○羽生三七君 私は
鳩山総理並びに重光
外相の
演説及び
日ソ交渉関係の案件に対して、
日本社会党を代表して、以下順次その疑点をただしたいと思います。
まず最初に、
国際情勢一般に関する問題でお尋ねをいたします。首相、
外相ともに、
日ソの
国交回復を
世界平和推進の
立場で認めておることは、われわれもまた同感であります。さらにまた、
日本が今後国連
憲章を尊重して、
国際紛争の
解決に当っては、
武力の行使に訴えることなく、
平和的解決の
方針をもって臨み、
わが国の発言力を強化して、もって国際的な地位を高めようという
考え方にも賛成であります。率直に申して、今の
外相の答弁でも感じたのでありますが、今度の
所信表明は、従来から見ると、これは非常な進歩であります。その意味でわれわれも賛成はいたしております。しかし、ではどのような
外交路線を築くことによって、この目的が達成されるかという具体的な条件が全然示されておりません。従って、私は
日本社会党の
見解と対比しながら、
政府の
所信をただしたいと思います。
まず中東の問題でありますが、イスラエル及び英仏のエジプト攻撃が明白な
侵略行為であることは間違いがありません。また
ハンガリーにおける事態も、大体
政府の分析は妥当であろうと思います。
政府はかかる中東及び東欧の情勢分析を行なって、冷戦の雪解けは逆転しつつあると判断をし、
世界の情勢は緊迫しつつあると結論をいたしております。われわれは、さらにこのような事件の生起するに至ったおもなる要因、及びその国際的背景を検討してみたいと思います。
すなわち昨年ジュネーヴで開かれた
アメリカ、
ソ連、イギリス及びフランスの四カ国巨頭会談を頂点としまして、いわゆるジュネーヴの雪解けといわれる国際緊張緩和の情勢が生まれ、これと相前後するころから、西欧各国はNATO、すなわち北大西洋
条約機構に対して、少しずつ冷淡になり始めたのであります。他面
関係各国は、それぞれ自分の国の利害に熱心になり始めたということであります。私はここが非常に大事な点だと思う。次に、
政府も指摘するように、本年の第二十回
ソ連共産党大会におけるフルシチョフ氏のスターリン批判以来、東欧の諸国は、社会
主義への道には、各国それぞれ異なった形があるということを認め始めたことであります。第三には、昨年インドネシアのバンドンで開かれた
アジア・アフリカ
会議以来、いわゆる
アジア、アフリカ各国の、いかなる形の植民地支配にも
反対という動きが、とみに顕著になってきた事実であります。現に先日もボンベーで
アジア社会党会議が開かれ、わが党の代表
諸君もこれに参加して、なまなましい現実に触れてきたばかりであります。
以上の三点が、最近の
世界情勢を見る上に必要な条件と
考えられます。そこで今回の中東の問題ですが、これは東西の冷戦ではありません。これはエジプトの
独立完成という
民族的
要求を破壊せんとする英仏等の侵略攻撃であることは間違いないのであります。(
拍手)次に、東欧の問題も、これは東西の冷戦ではないのであります。これは共産
主義国家相互の間に起った
民族独立、自主化の闘争であります。
さて、以上の二つのことから、
政府は冷戦の雪解けが逆転したと判断するのでしょうが、しかし次の事実を見落してはいけません。すなわちエジプトへの侵略が始まって以来の
世界の
世論であります。まずこの問題発生直後開かれた国連総会で、即時停戦決議案が、賛成六十四カ国という圧倒的多数で議決されたという事実、さらに
ハンガリーに対する
ソ連の場合も同様ですが、とにかく
世界の
世論が、今回ほど
武力攻撃及び力の
政策に
反対して、平和の叫びをあげたことはないのであります。(
拍手)
戦争に際しては、いつも挙国一致の体制をとる英国においてすら、労働党はもちろん、
国内の
世論は、あげて今回のエジプトの場合でありますが、
武力攻撃は明白な侵略と断じ、軍事行動の停止、イーデンの退陣を求めるというのが圧倒的な
世論であります。実に
世界が、いまだかつて見られなかったほどに、
戦争への憎悪を表わしているということができます。これは今回の動乱の過程に生じた特徴的な事実ということができましょう。先にも述べたように、これは東西両陣営の衝突ではありません。いずれも、これは
民族の
独立と自由のための戦いであります。しかし、もしこれを好戦
主義者や
戦争挑発者が利用するならば、いわれるところの東西両陣営の対立に発展する危険性はもちろん存在をいたしております。従ってわが
日本としては、単に情勢を分析するだけではなく、昨日の施政
方針は情勢分析でありましたが、情勢を分析するだけではなしに、国際緊張を緩和し、
世界平和に貢献するためには、具体的にどのような
方針をとるか、どのような
外交路線を築くかが重要な課題となってくるのであります。(
