満です。日本政府は中立機関ではなしに日本労働者側の立場に立ってやってもらいたいのですが、そこまで言わないにしても、中立的な立場に立ってとは言いながら、その中立的なものと片一方の当事者だけが委員の任命権を持っておって、もう一方の当事者は任命権を持たないということになると、もうすでに委員構成の面において不公平を生ずるのではないかと考えますが、その点の矛盾はいかがでしょうか。
  45. 中西實

    ○中西政府委員 そもそもが軍関係の問題でございます。従ってこれは問題ば単に日本と米軍にこの問題があるんじゃなしに、ヨーロッパにおきてましても、やはりアメリカ軍の駐屯しておる国におきましては同じような問題があるわけでございますが、完全に第三者的立場ということを考えます場合に、今おっしゃいましたように、歳出外諸機関も軍と密接な関係を持っておるものなら、その方から選ばれるということになると、完全な第三者でないということも成り立つかもしれませんが、しかしながら問題は国と国との関係でございますので、従って両国の政府代表が出るということ以外にはやはり考え方としてはあり得ないじゃなかろうか、その任命されますのは当該諸機関の代表者ならおかしいのですけれども、そうじゃなくてやはりアメリカ軍、アメリカ政府の代表が出るわけでありますから、従って向うから言わせますれば、諸機関と、出てくるところの代表というものは全然違うものです。米国政府の任命する者ということなんだから、公正な者である、日本側もやはり政府任命という者が出るのであるから、そこはあいこじゃないかという議論になるわけなんで、われわれとしましては、こういう構成以外には、こういった機関を作るといたしますれば、ほかには考えようはないというふうに一応考えておるわけであります。
  46. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 それは私はちょっとおかしいと思うのです。先ほど局長は諸機関と軍の関係は非常に密接でほとんど表裏一体のものだということをお認めになっておるのです。事実軍自体そういうふうな指令も出しておるわけなんです。合衆国の軍人軍属はたとい諸機関の代表者であろうと、構成員であろうと、合衆国軍当局だけが責任を負うんだということを言っておる、密接不可分の表裏一体関係にある。     〔委員長退席、大坪委員長代理着席〕  私はこれを区別するのはちょっと困難じゃないかと思う。ところが片一方労働者日本政府とは、そういう関係にはございません。日本政府が米軍に対しては完全に労働者と表裏一体、そういう立場をとるというならあなたの理屈も私はわかります。しかしそうじゃない、少くとも諸機関と米軍との関係ほどの密接さどころか、その半分の密接さも労働組合と日本政府の間にはないのですよ。それを米軍の方からも選ぶ、労働者側じゃなしに政府からも選ぶ、それで公平だということは私は少しこじつけに過ぎはしないかと思う。しかも先ほどちょっと読み上げましたように、日本労働組合または類似の団体の役員または構成員を委員にしちゃいかぬというのです。これが生きておれば、まだまだあなたの言うことも納得できます。少くとも日本政府が推薦して任命する委員というものは、組合の役員だとかあるいはこれと類似の団体の役員だとか構成員だとかいうならば、やや公平を期するに近い形の委員構成ができると思うけれども、そうじゃない、わざわざのけてある、そういうものはいかぬと言っておる。それでもって委員の構成がこのような形で公平が期されておるというようなことは、私はちょっと詭弁に過ぎると思うのですが、そこのところをもう少し納得のいくような公平な委員の任命にしたいというような意思はないものかどうかお伺いいたします。
  47. 中西實

    ○中西政府委員 もっとも同じような任命方針を考えるならば、たとえば軍じゃなくてアメリカ人のだれか中立的な人を任命し、日本側も日本政府職員以外のだれか公正な第三者というものを任命して構成するという手もあるかもしれません。しかし問題はどっちかと言えば日本法律適用をめぐっての政府間の問題でもございますので、従って両当事者、政府の職員、これが双方から出るということを向うは建前に考えておるようでありましたけれども、日本におきましては何分にも政府職員上りは民間の公正な人の方が信頼があるような実態でございますので、そこで日本政府職員もなり得ますけれども一般労働問題に関する学識経験のある者から任命する。しかしそれは政府の代表者として任命されるわけであります。アメリカの方はどういう人を任命するか、それは向うが選択することになるのであります。結局両国政府が任命する者によって構成するということで、そこは同じ関係になるのじゃなかろうかというふうに考えてあります。
  48. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 それじゃ一歩を譲って考えた場合に、合衆国政府がこの委員を任命する際に、結局労働問題に関する学識経験者の中かも三名選ぶわけですが、いわゆる労使の問題について中立的な考えを持ち、そういう立場をとり得るような人を任命するということを、あなたは確認できますか。必ずそういう労使の問題について中立的な立場に立って問題を考え、処理するような人を米軍側も選んでくれるだろう、その点についての自信がおありでございますか。
  49. 中西實

    ○中西政府委員 中立ということの考え方いかんでございますけれども、少くとも向うから出てきます者は、具体的な事件については米軍の立場、それからまた日本法律制度、そういうものを両方勘案いたしまして公正に判断する人が出てくる、これはわれわれもそう信じております。
  50. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 中立ということは非常に抽象的ですが、具体的な例をあげれば、たとえば中央労働委員会の公益委員になられるような人たち、こういう人たちを米軍側も推薦してくるだろう、こういう期待がはっきり持てるかどうか、あなたに御自信があるかどうか、こういうことです。
  51. 中西實

    ○中西政府委員 向うはまだ具体的に人選まで話し合いしておりませんけれども、そういう人はこの日本にはほとんど在住しておりませんので、そういう人をもし任命するとなればおそらく本国から呼んでくる様なことになるかと思いますが、そこまで私は考えてないのじゃなかろうかと思います。結局軍の中で公正に判断し縛る立場の人、これは推測ですから当らないかもしれませんが、法務官とか、そういうようなのを考えておるのじゃないかと思っております。
  52. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 私もそうだろうと思うのです。軍側がそれほどまで紳士的に出てくるとは思いません。やはり米軍側の利益擁護という色彩を非常に強く出してくると思う。日本委員会の例をもってすれば使用者側の委員というような人たちに類似する者が出でてきやせぬかという懸念があるわけです。それに対するに今度は日本政府、あなた方が任命する委員一体どういう人たちが選ばれるか、こういうことになるわけですが、大体今のお考えといたしましてどういう人たちを選びたいというようにお考えですか。
  53. 中西實

    ○中西政府委員 われわれの話し合いでは、日本政府職員、退職判事その他学識経験者からというふうに一応規定上はいたしたいと思っておりますが、現実にはやはり労働側の御意向もしんしゃくして、この人なら日本代表としてまず信用が置けるという人にしたい、それが政府職員の中にありますればそれもよろしいし、あるいは労働委員会の公益委員のような人がよければそれもよろしい、それから法律問題も相当からんでおりますので、裁判官上りの人とか弁護士というような人も、その中にいい人がおればそれもいいんじゃなかろうか。いずれにしましても、全く当事者の信頼を得られないような人を任命いたしましてもこれは円滑に行きませんので、その点は——具体的に発足しますのは相当あとかと思いますけれども、その際には十分考えたいと思っております。
  54. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 片一方の軍が推薦してくる者は、私は先ほど例をあげて申し上げた。少くとも公益委員よりも右寄りの資本家側の委員、これに近い形の者が出てくる。日本政府が任命する委員というものは、公正にやってもせいぜい公益委員的な色彩の強い人が出てくる、こういうことになると思う。そうすると、そこで取り扱われる問題について、果して労働者にとって公平だと考えられるような調停なり裁定なりが出てくるか、私は非常にその点で疑問を持たざるを得ないわけなんです。特に、わざわざ労働組合やこれに類似の団体の役員や構成員はいかぬというただし書きが入っておる、それはまずもってこの委員の構成の面で公平を失しておる、このように考えるわけです。ここのところをもう少し検討していただいて、最初から委員の構成の面からしてもう労働者側が納得できないような、公平を期待できないような形のものを出してくるということはまずいのではないかと思いますので、もう少し納得いくようにこの委員の任命をするように、一つ検討していただきたいと思うわけですが、いかがでしょう。
  55. 中西實

    ○中西政府委員 当事者である労働者代表が入ることはやはり穏当ではないと思いますので、組合の方の御意向も聞いたのですけれども、特にこれを排除する、こう字で書いてあるので目ざわりだが、それは了承するという話であったのであります。そこで両国政府が任命するので、やはりその場合には両国政府のそれぞれの立場を代表するものとして、それぞれの国の利益を代表するということになるのでありますので、従って初めから向うの代表が使用者側的だというように言うのもちょっとどうかと思います。これはやってみないとわからないのでありますが、しかし理不尽な結果が出るようなものなら、作りましてもだめなんで、そのときはやめてしまえばいいと思います。しかし私どもとしましては、今どうにもならない、全く膠着状態で解決がつかないもんですから、もしこういった機関で問題の解決がつくのならプラスじゃなかろうか、やってみて悪ければやめてもいいのではないかと思いますけれども、今のところはこういう機関でも十分注意して運用をお願いすればある程度の効果を発揮するのではなかろうかというふうに考えております。
  56. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 あとたくさん問題がありますので、この問題だけやっておりましてもなんですから、それじゃさらにこの線でいくにいたしましても、少くとも日本政府側が任命する委員の選任に当っては、関係組合の意向を聞くとかいうふうな程度のことはお考えになっているのかどうか、この点についてお伺いをいたします。
  57. 中西實

