○八木昇君 私は、ただいま上程をされました、いわゆる
スト規制法を
存続させるについて
国会の
議決を求める
案件につきまして、
日本社会党を代表して、ただいまより
反対討論をなそうとするものでございます。(
拍手)
そもそも、私は、三年前に制定されました
スト規制法そのものに賛成ができないとともに、今日この
法律をさらに
存続せしめ、かつ、これから先はこれを
恒久立法としようということにつきましては、絶対に承服ができないのであります(
拍手)しかも、本
議決案を
提出するに当りまして、
政府は、当初、
委員会審査を省略し、直ちに本
会議において採決すべく
国会に
要求をしたのでありまして、各新聞、世論が一斉に攻撃をしたごとく、まことに驚き入った
態度であり、
国会を軽視し、
国民の基本的な権利を無視することはなはだしきものがあったのであります。私は、このような
政府の無謀な性格こそが、はしなくも、この
スト規制法そのものの性格をなしているものと思うのであります。察するに、
政府がこのような暴挙に出たことについては、よほど
政府みずからも
本法の
存続について何かうしろめたいものを感じているのか、しからずんば、新聞などでいわれるように、ごたごたしている自民党の内部対策であるのか、そのいずれかと申すべく、もしそうだとするなら、これはまことに言語道断なことであったといわなければならないのであります。(
拍手)
以下、私は簡潔に
反対理由を申し述べるのでありまするが、第一の
反対理由は、
本法は解釈法であると言いながら、実は明らかに
ストライキ禁止法であり、
憲法違反であるということであります。(
拍手)すなわち、
政府は、この
法律は
憲法の保障する
争議権に新たに禁止、制限を設けるものではなくて、以前から違法とされたもの、すなわち、
法律解釈上当然のことを明文で
規定しただけだと言っておるのでありまするが、この主張がいかに笑うべきものであるかは多言を要しません。法令の解釈者でありまするところの裁判所が、今日までどういう判決を下したかを見れば、おのずと明らかであります。
電気関係におきまして、
昭和二十四年以来二十五の判決が下ったのでありまするが、ピケットによる威力妨害の一部を除いてそのことごとくが無罪もしくは免訴となっており、
政府みずからが三権分立下の法治国家であることを否認せざる限りは、何とも抗弁はできないのであります。(
拍手)また、
政府は、この
法律は
スト規制法と略称されておるけれども、実は
ストライキの
方法のごく一部を
規制するにすぎないとも言うのでありまするが、
電気に関しては、発電、送電、変電、配電等、
電気のすべての
生産過程の
ストライキを禁止しておるのでありまして、一体
生産を停止しない
ストライキなんということがあるのか、これはどういうことなのか、私は
政府に伺いたいものだと思うのであります。
第二の
反対理由は、いわれるごとき全面的炭鉱の壊滅、あるいは工場、鉱山保安電力の停電等の事態は、
スト規制法以外の現行法規のもとに一おいても、容易に起り得べきものではないということであります。
政府その他の方々は、一たび三年前にこの
法律が制定された以上、もし今度廃止になった場合は、炭鉱保安要員の総引揚げも全面的な大停電ストも意のままだということになり、大へんなことが起ると、盛んに
国民をあおっておるのでありまするが、決してそんなことはありません。なぜかといえば、元来、炭鉱の
労働者の皆さんは、言うまでもなく、山があり、山に働くことによってその
生活を維持しておるのでありまして、山がつぶれるということは、そのままみずからの糧道を断つことであります。にもかかわらず、もし万々が一にも部分的に非常事態が起ると一応仮定いたしましても、それは超封建的な小山の鉱山主さんあたりが、自分の山をつぶすことを覚悟の前で、とほうもない、むちゃをやるがような、そういう場合以外はとうてい想像ができません。(
拍手)それさえも、単なる仮定のまた仮定であって、過去において事例を見ないのであります。
電気におきましても、
昭和二十七年の大
争議に際しましても、各電力会社総出力の二〇%程度の電源ストが最大限度でありまして、工場、鉱山、水道等の保安電力の
確保については懸命の
努力がなされたのであります。また、私は、このような非常事態の回避は、
政府がいたずらに干渉すべきものではなく、
労使がともに
誠意を尽し、自主的に解決すべきものであると信ずるのでありますが、かりに百歩を譲って考えましても、
政府は、最悪の事態に対しては労調法による緊急
調整を発動し、五十日間の
争議停止と強制調停をなし得ることは、皆さんがよく御承知のところであります。(
