○井上
参考人 私は、今までの
お話は一般的な
お話でございましたが、鉄鋼業の
立場としてこの
技能者養成の
制度がどうありたいか、また
現状はどうであるかということについて、簡単に申し上げたいと思います。
なおこの
委員会は
中小企業の
関係の
委員会であると申しますが、鉄鋼業の
技能者養成制度は、御承知の通り鉄鋼業は非常にたくさんの
職種の
技能工を使っておりまして、その中で鉄を作る直接の
業種に入る
職種は、製銑工、製鋼工、圧延伸張工、操炉工、築炉工、こういったものが鉄鋼本来の
職種でございます。これは戦後
技能者養成規程ができまして、ある程度たって
あとから、こういう
職種をやってもよろしいという告示が出たのでございます。これは
日本の国でも計画的にこういう
職種を
養成するということは戦後が初めてでありまして、戦前には全然ございませんでした。
あとで申し上げますが、現在
工業高等学校でも、このような
職種に対する基礎知識を与える
工業高等学校というものは、ほとんど一カ所くらいしかないのであります。ただいま申し上げましたように、戦後新しくできた
制度でございますので、目下同業の各社の協力を得まして、こういうような実際の
技能工を作るにはどういうふうな
教育を施したらいいか、どういう
技能を持たしたらいいかということを研究しておるわけでございます。なお鉄鋼業のこういう
業種を現在
養成しなければならぬという必要性は、戦争前と戦争後では、いわゆる製鉄の設備
機械が非常に変って参りました。これは
日本だけでなく、各国そうであります。戦前には、おそらくあまり知識などは要らない、体力と熱に耐えるだけの
人間ならばいける、御承知の通りの作業でありますので、非常に粗雑な作業としていったわけでございます。ところが戦後は、平たく申しますと、オートメーション化の一環とも言えるのでございますが、非常に高速度にスピードを持った精密な
機械を使うようになりましたので、戦前のような
人間では、新しい形式の
機械はとうてい使えないというような事情になって参りました。そういうことでございますから、現在では大
企業中心にこういう
方面の研究を連盟を中心として行なってきておりますが、
中小企業でももちろんこの施設を置かなければならぬということで、熱心なところは非常な犠牲を払って
養成施設を置いておりますが、これは同業の中でいろいろ指導を行いまして助け合ってやっているような
状態でございまして、それは大
企業でもまだ完全には行なっておりません。と申しますのは、まだまだ
企業の中でも、こういった
人間の面の
教育といろのは、設備とか
機械の更新というような
方面の資金その他の力の入れ方に追いつかないような
状態でありまして、どうしてもおくれがちになるというためにこういう
状態でございます。お手元に配付してございますのは、
昭和二十六年から新しい
制度がしかれまして、極力広げたのでありますが、
現状ではその程度の
養成施設しかまだできておりません。なお戦後に、これは乗富さんから
お話がありましたように、現在基準法では、十八才
未満の
年少者は危険有害作業に従事させてはならぬ。しかし
義務教育を終えた中学
卒業生は十五才でございます。これは教習のためにある限度の実習しかできません。その三年間に
技能を身につけようということでございますから、これは非常な困難があるわけです。しかもこれは余談になりますが、昔から鉄鋼の職工として一人前になるには、見習をとにかく十五年くらいやらなければ一人前の
人間はできない。しかもそれが新しい設備なんかになりますと、これは
経験だけでありますから、理解力がない、仕事がまだできない。これを急に焼き直すわけにいきませんので、目下非常に急いでこういうものの教習方法というものを鉄鋼業者の共同で勉強しているわけであります。そのうちでようやくでき上りましたのが、お手元の青い表です。これは製鋼工だけの
技能基準、そういうものがようやくでき上った。これは
学校の方では理論的な教科書というものはずいぶんできておりますが、製造のために
現場で必要な教え方、実習の方法、
先ほど桐原さんからの
お話のあった通りでございます。これは
現場の
経験を生かした
教育の手段というものが現在できておりません。大
企業でもできておりませんのですから、
中小企業ではもちろん、これは他の大
企業でできたものを教わるという程度しかできないわけです。これでもまだ十分なものではございません。そういったことで、大
企業の集まりである私の方のこういう研究会でも非常に苦労してこういうところまでやってきているわけです。こういう面の仕事は、これは業界の中でももちろん力を入れなければなりませんが、これは
