○下平
委員 私は
日本社会党を代表いたしまして、
国有鉄道運賃法の一部を改正する
法律案、すなわち
国鉄の
運賃値上げに対しまして反対の討論を行わんとするものであります。(拍手)
国内の経済の飛躍的な発展、これに伴う
国鉄に対する輸送需要の急激なる増加、これに対する輸送力はその限界に達しておりますし、一方また累積をする
老朽施設の取りかえを行なって輸送の安全性を確保するということも、また遷延を許さないまでになっていることは、わが党といたしましても十分
承知いたしているところであります。
日本経済の隘路になっておりますところの
国鉄の輸送の現状を打開をするということについては、私ども社会党といたしましても何らの異論もないし、積極的に進んで隘路打開のためには努力いたしたいと
考えているわけであります。しかしこの隘路を打開するためには、現状の認識ということではなくて、その隘路を打開するために必要な
資金の調達をどうするかということが、実は大きな問題になってきているわけであります。今回
政府が提案をいたしましたところの
資金の調達の案を見ますと、
国鉄の再建五カ年
計画で五
年間に相当巨額な
資金を投入するわけでありますが、その所要
資金の大部分というものを、きわめて安易な
方法で
運賃値上げによって求めているということは、私どもといたしましても何とも承服をしかねる点であります。今回の五カ年
計画の
資金投入の内容を見てみますと、先日の提案
理由にもありました
通り、
固定資産の維持に約四三%、経済の拡大に伴う輸送力の増強、電化その他の近代化とサービスの向上、こういうものに対して五七%を投下をする、こういう御提案でございますが、この
固定資産の維持に必要な四三%、これを分析してみれば、
老朽施設の復旧に要する
資金というものもこの中に含まれているわけであります。
国鉄の資産が今日なぜ老朽をしてきているか、幾多の原因があると思いますけれども、その最も大きな原因というものは戦争中の施設の酷使だと思います。もう
一つは戦後における物資不足によってこれが生じてきた、ここに大きな原因があると思います。これらの原因から生じたこの
老朽施設の復旧ということを、今日
運賃によってこれを補足をする、こういうことは間違いだと思うわけであります。戦災復旧という立場から言うならば、これは当然
政府の
責任においてこの復興をはかるというふうに、この
老朽施設については
考えることの方が、私どもは妥当だと
考えているわけであります。
さらに減価償却費が不足している、こういうことも
固定資産維持の四三%の中には入っているわけでありますが、なるほどついこの二、三年の減価償却を見れば、所要の減価償却が行われていないこともまた事実であります。しかしながら昨年において
運賃収入の中で減価償却にある程度の額をプラスした、あるいはことしも減価償却に対して約二百億近くのプラスがされておりますが、これらは経済の発展に伴って当然生じてくる自然増収で当然まかなえるような
数字になっております。たとえば約三百億近い
固定資産、減価償却の不足があるとしても、ことし予算に盛られてある自然増収だけでも二百八十五億が見積られておりますので、これらの点からするならば、当然
運賃値上げをしなくても、自然増収、こういう面で減価償却の不足という面はまかなわれていくのではないかというふうに私どもは
考えているわけであります。
さらに経済の発展に伴って輸送力の増強とか、あるいは電化、あるいはディーゼル化等々、
国鉄の近代化に必要な
資金と、こうありますけれども、これらは私は当然外部
資金によって調達されるべきものでありまして、
運賃収入によってこれを償うことは企業の原則に反するのではないか、こういうふうに
考えるわけであります。電化とかあるいはディーゼル化、こういう
国鉄の近代化、長期の投資、将来に発生する利益を当面する
国鉄の利用者、乗客に
負担をさせるということは
考えなければならないことではないか、別の面から外部
資金によってこれらを調達するということが、当然私は原則でなければならないと思うわけであります。
国有鉄道における
資金調達の原則は、私どもといたしましては、公共的な投資については国家
資金で、企業的な投資については外部
資金で、資産の維持を
自己資金で、こういうような原則で行なって行く方が適当ではなかろうかと
考えているわけであります。
また一面、
国有鉄道が企業体である限りにおいては、その
運賃が原価を償うものである、こういうことは私ども一応了解をいたします。しかしながら一面
国鉄というものは、強く公共性を追求されているわけであります。従って企業体としての原価を維持していこう、こういう面が必然的に公共性の追求によって、いろいろな制約を受てくるのが今日の実態だろうと思います。たとえば
国有鉄道の
運賃の原則は、
法律にきめられてあります
