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丹羽参考人 ただいま御紹介を受けました
丹羽でございます。私ごとき者が、事、
教育に関する
意見を申し上げるのは、はなはだおこがましいと存じまするが、私自身、
科学技術教育を受けた人間でもございますし、また現在私のやっておりまする業務が、
科学技術を応用する方面でもございますし、また
工業教育協会などにも
関係いたしておりまするし、また最近
科学技術庁の
設置とともに、
科学技術審議会が持たれまして、ただいま御紹介いただきましたように、その
審議会の
科学技術教育部会の
部会長を仰せつかっておりまして、いろいろやって参りましたので、それらの
委員の
方々の御
意見などを総合してここに述べきしていただきたいと思います。
この
科学技術教育の
強化普及が、
科学技術庁の単なるお題目としてでなくて、
政府の重要なる施策の
一つとして取り上げられまして、毎回熱心な討議が行われておりまするし、かつ、
国会内にも
科学技術振興特別委員会が設けられておることは、われわれにとりましても、この問題に
関係のある者といたしましては、まことに喜ばしいことであると存じます。
科学技術部会は、
審議会のメンー及び
専門員、合計二十四名でもって構成放しておりまするが、
実業界から十二名の
委員の
方々も加わっていただいております。この
部会は、昨年の九月初めから開きまして、今日までいろいろやってきたのでありまするが、
教育の問題は、きわめて広範にわたりまするし、かつ重大な仕事でありますので、
委員各位から
自由討議を行なっていただきましたし、また引き続いて小
委員会を開催いたしまして、問題を集約整理いたしまして、いろいろやってきたのであります。この小
委員会の結果、われわれの方の
事務局で取りまとめました
問題点は、結局、とりあえずは、次の大体四点にただいまのところは集約いたしております。
その四点は、A、B、C、Dでありまして、Aは
学校における
科学技術教育の
充実という問題であります。第二のBは
実務に従事している
研究者、
技術者の
養成ということであります。第三のCは
学校教育法によらない
養成機関に関する問題であります。Dはその他
一般の問題、このABCDにとりあえずは集約していろいろ論議して参ったのであります。
それでまず第一番にA、すなわち大挙における
教育ということでありますが、そのうちの第一は
原子力、
電子工学あるいはオートメーシヨン、
生産管理その他新
技術及び
経営管理に必要な
学科の
増設とその
科目の
充実、こういうことを論議いたしました。
その次は、
大学の
入学試験に際して、
基礎学科の
必須制ということを論議したのであります。御
承知だろうと存じますが、
大学における
専門学科の修得の年限が事実上は三年から二年に短縮されておる。そういう
状態でありますが、これはまことに私は遺憾な点であろうと思っておりますが、たとえば
東京大学に入学するためには、例の
教養学部に入るのでありますが、
高等学校を出て
教養学部に入る。そうして、
最後は
理工科系に進みたいという志望のあるものでも、
教養学部に入るための
入学試験には、
数学、
物理、
化学といったようなものの
試験を受ける必要がないのであります。極端な例から言いますと、
植物学で入学することもできるのであります。従って、
東京大学においては、あの
教養学部において二ヵ年間初めから
数学、
物理、
化学という、
科学技術に絶対
必要科目を教え直しておるというのが事実でありまして、本郷で
教育を受けるのはたった二年間、こういう
状態であります。これなどはまことに私残念なことでありまして、単科
大学であるところの東京工業
大学のごときは、初めから
入学試験に
物理、
化学、
数学というものを
必須科目として
受験科目の中に入れておるのであります。こんな不合理なことは私はないと存じております。従って、
大学入学試験に関する
基礎学科の
必須制ということを論じたのであります。
その次が
中堅的技術者の
養成に必要な
学制の
改革が必要じゃいかということでございます。ただいま
新制大学、これは旧帝大を除いたいわゆる、われわれ俗界では悪い
言葉を使っておりますが、
駅弁大学と称しておりますが、その
画一制の排除、すなわち特徴ある性格の付与ということが必要じゃないか。あるいはまた旧制の
専門学校化、それから職場との関連というようなことも
一つ考えたらどうかということであります。皆さん御
承知だろうと思いますが、現在
国立大学は七十二ございます。その中で、
戦前からの
大学はたった十六しかないのでありまして、七十二中五十六がわれわれの悪い
言葉で一言っております
駅弁大学であります。これらを少し考えたらどうかという問題も取り上げております。その
中堅的技術者養成の問題の中のもう
一つは、
短期大学の運営の
方針の再
