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中村参考人 今度六キログラムの
濃縮ウランをこちらへ入れるということに関します
研究の
協定というか、そういうものが去年結ばれまして、いよいよ実行に移りがかってきたわけですが、今度入って参りますのは、わずか六キログラムのうちの三分の一だけでありまして、これだけではとても今
原子力発電の
研究をするということは、もちろんできませんし、ほんのおもちゃのようなもの、
ウォーター・
ボイラーを
原子力研究所でお作りになるのがやっとでありまして、全体としてこの問題を見る必要上は、いずれまた
動力炉を作るという場合の
協定、そういうものと関連して考えなければいけないというふうに思います。
それできょうの私に対する御注文は、今度の
特殊核物質の
賃貸借に関する問題ということでございましたけれども、全体といたしまして、
発電に関する
協定が将来あるいは結ばれるのではないかということも考えまして、そちらの問題にも入りたいと思います。とにかく今度の場合にいたしましても、われわれ
学者側から、よく御存じの三
原則というものを前から主張いたしておりまして、これは何も新しい話でなく、非常に常識的な、学問の発達に
関係した問題でありまして、自由な零囲気で
研究するとか、民主的にやるとか、あるいは自主的にやるということは、どなたも反対なさらないと思います。またこのことを皆さん非常によく聞いていただいて、今度の
協定においても
機密がないということを主張していただいた結果、やはり
日米間のこの
研究協定におきましても、ある程度
日本の
立場がよくなったのではないかと考えて、われわれとしても非常に満足しているわけでありますが、将来
動力協定というものを考えます場合には、やはり原料にしてもわずか六キロの
濃縮ウランじゃなくて、四十キロぐらいになりますから、
アメリカ側といたしましても多少警戒の念が起るのじゃないか。現にオランダなどと結んでおりますそういう
協定を見ましても、
機密保全という意味が多少加わっておる。あるいは
濃縮ウランが燃えましたときに中にできます
プルトニウムの
処理にいたしましても、自由にできないのじゃないか。またわれわれ
研究者といたしましては、
自分たちの
研究が何か成果を得ましたときには、自由に発表するということは非常に
満足感を与える。そういうことが
研究の情熱を刺激するというわけでありますが、与えられました
試料と
情報を使った
研究が何か
発明発見を導いた場合に、その権利がやはり
アメリカ側に保留されるということでありますと、何となく
研究意欲を阻害されるのじゃないかということを
研究者側としては心配しておるわけです。もちろんこういうことにつきましても皆さんが努力していただいて、あらゆる
制限がないようにしてやるというふうにいっていただけば、われわれとしては満足でございますが、あるいはある種の
情報なり、ある種の
物質なりは原水爆と
関係があるとなりますと、どうしても
秘密特許制度あるいは
秘密保護法というようなものと将来何か
関係しなければならぬかどうか、そういう心配をわれわれは持つわけであります。もちろん、そういうことはあまり考え過ぎだ、そういうことをぐずぐず言っていると
世界の大勢におくれるんじゃないか、そういう御
意見もあると思いますが、やはりわれわれといたしましては、
原則というものをどこまでも主張していただきたい。そういうことを
学者側としては希望しておるわけでございまして、将来
動力協定ということがもし日程に上ります場合には、
日本の
原子力がほんとうに円満に発達いたしますには、どうしてもあらゆる
制限条項のない形で結んでいただきたい、そういう希望でございます。
聞くところによりますと、とにかく来年の夏ごろまでには
国際原子力機関ができる。その場合に
日本も
理事国の
一つとして
世界の
原子力開発に貢献できる。そういうところまでこぎつけまして、今準備をしておられるわけでありますが、こういうふうになったというのも、やはり
日本の中で今日までの
原子力問題に対する国民、あるいは
皆様議会の方、あるいはまた
学者、
技術者等すべての人の関心が深く、また
原子物理学におきまして、
湯川博士初めいろいろな
方々の
研究、そういうものが
世界である程度認められたというふうに考えてもいいのじゃないかと思いますが、こういう
原子力機関ができます場合には、とにかく
