○川上
委員 時間が非常にありませんし、
通産大臣はエチオピア皇帝の会に行かなければならぬ、与党の方々も早く済めばいいと思って、義理合いに努めておられて大へん気の毒だと思います。それで
一つ質問をしてお答えを願いたいのですけれ
ども、それでは時間をとりますので、便宜上私は聞きたいことを全部まとめて
質問したいと思うのです。
質問は四点ほどよりないのでありますけれ
ども、あとで
一つ一つの
質問に対して別々に政府の方でお答えを願いたい。
第一に
質問したいことは、この
法律は実はあってもなくてもよいんだ、
労働者にはあっても不利益になりはせぬ、こういう御答弁がさきにもあったのであります。しかしこれは
労働者が聞いたら一体どう
考えるだろうか。これは
労働者の権利を
制限し、きつい言葉で言えば奪う
法律です。その上に
憲法に違反しておるという点が重要な問題じゃないかと思う。この点については政府の答弁が今までありましたようですが、非常に明確でないと思う。そこであらためて聞きたいのですが、
憲法第二十八条には「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体
行動をする権利はこれを保障する。」と
規定されておるのであります。これは条件づきの権利ではない。
憲法第二十九条には
財産権に関する
規定がありますが、これには「
財産権は、これを侵してはならない。」と
規定してあって、その次にしかしこの
財産権の内容は
公共の
福祉に合致するように
法律でこれを定めると明確に書いてある。ところが
憲法二十八条の
労働者の団結権、罷業権の問題には
制限する条文がない。このことは
労働者の団結権、団体
行動の権利というものは無条件であって、第一義的な権利として保障してある証拠だと思う。ところがこれについて政府の方では、今までの答弁をずっと見ると、この法案は団結権そのものを
制限するのじゃない、団体の活動、
労働組合の活動の一部を
制限するんだ、こう答弁になっておるのです。もしそういうことを認めるならば、それでよいのならば、今後政府が一方的にきめた抽象的な
公共の
福祉とかあるいは行政解釈とかいう口実で、
労働者の団体
行動の大部分を次から次へと
制限しても差しつかえないことになる。これは切りがないんです。これでは
憲法二十八条の保障というものは全く空文になってしまう。この一点から
考えても、この法案は明らかに
憲法違反の法案であると思うが、この点がどうもはっきりしない。そういう疑いがあるから、これはこの前の
国会で時限法にもなっておるんです。ところがまた政府はこういうことを言うておる。
憲法第十二条及び十三条にある
公共の
福祉が個人の
自由権を
制限し得るのだと、こう言うておる。しかし
憲法第十二条、十三条はこれは一般
規定であって、
労働者の団結権のように特別の条文、すなわち
憲法二十八条、こういう条文によって保障されておる権利を抽象的な
公共の
福祉云々で
制限することはできない。これを
制限するためには
憲法の上に一定の条文がなければならぬ。よその
憲法においてもそうなっておるんです。一定の条文がなくて
憲法十二条を
憲法二十八条に
適用することは、明らかに
憲法違反であると思う。この点について正確な答弁がない、応答を読んでみる……。これを
一つ明らかに聞きたいのです。このことについての御答弁でふに落ちぬことがあれば、簡単にあとで
質問さしてもらいたと思う。これが第一点です。
第二点は、
労働大臣は大阪の財界の懇談会で、生産性向上運動の指導その他すなわち生産性向上本部のその仕事、これに類するものを
労働省で管轄したい、こういう談話をしておられる。これは新聞にも出ておる。生産性向上運動というのは生産を向上する運動であって、主として資本家の運動です。
労働省本来の使命というものは、
労働者の
福祉、
労働者の保護、
労働者の保護
立法の運用の監督、これが
労働省の本来の使命でなければならぬ。ところが
日本の
経済上において、資本家がやっていこうとしておるところの生産性向上運動に
労働省がまっ先に立ってタッチしなければならぬというこのことは、私は
労働省の性格を変えようとしておるのだと思う。これは
スト規制法に
関係があると思う。つまり
労働行政を今後資本家の生産向上の立場から実行していこう、生産性向上運動の線に沿うように
労働規制をしていこう、こういう
考え方が
労働大臣の頭の中にあるのではないか。こういう
考え方があるから、この
スト規制法の根底にも
労働者を
日本の生産性向上運動並びに資本家の利益の方向へ
規制していかなければならぬという観念があるから、無理無体なことまでやってこの
スト規制法を通そうとしておる、こういう意図があるのである。そこで第二点の問題は、
労働大臣は、生産性向上運動を
労働省がタッチしていく、こういうことがよろしい、これについては経団連も賛成しておる。これはどういう
考えであるのか。これを第二点に聞きたい。第三点は、
労働大臣はかつて社会
労働委員であった時分にこう言うておられる。このような恥ずべき
法律は一日も早く廃止したい。すなわち
労働大臣自身が悪法であることを認めておる。ところが今日
労働大臣になると、直ちに豹変した。自分自身で認めた悪法を、
委員会の審議もさせないで、
国会の審議権を無視してまで、これを無理無理に押し通そうとする、こういうことをやった。一体これはどこから出たかというこの問題。何でこんなことになるのか。この理由は、端的に言えば、日ソの国交回復に無
関係ではない、こうわれわれは思う。
言うまでもないけれ
ども、日ソの国交回復をどうしても早期にやらなければならぬように非常に要求した
国民の力というものは、今後国際平和と