    ○中西政府委員 われわれとしましては、その意向は十分尊重してやりたいというように考えております。
  58. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 それじゃ次に、従来確かに仰せの通り軍直労働者の問題が保障のないままに放擲されておったわけです。もしこれがほんとうに発足いたしますれば、運営さえ誤まらなければ一歩前進という形が出てくるわけでありますが、それにしましても軍直に関して出てきたトラブルは全部この調停委員会に持ち込んでくるのだという考えは、いささか飛躍した考えになりはしないかと思います。やはり労使の問題はまず第一にその労使間において十分に話し合いをする、交渉を持つということがなされて、それでもどうしても話し合いがつかないというものだけがここに上ってくるという形がとられなければならないと思うのでございますが、これができたから文句があるなら何でも調停委員会に持っていけというふうなことじゃ私は困ると思うのでありますけれども、その点現場の労使の間に話し合いを持つということ、もっとかたくいえば交渉をする、法的にいえば団体交渉の権利というものはあくまでも確保されて、それでどうもならぬものだけが上ってくるということが保障されておるものかどうか、この点を伺いたい。
  59. 中西實

    ○中西政府委員 今の団体交渉の問題でございますが、この点も向うと非常に議論のあるところであります。彼らはやはり軍だというふうに考えておりますので、従って対等の団体交渉というようなこと、つまりコレクテイヴ・バーゲニングという言葉を使うことを非常にいやがっておりますし、それは認めたとは言っていません。しかしデイスカッスという言葉で、討議するということは向うも行う、しかもその場合にはレーバー・オフィサー立ち会いのもとに行う、それはいつでも応ずるということで、向うの内部の方針としても流しておるようでございます。従って話し合う機会というものは十分に確保されておる。団体交渉という言葉を使うかあるいは討議という言葉を使うか、その言葉にこだわっておるとなかなか解決しませんので、現実話し合いができればそれでいいのじゃないかということで、私はもうそこは強く言わないことにしておりますが、そうい話し合いはできる道ができておるというふうに考えております。しかしながら権利争議、利益争議と厳格に二つのものを分けるわけにいきませんけれども、個々の具体的な人事問題で当然苦情処理の手続あるいは訴願の手続その他によって解決し得るようなものなら、やはりせっかくこういう機関ができますれば、それへかけて円満に合理的に解決するというのが望ましいというふうに考えております。
  60. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 交渉という言葉が気に食わなければ気に食わないでもいいのですが、第一段階、そのトラブルが起きておるところで話し合うということの保障がもし確保されておるとするならば、実際問題として条文の中にもそれが織り込まれるということが私は望ましいと思うわけですが、その点は否定されておらないということで一応了承いたしましょう。しからば基本的な考え方として、日本政府は軍直労働者にいわゆる団体交渉権があると考えられておるのか、軍と同様な考えを持っておられるのか、その点だけ確かめておきたいと思います。
  61. 中西實

    ○中西政府委員 私どもは原則といたしまして行政協定第十五条によりまして、日本法律によって労働者の権利というものが保障されておるのだというふうに考えております。従って私どもとしましては、特別な合意というものは今のところないと考えておりますので、交渉権もあるのだという解釈でおります。しかし向うは先ほど言いましたように別な考えを持っております。そこは管轄権と同様しばらくたな上げして、とにかく話し合いができるというところで、一応今のところは、それ以上には突っ込んで、何が何でも団体交渉権があるのですねというふうには詰めておりません。
  62. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 今もちょっとお触れになりましたが、こういう機関を作ることによって行政協定の第十五条四項にいろ合意された機関とみなされるおそれはないかということを私どもは非常に心配しておるわけでございますが、この点についての保障は明確でございますか。
  63. 中西實

    ○中西政府委員 これは今まだ完全に合意という点にまで達しておりませんけれども、一応両国の間でこれでいいということになれば、これは一つの合意には違いないのであります。しかしながらこれは合意ではありますけれども、その合意たるや日本法律によるというの日本法律による諸権利を制限したものじゃない。従ってこれは暫定的に日本法律によるものにプラスしたものだというふうに考えております。
  64. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 大体それでわかりました。そこで一番の問題点に入るわけでございますが、実は紛争処理機関ができましても、いわゆる保安解雇といわれるものについては取り扱わないということになっているわけです。これは私非常に重大な問題だと思う。なぜならば現在起きておりますトラブルの四分の一はこの保安解雇なんです。ほんとうに駐留軍の保安上害をなすから解雇するというならばまあまあ言い分がございます。しかし実際はそうではない。はっきりと不当労働行為と目される事案がいわゆる保安解雇という名目で次々に起きてきていることは御承知の通りなんだ。労働者にとって首を切られることが一番のつらいことであり、これ以上の何らの苦痛もないといっていいほどです。この案件について何らこの機関が取り扱わないということを最初から打ち出していくということは、この機関設置の意義をすでにスタートにおいて大半失っているというように考えていいと思う。軍は講和発効の直前にこの労働委員会で占領軍関係の事件を取り上げてもいいというような覚書を出しておった。それで講和発効後は、労働者側はどんどんこの労働委員会を利用して保護を求めていった。しかるにその後完全に労働委員会をボイコットしている。しょうがないからさらに裁判所に持ち込むと、これまた裁判管轄権の問題でボイコットいたしている。労働者は首の切られぱなしです。労働委員会が幾ら救済命令を出しましても一つもこれが行われていない。今までの統計をこまかくは申しませんが、見てみましても、昭和二十六年から三十一年までに争われた事案が百四十八件ある。そのらち三十五件が保安解雇という名によって首を切られている。この点において間接雇用労働者の面から見てもほとんど保護は加えられておりませんが、労働者にとって勝訴があった面において、緊急命令その他の処置で若干は救われている。ところがデレクト・ハイヤーは、どんな命令が出ようとも全然従わないだけではなしに、委員会そのものをボイコットする態度をとっている。私はこの肝心の保安解雇をこの機関で頭から扱いませんというのはけしからぬと思う。そういう態度ではなしに、すべてこれは申請したらそのまま採択するという形にはなっておらないようです。採択するかどうかは多数決によってきめるようになっている。だから何も保安解雇の問題については触れませんということを述べておく必要はないと思う。明らかに保安上の問題だと目されるかどうかというようなことも、この申請された事案を取り上げるかどうかというときに論議してやればいいのではないか。最大の譲歩をしても私たちはそう考えるわけです。それをやらないということは一先ほどから申し上げているように、この機関設置の意義の大半がすでにスタートのときに失われているというふうに私どもは考えているわけです。この点についてのお考えを伺います。
  65. 中西實

    ○中西政府委員 お説のごとく私どもも米軍と交渉の際には主張したわけでございます。保安解雇と不当労働行為による解雇というものが非常に関連性を持っている場合が多いのです。少くとも、まあ保安という理由がはっきりすれば、これはやはり軍のことでございますのでやむを得ないが、しかしこれがはっきりするまでは一応受けつけることもやむを得ないのではないかという話をるるしたのでありますけれども、とにかくこの保安に関する限りは事は別なんだという、これは向うの大方針のようでございました。何時間か費したのでありましたが、これは全く方針の違いで、いかんともしがたかった点でございます。そこで、保安につきましてはおっしゃるような心配もございますので、これはさらにあらためて速急に間接雇用との振り合いを考えて何らかの手続を話し合いたいということで今手続を準備いたしております。
  66. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 間接雇用の問題とからみ合せて別個に何らかの措置をするということでございますから、さらに追及することはいたしません。しかしながら私ども懸念するのは、今の問題ともからんでこの機関を作ることが裁判管轄権の問題についてたな上げするのだというのではなしに、実際は米軍の主張をまるのみしてしまうんだという形になることをおそれておる、それを裏づける一つの問題にもなると思うのです。たな上げという美名のもとに実際は米軍の言うことを百パーセンート聞いて日本政府が後退してしまっておる、日本政府には裁判管轄権はないんだ、こういうふうな態度になってしまいはせぬかという懸念を私どもは持っておるわけであります。そこで一つ、すでに労働委員会なり裁判所で命令なり判決なりが出ているものは一体どうするつもりか、この点について明確な御説明を願いたいわけなのです。先ほど申し上げたように、昭和二十六年から三十一年までに扱われた百四十八件のうち、命令決定のあったものが七十六件あります。ISOで六十七件、直用で九件、そしてこの六十七件のうち労働者が勝訴になっているのが三十八件ある。しかし実際に履行されたものはたったの五件です。片方の直用労働者の面ではいかなる勝訴の判決があろうと、命令が出ようと、全く放置されておる。直用労働者だけは日本労働法規の保護を全く受けないという形が現実の問題として出てきているわけです。しからば一体この処理機関を発足きせるに当って、今まですでにそういうふうな命令なり決定のあったものは一体どう扱うのかということが基本的な態度として打ち出されておらない。先ほど申し上げたように裁判管轄権の問題についての争いに日本が大幅に後退した、米軍の要求を百パーセントのんだというふうにそしりを受けてもやむを得ないようなことになるかとも思いますので、この点について一つ明確に態度を表明していただきたいと思います。
  67. 中西實

