○向井
参考人 私、
全国電力労働組合連合会の会長の向井でございます。本日、衆議院の社労
委員会の
参考人として参った次第でございますが、特に私、本
法案の審議に当りまして社労委におきまして、
当事者、あるいはまた
関係者を呼ばれまして
参考意見を聞かれることをまことに喜びといたし、敬意を表する次第でございます。ただこの
法案が
存続するという形において
政府が上程される前に、現在のこの
法案に対して
国民の
世論と申しますか、一般
国民あるいはまたいろいろな学者等の
意見をほとんど
政府自体が聞かなくて、そのままこの
国会に上程されておる。この点につきましてまことに遺憾に存ずる次第でございます。なぜならば、特に御承知のように、現在この
法案に対する
国民世論といたしましては、全く悪法であり、これは
存続すべきでないというような
考え方が現在各所に現われております。これは御承知のように各
新聞社の社説を見ましても、あるいはまた私
たちが集めました一般
世論の集積といたしましてここにある署名簿を見ましても、あるいはまた私
たちがこの
法案に対して、われわれみずから一般学者なりその他
世論に対しまして公聴会を開きまして、その公聴会の過程においてのあらゆる
人たちの
意見を参考にいたしましても、この
法案はもうあるべきではない、また
憲法の精神に背反する
行為である、こういう
考え方を実は述べております。これは十月十三日に社会党を
中心にいたしまして、一橋の吾妻さん、あるいは評論家の中島さん、あるいは都立大学教授の沼田さん、全中協労働部長の島田さん、毎日
新聞社の江幡さん、弁護士の小林さん、あるいは労働省婦人課長の
田中さん等の
人たちに来ていただきまして、一般公聴会を開催いたしたのでございますが、その
人たちの
意見そのものも、この
法案に対しましてはまっこうから
反対した
意見が述べられております。かかるように、現在の一般の
世論といたしましては、今申しましたように、ほとんどがこれは悪法であり、しかもこういう
憲法に背反する
法律を再び延長するがごときは、これはまことに遺憾であるというような態度が今現われておるのでございます。かかる意味におきまして、私は
電気の
労働者の
立場からこの
法案に対するところの
反対意見を以下述べたいと存ずる次第でございます。
特に第一番目には、
憲法の精神に背反するということを申し上げたいのでございます。なぜならば、御承知のように
憲法の第二十八条には
労働者の罷業権は
労働者固有の権利といたしまして保障されておるのでございます。従ってこの点につきましていろいろ言われておることは、私
たち電気労働者あるいは
電気の
労働組合が、
停電とか
電源ストライキというものは、
電気を消そうとかあるいはまた発電所をとめる、こういうことが私
たちの
目的ではないのでございます。これはあくまでも私
たちが正常な労働力を提供いたしておりますが、この紛争の過程において、私
たちの労働力の提供を拒否するというのが
目的でございまして、少くとも
停電あるいは
電源スト、いわゆるこれに対して
電気をとめようというのが
目的ではないということ、これをまず明らかにいたしたいと存じます。従って、しからば派生的に
電気がとまるということになるかもしれませんが、これは御承知のように、
電気事業あるいは
炭鉱においてでもございますが、やはり私
たちは発電所、変電所におきましては、労働力の提供を拒否する場合に、そのまま送電しっぱなしでこれを拒否いたしますと、非常に危険な
状態が起り得るおそれがある。従って私
たちがこれを拒否する場合においては、まず安全な形において労働力の提供を拒否しよう、こういうことが私
たちが今申しました
一つの
ストライキ行為となって現われるのでございまして、これは決して
停電あるいは
電源に対するところの
電気をとめるという精神ではない、派生的に、いわゆる安全の形に置こうとするときに起きてくるのがこういう
状態であるわけでございます。従ってこれは三年前私
たちが電産当時にいろいろこういう問題がありましたが、その中で私が
憲法に背反する精神であると言うことは——これに対する二十五件の裁判事件がございます。
電源あるいは
停電に対するところの事件が出て参りましたが、これは先般も私
たちがいろいろ裁判所の判決等を調査いたしますと、二十五件ほとんどが無罪である、あるいはこれが免訴になり、検事控訴が棄却になっております。従ってこの精神から考えましても決してこれは合憲的な