民主主義、特に政府の対米一辺倒の政策を平和共存の政策へ切りかえろという猛烈な広範な運動が起ると思う。このくらいのことは政府は知っているだろう。これは困る。そこで、まずその先頭に立つであろうところの
労働者階級の権利をもっともっと押えつけて、もっともっと奪い取っておかなくてはいかぬ、これが
一つのこの
スト規制法の根底にあって、こういうことをやる橋頭堡にまず
スト規制法を通して、
憲法に保障してあろうが何をしてあろうが、
公共の
福祉という名目ではどんなことでもやれるんだという前提を作ろうとしておる。これは明らかだと思う。現にそれだから時限法を
延長するのだと言うけれ
ども、単なる
延長ではない。
立法当時の説明と違う。
公共の
福祉の内容もまだほとんどきょうの
委員会でも明らかにならぬし、実際には
制限の内容をぐんぐんと拡張して、どんな形にもせよ、少くとも電源や保安に
関係のある
行動をしたら、一切がっさい
スト規制法でひっかけていこう、こういう解釈を出しておる。これは
本法の審議をした三年前の
状態とは非常に解釈を拡張しておる。この法の拡大は、ちょうど日経連や商工会議所の要求と同じことなんです。これをやってござる。こういうことは割合はっきり言うておらぬけれ
ども、事実やっておる。そこで私はここで聞いておきたい。もしそうではないんだということであるなら、ここで明確に、内容の拡張解釈はしたい、これを例にして他の
産業に対する
制限を拡大することはしないということを、言葉の上ではなく——言葉では何でも言えますから、
委員会さえ言いのがれさえすればいいというので、何でも言えるから、そうではなくして、これを保証するための具体的な措置をとるかどうか。この具体的な措置がない限りは、
委員会の答弁なんか当にならぬ。この具体的措置についてどういう
考えがあるか。具体的措置は何もとらぬのか、これが
質問の第三点。
もう
一つは、この法案は大資本家本位一点張りであって、
公共の
福祉ではなく、大資本家の利益だけに奉仕してはおらぬかという点である。そんなことはない、見解が違う、こうおっしゃるかもしれぬ。ところが事実はそうなっておるのじゃないかという点で聞きたい。御
承知のように、独占資本は未曽有、空前の大もうけをしております、これを謳歌しております。これは鉱工業生産
一つ見ましても、
昭和九年から十一年度を一〇〇として、この九月には二二三となっておるということを資本家自身が発表しておる。これは世界最高の上昇率です。また大資本六百九十二社の本年九月の決算を見ると、その利益は千二百五十三億です。これも発表しておる。鉄鋼三社は前期より二八%の増利益、造船四社は四五%、重電機四社は四一%、人絹五社は三七%増、電力九社は八七%、百十八億円です。不況々々と言われておる石炭
産業においても、大部分の
会社は一割二分以上の増配をしておる。これが実情なんです。これは
考えてみれば、
一つには、戦後十一年にわたる政府の保護、てこ入れがものを言うておる。いま
一つには、
労働者に対する低賃金
労働強化がものを言うておる。こういう
状態であるから、
労働階級は賃上げの要求をした。たとえば鉄鋼
労働者は今秋の要求で二千五百円という控え目な賃金値上げを要求しておる。これに対して資本家はびた一文も出さぬ。いろいろやった結果、やっと七百円。全造船は千八百円要求して、たった九百円。こういう事実に対して政府は何の施策もしておらぬ。何かしましたか、何もしない。公務員に対する人事院勧告にも応じておらぬ。逆に賃金
ストップを強行して、
社会党その他がしきりに要求された補正予算すら出さない。その反面において、
労働者の当然の権利を
憲法を無視して踏みにじり、どこまでもこれを踏みにじるやり方、これはほんとうに政府がなすべきことを
一つもせず、なすべからざることばかりやりおる証拠である。ここにこの
スト規制法の問題がある。全
労働者はもちろん、学者も反対しておるんです。新聞が反対しているんです、朝日新聞がトップを切って大反対しておる、地方自治体が反対の声明を出している、政府がやったことに対してこんなことがありましたか。地方自治体があかんと言っているんだ、北海道なんかはざらにやっている、こういうことは今まで例がない。こういうやり方でほんとうに
国民の
福祉が守れるかどうかという点について一体
考えておられるのかどうか。これはだいぶん違うんじゃないか、そうしてあってもなくてもいいというような
法律を無理押しに通すと言う。私は今まで
国会にきてそう長い経験はないけれ
ども、あってものうてもいいけれ
ども、とにかくどうしても、
委員会を省略してまで本会議で通すんだという答弁を聞いたのは初めてだ。どうしてもやらなきゃいかぬというて多数をたのんで無理押しに押したことはあるが、あってもなくてもいいものを、それをむちゃくちゃに通さなければならぬ、こんなのはないです。私はこれは間違いだと思う。私は思うのにほんとうに民族のいしずえは、政府はいろんなことをおっしゃいますけれ
ども、ほんまの民族のいしずえは
労働者階級と農民です。これの
福祉が守れぬようなことじゃほんまに民族の基礎は立ちやしません。この
労働者の権利を奪うことはするし、すべきことはしておらぬのです。
日本の平和と独立を保障するものは、
労働者階級の権利と
生活を保障することこそが、ほんとうに政府が言うておるりっぱな
日本を築く道であるということを政府は銘記しなきゃいけない、これを忘れる政府は
国民の政府じゃない、私はこう思う。この点について
労働大臣はどう
考えておざるか。
委員会だけ言いのがれすればいいというのではなく、心をむなしゅうしてほんとうのことを言うてみられたらいい。自分のかわいい子供や孫の顔を見るつもりで答弁願いたい。これだけです。