    ○中西政府委員 私どもは日本側の裁判管轄権、労働委員会の決定に対する権能というものが在日米軍の歳出外資金諸機関にも及ぶ、こういう態度でおりますので、従来出ました判決あるいは労働委員会の命令は履行さるべきだと思っております。しかしながら向うはそれを否認しておるわけであります。そこでわれわれとしましては当然履行してもらいたいと思いますけれども、すでにきまったものにつきましてどう扱うか。これは実は目下話し合いをしているところなのでありまして、あらためて今度でまますこういった機関でその取扱いをきめるか、あるいはまた別個外交折衝できめるか、合同委員会あたりでこれをきめるか、きめざるを得ないと思っておりますが、今まではとにかく紛争処理機関を作ろうじゃないか、それを中心に話し合いをしてきた、今後今まできまったものについてどうするかということについて厳重な話し合いをいたしたいと思っております。
  68. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 それではまだ十分に納得できないわけです。少くともすでに日本の権威ある司法機関あるいは準司法機関で命令なり判決なりが下されているものについて便々と問題処理をおくらせておるということは、単に労働者が困るということだけじゃなしに、日本政府の面子という言葉は悪いのですが、日本政府の体面にも私はかかわると思う。自分たちが労働者を保護すべく、日本国民を保護すべく作った機関において、個々の決定を出した、それがどうにもできないということでそのまま放置しておるということは重大問題です。私はこの点でもう少し積極的な態度をとってもらいたいと思う。私は、大臣が来たら大臣にも聞きたいところですが、これは行政協定そのものがあいまいなんだからというような考えで逃げてしまってはいかぬと思う。あいまいなら改訂運動を起せばいい。この点、大臣がおられないので政務次官の見解を一応聞いておいていいと思うのですが、もし行政協定の条文があいまいだから完全に保護ができないのだということであれば、この面からも行政協定を改訂せにゃならぬという声が、少くとも政府特に労働関係行政に携わっている労働省あたりから当然出てこなければうそだと思う。そうでなければ、いかに労働者を保護してやる、そう言ったってこれは口頭禅に終っている。行政協定は今のままでも守れるのだというならば、もっときぜんたる態度をもって、命令、判決の出たものは絶対実行させるだけの理論的な武装もし、真摯なる交渉もして、軍なりアメリカ政府なりを納得させにゃならぬ、このように思うのですがいかがでしょうか。
  69. 中西實

    ○中西政府委員 実は行政協定があいまいなことは確かでありまして、従ってわれわれといたしましてもできることならはっきりしたものにしてもらいたいということは、事務の者としては思っておるわけでございますが、しかし、もしはっきりするならば、おそらく今よりは後退したものでなら話はつきましょうけれども、今のままではっきりさすということは……。これはかねてから双方に食い違いがあることは御承知の通り。そのためにこそ今度の調停委員会に紛争処理機関も作らなければならぬという仕儀になったわけでございます。従って、これは行政協定改訂問題ということで解決するということになりますれば、かえってそれは現行よりも不利になる傾向の方が強いという考えも成り立つわけであります。この点につきまして、先ほども申しましたように日本だけじゃなくてドイツその他にもアメリカ軍が駐屯しております。それの当該の国の人たちを雇用しておる関係、これは必ずしも日本のようではないのでありまして、それあたりとの振り合いを見ますると、向うの主張もあながち全然無理押しともいえない事情もあるのであります。それこれありまして、われわれとしましては、一応この問題はさらに法務省が一そう大きな関係を持っておるのでありますが、法務省とも一緒になりましてこれを外交問題として折衝するということにして、とりあえずの直用労務者の紛争処理機関を別個に便宜的に作っておこうというのが考え方でございます。
  70. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 この問題はこれ以上局長にお聞きしても私が納得するような答弁は出てこないと思う。これははっきり言って政治問題です。言いたいことは大臣が来てからこの点について再度お伺いしましょう。政務次官からお答え願えればけっこうですが、その点はあとで聞いてもけっこうです。とにかく砂川の基地の問題なんか出てきますと、政府は、行政協定でわれわれ義務づけられているんだ、アメリカに約束をしているんだ、だから何が何だって提供せざるを得ぬのだ、こういうことを言う。アメリカに対して日本政府が勤める面では行政協定を持ってきて、どうにもならないんですから、こう言う。アメリカに守らせる面においては、何ですか北大西洋のNATOの諸国の場合と比べて日本の方がちょっと行き過ぎておるようです、出過ぎておるようです、協定そのものが日本にあまり有利なようになっておるんで、あまり無理も言えないんですというようなことでは私は首尾一貫しないと思う。特に石橋内閣は自主外交を高らかに唱えておられる。対米関係の調整を打ち出しておられる。少くとも従来の鳩山内閣、吉田内閣とは違って、もうちょっと気のきいた態度がこの面でも出てこなければ、これは単なるから念仏だといわざるを得ないわけです。しかしこれは先ほども申し上げたように大臣が来てから一つこの点だけ答弁を願いたいと思いますので、至急大臣に来ていただくように御連絡方をお願いいたします。  少し細部に入りますが、第三条の第二項に、部会は委員会から付託された事案について調査、審問及び事実認定を行い、並びに委員会に対して勧告を行う権限を有する。こういうふうに書いております。ところが私どもといたしましては、これを若干修正していただいた方が運営の公正を記する面でいいんじゃないか。それはどういうことかと申しますと、具体的に修正の案文を申し上げますと、調査機関は調査機関に、付託された事案について調査、審問及び事実認定を行う権限を有し、客観的事実関係についてのみ報告する責任と義務を持つものとする。こういうふうに加えておいた方が、部会に報告するための事実認定を行うとあるこの場合、調査機関の判断、認識が委員会、部会の公正な判断の妨げとなるようなことではいけないということの考えの上に立って、そういう字句をこの上につけ加えておいた方が無償じゃないか。こういう考えを持っておりますが、その点についての御見解をお伺いいたします。
  71. 中西實

    ○中西政府委員 ちょっと全般的に希望を申し上げたいのでございますが、この紛争処理機関の問題は、実は合同委員会からおりまして、今レーバー・サブコミッティでやっております。そしてそれも合意にまだ到達いたしておりません。従ってこれは実は非公式のものでございまして、これが新聞等に出ましたために、向うのチェアマンから非常に文句が出まして、なぜ公表する、公表なんかする約束じゃなかったがということで、非常な注意もあったようなことでございます。私どもといたしましては、この問題は労働側の全面的な協力がなければ実施ができない、そういう性格のものでございますので、便宜関係労働組合にてんまつ並びに案というものを示しまして意見を求めたのでございますが、しかしながらこれは対米軍との関係におきましては、まだ実は秘ということになっておるのでございます。従って案としましては、これは隠すべくもなく条文的にできてはおりますけれども、しかしながらその各条につきまして、これが公けの席でまだ論じられる段階のものでないということでございますので、どうぞその点お取扱い——きょうも何か向うから注意があったようでございますので、これは両国の折衝の過程のものでございますので、一つそのおつもりで御審議いただきたいと思います。
  72. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 それでは条文を離れてお尋ねいたします。調査機関というものがこの委員会の下にできると思う。この調査機関が調査審問、事実認定をやる場合に、誤まった報告を部会なり委員会にやるというようなことになりますと、非常に問題が出てくると思う。そこでこの調査の公正を期するということが絶対の条件にならなくちゃならない。だからその条文を作るときに、公正を欠くようなものが調査機関から上に上げられてくるというようなことを防ぐ必要がある。このように考えるわけですが、その点はぬかりなくやっておられるかどうか。それではそういう点に質問を変えたいと思います。
  73. 中西實

    ○中西政府委員 その点につきましては、これはやはり厳正に客観的な事実というものを把握して、それに基いての判定がなされれなければならない。従って事保安に関することにつきましては限度がございますけれども、両国政府とも事実認定のために必要ないろいろの証拠、こういうものの提出については全面的に協力するということで参りたいと思っております。
  74. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 先ほどもちょっとほかの問題で触れましたが、申請がなされてきたその事案は全部この機関で扱わないというような態度をとっておられるようです。ところが、たとえば先ほど言った保安解雇の問題などを最初から取り扱わないのだというようなことをやめて、この取り上げるか取り上げないかという形の論議の中できめたらいいじゃないかという一歩下った案を私示したわけですが、それにいたしましても多数決で過半数の賛成がたければ取り上げられないのだということであると、もしかりに米軍側から推薦された三名が結束してこれば取り上げぬと決めれば、何も上ってこぬということになります。こういうことでは最初からつまずいてしまいますから、少くとも政府側から任命される者と米軍側から任命される者とそれぞれ三名おるとするならば、過半数でその処理取扱いをきめるということじゃなしに、少くとも片一方政府側から選ばれた委員の過半数がこれは取り上げるべきだということであったならば、具体的に言うと、二名の者がこの事案は取り上げるべきだということであったならば、当然取り上げるような形がなされておかなければ、私は最初から不公正になる、このように考えますが、その点はどういうふうに考えて両方込みにして六人の過半数、多数決という形でおきめになったのか、そこのところを一つお伺いいたします。
  75. 中西實

    ○中西政府委員 これは国と国との間柄の事案を解決する場合には、両方から同数、合同委員会におきましてもこれはやはり意見が分れて解決しないというような問題も出てくるのでございますが、そこで保安のことは全く問題外というふうになっております。あとはあるいは話し合いが十分できたとか、あるいは事情処理手続を経たとかいうような、そういったことが問題になりはせぬかと思うんですが、しかくいつでも過半数にならなくて上ってこないというようなことはないのではなかろうか。もしも両方意見が分れた場合には合同委員会できめられましょうし、合同委員会でどうしてもだめだといえば、これはもう外交折衝よりしょうがない。これは国と国との関係でございますので、やむを得ないのじゃないかと思いまするが、そう常ににっちもさっちもいかなくなるような事態ばかりが起るとは想像いたしておりません。
  76. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 この機関で最終的に納得のいく線が出なかった場合には、当然また振り出しに戻るというか、労働委員会なり裁判所なりに問題を持ち込むということも起り得るわけでございますけれども、その点の保証は明確になっておるものかどうか。書面にサインをして絶対に採決に従わなければならぬ、これを尊重しなければならぬと固苦しく考えられておるようでございますが、その保証はあるのかないのか。実際に委員会あたりに出た場合に、あなたは苦情処理の機関で勧告を尊重するということを書面にしたため署名までして出しておきながら、今さらそういうことを言うのはおかしいじゃないかということが出てきたのではまずいと思いますが、その保証があるかないかお伺いしたいと思います。
  77. 中西實

