○
説明員(石野信一君) ただいまから
在外仏貨公債の処理に関する
法律案の
補足説明を申し上げます。
逐条の御
説明を申し上げます前に、お
手元に存外仏貨公債の処理に関する
法律案説明資料というものがお配りしてあると思います。それと重複のきらいがございますが、全般的なこの
交渉の経緯等について一応御
説明を申し上げることにいたします。
この四分利付仏貨公債は、明治四十三年に当時低利借りかえ政策をとっておりました
国内債の五分利のものを整理償還する
目的でフランスで発行されたものでございます。起債総領は四億五千万フラン、四分利付で期限が六十年という条件であります。それ以来原契約の条項に従いまして、滞りなく支払いが実施されて参ったのでありますが、
昭和十五年に今度の大戦の勃発によりまして海外送金の道がとだえましたために、海外にある分につきましては支払いが中断されまして、その後ずっと終戦に至るまで中断されたままであったわけでございます。そこで平和回復に伴いまして、平和条約の十八条に、
日本は戦前の対外債務を確認してその支払い再開について債権者とすみやかに
交渉を開始するという趣旨の
規定がございますが、これに従ってフランス、イギリス、
アメリカで発行されました外貨債の元利払いの再開のための
交渉を行うことにいたしまして、
昭和二十七年の七月からニューヨークで外債処理
会議というものを開催したのでございます。この相手方は英米仏各国とも債券所持人の利益を擁護する団体の代表でございまして、こちらは債務者としての
政府の代表であります。それでこの
会議におきまして英貨債と米貨債につきましては二十七年――同年の九月二十六日に友好的に妥結が成立いたしましたのでございますが、この四分利付の仏貨公債につきましては、日仏の主張が非常に開いておりましたために解決を見なかったのでございます。
その争点になりました点は、券面に利札及び元本の支払いの場所の
規定、支払い方法の
規定がございます。パリ、ロンドン、ブラッセル及び
日本で支払うということになっておりますが、ロンドン、ブラッセルにつきましてはそのときの為替相場でやるということで別に問題がないんでございます。
日本における支払いについてのみ発行当時の平価の二百五十八フランにつき金百円の割合で支払う。金百円と申しますか、英語のゴールド、フランス語のオール、百円オールで支払うということが書いてありますために、これがフランス側としては金約款であるということを主張いたしたのでございます。それでその後
政府は
日本側はこれに対して、これは決して金約款ではない、フランの支払いについて何らふれておらないので、たまたま
日本における支払いについてのみそういう字が入っておるけれども、
日本ではその金という言葉がゴールドでなくて通貨という意味に使われるという主張をいたしまして、金約款でないという主張をいたしたんでございます。その後二十八年の二月と九月の毎度にわたって
日本側から代表をフランスに派遣いたしまして
交渉を行なったのでございます。その間フランス側は前提としてまあ金約款は存在するという主張でございますが、事実上の案として一九一〇年発行当時の米仏の為替相場で券面
金額を割増しして支払いを行うべきであるという主張をしておりました。これは名目額の約七十倍になる。それから妥協案を出して参りまして、この公債と同時期に発行されました英貨公債と同様の取り扱いを受けたい、まあポンドの価値だけを保証してもらいたいということで名目額の約四十倍ということを主張したのであります。結局フランの価値が下ったためにこういう主張をしたのでございます。
日本側はこれに対して金約款はないという前提を終始一貫主張したのでございますが、ただ
交渉の過程におきまして、
本件の利払いが戦争のために停止せられました一九四〇年、そのときの英仏為替相場で割増しをする、戦争のために支払いが停止されております間に、まあポンドに比較してフランが下ったという点については考慮するという意味で、名目額の五・五倍という提案をいたしたのでございます。しかしながら両方ともこれ以上譲れませんということで解決が不可能な状態になりましたので、結局
本件を解決するためには公平な第三者の判断を求めるということが唯一の適当な方法であるというふうに考えるに至ったのでございます。
それで一昨年の四月に国際通貨基金の専務理事のアイバー・ルース氏の推薦に基きまして、
スエーデンのストックホルムス・エンスキルダ銀行常務理事ニルス・フオン・ステインという人に、実際的かつ公平な方法で争点の解決をはかるということができるような支払いの条件を勧告してもらうということを日仏両者で協議をいたしまして依頼をいたしたのでございます。この結果、元本及び利子の名目額の十二倍による支払い条件を骨子とする調停案が昨年の三月に回示されたのでございます。英米貨債の
