○塩谷
参考人 総評の塩谷信雄でございます。総評傘下には、この問題の根元であります運輸省の労働組合がございまして、政策的な問題または技術的な問題につきましては、おそらく後ほどこの労働組合から御
意見を申し上げることになろうと思うのであります。この
運賃の
提案は運輸省であり、かつそのもとにあります公共
企業体の、
国鉄労働組合の所属しておるいわゆる国有
鉄道そのものが
提案をしておるのでありまして、
国鉄労働組合の労働者側の
立場からする
意見につきましては、皆様方も率直に
一つお聞き取りをいただきたいと考えておるところであります。私は総評という
立場、ひいてはおそらく労働者を代表するということで
意見を申し上げることになろうと思いますので、きわめて素朴な
立場におきまして若干申し上げることにいたしたいと思います。
戦後
運賃の
値上げの問題は、何たびも何たびも出てきておると思うのであります。終戦直後の状況では、インフレが主として
理由でありました。インフレだから赤字である、こういうことを
理由にいたしておった。またときには、労働組合側の労働者の賃上げをしなければならぬ、ベースの
引き上げのために必要なんだ、こういうことを
理由にいたしておったときもあります。しかし今回はその
理由が違っておると思うのであります。老朽資産が大へんあるから、これを取りかえる必要がある、また
採算のとれない輸送の
増強施設のための
経費に充当すべき自己
資金として、一三%の
値上げをしたいのだ、こういうふうに言っております。つまり赤字という問題について表面には押し出してきておらないのであります。実はこの問題は非常に論議のあったところであることは、皆さん方の十分御
承知のところであります。
私は今何もこの問題の詳細を申し上げようと思うのではありませんけれ
ども、今日においては
国鉄の施設というものは戦後の荒廃から完全に復旧しており、また現在の償却は過剰償却であるとの批判をしておる向きもあることは否定できないのであります。すでに
昭和三十一年の一月十二日、
国鉄経営調査会が答申しておるもののうちに、こういうことを言っておられる。
国鉄側は施設の老朽化防止について積極的に
努力を傾倒しているとは認めがたい。たとえばトンネルが危険な
状態にさらされている。鉄橋取りかえの必要があるものも認めながら、停車場や建場、倉庫の復旧その他サービス
改善等に相当多額の
投資をしているのじゃないか。こういう疑問も投げかけられておる。そうして最近の
減価償却費の状況を見て参りますと、三十年度の決算において赤字の原因となった四百七十億円の線をくずすまいというような操作がきれているような印象を受けるのであります。三十一年度の決算
予定額を四百八十億円はしておる。そうして三十二年度はさらに
増加して四百九十億円を計上しておるのであります。これはただいま申し上げました
国鉄の経営調査会が答申をしておる
減価償却費、その中で二十九年度の償却を基準としたものを採用いたしているように思うのでありまして、第三次評価の、たしか四百二十七億だと思いましたが、これを採用いたしてはおらない。これを上回る四百九十億円の線を出してきているのであります。
——四百二十七億でありました。四百二十七億一千九百万円が第三次再評価ベースとして適当であろう、こういうことを勧告しておったのでありますが、その線を採用せずして、
昭和二十九年三月ベースの四百九十八億の線に近い四百九十億という線を出してきておるのであります。かようにいたしまして毎年度十億円ぐらいずつ
増加していくやり方というものは、
減価償却費は適当に計算されているのではないか、その目的は利益隠匿の便法にすぎないのではないか、経営のための赤字を作っているのではないか、こういう疑惑は今日依然として存在いたしておる。これは重大な問題であろうと思うのであります。
さて現在
国鉄のいろいろな施策の面における政策的なものはどうかということになりますが、これも多くを申し上げませんが、先ほど
宮野さんも御指摘になっておりましたが、運送というものについて一貫性がない。われわれの
立場で見ましても、国の交通政策というものがどこまで一貫性を持っておるのか、こういうことになりますると、全く乱立の
状態であるということは、どなたもお認めになっているところであります。
鉄道、軌道、自動車、船舶、航空など、全く乱立の
状態に置かれているのであります。そして滞貨は激増しておるというお話がございました。これは全くその通りであろうと思うのでありますが、その原因はどういうところからきているか、この点を究明することが非常に重要なのではないか。私
どもは、
政府の
提案をいたしておりまする
輸送力の