学校でもなし、一種の公共的な事業として今やっているわけです。御承知の通り、大
企業でも
中小企業でも同じように、各
企業は自分の計算のもとに、これは営利事業でありませんので、限度がございます。どこかやはり国家で取り上げて、所管の官庁の中で総合的な計画指導が行われないと、われわれのような一部のもので研究しておったのでは、これは先行きえらいことになるんじゃないかということでございます。それでこういった問題は
日本だけでなくて、鉄鋼
関係ではILOの中に鉄鋼
委員会という
業種別の
委員会があります。ソ連その他の先進国も後進国も入っております。これに一九五二年に
日本が復活したのでありますが、その際に鉄鋼代表も参りましたが、そのときに、今の鉄鋼
業種の
訓練の方法というものを国際的に研究しようじゃないかということになりまして、各国の
技能基準というものがILOに集まり、それを交換するようなことになっております。ただその後
労働省の方から御連絡はございませんが、今度おそらく一九五七年にこの
委員会の第六回の
委員会があります。その際には情報交換が行われると思います。やはり戦前にはどこの国でも
現場の見習いで
仕上げておった。それが、戦後欧州ではいろいろな
機械設備が全部こわれ、更新された国が多いので、この
機械を動かすについてどうしても組織的な
訓練が必要だということで、各国で注目してきたわけでございます。私どもあまり
外国のことはよく調べておりませんが、フランスではこういうことをやっておるそうでございます。つまり鉄鋼業は国の基幹
産業でございまして、どうしても国で統制をとらなければならぬということで、大
企業あたりは自分で
養成所を作っていますから、これには
一定の売上税の免除をする。そのかわり
養成所を持ってないところは
一定の売り上げに対する税金をとって、これを
目的税として
共同養成所の資金にするというような
施策もやっているそうでございます。そういうことで、最近鉄鋼業でもある程度の
発展を遂げたのでございます。
こういう
養成所を出た人が、
先ほど来も
お話が出ましたように、各個の
会社の
養成所を出たのでございますから、そこの
会社だけしか通用しない。一般的に社会的に見て、
学校の免状がほしい、そういうこともございますが、さらに現在ではいろいろの建前から各省の監督のもとに
技能に関する免許が必要になっております。これは例をあげますと、機関士の免状とかあるいは起重機運転手あるいはアセチレン溶接工の免許、こういうものを、すでにこういうところで十分な
技能の修得が行われているにかかわらず、
一定の形式の
試験を受けなければならぬ、そのために非常に
会社としてはロスがあるわけであります。こういうものは、どこかで統一して、すでにその水準に達した者は
試験を免除するというような政策もとっていただきたい。
それからもう
一つは、最近いろいろな点で若い者は社会に立って非常に誘惑されてよくないというようなこともございますが、こういった課程を出てきた者は、相当その仕事について最初から
現場に立って勉強してきたものでございますから、
一つこういうものを激励するような国家の
制度があっていいのじゃないかということでございます。国家の
制度を待っておられないので鉄鋼連盟ではことしの三月各鉄鋼
会社の施設を修了する者の中から最優秀者を推薦してもらいまして、会長の表彰状と記念品を贈る、こういうことをわずかの経費、わずかの手数でございますが、やって結果を見ますと、非常に職場に入ってからよくなっておるというようなこともございますので、こういった面は、国でも早く取り上げていただいて、一般的に各
産業にも及ぼしていただきたい。
ただいま大ざっぱに申し上げましたが、こういうことは鉄鋼業の中で
中小企業の方ではほとんどほご的になっております。ほごというのは、今それがやりたいけれども、できないということになっている。大
企業でもすみの一角でやっておるというような
状態でございまして、これはやはり私の
企業の自由にまかしておったのでは時間的に間に合わないのではないか。国でやはりある程度の援助をしていただいて推進し、かつ計画的に御指導をいただかなければ、なかなか労多くして効果が少いというようなことになるのではないかという心配がございます。
なお具体的に
養成所を出た
人間がどういうふうに
現場で役に立っておるか、
学校の
教育を受けた者との相違といいますか、実際
現場で役立つには
養成した者の方がいいという実例については、
日本鋼管の方の、実際おやりになっておる方がいらっしゃいますので、その方から御説明していただけばよろしいかと思います。
以上、荒筋だけを申し上げて終ります。