通り四項目であります。公正妥当なるものであること、原価を償うものであること、産業の発達に資すること、賃金及び物価の安定に寄与すること、これが四つの
運賃の基本原則でありますけれども、たとえてみれば、原価をまかなう、これを押し通していこうとしても、公共性の追求、産業の発達に資するためには、ややコストを割った
運賃でもこれを送らなければならぬということが、当然要請されてくるわけであります。あるいは一国の経済を
考えて、賃金あるいは物価の安定に寄与するという面を
考えていくならば、この面においてもコストを割った部面が強く要請されてくると思うわけであります。
運賃の決定の原則でありますところの
運賃法の四項目を見れば、大体
運賃の面においては、あるいは原価の面においては、コストを割って減収になるという部面が多く出ているように
考えるわけであります。私は、このことは
国鉄が単なる企業でなくて、国民の足をにない、国民の経済、
日本経済をささえているという観点からいって当然だと
考えているわけでありますが、飜って
国鉄の経理という場面からするならば、これらの減収面をどこかで
一つ消化していくという形がとられなければならないと
考えるわけであります。たとえてみれば産業の発達に資すること、こういう
運賃項目の中から貨物のいろいろな割引があります。あるいは賃金、物価の安定に寄与するという点からは旅客
運賃の割引とか、あるいは貨物の割引、こういうものが当然にたくさん出てくるわけであります。私はこの割引のコスト割れを是正すれば直ちに
国鉄の再建ができる、そこまでは極言はいたしませんけれども、少くともこれらのコスト割れの減収に及ぼす影響は何らか別の方向で措置しなければ、これを企業内の努力で吸収をする、ないしは利用者その他の
運賃に
割当をしていくという形は、どうしても理解に苦しむわけであります。特に新線
建設の赤字等においては当然であります。今
建設を予定されている、あるいは今度の
建設審議会においても、また新線が幾つか追加されるという機運にあるようでありますが、どの新線を見てもおそらく採算のとれる新線というものはわかりません。私どもの
関係しております新線においても営業係数が三九〇から四〇〇、こういう路線であります。この新線
建設というものは、採算を度外視して国家目的とか、あるいは産業の発達、いろいろな面から要請されるのでありますが、これらの赤字を今環状線に乗っている旅客が
負担するということは、どうしても納得できない理論だと私どもは思います。(拍手)これらについては
政府の
責任において出せるだけの金、なせるだけの措置を当然しなければならないと思うわけであります。先日わが党の代表
中居委員が本会議において
指摘をいたしておりますが、今回の
運賃値上げに際して、これらの公共性の追求とか
——公共性の追求による減少はもちろんでありますが、施設の増強等に要する
資金をもこの
運賃原価に加えられていることは、私ども社会党といたしましてはどうしても反対せざるを得ないわけであります。すなわち
国有鉄道も企業体であるから、投下資本に対する一定の利益を見ることは当然であり、この利益を施設の増強に充当せしめるべきである、利益率をも原価構成の要素に加うべしという主張については、私ども社会党としては絶対に賛成ができないところであります。
さらに今回の
運賃値上げの大きな問題は、この
運賃値上げが国の経済あるいは物価に、国民大衆の生活に、どの程度の影響を与えるかということが、最も大きな要素でなければならないと思います。単なる理論上の問題を別にして、政治の面、経済の面で、これらがどういう影響を与えるかということを真剣に討論をしなければ、
運賃値上げは早計にすべきでないと思うわけであります。私どもはこの点に十分意を用いまして、
質問戦等を通じていろいろの御
質問をいたしましたけれども、結局は
政府の、あるいは
国鉄当局の
答弁というものは、単なる単純計算によって、この
運賃値上というものが何%物価にはね返るのだという、ただ
数字を計算をしただけで、その
金額が非常に少いから物価には影響しない、こういうことを言っておりますけれども、これはそうはいかないと思います。物価の移動が単なる係数で動かないことはいろいろの事実が物語っております。たとえてみれば昨年の九月、十月、十一月、十二月にかけましてガソリンが非常に上りました。このガソリンの値上げの原因は、スエズ運河が閉鎖をされて、スエズ運河閉鎖によって船賃が高くなったということが
一つの
理由でありましたけれども、実際ガソリンの値上げの
状態を見るならば、その船賃のはね返りとはおよそかけ離れたガソリンの値上げがされたことは事実であります。今回の
運賃値上げはたとえば鉄鋼では二%、セメントは二・二%とか、そういう
数字は出て参りましょうけれども、これらの基礎資材が上って、だんだんそれが生活必需品まで関連を及ぼしてきますと、この