    ○中西政府委員 紛争処理機関というのは法律に基くものではなし、それの決定に拘束力があるものでもございません。やむない便宜措置として行われるものであります。従って今ペンディングなものでございますけれども、私たちはなお管轄権があるのだと考えております。しかし現実の問題としまして、労働委員会あるいは裁判所に持ち出して結果が出ても、向うがそれを尊重しないということになりますと問題は解決しない、結局問題が残るということになります。従って実際問題としては、できますればこの機関を百パーセント利用してもらいたいと考えております。
  78. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 もう一つ私たちが懸念していることなんですが、この機関は中央に一つできるだけですか。
  79. 中西實

    ○中西政府委員 決定する最終の機関というのは中央だけに置く構想でおります。
  80. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 そうしますと、遠く九州や北海道でトラブルが起きて交渉ではどうにもならなくなった場合にはすぐに中央に申請してくることになると思うのですが、そうですか。
  81. 中西實

    ○中西政府委員 問題の起りますのは出先でございますので、出先に調査するような機関を設けます。そういう書類の伝達その他窓口はやはり地方も通すようにしないとうまくいかないのではないか。実はまだそういう細目まで考えておりませんけれども、取扱いとしては当然そういうことも考える必要があると思っております。
  82. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 そうしますと、中央に事案が上って参りましたときの証人として、当事者その他関係者を喚問するようなことが起きてくると思うのでございますが、そういう場合の旅費あるいは日当というものは考えられておるかどうか、その点をお伺いいたします。
  83. 中西實

    ○中西政府委員 事実審査などは中央へ持ってきてもどうにもならぬことなので、地方においてそれが完結するようにやりたいと思っておりますが、やはり言い分を聞くというようなこともあって、中央に喚問することもあり得るかと思います。その旅費等については今のところ特に考えておりませんけれども、今後の研究問題といたしておきたいと思います。
  84. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 もし中央に喚問せにゃならぬ、旅費も出ないということになりますと、労働者が多額の旅費を使って出てくることはもう絶対に不可能だといってよいわけです。そうしますと、一方的な見方から問題が処理されるということも十分考えられると思いますので、旅費の支弁その他については何らかの措置を講じていただくように強く要望いたしておきたいと思います。  大臣が来られましたので、先ほどお尋ねしました点をあらためて大臣からお聞きしたいわけでございますが、現在駐留軍関係労働者の問題が、日本の司法機関あるいは準司法機関で取り扱われて判決なり命令なりが出ても米軍のボイコットを受けているわけです。審理の過程において出頭を拒否する、全然協力をしないということはもちろんです。判決が出、命令が確定したものにおいてすらこれに従わない、履行しないということが公々然と行われている。これでは日本労働者があまりにかわいそうではないか、納得がいかぬのではないかということをお尋ねしておるわけなんです。もし行政協定の条文が不明確なためにそういう言いがかりをつけられておるとすれば、労働者保護を任務とする労働省あたりからその面からでも協定を改訂する声が当然出てこなければならぬと思うわけですが、あなたは米軍がこういう態度を続けておる限り、労働者を保護するために協定を改訂する立場をとる意思があるかどうか。石橋内閣は自主外交を標榜しており、対米関係の調整を高らかに叫んでおる。協定で国内法を守るのだ、適用されるのだということが明らかにされておるにもかかわらず、米軍の横車で無視されるというようなことは、労働者が保護されないばかりじゃなしに、政府の権威にもかかわるし、公約もから公約に終るというような懸念を持っておるので、一つ明確な態度を示してもらいたい。一つの例として先ほども申し上げました基地の問題なんかでは、砂川の問題が起きたとき、行政協定で提供の義務を負わされているのだ、協定が悪いんだからわれわれとしては土地を提供せざるを得ないのだ、国民が反対してもやむを得ないのだと従来の内閣は特に強調しておった。おそらくこの面では石橋内閣といえども同様なことを言いやしないかと思う。日本政府は、義務を負わされる面についてはそのように忠実に行政協定を尊重しながら、米軍が義務を負う条項については強く押せないというようなことでは自主外交は望み得ないと思いますので、絶対に協定に示されておる通り国内法を守らせる、そのために全責任を持ってやる、もし協定そのものにあいまいなものがあってできないとするならば、その面からも改訂の必要性を政府部内の声として労働省あたりから出していくくらいの決意があるかどうか、一つ明確に御答弁願いたい。
  85. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 非常に米軍直用及びその他の被用者に対する御同情ある御質疑でありまして、御心情のほどに対しましては感謝いたしております。われわれといたしましても米軍の方との調整に努力いたしておりますが、御指摘のような関係はないとも言われないのであります。でありますから、行政協定の改訂問題につきましては、ひとりこの問題だけでなくて、防衛問題についても国内にそういう議論が相当ありますから、これは外務省とも十分相談いたしまして、またいろいろ協議して善処いたしたいと思っておりますが、今、直ちにお問いに対して労働大臣として改訂する意思ありと申し上げることはできないのであります。それぞれ関係を及ぼすところが非常に大きいので、政府部内において十分協議をいたしまして善処したいと思っております。
  86. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 明確にお答え願うことは困難かもしれません。しかし、先ほども具体的な数字をあげて申し上げたわけなんです。昭和二十六年から三十一年までの間に争われた問題が百四十八件あった。そのうちすでに裁判所の判決なり労働委員会の命令なりが出されておるものが七十六件ある。ところがそのうち労働者が勝訴したものが三十八件。しかしこの判決、命令に従って忠実に履行されたというものは、わずかに五件にしかすぎない。こういうことでは全く情ないと思う。だからもう少し、どうするのだということの見解が披瀝されなければ、私たちとしては、何のために日本の司法機関、準司法機関に持ち出したかわからなくなってくる。日本国民として国籍を持っている。税金を納めている。それなのにいわれなく法による保護を受けられないということでは、全くもってたまりません。だから、直接こういう保護の任に当らなくちゃならない労働行政の責任者として、何とかこういう人たちの法による保護を完全にしてやりたい、その障害が行政協定の条文にあるというならばそれを改訂してでも自分はしてやりたいというだけの決意を披瀝してもらいたいというわけなんです。少くとも石橋内閣というものは、そういうこともあわせて自主外交を唱えておるのじゃないかということを私は言っておるわけです。もう一度お願いいたします。
  87. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 切々とお話しになる点は、私もしごく同感です。けれども、まあ向うとすれば、ざっくばらんに言えば、講和条約が成立してすでに五年にもなるのでありますが、やっぱり占領軍であるというような余韻が多少残っておって、それで無理押しをやるような傾向もないではないと思われるのです。お話を聞いておりますとそういう点も考えられるのでありますが、アメリカの方とも、われわれはここの大使館等を通じて、日米の親善の上からみても、今御指摘のようなことがあってはならないのでありますから、そういう政治的な問題についても考慮してもらうように、われわれの方からも働きかけ、またそれぞれ出先におきましても、調停については十分努力するというようにしていきたいと思っております。決定した判決、命令等については、実行方について強力に推進していきたい、かように思っております。これは私は自分の心情を申し上げれば、日米親善の上についてもこれは重要な問題ですから、われわれ政府当局は外務省を通じ、またわれわれも参りまして、大使館に一つ働きかけて、大使館の方からも相当努力させるようにしたい、かように思っております。
  88. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 もうちょっと具体的に申し上げますと、それが行政協定の条文にあいまいなところがあるからか、いわゆる交渉の過程で日本政府側が弱腰であるためか、いずれの原因であるかはわかりませんが、とにかく日本の権威ある機関で決定されたものを守らせ得ないというのであるならば、最悪の場合に、日本政府が責任をもって補償するという態勢をとる必要があるのじゃないかと私は思う。たとえば原職復帰、賃金の支払いの命令が出たとする。米軍の職場にそのまま復帰きせることがどうしても不可能だというならば、それと同等の職場をあっせんして日本政府が復職きせる、職場は違っても大体労働者の納得のいく程度の職場にあっせんして復職させる、賃金の支払いについては日本政府が最終的に日米の話し合いがつくまでに立てかえをする措置を講ずるとかいら具体的なものがなければ、いかに口で交渉します、何とかしますといったってだめじゃないか、こういうことなんです。早急に行政協定改訂の交渉を始めるということが不可能であるならば、話し合いがつくまで暫定的になろうと、そういう補償措置政府の責任において講ずる、これくらいの考えを示されれば、私は熱意のあるものとして十分に納得いたすわけですが、いかがですか。
  89. 松浦周太郎

    松浦国務大臣 それが労働大臣だけでそれをやるということ言い切れないのです。やっぱり政府の意向を相談し合ってきめなければならぬものでありますから、御意見のあるところは閣議等の懇談会に相談しまして、十分反映させたいと思っております。
  90. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 私の望んでおるのもそういうことなんです。直接労働者保護の任に当っておられる責任者である労働大臣が、閣議等その他そういう機会をつかまえて積極的に発言をされて、そういう零囲気を作っていただきたい、こういうことを申し上げたわけですから、それで一応本日のところは質問を打ち切りたいと思います。
  91. 大坪保雄