協定におきまして、公平待遇の条項というのがございまして、そのとき仏貨債の方がきまらなかったものでございますから、仏貨債が時に有利な条件によって解決されるときには、これに均霑するという可能性を留保した条項がございますので、この調停案によって解決する場合に、公平待遇の条項によって
異議を申し立てることがないようにという旨の保証を取りつけましたところ、英米貨債の所持人団体の方から、そういう
異議を申し立てることがないという保証をして参ったのでございます。
それで昨年五月
日本側はこの調停案を受け入れて、この案によって元利支払いを再開しようということになり、フランスの外貨債の所持人団体に申し入れたのでございます。しかしながらフランス側の債券所持人は、これはフランス人の通貨に対する考え方が、金約款といいますか、金価値を保証するような点について非常に強いというような面もあるかと思いますが、非常にこれを不満といたしまして、なかなかこの団体といたしましては、これで簡単に
交渉に入るという点につきまして踏み切れなかったようであります。結局十一月に至りまして、この調停案に基いて
日本側と
協定締結のための
交渉に入る用意があるという意向を表明して参りました。
それに応じて
交渉が開始されたのでございます。そこで
日本政府はステイン調停案
通りの支払い方法、すなわち元木及び利子の名目額の十二倍による支払い、それから元木償還期限を十五年延長する、それから経過利子、今まで支払わないでたまっております利子の一部を十年繰り延べまして支払いをする、こういう条件の案を提案したのでございますが、これに対して債権者の不満が非常に強いということで、仏側はこのステイン調停案
通りの支払い方法と並行して、債券所持人が選択した場合には、ステイン調停案による十二倍の倍率を適用した
価格、すなわち五百フラン券につきましては、たまっております利子を加えましたので、結局九千九百六十フランという
価格になりますが、それで一括買い入れをする道を開いてくれということを強く主張してきたのでございます。そこで長年の四分利仏貨債問題を解決いたしまして日仏友好
関係を促進するという見地から、この買い入れ提案というものを受け入れるということにいたしまして、ただ買い入れ
価格につきましては、これをできるだけ復帰したいということで
交渉をいたしたのでございます。それで結局先方の九千九百六十フランという申し出に対しまして九千四百九十六フランという
価格で買い入れを行うということで意見が一致いたしました。本年の七月二十七日に日仏相方の間にステイン案による元利払い、それから選択的に九千四百九十六フランによる一括買い入れということができることを
規定いたしました四分利付仏貨公債に関する
協定というものの成立をみたのでございます。で、これにつきましても買い入れの問題について、やはり英米貨債の所持人団体の方に公平待遇条項によって
異議を申し立てないという旨の保証を取りつけたのであります。
それでこの
法律案といたしましては、結局
政府の債務負担額が増大をいたします
関係で
法律が必要でございます。時にこれを臨時
国会に
お願いをいたしましたのは、早期に実施をしたいということを先方は非常に希望いたしておりまして、その
協定の中でも、できるだけ早く実施するということをうたってあるのでございますが、同時にこの九千四百九十六フランの
価格につきましても、先方だけでこちらが承諾しておるわけではないのでありますが、一応先方は、この臨時
国会に提出されない場合には、一応妥結した買入
価格について改めて
交渉を行う可能性を留保するということを一方的ではありますが、
向う側が言っております。できるだけまとまった、今日までに話がつきましたところで、またこれが再
交渉に入るというようなことを避ける意味からも、なるべく早く実施をするようにできればということで、
お願い申し上げた次第でございます。
これによりまする所要資金は、四億五千万フランの発行当時の
金額に対しまして、現在の未償還残高は三億八千三百万フランになっております。そのうちで外国に所在いたしますものが一億一千万フラン
程度で、別に未払利子が六千七百万フランございます。それでこの妥結をみました
協定によって全部在外分を買い入れるということにいたします場合の財政負担は約二十一億円の見込みでございます。
次に、
法律案につきまして逐条的に御
説明申し上げますと、第一条は
目的でございまして、