わが国も
責任者の
一つとしていろいろなことを発言できるわけであります。平和的な
原子力が円満に発達するためにはこうせよ、ああせよと言えるわけでありますし、また
燃料の問題にいたしましても、被
援助国に対してはなるべく安く分けてやってくれ、またいろいろな
研究をなるべく
制限しないようにしてやれ、
発明発見に対しても十分な
満足感の得られるような形で
研究をさせろというようなことも言えるわけでありますから、もしそれまで待つことができましたら、やはりそれだけ
日本は公平な
立場で扱われる、あるいはまた
日本自身も
世界の
原子力開発のためにどうすればよいか、そういう
責任感をもって考える、そういう中でやる場合と、
日米だけ、あるいは
日英だけで
動力協定を結びまして、あるいはそれはソ連とも同じでありますが、日ソだけで結ぶという場合でありますと、どうしても
日本は今対等な
立場で発言はできない。これは当りまえのことでありまして、
日本には原料もありませんし、また何ら相手国に対して貢献できるような
研究情報も今持っていない、それからまた将来もすぐには何かこちらから
向うに与えるものというものがあまりないわけでありますから、やはりどうしても
立場は非常に悪くなる。今
渡辺参考人からおっしゃいましたように、
日米間の今度の
研究協定にいたしましても、よく調べてみると非常に不利であると言われるのですが、これがやはり現在の、悲しいわけですが、
日本の
立場であるとある意味では考えられるわけであります。これを何とかしてもっと
世界で十分認められるような
立場にまで引き上げますには、容易ならない努力が必要でありまして、そういうためにも、今無理やりに、まだ
日本の体制ができておりませんうちに何か非常に自分自身を束縛するような形で
協定を結んでしまわなくてもよい。もちろん
世界の
原子力の発達におくれるから急ぐとおっしゃるお気持もよくわかるわけでありますけれども、もう一年くらいのことでありますし、それまでに国内でやることはまだたくさんある。たとえば今度六
弗化ウランを買う場合にいたしましても、その
化学処理というようなものはやはり
アメリカの
業者に頼むというようになっておるようでありますが、ごくわずかのことですけれども、こういうことでもし
日本にそれだけの技術がありましたら、こちらの
業者にやらしても必ずしも悪くない。それがやはりまだ
向うに頼まなければならぬということでありますと、そういうこまかい工業技術だけでもおくれておるわけでありまして、こういうようなことはまだたくさん
日本に言えることでありましょうし、技術面におきましても、
研究面におきましても、一年、二年の間には、四十キロの
ウランを持ってこなくてもできることはたくさんある。
アメリカ側といたしましては、
動力協定を早く結んでおくという
理由はたくさんあるわけでありまして、来年の
国際原子力機関におきまして、いろいろな形で自分の被
援助国というものを多少確保しておいた形で臨めば、それだけ有利になるというような気持もあるのじゃないかと憶測できるわけでありますが、
日本側といたしましては、今それほどあせる
理由はないのじゃないか。ですから、わずか一年、二年のことでありますから、それに使いますエネルギーなりお金なりあるいはいろいろな問題をお考えになるごとを少し延ばして、ほかの方に回していただけばどうか。
たとえば私ども
学者側といたしまして今
日本の
原子力問題で非常に急いでいただきたいと思いますことは、
原子力の技術者の
訓練ではなくて、
研究的な雰囲気というものを
原子力研究所なりそのほかあらゆる分野にもっとしみ渡らしていただきたい、そういうことであります。この間私シアトルの国際理論物理学会へ参りましたときにもそう痛感したのですが、外国のそういう科
学者は非常に熱心に夢中になって自分の
研究に没頭しておる。ところが
日本では何となくいろいろ若い
研究者の究研意欲を阻害するような条件が一ぱいある。一例をあげますと、
研究者がまだ十分ポジションを得ておらないとか、あるいはまた
原子力研究所におきましても、
研究よりも、むしろ大急ぎで
原子力の技術を修得すべきである、そういう雰囲気が非常に多いわけであります。
アメリカにおきましても、
原子力研究所などの四〇%は純粋な
研究、これは何も原子核物理の
研究だけではなくて、工業技術一般の