法律ではない、
憲法の精神と背反する
一つの
法律である、こういうように私
たちは断言せざるを得ないのでございます。
こういうところに
憲法に背反するところの
一つの考えが明確に現われておると考えられます。次に第二番目には、特にこれは
政府なりあるいはまた
経営者の、
組合に対するところの一方的な抑圧
手段であるというように私
たちは考えるのございます、これはなぜならば、この
法律が施行されるときに、皆様も御承知のように、
電気の
労働者あるいはまた
炭鉱の
労働者の賃上げ闘争が、ますますこの紛争が長引き、しかもこれが困難な
状態に相なった次第でございますが、そのときに特に
政府は
公共の
福祉に反するというような名目のもとに、しかもこの
法律が時限立法の形で強引に
制定せられたと私
たちは考えております。これは全く私
たちから考えますならば本末転倒でございます。と申しますのは、紛争を何とか解決するための誠意が
経営者にも非常に乏しかった、あるいはまた
政府自体の中におきましても紛争を解決するための努力が足らなかったのではなかろうか、こう私
たちは考えるのでございます。従ってこれは特に
経営者あるいはまた
政府からいうならば、
労働組合の中においての逸脱傾向があったから、これは当然
公共の
福祉に反すると考えるから必要である、こういうことを言われておりますが、しかしもし私
たち労働組合の中におきまして逸脱あるいは行き過ぎ
行為があるとするならば、これは決して
政府やあるいはまた
経営者、いわゆる権力やあるいは
法律というようなもののいろいろな抑圧
手段によって訴えるのではなくて、少くとも
労働組合の自主的な、いわゆる私
たちの力によって克服するのが、当然でございまして、権力やあるいはまた
法律によって
規制することは大きな間違いであると私
たちは考えるのでございます。かかる意味におきまして、もしこういうような
状態を権力や
法律によって
規制するならば、これは決して今後正常ないわゆる健全な
労使関係はいつになっても生まれないと考えます。少くともこれは先ほど
経営者の方も言われましたように、お互いがあらゆる問題を誠意をもって解決しようというこの
考え方の上に立つならば、いわゆる紛争というものをそういう
行為に訴えなくても解決するのではなかろうか。ただこれが一方においては、今申しました
考え方から解決をしようという誠意よりも——しかもこの
法律に対しましては、この
法律を何とかしくための
方法として、この当時は、私
たちのこの
争議を延引策をとり、そうしてこれの解決をはばんで、
石炭にあるいは
電気にこの
法律をしこうとするような策略があったのではなかろうか、こう私
たちは邪推をせざるを得ないのでございます、これはなぜならば、特に先ほども言われましたように、もし
電気におきましてもこういう事態、ほんとうに
公共の
福祉に反するというような事態が起るならば、これは御承知のように
労調法第三十五条におきまして
緊急調整という
規定があるわけでございます。
政府自体がこの
規定を施行することができるのでございますが、そういう
法律がありながら
緊急調整をしかずにいたしまして、そしてただ今申しました
世論の悪化を待って、しかもこの
法案を一挙に通そうとするところの魂胆がそこにあったのではなかろうか、こういうような
考え方を強く持つわけでございます。特に私は、この
法案制定の当時の現況を申し上げますならば、これは私
たちから考えますならば一方的に
責任を
組合に転嫁した
法律である、こう考えます。なぜならばこの
法律が施行された当時、特に
電気の場合を私は申し上げるのでございますが、先ほど申しました賃金の問題が壁にぶつかった当時、
世論の反撃を一手にこうむらすように、根底から
ストライキを
規制しようとするところの
考え方が強く現われておりまして、その当時は
公共の
福祉を私
たちは阻害したことはないと考えております。なぜならば、私
たちは少くとも当時の
状態を調査いたしますと、一般電灯にいたしましても、あるいは工場の
保安電力にいたしましても、あるいはまた交通機関にいたしましても、完全に確保いたしておったはずでございます。従ってそういうような一般の
公共の
福祉に反したような形は生まれてなかった、こう私