拍手)
第三の
反対理由は、
本法律は
争議発生の原因の探求が不十分であり、明らかに
労働者を敵視し、一方的に他方に味方した、
資本家擁護の片手落ちの
法律であるということであります。(
拍手)
昭和二十七年のいわゆる炭労、電産の
争議を振り返ってみまするときに、炭労においては、当時の炭鉱
経営者たちは、
争議中実に四十日間にわたって
団体交渉をなさなかったばかりではありません。激しい、つらい地下
労働に従事し、しかも、インフレの波なお激しかった当時において、低
賃金にあえいでおる
労働者のささやかな
要求に対して逆に四%の賃下げ案をもって臨んだのであります。しかも、この
争議が行われたにもかかわらず、その
昭和二十七年の大手各社の
経営はすべて黒字であり、いずれも二割五分前後の配当を行なったことは、皆さん御承知の
通りだと思います。(
拍手)
電気の場合におきましても、
昭和二十四年以来二十七年末までの五回の
賃金紛争に当りまして、
経営者側は、第三者、すなわち中央
労働委員会の調停案を、四度までも拒否いたしておるのである。しかも、ひたすらスト破りに狂奔したわけであります。これを要するに、
昭和二十七年の
争議がかりに問題だといたしましても、その
責任はいちずに
労働者のみに帰せらるべきものでは断じてございません。(
拍手)特に
電気においてかりにこの
争議の自己批判が要請されるとするならば、それは
労使両方になさるべきものであるにかかわらず、
スト規制法が制定されたために、
資本家側にはごうまつも反省の色が見受けられないのであります。その証拠には、
スト規制法により一方的に手足をもがれた
労働者に対し、
経営者側は追い打ちをかけ、二年間以上の
組合専従を認めないというがごとき、明らかに不当
労働行為の協約を締結せしめ、あるいは、会社純利益のこの三カ年における三倍の上昇、配当金の四倍から五倍の上昇にかかわらず、
賃金ベースの引き上げはきわめて緩慢であり、いまだ、戦前、
昭和十一年の水準にも達しておらないのであります。しかも、公共の
福祉に反することは皆様方御承知の
通り、電発会社における佐久間ダムの不正、あるいはいろいろな問題等、
経営者それ自体が、果して公共の
福祉に沿うごとく彼らは動いておるか。(
拍手)そうして、また、
大衆の意向に反し、近く、再び、このような利益を上げておる電力会社は、
電気料金の値上げを
要求しておるではありませんか。
第四の
反対理由は、
本法律は幾多の矛盾を内包しており、しかも、条文がきわめて抽象的、かつ、あいまいであり、
拡大解釈のおそれが多く、また、将来他
産業にも
スト規制の及ぶおそれがあるということであります。この
法律の持つ幾多の矛盾につきましては、
委員会においてすでに十分論じ尽されておりますので省略いたしますが、元来、
本法律を単独立法としたこと自体、労組法に挿入できないしろものであって、まことに珍妙な
法律であることを示しております。(
拍手)
政府答弁によれば、シーズンによってときどき行うような水力発電所取り入れ口の落ち葉かきの問題さえも
スト規制法の対象となるというお話であります。今の
政府のやり方では、一体どこまで
拡大解釈をするやらわかったものではないと思います。(
拍手)過去におきましても幾多の事件を作り上げまして、百名に及ぶ人を、
電気関係については身柄を勾留し、被告席に数年すわらせ、この人々に多大の犠牲をしいた
政府、検察当局は、そのすべてが無罪あるいは免訴になったというこの事態に対して、いかにおわびをしようというのであろう。(
拍手)まことに許すべからざる前科を持っておるのであります。これらの人々がこうむった精神的、対社会的損害はどうして償われるというのでありましょう。おまけに、単にこういう違法なる行為をやって起訴をされたという
理由で、
昭和二十五年、この方々のほとんどすべてはパージにかけられ、職場を追われておるのである。しかも、三年たった今日、無罪という判決が出ておるという事態に対して、
政府はいかなる
責任を負うのであるか。(
拍手)このようなことは、私ども、
電気労働者の
立場から了承ができません。公共の
福祉に名をかる、このような悪法が、なお
存続をするならば、将来私鉄、日通、ガス等々の諸
産業に及ぶ危険は、過去の
政府のやり口から見て想像にかたくないと思います。このあり方は、かつての日本が、国家と民族という美しい名前に名をかりて
国民の基本的な人権を次々に剥奪していった、あのファッショの道に通ずるものであろうと思うのであります。(
拍手)今日、いささか模様がえをいたして、公共の