増強施設、これが必要だということを今日否定するものではございません。しかしその根源についてもっと抜本的な対策を樹立することがきわめて必要ではないか。こういう点については、実は
国鉄労働組合等から、終戦以来しばしば建策をいたしておるはずであります。またいろいろの形において話し合いを進めてきているはずでありますが、ほとんど採用されておらないという点について、十分
一つ各先生方の御留意をわずらわしたいと思うのであります。従ってこの
国家的な交通政策の
確立、また
運賃制度の不合理是正という問題は、広範にわたって存在をいたしておると思うのであります。こういう各種の
経営合理化対策を広範に推し進めることによって、問題の処理ができるのではないか。資本金の問題にいたしましても、現在の資産状況から見て、あまりにも問題にならないような
状態に放置をされておる。こういう問題についてもっと積極的な手を打つことによって、今直ちに、先ほ
ども御指摘がありましたが、将来にわたって利用をしていかなければならぬような設備を当面利用する人々に転嫁をする、こういう形は慎しむべきじゃないか、こういうふうに思うのであります。
私が若干これから申し上げようとしますことは、否定をしようとしても、現実問題として派生をいたして参りますインフレの問題、さらに労働強化、災害発生等の問題等よりいたしましても、この
値上げ案については賛意を表しがたいという主張であります。今度の
値上げ案は、いわゆる
国鉄建設の当初から八十四年の歴史的伝統の本質が忠実に守られているように思われるのであります。
貨物運賃を見て参りますと、依然として大資本に大きく奉仕をする、こういう
体系というものはくずれておらないと思います。むしろ
内容によっては、この本質は強化されているのではないか。たとえば重量減等扱い品目の
増加や軽量減等扱い品目の
増加等、また
旅客運賃につきましても、いわゆる優等客輸送に奉仕していると思われるのでございます。特別二等料金、寝台料金の据え置きを一方においてはかっておる。そして
一般大衆のサービス向上というふれ出しでありますけれ
ども、定期券の割引率の大幅の
値上げ、あるいは電車線の大幅の
値上げ、最低
運賃適用区間の削減の問題、先ほど聞いておりますとこれは現状維持になったというお話でありますから、これは別といたしまして、広範にわたって実は大衆の相当の犠牲というものが現われている。こういう点は否定できないのじゃないかと思うのであります。
輸送力の
増強資金の獲得の手段としての
運賃の
値上げというものは、総
輸送量の九〇%を占めております三等
旅客運賃の
値上げ、あるいは大衆消費
物資の
運賃の
値上げ、こういうことによってあがなわれているといっても過言ではないのじゃないか。こういう点は非常に重要であろうと思うのであります。
国鉄の
運賃は
旅客運賃、ことに三等
旅客の
運賃、国民大衆から吸い上げたその分を、
貨物運賃で独占資本に奉仕をするという、そういう役割を果しているのではないか。これは先ほど申し上げました
国鉄の経営調査会の答申書の中でも、この点についてはこれを認めておるのであります。否定はできない。こう考えて参りますと、国民大衆こそ被害者であると申し上げなくちやならないのであります。
貨物輸送の問題につきましても、時間がないから申し上げませんが、荷扱いの点については相当問題だろうと思うのであります。これまた大衆の消費
物資というものの犠牲の上に、大口
物資の輸送に対して大きくサービスをさせられている。こういう形となって現われているかと思うのであります。
さてこの
運賃値上げの問題でありますが、
政府は一三%くらいの
運賃値上げをやっても、そんなものは決して
物価にそうはね返るものではない、インフレになどなるものではない、こういうふうに強く主張をされております。たしか蔵相の演説の中にもそういうことがあったと思うのであります。ある業界紙によりますと、
運賃値上げによって
基礎物資は大体次の値上りをすると指摘されております。
鉄鋼はトン当り二・二%、四百円、石炭は同様二%、九十円から百円、セメントは二%、二百円、重電機は二%、機械は二%から四%くらい上るだろう、この数字はもちろん過去の
値上げの
実績からとったものであろうと思うでありますが、これが次第に消費者価格に波及をしてくることは、われわれの経験上間違いがない、こう思うのであります。確かに
運賃の
値上げが即インフレになる、
物価高になる、それは
一つの伝説だという主張をする人もある。今日は
物価の変動はそんな単純な要素で変動するものではないのだ、こういうふうに言われる人もありますけれ
ども、こういう
基礎物資というものが次から次から上ってきた場合に、現実にどういうふうになるか、これは否定できないと思うのであります。これは当然私鉄の
