○前田(榮)
委員 それではお許しを得まして、まず簡単に
所見を申し述べたいと存じます。
まず兵庫県において視察いたしました第二阪神
国道の建設及び尼崎市の海岸防潮堤について申し上げます。
第二阪神
国道は、現在の阪神
国道の
交通を緩和するため、これに並行した幅員五十メートルの
新道を建設しようとするものであります。本路線のうち最も主要なる
区間は、尼崎市、神戸市間約二十キロにわたる
部分でありますが、このうち約三分の二の
区間は、すでに戦災復興
事業によって一応
道路の形は整っているのでありますが、なお七キロ余の
区間が未施行の
状態にあるのであります。
この未施行の
区間は数ヵ所にわたっており、その多くは非戦災地区であって、家屋密集の
状態にあり、しかも現在幅員は
自動車のすれ違いも困難な個所が少くないようなありさまで、これを五十メートルの幅員に拡幅するととは、区画整
理事業によるとはいえ、きわめて困難を伴うものであることが予想されるのであります。しかしながらこれらの
区間はすでに述べた
通り数カ所に分散しているため、それらのすべてが完成するまでは
国道としての効用は期待し得ず、本路線の重要性から見ても早急に
事業を促進することが望まれる次第であります。
また、すでに貫通している
部分について見ても歩車道区分、舗装等の完備している
部分はきわめて小
区間であり、大
部分は
道路用地が
確保されている
程度で、雑草の生えるにまかせている現状でありました。これは途中に未施行
区間が散在して、一貫して
道路の効用を発揮し得ないためでありましょうが、現
国道の
交通状況が極度に混乱している点から見て、全線開通を見る以前においても可能な限りにおいて
区間的利用、あるいは現
国道の
部分的バイパスとしての利用ができるよう、既開通
部分についても早急な
整備を要するものと思われるのであります。そしてこの場合においても地区全体の
交通系統を勘案の上、最も有効な利用が可能となるよう配慮し、特に神崎川あるいは武庫川等の
橋梁については早急な架橋、
整備が必要と考えられるのであります。
次に尼崎市の海岸防潮堤について申し上げます。この防潮堤は総
工費三十億円、五カ年の歳月を費して去る
昭和三十一年三月完成したもので、これによって尼崎市南部の工業
地帯は、高潮被害の恐怖から完全に解放されることとなり、その成果はまことに偉大なものがあるのであります。しかしながら同地区一帯は依然として地盤沈下の傾向が著しく、防潮堤自体も完成後一年にして相当量の沈下を見ているとのことでありました。同地区における工業の発展はなお活発なものがあり、特に防潮堤の完成により高潮被害がなくなったことは、工場の新増設に拍車をかけるものと予想されるのであり、この際地盤沈下に対する
一般対策を強力に推進して、せっかく完成された防潮堤の効果が地盤沈下によって阻害されることを防ぐ必要があると考えられるのであります。なお、完成した防潮堤並びにこれに付属する閘門、水門、排水ポンプ等の
維持管理並びに操作には、年間九百二十万円の経費を必要とし、現在その六割を市、四割を県が負担して、県
当局が管理に当っているのでありますが、地方財政逼迫の折柄、この経費についてもその一部を国において補助されるよう、地元
関係者の陳情を受けた次第であります。
次に、奈良県及び和歌山県下において視察いたしました
河川総合開発等について申し上げます。まず十津川、紀ノ川総合開発でありますが、本
計画の経緯の詳細については、別途概況
報告書をごらんいただくことといたしますが、今回視察いたしました猿ケ谷ダムは、吉野郡大塔村猿ケ谷地点に、高さ七十四メートル、堤頂長さ百七十メートルのダムを築造し、これによって十津川の上流部をせきとめて貯水するとともに、十津川支流の川原樋川の水を延長約十キロの隧道をもって貯水池に導入し、これらの水を紀ノ川に落し、吉野川の水を大和平野の灌漑に利用する結果生ずる紀ノ川の減水を補おうとするとともに、その落差を利用して発電を行おうとするものであります。
このダムは、すでに予定の湛水を終え、二カ所の発電所もすでに発電を開始しているのでありますが、灌漑用水の配分、あるいはダム貯水による十津川下流の減水等については、なお問題があるようであります。これらの
解決には、補償等の問題をも含めて慎重に考慮をする必要があると考えられます。
次に、熊野川の総合開発
計画について申し上げます。熊野川の開発につきましては、電源開発については開発地点も決定、
昭和三十一年度より
工事着手の旨が公示されて、すでに一応
工事着手の段階に入っているのでありますが、なお問題は残っているようであります。特に北山川筋における三重県側銚子川への分水
計画については、発電地点あるいはその方式について、地元、特にその開発地点のいかんによって利害を異にする尾鷲地区と新宮地区とからは、それぞれ全く相反する内容の陳情を受けたような次第であります。すなわち、尾鷲市長を会長とする尾鷲発電所建設期成同盟会からは、北山川の分流案を支持し、同
工事が最近に至って技術的
調査を理由に一時着工を見送られていることに関連して、この分流案が廃止され、北山川本流筋に発電所を設置するよう
計画変更されるのだといううわさがあるとして、既定方針
通り進めるべきことを陳情されております。また一方、熊野川
河口に位置する新宮市の市長からは、熊野川は、さきに十津川、紀ノ川総合開発による猿ケ谷ダム建設によって十津川の分水が行われた結果、水量が著しく減少し、舟航あるいは木材の搬出に
支障を来たしている。そこにさらに北山川においても分水を行うことは一そうの減水を来たして、熊野川の水の利用を極度に阻害し、市の存立にもかかわる事態を引き起すことは疑いない、このような北山川の分水には絶対反対である、電源開発は本流において行うべきであるとの趣旨の陳情を受けております。