在外仏貨公債の処理に関し
政府が
日本国との平和条約第十八条の
規定の趣旨に従ってフランス有価証券所持人全国協会との間に行った
交渉により
昭和三十一年七月二十七日に成立した、ただいま申し上げました
協定、これに基く元利金の支払条件の改定について定めるものであるという
目的を明らかにしたものでございます。この
協定を実施いたしますために、公債の現契約による支払い条件を改める事情があります。その結果、長期にわたって新規の債務負担を伴うということになりますので、
法律が必要となるのでございます。この相手方のフランス有価証券所持人全国協会でございますが、これはフランスで発行され、または取引されます有価証券のフランスの所持人利益擁護のための団体であります。この協会は公債のフランスの所持人を
法律的に代表するものではございません。これは英米貨債の場合も同様でございます。従って仏側との
協定を締結したことによって、ただちに公債所持人の全部を拘束するというものではございません。しかしながら
日本政府が個々の所持人に対して元利払い及び買い入れについての申し出を行う場合に、こういう条件で元利を払うという申し出を行います場合に、協会が所持人に対して
日本政府の申し出に最上の考慮を払うことを勧奨する。そして買い入れ提案を受諾することを勧告するということになりまして、そして個々の所持人がこの申し出を受諾するという形になるのでございます。
それから
法律案の第二条は、この
法律の適用の範囲でございます。この四分利付仏貨公債でこの
法律の施行の日において
日本国内に所在せず、かつ、
日本人に属さない者のうち、この
協定に基いて
政府がその所持人に対して行う支払いについての申し出を受諾したもの、今申しました、その所持人の受諾があったもの、これを
在外仏貨公債と呼んでおりますが、これについて適用するという旨を
規定したのであります。本
法律案によります処理の眼目は大戦の開始以来長期にわたりまして支払いが中断いたしまして、国外所在分については支払いが中断いたしました。その支払い再開に
関連して国際的に紛議が生じたものであります。これを外交的配慮からこれらの公債に名目額の十一倍に
相当する加算金を付することによって紛争の解決をはかる、こういう趣旨に出たものでございます。
国内分につきましては、戦争中においても、戦後も二百五十八フランにつき百円の確定換算率によりまして、円でずっと支払いが行われてきているものでございます。これにはこの
法律を適用いたさないという
規定でございます。
法案第三条は、
在外仏貨公債の元金の償還期限を十五年延長して、
昭和六十年五月十五日とするという
規定でございます。一般に国債の条件を変更するにつきまして、
政府にとって不利でない場合には
法律は要らないかと思うのでございますが、
本件の場合には延長期間にかかる利子について第四条の
規定との
関係で新規の債務負担を伴うことになりますので、ここに
規定をいたしたものでございます。
第四条は、
在外仏貨公債の元金または
昭和十五年十一月十五日以降
昭和六十年五月十五日までに支払い期日が到来したあるいは到来する利子を支払う場合には、額面
金額または利札の券面
金額を支払うほかに、それぞれの十一倍に
相当する
金額を交付する。まあ名目額の分を足しますと十一倍になるわけですが、十一倍に
相当する
金額を交付するという旨を
規定いたしております。これは
本件公債の在外分については、債券所持人の責に帰すべからざる理由によって長期にわたる支払いの中断がありましたこと、それからこの再開について国際的な紛議が生じまして、外交的配慮から額面
金額及び利札の券面
金額について十一倍に
相当する加算金を付することによって、この紛争を解決するという、これによって外貨債の信用を維持し、両国の友好
関係の促進に資したいという趣旨に出る
規定であります。
それから
法案の第五条でございますが、これは国債に
関連いたしまする法令の適用上の特例を
規定したものでありまして、特に国債証券買入銷却法の
規定によりまして国債の買い入れが行われる場合において、買い入れ
価格は額面
金額をこえてはならないというふうになっておりますので、その場合には十一倍に
相当する
金額を加算した
金額となったものとみなすということを
規定したものでございます。
付則でございますが、これは公布の日から起算して二月をこえない範囲内で政令で定める日から施行する旨を
規定したものでございます。この
規定の方でも二カ月を経た日にこれが効力を発生するということに相なっておるのでございます。
補足説明といたしまして以上で一応
説明を終りたいと思います。