○武藤説明員 ただいまの御
質問でありますが、唐沢教授の記事は、私どもも当時これを拝見し、また唐沢さんからも特に寄贈を受けましてこれを拝読いたしまして、中にはわれわれの
承知しておったこともございますけれども、広く各国の教科書をあさったわけでもございませんので、新事実も幾多ございまして、こういうことでは困るとただいま
お話のように、われわれも非常に同感に感じた次第でございます。ただしユネスコといたしましては、ユネスコ創立以来、国際理解のための教育ということに非常な力点を置きまして、いろいろの事業計画をこしらえまして、その実施推進に邁進して参っております。わが国も五二年加盟いたしましてから、これに全面的の
協力をいたしまして、いろいろの計画を取り上げております。その中には最も基礎的なたとえば文盲の退治でありますとかあるいは基礎教育の拡充でありますとかいうような問題もございます。文盲の退治のごときは、わが国においてはもうすでに問題がなくなっておるところでございますが、東南アジアの諸国めるいはラテン・
アメリカの諸国等におきましては、いまだにこれが焦眉の急となっておる次第でございます。なおこの一連の計画の中には、学校教科課程の改善、それから教科書、教材の改善というプログラムがございます。ただいま
お話のことにつきまして直接
関係がございますのは、教科書、教材の改善計画でございますが、ユネスコは一九五〇年にブラッセルで国際セミナーを開催いたしました。教科書、特に歴史教科書の改善の問題と取り組んだのでございます。翌年五一年にはやはりブラッセルで地理教科書の改善のセミナーを開催いたしました。五十三年から加盟国に呼びかけまして、それぞれの国の教科書で諸外国の取扱いがどうなっておるかということをお互いに調査しようではないかという提案をいたしました。世界じゅうの加盟国中の二十三カ国がこれに参加いたしまして——わが国もこれに参加いたしまして、わが国では特に中等及び高等学校におきまする社会科
関係の教科書で西洋をどう取り扱っておるかということを客観的に調査いたしました。この調査は一冊の本にまとめられまして、ユネスコに送付されて非常に高く評価されております。諸外国もそれぞれ調査をいたしましてユネスコに報告を提出いたしました。それで、昨年一九五六年五月にバリでユネスコ主催の教科書、教材の改善に関する専門家
会議が開かれました。世界の十七万国から専門家が集まりまして、わが国からは国立教育研究所の矢口新所員がこれに出席いたしまして、この
会議は非常に大きな効果をもたらしたのでございます。というのは、特にヨーロッパ諸国の教科書におけるアジアの取扱いを主たるテーマとして議したのでございますが、この中で驚くべき事実が現われたのであります。ヨーロッパの各国の教科書は、主としてヨーロッパ中心に書いておる。古代アジアに触れておるのは、エジプト、メソポタミアというようなところからちょっと触れて、すぐいきなりギリシャ、ローマに移ってしまう。従って古代シナの文化、古代インドの文化というようなものには触れているものが非常に少い、これは非常に片手落ちではないかという議論が出たのであります。また中世につきましても、たとえばモンゴールの西洋侵略というようなことは出て参ります。またマルコ・ポーロの東洋旅行というようなことは断片的に出て参りますけれども、中世時代の東洋がどうであったかというようなことは全然無視されておる。また近代に入りましてもインドその他東南アジア諸国につきましては、主としてヨーロッパ諸国の植民地としての関心から取り扱われている。アジア諸国のうちで最もよく取り扱われているのはそれでもやはり
日本なのであります。量的にいってもまた質的にいっても
日本が一番よく扱われておる。その次に
中国、その次にインド。この三国以外の諸国になりますと、あるいはもう教科書に全然無視されておる、あるいは若干の記述があるにしましても、それはきわめて皮相なものであり、また不十分なものであるという結果が現われまして、参加しました各国の専門家が大いにみずから反省をしなければならぬという機運を醸成いたしたのでありまして、これはこの
会議の非常に大きな成果であったろうと思います。
今度はこのヨーロッパの教科書におけるアジアの取扱いに対応いたしましてアジアの諸国の教科書におけるヨーロッパあるいは西欧の取扱いというテーマで明年アジアの一国で国際セミナーを開催するということになっております。これは昨年のニューデリーにおきますユネスコの第九回総会で決議されたことでございまして、この
会議は初めインドが主催国となることが予想されておったのでありますが、最近ユネスコの方から
日本国内
委員会に言って参りまして、
日本で開催してみないかということでございますので、これは
日本で多分明年引き受けることになるはずになっております。この
会議におきましては、アジア諸国の専門家のみならず欧米諸国の教科書に関する専門家も参集いたしまして、討議をいたすのでありますが、われわれといたしましては、これを大いに重視いたしまして万全の準備を整えたいと
考えております。ユネスコがこの教科書及び教材についてとってきております従来の
措置のあらましは大体そんなものでございます。