    ○大坪委員長代理 五島虎雄君。
  92. 五島虎雄

    ○五島委員 ただいま石橋君が駐留軍の問題について聞かれたわけですけれども、これから私が質問しようとするところの数点は、それにも一部関係があると思います。質問の項目は、特に一地区の問題、神戸市の中本商店というところに結成された労働組合と中本商店との泥沼のごとき争議状態に関して、いろいろの面でまず聞いていきたいと思います。これは神戸の問題ではありますが、一般中小企業労働組合の争議やロック・アウトに関した問題をとらえて、質問をしていきたいと思います。その中で警察の干渉の問題も簡単に触れ、そうして所見を聞いていきたいと思っております。それから次に、ただいま駐留軍労働組合の問題がありましたが、特に横浜港に現われたところの雇用関係の問題、すなわち米軍が労務者を直接に雇用しようということが発生したらしいので、その件について質問していきたい。そうしてまた完全雇用の面、低賃金の面から、ただいまの大きな工場、事業場におけるところの労働構成、労働の構造状態について、臨時工や社外工の問題についても聞いていきたいと思います。次に失業対策事業の問題についても触れたいと思いますが、時間の許す限り貸間をして、そうして時間がないところは保留したいということをまず冒頭に申し上げて、質問に入ろうと思います。  事の緊急性のウエートの問題から、神戸の中本商店と同労働組合のスト及びロック・アウト、泥沼のごとき争議状態の問題を質問していきたいと思います。この問題については、本日の新聞においても、東京地区においても栗林労働組合が争議に入った、そうして団体交渉をめぐって警官隊を三百名も動員して、実力行使を実施するとかしないとかいうような切迫した問題が発生しております。ところでこの問題はしばらくおきまして、これと同様な事件で、今年年が明けて早々から、ただいま申しましたように神戸の中本商店の組合と会社側との紛争が生じておりまして、ついに警官隊の出動となり、ピケを張っていたところの労働者が一挙に全員検束されたという事件があります。この問題をとらえるに当っては、ただ単に争議をやっておるからその問題についての所見を聞くというようなことばかりでなくて、中西労政局長に対しては、団結権、団体交渉その他のいわゆる労働次官通牒とも関連するかもしれません。よく当月もおわかりになっておられるかもしれませんが、一地方の問題ですから完全には知る由もないと思います。そこでこの労働組合のストライキの性格等々について前置きして言わなければなりません。それで非常に前置きが長くなるかもしれませんけれども、これはあらかじめお許し願いたいと思います。  この中本商店というのは麻袋を製造しているところの会社です。特にこれが大きなスケールとして発展したのは、朝鮮ブーム以来どんどん膨張してきた工場、商店であると認識を願いたい。そうしてこれは本社を大阪に置いて、神戸のみならず横浜、名古屋、下関、広島等々の各都市にわたって小さいながらも工場を経営しております。特に争議発生をしたところの神戸の味泥工場は百七十名ばかりの従業員でありますから、中小企業に属する。その工場において従来何回も組合を結成したわけですけれども、そのつど会社の圧迫によってその組合がつぶれ去っておったわけです。しかし従業員は、そのつぶそうとする力にも抗しながら組合を去年の十二月に結成したわけでございます。ところがさっそくに会社はいつもの手によっていち早く、さいぜん申しました各都市におけるところの工場に、組合を会社の力によって作ってしまったというような状態で、いわゆる第一組合、第二組合に分れたのであります。そうして今年の一月四日に組合が賃上げを要求いたしまして全面ストに入ったのでありますが、その翌日の五日に、交渉の結果、外部団体とは提携はしない、それから今後ストは絶対に行わない、賃上げは従来の二五%——この二五%とは千二百五十円に相当するわけですが、二五%の賃上げを昭和三十二年の一月中旬に実施する、それから職制を明確にする、以上四つの項目を話し合って会社もそれを約束し、組合もそれを約束するならばストライキを解くというようなことで、ストを解除したことがある。そしてただいま申し上げました四点は、第二組合と第一組合が統一された後に実施するというようなことで、ストライキが終っておるわけであります。ところがその後第二組合と第一組合の話し合いはなかなか進んでいない。そして第一組合の方から統一の条件として出された、第一組合からの役員を何名にするか第二組合からの役員を何名にするかという話し合いでこじれてしまった。そしてそれは最初第一組合から人員の比例によって八名差し出す、第二組合から三名役員を差し出してそして統一をしようということでした。そういうようなことをしていると、その翌日には今度は第二組合から五対五の同率の比例をもって役員を作ろうじゃないか、そして会社と協議をしたところの四項目について話をしようじゃないかというようなことになった。ところが一月の九日になりますと、今度は逆に少数組合の第二組合の方から八対三、第二組合から八名出して、第一組合から一名役員を出したらいいのじゃないかということを言ってきたわけです。これはこの第二組合がいかにして作られたかということがその性格上重要な問題であろうと思うわけです。こういうようなことで第一組合と第二組合の相談が妥結しないまま、会社との協定書が実施できないような状態に陥ってしまったわけであります。そして一月十二日には、最後に十一対零で、もう第一組合からは役員は要らぬじゃないか、第二組合に十一人役員をよこせというように主張してきたわけです。そこで第一組合の百四十名の組合員は、これでは会社と約束したことさえも何ら話し合いができない、これではだめだということで全員大会を準備したところが、工場長や専務やそれから労務課長の邸宅に年少組合員数十名を集合させて、そしてブドウ酒や菓子の接待を行なって足どめした。そして大会の時刻には、その家の戸締りをしてしまって軟禁の状状態にした。そこで当日集まったのは百名くらいの組合員であったという状況が調査されました。そしてその間に会社は職場で第一組合員を虐待するというような問題が出てきたわけであります。たとえばその種類としては、お前は仕事を少しもさぼってしないじゃないかというようないやがらせあるいはお前の態度は悪いぞというようなこと、そしてついには役員、職場委員等を配置転換をしてしまった。そして配置転換の状況がふるっておるわけです。従来ミシンの監督をしていた者を掃除夫にかえたりなどしてしまっている、こういうようなことが発生したわけです。  そこで第一組合員は、その四日の一日のストライキをかけて、この四つの項目について、たとえば今後絶対にストライキはしませんというようなわれわれから思うと、全くおかしげな妥協をしたにもかかわらず、それらの問題を等閑に付して、二五%の賃上げは一月中旬に実施するという約束を得たけれども、こういう状態では賃上げの事柄がいつ実現するかわからないというようなことで、しびれを切らして五日に協定したその協定の破棄の通告を会社にしているわけです。そして十九日午後二時四十分から全面ストに突入した。ところがその数十分後には、会社は、常務や労務課長以下約六十名、その中には暴力団多数が含まれていたが、その六十名が事もあろうに旧時代的な白だすき、白はちまき姿で、第一組合員が工場にストライキをして立てこもっていたのを、工場外にほうり出してロック・アウトを宣言した。そのロック・アウトを宣言したときに、七、八名の私服警官が現場に配置されていたということですが、この際組合員が数名の負傷者を出したわけです。そうして配置されていた私服警官はこれを拱手傍観していた。この警察の処置に対しては組合員あるいは応援の人たちが非常に不満を持ち、増悪を持ったわけです。私が今述べたことは、私が一方的に見て発言していることかもわからない。しかしながら、私が今経過を述べたような状態でやむにやまれず組合が無期限ストライキに入っていった経過はおわかりだろうと思います。  こういうような状態があってから、今度は団体交渉も何もできなくなってしまった。そして一月二十二日には、ストライキ中でも会社側は製品を外部に出さなければならないというようなことで、ピケを突破して、麻袋を同じく兵庫県の別府工場向けで強行出荷をしようとしましたので、ピケ隊と発送しようとした力とぶつかって非常な混乱が生じそうになった。そこで今度は警察は私服五十名、武装したる警察練習生五十八名を動員しまして、そういうふうに、ピケを張って抵抗するならば、実力行使をしなければならないから、ピケを解きなさいというような実力行使を宣言した。そういうような状況をもってその日はいろいろ他の兵庫県総評幹部あたりが会社側と相談をして、事態の収拾をした事実があるわけです。  ところがピケの実力行使に対して警察側に総評の幹部と組合の幹部がいろいろ交渉したわけです。それでピケ隊がそのとき旗ざおを——この旗は各組合の応援旗、いわゆる赤旗をずっとつづくり合せて、この寒空の夜に天幕を張ったわけです。あの厚いテントではなく、組合の旗をもって会社の外に露営をした。そこで旗ざおが残ります。ところが強行出荷をしようとして自動車を通そうとしたものですから、それをとめようとして、組合員がその旗ざおを手にして全部列を作ってそれをとめようとした。すると警察側は、この旗ざおを手にすることは凶器を手に持つことである、すみやかにそれを放棄せよということで、組合員は旗ざおを放棄した。組合は、ピケを張ること自体が目的ではない、団体交渉を通じて争議の解決をはかることが、すなわち労使円満なる解決であると思うにかかわらず、団体交渉はできない、強行出荷はする、ピケ隊を暴力をもって傷を負わしておっぽり出すという状態のうちに事態はどんどん深刻な状態に突入していった。  その後組合と会社は話し合いに入りました。そうして総評と会社側と話し合いに入ったことは入ったんですけれども、それは自主的な話し合いではなく、そこに警察が立ち会って団交が再開されたわけです。そのとき団交の持ち方について、当日は社長が出てきてなかったもんですから、その後に社長と総評の代表と会うことを条件に、組合はピケを解除した、そうして工場内の組合事務所からの引き揚げを了解して、工場から争議団を引き揚げたわけであります。  ところが、その翌二十三口に会社側と総評の幹部と組合の代表とが神戸の一流ホテルのオリエンタル・ホテルで会談をした。そのとき社長が言うことには、あたしゃ労働問題は初めてだ、そこで勉強もしたいし、解決するためにいろいろ与えなければならぬから、もう少し時間をかしてくれないかというようなことで、組合の幹部は、それは双方とも交渉等については未熟だから、よく考えてもらって、その解決の方法を見出してもらう方がいいんだというようなことで、社長と総評の幹部との会談はそういう了解をもって終った。そこで組合は、何らかの手段方法をもって会社側はその解決の方法を見出してくれるものであると非常に期待をした。ところが翌一月の二十四日には、会社はその態度をもう直ちに裏切ってしまった。そうして組合幹部を含む十九名の解雇通告を今度は逆に出してきた。団体交渉の話し合いが何にもならなくて、その翌日は組合の幹部を含めた十九名の解雇通告を出してきた。そうして正門前の天幕、さいぜん言いました組合旗によって作られたところの天幕の撤去を要求してきたわけです。そういうようなことで解決はとうていできない。ところが一月の二十七日、毎晩々々、昼はピケを張り、晩はその旗の天幕の中に、この寒空の中に露営をしておった、ところが雨はそれまで降らなかったのですけれども、二十七日は折から冷い雨、すなわち、ひょうまじりの雨が降り始めたわけです。そこで長い間寒い天幕の中に入って寒さをこらえていたけれども、ついにたまらなくなって——当時露営をしておったのは男女合せて三十二名の組合員だったのですが、もういたたまらなくなってしまった。それで工場の南門の方にはかぎがかかっていなかったので、かぎのないところの南門から、もとの組合事務所、更衣室がもとの組合事務所だったのですが、その組合事務所に避難をして行った。そこでこれは組合事務所に入れば建物の不法侵入になるだろう、そういうようなおそれがあるから、そこで警察に組合側は、こういうように寒いのでたまらないから工場内に入ったという通告をした。ところが会社も同時刻をもって、組合員が不法侵入してきたから何とか処置をしてもらいたいという連絡をした。そこで警察は一個中隊をその日動員をした。そうして不法侵入であるから早く退去しなければならないといって、退去命令を出したのです。しかし組合は雨が降っておるから退去するところがないので、避難するところがないのでというような理由をもって退去に応じなかった。そこでついに午前七時に三十二名の全員が逮捕されてしまった事件があります。そうしてその一日、十一時半ごろまで三十二名全部に対して調査尋問が行われ、調書が取られたわけです。そうしてその取調べの際に、六十才ぐらいのおばあさんが、返事が悪かったか、態度が悪かったかしらないけれども、某刑事が、平手ではありますが、平手でほおをなぐった事件が発生したということです。そこでこういうような取調べか一体行われるかどうかというようなことなども、非常に組合側の不満の種となり、そうして会社に対する憎悪と警察に対する憎悪というものがあるわけです。そうしてついにその翌日、全員逮捕されたその翌一十八日に、会社側はさらに二十六名の解雇追加を発表いたしました。そこで全部四十五名の解雇通知が発せられたわけです。そこでついに組合側は二十九口に団体交渉の拒否に対する再開と組合事務所妨害の排除、それから解雇者に対する身分保全に対する仮処分の訴えを神戸地方裁判所に手続をしたという事態で、その後今日に至るまで、一月四日から始まった事件、そうして一月十九日から無期限ストライキに入った事件が今なお解決しないで今日に至っており、組合員は行商等々を行なって生活を支え、闘争資金を積み立てている。これは一般的な行為ではありますが、そういう状態です。ところがここに付言しなければならないのは、その中本商店というものは、冒頭に申し上げましたように、二十五年の朝鮮ブーム以来膨脹に膨脹を重ね、一挙にして本社ができ、そうしてその事務所たるや大理石の応接間を持っているというような状態の内容を持つ会社なんです。ところがその賃金はどうかというと、五千五百円が平均賃金であります。そうして新制中学校を卒業して七年たたなければ日給百九十円にならないという状態であるわけです。これは低賃金の問題にも関連するでしょう。そうしてどんどん、態度が悪いとか、賃金を上げてもらいたいならばもっと働け、パチンコ玉のように働けと言って、そうして職場では課長もおれば係長もいるのに、日常労務課長とか重役さんたちが、どんどん現場へ来ては、課長や係長を差しおいて、お前の態度は悪いぞとかいうふうに、非常に近しい状態において労働者を鞭撻し監視するというようなことがあったから、さいぜん申し上げましたように、職制をはっきりしてくれろというやむにやまれぬ組合の要求になったということに実態があるわけです。こういうように中小企業の問題については、私が述べたところの中本商店の労働組合の賃上げ問題に関連するところのどろ沼のごとき無期限ストライキ、あるいはロック・アウト、そうして悲惨な状態が発出するということは、中本の職場のみではない。さいぜん申し上げましたように、今問題になっております東京の二組合の問題のごとき、あるいは全国津々浦々の至るところにこういう問題が発生し、あるいは首切られていっている。低賃金によって生活をさせられながら、そうして過重な労働を押しつけられながら、自分たちの賃金を要求し労働条件を維持向上しようとするところの条件を組合を作って要求すれば、組合側の弾圧になっておるということは、これは中本労働組合一件のみではないと思うわけであります。ところが一カ月以上無期限ストライキになって、なおこの組合は労働委員会に提訴しておりません。兵庫県地方労働委員会に提訴していないのであります。     〔大坪委員長代理退席、委員長着席] ところがもしもこれを中西労政局長に言えば、それが悪いんです、ちゃんと次官通牒に書いてありますよ、賃上げを要求して紛争が生じたならば、労使協力の建前から、それが好ましいからやはり機関々々がある、それで労働委員会にかげた方がいいんだ、ピケを張ったりなんかしない方がいいんだというようなことを、次官通牒には教育方針で示してある。なぜこれは一体兵庫県地方労働委員会に提訴しないかという実情は、いろいろ今まで中小企業の問題を兵庫県地方労働委員会も取り上げ、手がけてきました。ところが中小企業の経営者に労働組合法がわからない者、労使関係の問題や労調法等の精神のわからない経営者もたくさんいる。そうして労働委員会から呼び出されても、おれはそんなところには行かぬというような調子で、呼び出しに応じない経営者がたくさん現われている。たとえば以前神戸タクシーの問題もありましたが、この経営者を労働委員会が何回となく呼び出しをかけても呼び出しに応じなくて、労働委員会機能が発掘されなかった。その間に組合のストライキは続き、賃金は支払われないという状態が派生して参りました。こういうようなことを組合は身をもって体験しているわけです。従ってできれば力によって——力というと中西労政局長はそんな力はおかしいですよと言われるかもしれませんけれども、やはり自主的な交渉を持って解決しようと企図したわけです。しかしいまや一カ月も過ぎ、そうして行商等々で生活を維持しなければならないような状態で、間もなく地方労働委員会に提訴されるだろうと思います。しかしながらここにもう一つわれわれが無視することができないのは会社側の態度であります。今まで言うように、組合ができれば組合をぶっつぶし、一つの組合ができれば第二組合を対抗的に作って、あるいは組合の大会にはお茶やブドウ酒——未成年者だから酒は飲ませなかったかもしれませんけれども、こういうようなわれわれの常識では判断できないようなことを平気で行なっているというようなことが、この争議の問題解決の非常な阻害になっておるわけです。こういうようなことについて、この次官通牒の問題と関連して労働組合の団結力を無視して、経済力の力をもって、使用者であるという立場をもって断圧し、そうして刃向う者はみんな首を切るというような労使関係が果して円満であるかどうか。この点について局長の見解を求めておきたいと思います。
  93. 中西實

