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政府委員(下田武三君)
条約上の
法律関係から御
説明申し上げたいと思い、ますが、桑港
条約の規定を解釈いたしますに当りまして、その前提となる事実を抜きにしてかかりますと誤解を生ずるのでございますが、これは申し上げるまでもなく、桑港
条約で
日本をして樺太、
千島に対する
主権を
放棄さしたのは、
日本からこれらの
領土を連合国がもぎ取りたくて
放棄せしめたのではなくて、その
放棄させるということを書かなければ、
ソ連が桑港
会議に加入してこないから、ああいうふうに書いたわけです。この前提となる事実は、桑港
条約の解釈を検討するに当りまして看過してはならない点だと思うのであります。
そこで問題を具体的に
お話しいたしますと、昨日曾祢先生の
お話でも、
歯舞、
色丹、それから
国後、
択捉、これも
日本のみならずアメリカも
日本の固有の
領土と言っておりまするから、固有の
領土であるから煮ても焼いてもいいという点は曾祢先生もおっしゃっておられる。で、簡単にいたしますために
国後、
択捉、
歯舞、
色丹を除外いたしまして、それより北の樺太と北
千島との問題に限定いたしまして
お話しいたしたいと思います。
将来
平和条約の
交渉の際に
領土問題を扱います場合に、二つの方向があることは申すまでもございません。
一つは
日本に有利に
解決する
方法であり、他は矢折れ力尽きて
ソ連に譲歩する場合のやり方であります。
日本に有利に
解決する場合、つまり北
千島あるいは樺太南半までも再び
日本に返るという取りきめをいたした場合に、桑港
条約との
関係がどういうことになるか。これはちょうど先例がございます。奄美大島について先例がございます。奄美大島は沖繩とともに、
平和条約によると、これは米国の信託統治領として予定せられ、かつそれまでの間、立法、司法、行政の三権をアメリカのもとに置くべき地になっております。でありますから、アメリカが勝手に
日本に奄美大島を返したのはけしからぬと法理的には言えるかもしれませんしかし連合国側は
日本の
領土をもぎ取ろうとかかっておるのではなくて、ことに北方の
領土の問題につきましては、もぎ取ろうとかかっておるのではないのでありますから、義務を負ったものに有利に
解決する
方法は、結局黙っておるということによって
解決されるのであります。でございますから、北
千島、
南樺太が
日本に返る場合には、
日本に有利に
解決されるのでありますから、連合国側は文句をつけないで、それによって
解決するという法的結果を生ずることと思います。ただ法律的に厳密に
考える場合には、連合国が文句を言わないから、結局
日ソ間のその取りきめがファイナルになったのだとそれは
説明すべきであると思います。
反対に
日本に不利になって
解決した場合、実はこれについては初めから桑港
条約に抵触するものだときめてかかる必要はごうもないのでございます。現にロンドンにおける
松本全権のなさいました
交渉においては、これらの
領土については
国際会議でいくというラインを出しております。
国際会議で
決定するということを
日ソ間で取りきめたといたしましても、それは直ちに桑港
条約には反しないのであります。またモスクワで
重光全権が
交渉なさいましたときの案は、桑港
条約と同じことを
日ソ間で確認する。同じ規定を確認する。あるいは同じ規定をそのまま書くというラインを出しておられます。これも
日ソ間にその
通りにきめましたら、ちっとも桑港
条約との抵触は生じない。さらにソ側が、
日本の桑港
条約の当事者としての
立場を考慮して
歯舞、
色丹より北の島については何も言わないという方式もサジェストしたことがあるのであります。何も言わなければ実際上
ソ連は実力で押えているままの
状態が続くでありましょう。しかし
ソ連がそれで満足するといたしますならば、樺太、北
千島について何も言わないという
方法があるわけであります。そうして桑港
条約で
日本は
放棄したのだから、連合国と
ソ連との間が将来相談が起るかもしれません。あるいは起らないでそのままになるかもしれません。とにかく何も言わないと言って白紙に残す手があるわけであります。
こういうように
考えますと、
日ソ間で北方の
領土の問題をきめましたときに、桑港
条約に
日本は縛られているから動きのつかぬことだと
考える必要はごうもないのでありまして、幾らでも桑港
条約と抵触しない
解決の
方法があるわけでございます。それを
外務大臣はおっしゃっているのだと思うのであります。かりにこれらの正面から抵触しない規定でどうしても
解決しなければ何らかの引っ掛りを生ずるという
解決の
方法を
日本がのまざるを得なくなったといたします。その場合に
外務大臣が最後に申されましたように、これはアメリカも言っておりますように、連合国側として自己の桑港
条約上の
権利を留保せざるを得ないであろうと言っておりますから、
関係国は留保いたす手はございましょう。その場合には、留保した国と
ソ連との間で
国際会議を開くなり、あるいはヘーグの
国際司法裁判所に持っていくなりして、またそこで
国際的な
解決をすればよいわけであります。でございますから、
日本は桑港
条約に縛られているから
日ソ間だけで話をすることは不可能なんだという断定をいたしますことも誤まりでございますし、また逆に、どんな処理の
方法でも
日ソ間だけできめていいのだと断定いたすことも、これもまた語弊があると思います。その間に桑港
条約と抵触しないように、うまく処理の
方法は幾らでもあり得る、そういうように
考えておるわけでございます。