○
中山参考人 参考人の
中山でございます。お
手元にお配りいたしました「新時代の
要請に対応する
技術教育に関する
意見」と申しますのは、私の属しております日経連の
技術教育委員会というのを今年の八月から設けまして、十月まで三ヵ月間
研究いたしまして、その結果を
意見書としてまとめたものでございます。それで、大体この
意見書に基きまして、
産業界はその
技術教育に対してどういうことを、要望しておるかということを申し上げたいと思います。
ただいま
清水先生から大勢についての
お話がありましたので私は実際家としての
立場から申し上げたいと思います。お
手元にお配りいたしておきましたリーフレットの中に表がございますが、その第一表をごらんいただきたいと思います。この第一表と第二表は、
大学の
卒業者の数の問題でございます。
大学の問題は、数の問題ばかりでなくて、質の問題が非常に関係するのでございますが、とりあえず
日本の
大学が、ことにこの
技術教育の面でどうであるかということを、
先進国と比較いたしたわけでございます。第一表の中で、
日本は四年
制大学におきましては、
理工系が、第二行目のところにございますように、一六・二%あるわけでございます。これに対しまして、
イギリスにおきましては
理工系を合せますと三四・八%という
割合でございます。
日本の倍の
割合でございます。
アメリカは
理工系を合せまして一六%強でございまして、大体
日本と同じでございます。ただし、これは今ちょうどこの
技術系統の数は、非常に
大学生の数そのものが減っておるときでございまして、二、三年前には、兵隊で帰還いたしました者が
大学に入学いたしまして、
工学部の
学生だけで五四年には二万二、三千でございますが、五〇年のころには五万二、三千ございました。そういうことで、今の少いのは特殊な事情でございますが、こういうことで
アメリカでは実際の
需要の半分にも足らない、こういうわけでございます。それから、
ソ連は二五%弱、こういうことでございまして、
日本より
相当高いということでございます。
ソ連ではもう少し高い
数字も出ますけれ
ども、それは
教育系統の中の
理工系統の数を入れておるのではないかと思うのでございます。
それから第二表の方をごらんいただきますと、第一表の方は理工科合せてでございましたが、第二表の方は
工学系統だけでございます。
日本では
工学部の
夜間学生まで入れますと、
新制大学で約一万二千
卒業いたしております。そして、それを
人口百万人
当りに比べますと百三十七人ということで、
アメリカの率とちょうど同じということになります。これに対しまして、
イギリスの方は三千人ばかりでございまして、百万人
当り六十人ということになっております。ところが、
イギリスは
大学だけを数えたのでございまして、
イギリスにはこのほか
高等工業学校の
制度がございまして、その
卒業生を合せますと、
卒業生が八千百人ほどございます。そういたしますと、それだけで
人口百万人
当り百六十四人、こういうことになりまして、二百二十人
余りという数になるのでございます。それに対応します
日本の
短大の
工学部を加えましても、
短大の
工学部はこれは千五百人ほどでございますので、せいぜい
日本では百万人
当り百四十人
足らず、こういうことでございますから、
イギリスの二百二、三十人というのに比べますれば、非常に低い。
ソ連はここに出ておりますように、百万人
当り二百五十人
足らず、こういうことで、
ソ連が一番高い、こういう
数字になっておるわけでございます。
表の方はこれでおきまして、次に、私
どもの
意見について要点を申し上げます。私
どもの
意見の一のところでございますが、これは先ほど
清水先生からもおっしゃいましたように、今後の国内の
需要、
東南アジアの
経済開発及び
科学技術の
高度化、こういうことを考えますと、
技術者、
技能者という
人たちの
需要というものは、
産業界としまして今後
相当ふえる傾向にありますので、その
需要に対応することを
教育制度の方で考えていただきたい、それには計画的に進めていただきたい、こういうことを
要請いたしておるわけでございます。すでに
文部省におきましては、
調査局におきまして、社会の
需要に対応する
教育計画という
調査をなさっておりますので、その
調査を今後続けていただきまして、
至急にその
調査をできるだけりっぱなものにしていただいて、この
技術教育の
計画化ということにお骨折りいただきたい、こう思うわけでございます。
〔
前田(正)
委員長代理退席、
委員長着席〕
この
調査につきましては、民間としましても全幅の御協力を申し上げたい、こういうことでございます。
次に、第二でございますが、これは先ほど
清水先生もおっしゃいました、
技術教育の
根底は一
般産様界として要求いたしております
労務者のレベルが上ることでございますので、
義務教育の
理科教育、
職業教育という点により一そう
重点を注でいく、それがためには教員の
養成の面におきまする
理科教育を進めていただくということと、それから
国民全般の
理科教育に対する認識を高めていく、それで
職業指導の面におきましては、今後は
技術系統の進学について、
国民も
学校も指導していただきたい、こういうことでございます。
第三でございますが、第三は、
一般労務者の中で
熟練工となる
人たちの
訓練でございます。これにつきましては、
労働基準法に基きまして、
技能者養成という
制度があるわけでございますが、この
制度は、元来封建的な