検討を必要とするであろうということでありまして、ただいま全国に
短期大学が二百七十ございます。このうちで、
技術系のものは
国立、公立でわずかに十二校でありまして、ほかに
私立が若干ございます。そうして、この二百七十のものは大部分が
女子の
短大であります。別に
女子が悪いとかいいとかいう問題でありませんが、
技術系短大の卒業生はまことに中途はんぱでありまして、業界としてはあんまり役に立たないというふうにいわれております。先般
短期大学についての
調査が行われたやに伺っておりますが、
文部省への答申では、
現行制度はよろしい、これを是認するという結論であったように承わっております。
技術系短大については、数がきわめて少いためか、問題にされていなかったというふうに私は想像いたします。少くとも
技術系のものを分離して、再
検討を必要とするのではないかというふうに考えます。現にその通弊を感じられたせいか知りませんが、
東京都立の
工業短大におきましては、本年四月からその
付属高等工業学校と
一貫教授をするというふうになったと聞いております。これは都知事の英断であると同時に、
清家校長の
方針がきわめて妥当であるというふうに私どもは考えております。
その他
講座研究費、
教官研究費、
教官の
留学費などの
増額あるいは
教官の資質の
改善なども取り上げましたし、
施設の
改善ももちろんわれわれは取り上げて
研究いたしました。
次に
高等学校の
教育でありますが、
基礎科目の
充実と
必須制ということは、ここにおいては特に必要でなかろうかと思うのであります。
理科系講座を確立して、
数学、
物理、
化学及び
外国語というふうな
科目を確実に理解させることが必要であるとともに、それを
必須制にするということが、必要であると存じます。特に、以上の
実施につきまして、
文部省当局は、今日までのところ、単なる指導助言的にとどまっておられるようでありまして、確実に
実施せる態勢ということが多少不十分じゃないかと私は存じます。三十一年度から
実施の運びであったところのいろいろの問題も、あるいはこれは教員の不足ということも原因しているかと存じますが、まだ的確には把握して行われていないじゃないかというふうにも私は考えます。
次に
中学校における
理科教育の問題及び
外国語教育の問題であります。
現行制では、
上級学校に進学する者にとってきわめて不適当な
内容であるように思われますので、
進学者と分離したらどうかというふうにも考えます。
中学校が
完成教育であるということも考えなければならぬかもしれませんが、
中学校三年間の時間の浪費が、
上級学校へ行く者にとっては非常にしわ寄せされており、それがひいては
わが国科学技術教育の欠点にもなっておるということも争われない事実であろうと存じます。
以上が
学校教育における問題であります。
次に、第二のBの問題、
実務に従事しておる
技術者、
研究者の育成の問題でありますが、新
技術に対する必要な
技術者の
養成ということも申し上げましたが、これらはすでに
大学その他でもっていろいろ
講座を設けられたりしておりますので、
項目だけを申し上げておきます。
その次に、
民間、
官庁の
研究機関における
協力態勢の問題であります。これもわれわれ
科学技術審議会でも取り上げかかっておりますが、
研究グループあるいは
研究センターといったような問題をもう少し考えてみなければならぬというふうに思います。と申し上げますのは、あの持てるアメリカにおいてすら、
大学関係の
研究は、東部、中部、西部というふうに分れて、重復した
研究をしないようにし、かつ
費用もいたずらに使わないようにし、そしてお互いに
研究の
連絡をとっておるということであります。この点は、今日までは、
わが国のような貧乏な国におきましても、支離滅裂であるというのは少し言い過ぎであるかもしれませんが、少くとも
連絡がとれていない。従って、重複したりあるいは貧しい
脚費用でもって不完全な
研究をしておるというのが
実情であろうと存じます。それからもう
一つの問題は、いわゆる
夜間高校に関する問題でありまするが、現状では、
職業教育が非常に不十分であります。職員の配置の
適正化と
充実と、なおまた
通信教授あたりも、もう少し考えたらどうかというふうに考えられますが、これはこの
程度にしておきます。
それから、
技術者の視野の拡張と待遇の
改善というようなことも、
民間、
官庁、
大学の
研究機関に関する問題としてはあわせ考えられる点だろうと考えます。
以上が
学校教育でない問題であります。
それから、Cの問題、
学校教育法によらない
養成機関に関する問題としましては、まず第一番が
技術者養成の推進でありまして、現在の
技術者養成は、
徒弟制度廃止を目標として、
労働基準法などによって始められたものでありまするが、
中小企業の
熟練工養成について、特に
欧州諸国では、数十年以前からそれぞれ
養成法に基いて
義務制を設けて
実施しております。現在、