    ○中西政府委員 非常に詳しい経過をお話しになりました。私の方も一応の連絡は受けておりますが、おっしゃったような細部の点まではまだ実は承知していないのであります。お聞きしたところ、またわれわれの聞いておりますところから判断いたしましても、この労使関係労働教育からいいまして悪い例の典型的ないい教材になるのではないかという感じがいたします。労働者側もそれから経営者側も、いずれも労働運動といいますか労使関係についてきわめて未熟である。なるほど経営者の方も、普通では言えないような要求を条件にして事を運ぼうとしておりますし、これは推測でありますけれども、組合側ことに最初の上部団体の指導あたりが、経営陣に非常に反発を感じさせたものがあるのではないかという感じがするのであります。だんだんともつれて相当感情的になっているのではないかと思うのであります。私ども聞いておりますところによりますと、きょうは二十一日でありますが、十八口に団体交渉が行われて、今後は社長を交えた団体交渉をやろうということになったようであります。それからきのう口頭で、組合から地労委に申請があったように聞いております。内容は聞いておりませんが、結局この問題全体の解決のためと思います。それで結局両方がふなれであった、しかもいまや相当感情的なものがある、こういう場合には、やはりいずれもが我を張っておりましたのではどうにもならない。従って先ほど御引例になりましたけれども、こういうときにこそやはり第三者の公正な仲介の労によって物事を円滑に解決していくという方法をとるよりしようがないのではないか。長い目で教育もしなければなりませんが、なお中小企業のこういった部面が多分に残っていることはわれわれも承知しておりますので、これはさらに具体的に調べまして、そうして、この具体的な事件はもちろんですが、今後の参考にもしたいと思っております。
  94. 五島虎雄

    ○五島委員 上部団体の指導の仕方が非常に悪かった、どういうように悪かったというようなことは、ちゃんと次官通牒にも、上部団体と各企業別の単位組合との関係もこの中によく書いてあって、あまり上部団体が差し出がましいことをするという傾向はよろしくないのだという方向で書かれておるわけですが、この教育指針の言葉が、今中西局長に報告されてきたのではないかというように思うわけです。たとえば私が中本商店の事務所の前をこの問題で通ったところが、もう市街戦みたいに事務所の前には鉄条網が十重、二十重に張りめぐらされてある。信頼するところの同じ自分の組合の職場員がストライキをしておる。ストライキは暴力じゃありますまい。ところが組合員が近づかないために鉄条網を十重、二十重に張り回して、そうしてその中で仕事をしておるというような事実、こういうような問題から見て、兵庫県総評、いわゆる上部団体の各幹部の性格等もよく知っておりますけれども、そのように暴力をふるうような幹部は一人もいないのです。そういう鉄条網を張りめぐらしてそうして団体交渉に応じないような態度の経営者こそ、教育しなければならないと私は思うのです。  そこで今度は警察の問題ですが、私服が、六十数名の者が白はち巻白だすきをもってロック・アウトを宣するために組合員をほっぽり出しに来る。そうして事実また追い出してしまった。その追い出す過程においてけがをした。それを横からじっと見ておった。こういうようなけがをするような状態というものは不穏な状態であると判断するのか、あるいは労使間の問題であるから慎重に慎重を重ねて、そうして手出しをしなかった、このように判断するのであるか、この場合山口さんはどういうような解釈を下されるのですか。
  95. 山口喜雄