運賃値上げの影響が、連鎖反応によって物価高を生じてくることは事実であります。たとえばセメントはトン当り二百円だという計算をされておる方がありましたが、私はセメント会社一社を調べてみますと、とてもそんなことでは及びがつかない。単純なる計算でそんなことをされてもとてもたまらぬ。トン当り四百円の値上りは必至だ、こういうことを言っておりました。こういうふうにいたしまして、結局は今日インフレの危険のある
日本経済の中で、
一つのこれを助長する要素になりはせぬかということを、私はきわめて真剣に
考えているわけであります。国家経済にインフレを助長する面、もう
一つはそれが即生活必需品の値上りとなりまして、かなり大きく大衆の生活を圧迫するということは、これも事実であります。家計費の増大ということも、単なる単純計算以上に上っていくことは間違いない事実だと思います。
今日、今この
運賃の影響を受ける
一般大衆の生活実態というものは、一体どうなっているでありましょうか。たとえてみれば非常にこのごろは景気がいい。税の自然増収がたくさんある。だからこれは
一つ減税に向けようということが今度予算案で
通りましたけれども、果して景気がよくなって、一千億の減税を、具体的にそれではわれわれ勤労者大衆、
一般の国民大衆の生活の面に当てはめるとするならば、ほとんど大多数の国民大衆というものは減税の恩典に浴しません。今
大蔵省の発表した
数字によりましても、人口九千二百万の中で、減税の恩典は二千四百万人であります。六千数百万人の大衆は減税の恩典に浴さないわけであります。このことを
質問をすると、税金を納めていない者にどうやって負けるのだというようなうそぶきをしておりますが、これはきわめておかしいと思う。今日税金を
負担できないような生活程度を保っている人間が、
日本にはたくさんおる。この事実を忘れて、税金を負けてやりたいが、君は納めていないということで、簡単に葬り去ることには、私は大きな問題があると思うのです。翻って
一般大衆の生活費の中から支出の面をながめて見るならば、
運賃の増収によって三百六十数億、今ガソリンの税金も上ろうとしております。バス会社の
運賃は上らないという御
説明がありましたし、またそれをなるべく押えたいという大臣の
答弁もありましたけれども、現実にバス会社はどうやってみても五割のガソリン税の値上げというものを、今日の
運賃体系の中で消化することは困難です。従って一斉に各私鉄、バス等々が
運賃の値上げを要請してくることは明らかであります。特に私たちが
考えなければならぬ点は、十万円の収入の人が二%のはね返りということは、ほとんど自分の家計には響きません。一万五千円の収入で家族四、五人も養っておるというような最低限、言いかえれば生活水準を割った赤字の家計を維持しておる
一般大衆の中では、一万五千円の二%のはね返りというものはたった三百円でありますが、これらの
負担は非常にこれらの家計の痛手になりますが、こういうことは今回の
運賃決定についてどうしても見のがしてはならない現実だと思います。従って私どもといたしましては今まで
運賃法その他二、三の例をあげましたが、そういう観点からも、あるいは現実に政治を行い、現実に
日本の経済、勤労大衆の生活を
考える、こういう点から
考えましても、今日の鉄道
運賃値上げというものは行うべきではない、こういう結論を出さざるを得ないわけであります。
さらにそれでは今日
国鉄の輸送力が詰まっておる現状をどうするかということでありますが、私どもといたしましては冒頭に申し上げました
通り、これらの詰まった輸送の隘路を打開することは大賛成であります。どうしてもやらなければならないと思います。従って私どもはもっと真剣にこれらの問題を
考えてみて、
運賃を値上げしなくても再建の方策がないかどうかということを
一つ考える必要があると思うわけであります。たとえてみますれば
国鉄の資本増加の点でありまするが、前国会吉野
運輸大臣当時から申し上げておったことでありますが、今日の
国鉄の財産は二兆数千億円、これに対する
政府の資本というものは八、九十億であります。このことは企業の原則、企業経営の体型からいってきわめて不合理だ。従って少くとも公社移行前の五百数十億円の社債、これらの社債の大部分は
建設公債であろうと思いますので、これらの負債というものはこの際
政府の負債に切りかえるということは当然
考えられていいことだと思う。筋も通っておりますし、今日の
政府の予算のワク内においても、このくらいのことができないはずはないわけであります。あるいはまた今後においては公共企業体の
資金を増加するために、年々わずかずつであっても
政府の資本出資をふやしていく、こういう形も当然
考えられなければならない点であります。さらに
資金運用部その他の
借入金でございますけれども、今日予算書を見ますると、
資金運用部並びに公募債、こういうものの額は、昨年よりもたった十億円を増しておるだけであります。これはやはり
国鉄の企業に対しては、相当大きな国家