中小企業においては、この点の
要望がきわめて高いのでありまするが、
現行制度では非常に不徹底であります。これは早急に改正すべき点の
一つであろうと考えます。
次に、
研究機関に付属しておる
養成機関による
教育はもとより、
一般の公務員の
研究もきわめて消極的であります。
研究制度の確立、
研修施設の拡充をはかって、この点も
実施を強化しなければならぬと思うのであります。これらがCの問題、
学校教育法によらない
養成機関の問題であります。
それから、第四番目のD、
一般的な事項としましては、
教育行政の
刷新強化ということは、むろん
科学技術教育においてもあわせて考えられることでありまして、
高等学校教育の際にも申し述べました
通り、新
教育制度では、
教育行政当局は
学校の通常について指導助言するにとどまっておられまするが、
教育の
実施方法並びに
教育者については、もう少し監督を強化すべきであるというふうに私はつくづく考えるのであります。
それから、
大学における
法文系偏重の急速なる是正が必要であるというふうに考えまするが、
理工科系の
法文系に対する比率は、これは
学生の数でありまするが、
戦前では
理工科系が大体最低三五%、
法文系が六五%でありましたが、戦後現在ではこれがもっと悪化しまして、悪化というのはおかしいかもしれませんが、二七対七三くらいに低下いたしております。これは戦後
私立大学においては
法文系が非常に定員を超過しておるということがおもな原因であろうと存じます。このようなことは、いたずらに
法女系の
失業者増加ということにもなりまして、はなはだおもしろくないと存じます。また世界の趨勢はもとより、
わが国の
実情からしまして、この狭い国に九千万人もおるというような国におきましては、
工業立国がやはりほんとうの国是でなければというふうにわれわれ考えますので、
理工科系の
教育の
充実を優先しなければならぬというふうに考えております。
次に、
一般科学技術思想の普及でありまするが、
欧米先進国は、御
承知のように、
科学博物館などの
施設がきわめて
充実しておりまして、
小学校時代から自然に
科学技術に関する知識が正しく注入されております。この点
わが国の
施設はいわゆるおざなりであるように思われまして、比較にならないのであります。従って、
科学技術博物館などに対する根本的な
改革が早急に行われなければならぬと思うのであります。これらは、せっかくできました
科学技術庁所管というふうにしていたださましたら、いま少しく徹底するのではないかとさえ私は考えます。
なお、
一般的には、
科学技術教育とともに、戦後の
道義心の涵養をはかるということは、
科学技術に対してももちろん当然なことであろうと存じますが、これは少しきょうの
問題外と存じまするので、私は述べることを省略いたします。
以上が今日までに
科学技術教育部会が取りまとめました
問題点であります。いずれもきわめて重要な問題ばかりでありまして、これらを同時に実行に移すことは、国家の
予算の問題その他の
都合上きわめて至難なことでありますので、適宜順位を付して、
問題点の解決に着手したいと存じまして、さように手続をしたのであります。ところが、
昭和三十二年度
予算の
折衝期に当りましたので、昨年末に開きました
部会で、
事務局案に基きまして、当面の
問題点について
予算の
実施方の
要望を
関係大臣にいたすことをはかって、結局次の四
項目の
実施方を
要望する
決議案をもちまして、
文部、大蔵両
大臣に申し出たのであります。その四点と申しまするのは、最も緊急を要する
電子工学、
原子力工学などの新
技術に関する
技術者の
養成に必要な
講座の
増設及び
内容の
充実、これが第一であります。第二点は、
講座研究費、
教官研究費、
在外研究員経費の
増額及び
補助員の
充実という点であります。第三は、
国立、
公私立大学及び
研究所の諸
施設の
更新整備であります。第四が
教授用諸器材の
充実、とりあえずはこの四点が一番重点的であろうと思いまして、
文部、
大蔵大臣等に具申したのであります。
昭和三十二年度
予算は目下御
審議中でありまするが、
大蔵当局の御
査定案によりますると、ある
程度の成果を得られたと考えられるのであります。しかしながら、
科学技術教育強化の面から見ますれば、本年度の
予算措置に見られた
程度のものは、数多い
問題点から見ますると、ほんの氷山の一角のようにも考えられます。昨年度は
部会の発足も大へんおそかったので、いろいろの
都合によりまして、私といたしましては、不本意な点が非常に多かったのでありまするが、
予算面はもとより、その他
学制の
改革の点につきまして徹底的な革新を行われるよう、今後の
部会を推進していきたいと存じまするが、
国会初め
関係各位におかれましても、何とぞこの点を御考慮いただいたら、幸甚に存ずる次第であります。
大へん簡単でありましたが、この
程度でとりあえず終らしていただきます。