○笹本
委員 先日来熱心に
審議が続けられておりまするこの
委員会におきまして、これは全
国民の視聴を集めて、また絶大な関心と議論の的になっておることは、今さら言うまでもありません。そこで
委員諸君においてもあらゆる角度から熱心に質問されております。
委員長が御心配になっておられたところの重複しないように質問しろという
お話でありましたが、どうしても多少重複いたします。私は、五項目にわたって
総理大臣及び
外務大臣、
松本全権、また法務大臣に伺いたいと思っております。時間の関係上、質問を一問一答でいきますと非常に時間がかかりますので、私は五項目全部質問の形式で申し上げます。それに対して懇切な御
答弁をお願いしたいと思います。
その第一は、
松本全権でありますが、さきに
松本・マリク両氏によるところのロンドン
交渉から、今次の
鳩山総理がみずから乗り込んだ
モスクワ交渉に至るその間において、
内容的に見てどんな進展があったかであります。すなわち、
日ソ両国間の正式
交渉は、ロンドンにおいて
松本・マリク両
全権によって始められたのであります。その
交渉は会を重ねるに従いまして、次第に行き悩みとなりまして、自然休会ともいうべき先細りになったのでありますが、今度は河野農相の訪ソによる漁業
交渉によって、またさらに進んで
国交回復に関する
交渉が始められ、
重光外相の出馬となり、そうして入れかわって、
鳩山総理大臣みずから首席
全権として
モスクワ入りと展開し、今次の日ソ共同の
宣言を見るに至ったのであります。この数次にわたる
交渉について
国民ひとしく感ずるところは、当初の
交渉に比べて、今次の妥結には、果して分がよくあったのであるかどうか、あるとしたならば、どういうところなんであるか、そうして、これはどういうわけでそうなったのであるか、これらについて明快な御
説明をいただくことが、最も根本的な第一であるのであります。もとより
交渉という以上、相手があるわけでありまして、相手には相手の立場あり、また
考えもあり、
主張もあるわけでありまして、こちらの
主張がすべて百パーセント貫徹することは難事であります。しかし、相手との調和、協調もときには必要でありまするが、通観すれば、
日ソ交渉は、
ソビエト政府側は断固として一歩も譲らず、
日本が譲って、こちらのみがのんだのではないか。さらに
交渉に当って、
情勢の観察や要因の分析
判断に手落ちがあったのではないかという点に、
国民感情として割り切れないものがあるのであります。もっとも、
総理は満足した
交渉ではないが、という
お話をしておりましたが、従いまして、当初のロンドン
交渉より
交渉妥結に至るその間の経過の明快なる御
説明を願い、あわせて妥協
内容に進展があったかいなかについて、
松本全権から簡単に
国民を納得させるように御
答弁を願いたい。
続いて第二であります。第二点は、さいぜんも議題になっておりましたが、内政不干渉の問題であります。
共同宣言の第三項において、はっきりと国内事項に干渉しないと約束してあります。平和と信義とに立って、それぞれの
独立国間で内政干渉などは当然あるべきことではないことは、申すまでもありませんが、しかるにこの
共同宣言には、内政不干渉を明記してあるのであります。明記してないよりは、ある方がよいというような、いわば相対的な、気休め的なことでは何もならないのであります。確実に有効な対策がなければならないことは、申すまでもありません。この共同覚書にいうところの内政不干渉、言いかえれば排除する干渉とはどういうことを
意味するのでありましょうか。たとえば、
ソ連が
日本国内の特定団体に財政的援助を与えて、
政府打倒の運動を助けるとか、
日本の選挙に当って、
ソ連が特定の政党を勝たせるために資金を供給するとか、あるいはまた、
ソ連貿易に従事するところの業者に利益を与えて、禁輸撤廃の対
政府工作をさせること等を
意味するものであると解されるのであります。
政府としては、内政干渉を具体的にどういう
意味に
解釈されておるか、その所信や対策を明らかにしていただきたいのであります。先ほ
ども委員から話がありましたが、遠く大正十四年の
ソ連との国交を結んだとき、ヤンソンなる者を
ソ連は
日本に送り込みまして、
日本共産党を指導、工作したので、わが国は
ソ連に対しまして厳重抗議したが、無視黙殺された前例もあるのであります。遠い過去のことはここには申しませんが、かつてはゾルゲ事件があり、最近の事例としましては、ビルマ、スエーデン等で
ソ連外交官のスパイ事件、国外退去問題などが起っており、またインドネシアなどでも、多数の
ソ連工作員が活躍しているとも開いているのであります。さらには最近の中欧の事態を見ましても、
ソ連は明らかに国内問題に干渉している事実があるのであります。この観点から、私は国内不干渉は当然のことではありますが、果して内政には干渉させないということを
政府は保証できるのかどうか、具体的に所信を明らかにしていただきたいのであります。
第三には、第二の内政不干渉とも関越性があるところの治安問題についてであります。わが国は資本主義を骨格とするところの
自由主義経済と、民主主義社会に立っている国家であることは、申すまでもありません。これに反しまして、