これを見まするに、尾鷲側の主張については、北山川分流案が、詳細な
調査検討を経て電源開発調整審議会において決定、公示されたものであるという点からも、無理のないところであり、また一方、新宮側の主張も、猿ケ谷の分水による減水が予想以上にひどかったという事実は、ダムの湛水が昨年来の異状渇水の下に行われた
関係上、湛水前に比較した減水量がそのまま分水の影響であると断定することは危険であると思われますが、いずれにしても、分水による減水はこれまた免かれがたいものがあり、その点から見て、その主張もまた無理もない点があります。
この間の調整につきましては、補償の問題ともからみ困難があるとは考えるのでありますが、あくまでも熊野川
地域全体の総合開発
計画という立場から、最も効果的な開発が、最小限の犠牲——それに対しては妥当なる補償が行われるべきことは当然でありますが、その最小限の犠牲と最大限の能率をもって行い得るようにするという見地から判定が下さるべきであって、単に一地方における政治的な取引によってこれが動かされるようなことがあってはならないと考えるものであります。
最後に、以上のことき吉野熊野特定
地域総合開発の現状を見て感じた点の二、三を述べて、結びとすることといたします。
その第一は、総合開発が果して総合的に行われているかどうかという点であります。今回視察を行なった吉野熊野
地域は、もとより十六の特定
地域のうちの
一つにすぎず、これをもって全体を言うことは当を得ないかと思われますが、どうも総合的な
計画はあっても、その実施が総合的に行われているとは考えられぬ点もあるように思われるのであります。
すなわち、言ってみれば、電源開発が独走していて、他の部門が取り残されているといった
状態が見られるのであります。
道路についてみても、十津川に沿って、奈良県五条町と和歌山県新宮市を結ぶ二級
国道第一六八号線は、大和平野と紀南地区を結ぶ唯一の路線といってもよいのでありますが、この
道路は、五条町より猿ケ谷ダムに至る間は、ダム
工事が行われた
関係で、まずまず形を備えているのでありますが、それより先は
道路とは名ばかりのもので、それも、折立−本宮間は
道路自体が断絶していて、この
道路は二級
国道とはいうものの、いまだに全通していない有様であります。そして、猿ケ谷ダム以南の
区間においては、現在かなりの
改修工事が行われてはおりますが、それも、風屋ダムの建設に伴う
工事機材の運搬用並びに水没補償としてのっけかえとして行われているものであります。
電源開発の重要性から、それが優先的に行われることの必要はともかくとして、ダムができ、発電所はできたが、そこで発生する電力は大消費地へ直送されてしまって、地元には単に補償金が出されただけというようなことでは、総合開発とは名ばかりであるといってよいものと考えられるのであります。この点について、総合開発が単に一
計画面のみならず、
事業の面においても真に総合的に行われて、その効果を現わし得るよう
関係当局間の連係を密にする必要があると考えられるのであります。
第二には、水没に対する
処置の問題であります。ダム建設に伴う水没に対しては当然補償がなされねばならぬのでありますが、これまでとかく金銭によって補償清算が行われ、それによって事終れりとしている例が多く、損害補償という点から見ればそれでよいわけでありますが、総合開発が行われるという見地から見るとき、これではあまりにも消極的に過ぎるのではないかと考えざるを得ないのであります。
二、三の例をあげるならば、十津川の場合木材のいかだ流しによる搬出についても、ダム設置による減水はいかだ流しを不可能にするかもしれませんが、いかだ師の失職に対する補償を一応別にして考えれば、
道路を
整備してこれをトラック輸送に切りかえることによって従来以上に能率的な搬出が可能となることも考えられます。また観光面についても、ダムの湛水によってたとえば瀞八丁のごとき渓谷美が失われることは確かに惜しむべきではあり、一面ダムによって作られる人造湖が新しい観光価値を生ずることも考えられ、これに
道路その他の施設を
整備することによって、従来以上の観光客を誘致することも、佐久間ダム等の例を見るまでもなく、また可能となるでありましょう。また新たに開発された電力の一部を地元にさいて、木材加工等の工業を振興させるといった方式もとらるべきであると思うのであります。
要するに現況によって正当なる利益を得ていた人々に対する完全なる補償を前提としての話ではありますが、あまりにも現況に恋々とすることなく前進的
態度で
計画を進めるとともに、地元民をも十分に説得させ、それによって水没
地帯の住民はもちろん
地域全体としての生活の向上がはかり得るような総合的
計画がなされるべきであると思うのであります。
以上をもって奈良、和歌山両県下における総合開発
計画の視察の所感を終ります。なお、奈良県におきましては、大和川の
直轄改修工事のうち未
改修部分三キロの早急な施行、吉野川を
直轄工事施行
河川区域に
編入すること、大和川水系の飛鳥川、秋篠川の
改良、
一級国道第二十四号線の早期
改良、阪奈
道路の国鉄との立体交叉
工事促進等について、また新宮市においては二級
国道のつけかえ、漁港
改修等についてそれぞれ当事者からの陳情があったのでありますが、今回は時間の
関係からそれらの現地を詳細に
調査することもできませんでしたので、次の機会に譲ることとして、今回はそれらについては割愛させていただくことといたします。
以上をもって兵庫、奈良、和歌山三県の視察の結果の
報告を終ることといたしますが、これにつきまして
関係当局の御
意見があれば承わりたく存ずる次第であります。