拍手)その意味で冷戦の雪解け、いわゆるこの冷戦の雪解けという問題を、再軍備の強化のために、これを合理化するために悪用されてはならぬということであります。このような
国際情勢のもとで、今回
日ソ交渉が成立したのでありますが、これを
鳩山首相の
引退に道を開く贈りものというようなこととしてではなく、
わが国としては引き続いて、先ほど同僚岡田議員からも述べられましたように、中華人民共和国との間に
国交を
回復させ、さらに
アジア、アフリカ各国との
親善関係を一そう強化させるために、従来の欧米諸国偏重の
外交方針を改め、
自主独立の新たなる
外交路線を
確立すべきであると
考えます。(
拍手)そのためには、東西いずれの
勢力にも属さない
アジア、アラブ諸国とともに、国連という場を通じ、あるいはまた独自の
立場から、東西の冷戦激化を押えて、真の平和共存を
確立するために、積極的な努力を払うことが今後の方向でなければならぬと確信をいたします。(
拍手)
そこで
政府にお尋ねいたしたいことは、
日ソ交渉に続いて、先ほど岡田議員も尋ねられました中共との
国交回復に、いかなる具体策を持っているかということであります。台湾
政権の問題の
お話がありましたけれ
ども、しかし具体的な
政治をわれわれが行う場合においては、これは過渡的には、われわれの
社会党で言う積み上げ方式というものもありますが、とりあえず貿易をさらに強化し、あるいは代表を交換する等、いわゆるこの
国交の
回復を具体的に積み上げて、将来
国際連合が、いわゆる国連における代表権を中共に移すようなときに、
歩調を合わせるような具体的なやり方もあると思います。ただ中共とは、まだ
国交回復できないというようなことでは、
日ソ交渉は、じゃ何のためにやったのかわからないことになる、だからこの点については、もっと具体的なる
政府の判断をお伺いをいたしたいと思います。
引き続いて、
日本国とソヴィエト社会
主義共和国連邦との
共同宣言等の案件についてお尋ねをいたします。長い間の案件であった
日ソの
国交回復に関する
交渉が、不満足ながらもとにかく
妥結したことは、
日本社会党としてもこれを歓迎するものであります。そしてまた先ほど廣瀬さんから、だいぶいろいろな御意見がありましたけれ
ども、われわれとしては、とにかく
関係者の今日までの
労苦を多とするものであります。太平洋
戦争終結以来、長い期間にわたって
日ソ及び日中間の
国交が未
回復であることは、
日本の発展のためにも、また
世界の平和を
確立するためにも、きわめて大きな障害となっていたのでありますが、この障害を取り除く意味で、
日ソ両国間の
戦争状態終結と
国交正常化を、一貫してしかも強く主張し来たったわが
社会党の主張に合致するものとして、これを同慶に感ずるのであります。
私は最初に「不満足ながらも」と申しましたが、
質問に入るに先だって、
日ソ国交正常化を主張してきた
日本社会党の
基本的
立場をまず明確にしておきたいと存じます。
言うまでもないことでありますが、
外交は気に食うとか気に食わないということで論議されるべき性質のものではないと存じます。まずもって各種の客観的条件を吟味し、問題のウエートを
考え、その上で、総合的、大局的に判断を下さなければならぬと存じます。そこで、
日ソ間で対象となる主たる問題といたしましては、
領土問題、抑留者の帰国問題、国連加盟問題、漁業問題、貿易問題等々となります。そこで、この中のどの問題かが不満足であれば、
国交は
回復を行わないという
立場をとるか、あるいは、個々の問題では若干の不満はあっても、
国交回復そのことが大局的に見て
わが国の発展に役立つかどうかという判断の問題になりましょう。わが
日本社会党としては、先にも触れましたように、若干の不満はあっても、
日ソの
国交回復が
日本の発展と
極東における緊張緩和に役立つという、大局的、総合的判断のもとで、これが
妥結を支持するものであります。(
拍手)事実、
日ソ間の
戦争状態終結と
国交回復なくしては、抑留者の帰国も実現されません。漁業問題もまた障害に突き当るでしょう。さらにまた貿易の発展も望まれぬものと思います。そればかりではない。従来のように、米国を初め資本
主義国との
国交のみを国際
親善と
考え、また平和維持の基礎と
考えているような
外交方針では、
日本の真の
独立が達成できないのみか、今日の
アジア・アラブ諸国家の動向から見まして、
日本は
世界の大勢から取り残されることになるでごさいましょう。それゆえ、
日ソの
国交回復は、
国内的、国際的にきわめて重要な意義を持つものと言わなければなりません。(
拍手)このような判断が
日本社会党の
日ソ国交回復に関する
基本的
態度であります。しかしこのことは、今回の
交渉内容そのものが無条件的に認められることを意味するものではありません。
さて問題の第一点は、
わが国民の強い要望である