研究でありますが、そういうことに向けておりまして、すぐ役に立つという雰囲気はそれほどないのじゃないか。いわんやイギリス、ソ連その他そういう
原子力先進国も大部分の
原子力研究所の仕事というのは、すぐに役立つものじゃなくて、遠い先のことを考えているというふうに見えます。この点やはり
日本としてはおくれておりますのでどうしてもあせる、だから少くともあのレベルまではというふうに速成主義になりやすいのは無理ないことでありますけれども、ここまで
原子力問題が
世界的になって参りますと、追っかけておればいつまでも追っかけておるということになりますから、やはりここは
一つ腰を据えて
研究中心の方に向けていただきたい。この間
杉本参考人のお話をちょっと伺ったときにも、そういうふうにするには大蔵省とかほかのところの理解が非常に足らないので、自分としてはそうしたいけれどもなかなかやりにくいというようなお話でありますし、も
原子力研究所に
関係していらっしゃる嵯峨根先生にお話を聞きましても、自分は
研究中心にするために年中けんかばかりしなくちゃならない、大へんだというようなお話でありますが、そういう点でもうしばらくはむだなお金を使ってでも、すぐには芽が出なくても、将来のためにという意味で少し方向を変えていただいてはどうか。
そういうふうにもし方向を変えていただくといたしますと、こういう
協定の中でこれだけ大事な
燃料を買うのだからそのくらいのことはやむを得ぬじゃないか、原水爆の原料のような大事なものをもらうのだから、そこらは目をつぶらなくちゃというお気持が変るのじゃないかと思うのであります。たとえば灰を
処理することは
向うへまかしてもいいじゃないかというようなことになるかもわかりませんが、そういうような
化学処理の中からまたどんどんいろいろな発明ができる。特に
日本人はそういう技術については器用でありますから、こちらでいろいろな灰の
化学処理をいたしますれば、またアイソトープの利用にいたしましても、それをもう一回
発電に使うという例の灰から
発電をするという場合にいたしましても、決して外国の技術者に負けることはない。もちろん
アメリカの方では
プルトニウムができまして、これがまた原爆の原料になるから
日本で作られては困る、もっともな気持ではありますけれども、やはり
研究中心というふうに考えますと、
化学処理を自由にさせないとかいうようなことは非常に致命的なことであります。そういう点で
学者側といたしましては、ただ
燃料をちょうだいするというだけでは、決して
日本の
原子力は円満に発達しない、これは電気が安くなり豊富に国民に供給するというところまではなかなかむずかしくなる、こういうのがわれわれの偽わらざる気持でありまして、せっかく買ってやるのにぐずぐず言うなというふうにお考えになるかもわかりませんが、買っていただくだけではなかなか仕事ができないという点をよく御了解願いたいと思います。
アメリカでは
原子力発電を非常に急ぐと言うておりますけれども、実際
向うでいろいろの
新聞などを見ました
関係では、決して熱心に
開発しているのではなくて、熱心に売り急いでいるという感じを受けます。現に民主党のそういう
原子力の
発電の
開発計画というのが否定されまして、元の
原子力委員のスマイス博士などが非常に手きびしく
政府のやり方を非難した文章をニューヨーク・タイムスなんかに載せておりましたが、やはりまだ経済的に十分引き合う大型の
原子力発電炉ができているわけでないことは、いろいろ調査団が行ってごらんになってもよくおわかりになっているわけでございます。ですから必ずしもそういうものと今大急ぎに
協定を結ぶ必要はない。
アメリカ側としましては、
日本と
協定を結ぶ場合に、
日本でいろいろ
研究をして
発明発見をするであろうそういう
情報をやはり
アメリカ側に確保したいというところが
一つあるのじゃないかと思いますし、必ずしも原爆
燃料が余ったから売り飛ばしたいというだけではなく、そういう点で
日本に対してある程度の期待も持っていると思います。われわれとしましては必ずしも
アメリカあるいはイギリスと
協定を結ぶなというような狭い気持ではないのでありまして、
日本の
原子力が
世界に貢献するためにはどういう道をとればいいかという
立場からいたしまして、もう少し
動力協定を待っていただきたい、そういう意味で、
研究協定と言われております今度の
協定にいたしましても、将来につながるものでありますから、十分慎重に御審議願いたい、そういうわれわれの希望であります。