たちは考えたいのでございますが、しかしながら特に当時は、御承知のように二十七年、二十八年は未曽有の渇水期であったのでございます。従って非常に
電気の不足を来たし、あるいはまた
石炭の不足を来たしまして、これについての
停電、いわゆる
電気の限制が著しく行われておったのでございます。これは決して私
たち労働組合の
ストライキではなくて、会社のいわゆる
停電制限が盛んに行われた当時でございまして、これが一般
世論に対しましては、先ほど申しました賃金の
ストライキとともにあわせて、一方的に
組合の
ストライキのためであるかのごとく宣伝されたことは、まことに私
たち遺憾に存じておる次第でございます。特に私はこれを申し上げますならば、
経営者の日常の経営に対する怠慢が、今申しました渇水期に備えての確保ができていなかった、特に火力の増強とかあるいはまた
石炭の確保とかが行われていなかった、これはただどろぼうをつかまえてなわないをするようなことではなくて、平時において、いわゆる
公共の事業を担当しておる
経営者は、少くともかかる
状態のくることも予想して、
石炭の確保あるいはまた火力の増強も当時からどしどしやらなければならないことが、その当時は非常に
経営者が怠慢と申しますか、
経営者のこれに対する
関心あるいはまた努力が非常に足らなかったと私は言わざるを得ないのでございます。そういうような、今申しましたような
状態がこの当時起きておりまして、これがすべて私
たちの
ストライキのごとく宣伝され、一般
世論の悪化がしかも私
たちの
責任にすべて転嫁されたことが、この
状態であったろうと私は考えております。従ってこういうような
状態の中から、特に私
たちその後の今申しました
電源あるいは
停電という
ストライキに対しましても、やはり先ほど申しました
憲法の精神から考えて、
労働者固有の権利として当然あるべきであるとわれわれは考える。しかしこれを直ちに実施するとかしないとか、こういうことをよく私どもは聞かれるのでございますが、これは少くとも
労働者が、あるいは
労働組合が自主的にみずから
決定するものであって、他の第三者の介入すべき問題ではない、こう考えておるのでございます。従って私
たちは私
たちの良識で、私
たち組合の力で、われわれみずからこういうあらゆる問題に当って参るのでございまして、
法律やあるいはまたこういう
規定によって
規制されることは大きな間違いであり、もしこういうことをなされるならば、健全な将来においての
労使慣行が阻害される結果になると私は考えるのでございます。かかる意味におきまして、特にこの
法案に対しまして私
たちはまっこうから、
憲法の精神に背反する
行為であり、なおまたこれは健全な
労使慣行を将来作り上げるための大きな阻害になるところの
法律である、ただ一方的に
経営者を保護する
法律である、こういうように断ぜざるを得ないのでございます。
かかる意味におきまして、将来
労使慣行が健全になるためには、やはりこういう悪法は少くとも撤回され、あるいはまたこれが審議過程において、皆様方の
意見によってこれを廃案にしていただきたいと存じます。従って電労連あるいはまたその他
労働組合の
立場といたしましては、わが国の
労働組合も十年有余非常にいろいろ変転はして参りました。しかしながら自分
たちの力を知り、自分
たちの良識を養いまして、ここに健全な慣行が今芽ばえ、生まれつつあるのでございます。三年
たちました今日、かかる
法案をまだそのまま
存続さすとするならば、これは先ほど申しましたように、健全にしてしかも自由にして民主的な
組合が生まれ、
労使慣行がよりよく育とうとするところの、これに対する大きな障害を与えるものと私は考えるのでございます。従ってこれは社会党の議員の
皆さんだけではなくて、自民党の皆様方も、将来
労使慣行が健全に育ち、健全にこれが発展するためには、ただ
ストライキをやめさすためのこの
法律であるから、やはりどうしてもこれは
反対しなければならぬというような観念的なものではなくて、この真相を、現在の
労使慣行のこの
状態を十分皆様方が知っていただきまして、その中から、真剣にこの問題についての討議をなされまして、最終的にはやはり将来
日本の
産業の振興のために、あるいは
経済の発展のためにも、よりよき
労使慣行をつくるために、かかる
憲法に背反した
法律をどうしても皆様方のこの
国会におきまして撤回されるように心から要望いたしまして、私は私の
意見を終ることにいたします。