運賃にはね返っていく、電気もガスも水道も、このごろほとんど
値上げが予想されてきておる。こういう
基礎物資が上ってくると、理論的な問題はさておくとしましても、そういう
基礎物資が上ったということだけで、すでに小売商人が現実に自分の今まで並べておった店の商品の札のつけかえをしておるのであります。何ぼかちゃんと
引き上げた価格で並べておるのであります。これは現実であろうと思うのであります。よく賃金を上げると
物価が上る、こうおっしゃる。都合のよいときにはいろいろお使いになるのでありますが、もちろん賃金を上げたからといって、賃金を上げた分を
原価の中に吸収できないことはないはずであります。吸収できる場合もあるし、できない場合もあるだろう、必ずしも
物価高になるわけはないはずです。これは相当の問題がある。賃金の場合は、賃金が上ったからといって、今度は
一つおれのところの商品の値段を上げようなどという小売商人はあまり見たことがないのです。しかし
基礎物資が上ってくるという段になりますと、おそらく皆さん方も御経験なさっていらっしゃるだろうと思う。ちゃんと上げておるのです。何といってもこれは否定ができない。理論的な問題はともかくとして、現実的な問題としてインフレになる危険性というのは非常に強い。これは今日の非常に生活に恵まれない人々にとっては重大な問題である。
政府は一千億の減税をやるからそう心配はないのだとおっしゃるけれ
ども、二十万円以下の所得層の人々をどうしてくれるのだ、二千万人に上るボーダー・ラインの貧困層をどうしてくれるのだ、こういう問題についての積極的な、納得のいくお話は聞いておらないのであります。
さて
国鉄は、今度の新ダイヤの編成以来非常な労働強化になったといわれておるのであります。大へんな職場における労働強化が行われていると指摘されているのであります。この詳細につきましては、私は時間がありませんから多くを申し上げません。しかしながら最近の
生産性向上運動に伴う各種機械の導入というものは、現に皆さん方が駅などでごらんになって、ある
程度御
承知済みであろうと思うのであります。小は自動販売機の問題から、あるいはタイタンバー、マルチプル・タイタンバー、バラスト・クリーナー、カー・リターダー、IBMあるいはアイソトープの利用というような問題につきましても、これは事遠からない問題である。今日のごとく、膨大な過去の
設備投資の倍にもひとしいような大量の
設備投資をするならば、おそらくこの問題はわれわれの身近な問題として登場してくるだろう。そして大量の人々が職場転換もし切れなくて、やがて首になってくるだろう。こういう人々をどうしてくれるのでしょう。皆さん方が九州の炭鉱で、すでに御
承知済みであろうと思う。あの炭鉱の
企業設備に関する
法案を通されたあと、どういうことになったか。私はこの実態というものを十分見詰めていただきたいと思う。
日本経営者団体連盟が昨年の秋、相当の調査をしたはずであります。数字は申し上げませんけれ
ども、あの炭鉱地帯の労働者諸君は、大へん気違いが多くなったということが九州の社会学会の席上で報告になっておる。気違いが大へんふえた、そうして災害がどんどんと多くなってきておる、病人が出てきておる、この事実は大へんな問題であるとして、日経連は取り上げておるのであります。この問題がやがて原子力
生産の時代と結合されたならば、どういうことになるのだろう。膨大なる失業者、災害の発生、疾病の増大、社会不安、こういう問題を考えたときに、りつ然とせざるを得ないのであります。そこにこそ今日いわゆる国民皆保険の問題が、健康保険改悪の形において、われわれにとっては出されてきていると思うのであります。この社会不安を完全雇用という呼びかけだけで解消しよう、これはあまりに問題であろうと思うのであります。(「脱線しておる」と呼ぶ者あり)脱線はいたしておりません。インフレの問題は当然これらの問題に波及をするし、当然この
運賃値上げの問題は、労働強化となって現われてくること必至であります。私は労働者の
立場において、皆さん方に申し上げているつもりであります。どうかこういう重大な問題につきましては、十分納得のいくように皆さん方の方で慎重御
審議をわずらわしたいと思うのであります。今こそ六人の
参考人の中で、庶民を代表して申し上げているのはわずかに
佐々木いす先生と私だけだろうと思うのであります。あとの
方々の大部分は
賛成論をお述べになったはずであります。しかしわれわれは二人であろうとも、われわれの背景にはたくさん生活の悩みを持っておる庶民があるということを、皆さんが国民の選良として十分お考え取りをいただきたいと思うのであります。以上で私の公述を終ります。