    ○山口(喜)政府委員 申すまでもなく警察といたしましては、労働争議の関係にはできるだけ介入しない。これは基本的な心持でやっております。ただ違法な状態、何か不法行為が行われるというような場合には、やむを得ず出て参ることはあるのであります。ただいまのお話の点につきましては、実は私、その際に組合側の人が負傷したという報告を受けておりませんが、そういう負傷されたような場合には、警察にできるだけ早く御連絡をいただき、負傷者が出るほどのトラブルが起りますれば、警察としましてもそれをそのままに放置するということはいけないことだと私は思っております。ただそのときの事情をちょっと詳しく存じませんので、具体的な問題につきましてはちょっとお答えをいたしかねるのであります。  それから先ほどお話の中にありました点について一、二点私どもにきております報告と違う点がありますので御参考までに申し上げたいと思います。お話にありましたように、一月の二十七日でしたか、工場の中に夜中に入ったのでありますが、北門と東門と南門とがあった。北門の一角にテントを張っておったのでありますが、裏門の方から入ったのであります。その際門には鉄の棒のかんぬきがして厳重に締めてあったという報告であります。このかんぬきがしてある門を組合の人が二十名ばかりで外から押しまして、そして鉄棒を工場の中に向ってへの字型に曲げて、そしてそのときにできたすき間から入り、北門の方に行って、これもかぎのかかっておりますものを外部と一緒になって押しまして、そしてあけて入っておるのであります。なお更衣室ということでしたが、私どもの報告では食堂の中に入ったように聞いております。この食堂もかぎがかけてあったのでありますが、そのかぎを破って入っているという報告であります。なお六十になるおばあさんを取調べの際になぐったというお話がございましたが、その事実は私はっきりと調査をいたしたいと思います。被疑者の名簿をここに持っておりますが、一番年令の多い人は四十八才でございますから、おそらく四十八才の人のことかと思いますが、なぐったかどうかは、私の方としましてもう一度明確に調べましてお答えを申し上げます。
  96. 五島虎雄

    ○五島委員 違法かどうか、違法があった場合は警察力を行使するというようなことです。なるほどそうだと思います。ところが違法であるかどうかというような問題について、去年は立川航空基地の問題でも論じられたわけです。ところが警察は、従来労働問題については非常に慎重に不干渉の態度をもって臨むということだった。もちろんそうなければならぬと思われるのですが、実際の問題では会社側から警察力の出動を頼めば、警察は直ちに待機、あるいは行動をされているような状態、その中に組合側は脅威を感ずる。労働者が多数になれば、少々の警察官の実力行使等々は脅威を感じないかもしれませんが、しかし中小企業の組合員、特に女やあるいは年とった組合員、この味泥工場の組合員等々に対しては、五十名あるいは百名の警察官の動員は非常に大きな脅威を与えるに違いありません。こういうように会社と組合との対等なる交渉がいつもバランスのとれないような状態に置かれている事実がたくさんあるのです。今度の中本争議の問題にしましても、この経済的要求の問題は、私たちから判断しましても、これは堂々たる要求のストライキであろう。ところが会社の不誠意な態度そのものが遂に警察官の動員となってきた。そうして最初は対等の地位で交渉をし、あるいは対等の法律上の合法的な行動が行われておっても、次に警察官が入るや非常にそのバランスが食い違ってくる。そうして長い時間警察が介入してくればくるほど、——介入といえば語弊がありますけれども、警察官が動員されればされるほど、経営者は力を得てくるのが大体の通例になっておる。そうしてまたこの会社の社長はこのような状態を放置しながら、近い日にアメリカあるいはカナダの方面に外遊するというようなことを発表しておるわけです。そうして新聞記者に発表したところを聞きますと、こんな組合のうるさいのはもうよう処置せぬ、うるさくてしょうがないからしばらくの間外国に旅行してほとぼりのさめたころ帰る、こういうことです。あるところの会社の経営者は、ストライキがあった、賃上げの要求があった。ところが姿をくらましてしまった。そうして半月も一カ月も姿を現わさない。社長はどこかといろいろ探すというような事件も従来何べんもありました。私たちの神戸においてもありました。ところがその社長が一体どこに行ったかあとで調べてみますと、魚釣に行っておった。温泉に入っておった。そういうような立場です。持つ者、持たざる者の立場というものは私がちょうちょうここで論ずるまでもなく、半月や一カ月のストライキがあっても自分たちの生活は優に維持することができます。ところが労働者はさいぜん申したように五千五百円、三年もかかって日給百七十円とか百九十円とかにしかならない人たちが、一躍ストライキに入り、そうして解決が長引けば長引くほど生活が困ってきます。一カ月と持たないでしょう。そこに労働組合の分裂と瓦解をねらっているのが経営者の従来のやり方であろうと思います。そういうようなバランスの状態の中に警察官が入ってくる。そうして何らかの力がある。意図はそうじゃないかもしれません。警察の考える意図というものは、やはり法に照らして違法であると見た場合には、その力を発揮されるでしょう。しかしその略押されるところに労使対等の状態というバランスがこわれてしまうということです。  従って労政局長に聞きたいのは、こういうような教育を一体どうやってやられるのですか。教育行政の面から中小企業、零細企業の経営者——もうすでに戦後十年かかっておりますから、労使関係は相当に調整されました。しかし次官通牒にもありますように、いまだ理想に達せざるものがある。そのことでしょう、理想に達せざるものがあるということは。もちろん組合にも行き過ぎな面も個々にはあるかもしれません。こういうような理想に達しない、理想というのは一体何か。そうしてそういうものをどうやって理想に達するように教育をしていかれるつもりがあるかという具体性をここで述べてもらいたいと思います。
  97. 中西實

    ○中西政府委員 教育は、これはもうたびたび申しておりますように、気長にやらざるを得ない。しかしながらこの労使の関係はやはり一つの取引でございます。そこでこの問題にいたしましても、たとえば賃金の二五%アップは経営者も認めておるわけでございますね。従って問題はそれ以外のことについて相当もめておる、こういう事情なんです。従って先ほど、推測ではあるがあるいは上部団体の初めの態度に経営陣が初めからおそれをなしたということがあったのではなかろうかと申しましたが、そんなようなことからだんだんともつれてきたように推測されるわけであります。そこで取引といたしましては、この賃上げ千百五十円ですか、これは了承されておる、従って合理的な要求というものはやはり労使の間で話し合えば通ずるのではなかろうか。問題は組織と経営陣との接触の仕方にあるのじゃなかろうかと思うのであります。わが国におきましては、この例を言うのではありませんが、上部団体がしゃにむに中小企業実態を度外視して、そうして乗り込んでくる、そのために非常にこじれて、あとはそこの企業の者がやめてほしいというようなことでかえって最後にはじゃま者にされるということが往々にしてある。現に都内でもそういう事案が一、二ではとどまりません。そこで、やはり現存の中小企業実態をよく知った上での労使間の折衝が望ましいのである。経営陣にも確かにもう組合運動を頭から否認するような向きもないではございません。しかしそれはだいぶなくなってきておるのじゃないか。まだ古い時代の労務管理の頭のあるところに対しましてはやはりそういうようなことを前提にして接触するという考慮が必要である。そこでこういう実際の例をだんだんと世間にも知らせ、それによって徐々に正常な慣行を打ち立てるよう努力するよりしようがないと思うのであります。私の方で週刊労働とかいろいろな印刷物がございますが、これには紙面の大きな部分を中小企業労使関係の実例にさきまして、そしてこういうことでいいのかというようなのを毎回相当出しております。われわれ末端の機構も今中小企業労使関係の確立ということに最も力点を輝いてやっている次第でございます。
  98. 五島虎雄