徒弟制度の弊害を直すということに
重点が置かれておりましたために、
近代工業におきまする
熟練工の
養成制度としては、あまり活用されておらないわけでございます。そこで、全体の
養成の数六万ばかりの中で、
近代産業に属しておりますものは一万六千ばかり、こういう
状態でございます。それで、この
制度以外に
近代産業では
熟練工の
養成制度を行なっているのでございますが、しかしその数は必ずしも多くございません。全体の推定はわかっておりませんけれ
ども、せいぜい合せまして三、四万
程度ではなかろうか、こういう次第でございます。そういう
状態でございますので、
技能者養成制度につきましては、今の
労働基準法から独立させまして、
監督行政でなく、
助長行政に立った単行法を作っていただきたい、こういう
要請でございます。それとともに、今の
基準法に基く
養成制度は非常に画一的でございまして、
養成年限も大体三年ということで切ってあるわけでございますが、
産業界としましては、
多能工でない単
能工の方は一年くらいの
養成でも間に合いますので、そういうような
制度を認めるような
弾力性のあるものにしていただきたい、こういうことでございます。それから、その
養成の
方法につきましても、
中小企業では
単独で
養成ができませんので、国または
地方団体が有力な
技能者の
養成所を作って
中小企業のために必要な
人たちの
養成をしてやる、こういうことをお願いしたい。これには現在ございます
職業補導所な
ども活用していただきたい、こういうことでございます。それから、現在工場内で、若い
従業員たちは、昼間
仕事をやりながら、夜、
定時制の
高等学校に通っている者が多いのでございますが、これは大体
定時制の
高等学校の中で、
普通課程の方に行っている者が多いのでございます。これは、
定時制の
高等学校の生徒の数が五十三万ばかりございまして、そのうち約七万ばかりが
工業学校の
定時制の
高等学校でございますが、それに通っている者が非常に少くございまして、大ていは普通の
課程の
高等学校でございます。そこで、職場の
仕事の方と結びつきがないわけでございます。
定時制の
高等学校に通ったことによって職場の能率が上る、こういうわけでもございます。それから、昼間働いて夜通学いたしますから、本人の健康の上から申しましてもよくないことは、
科学的にも実証されているわけでございますし、事実でもそうでございます。そこで、そういう
人たちには、
普通課程でなくて職業
課程に行くように
定時制の
高等学校の職業
課程の方を拡充していただきたいということでございます。しかし、毎日
定時制の
高等学校へ通うのは、これはやはり健康の上からいきましておもしろくありませんので、ある
程度はそれを通信
教育の方で補う、こういうふうな道を考えたらどうであろうか。ところが、現在
高等学校の通信
教育は、大体
普通課程が中心でございまして、
工業課程の通信
教育はできることにはなっておりますけれ
ども、まだ教科書が
一つも作られておらないし、実際行われておらない、こういう
実情でございます。そこでこれは
一つ至急に教科書の編さんな
ども進めていただままして、通信
教育の職業
課程を
充実していただきたい、こういうことでございます。この
定時制と通信
教育、それから前に申しました
技能者養成、この三つが結びついたような形で運用していって、
技能者養成の
教育、
訓練が
高等学校の単位となるように計算していただきたいということでございます。
次に、第四のところにございます
工業高等学校は、先ほど
清水先生からもございましたように、
卒業生が大体年五万でございまして、
戦時中の十八年ごろの数が約それくらいでございますので、大体数では見合っておるのでございますが、しかし、今後の
需要ということを考えますと、必ずしも十分というわけではございませんので、やはりこの
工業高等学校の拡充をはかる必要がある。大体
普通課程の
高等学校の生徒が百二十万に対しまして、
工業高校の生徒は十六万ぐらいでございます。それから、数の点もさることながら、
工業高等学校の
教育内容というものが、昔の甲種
高等学校に比べますと、レベルが落ちているという感が深いのでございます。そこで、それは年限が三年ということが
相当大きく影響しておるということが考えられますので、この年限の延長ということを、しかし、上に延長することは、国の経済力といたしましても、子弟の通っております家庭の事情からいたしましても望ましいことではございませんので、下に、中学と結びつけて五年制の
工業高等学校ということにして、中学と
工業高等学校との教科の
内容が実際的に一貫性を持ったようにということでございます。なお、この年限の延長と同時に、
内容の
充実、先生の
訓練の問題、ことに実習の先生の質が非常に落ちておるということでございますので、その面の
充実をしていただきたい。それから、施設につきましても、現在
産業振興法に基きまして
戦前のレベルまでは引き上げるということになっておるのでございますが、
戦前のレベルというものが、実際界の現状からいたしますと非常に古いものでございますので、これは
一つ産業振興法というものをもう一度見直していただいて、質と量の両面の
充実をはかっていただきたいということでございます。
次に、第五の
技術者の
教育機関としましての理工科系の
大学の
教育でございます。これにつきましては、まず
学校制度の面におきましては、
短大が問題になるわけでございまして、現在二年の
短大というものは、実際界の