ソ連は共産主義に立つ国家であることも、申すまでもないのでありますが、この国家形成の理念が、それぞれいずれも、これが自国の
国民または民族の幸福になるという確信に立っているものであることは当然であります。それぞれの思想、信念によるものであって、いずれが可であると、一律に断ずるわけにはいかないのでありますが、現実の問題といたしましては、わが国においては保守党が
国民大多数の支持を得ていることは明らかなことであります。そして穏健妥当な
自由主義的民主主義が支配的なの、でありまして、
国民の大多数が、この道こそわれらの幸福と
発展のゆえんであると信じておるのであります。従って、先日も文部大臣は、小学校におけるところの偏向教育は断じて避けるべきである、あるいは社会主義的教育、共産主義的教育は、学校教育という限りにおいては、当然問題視されねばならないと言ったのでありますが、私もそれには同感であります。この
意味において、
自由主義国家としてのわが国には、穏健な保守主義が絶対的、支配的なのでありますが、一部には共産主義をもって
理想とする向きもあり、失業苦、社会苦に悩む人々のうちに、ややもすればこれに使そうされて、動揺するおそれもないではないのであります。この思想動揺に誘発される社会不安に対するところの方策、換言すれば、
自由主義国家としてのわが国の治安に対するところの万遺憾なき対策ができているかどうか。この問題について私は
政府の治安対策を具体的に率直にお伺いいたしたいのであります。ただ、一言これにつけ加えておきたいのは、私の質問の精神は、共産主義に対する弾圧政策ではなく、その防禦策としての
政府の見解と方策を伺いたいといりにあるのであります。
第四には、賠償問題、であります。
日ソ両国は戦争に基因するところの一切の請求権を
放棄するという、ここに問題があるのであります。問題のように、第二次大戦の戦況がきわめて不利になってきたとき、わが国は不可侵
条約を結んでいたところの
ソビエトに講和の橋渡しを要清し、
ソ連またこれを了としたやに見えたのでありまするが、
情勢の機微をつかむや、
ソ連は、がぜん豹変して、一方的に不可侵
条約を破棄し、宣戦を布告して、宣戦を布告もせぬ
日本を攻撃すること一週間、かくて戦勝国という地位に立ったのであります。
ソ連はこのわずか一週間の戦いによる戦勝によって何を得たかと申しますると、満州その他から
日本の財産と
考えられるところの膨大な施設、機械を持ち去り、百数十万の抑留者を拉致し、また民間個人財産をもほとんど根こそぎ没収したのでありました。これらの額は数兆億円にも及ぶ巨額に達するであろうといわれておるのであります。しかも、その上に、
ソ連は南樺太、千島列島を手に入れたのであります。わずか一週間の戦争で、
ソ連にはほとんど何らの被害損失もないのに、宣戦布告もせぬ一本の失うところのものはあまりに大き過ぎるという感じを
国民は抱いているのであります。言いかえれば、
ソ連に対して
日本国民は強い不満と非難、あるいは理不尽を恨み怒る気持を忘れ切れないのであります。今までは、理屈はともあれ、戦勝国、戦敗国という比重の差から胸をさすってきた
国民といたしましては、戦勝、戦敗という地位の差がなくなり、いわば対等の立場に立った今日、賠償を一切打ち切ったということは、
国民感情としても割り切れないものがあるのであります。ぜひ
国民に納得できるようにはっきりと知らしていただきたいのであります。また私有財産の請求権も
放棄した場合には、国はこれに対していかなる処置を
考えておられるか。この問題は非常に重大な問題でありまして、
交渉に当っても、その
ソビエトの
交渉に対する度、あるいはまたその
考え方等に対して、
全権は非常に御苦労されたこととは思いますが、
国民といたしますと、どうしてもこの点について納得できない。やはりこういう請求権の問題は一朝にして解決つかないにいたしましても、ここに
政府はこれらに関していかにして
国民を納得させるかということの
説明をしていただきたいと
考えます。
最後の第五の質問でありますが、これはもう、今も問題になっておりました、
日ソ交渉における最大の問題であるところの
領土の問題であります。
歯舞、
色丹の両島は
平和条約が
締結すれば
日本に返還する、南千島は
継続審議とするとありますが、ところで、
サンフランシスコ条約で
放棄した以外の
領土は依然として
日本のものと思い信じているのが
国民の心情であります。従いまして、
領土問題については、
ソ連の
態度や
解釈はあまりに一方的であり、あまりにも理不尽ではないかと思われます。南千島は
継続審議になったという
政府の御
説明であるが、この点は必ずしも明らかでないのであります。南千島は
日本固有の
領土であるから、必ずやそれを認めるものと
国民は
了解しておるのでありますが、この強い火のような
国民感情と信念を十分銘記せられて、
政府におかれては、この機会に
国民をしてぜひ納得させていただきたい。
以上五項目に対しまして、
総理天臣あるいは
外務大臣、
松本全権、法務
総裁から、私
委員に対してでなく、
国民に対して、力強く、そうしてはっきりとしたところの
答弁をお願いいたしたい次第であります。