領土問題の
解決を
平和条約締結のときまでたな上げし、これが最終決定を見るに至らなかったということに関してであります。もっともこれについて、わが党の野溝氏初め同僚議員
諸君が訪ソの際に、暫定
協定についても話し合っておりますので、
基本的には
異議はありません。しかし、
国後、
択捉が
平和条約締結の際、どのような
解決を見るかは、終局的に最も重要な問題であります。
日ソ共同宣言の第九項においては、
平和条約締結の際、
歯舞、
色丹を引き渡すことになっております。
歯舞、
色丹だけの問題であるならば、
鳩山首相の訪ソを待つまでもなく、最初の
ロンドン交渉で話し合いは成立していたはずであります。それが、さきの
鳩山首相の訪ソまでの複雑な経過をたどった理由は、言うまでもなく
国後、
択捉の問題でございましょう。
ソ連は、この
要求を
最後まで認めなかった。しかしそれでは、
日本が承服できないので、
平和条約方式であるならば、
ソ連は即時
返還可能の
歯舞、
色丹を、今度の
共同宣言の九項で
日本への帰属だけを決定して、その引き渡しの時期を
平和条約締結のときとし、さらに
日本の
国民には、
国後、
択捉をも
継続審議の対象となっているのだということを示すために、第九項の前段において「
両国間に正常な
外交関係が
回復された後、
平和条約の
締結に関する
交渉を
継続する。」ことを規定いたしておるのであります。しかし文面に示されているように、「
平和条約の
締結に関する
交渉」とありますが、「
領土を含む
平和条約の
締結」とはなっておりません。この欄のことについては、河野
全権とフルシチョフ第一書記との第三回会談でいろいろやりとりがあったようでありますが、なぜ「
領土を含む
平和条約」と明記できなかったのか、その間の事情を、これは大事な問題ではありますが、お差しつかえのない範囲で河野大臣にお伺いをいたします。
次に、この
領土問題が重要であればあるほど、
平和条約締結の時期がまた重要な問題となるのであります。これは
歯舞、
色丹の
返還にも関連をいたしております。
平和条約の
締結の時期、この時期を
政府はどのようにお
考えになりましょうか。なぜなら、
ソ連の今日までの
態度から推して、この問題の
解決は、
国際情勢と深い関連を持っているように思われるのであります。
政府としては、これがわが方に望ましい
解決をもたらすためには、
平和条約締結はどのような時期がよいと判断されましょうか、
平和条約締結の時期であります。この点を伺いたいのであります。これは
総理、外務大臣、両方から
お答え願いたい。
次にお尋ねいたしたい点は、将来返る可能性のある
領土であるならば、なぜ今日返らないかということであります。どうしてたな上げをするのでありますか。将来返る可能性のあるものならば、今でも返らないということはないはずであります。
政府が、党内事情やあるいは
国民の目をそらせるために、便宜
主義的の
立場で
領土のたな上げを
考えたのでないならば、そして、それはまた将来必ず返ることを確信してのたな上げであるならば、今日の段階ではなぜ返らないかということを、まじめに
考えてみる必要がある。
政府はまじめに
考えてみたことがありますか。われわれとしては、
社会党としては、その理由を次のように
考えております。
すなわち、今日の
国際情勢は、まだ必ずしも平和が
確立されたとは言えない。特に
わが国について言えば、
国内に多数の
軍事基地が存在しておる。
わが国と
アメリカとの間には、
日米安全保障条約、日米
行政協定が結ばれており、さらにまた、沖繩、小笠原諸島が
アメリカの支配下にあるというような現在の客観的諸条件が、
領土問題の
解決を将来に持ち越した主要な条件と判断せざるを得ないのであります。(
拍手)しかりとすれば、将来国際緊張が緩和し、平和の条件が
確立された場合においては、
ソ連としてもわが方の
領土に関する要望を積極的に受け入れることが望ましいのであります。そして
国後、
択捉は、
わが国が
戦争の結果獲得した
領土ではないという実情にかんがみ、大国
ソ連が、
国際情勢の
変化した場合においても、なおかつその
領土権を主張することはあるまいとわれわれは
考えております。そしてまた、実際に
ソ連がそうあることをわれわれは心より期待をいたしておるのであります。しかもこのことは、
わが国がただ漫然とその時期を待つのではなく、みずから進んで緊張緩和の
外交施策を推進することによって、その時期を一そう早めることも可能でありましょう。その意味において、
日米安全保障条約、日米
行政協定の改廃が望ましいのであります。私はさきに、
国後、
択捉が返らざる理由を、今の
国際情勢に帰しましたが、
日米安全保障条約、日米
行政協定等の改訂について、
政府は具体的にどのように
考えているか。