要請からいたしましては、何としても短か過ぎる。大体業界といたしましては、
技術系統の
人間について三段階の層を想定しておるわけでございます。一番上が大体エンジニアと申しますかテクノロジストと申しますか、
技術者でございます。その次がテクニシァンと申しますか、技手と申しますか、第三の段階はクラフトマンと申しますか、
熟練工でございます。大体
戦前の
専門学校はテクニシァンを供給しておったわけでございますが、現在の
学校制度ではちょうどテクニシァンに当る者を
養成する
制度がないのでございます。二年の
短大では、
産業界の要求にマッチするような
教育内容としては、不十分であるという関係でございます。さりとてまた
短大を上に延ばして四年制と同じようにするということは意味がございませんので、この二年の
短期大学を下の
高等学校と結びつけて、五年制の専門
大学というものを作ってはという考え方でございます。こうしますれば、
高等学校と
大学との間の
教育の重複、非能率というような点も是正できると考えるわけでございます。その構想を図示いたしましたのが、お
手元にはさみ込みました図表でございます。
工業高等学校を中心とします実業
高校の、五年制のものを作る。これは実業
高校を令部六年制にいたしておりますが、その全部をこういうふうにしろという考え方ではありませんで、簡素化のためにこういう新しい形だけを出しておるわけでございます。こういうものを認める。中には二年で十分な
短大、たとえば写真
短大というようなものもございます。そういうのはこれでもあるいは十分ではないかと思いますけれ
ども、
産業界の要求にマッチしないような
短期大学は、
高等学校と合せて専門
大学にしたらという考え方です。
短大の実際を伺いますと、たとえば都立の
工業短期大学というようなところでは、二年で実際の
訓練をいたしておるわけでありますが、それはほかの
学校ではちょっと望めないような
方法でございまして、朝八時から晩四時まで、タイムカードを押しまして、夏休みもなく冬休みもないというような
状態で、
学校の
教育と実習をやっております。そういうところでありますれば、一応昔の
専門学校に見合うくらいの
教育もできるかと思うのでございますけれ
ども、そういうことを全部の
短期大学に望むことは無理だと思いますので、こういう五年制の専門
大学というようなのを考えてはどうかという考え方でございます。それから、理工科系の
大学が、
大学全体の中で非常に
割合が少くなっておるということは、先ほど
清水先生もおっしゃいましたが、ここにもございますように、
戦前は大体平均しまして六十五対三十五でありましたのが、最近では七十五対二十五でございます。そういうふうに
割合が減っておりますばかりでなく、国の経費の面からいいましても、非常に少いわけでありまして、たとえば、聞くところによりますと、
国立大学の総経費が二百四十億だそうでございますが、
国立の
工学部の総経費は二十一億ということでございまして、全体の七、八%でございます。ところが、
学生の数からいいますと、
国立大学では
工学部の
学生は一四%ぐらいの
割合になりますので、人員に
相当するだけの経費も
工学部はもらっておらないというような
状況であります。そこで、
国立大学あるいは
私立大学に対する補助というような面でも、
国家が今後
技術教育を重視するという見地にお立ちになるのなら、ぜひ者えていただきたいというわけでございます。
それから
工学部の
教育内容につきましても、現在の新制の四年の中で、専門科目は主として
あとの二年でやっておりますが、その授業時間数を旧制の三年間のに比べますと、大体三、四割少いという
状況でございます。御承知のように、現在の
大学教育で単位を計算しますときには、授業一時間に対して予習一時間、復習一時間ということで、三時間を計算の単位にして単位数を数えておるのでありますが、実際はその中で講義の時間数、実習の時間数というのは、一時間でございます。三分の一でございます。そういう関係から、
新制大学で専門科目に力を入れましてさえ、
戦前に比べて三、四割低いという
実情であります。そこで、この専門科目の
充実ということをどうしても考えていただかなければ、実際界の要求するような
内容の
大学生ができ上らないということであります。それから、学外実習にしましても、現在
工学部の
学生の中で、夏、工場実習をやっておりますのは、大体六割でございまして、しかもそれが任意であるというような
状況が多いのであります。こういう点も、原則として正科にして、もう少し実際の経験を経た
学生を送り出していただきたいというようなこと、それから、そういう意味からいいまして、専門科目というものも必要でありまして、ことに中小企様では、専門科目もすぐ間に合うものを要求いたしておりますが、しかし、さりとて、基礎科目はそれではいいかげんでいいかと申しますと、これも大企業におきましては、やはり基礎のしっかりしたものを送り出してほしいというような要求もまた強いわけでございます。しかし、両方を同じ
大学で一人の
人間に十分にやれということはむずかしいと思いますから、
大学がそれぞれ
特徴を出して、ある
大学は専門科目に力を入れる、ある
学校は基礎科目の方に
重点を置く、こういうことになりますれば、業界の方は、その
大学の
特徴に応じてその
学生を求める、こういうことになろうかと思うのであります。
あとは高級
技術者、
大学と業界との関係というようなことでございますので、省略させていただきます。
以上、主として私の方から出しました
意見書について御説明申し上げました。