資金をつぎ込んでいくという態度を当然とられなければならないと思うわけであります。さらに純然たる公共性の追求のために生じてくるいろいろの問題点、たとえてみれば新線
建設に対する
費用等については、当然国家の
責任で
利子補給という問題も真剣に
考えられなければならないと思うわけであります。さらに小さな問題でありまするが、帝都高速度営団の出資等につきましても、これは
政府出資に切りかえて、公共企業体の
国鉄が
負担するということは改めるべきではないかと
考えるわけであります。特に今年度予算に盛られておりますところの旧債返還の
金額を見ますると、七十五億円の旧債返還が予算化されておりますが、これは公社移行前の社債二十四億円の返済をする、こういうことが計算の基礎になっておりますけれども、ただでさえ
国鉄は困っておる。ただでさえ
国鉄は赤字でどうにもならないというときに、今までほうっておいた旧債をなぜ
政府は取り上げるのでありましょうか。この旧債返還が二回にわたって一億三千万円くらいしか返済がなされてないようであります。
国鉄が苦しくてどうしても再建ができない、
運賃を上げれば国民の経済が困るときに、今までほうっておいた旧債を何を好んでなぜこの際二十四億も取り上げるか。この点などは十分一考ができる問題ではないかと思うわけであります。
さらに
国鉄の経営を担当されている重役の皆さん方あるいは
国鉄労働組合の諸君の努力は十分認めますけれども、今日
国鉄の経理の中に、あるいは
国鉄の経営の中に、幾多改善をする余地があると思うのです。
ガード下の事件あるいはその他の雑収入の点が、直ちに
運賃値上げをしなくていいような巨額な
金額が出るとは
考えておりません。しかし経営に対する
考え、経営を民主化し合理化していく観点からするならば、これらの点も当然見のがしてはならない点であります。こういう
国鉄の経営合理化あるいはまた
工事の入札その他いろいろな
工事の施行についても、幾多の改善の余地があると思います。特に一千六十数億円の
国鉄再建の予算消化に当っては、相当な腹をきめてほんとうに冗費をなくしていくという態度が、
国鉄経営者にとられなければならないと思うわけであります。このような一、二の点をあげましたが、こういう観点から
考えて参りますと、私どもといたしましては再建方策、特に
資金調達についてはもっと深い検討をして、特に国民生活の実態を
十分考慮していかなければならないということを痛感をいたします。
国鉄は赤字だから
運賃を上げる、線路や貨車を増さなければならないから
運賃を上げるというように簡単に
考えて、すべての問題を深く検討することを避け、あるいはまた当然
政府の
責任で果すべきそういう点の
責任を回避して、この
国鉄再建を単なる
運賃値上げ、大衆の課税という形ではかろうということは、私は明らかに
政府の怠慢だと思います。あるいはまたこれは
政府に交通政策の一貫性がない、確たる交通政策というものがないというところが一番大きな問題点だと思います。経済五カ年
計画の中においてそれでは一体経済がどのくらい伸びるか、その点までは明確になっておりますが、その経済の中で輸送をどう消化していこうという、陸海空の
三つに分けてどのような
割当、どのような最終目標に従ってこの交通輸送を解決していくかということは、今日の五カ年
計画の中でも明確に
政府の所信なり
方針を明らかにしていただかないことは、非常に私どもは残念であります。これらの交通政策が基本的に樹立をされて、それぞれの輸送分野が確保され、そうしてその基本政策の上に強力なる
政府の財政的な裏づけがあって、初めて
国鉄の再建ができるものであり、それをやってどうにもならぬという場合に
運賃の問題は
考えなければならぬのではないかと思いますが、この基本政策がないために、今日の輸送がかなりの混雑をいたしております。たとえばトラック輸送の一例を見ましても、私のおります路線には八つの会社が走っておる。一日に十六行路のトラックが走っておりますが、それでいてそのトラック会社はみな赤字であります。そうしてぼつぼつ倒れていく。片一方、駅にはかなりの量数の滞貨がある。こういうトラック輸送の面を見ましても、何ら一貫した交通政策が出ておりません。あるいはバスの旅客輸送にしてもしかり、その他海運にしてもしかりで、総合した一貫された基本政策に対する財政的裏づけが、なされていないというところが、今回の一番の問題点ではないかと思います。私どもの社会党といたしましては、こういう観点から、今日運質値上げは、岸
内閣がほんとうに何らの積極的な政策を持たず、あるいは交通政策に対して積極的な財政的措置をせず、果すべき
責任を果さず、ただ漫然として
国鉄の再建を
国鉄の従事員の犠牲、
一般大衆の犠牲の上に強行しようとしているこの
運賃値上げに対しましては、どうしても国民とともに強く反対をせざるを得ないわけであります。
以上簡単でありましたが、社会党を代表しての反対討論を終ります。