    ○五島委員 このこまかな状態も労働省は直ちに調査をされて、そしてよくこれが善処をしてもらいたいと思うのです。それから警察の山口さんには特に来ていただいて意見を求めましたけれども、今後民衆の不満を買わないような——特にそれは警察の行動においてはそれぞれ理屈があるでしょう、しかしながらそれがやり過ぎたり、あるいは経営者側がやる場合はそれを黙視するようなことをしたり、あるいは組合がやればその理由のいかんを問わず何か直ちにこれを行使したというような印象を持たせるということは非常に注意を要するのじゃないかと思います。そうすると第三者は、あたかも、経営者は少数である、しかし組合は多数である、そして泥沼のごとき状態になると多数のものが悪いように判断していく。その中に警察力が加われば全くこれは組合側が悪いものであるというような判定を第三者はやりがちなものです。そういう際に労働次官通牒がこういうように出ていると、ちゃんと労働次官通牒に書いてあるじゃないか、ストライキやピケはあんまりよくないんだ、早く提訴せよ、裁判がある、労働委員会があるというようなことを書いてあるから、これはやっぱり組合側が悪いというような判定を受け、そして生活に苦しむ組合がほんとに窮迫した状態に追い込まれていく状態があろうと思います。いろいろ、これからまだ問題が出てくるだろうと思います。さいぜん申しました栗林の問題、あるいは東京亜鉛の問題もそうでしょう。しかしこの問題に関しては、特に神戸中本商店労働組合の無期限争議の問題について当局の所信を聞いてみることにとどめておきます。そしてこの問題に関連することはあとでまた機会を得ていろいろ質問していきたいと思います。
  99. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 関連して。今五鳥さんのお話の中にもあったのですが、最近争議が起っておるのに外遊をする例がある。これは私は今後はやるかもしれないと非常に危惧をしておるわけです。実は筑豊炭田の小さな炭鉱ですけれども、石炭合理化法にかけて、そうして炭鉱を廃止しよう、こういう申請をして労働組合が反対をしておるそのさなかにオスロの方に社長が雲隠れをした。残っておる者は権限がない者ばかりですから確たる返事ができない。しかもそのことは伏せておりましたから、あるいは北海道の方に、あるいは東北の方に旅行をしておるのだ、こう言いますから、社長が帰ってくるだろう、こういうことで待っておりましたところが実際はオスロの方に行っておった。通産省の石炭局長以下全部ペテンにかかった、こういうようなこともあったわけです。事実問題としてありました。ですから私は、今後そういう例はそうはないと思いますけれども、とにかく国内におれば何とか話はつくのですけれども、海のかなたの方に行ってしまったのではどうも争議は解決にならない。あるいは事実上解決するかもしれません。しかし、それはほとんど組合側の負けという形で解決する。こういうような状態が今後かなり起り得ることを私は心配するわけですが、旅券を発行する場合にこういう点は要素に入りますかどうですか。争議をしておる、あるいはまた社長が行方不明になったら非常に困る、こういう点について外務省として一つ考慮をしていただきたい、私はこう思うのですよ。そのことを労働省の方から申し出ていただきたい。そこでこの問題は、実際上七、八百人の人間が解雇になって、五千名からの家族が非常に困った、それからまたその七、八百名の労働者の中でほんとうに就職したのが百名ぐらいしかいないのですよ。この正月首を切られて、この寒い冬を越しておる、こういう例もありますし、今の中本商店の問題も、社長が、おれは外遊するぞ、こういうことを豪語しておるというのですから、今後こういう問題については一つ御考慮願いいたい、かように考えます。
  100. 中西實

    ○中西政府委員 外遊の問題でございますが、先ほども申しましたように、労資間の関係は取引なんで、従って、外遊したその間に会社がつぶれてしまうということでは、これはもしも会社経営を続けるという意思がある場合には、致命的なことになります。で、上添田の問題のごとく、もうその経営をやめてしまうという覚悟のもとに行ったという場合はどうにも処置がしがたい。これは結局は商法との関係も出てきますが、やはりその会社をほんとうに閉鎖してしまうというなら、これはどうも何ともいたし方がないんじゃないか。続けてやれということは今の経済機構から言いまして無理じゃないか。しかしいやしくも経営を継続するという場合には、外遊して損になるか得になるか、これはやはり価値判断をなされるのではないかと思うのであります。渡航申請の問題ですが、今私の方ではそういう点についての相談を受けないことになっております。従って外務省がどう言いますか、一応そういう話があったことは伝えます。
  101. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 どうも認識不足だと思うんです。今の上添田の問題だって、これは合理化法案という政府機関にかけるのですから、商法上の問題じゃないですよ。これは労働組合の了解を得てやるということをあなたも御存じのように合理化法案の審議のときに、育ったんですから、私はそのことを言っているんじゃない。しかしあえて局長がその話をなさるから私は言うのですけれども、あの問題は労働組合の了解を得るという普通の問題ではないというところに問題の本質があった。それはともかくといたしまして、社長がいないので、権限がない者ばかり相手にしておったのでは労働組合の方がたまらないのです。それは大きな会社自体としては経営を続けていきたい、しかし個々の企業だけつぶしたい、こういう場合がある。今後だって起ります。その一工場はつぶしても全般的にその方がプラスになるんだという場合には、そういう挙に出るかもしれません。そのときにはどうにもならぬということであれば、私は労使関係をあずかる局長の言としては、きわめて不穏当な言だと思うのです。ですから少くともそういうような気配のある場合には、労働省としては、渡航申請その他がうわさされておる場合には、あらかじめ外務省に対してそのことを申し入れて、そうして外務省の渡航申請の許可について考慮を願う、こういうことをやっていただきたい。これもできぬですか。
  102. 中西實

    ○中西政府委員 今の例に引かれたよう問題は、組織との関係もあるかと思うのであります。やはり原則は労使取引の利害関係というものの判断の上に、おそらく経営を円満に続けていくという場合に中途半端なところで逃げ出すということはないんで、かえって私の聞いておるのは、争議があるというとその責任者はあわてて飛んで帰ってくるのが普通でございます。従ってもちろんそういった争議最中のものにつきてましては、労働委員会その他が関与することは多いと思います。その判断のもとにそういう要求を出すことは、それはやってもいいと思いますけれども、しかし私も若干渡航のことに関係したことがございますが、そういう理由で抑える建前に法律がなっていないのですね。従ってあれは拒否できる要件が非常に厳格になっておりまして、外務省としてはまあ聞きおくということじゃなかろうか。これは私の憶測ですが、話してはおきます。
  103. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 それじゃ刑事事件の被疑者であったらどうしますか、渡航の申請者そのものが。
  104. 中西實

    ○中西政府委員 渡航規則の問題は、私詳しくございませんので、一つそっちの方に願いたいと思います。
  105. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 このことは私はやはり権限のある者が団体交渉を拒否するという形に出てくると思う。労働法上ではそういうことになるでしょう。結局社長がいない、何かやっても権限がない。めったにいいことを書かないけれども、次官通牒もその点はちょっと触れておる。権限のない者か何回出ても団体交渉にならない。ですから私はやはり、社長が権限を持っている、その社長がいない、しかし争議は起きておる、紛争状態にある、こういうことになれば、労働法上では団交権の拒否という形で現われてくる、ですからこれはあるいは、不当労働行為というものは刑事犯的なものではない、自然犯的なものではない、こういうように局長は答弁をされるかもしれませんけれども、しかしさらにこのことは、一一応決定された後にはやはり罰則を伴うのですから、この面については団体交渉拒否という形に出る可能性がある。だからこれについては渡航をとめろというのではない。しかしながらその大岡がいなければできないというような状態になれば、労働省としては外務省に対して——これは一種の広義における被疑者と同じですからね。あるいは刑事被告人とまではいきませんが、そういう疑いのある人間ですから、そういう場合には私は渡航の申請は許可されないと思うんです。ですから労働法上では団交の拒否という形で出、きますから、そういう点をとられて、外務省に対してこれはこういう関係があるという説明をし、了解を得て、渡航の許可が出ないようにしていただきたい。こういうことを言うわけですが、どうも局長はこれが労働法上にどう出るかということの十分な考え方が浮ばぬようでは、私は局長としての資格がないと思うんですが、どうですかこの点。
  106. 中西實

    ○中西政府委員 これは外務省の所管で、われわれの方に連絡があればわかる問題ではございますけれども、おそらく外国へ渡航する、しかもその経営は続けてやるという場合には代理者も置かれるだろうと思われるので、それを制度的に外務省に申し込んで果して聞いてもらえるものかどうか、これは一応話してみましょう。問題は、権限のない団体交渉は困る。ですから私は普通の常識から言いまして、争いがあれば責任者はかえって逆に旅行も取りやめるというのが普通だと思います。それから組合の側も団体交渉にはやはり責任ある者が出てくる。場合によるとこれは逆の事案もあるわけなんです。たとえばどこのだれと話し合えば組合の意思となってはっきりきまるのかどうか、非常に困難する事案にもぶつかるわけなんです。双方にそういったいわゆる責任の所在というものの不明荷な場合でこじれる場合があるわけであります。これはやはり個々の問題につきまして落度のないように指導していくよりしようがないのじゃなかろうか、こういうふうに考えております。
  107. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労政局長は事実関係で案外うといので、ちょっと驚くわけですが、実際問題として団体交渉拒否、しかもその実権を持っておるし権限を持っておる人が全然団体交渉に出てこない、こういうことが非常に多いのです。ことに中小企業の場合ば——それは八幡とか富士製鉄のような大きな組織でありますと、何も社長なんかいなくても労務担当重役で十分なんです。そういう組織になっておる。ところが中小企業の場合は、そのワン・マン社長がいなければ絶対に片づかない問題が幾多ある。そうして大ていの場合それが行方不明なんですよ。そしてみな組織の人はそれを探すのに大わらわなんです。社長を引き出すというのは大へんなんです。その苦労というものは、現地で実際やっておる、役所でいえば労政事務所などというものは大へんな苦労をしておる。また県の労働部長などはその社長に会うのに非常に苦労しておる。そういう社長にとっては県の労働部長など問題にしていない。これが通産省の通産局の役人なら一事務官でもびっくりして飛んで来るのですけれども、労働部長などというものは全く問題にされてない。ですから私はやはりこういう点は、外務省に対して常に労働省の意見を聞いてくれなどということを制度的に求めるものではありません。しかしそういう事態が起り、あるいはそういう危険のある場合には、やはり労働省としてはそれだけの親心があってしかるべきだ、こういうことを申しておるのでありまして、その点一つ御考慮願いたい、かように思います。
  108. 五島虎雄

    ○五島委員 また今のに関連するけれども、その社長は大体外国に行くということを発表して、もうすでに外務省からは許可がおりた、あとは旅券が出るばかりだというようなことですね。そうすると組合はとほうにくれてしまって、これはワン・マン工場ですから、そして同族会社ですから、それでだんだん解決というものばおくれてしまう。こういうようなことはやはり中西労政局長として考えないで、ここには次官も来ておられますから、労働大臣 労働省として考えてもらって、こういうような労使の解決に当っては、やはり解決を先にするというように今後善処してもらいたいと思います。
  109. 中西實

    ○中西政府委員 そのことは私どもとしても同感でございまして、それに反対しておるわけではないのでございます。
  110. 藤本捨助

    藤本委員長 次会は明二十二日午前十時より理事会、十時三十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後四時四十一分散会