考えないこともないというようなことではなしに、先年、
外相が
アメリカへ行かれたときにも、すでにこの問題はある程度触れられたはずであります。具体的にどのようにお
考えになっているか、この点を率直に伺いたいのであります。
もっともこのことは、
アメリカとの友好
関係を傷つけるという意味ではありません。
アメリカのことはどっちでもいいという意味ではないのであります。
アメリカとは引き続き友好
関係を維持して行くことには、もちろんわれわれも
異議はありませんし、また必要でありましょう。しかし現在の形の安保
条約、
行政協定は、われわれの
立場からでなくとも、
保守党の
立場からしても、十分再検討するにふさわしい時期に参っておると
考えております。(
拍手)たとえば、先ほど岡田議員が触れられました砂川問題を見ましても、
外国軍隊の基地拡張のために、
日本の同胞があのような
状態にあることをすみやかに廃絶するためにも、今の安保
条約と
行政協定の改訂は絶対に必要であります。いまのことは具体的に
お答え願いたい。
次にお尋ねいたしたいことは、これはきょうの新聞を見ましても、
ソ連の国連代表の意見が出ておりましたから、ある程度周題は
解決したとも言えますが、国連加盟については無条件支持の話し合いができておったかどうか、これをお伺いしたい。昨年は台湾
政府の外モンゴール加入に関する拒否権それから
ソ連の
日本に対する拒否権という合い打ちの形で葬られましたが、今回は無条件加入が
約束されておるかどうか、話し合いの経過をお伺いいたしたいと思います。
次の問題は、これはちょっと技術的なこまかいことになりますが、国境線の確定ができない場合には、領海はどのようなことになるのか、その話し合いはどうなっておるか、国境線が確定されない場合の領海線の問題であります。
その次は、木
漁業条約と、いわゆる日米加漁業
協定との調整について、
ソ連及び
関係各国と話し合ったと思うが、その経過はどうであるか、この問題。
それから先ほど他の議員も触れられましたが、日米安保
条約と中
ソ同盟条約、このことについて何らか話に触れられたことがあるかどうか。これは今度の
日ソ共同宣言の中に国連
憲章五十一条を引用いたしましております。これはおそらく相互にこの問題を頭に置いて書いたものと思いますけれ
ども、この問題については話し合ったことがあるかどうか、こういうことであります。
その次は、この機会に特に伺っておきたいことは、沖繩、小笠原等の
返還要求についてであります。今回の
日ソ共同宣言は、その前文において、「
両国間の
外交関係の
回復が
極東における平和及び安全の利益に合致する」ことを明記しております。また台湾問題につきましては、中共
政府も平和的な話し合いを提唱しているのでありますから、かれこれ、
極東の緊張は緩和しつつあると判断しても差しつかえないと存じます。そうであるならば、
ソ連に対するわが方の
国後、
択捉の
返還要求とともに、沖繩、小笠原等の
返還を
アメリカに求むることは当然のことかと
考えられるのであります。ましてやプライス勧告以来、苦悩にあえぎつつある沖繩島民の苦痛を思えば、当面わが
外交権を必要な程度まで発揮することは、当然の
権利でもあり、かつ
政府の喫緊の
義務であるかと存じますが、この点に関する
政府の明快なる御答弁をお伺いいたします。(
拍手)なお、この沖繩、小笠原等が、
戦争の結果取得した
領土でないことを特に付言をいたしておきます。
ここで結論にいたしたいと思いますが、イギリスやフランスは、一時的にはエジプトやあるいはアルジェリアで成功することができるといたしましても、結局は帝国
主義的植民地支配は終えんを告げることになるでありましょう。昔の夢がいま一度おとずれることはないとわれわれは確信をいたしております。同様に、また共産
主義国についても、かつてのスターリン
主義が復活することもないでありましょう。そして今日までの植民地
主義や権力
政治は、やがて
民族の自由な創意と真の平和共存を求める多くの
国々の新らしい方向に道を譲らなければならぬことになると存じます。そしてまた大国の横車も、やがて限界に近づくことは確実であります。
わが国が国際社会の一員として、もし
世界の平和と人類の進歩の上に貢献せんとするならば、先ほど
政府はそう言われましたが、そうであるならば、この
世界の発展の方向に沿って進むことが、国連加盟の実現した場合のわが
日本の心がままであるべきものと確信いたします。
近く首相の地位を去らんとする
鳩山首相や、
鳩山内閣の閣僚に多くを言っても意味のないことは承知をいたしております。しかし何人が、あるいはどの
政党が、政局を担当しようとも、この方向こそが、
日本の真の発展に寄与する道であることを
最後に付言いたしまして、
日本社会党を代表いたしましての私の
質問を終ります。
〔
国務大臣鳩山一郎君
登壇〕