福祉という名のもとに、この人権のじゅうりんが行われておることを、われわれは見のがすことができないのであります。(
拍手)
第五の
反対理由は、かりに過去三カ年間は
スト規制法の存在
理由があったといたしましても、今日は、もはや、その延長、
存続の必要はない。ましてや、これを
恒久立法とするに至っては、全く反動といわざるを得ないと思うのであります。この
スト規制法は、その制定に当り、本来こういう
法律は望ましくない、従って、当面の対策として三年間の
時限立法とし、その間に
労使の慣行の成熟を待つということであったのであります。
時限立法というものは、申すまでもなく、その時限がきたときに、特に再延長を必要とする事態が新たに起らざる限り、その命が終るという建前のものであろうと思うのであります。ところが、今日なお
本法を
存続せしめねばならないような積極的な
根拠と現実があるかどうか。この三年間に、たった
一つも明確な違反事件がなかったのであります。しかも、これは、
労働基準法のように、
経営者による違反事件が年間数十万件も起っておるという、この日本の世の中においてであります。ましてや、
スト規制法を今後はさらに
恒久立法とする
根拠のごときは、何人によっても絶対に見出すことができません。(
拍手)
かくして本
提案は、ひたすら
資本家を擁護し、
労働者を敵視し、追い打ちに次ぐ追い打ちをもってするものといわざるを得ないのであってこういう
政府が、民主的かつ穏健な
労働運動のあり方を説くなどとは、まことにもっておこがましいのであります。国の基幹
産業労働者に対する
政府のあたたかい思いやりがなくして何の
福祉国家かと申し上げたいのであります。(
拍手)
最後に、私は次の諸点を申し上げて討論を終りたいと思います。すなわち、炭労、電産
争議の直後、しかも、三カ年の
時限立法を制定することについてさえも、去る第十六
国会におきましては、当時なかなか難航をきわめたのであります。この本
会議での当時の討論におきまして 一応名前は遠慮をいたしまするが、改進党の代表は、本
法律案が三カ年の
臨時立法であることの意義はきわめて重大であると言っております。また、
政府が安易な気持をもってこの
法律の上にあぐらをかいておるようでは、おそるべきことになろう、とも言っておられるのであります。また、分派
自由党の代表は、同じくこの壇上におきまして一年の
時限立法とせよとのわが党
修正案が否決されたことは遺憾であると言い、また、
労働者の
争議は
規制し、
資本家側べの
規制は何らなされていない、
労働者の権利の侵害に対する保障措置もない、この
法案は
労働者に対する吉田
内閣の血も涙もない
労働行政である、と言っております。(
拍手)さらに、自民党を代表して当時の
自由党を代表して、現在の
倉石労働大臣御自身が、本案のごとき
法律の廃止せられる日の一日も早からんことを待望すると言っておるのであります。(
拍手)今日、保守合同の結果、自民党となったとはいえ、特に当時改進党その他であった方々は、今日いかなる感慨をもってこの場に臨んでおられるのであるか、私は最も不可解に思うのであります。
ともあれ、過日も、
社会労働委員会において、有泉教授は、おそらく、どこを探されても、他の学者はいざしらず、専門の
労働法学者にして
本法存続に賛意を表する者は一人も見当りますまいと申されたのでありますが、この際、
政府並びに自民党は、学者、各言論機関、世論に対して謙虚に耳をかすべきであると思うのであります。
先般の毎日新聞の記事によりますると、こんなに評判の悪い
法律は、どうせ不人気の
鳩山内閣のときに押し通しておいた方がよい、新しい
内閣にやらせれば、きずがつくということらしい、という意味のことが書いてあったのでありますが、もしそうだとするなら、一体どういうことでありましょう。
明治憲法下、制限されていた
基本的人権、すなわち、言論、集会、出版、結社の自由が今や保障され、同時に、
労働者の
団結権、
団体交渉権、
ストライキ権が保障されるに至った現
憲法を、社会
福祉という美しい名のもとに、次々にこれを奪っていこうとする今の政治の
方向に、われわれは断じてくみすることができません。(
拍手)今、全国の
労働者は、
スト規制法審議の成り行きを重大な関心を持って注視をいたしております。
国民もまた、一ころの感情論を脱却し、今や、冷静なる判断力を持って、ようやく
政府の反動的本質を見抜き始めたのでございます。
何とぞ、各位におかれましても、われわれの主張に賛同をせられ、かかる悪法に断固
反対をせられまするように切にお願いをいたしまして討論を終る次第であります。(
拍手)